レールウェイで揺られること2時間、最初は雑談や景色などで楽しんでいたがさすがに慣れていなかったはやてとシェルティスは今は寝てしまっている。
「寝ちゃったね」
「しょうがないさ、短くない時間だしな」
「ホント、転移の利便性を改めて感謝しないといけないわね」
「いつの世も人は文明の利器に感謝する、と言うことか」
他愛ない事を話しながら時間を過ごして、最後のトンネルを潜り抜けた時に2人が起きた。
「う、ん……」
「ふわああ〜〜……」
「起きたか」
「ちょうどよかったわね、そろそろベルカ自治領に入るわよ」
2人は旅路の終わりを感じることができたのか、少しだけ名残惜しそうな雰囲気も見える。そして、トンネルを抜けた先に目に映った景色は、厳たる自然だった。
「…………………………」
「これは凄い……」
「こんな迫力のある景色は初めてやなぁ」
「ふふ、レールウェイでしか見られない景色だよ」
「転移や空、車道では分からない場所にあるのよね」
「こんなので驚いていたら後が持たないぞ。はやての知らない、もっと雄大な景観があるんだからな」
それから少しして駅に到着し、すぐに街に出た。
「ここは色んな店が連なる商店街、観光客はもちろんのこと地元の人も使っている」
「賑わっていますね」
「中途半端な時間で来たから少ない方よ」
「そう言えば、どれくらい歩くんだ?」
「うーん、1時間くらいかな」
「まだかかるん?いつもは車やったからなぁ」
聖王教会に向かって歩き続け、住宅街を抜けて農業地区に差し掛かった。そこには広い畑があり、色とりどりの野菜が育てられていた。
「うわああぁ、色んな野菜がいっぱいやぁ!」
「ここの土は栄養満点で、それに雪解けの水や豊富な湧き水をを使用して野菜を育ているの」
「細かい所は省くけどここには春夏秋冬、色々な野菜を育てているわ。多分魔法か品種改良あたりでしょうけど」
「自然と共に生きているんだね」
「こう言う所はルーフェンと似ています」
少し眺めていると、農作業している男性がレンヤの事に気がついた。
「陛下!今から聖王教会に?」
「ああ、今回は学業の一環で来ているだけだ。肩の力を抜いて構わないぞ」
「そう言われても簡単には出来ませんよ」
それをきっかけに周りの人が集まって来てしまった。
「お久しゅうございます、陛下」
「久しぶりおばあちゃん、おじいちゃんは元気にしてる?」
「ええ、それはもう」
「陛下だ陛下!」
「遊びに来たの〜?」
「今日は学校の授業の為の来たんだよ。それと皆はいい子にしてたかい?」
「「うん!」」
レンヤの慕われように、2人は驚く。
「さすがレンヤ君や、ちゃんと王様しとる」
「うん、レンヤは優しいからね」
「コホン、早く行くぞ」
手を振り別れを告げて、5人を追いかけようとした時……
………………ォォォォォ…………………
「ん?」
遠くで何か聞こえてきた。聞き取ろうと聴力を強化してみようとする。
「レンヤ!何やっているのよ!」
「どないしたんや〜!」
「……!いや、何でもない!すぐに行く!」
気のせいだと頭を振り、アリサ達の元まで走って行った。
聖王教会の前まで来る頃には午後3時になっていた。今から実習を始めると微妙な時間に終わるので明日から開始することになっているはずだ。
「ふう、やっと着いたか」
「済まないな、時間を取られて」
「気にしないでください。いい光景が見られましたし」
「そうやそうや」
正面入り口に着くと、そこにはシャッハがいた。
「お待ちしていました。レルム魔導学院VII組、A班の皆様」
「やあシャッハ、4月の実習以来だな」
「はい、陛下もお元気そうで何よりです。それでは実習中に宿泊する部屋に案内します」
「それは後でいいわよ。まずはカリムかソフィーさんの所に案内して、どっちかが今回の課題の提出者でしょう?」
「ソフィー隊長がそうです。今は騎士団の訓練中ですが、どうしますか?」
「いいんじゃないかな?時間もあるし訓練場の隅で少し体を動かすくらいなら」
「中途半端に来たし、ずっとレールウェイだったからね。挨拶も兼ねて行ってみよう」
「荷物は部屋にお運びします。」
と言うわけでソフィーさんに会いに訓練場に向かった。訓練場に着くと教会騎士団の皆がいつも通りのハードな訓練をしていた。
「相変わらずハードな訓練をしているわね」
「まあ、テオ教官よりはちょっとマシかな?」
「確かに、前準備運動の名目で山道をテオ教官をおんぶしながら走り回ったから」
「それは準備運動と言いますか?」
「温ったまる通り越して暑いやろ」
すると訓練を終了したのか騎士達が散って行く。それを確認してからソフィーさんの元に近寄った。
「む、来たかお前達」
「ソフィーさん、お久しぶりです」
「実習は明日からのはずだが……。大方、レールウェイに乗りっぱなしで体を動かしたいということか」
「す、凄い。当たっている」
「ふふ、前にも同じようにことがあったからね」
「そういうことだ。ここは好きに使って行くといい、夕食までには戻ってくるがよい」
ソフィーさんはそう言い建物に向かって行った。
「許可をもらったことだし」
「早速始めましょうか」
「いつで構わないよ」
すずかとアリサとシェルティスがデバイスを取り出し、早く始めたいとウズウズしている。
「私はカリムと会ってくるからパスや」
「私も少々気が乗りませんので」
はやてとユエが断って、4人で軽い模擬戦をする事になった。
「さて、始めるか!」
「ええ!」
「あんまり暑くならないでね」
「ま、お腹を空かせるのにはちょうどいいかな」
デバイスを起動して早速始めた。思ったより白熱してしまい、先ほどの騎士達もこちらに気付いて。大勢を巻き込んだものになってしまった。
「全く、時間になっても来ないと思ったら……」
「いや〜思ったより白熱してしまって」
「止めるのを忘れて模擬戦を見てしまいました……」
「騎士団のみなさんも一戦お相手したいって。なかなか断れなくて……」
「ええ、全員練度が上がっていて苦戦したわ」
時間も忘れて目の前の相手と模擬戦をずっとやっていたらいつの間にか日が沈む位になっていた。
「まあいい、はやてとカリムが待っている」
ソフィーさんについて行き、客来用の食堂に通された。すでにはやてとカリムが座っていた。
「皆、遅いで」
「ふふ、どうやらシャッハも混ざっていたらしいわね」
「う、はい……」
「ーー来たか」
その時、ウイントさんが入って来た。
「久しぶりだな、レンヤ。元気そうで何よりだ」
「あはは、そうですか?」
「ああ、すぐに夕食にしよう。もっとも、少し温め直す必要があるがな」
「「「あはは………」」」
迷惑を掛けたと自覚して、3人は苦笑いをする。その後振る舞われた豪華な食事に満足した一行は食後にウイントからこの地に関する話を聞いていた。
「このベルカの地はある意味、とても自由な場所だ。君達には新鮮であり、不便でもあるだろう。だが、そんな場所であっても君達と関係がないわけではない」
「魔導学院を創設したクラウス・G・S・イングヴァルド……ですね」
「だが数十年前に覇王家は姿を消してしまった。今学院の運営は聖王教会が任せれている状況だ」
確かに、入学以来覇王の関係者とは一度も会ったことがない。
「もう捜索は3年前に打ち切られてしまったがね。でも今でも生きていると信じている」
「そうですね。今は居ませんけど……ちゃんと残してくれたものもありますし」
「え、そんなのあったかなぁ?」
そんなものあったかと頭をひねる皆。俺は答えを言う。
「若者よーー世の礎たれ」
「あ……」
「ふふ、そうだね。確かに覇王が残した物だ。さて、長話をしてしまったが、あまり気にせずに特別実習に集中するといい。私はこれで失礼する、実習の成功を祈っているよ」
「ありがとうございます」
ウイントさんが部屋から出て行き、俺はソフィーさんに課題について話し掛けた。
「そう言いばソフィーさんが課題を用意してくれたんですよね?」
「ああ、一通り用意してある。今日はもう遅いから明日の朝、改めて渡すつもりだ」
そこで一旦言葉を切り、忠告するような声音で告げる。
「それと実習の範囲だが……少なくとも午前の間は南部に限るのがいいだろう」
「南部……僕達が通ってきた所ですか?」
「ああ、北は山脈で広がっている。まずは南のを回る事にしよう」
それからカリムとシャッハとも雑談をして。その後シャッハに案内された部屋に向かい、明日に備えて寝ることにした。
翌日ーー
聖職者の朝は早く、日が少し出た時間帯。まだ空気が澄んでいる時間にシャッハに起こされ。身支度を整えてから一般食堂で朝食を済ませてからソフィーさんに課題の入った封筒を渡された。
「何々?弁当の配達、希少鉱石の採取、グリムグリードの討伐……」
「それが午前の物だ。午後の分は昼食を取った後に渡す」
「どれも南部のものですね」
「最初が南部で、次が北部の山脈の依頼なんですか?」
「ああ、ベルカはそれなりに広いからな」
「お気遣い、ありがとうございます」
「それじゃあVII組A班、早速実習開始よ!」
「おお〜!」
依頼をよく読むと、グリード討伐の依頼はソフィーさんからだった。そのまま詳細をうかがった。
「このグリードはどこにいるのですか?」
「ここから南東に小さが深い渓谷がある。そこに魚のグリードがこの前発見された」
「ここで、魚ですか……」
「渓谷の下に川でも流れとるんですか?」
「いや、そのグリードは地中を泳ぐのだ」
「ええっ⁉︎」
「そんなことが可能なんですか?」
「実際に起きていることだ、グリードは地中を掘り進んで泳いでいる。このまま放置すれば穴だらけになりこちらにも被害が及ぶ。早急にお願いする」
「了解です」
他の依頼を受けてから渓谷に行くことになった。まずは教会を出て、他の2つの依頼を終わらせることにした。まずは鉱石の依頼を出した金物屋に向かった。
「すみません、レルム魔導学院の者ですが」
店に入ると、年配の男性が鉄を打っていた。こちらに気付くと作業を止めてこちらに近付いて来た。
「おお来たか。早速で悪いが話しを聞いてくれるかい?」
「はい、大丈夫です」
「そうか、依頼したいのは渓谷で見つかった金属のことだ」
「え、今渓谷って……」
「ああ、まずはこれを見てくれ」
男性が奥から箱を持ってきて、開けてみると陽色の金属が入っていた。ほのかに光、表面が揺らめいて見える。
「なんなんや、これ?」
「皮肉にもグリードが出てきた所から見つけた物でな。どの金属とも違っていて、通常の金属よりはるかに硬いんだ」
「つまりこれの採取でいいですね?」
「ああ、量は求めないから採取地点を重視して欲しい。基本古い地層から取れる、よろしくお願いするよ」
「任せてもらうわ」
依頼を受諾し、次の依頼がある飲食店に向かった。そこで弁当を貰い、手分けして街の人達に配って行った。街中の人達に1人1人に手渡していった。それを終わらせた後に南東にある渓谷……クレイ渓谷に向かった。
「ここがクレイ渓谷か」
「渓谷があったのは知っていたけど、来るのは初めてね」
「うわ〜、かなり深いんよ」
「渓谷そのものは広くないようですね」
「戦闘になったらかなり狭い場所での戦いになる、しかも相手の方が地の利がある」
「それに先にグリードを倒さないと鉱石も探せないし」
「とにかく降りてみよう」
「うん」
「了解や」
渓谷を降りて行き、中間地点を通りかかった時……
ズズズッ………
「何?」
「何か、地中の中を動いているような……」
「それってまさか……」
次の瞬間、頭上のの壁から中型の魚型グリードが飛び出してきた。
「来たあああっ⁉︎」
「見た目アレやけど、マグロやな」
「て事は止まったら死ぬのかしら?」
「エラ呼吸でいいのか?口から土を……」
「皆、結構冷静なんだね」
「この程度で驚いては身が持ちませんしね」
気を引き締め、デバイスを起動し武器を構える。
「敵グリードは上以外どこからでも攻撃してくる。全員、近接魔法で威力の低いのにしろ。大技で渓谷が崩落したりなんかして生き埋めなんて洒落にならないからな」
「うん」
「気を付けるわ。特にはやて」
「う、私大技しかあらへん……」
「ならはやては後方支援だね」
「来ますよ!」
ユエが叫んだ瞬間、俺達の立っている地面から飛び出してきた。全員、散開することで回避した。
「剣晶十九・飛雹晶!」
「アイスショット!」
シェルティスとすずかが地面に潜られる前に攻撃する。グリードはよろけながらも地中に飛び込む。
「特殊能力は地中での活動ができるだけか」
「問題は泳ぐスピードとあのツノやな」
「なら、速攻で決めるわよ!」
すごいスピードで壁から壁へ飛び移りながら鋭いツノで攻撃する。
「させへんで!」
はやてが障壁を張り、角度を付けることではやての元に飛ばした。はやては杖の先端に魔力を込めて、振りかぶり……
「いくでえぇ、アガートラム!」
グリードの顔面に強烈な一撃を決めて壁に叩き付けた。グリードはすぐに泳ぎ始めた、一瞬止まったことにより酸素が足りないのだろう。
「はあああっ!」
アリサは追撃し、フレイムアイズを背中に突き立てた。振り回されるもアリサはカートリッジをロードする。
「爆炎陣!」
体内に直接爆炎を炸裂させて、グリードを飛びあがらせた。
「やるぞユエ!」
「承知!」
壁を蹴り上げグリードに頭上を取る。グリードも抵抗してツノを俺に向かって振るう。
「流纏い!」
回転でツノを受け流し、受けた衝撃を利用して胴を切り上げる。切り上げた先にはユエが拳に剄を纏わせて構えていた。
「外力系衝剄……渦剄!」
剄で大気の渦を発生させの内部にグリードを掴み、無数の衝剄で撃ちこんだ。だが、その衝撃で背ビレに刺さっていたフレイムアイズが抜けてしまった。
「きゃあああっ⁉︎」
「アリサ!」
放り出されたアリサに手を伸ばそうとしたら、バランス崩してお互いに逆さの状態で抱き合ってしまった。
「へ?」
「え?」
目の前がアリサのお腹で埋め尽くされて、離そうにもアリサに胴を掴まれて離れられず……
「せいやっ!」
シェルティスがトドメの一撃をグリードに入れ、グリードの消滅の爆風とシェルティスの剣風で渓谷底まで落とされてしまった。
「しまった!」
「レンヤ君、アリサちゃん!」
「うわああああっ⁉︎」
「きゃああああっ⁉︎」
《瞬時に姿勢制御の修正を不能と断定》
《衝撃緩和と魔力障壁に全魔力を回します》
フレイムアイズとレゾナンスアークがそう判断し、俺達は渓谷に落ちていった。
「っ………」
どうやら気絶していたらしい。体が動かない、どこかの岩の間に挟まったのか?
「ん………」
ふと上を見るとアリサがいた、気絶しているらしく俺のお腹に跨っていて腕が肩に乗っている。
ーー何がどうもつれ合ってこうなったのかは知らないけど俺はアリサを抱っこして、ここにハマっているらしい。しかし、俺は目を閉じているアリサを見てこう思った………アリサって結構可愛い所もあるんだな。いつもは凛々しいか、綺麗が似合うのだがな。しかしそれはいいのだが……
「……くっ……」
どう言う訳か腹部を締め付けてきた。息が苦しい。なので、なんとか姿勢を変えられないものかともがいているとアリサの部分的に長い髪が邪魔をして、払い退けようと下を見たら……
「ーーっ!」
アリサの上が思いっきり捲れ上がっていたからだ。さすがアリサと言っていいのだろうか、イメージ通りの情熱的な赤い下着でした、後Eらしい。危なかった、もしもっとくっ付いていたら大惨事になっていた所だ。
「う……ん……」
「〜〜〜〜っ‼︎」
アリサが目覚めようとしたのか身を捩ろうとして………胸が顔に押し付けられてしまった。すずかのように沈むような柔らかさはないが、適度な大きさとハリが顔面に………って何冷静に感想を言っているんだ!この危機的状況を打破するにはどうすればいい。どうすれば……
「ん………?」
翠色の瞳が開き始めてしまった。ここは最終手段………死んだフリならぬ気絶したフリ。
「ここは……谷底?確か、私達は……」
状況を判断するために辺りを見回すアリサ。そして下を見たら……
「え、レ、ンヤ⁉︎それに私なんて格好を!///」
俺から飛び退き、服を元に戻し。誰も見ていないかと周りを気にする。そして俺は今起きたように装う。
「うっく………いてててて」
「レ、レンヤ………お、起きたの?///」
「ア、アリサ。ここは……谷底か?吹き飛ばさたみたいだな」
「そ、そうみたいね///」
アリサが挙動不審だ、理由はわかっているし心苦しいが指摘させてもらう。
「アリサ、どうかしたか?」
「な、なんでもないわよ」
「でも顔が赤いぞ」
「なんでもないってば!///」
くっ……心が締め付けられる。嘘って辛いんだね。その時、上に影がかかり……
「レンヤ君!」
「レンヤ君、アリサちゃん!」
「大丈夫か⁉︎」
「どうやら目立った怪我は無いようですね」
はやて、すずか、シェルティス、ユエが降りてきた。
「大丈夫、痛い所はない?」
「ああ、大丈夫だ。グリードの方はどうなった?」
「問題なく終わったよ、やり難かったけど」
「………?アリサちゃんどないしたん、顔赤いけど?」
「な、なんでもないわよ。ほら、早く鉱石を探すわよ!」
「あ、待って下さいアリサ」
照れを隠すためにアリサは奥に進んで行った。
「なんだったんだ?レンヤ、何かアリサとあったのか?」
「えーっと、その……」
「レンヤ君?」
「そ、それより、アリサを追いかけよう!」
「あ、待たんか!」
「ふむ、何があったのだ?」
アリサに追いつき、そのまま鉱石の探索を開始した。グリードが作った穴を重点的に探したが、純度も低く大した量は見つからなかった。
「なかなか見つからないわね」
「元々、量が少ないんじゃないかな」
「これは骨が折れるな」
「お昼には戻らなあかんのに」
「む、あれは……」
「何か見つけたのか?」
ユエが指す方向に洞窟があった。グリードが作った穴ではなく、瓦礫で塞がっていたにがグリードによって開けられたようだ。
「洞窟があるなんて聞いてないね」
「でも、もしかしたらここにあるかもしれんな」
「入ってみよう」
洞窟に入ると壁の一部分がほのかに光っており、真っ暗というわけではなかった。奥に進んで行くみ、最奥に着くとそこは壁が陽の色で埋め尽くされており幻想的な風景が広がっていた。
「なんて幻想的な光景なんでしょうか」
「あの鉱石と同じ光や」
「ああ、どうやら壁全体に含まれているようだ」
「なら早速採掘をしましょう、出来れば純度が高い物を取りましょう」
鉱石を採掘し場所を記録した後、渓谷から飛んで出て行き。街に戻り金物屋の男性に採掘した鉱石を渡して午前の依頼を終了した。その後、昼食とソフィーさんから午後の依頼を受け取るために聖王教会に向かった。
簡単に昼食を済ませ、ソフィーさんから午後の依頼を受け取る。必須なのは北部の山に向かった調査員の探索だけだった。どうもここ最近、山岳周辺の森で巨大な影が見えることがたびたびあったらしい。その調査に行っているのだが、調査員は戦闘が出来ないことはおろか護衛も付けていないそうで。理由は直ぐにでも調べたかったそうだ。
俺達は他の依頼を終わらせた後に、調査員が向かったと思われる山に向かった。山道は急で整理されていない道を進んでいた。
「うーーん、ハイキング気分で気持ちいいわ」
「なんだかホッとするよ」
「頂上からベルカを一望できるんだけど、そこまで行く人はそんなにいないんだよな」
「はあ、はあ。そりゃそうやろ……」
「大丈夫ですか、はやて?」
「いつもの武術訓練より楽だと思うんだけど」
登り始めてから1時間、早くもはやてがバテてしまった。いくら鍛えていても慣れていないなら仕方ないかもしれない。
「あっ⁉︎」
「はやて!」
はやてが石に足をとられ、転んでしまった。
「大丈夫、はやてちゃん?」
「だ、大丈夫や大丈夫。ちょっとつまずいただけや」
そうは言うが痛みに耐えるような顔をしている。
「見せてみなさい」
「大丈夫や、この位平気や」
「ダメですよ、赤く腫れていますし。一旦下山しましょう」
「あかんて!早くせんと日も暮れてしまうし……」
こうなってしまうとはやては結構頑固だ、しょうがないと思いはやてに近付き背を向けて腰を下ろす。
「レンヤ君?」
「おぶってやる、それでいいだろう」
「そんな⁉︎悪いんよ、そこまで迷惑は掛けられへん」
「こうしているだけでも充分迷惑だ、ここは素直に言うことを聞け」
「そうよ、時間がないのはわかっているんでしょ?」
「そうだよはやて、急ぐんでしょう?」
「うう、皆ずるいんよ……」
はやてはしぶしぶ、俺の背に乗った。
「レンヤ君、重くないん?」
「ああ、修業だと思えばどうってこと無いさ」
「つまり重いって言っとるようなものや!」
ぱかぽこぱかぽこ。
背中に弱く女の子殴りをしてくる。
「痛い痛い、ごめんってば」
「ふん、そやったら下山するまでおぶらせてもらおか」
「了〜解っ」
「ほら2人共、置いていくよ」
「何時までもじゃれ合っているんじゃないわよ」
「はいよっ!」
「きゃっ⁉︎」
脚力を強化して、アリサ達を飛び越えて山を登って行く。その時、はやてに強く抱きつかれたせいで……その、胸が背中に……。はやても結構着痩せするんだな。
「こら、待ちなさい!」
「ま、待ってよぉ〜」
「ははは、競争ですか」
「それだとフライングだし、インチキもしているだろう」
4人もすぐ脚力を強化して追いかけてきた。そのまま山頂まで走り抜けた。
「到着っと」
「ふう、いきなり走らないでよ」
「まあいいんじゃないか、楽しめたし」
「それもそうね。はやて、大丈夫だった?」
「え、うん。大丈夫や///」
「顔が赤いですよ、揺さぶられて酔いましたか?」
「だ、大丈夫やって。足は大丈夫やあらへんけどな」
「あ、もしかしてはやてちゃん。胸を……」
「あぁーーーーっ!すずかちゃん!///」
すずかの言葉を遮るようにはやてが叫ぶ。すぐ後ろにいるから耳が痛い。とりあえず、付近に調査員がいないか探して見ると。森林が見下ろせる場所にディスプレイを展開しながらキーボードで作業している人がいた。調査員は視線に気付いたのか、写真撮影を止めて俺達に向き直る。
「おや、君達は……」
「あなたが調査員の方ですか?」
「ふふ、ご無事で何よりでした」
どうやら調査員自身は特に何もなく無事なようだ。はやてを近くの岩に下ろして調査員に近寄る。
「はは、もしかして君達もこの絶景を見に来たのかな?」
「……ふう、呑気なものよね」
心配して損したと言わんばかりにアリサがため息を漏らす。そんな彼女に苦笑しながらも俺は事情を確認させてもらおうとする。
「はは……取り敢えず。事情を確認させてもらってもいいですか?」
教会で受けた依頼で本来は北に行く際の護衛を行なう予定であった事。しかしその前に調査員が一人で出ていってしまったため、急遽捜索依頼に変更されることとなった事。それを聞いた調査員は申し訳なさそうな表情を見せながら頭を掻く。
「ふむ……教会の人達には心配をかけてしまったな……分かった、早速戻ろう!……と言いたい所ではあるんだが……まだ写真を撮っていなくてね。ちょっと待ってくれないかな?」
「……まあ、気持ちは分かる気はしますが……でも凄いですね。ここって」
シェルティスが辺りを見回しながら呟く。見渡す限りの山々と空、見下ろせば森と街が小さく見える位の高さだ。ミッドチルダにも緑はあるが、人の手が加わっていない自然を改めて感じさせる光景だ。
「そう言えば、何の調査でこちらに?」
「ああ、つい3日前に木々が折り倒された場所があってね。根元から圧し折られていたから巨大生物の仕業の可能性があるんだよ」
「巨大生物……グリードの可能性と言うのはないのですか?」
「それを確認するための調査だ。しかし、データベースを見てもそれほど巨大なグリードは確認されていないんだ。最低でも全長10メートルはあると思うし、あれを見てごらん」
調査員が指したのは、森なのだが一部分に緑がなく地面が見えており。木々が倒れていた。
「手付かずの自然だからここの森の平均全長は16、17くらいで巨大も隠せる。それと折られた場所に手形があったから人型の可能性もあるんだ。昨日、その生物らしき遠吠えも確認されている」
「それって、オオオ………って感じですか?」
「そうそうそれそれ、街まで聞こえていたんだ?」
「微かに、ですけど」
「これはもしかしたら討伐依頼がくるかもしれんなぁ?」
「否定はできないね。放っておいたらベルカにまで被害が及ぶかもしれないし」
その後、写真撮影を終えた調査員と下山し俺達は教会へと戻る。はやてをまたおんぶしながら中腹に差し掛かろうとした時……
ドオオオオンッッ!
「「「「「「!」」」」」」
街の方向に大きな衝撃音が聞こえてきた。すぐさま音源に向かい、森の入り口付近の畑にたどり着く。
「これは……!」
「一体何があったんや……」
「酷い荒らされようね」
「もしかして例の巨大生物が?」
どうやら休ませている畑だったみたいだが、地面は抉れていて大きな丸い足跡が森に続いていた。誰か巨大生物を確認した人がいないか探したが、作業している人もいなく姿を見た者はいなかった。森の入り口を見てみると木々が薙ぎ倒されていた、また理由のない犯行か。
その後、事後処理を手伝い。周辺住民に注意を促した後に森の入り口にサーチャーを設置して後のことは調査員に任せて教会に戻ることにした。