魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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70話

 

 

6月中旬ーー

 

若葉の季節を過ぎたルキュウでは珍しく長雨が続いていた。各地で実習を終えた俺達VII組のメンバーは通常授業に戻っていた。目の回るほどの忙しい日々と、付いて行くのがやっとの授業にようやく慣れてきた頃………かねてより告知されていたイベントが俺達全員を待ち受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてーー前から予告した通り、明日から中間試験になる」

 

テオ教官が教卓の前に立ち、明日の報告する。

 

「ま、基本は座学のテストだから俺には何の力にもなれないけど。一応、試験官として温かく見守るからせいぜい頑張れ。あ、デバイスの電源はちゃんと切れよ。念話も禁止だからなぁ」

 

相変わらず教師らしくない発言だな。

 

「完全に他人事ですね……」

 

「私達の成績が悪かったら教頭に嫌味を言われるんじゃ?」

 

脅しのようにアリサが言う。

 

「このクラスにはけっこう成績優秀者が多いからな。せいぜい結果を楽しみにしておこう。そうそう、試験結果の発表は来週の水曜日だ。個人別の総合順位も掲示板に貼り出されるから」

 

「はあ……憂鬱だなぁ」

 

「……超面倒やなぁ」

 

「今度こそ勝たせてもらうわよ、すずか」

 

「あはは……お互い頑張ろうね」

 

先月と同様にさまざまな思い入れがあるようだ。

 

「ーーそれともう一つ。クラスごとの平均点なんかも発表されるからな」

 

「クラスごとの平均点……」

 

「なるほど、クラス同士の対抗心を煽るわけか」

 

「うーん、それはそれでやり甲斐がありそうだね」

 

「さて、まだ昼過ぎだが今日のHRは以上だ。残って試験勉強するか寮に帰るかはお前達に任せる。委員長、挨拶しろ」

 

「はい。起立ーー礼」

 

HRは終わり、テオ教官が教室を出て行って、俺達はその後集まった。

 

「は〜、どうしようかな。どの教科も心配だけど特に数学が厳しそうなんだよね」

 

「だったら俺が見てもいいぞ?復習するつもりだったし。まあ、片手間でよければだが」

 

「え、ホント?やったぁ、助かるよ!」

 

「私は次元史がやや不安ですね。一応、授業で習ったところは把握していると思いますが……」

 

「よかったら付き合うよ。代わりに軍事学の設問を手伝ってくれないか?」

 

「ああ、喜んで」

 

「すずか〜、勉強教えて〜」

 

「うん、いいよアリシアちゃん」

 

「なら私も一緒に、古典がちょっと不安なの」

 

「私は全科目不安なんや〜……」

 

「全く、見てあげるからしっかりしなさい」

 

「はぁい」

 

「よかったらフェイトも一緒にどう?」

 

「え……」

 

アリサの誘いにフェイトは戸惑い、チラッとアリシアを見てから……

 

「ーーせっかくだけど遠慮しておくよ。ちょっと、個人的に復習したい教科があるから。先に行くね」

 

フェイトは荷物を持って、教室を出て行った。

 

「……?フェイトちゃん、どうしたんだろ?」

 

「そうだね………」

 

「フェイト………」

 

皆、フェイトのことを心配する。

 

(今、一瞬アリシアのことを見ていたな)

 

「ねえねえ、レンヤ」

 

「ん、どうした?」

 

「レンヤはこのまま寮に帰っちゃうの?」

 

「よかったら一緒に試験対策でもしますか?」

 

「そうだな………とりあえず、すぐには帰らないつもりだ。もしかしたら、どちらかにお邪魔するかもしれない」

 

「ああ、分かった」

 

「気軽に来るといいよ」

 

それで解散となり、皆は教室を出て学院の何処かに行ってしまった。

 

「さて、俺も一通り復習するか」

 

俺は教室に残り、あらかた復習した後に学院を周る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……

 

「……もう下校時間か。雨のせいで気付かなかったな。ちょうどいいし、帰るか」

 

あれから皆と勉強した後、校舎から出ようとした時にチャイムが鳴った。

 

校舎から出たら外はまだ雨が降っていた。本当なら魔力フィールドを張って手ぶらで帰りたいけど、学院はもちろんのこと外での魔法の使用はあまりしない方がいい。持っていた傘を差して行こうとした時……

 

「あんさん、ちょっとええか?」

 

「ん?」

 

関西弁で呼ばれて周りを見るが………誰もいなかった。

 

「こっちやこっち」

 

下を見ると、兜をかぶった小さ過ぎる熊?がいた。

 

「え、えーと……」

 

「雨の中、呼び止めて悪いな〜。ここの学院の学院長室はここで間違えあらへんか〜?」

 

「え、ここの1階右翼にあるけど……受付の人はいるかな?よかったら案内するけど?」

 

「あんがとな〜。でも、大丈夫や〜!そんじゃあな〜〜お兄さん」

 

よくわからない動物は横を通り、校舎に入って行った。

 

「…………………………」

 

あれに変に思わない自分がいて、しばらく呆然としていた。

 

「あれ、レンヤ君?」

 

すると図書館方面からすずかが歩いて来た。

 

「すずかか。そっちも今帰りか?」

 

「うん、フェイトちゃん達はまだ残って勉強していくみたいだけど。私は寮に戻って明日に備えるつもりだよ」

 

「そうか………せっかくだから一緒に帰るか?」

 

「!、………うん!」

 

一緒に帰ることになり、傘を差しながら並んで寮に向かった。

 

「あ、そういえば久しぶりだね、2人だけで帰るのって」

 

「そういえば………ひょっとしたら雨のおかげかもな?」

 

「ふふ、そうだね」

 

確かにすずかと2人だけなのは久しぶりだな。

 

「それで、レンヤ君は中間試験の自信はどうなの?」

 

「アリサとすずかに恥じない結果は出したいと思っている。ベストは尽くすつもりだ」

 

「そっか。お互い頑張ろうね」

 

すずかはそこで何かを考え始めた。

 

「………やっぱりレンヤ君はすごいね、こんな私を受け入れてくれたし」

 

「こんな?吸血鬼のことを言っているのか。別にそんなことないさ、なのは達も受け入れてくれたし、フェイトと同じだ」

 

一年位前にすずかが吸血鬼のことを他の皆にも伝えた事があったのだ。結果はもちろん笑顔で受け入れてくれた。その後ノエルさんとファリンさんが機械人形だったことを聞いたのは驚いたが。道理であんまり変わらないわけだ。

 

「皆は辞書の意味をそのまま受け入れるような人じゃない。むしろ黙っていたことに怒っただろ」

 

「ふふ、そうだね。皆、変だとは思ってくれなかったね」

 

「ああ、そうだな。あ、変といえば………さっき変な動物に会ったんだ」

 

「変な動物?」

 

「すずかと少し会う前に兜をかぶった小さ過ぎる熊みたいなのが、学院長室の場所を聞いてきたんだ」

 

「そんな動物がいるんだね。誰かの使い魔かな?」

 

「あ、そうか。そうかもしれないな」

 

「ちなみにどんな毛色だったの?」

 

「えっと、黒地に白だったな」

 

「黒地に白……」

 

また何かを考え込むすずか。

 

「どうかしたか?」

 

「う、ううん、何でもないよ…………そうだよね。あの子達な訳ないよね。ちゃんと一緒に居るはずだし、こっちに来ることは……」

 

「???」

 

「コホン、やっぱり誰かの使い魔じゃないかな?使い魔って本来連絡を取り合うのが代表的だし」

 

寮に到着して、荷物を置いた後玄関前のスペースですずかと勉強を教え会った。それから帰ってきた皆と夜まで勉強し、キリのいい所で明日に備えて解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日から4日間に渡って行われる、魔導学院の中間試験が始まった。雨が降り続ける中、自分が持てる最大限の実力でテストに挑んだ。そしてあっという間に4日は過ぎてしまい、今はHRだ。

 

「いや〜っ、4日間、ホントご苦労様だったなぁ。ちょうど雨も止んだみたいだし、タイミング良かったんじゃないか。これも神さまの粋な計らいじゃなねえか?」

 

「また適当なことを……」

 

「つ、疲れた……」

 

「……もう無理や……」

 

「体力が空っぽだよ〜」

 

「ふふ、はやてちゃん、アリシアちゃん、お疲れ様」

 

「まあ、悪くない結果ね」

 

数名疲れているが、出来の心配は少ないようだ。心労はない方がいい。

 

「ま、明日は自由行動日だし、せいぜい鬱憤でも晴らしてこい。試験結果は来週の水曜に返却するからな。その日の午後には今月の実技テストもあるからな」

 

「それもあったか」

 

「少しは空気を読んでほしいかな」

 

「次の特別実習についての発表もあるのですよね?」

 

「ああ、来週末にはそれぞれ、実習先に向かってもらうから。ま、その意味でも明日は羽根を伸ばすといい」

 

「…………ふむ……………」

 

「うーん、久々に部活に出ておこうかしら……」

 

「ああそれとな、俺はこの後、ちょっとした野暮用があるから。明日の夜まで戻らないからくれぐれも寮のことは頼んだぜ」

 

HRを終わりにして、テオ教官はその野暮用の為なのか早めに教室を出て行った。

 

皆で寮に帰る話しになったが、俺とアリシアは学院長に呼ばれていたので後で帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ、フェイト、アリシアを抜いたVII組のメンバーで一緒に寮に帰る事になった。

 

「は〜、何ていうか解放感に満ちているよねぇ。結果発表を考えるとちょっと憂鬱だけどさ」

 

「ふふん。悪いけど私は自信があるわよ。すずかの方はどうだったの?」

 

「そ、そうだね。悪くないと思うよ」

 

「これが上位成績者の会話か………」

 

「立ち入るにはもっと勉強しないとな」

 

「余り張り合わない方がいいと思うが……」

 

「そういう意味も含めて結果発表待ちってことやな。そういえば………テオ教官のアレってどう思うん?」

 

「確か、誰かに会う約束があるらしいね。明日の夜まで戻らないみたいだけど……」

 

全員、テオ教官の行動に興味があるらしい。

 

「うーん、普通に考えれば恋人に会うとかじゃないかな?」

 

「……信じられないね。アレにできるのかな?」

 

「イケメンなのは認めるんやけど、あの性格と生活態度を見るとどうもなぁ〜」

 

「好き放題言っているわね。まあ、私も同感なんだけど」

 

「はは、アリサ達が一番苦労させられていそうだもんね」

 

「そういえば………アリサちゃん達は明日も生徒会の手伝いをするの?」

 

「うん、今月は私が受けるんだよ。いい気分転換になりそうだし」

 

「なるほどね」

 

雑談しながら向かっていたのであっという間に寮の前に着いた。

 

「そういえば……レンヤとアリシア、どうしたんだろ?」

 

「学院長に呼ばれ言っておったな」

 

「あ、そうだったね」

 

「学院長……何の用事なんだ?」

 

「もしかしたら、特別実習についてではないだろうか?」

 

「分からないけど………フェイトも先に教室を出て行っちゃったわね。せっかくだから皆で帰ろうと思ったんだけど……」

 

「心配だね……………」

 

「?」

 

すずかが心配そうな顔をして、ツァリが分からない顔をする。

 

「……気のせいかもしれないけど。最近、フェイトとアリシア、どこかぎこちないんじゃないかしら?」

 

「そ、そうなの?」

 

「うん……確かに」

 

「今月から入った位だよね……どちらかと言うとフェイトちゃんの方が避けている気がするよ」

 

リヴァンが思い当たることがあるのか考え込む。

 

「言われてみれば。でも、2人共そんな風になるほど仲悪くないよね?」

 

「2人はとても仲の良い姉妹だ」

 

「うーん、そうなんだけど……」

 

「思い当たる節があらへんなぁ」

 

「………ひょっとしたらあの事が原因かもしれないかな?」

 

「あの事……?」

 

「どういうこと?」

 

「特別実習での出来事をA班・B班で報告し合っただろう?アリシアが固有結界を使ったのも含めて」

 

「そういえば………」

 

「確かに結界内の風景を変えるのにはビックリしたんやけど………それがどないしたん?」

 

「結界内の風景を言った時、フェイトが一瞬だけ険しい顔になった気がしてな………すぐに元に戻ったから気のせいだと思ったんだが」

 

「そうだったの……」

 

「でも、それがどうして?」

 

「いや、そこまでは分からない……」

 

「ま、事情は人それぞれでしょう」

 

「どうにか出来ればいいんだけど………」

 

その時、寮の入り口が開く音がした。

 

「ーーすずかお嬢様。お帰りなさいませ」

 

「え……」

 

出てきた人を見てみると、そこには二十歳位のメイド服を着た薄紫色の髪をした女性がいた。

 

「ファ、ファ……ファリン⁉︎」

 

「はい。お久しぶりです」

 

すずかはファリンに近寄り、他もそれに続く。

 

「ファリンさんがどうして……」

 

「知っているの?」

 

「すずかの家のメイドよ」

 

「ふむ、確かアリサとすずかはいい家柄の出だと聞いましたね」

 

すずかは何も聞いていなかったそうで、ファリンに質問する。

 

「どうして貴方がここに……家はどうしたの⁉︎」

 

「主人のいない屋敷を掃除しても意味がないとお姉ちゃんが言いまして、それで今日から第三学生寮の管理人を務めさせていただきます」

 

「えぇ⁉︎」

 

驚愕するすずかをよそに、ファリンはなのは達の前に来る。

 

「初めましての方も多いので自己紹介を、ファリン・K・エーアリヒカイトと申します。すずかお嬢様のご実家、月村家の使用人として仕えさせていただいています。皆様のお世話をさせて頂きますので、よろしくご指導、ご鞭撻ください」

 

ファリンはスカートを掴み、お辞儀をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

予告通りテオ教官は居なかった。今日はファリンさんが朝食を作ったようで、全員でそれを頂いている。

 

「うわ〜……!」

 

目の前に出された朝食に、ツァリは感嘆の声が出る。ミッドチルダの人は基本洋食なので、ベーコンエッグとトースト、コーンスープで飲み物は紅茶かコーヒーかお茶が用意されていた。

 

「これは見事です」

 

「すごい数の料理だな」

 

「どれも美味しそうだね♪」

 

「へえ、イタリア風の朝食スタイルね」

 

「はい、皆様のスタイルに近い朝食にしてみました。厨房に慣れていないため間に合わせになってしまいって申し訳ありませんが……」

 

昔からにドジな感じはなく、落ち着いた感じに応対するファリン。どこか違和感がするが……

 

「謙遜しないで下さい、充分過ぎるくらいです」

 

「そうですよ、はやてと同じ位かもしれません」

 

「確かにそうやな。でも、負けるつもりはあらへんで?」

 

「そこで張り合うな」

 

「ふふっ、ありがとうございます。コーヒー、紅茶、緑茶共に揃えていますので遠慮なくおっしゃって下さい」

 

「…………………」

 

ファリンさんは笑顔で言うが、斜め前で座っているすずかは年単位でまず見ることの少ない不機嫌な顔をしている。

 

(さすがにご機嫌斜めだな……)

 

(うーん、昨日は随分と揉めていたみたいだし……)

 

(あんな委員長は初めて見ました)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日ーー

 

すずかはファリンを連れて、3階にいた。

 

「ファリン、どうしてここにいるの⁉︎」

 

「先程も仰いましたが、主人のいない屋敷を守るメイドなど虚しいものです。ですから、リンディさんの協力の元こうしてここにいるわけです」

 

「それなら一言私に相談してもいいじゃない!」

 

「それが、忍様に相談したところ“黙っていた方が面白いじゃない♪”だそうでして」

 

「ああもう、お姉ちゃんったらいつまでも私のことをからかって………!」

 

ちょうどその時、レンヤとアリシアが寮に戻ってきた。全員一階に集まっていたので2人は何だと疑問に思ったが、上からすずかの大声が聞こえて首を上げる。

 

「ーーって言うか!まさかあの子達を連れて来たの⁉︎この前、レンヤ君がアタックを見たって言っていたんだけど⁉︎」

 

「はい、屋敷はお姉ちゃんだけでも大丈夫そうなので連れて来ちゃいました」

 

「来ちゃいましたじゃな〜〜い!」

 

今度はフェイトが戻ってきて、全員ここにいることに疑問に思ったがまた聞こえてきた大声で上を向く。

 

「と、とにかく!あの子達を全員集めてーーー‼︎」

 

今で聞いたことないすずかの叫びが第三学生寮に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてすずかが言っていたあの子達は……

 

「ウチはアタックゆうねん〜。よろしゅうな〜♪」

 

「変な名前だな」

 

「失礼やな〜!アタックはノルミンファミリーが作られた時に付けられた名前やねんで〜?はんなりしてるやろ〜?」

 

昨日会った不思議動物だった。

 

この動物……通称ノルミンはすずかが作ったお手伝いロボットだ。すずかのことだからこういうのを作るのだったらてっきりモチーフは猫だと思ったんだが、結構意外だった。

 

今まで恥ずかしくて隠してきたらしい。連れて来たノルミンは五体で今いるアタック、紅茶の入ったポットを持っている見た目が緑でベレー帽をかぶったディフェンス、コーヒーの入ったポットを持っている見た目が青くてベレー帽をかぶったスピード、厨房で洗い物をやっている見た目が赤くてベレー帽をかぶったテクニック、この寮の何処かにいると思われるオレンジのサポート。

 

…………見た目は勿論のこと、ネーミングセンスがよくわらない。名付けた理由は魔法的にもサポートできるかららしい。アタック以外ベレー帽をかぶっているし、サポート以外方言で喋っている。そのサポートに至ってはミウミウしか言わない。サポート(名前)がサポート(そのままの意味)する……よくわからん。

 

「美味しい!凄く美味しいよファリン!」

 

「おーい、コーヒーのお代わりくれ〜」

 

「すずかん家はこんなうめえもん食ってんのか?」

 

「ミウミウ」

 

ソエル、ラーグ、アギトは小さい者同士あっさり仲良くなったようだ。それとそこに居たんだ、サポート、働けよ。

 

「……とにかく、私は怒っているからね。ノエルと他のノルミン達も忙しいと思うし、ファリンが居た方がーー」

 

「ふふっ、さすがすずかお嬢様。離れていてもお姉ちゃんのことを気にかけてくれるんですね?それでこそ、私が心よりお仕えする大切な方々です!」

 

「そうやて〜」

 

ファリンさんはすずかの言葉を逆手に取り褒める、ディフェンスも煽てている。

 

「べ、別に気にかけていないよ!」

 

「あ、お嬢様。大好物のブルーベリージャムを沢山作ってきました。せっかくですからファリンがトーストにお塗りしましょうか?」

 

「え、ホント⁉︎」

 

食べ物につられているよ。

 

「だ、だからいつまでも子ども扱いしないで!その、ジャムはもらうけど……」

 

「はいお嬢、ジャムやで〜」

 

アタックがジャムの入った瓶を持ってきた。

 

(……微笑ましいな)

 

(色々と頭が上がらないみたいだね)

 

こうして、俺たちはファリンさんが用意した朝食を舌鼓した後。それぞれ寮から出て行き、生徒会の依頼をすずかに任せ。俺は何時も通りに異界対策課に向かった。

 

「レ、レンヤさ〜ん……」

 

「ほんっとごめんな、ルーテシア」

 

ミッドチルダ全域の依頼をルーテシア一人で受けているから、疲労はかなりある。俺達がいた時よりも遙かに少ないが、それでも子ども一人に受けさせる量ではない。

 

「い、いえ……」

 

「うーん、幾ら書類整理をコッチに任せても依頼はルーテシアちゃん一人で受けているからねぇ」

 

「さすがにダメだったら遠慮なく言ってちょうだい。倒れたら元もこもないんだから」

 

「だ、大丈夫ですよ。ソエルちゃんとラーグ君とアギトとガリューも居ますし、たまにティーダさんとヴィータさんも来てくれますし……」

 

「そのうち2人にお礼を言わないとね」

 

「そうだね」

 

話している間も手を動かして、執務作業を終わらせた。

 

「さて、俺はエルセアに行くから何かあったら連絡をくれ。ラーグ、行くぞ」

 

「待ってました!」

 

「気をつけてね〜」

 

「レンヤさん、行ってらっしゃい」

 

俺は駅に向かわず、ここの駐車場に向かった。

 

「ふっふっふ、ついに買ってしまったよ。マイカー」

 

数年で貯まりに貯まった給料を使い車を買った。貯金と比較すれば微々たる額だが、初めてなので高級車では無く一般的なワゴン車だ。

 

「いいから早く行こうぜ」

 

「ああうん、まあそうだけど……」

 

やっぱり地球での感性が反発して素直に喜べない。運転するのと車を持つのは結構違うんだな。しかし、ギンガもしれっと普通に運転してたからなぁ。

 

車に乗り込み、エルセアに向かって走り出した。

 

車を止めて、いつも通りに依頼を終わらせ、後は周辺の巡回をする。

 

「実習で来たばかりなんだけど、まあいいかな」

 

「行動範囲が広がっていいじゃないか」

 

「まあそうだけど……」

 

巡回を続けていると、繁華街に差し掛かった時……

 

「やるのかアホデコメガネ!」

 

「おおとも鎧デカ!後、私はアホでもデコでもありません!」

 

典型的な不良と生徒会の人の小競り合いを体現している場面に出くわした。見た感じ、小学生くらいだな。やっぱりミッドチルダの人って成長が早いのかな?

 

頭をぶつけ合って啀み合っているな。それに、周りにいる知り合い達もいつも通りの光景という風に見ている。学校の制服違うから、同じ学校ではないんだな。

 

「何だろう、あれ?」

 

「ひと昔前のケンカじゃね?」

 

確かに見えなくもない。

 

やっぱりグリードより、人の方が対処に難しいな。

 

「いいぜー、決着をつけてやらああっ!」

 

「正義の名の下、成敗してやりますわ!」

 

両者魔力を発生させてケンカしようとする。天下の往来で何しようとしてるの、不良の方はともかく黒髪眼鏡の子は結構うっかりしているな。

 

「たっく……」

 

「行くのか?」

 

「ああ、どっちも見たことある顔だし」

 

歩いて彼女達の方に向かう。

 

「おりゃああっ!」

 

「はああああっ!」

 

殴り合おうとした瞬間、間に割り込み……

 

「はい、そこまで」

 

「うおおおおっ⁉︎」

 

「きゃあああっ⁉︎」

 

2人の拳を掴み、勢いを利用して投げた。

 

「いっつ……テメェ、何しやがる!」

 

「正義の邪魔をしないで下さる!」

 

「はあ……」

 

まるで理解していないな、取り敢えず拳を握りしめて。

 

「ふんっ!」

 

「「ぎゃあっ⁉︎」」

 

脳天に振り下ろした。

 

「ケンカ両成敗だ、これに懲りたら控えろよ」

 

「え、あ!あなたは……!」

 

「ん?ああああっ!」

 

あ、気づいていなかったんだ。

 

「す、すみません!先月助けてもらった恩を仇で返してしまいました!」

 

ああ、オンソクから助けた時の女の子、この子だったな。

 

「スンマセンでした!ちょっと、頭に血が上ってました」

 

「まあいいけどね、他の人は止める気はあったのか?」

 

「えーっとー……」

 

「いつも通りの感じだったので……」

 

「本気じゃないのは分かっていましたし……」

 

「………ごめんなさい」

 

「反省してます……」

 

いつも通りはいつも通りで問題だと思うけど。

 

「それじゃあケンカはやめて、次からは模擬戦でやれよ〜」

 

問題ないと判断して、そのまま去ろうとすると……

 

「「あ、あの!」」

 

「ん?」

 

2人に呼び止められた。

 

「私が先だ、オメエは後でいいだろう……!」

 

「いいえ、私が先でする。貴方は私に譲りなさい……!」

 

………また顔を押し付けあってるよ。

 

「それで?赤髪の子が先でいいよ」

 

自分が先だと分かり、ガッツポーズする赤髪の子と。うなだれる黒髪眼鏡の子。

 

「それで何だ?」

 

「あの、その……」

 

いきなりしおらしくなったな。女の子らしい一面があってよかったよ。オレオレ言ってたし。

 

「その、サイン下さい!」

 

「………はい?」

 

色紙とペンを差し出された。

 

「出来れば一撃必倒って異世界語で書いて下さい、端っこでいいんで」

 

「まあ、いいけど。それで君の名前は?」

 

「ハリー・トライベッカです!」

 

取り敢えず名前を書けばいいだろ?ソレっぽく名前を書き、端っこにハリーの名前と漢字で一撃必倒と書いた。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます!それじゃあ!」

 

「良かったですね、リーダー」

 

「羨ましいッス!」

 

満足したのか、お礼を言って去って行った。

 

「それで君は?」

 

「え、あ、はい!私はエルス・タスミンと言います!どうか、アリシア・テスタロッサさんにご教授をお願いしたいのです!」

 

「アリシアに?もしかして君は結界魔導師か?」

 

「はい!」

 

「うーん、こればっかりは聞いてみないと分からないなぁ」

 

「そこをどうか!」

 

意気揚々に迫るな。あ、それなら……

 

「ならテストしようか」

 

「テスト、ですか?」

 

「そ、ついておいで」

 

俺はこの近くの公共魔法練習場に向かった。ただ……

 

「狡いぞ!お前だけ魔法を教えてもらうなんて!」

 

「貴方はサインが欲しかったんでしょう!それなら貴方も指導を願い出ればよかったでしょう!」

 

あの後、ハリーは興奮冷めないまま練習しようとしたらしい。

 

「まあ、手間が省けていいか。2人共、得意な魔法をデバイスを起動しないで1発俺にぶつけてみろ」

 

「「えっ……」」

 

一瞬驚いた顔をして、その後チャンスみたいな顔をする。

 

「なら最初はオレからだ!」

 

ハリーは拳に炎を纏わせる。

 

「おらあああっ!ガンフレイム!」

 

炎を纏った巨大な砲撃が放たれた。

 

へえ、この年でそれほどの砲撃を……

 

「将来が楽しみだな!」

 

《プロテクション》

 

障壁を張り、砲撃を防ぐ。

 

「何っ⁉︎オレの全力をプロテクションだけで⁉︎」

 

「うん、いいね。アリサに頼んでみるが、どうする?」

 

「アリサさんに⁉︎は、はい!よろしくお願いします!」

 

「次はエルスだ」

 

「行きます!アレスティングネット……展開!捕獲します!」

 

チェーンバインドに似た、手錠型のバインドで拘束された。

 

「どうですか、外れないでしょう?」

 

なるほど、拘束効果は鎖じゃなくてリングの方にあるのか。でもこれじゃあまだ分からないな。

 

「ふんっ!」

 

バキッ!

 

瞬間的に最大魔力を放出して、バインドを砕く

 

「嘘っ⁉︎」

 

「あれを破るのかよ……」

 

「次はコッチの番だ」

 

同じ魔法をエルスに放ち、拘束する。

 

「私と同じ魔法を⁉︎ですが、練度が違いますわ!こんな物、幾ら掛けても……」

 

「俺もそう思うよ」

 

チェーンに魔力を込めて……

 

「10や、20ならね」

 

バインドが接触している部分からリングが発生して、エルスの全身をリングで拘束した。

 

「なっ⁉︎」

 

「スゲェ……」

 

「………うん、いいかな」

 

バインドを解除するとエルスは座り込む。

 

「これ以上はアリシアに判断を任せるしかないな」

 

「はい……」

 

「そう落ち込むな、アリシアなら案外気軽に受けてくれるさ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

連絡先を交換して2人と別れ、異界対策課に戻りアリサとアリシアに聞いてみた所、簡単に引き受けてくれた。それを伝えたら大喜びしていた。

 

ちょうど夕方になる前だったので、仕事は寮でやる事にして。ルーテシアを帰した後、全員俺の車でルキュウに帰る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車を街の外にある駐車場に止めて、皆用事があるらしく。俺は先に寮に向かった。

 

ついた時には日も暮れて、寮に入ろうとした時……

 

「お前も今帰りか?」

 

振り返ると駅方面からテオ教官が歩いて来ていた。

 

「テオ教官、お疲れ様です」

 

「お前もな。お互い仕事は大変だな」

 

「そう思うならもう少し真面目に……とは言いませんけど、教師らしくして下さい。それよりも何だか疲れた顔をしてますね?」

 

「ああ、うん……ちょっと色々あってな…………全くあいつらは、腕はいいが面倒事押し付けやがって………」

 

途中から小言で愚痴っているな。

 

「?、その、上手く行かなかったんですか?」

「へ」

 

テオ教官はビックリしたような顔になり、その後何か思いついたような顔になった。

 

「あーうん、そうそう!すげえ刺激的だったぞ、お前達には早い位」

 

「は、はあ……」

 

何だろう。かなり胡散臭いような………

 

「そういや、昨晩はどうだった?留守中何かあったか?」

 

「ええ、特にはーー」

 

……と思ったらファリンさんのことがあったな。

 

「そういえば、この寮に新しく管理人の女性が来ました。教官はご存知でしたか?」

 

「ああ、もう来たのか。すずかの家のメイドが来るって聞いてたぞ」

 

それ、絶対テスト前に聞いてましたよね?

 

「……スン。そういや良い匂いがするな」

 

「多分そうですね、はやてもまだ帰っていませんし。ホント、昔の彼女とは思えない程料理が上手で……今朝はご馳走になったんです」

 

「ああ、お前達と知り合いだったな。ま、楽しみにしておこう。せっかくだし、ツマミでも作ってもらうか」

 

「はは……」

 

相変わらず、でいいのかな?

 

寮に入ると、ファリンさんが出迎えてくれた。

 

「ーーお帰りなさいませ。レンヤ君、それにテオ様」

 

「お帰んなは〜い」

 

「ん?」

 

「ファリンさん、アタック、ただいま。ファリンさんは相変わらずフレンドリーですね」

 

まあ、その方が楽だけど。

 

「むしろ変える方が難しいですね、臨機応変な対応もメイドのスキルです。ふふ、それとも“旦那様”と呼んだ方がいいでしょうか?」

 

「遠慮しておきます」

 

「ええやないか〜。将来お嬢とおおおおおおお⁉︎」

 

アタックが言い終わる前にファリンさんが外に蹴飛ばした。

 

「ふふふふっ………」

 

………蹴った理由は聞かないでおこう。

 

「…………………」

 

「ーー初めまして。月村家より参りました、メイドのファリンです。皆様の身の回りお世話などをさせていただきますのでどうかよろしくお願いいたします」

 

「……………失礼。VII組の担任を務めさせていただ居ているテオ・ネストリウス・オーヴァだ。男では出来ることも多い、気軽に頼ってくれ」

 

「はい、感謝します。テオ様」

 

何か考えていた様だが、問題はなさそうだ。

 

それから何事も無く、今月の自由行動日は終わった。

 

 


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