魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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71話

翌週の水曜日、6月23日。実技テストの当日となるこの日の昼休み、生徒たちは一科生、二科生問わずに一ヶ所に集まっていた。

 

「………………」

 

「あ、あはは……」

 

膨れっ面のアリサをすずかが苦笑いする。

 

取り敢えずVII組メンバーの成績を言うと……

 

1位、月村 すずか。986点

2位、アリサ・バニングス。980点

3位、神崎 蓮也。975点

7位、シェルティス・フィルス。932点

8位、フェイト・テスタロッサ。927点

10位、リヴァン・サーヴォレイド。916点

13位、高町 なのは。908点

15位、八神 はやて。896点

18位、アリシア・テスタロッサ。885点

20位、ユエ・タンドラ。870点

27位、ツァリ・リループ。836点

 

まさかのVII組半数が10位以内に入っていた。はやてやアリシアも悪くない成績だ。ていうかよくいるんだよね、頭悪いと言っておきながら成績高い人。まあ、2人はここに入る時も猛勉強してたから違うけど。

 

「よ、よかった〜……そんなに悪い順位じゃなくって」

 

「それにしても、すずかちゃんとアリサちゃんはすごいね!」

 

「相変わらずの1位、2位争いやな。レンヤ君はもう定位置やで」

 

「さすがですね、アリサ」

 

「ま、まあ今度勝てばいいじゃないか」

 

「………まあいいわ」

 

アリサはすずかにビシッと指を指す。

 

「今度は負けないわよ!」

 

「お、お手柔らかにお願いね……」

 

「それにしても………皆、いい線行っているね」

 

「うん、私も入学試験より上がって嬉しいよ!」

 

「まあ、こんなところでしょう」

 

「シェルティスもシェルティスもさらっと余裕そうだし。皆成績上がってよかったね」

 

「はは、皆と試験勉強をばっちりやった結果だよ」

 

「くっ……勝てないと分かっていても悔しい……!」

 

「張り合うな」

 

「そういえば、そっちにも何か貼ってあるけど」

 

アリシアに言われて横を見ると、平均点の書かれた表があった。

 

1st 1ーVII 919点

2nd 1ーI 896点

 

「わあっ……!」

 

「やった!VII組が1位だよ!」

 

「1位から3位までいるのよ、むしろ当然よ」

 

「やるからには負けはやだからね」

 

「ま、同感だな」

 

「ふふふっ……」

 

「実際皆も頑張りましたからね」

 

「ああ、誇ってもいいと思う」

 

「うん、そうだね」

 

「イッエーイ!」

 

「これも苦労の賜物や」

 

まあ全員がベスト30位以内に入っているのだから、平均点が高くない訳がない。努力の結果であり、誇るべき内容ではある。その様子を離れた所から苛立たしげに見ている人影があった。

 

「クッ、何という屈辱だ……!」

 

「一科生の誇りをあんな寄せ集め共に……!」

 

「バニングス……」

 

白い制服に身を包んだ一科生、生徒達。彼らの内に怒りが湧き上がっている様子は見れば一目瞭然であったが、俺達は彼らを視界に入れることが無かったので誰も気付くことは無かった。

 

程なくして予鈴がなり、午後の実技テストの為にドームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……

 

本鈴が鳴り、Ⅶ組の11人は既にドームで待っているテオ教官の下へと向かう。そこでは、満面の笑みでテオ教官が嬉しそう拍手している様子が目に入った。

 

「いや〜、中間試験、皆頑張ったじゃないか。あのイヤミ教頭も苦虫を噛み潰したような顔してたし、ザマー見ろってな」

 

「別に教官の鬱憤を晴らす為に頑張ったわけでは……」

 

「というか、教頭がうるさいのは半分以上が自業自得ですよね?」

 

「常日頃から真面目に業務こなしとけば、嫌味言われることも無かっただろうに……」

 

「ひ、否定できないのが何とも……」

 

別に嫌味を言ってくる奴に一泡吹かせたい気持ちは分からなくもないが、それは少なくとも業務を一通り真面目にこなした上でやってもらいたいものだ。

 

「全く、あのチョビ髭オヤジ、ネチネチうるさいっての……やれ服装だの居酒屋で騒ぐなだのプライベートにまで口出しして……」

 

「反省の色無しか……」

 

「おまけにモテないなど、余計な御世話だっつうの!」

 

「教官の愚痴何て聞きとおないわ!」

 

「あはは……」

 

あの良い気分から一瞬で蹴落とすかのような愚痴に付き合わされる方はたまったものではない。自身の負を全て吐き出してすっきりしたのか、テオ教官は改めて咳払いを入れる。

 

「ーーコホン、まあそれはいいとして。早速、今月の実技テストを始めるか」

 

「了解〜〜」

 

「望むところです」

 

「中間試験よりはちょっと気が楽かなぁ」

 

「腕試しにはちょうどいいの」

 

テオ教官は以前と同様に青紫色の魔法陣から機械兵器を転移させた。もう見慣れたので誰も驚かない。

 

「……現れましたね」

 

「また微妙に形状が変わっているな」

 

「…………………」

 

それをフェイトが怪訝そうな目で見る。

 

「……?フェイト、どうかしたの?」

 

「え⁉︎な、何でもないよ、姉さん……」

 

やはり何かフェイトに合ったのか?そう思った時……

 

「フン……面白そうな事をしているじゃないか」

 

いかにもな傲慢な声が聞こえた。その主を確かめようと入り口の方に視線を移すと、そこには白い制服に身を包んだ生徒たちが立っていた。先程の声の主は、金色の髪を持つ男子、ランディ・ジムニーシエラだった。

 

「あいつらは……」

 

「確か……I組の……」

 

「一体何事かしら?」

 

4人の一科生生徒は足並みをそろえて俺達の前まで移動してくる、入り口に女子も2人いた。何故彼等がここにいるのかはテオ教官にも分からないようで質問をする。

 

「どうした?I組の武術訓練は明日の筈だったはずだが」

 

「いえ、ラウム教官の授業がちょうど自習となりましてね」

 

「え、そんなはずは……」

 

すずかがそんなはずはない、と思っている。 何やったんだコイツら。

 

「折角だからクラス間の交流をしに参上しました。最近目覚ましい活躍をしているⅦ組の諸君相手にね」

 

レイピアを取り出しながらランディが宣戦布告をする。口調は穏やかだが、その声音からは何となく怒り妬みが感じ取れる。

 

「そ、それって……」

 

「得物を持っているということは練習試合でええんか……?」

 

「フ、察しがいいじゃないか。 そのドローンもいいが、たまには人間相手もいいだろう? 僕達I組代表が君達の相手をしてあげよう。 フフ、真の騎士の気風を君達に示してあげるためにもな」

 

ランディにつられた他の一科生も笑う。かなり上から目線だな、上げすぎて倒れないかなぁ。 しかも代表って、こいつらの独断だろ絶対。 それに何故彼等がここにいるのか、その理由を察した俺、アリサ、なのはは右手を顔に当てて苦笑を隠しながらため息混じりに声を漏らした。

 

「学業で負けて悔しいから魔法で自分達の方が上だと証明しに来たか……」

 

「……一気に小物臭くなったわね」

 

「呆れて何も言えないよ……」

 

「この中に騎士っているの?」

 

「アリシアちゃん、言わない方がいいよ……!」

 

「丸聞こえだぞ、委員長」

 

「一応、私とレンヤ君とアリサちゃんがそうや」

 

「ふむ?」

 

全員が己の得物であるレイピアを抜く。全員、ベルカの騎士でいいみたいだな。それを見たテオ教官は面白そうに笑みを口元に浮かべると……

 

「良いぜ、なかなか面白そうだ」

 

そう言うと機械を転移させ、本日の実技テストの内容を告げた。

 

「ーー実技テストの内容を変更! I組とⅦ組の模擬戦とする! 勝負形式は4対4の試合形式、非殺傷設定を必ずし、物理、魔法の使用は自由! レンヤーー3名を選べ!」

 

「要するに決闘かいな……」

 

「全く……また気分で内容を変えて……!」

 

「お、落ち着いてなのは!」

 

「今回は仕方ないと思うわ」

 

「だったら徹底的にあいつらの鼻へし折ってやるか……」

 

「リヴァン、ほどほどにお願い」

 

「やっぱりグリードよりも人、か……」

 

「言っちゃったら終わりだよ……」

 

取り敢えず、頭にきていそうなアリサ。同じく……と言っていいのか、とにかくいつものテオ教官の適当な教導に怒っているなのは。現在、血の気の多そうなリヴァンを選び宣言すると……

 

「フ、これは男同士の戦いだ。力で劣る女子を傷付けるのは本意ではない………いいから男子から選びたまえ」

 

………イラってくる。こいつ俺が聖王関係なく言ってくるのはいいけど、それはそれで腹たつ。

 

「こんの……!」

 

「………ブレイカー」(ボソッ)

 

「落ち着いてアリサちゃん!」

 

「なのはストップ!」

 

「仕方あらへんよ、コッチも腹の中が煮え滾っとるわ」

 

「腕っ節の力何て、魔法でどうとでもなるのに……!」

 

後で皆に喫茶店のスイーツでも奢ってやるか。 気を取り直して、リヴァン、ユエ、ツァリを指名する。 今度は何も言われなかった。 もしかしたらシェルティスを選んだらダメだったと思ったが、まあいいか。

 

「ーー決まりだな。双方、位置に付け」

 

I組代表が位置に付き、俺は簡単に戦術を教えた。

 

(ベルカ剣術のレイピアは杖の振りをレイピアに見立て魔法を使う。剣と魔法のタイムラグが少ないのに注意しろ。仮にも一科生だ、くれぐれも油断するなよ)

 

(わ、分かったよ)

 

(真っ当な剣術か………絡み手にはかなり弱そうだな)

 

(助言、感謝します)

 

「それではこれより、I組対Ⅶ組の代表による模擬戦を開始する。双方、構え」

 

I組はデバイスを起動し、ベルカ騎士風のバリアジャケットを纏いレイピアを構える。

 

俺もせめてもの敬意で武器だけを構える。本心は1人だけバリアジャケットってのも恥ずかしいし。

 

「ーー始め!」

 

開始の合図と同時にツァリ以外が飛び出し、ランディの後ろで構えていた3人を押し除け、分離させる。

 

「何っ⁉︎」

 

「君の相手は僕だよ」

 

ランディが助けに行こうとしたら、眼前に端子を舞わせ意識を自分にに向けさせた。

 

「はあああっ!」

 

「ぐわっ!」

 

ユエは剄を纏った拳でプロテクションごと吹き飛ばした。そもそも剄は高圧縮した魔力だ、剄を使うだけで普通の魔導師では相手にならない。

 

「繰弦曲・無明傀儡(むみょうくぐつ)

 

「ぐっ……動けないっ……!」

 

リヴァンは相手の体に鋼糸を巻きつけ、動きを操る。

 

「はあっ!」

 

「………交叉(こうさ)

 

俺は突きを出されたレイピアを避けて、その突きの力を抜刀で全て利用して弾き、相手の手から弾き飛ばし首筋に刃を添える。

 

「くそっ!無様にやられる訳にわいかない!」

 

「コッチだって、怒ってないわけじゃないよ」

 

ランディは魔力弾と剣の連携で攻撃するも、ツァリの念威探査子による正確な防御は崩せない。

 

「ブロッサムスラッシュ」

 

舞い散る端子を鋭くし、ランディの全方向から切り刻んだ。

 

「ーーそこまで!」

 

I組が全員戦闘不能になったことを確認するとテオ教官が宣言する。

 

「勝者、VII組代表!」

 

いざ蓋を開けてみれば戦闘経験の差が露骨に表れる結果となってしまった。無論、I組の男達が弱いわけでは無く、寧ろそんじょそこらの魔導師程度なら余裕で蹴散らせるぐらいの実力はある。

 

だが、Ⅶ組のメンバーは特別実習で様々な危機を乗り越えてきた。そのため、不測の事態にも対応できる力が鍛え上げられていたが、彼らにはそれが無かった。その為、仲間が分断されたことに対して最善の対応を見せることができず、陣形を崩されてしまったのだ。

 

「やった……!」

 

「まあ、悪くないわね」

 

「圧勝だね」

 

「当然やな」

 

「ちょっと差があり過ぎかな?」

 

「レンヤ君達、すごく強くなっているからね」

 

「及第点、てところかな」

 

戦果を見て、喜びの雰囲気を見せる残りのⅦ組メンバー。対して、遠くから観戦していたI組の女子達は完全に言葉を失っていた。

 

「……ふう、やりましたね」

 

「準備運動にもならない」

 

「あはは、僕は緊張したよ」

 

「うむ…………」

 

「ば、馬鹿な……」

 

「こんな寄せ集めどもに……」

 

「………………………」(ギリッ)

 

武器を納め、感謝の言葉を言う。

 

「………いい勝負だった。機会があればまたーー」

 

地に膝を付けているランディの下へと歩いていき、右手を差し出す。そして差し出した手を見たランディは、歯ぎしりの音を鳴らしながら勢いよく手を横へ振り抜き、手を弾く。

 

「触るな、下郎が!」

 

ランディは怒りが燃え上がる如く立ち上がり、侮蔑の言葉を言い放つ。

 

「いい気になるなよ……神崎 蓮也……!未だ席に座らない聖王家の恥さらしが!」

 

「…………………」

 

「おい……!」

 

「貴方……!」

 

「ひ、酷いよ……!」

 

ランディはまるで溜まりに溜まっていた思いが爆発するみたいに言いまくる。

 

「ハッ、他の者も同じだ!何が首位争いだ!貴様ら従者ごときがいい気になるんじゃない!」

 

それは、間違いなくランディの本音だろう。一科生という価値観に呑まれ、他の価値観を知らず、知ろうともしない憐れな存在。

 

「フィルス⁉︎そんな伝説など等の昔の栄光だ!おまけに蛮族や犯罪者風情、挙げ句の果てに人造生命体まで混ざっているとは……!」

 

「…………………」

 

「何てことを……!」

 

「……酷い過ぎるよ」

 

「ケンカ売っとるん?売っとるんやな?」

 

「落ち着きなさい、はやて」

 

「ッ〜〜〜〜!」

 

「姉さんやめて!私は……大丈夫だから!」

 

はやては内の怒りを何とか押さえ込み。アリシアは堪忍袋の緒が切れ、デバイスを起動しようとするがフェイトに止められる。

 

「ラ、ランディさん……」

 

「さすがに言い過ぎでは……」

 

他はさすがにまずいと思い、止めようとするも。今のランディにとっては火に油だった。

 

「うるさい!僕に意見するつもりか⁉︎」

 

「……聞くに堪えないな」

 

「ちょっと、いい加減にーー」

 

「ーーよくわかりませんけど」

 

すずかが止めようとした時、間にユエが割り込んできた。

 

「騎士というものはそんなにも立派なものなんですか?」

 

「ッ……⁉︎」

 

「ユ、ユエ……?」

 

「貴方の指摘通り、私は外から来た蛮族です。故郷にはそのような位は無かったため未だ実感出来ませんが……」

 

ランディの言った蛮族は、もしかしたらなのはも入っていたかもしれないが。ユエは敢えて自分を主張する。

 

「騎士は何をもって立派なのか説明してもらえませんか?」

 

「な、な……」

 

ランディは驚くが、騎士として自分の考えを言った。

 

「き、決まっているだろう!騎士とは伝統であり家柄だ!貴様らごときには決して真似できない気品と誇り高さに裏打ちされている!それが僕達騎士の価値だ!」

 

「なるほど……つまりアリサやすずかのような振る舞いが騎士の気風に近いというわけですか、納得できる答えではあります。しかし、それでもやはり疑問には答えてもらっていません。伝統と家柄、気品と誇り高さ……それさえあれば、先ほどの発言も許されるという事なのだろうか?」

 

「ぐ、ぐうっ……」

 

図星なのか、己が非を認めたのかランディは怯む。

 

「ユエ君……」

 

「ユエ……」

 

「………………」

 

「……………ありがとう、ユエ」

 

ユエに礼を言い、ランディの前に行く。

 

「くっ……」

 

「ーー結構お前の事は尊敬していたんたぞ」

 

「は……?」

 

まるで意味が分からないような顔をする。

 

「たとえ俺が聖王と知りながら態度を変えず、自分の考えを主張する。とても簡単に真似できる事じゃない、騎士に厳たる誇りを持っている事が伝わってきたよ」

 

そこで、話を区切り……

 

「でも、俺はともかくVII組の皆の侮辱は許すわけにはいかない。ちなみ今言うのは聖王教会の老害に行った事だーー」

 

聖王の魔力を解放し、二色の双眸で怒りを込めて睨みつける。

 

「滅ぼされたいか……」

 

「ひいぃ……!」

 

異色の眼と虹色の魔力光(カイゼル・ファルべ)に当てられて。ランディは情けない声を漏らす。

 

「ラ、ランディさん……」

 

「こ、このあたりで……」

 

他の男たちも、ランディに気圧されていて言葉を発せられなかったのだろう。しかし、雰囲気が少しだけ静かになった事で漸くランディに制止の声をかけることができた。あいつら自身も、ランディが言い過ぎだという事実は認識しているらしい。

 

「ーーくくっ、中々面白い事になっているじゃないか」

 

ここで、今まで無言を貫いていたテオ教官この問題は終了だと言わんばかりに口を開き、全員の注目を集める。

 

「模擬戦は以上。I組の協力に感謝する。後、自習中だからといって勝手に教室から出ないように。そちらの子達も、教室で課題をしてこい」

 

「は、はいっ……!」

 

「し、失礼しました……」

 

テオ教官に言われ、I組の女子達が一足早く教室に戻っていく。そしてランディ達に向き直ったテオ教官は、少し厳しめの声音で告げる。

 

「後、明日の武術教練は今日の模擬戦の反省にする。どこがマズかったのかネッチョリ教えてやるから自分達なりに考えてこい」

 

「……了解した……失礼する」

 

「ラ、ランディさん……!」

 

「ま、待ってください!」

 

背中を向け、教官の言葉に無理矢理己を納得させて逃げるようにその場を去っていく。

 

「は〜……どうなるかと思ったけど」

 

「全く、これだから魔力の高い奴は……」

 

「あれと同じにしないでくれる?」

 

俺はユエの方を向く。

 

「ありがとう、ユエ。何というか……色々と助けられたよ」

 

「……?礼を言われる事でしょうか?でも、レンヤの役に立ったのなら何よりです」

 

パンパンッ!

 

テオ教官が手を叩きいて静かにさせる。

 

「今回の実技テストは以上。それじゃ、さっそく今月の実習地を発表するが……」

 

テオ教官は俺を見てくる。

 

「それ、元に戻らないのか?」

 

「ちょっとイライラで精神不安定で直ぐには無理です……」

 

「そうか、ゆっくり落ち着けよ。そんじゃ発表する」

 

「そ、そうだったの……」

 

「はあ、今月どこかなぁ」

 

女性陣が一番精神的に疲れている。

 

「コホン、受け取れ」

 

配られた実習地の場所と班分けが書かれた紙を受け取り、11人がその内容を読み込んでいく。

 

 

【6月特別実習】

 

A班:レンヤ、はやて、すずか、アリサ、ユエ、シェルティス

(実習地:ベルカ自治領)

 

B班:フェイト、アリシア、なのは、ツァリ、リヴァン

(実習地:アーレン島)

 

 

「これって……」

 

「アーレン島は確か……ミッドチルダ南部の外れにある島だったな」

 

「確か、アルトセイム地方の沖合いにある遺跡で有名な島やったはずや」

 

「「…………………」」

 

「フェイトちゃん、アリシアちゃん……」

 

フェイトとアリシアはお互いを見ようとはしなかった。

 

「ベルカ自治領はミッドチルダ北部の先にあったよね?」

 

「ええ、セニア地方の先……国境を越えるわね」

 

「聖王教会で有名な場所だよ」

 

「それは確か……」

 

ユエの視線が俺を見る。それにつられて他の皆も見てくる。

 

「もしかしてテスト後の学院長との話しなんか?」

 

「まあ、そうだな。A班には予想通り聖王教会を拠点にしてもらうわけだ」

 

「B班のアーレン島もいわゆる絶島、そこに住んでいる私の知り合いの家に泊まる事になるよ。よろしくねーーフェイト、なのは、ツァリ、リヴァン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月26日ーー

 

早朝、A班は寮の1階に集まっていた。

 

「ーーしかし驚きました。まさかベルカ自治領が実習地に選ばれるなんて」

 

「でも、魔導学院を設立した覇王ともゆかりある地でもあるんだよね」

 

「うん、数百年間ミッドチルダと交流がある場所だからね」

 

「景色もいいし、綺麗な場所よ」

 

「まあ、ベルカについては行きのレールウェイで説明するよ。転移魔法が使えないからここからだと普通で6時間以上はレールウェイに揺られる事になる。まあ短い方だ」

 

「まあ、そうだね……」

 

「体験済みなんか⁉︎」

 

「得難い経験にはなりそうだね」

 

ここまで長い時間列車の旅をするのは初めてなのだろう。はやてとシェルティスの表情には少しだけ緊張感が見て取れた。

 

「ベルカの別名は極北部、名に間違えない距離よ」

 

「そうなると……到着は夕刻になりますね」

 

「お店で駅弁でも買った方がいいわね」

 

「ーーふふっ……それには及びませんよ」

 

途中、セニアで乗り換える為に駅に降りるのでその際に購入するのがいいだろう。そう考え始めた時、それを予想していたかのようにファリンさんの声が聞こえてくる。食堂に扉が開いて、ファリンさんとスピードが出てきた。スピードがバケットを持ち上げている。

 

「ファリン」

 

「ファリンさん、どうもおはようや」

 

「そろそろ私達も出発するつもりです」

 

「はい、お気をつけて行ってらっしゃい。それと、よろしければこちらもお持ち下さい」

 

「受け取り〜」

 

トコトコとスピードが持っていたバケットを渡してきた。

 

「これは……」

 

「サンドイッチと、レモンティーです。 朝食をご用意出来ませんでしたのでレールウェイでお召し上がり下さい」

 

「ありがとう、ファリン」

 

「すみません、助かります」

 

「気が利きますね、ファリンさん」

 

「ありがたく頂戴します」

 

「いえいえ、皆様のお世話が私の役目ですから」

 

「よう噛んで食べ〜」

 

申し訳ないと思いながらスピードからバケットを貰った。隙間からいい匂いが漂ってくる。それをすずかは苦い顔でファリンさんを見る。

 

「はあ、すっかり管理人として馴染んじゃったみたいだね……確実に認めさせる為に外堀を埋めたね?」

 

「ふふっ、そんな事ありませんよ。お嬢様、どうか道中、くれぐれもお気をつけて下さい。ファリンとノルミン達が、一日千秋の思いでお持ちしています」

 

「「「行ってらっしゃいませ〜!」」」

 

「ミウ!」

 

「うお!いつの間に⁉︎」

 

「……まあいいか。それじゃあ行ってくるね」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

「失礼するわ」

 

「留守中、よろしく頼むなぁ」

 

ファリンさんの留守を託して俺達は寮の外へと出て行き、駅に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅に入ると先に出発したB班と出くわした。

 

「あ、レンヤ達!」

 

「そっちも出発か」

 

「ああ、そうだけど……」

 

「…………」

 

俺とアリサは後ろにいたフェイトとアリシアを見る。

 

「……?どうかしたの?」

 

「電子マネーをチャージしないの?」

 

「いや……うん、そうだな」

 

「今回はクラナガンまで一緒のレールウェイだし……」

 

「早く済ませよう」

 

手早く済ませて、B班の後に続いてホームに入った。連絡階段を渡り、クラナガン行きのホームに入るとちょうどアナウンスで間も無くレールウェイが来るらしい。

 

「タイミングが良かったわね」

 

「ふふっ、そうだね」

 

「30分に一本来るだけの事はあるなぁ」

 

「いつもお世話になっているしね」

 

「ちょうどいいのが一番だよ!」

 

「………そうだね」

 

フェイトの愛想のない返事に対応が困るなのは達。

 

(相変わらずみたいだね)

 

(まあ、こちらの事は心配しないでくれ。あの2人の事も何とかフォローしてみる)

 

(ちょ、ちょっと難しそうな気もするけど……)

 

(ありがとう、リヴァン、ツァリ)

 

(よろしく頼みます)

 

そうしている間にレールウェイが到着し、そのまま乗り込んだ。

 

班ごとにボックス席に座り、B班にもファリンさんに貰っていた弁当を渡して食べることにしたの。

 

「へえ……このサンドイッチ、美味しいな」

 

「彩り豊かで見栄えもいいですね」

 

「シンプルな素材を上手く調理しているわ」

 

「モグモグ、隠し味は塗ってあるバターやな。そのバターにも……」(ブツブツ)

 

「レモンティーの風味も甘さもちょうどいいね。すずかはすごいメイドさんを雇っているんだね?」

 

「うーん、そうだね。でも昔は結構ドジだったんだよ、よく転ぶし」

 

「その度に俺達がフォローしてたしな」

 

「あんなのでも成長するものね」

 

ファリンの意外な過去にファリンの事をあまり知らない2人は驚く。

 

「想像もつかないな」

 

「完璧な人だと思いました」

 

「でもお姉ちゃんと一緒でいたずら好きなのは変わってないし……またよからぬ事を企んでいるんじゃないかと思うと………」

 

「まあ、ご好意は素直に受け取るべきです」

 

「そうね、朝早くに用意するのも大変だったろうし」

 

「う、うん。……それより……あっちの方何だけど」

 

すずかの視線が反対のボックス席にいるB班に向けられた。

 

「しかしアーレン島か……古代遺跡があるらしいがどういった場所なんだ?」

 

「そう言えば僕、海を見るのは初めてなんだ。なのはとフェイトとアリシアはどうなの?」

 

「私はミッドチルダではまだだけど」

 

「……私は何度か見たよ」

 

「私も異界対策課で何度も行ったよ。基本、岩と山しかない島だけど。海の中は綺麗な世界が広がってて凄いよ!」

 

「……………………」

 

フェイトが黙り込み、変な空気が流れる。

 

「そ、そう言えば、なのは。お前の故郷にも海はあったと聞いたんだが?」

 

「確か……海鳴だったよね?」

 

「う、うん!私達7人の故郷で子どもの頃から海を見ていたんだよ!ね、フェイトちゃん!」

 

「うん、そうだよ」

 

「へえ……」

 

「なるほど、一度行ってみたいな」

 

「………………………」

 

今度はアリシアが黙ってしまい、3人は苦い顔をする。

 

「苦戦しているな……」

 

「予想通り、だね」

 

「原因はフェイトちゃん何だけど……」

 

「アリシアも勘づき始めたわね」

 

「彼女達らしくないな」

 

「どうにかせなあかんなぁ」

 

どうにかしようと考えながらもレールウェイは走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キッチリ1時間レールウェイに揺られ、クラナガン中央駅に到着した。

 

「首都クラナガンの玄関口……相変わらずの巨大さだな」

 

「次元世界にも繋がるからね、次元世界最大とも言われるよ」

 

「レールウェイ、バス、飛行機、次元航行船まで集まるのはここ以外あらへんよ」

 

「初めて訪れた時は人の多さに唖然としましたけど……さすがに早朝は人が少ないですね」

 

駅の大きさの感想を言い合っていると、なのは、リヴァン、ツァリが近寄ってきた。

 

「……すまん。何だか自信がなくなってきた」

 

「ちょ、ちょっと。諦めるの早すぎない?」

 

「にゃあ………」

 

「不甲斐ないね」

 

「ま、まあ無理はするな」

 

「A班、B班共に全員無事に戻ってくること……それが何よりも重要です」

 

落ち込む3人をユエが励ましの言葉を送る。

 

「そ、そうだな」

 

「危険な状況に陥らないように気をつけるよ」

 

「ありがとう、ユエ君」

 

激励をもらい何とか持ち直したようだ。

 

連絡階段を上り、ここで別々の実習地に行くことになる。

 

「ここでお別れだな」

 

「B班が向かうのは南……アルトセイム方面の路線か」

 

「私達A班は北……セニア方面の路線になります」

 

「レンヤの故郷になるんだよね……お土産話、楽しみにしているから!」

 

「え………あ、ああ、そっちも気をつけて」

 

「なのは、フェイト、アリシア。貴方達なら心配いらないでしょうけど、気をつけ行ってきなさい」

 

「全員、元気な顔で再開しようね」

 

「あんまり無理はせえへんでな」

 

「ありがとう、はやてちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

「そっちも気をつけね」

 

「お互いの実習の成功を」

 

俺達は別れて、お互いの反対方向のホームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

レンヤ達を駅入口で見ていた男の子がいた。

 

「あれって……」

 

「どうかしたの、エリオ」

 

男の子……エリオの後ろから茶色の管理局制服を着た女性が近寄ってきた。

 

「知り合いでもいたの?フェイトさんかレンヤさんが」

 

「シャリオさん。そうだと思うんですけど……朝早くから首都にいるはずがないから見間違えだと思います」

 

「ま、そりゃそうか。それじゃあ訓練校の見学に行こうか」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セニア行きのレールウェイに乗り、少し進んでからベルカ自治領についての説明を始めた。

 

「ーーそれじゃあ、実習地であるベルカ自治領について説明するぞ。ベルカ自治領は、ミッドチルダの北方面にある山岳地帯だ。ベルカは聖王教会の元運営されている」

 

「聖王教会は次元世界で最大規模の宗教組織よ。まあ、普通の宗教と比べれば禁忌や制約が少なくて、結構緩いとこもあるのよね」

 

「緑豊かで、森の中をレールウェイが通るのはとても気分がいいんだよ」

 

「農業も盛んでな、ミッドチルダの野菜と卵とかはベルカからの輸入品だ。それでも、ミッドチルダと比べれば田舎と言っても差し支えない」

 

「なるほど……ルーフェンに少し似ていますね」

 

「カリムは元気にしとるかなぁ?」

 

「入学以降、会っていなかったからね」

 

「後は、優秀な魔導師を排出している家系が多いな。もう廃止しているけど階級社会の名残はまだ残っているんだ」

 

そう言うと、皆表情を暗くする。もしかしなくてもランディの事を思い出させてしまったな。

 

「コホン、それと駅から聖王教会まではそれなりの距離があるから歩いて行くことになる」

 

「そうなんか……結局、今日の到着予定時間は午後2時過ぎくらいやったなぁ」

 

「ええ、今は9時過ぎ………セニア駅に到着するのは普通だから12時過ぎでそこからベルカ線のレールウェイに乗り換えて2時間くらいになるわね」

 

「思ったより長旅だね」

 

「ですが滅多にない機会ですしのんびりと行きましょう」

 

その後も他愛ない雑談をする一行は列車に揺られながらセニアへと向かう。そして3時間が経過した後にアナウンスが列車内に響く。

 

「もう着くみたいね」

 

「セニアか……来るのは初めてだ」

 

「私もです」

 

「俺も実習の時が初めてだ、いつも通り過ぎていた」

 

列車が駅に到着し、6人が乗り換えの為に列車を降りる。今の時点でもそこそこの旅だったが、ここから更に時間がかかるのかと思うと長旅が初の面々は少々気が滅入ってくるようだ。

 

「ふぅ……やっとついたか」

 

「ここから別のレールウェイ乗り換える……でええんか?」

 

「ああ、この後3番線から出るレールウェイに乗る手筈だ」

 

「3番線は階段を登って左端のホームに下りる必要があるわね」

 

「では遅れない内に行った方が良いですね」

 

「時間はあるけど余裕は持っておいた方がいいからね」

 

そろそろお昼の時間でもあり、駅内の売店で駅弁を購入して。次に着たレールウェイでベルカに向かった。

 

 


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