魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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69話

 

 

ピピピピピピピピ………

 

セットしていたアラームで目を覚ました。窓の外はまだ暗く、時間をみると4時だった。

 

「ふああああ……そうか、素振りするために早く起きるんだったな」

 

他の2人も起きないように指向性のあるアラームにしておいてよかった。

 

静かに寝間着から制服に着替えて、ここの裏手にある林に向かった。

 

「ふっ!やあ!せいっ!」

 

素振りを終えた後、型の研鑽に入る。

 

(こがらし)の舞!」

 

回転しながら地面のある枯葉を巻き上げて、一枚一枚縦切りにする。

 

「ふう……」

 

一息つき、集めた枯葉の山をみる。

 

「うーん……あ、一枚ズレている」

 

枯葉の山から少し横にズレた枯葉を見つける。

 

ため息をついて枯葉を放り、刀を納刀して木に向かって構える。

 

深呼吸して集中し……

 

「一瞬三斬…………瞬光!」

 

抜刀して瞬時に移動、右上に振り抜いた状態になる。

 

「ふう………」

 

刀を納めて木の元に戻ると、木の表面にアスタリスクのマークができていた。

 

「うん、前より上手くいった。前はズレて三角形ができていたからな。今回はちゃんと一点にできた」

 

剣先で削るように振り抜いたからそこまで木にダメージはないっと。

 

ピピピピピピピピピ………

 

ちょうどその時、5時を過げるアラームが鳴った。

 

《時間です》

 

「了解、ちょうどよかったな」

 

クールダウンしながら隊舎に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽くシャワーを浴びた後、皆と合流して。朝食を取った後ゲンヤさんから依頼の入った封筒をもらい正面玄関で開こうとする。

 

「ゲンヤさんはどんな依頼を出したんだろうね?」

 

「さっさく確認してみようか」

 

封筒を開けて依頼を確認する。

 

「指定グリードの討伐と模擬戦の依頼か」

 

「昨日と同じでバランスよくまとめてられているわね」

 

「これなら大丈夫そうだね」

 

「期間は残り1日ーー明日の朝にはルキュウに戻らないといけない。すぐに動いた方がーー」

 

「ーーシェルティス・フィルス」

 

リヴァンが遮るようにいきなりシェルティスを呼んだ。昨日までリヴァンから話しかけることはなかったのに。

 

「……何だい、リヴァン・サーヴォレイド」

 

シェルティスもおうむ返しのようにフルネームで呼ぶ。

 

「ちょうどいい相手もいることだ、連携を取れるようにするぞ。いい加減戦いで連携が取れないのも不本意だからな」

 

「……………………」

 

「リヴァン君……」

 

どういう風の吹き回しと言いたいけど、だいたい昨日の……

 

「やれやれ。君も案外単純なんだね。大方、昨日の話しを盗み聞きした……てことでしょう」

 

「なっ………違うぞ!お前の事やレンヤの話なんて聞いてーーーあ」

 

感情に任せて素直に言ってしまったリヴァン。

 

「リヴァン……」

 

「あはは……」

 

「語るに落ちたわね」

 

「……〜〜っ〜〜……」

 

「まあまあ……………プッ」

 

「フフ……」

 

顔を真っ赤にして自分の失態を自覚する。シェルティスは呆れたように笑う。

 

「ーーいいよ。その話乗った。僕の方が上手く合わせてあげるから大船に乗った気でいるといいよ」

 

「くっ………それはこちらの台詞だ。俺がお前に合わせてやろう」

 

「フン……」

 

「はは……」

 

「今日の実習は上手く行きそうね」

 

「でもまたレン君を傷付けたら………分かっているね?」

 

なのはの言葉に2人は無言で頷く。

 

その時、フロントに電話が掛かった。しばらくして受付の人が近寄って来た。

 

「シェルティスさん、グランダム少将からお電話です」

 

「父さんから?」

 

シェルティスは電話を受け取り、少し俺達と離れて通話する。

 

「………………うん………分かった、今すぐ行きます。それじゃあまた」

 

1分くらいで通話を終了し、こちらに戻って来た。

 

「………ごめん皆、そのーー」

 

「ーー行ってこい」

 

リヴァンの思いがけない言葉にシェルティスは驚く。

 

「急いだところで良い結果は出ない」

 

「午前中は俺達でやるからシェルティスは行ってくるといい」

 

「せっかくの機会だから親孝行でもしてきなさい」

 

「そうそう」

 

「遠慮しないで大丈夫だから」

 

「皆………」

 

シェルティスは少し考える。

 

「ーー分かった。午後には合流できるようにする。僕抜きでも大丈夫だと思うけど、気をつけて」

 

「言われなくても」

 

「それじゃあ昼くらいに隊舎のロビーで落ち合おう」

 

「何かあったら連絡してね」

 

「分かった、それじゃあまた午後に」

 

「またね〜」

 

シェルティスは隊舎を出て、ちょうど通って来たタクシーに乗って行った。

 

「ーーよし、それじゃあ頑張って依頼をこなそうか」

 

「シェルティスを楽させるためにもね」

 

「うん、そうだね!」

 

「それにしてもーー」

 

アリシアの言葉で全員がリヴァンを見る。

 

「な、なんだ……?その何か言いたそうな顔は」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「リヴァンのおかげで色々と良い方向に行きそうだと思ってさ」

 

「えらい、えらい」

 

「もっと大人しく出来ればいいんだけどね」

 

「俺は子どもじゃねえ!何だその生暖かい目は!レンヤ、アリサ、お前達とはわだかまりが無いとはいえ負けるつもりはないぞ!」

 

「え、そうなのか?」

 

「負けず嫌いね」

 

「それとなのは!もっと砲撃は控えろ、トラウマになる!」

 

「ええええええ⁉︎」

 

「ついでにアリシア!この際言っておくが授業中に寝るな!」

 

「お日様には勝てないんだよ」

 

リヴァンはタガが外れた様に皆に遠慮なく言ってしまう。

 

「はは……とにかく出かけるか」

 

「うん!」

 

「まずは模擬戦ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直して、ここの訓練場に向かった。

 

「待っていたぞ!」

 

そこに、訓練場のど真ん中にレヴァンティンを地面に刺し柄に手を添えて立っているシグナムがいた。横にはシャマルがいた。

 

「「「「…………………」」」」

 

「知り合いか?」

 

リヴァンが質問する中、俺達は回れ右をする。

 

「………行こっか?」

 

「ええ……」

 

「必須じゃ無いし……」

 

「だな………」

 

「お、おい……!」

 

そのまま去ろうとすると……

 

「ふふふ………逃がさないわよ」

 

シャマルにバインドされ、逃げられなかった。

 

「嫌だ!絶対に嫌だ!」

 

「模擬戦なのに絶対に本気になるんだから!」

 

「私達にはまだ依頼が残っているのよ!」

 

「ヘルプ、ヘルプ!」

 

無駄に硬いバインドにもがく。

 

「大丈夫だ、リミッターも掛けている。単純な手合わせだけだ」

 

その言葉を聞き、ホッと一息つく。

 

「まあ、それなら」

 

「なら私が相手をするよ」

 

「なのは⁉︎」

 

なのはが名乗り出た事に驚く。

 

「いつもは模擬戦だけだからイマイチ本気になれないの。でもシグナムさんとなら今の実力が分かるはず……!」

 

「ふ、お前と一騎打ちはしたことは無いな。良いだろう、来い!」

 

なのはのバインドが解除され、なのははレイジングハートを起動してバリアジャケットを纏いシグナムの元に行き……

 

「「はあああああっ!」」

 

お互いの武器をぶつけ合った。

 

「なんか始まっちゃったね」

 

「今のなのはで勝てるのかしら?」

 

「なのはの教導官としての観察力があれば………あるいは」

 

バインドを解除してもらい、立ち上がりながら模擬戦を見る。

 

「この中でシグナムに勝てる人はいるのかしら?」

 

「うーん、俺とアリサでも五分五分ですし……リヴァンなら勝てそうかもな」

 

「俺が?あの人に?」

 

「リヴァンは正攻法のシグナムと違って絡み手が主な攻撃方法だからね。相性としてだよ」

 

「なのはは士郎さんに棍術を教わったらしいけど……勝てる見込みはあるのかしら?」

 

「俺も訓練には付き合っている。それに、戦うのは棍を使うなのはじゃなくて魔導師のなのはだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

「うっ……」

 

「どうしたなのは、もう疲れたか!」

 

シグナムさんの剣戟にだんだんついてこれなくなってきている。やっぱり重ねてきた年月が違い過ぎる。

 

(でも、防御に徹して観察すれば……突破口は出来る!)

 

「はあっ!」

 

「っ………やるな!」

 

真正面ではすぐにやられる。レイジングハートに硬化魔法は施しつつ移動しながら的を絞らせない様に……

 

「それで勝てるほど、私は甘く無いぞ!」

 

ガシャン!

 

《シュランゲフォルム》

 

カートリッジをロードしてレヴァンティンを連結刃に変えてシグナムさんの周囲を薙ぎ払った。

 

距離をとって回避するけど、刃は迫って来る。

 

「でもっ……!」

 

レイジングハートで刃を叩き落として、一気にシグナムさんに接近する。

 

「やああああっ!」

 

この状態のシグナムさんは素早く動けず防御力も低い、今なら……

 

「ふ、なのは。お前はこれのことを失念してたな」

 

ガキンッ!

 

「っ!」

 

私の一撃は鞘で受け止められた。その隙にレヴァンティンを元に戻して胴に剣を入れられて……

 

ガキンッ!

 

「何⁉︎」

 

その一撃を防御魔法で防ぐ、そして腕にバインド!

 

「バインディングシールド、拘束確認!」

 

「させん!」

 

シグナムさんは剣を左手に放るが、こっちの方が早い!

 

「行くよ、レイジングハート!」

 

《了解です、マスター》

 

「はあああああっ!」

 

強烈な突きを何度も打ち込み……

 

「烈波無双撃!」

 

最後に一回転して薙ぎ払う!

 

「ぐはっ!」

 

「そこまで!勝者、なのはちゃん!」

 

シャマルさんが模擬戦の終了を告げた。

 

「はあ、はあ、勝った〜……」

 

《お疲れ様です、マスター》

 

「お疲れ様、レイジングハート」

 

「やるな、なのは。まさか棍術としてのお前ではなく、魔導師としてのお前で来るとはな」

 

「あはは、棍だけだとまだまだ未熟者ですから」

 

「それにしてもお前らしく無い事もするのだな、誘いなど……1歩間違えると負けるぞ、もし私が防御を超える技で来たらどうするつもりだった?」

 

「あの時のシグナムさんならあそこで強力な魔法は使わないと思ったんです。距離も近過ぎますし」

 

「なるほど、してやられたな。だが次は負けないぞ」

 

「………できれば、もっと腕が上がったらにして下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはが勝ったよ!あのシグナムに勝ったよ!」

 

「すごいな、シグナムって人もかなりの腕なのに。未熟な棍術を魔法で補ったのか」

 

「なのはの棍術の腕も以前より上がっているわ。でも、今度は別方面の問題もありそうね?」

 

「ああ、今のレイジングハートでは棍には適さない。すずかに新しい機能を追加する様にしないとな」

 

その時、なのはとシグナムが戻って来た。

 

「お疲れ様2人共」

 

「なのは凄かったよ!」

 

「ありがとう、アリシアちゃん」

 

「シグナムもお疲れ様」

 

「久しぶりに血沸く戦いだった」

 

「俺もいつか貴方と手合わせ願いたいですね」

 

シグナムがリヴァンを見る。何やら怪訝そうに見ているが。

 

「………自己紹介がまだだったな。私は八神 シグナムだ」

 

「私は八神 シャマルよ」

 

「はい。俺はリヴァン・サーヴォレイドです。よろしくお願いします」

 

リヴァンとシグナムが握手する。

 

「……………………」

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「……いや、何でもない。少々嗅ぎ覚えのある匂いがしたものでな」

 

「っ……!」

 

リヴァンはシグナムから離れる。

 

「そう身構えるな。私とてここで荒事を起こす気は無い」

 

「…………感謝します」

 

「どうかしたの?」

 

「さあ?」

 

「コホン、とにかく依頼は終わりですね。俺達は別の依頼が残っているのでもう行きますね」

 

「ああ、呼び止めて済まなかったな」

 

「皆、怪我しないでね」

 

俺達はもう一つの依頼を終わらせるために訓練場を出た。

 

少し横目でリヴァンを見る。シグナムさんが言っていたこと………匂い。俺も少し嗅いだたことはある。それはあれに似ていた。強烈に、人身に染み付いて、あの激痛に耐えたあの日に……

 

「レン君?どうしたの?」

 

「!、いや、何でもない」

 

早足で前に進んだ。

 

リヴァンから感じたあれは………血の匂いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから都市内の異界に入り、今はハーピィ型のSグリードと戦っている。

 

流滴(るてき)!」

 

空中でグリードと戦いながら、斬撃を飛ばしながら誘い込む。

 

「はあっ!」

 

《フレイムタワー》

 

アリサが上空にいるグリードに火柱を放つ。

 

《チャージ完了》

 

「アクセルシューター………シューーート!」

 

なのはが魔力弾を発射してグリードの周りを囲み、動きを止める。

 

「アリシアちゃん!」

 

「準備OK!」

 

《チャリオットキャノン》

 

アリシアが巨大な大砲を構えて……

 

ドオオンッ!

 

大きな音を響かせながら巨大な魔力弾がグリードに直撃する。

 

「リヴァン!」

 

「任せろ!」

 

グリードを鋼糸で拘束して、そのまま落下させる。

 

「ほいほい、いらっしゃ〜〜い」

 

《マインフィールド》

 

「イグニッション」(パチン!)

 

ドオオオオオンッッッ!

 

アリシアが指を鳴らし、設置型の魔法でグリードを爆撃した。

 

煙が晴れた頃にはクレーターを残してグリードはどこにもいなかった。

 

「やったーー!」

 

「コンビネーションも全く問題無かったね」

 

「ええ。でもアリシアの魔法、だんだんとミリタリー化してない?」

 

「フッフッフッ〜〜。これが私の魔法さ」

 

魔力弾をお手玉しながら誇る。

 

「おーいアリシア。それ爆弾だろ」

 

「よくぞ気づいてくれた!超圧縮魔力爆弾!中の高密度の魔力を炸裂することによって強力な攻撃ができるのだ〜〜!」

 

「そんな物でお手玉するな!」

 

「大丈夫、大丈夫………あ」

 

あ、魔力弾………一個落とした。

 

「「「「「…………………」」」」」

 

アリシアは他の魔力弾を消して足元の魔力弾を見る。

 

「どうするの、これ?」

 

「えっと、消せないの?」

 

「いや〜手から離れと信号ですぐに爆発かタイマー性なんだよね〜〜」

 

「ちなみに何秒だ?」

 

「10秒」

 

《5……4……》

 

レゾナンスアークのカウントが始まった瞬間、全員ゲートに走り出した。

 

「もっと良く考えろーー‼︎」

 

「ごめんなさ〜〜い!」

 

「とにかく走れ」

 

《3……2……》

 

「きゃああああっ⁉︎」

 

「飛び込みなさい!」

 

《1……》

 

俺達がゲートに入った瞬間……

 

《0》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ!」

 

「きゃあ!」

 

「ぶっ!」

 

「痛っ!」

 

「あいたたた……」

 

ゲートから飛び出して、重なるように着地する。

 

「こんのおバカ!もっと時と場所を考えなさい!」

 

「痛い痛い痛い!ごめんなさ〜〜い!」

 

アリサがアリシアにアイアンクローをしている。アリシアが浮いているよ。

 

「よっと……」

 

ふにょん

 

「やん……!」

 

「あれ?」

 

右手に柔らかい物が……身を起こして右手を見ると丸い物があって上を見ると……

 

「えっと………レン君?」

 

「なのは?」

 

「その……退いてくれると嬉しいな///」

 

「え、あ!ごめん!」

 

バッとなのはから離れる。

 

「ごめんなのは!」

 

「ううん、レン君もわざとじゃ無いことも分かっているよ…………それに、レン君になら///」

 

なのはが顔を俯かせて何か言っているが、頬が赤くなっているのは分かる。

 

「コホン!いいだろうか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

「えっと、ごめんね……!」

 

「それよりあれをどうにかしないか?」

 

リヴァンが指差す方を見ると、未だにアリサがアリシアにアイアンクローをしていた。時折アリシアがビクンビクンと跳ねているが……

 

「アリサストップ!それ以上やったら死ぬから!」

 

「アリサちゃん!ステイだよ!」

 

「私は犬じゃないわよ!」

 

それからアリシアを蘇生して、経過報告の為に一旦隊舎に向かう。

 

「イタタタ、死ぬかと思ったよ〜」

 

「自業自得よ」

 

「これからはちゃんとした時と場所で使うことだ」

 

「同士討ちでやられるなんて真っ平ごめんだからな」

 

「魔法で遊ぶのもダメだよ」

 

「はぁい……」

 

アリシアを説教しながら歩くと、目の前の信号で止まる。

 

「実習は今日の午後でお終いよね?」

 

「ああ、シェルティスもそろそろ戻って来ていい頃だけど」

 

「そろそろ戻って来ないと終わっちゃうね」

 

「ま、俺としては来なくても何も問題無いがな」

 

「またまた〜。照れちゃって〜」

 

「照れてない!」

 

ちょうどその時、信号が青に変わり。横断歩道を渡る。

 

「お昼はどこで食べようか?」

 

「ここは隊舎の食堂でいいだろう」

 

「ええ、その方がシェルティスが来た時にも見つけやすいわ」

 

「早く行こう!お腹空いた!」

 

「少しは落ち着け、それだからフェイトの妹に見えるんだ」

 

雑談しながら横断歩道を半分渡った時に、何か異変を感じた。

 

「「!」」

 

「レン君、アリシアちゃん?」

 

「何止まっているのよ」

 

「早くしないと信号が変わるぞ」

 

「アリシア」

 

「うん。この感じ、グリードだ」

 

アリシアの言葉に3人は驚く。

 

「これは………移動している。コッチに近づいている!」

 

「物凄いスピードだ」

 

「あ、見えてきたよ!」

 

なのはが指す方向に、中型の四つ脚獣型のグリードが走って来た。

 

「直ぐに道路から出ろ!」

 

一喝し、道路にいる人を走らせる。

 

「早くこちらへ!」

 

「慌てないでください!」

 

「!、レンヤ!子どもが取り残されているわ!」

 

道路を見ると、黒髪のメガネの女の子が尻もちをついて動けなかった。

 

もうグリードは目の前まで来ていた。

 

「間に合え!」

 

《モーメントステップ》

 

「きゃっ⁉︎」

 

一瞬で少女の元まで行き、抱えてからまたモーメントステップで反対側に行く。

 

ブオオオオンッ!

 

グリードはそのまま大きな音を響かせながら通り過ぎて行った。

 

「ふう、大丈夫……か?」

 

「きゅうう………」

 

少女を見てみると目を回していた。

 

「しまったな。あの加速について来れる訳ないか」

 

「レンヤ!大丈夫⁉︎」

 

俺は少女を木に寄りかかせて、皆の方を向く。

 

「特別実習の延長だ、気合いを入れて行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「了解!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

俺達はすぐに隊舎に向かい、ゲンヤさんのいる部屋まで向かう。

 

バンッ!

 

「失礼します!」

 

ノックもせず勢い良くドアを開ける。

 

「なんだ騒がしいな………と言いたいが大体理解している。現在グリードはここエルセア一帯を疾走している。今部隊を対処に向かわせたが、どうやらAMFを纏っているらしくてな。結界やバインドといったものが効かない。今は追い込みをして疾走範囲を狭めているが、いつ突破されるかわからない状況だ」

 

「なら俺達が行きます!特別実習の範囲内です!」

 

「もちろんそのつもりだが、対策はあるのか?」

 

「それは………」

 

AMFがあると対処に時間がかかる、どうしたら。

 

「なら、私の結界で止めるよ」

 

「アリシアちゃん、できるの⁉︎」

 

「さっきも言ったけど、結界を突破されるのよ」

 

「大丈夫、私の新しい結界は私だけの私しかできない結界だから!」

 

「………任せていいか?」

 

「もちろん!任せておいて!」

 

「よし、やるか!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本局に連絡を取り飛行制限を解除してもらい、作戦行動に移る。

 

「現在、識別名オンソクは主要大道路を回っている。オンソクをアリシアがいる西の地点まで誘導し、張られた結界内でオンソクを撃破する」

 

「まず、誘導に高機動で動けるのが必要だな」

 

「それなら私となのはが行くわ」

 

「え、アリサちゃん飛べたの?」

 

「私がいつまでも飛べないと思っていた?」

 

「いひゃい、いひゃい!」

 

アリサがなのはのホッペを引っ張る。

「それにしても、結局シェルティスは来なかったね」

 

「いない者をねだっても仕方がない、俺達だけで行くぞ」

 

「分かったよ」

 

「よし!レルム魔導学院、三科生VII組・A班。これよりエルセア一帯を疾走中のグリードを討伐する。全員、心して挑んでくれ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

すぐに行動に移り、アリシアは結界の準備。なのはとアリサで誘導。俺とリヴァンは緊急時の為にアリシアと一緒に待機する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのは、準備はいいわね?」

 

「もちろん!」

 

私達は今、オンソクの進行方向の先にいる。

 

「正面を封じるバリケードを解放、このまま荒野に誘い込むわよ」

 

アリサちゃんは両足に羽を出して飛び上がる。

 

「本当に飛べたんだぁ……でも飛行魔法じゃないね」

 

「私は重力魔法で飛んでいるのよ」

 

「それなら、もっとふわふわ浮くんじゃないの?」

 

「私の重力魔法は重力をプラス、反重力をマイナスに置き換えてリニアモーターの原理で飛ぶのよ。それなりに練習も必要だけど、なのはには負けるつもりはないわよ?」

 

「むう、言ってくれるの。私の方がずっと空を飛び続けているんだから」

 

私とアリサちゃんは火花を散らせる。

 

『2人共、意地を張り合うのは後にしろ、そろそろ来るぞ。オンソクはその名の通り現在速度はマッハ1。それと強力な電磁場を体の周囲に形成し、電離した水や空気分子で作ったエアロシェルで体を包みこんでいるから空気抵抗を受けずにいる。離されて逃げられたら後は無いぞ』

 

「了解よ」

 

「任せておいて!」

 

アリサちゃんはフレイムアイズのカートリッジのマガジンを外し、別のマガジンを入れた。

 

《ギアーズシステム、コンプリート》

 

「ファーストギア………ファイア!」

 

《ドライブ》

 

キイイイィィィィ!

 

フレイムアイズのギアが回り出して、アリサちゃんの魔力が上がる。

 

私達はスタートの構えを取り、魔力を飛行魔法に集中して……

 

《カウント。5……4……3……2……》

 

「レディーー」

 

《ロードカートリッジ》

 

ガチャンッ!

 

《1……0》

 

「「ゴーー!」」

 

ドオオオンッ!

 

1キロの地点でカートリッジをロード、スタートダッシュすることでオンソクと並走する。

 

「常に並走するのよ!」

 

「分かっているよ!アリサちゃんこそ遅れないでね!」

 

「ハン、誰に言っているのよ。私はバニングスよ!」

 

意地を張り合いながらも飛び続ける。オンソクをよく見るとチーターに似ていて、顔、足、脇腹、尻尾の一部分に黒地に黄色い線が走っている。

 

《目標地点まで残り5キロ》

 

《速度維持を行います。セカンドギア………ドライブ》

 

ギャッリイイイィィィ!

 

『こちらアリサ!レンヤ、聞こえる⁉︎』

 

『聞こえている。そのままその状態を維持してくれ、アリシアの準備も整っている』

 

『あと数分でコンタクトするよ、気をつけて!』

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人からの念話を切り、アリシアとリヴァンの方を向く。

 

「そろそろ来るぞ、リヴァン、準備はいいな?」

 

「もちろん!」

 

「……………………」

 

アリシアは集中しているのか、返事は無い。

 

ディスプレイに表示されているオンソクはどんどん近づいている。

 

「コンタクトまで1分を切ったぞ!」

 

「アリシア!」

 

「ーー私はいつも夢見ていた

一緒にいることを、ずっと夢見ていた。

けれど私はすでに浮世の幻想

1人孤独を彷徨っていた」

 

アリシアが詠唱を開始した。普通の結界ではないと言っていたが……

 

「憧れていた光景は2つ

せせらぎ響く暖かい世界、虚空に座する静寂の世界。

今は崩れた儚き庭園……」

 

とても辛そうに、けれど嬉しい気持ちあるように言葉を紡ぐ。

 

「結界展開内に入るぞ!」

 

『アリシアちゃん!』

 

「現れよ、表れよ、顕れよ!

今宵は静寂ーー」

 

アリシアの魔力が膨れ上がり、結界が発動する。

 

「クロノス・エデン!」

 

アリシアを起点に結界が発動した。すぐさま広がり、視界が遮られて目を閉じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ………」

 

「何だ?普通の結界じゃないと聞いたけど………何が」

 

状況を確認する為、目を開けると………

 

「!、これは!」

 

「何じゃこりゃ……」

 

そこはまるで別の場所だった。どこかの次元空間に浮いている島の様な場所に、その建物の中俺はいた。

 

「レンヤ!リヴァン!」

 

「大丈夫⁉︎」

 

「なのは、アリサ!」

 

「無事だったのか。オンソクは?」

 

「あそこだよ」

 

なのはが指差す方向にオンソクはいた。バインドで動きを封じられていて、巨大な2体の鎧の騎士が押さえ込んでいた。

 

「あれは…一帯……」

 

「傀儡兵⁉︎それにここは……!」

 

「なのは?知っているのか?」

 

「うん……」

 

「それよりもアリシアはどこよ?」

 

辺りを見回すと、奥の玉座に誰かいた。

 

「アリシア!」

 

「よかった、無事みたいだね」

 

「心配させやがって」

 

俺達はアリシアの元に向かう。

 

「アリシア、この結界は……」

 

「ーーここは私が魂の時に彷徨い、心に刻まれた私の心象。私が始まった場所、私が終わった場所………そして、ここにあるのは私の罪、私の罰。ここはその表れだよ」

 

アリシアは玉座に座ったまま語る。

 

「アリシアちゃん!ここってまさか……!」

 

「ご想像通りだよ、なのは。個と世界、空想と現実、内と外を入れ替え………現実世界を心の在り方で塗りつぶす」

 

玉座から立ち上がり、オンソクを見つめる。

 

「結界魔法の最奥………固有結界。私だけの魔法、君は最初の入園者だ。そして、ここの名前は……」

 

アリシアとは思えない真剣な顔で、高らかに言い放つ。

 

「ーー時の庭園だ!」

 

手を振り払うと、傀儡兵はオンソクを外に投げた。

 

「アリシア!」

 

「皆!戦うよ!」

 

「ああ!」

 

「う、うん!」

 

「後でたっぷり説明してもらうわよ!」

 

アリシアの表情が元の明るい顔に戻った。その時……

 

『ーー僕のことを忘れていないかい?』

 

シェルティスから念話が入った。

 

「!、シェルティス⁉︎」

 

「今どこにいるの!」

 

『そっちに向かっている途中だ、転送してもらえないか?』

 

「了解!」

 

アリシアは転移魔法を発動して、シェルティスが乗っていたと思われる車ごと転移させた。

 

「アリシア、結界維持するのに魔力が足りるの⁉︎」

 

「ああ、大丈夫だよ。結界は地脈の魔力で維持しているから全然問題無いよ。まあ、地脈探すのに時間がかかっちゃったけど。私だけの魔力だけだったらもっと早く発動出来たんだよ?」

 

「そっか。でもビックリだよ、またここを見ることが出来るなんて……」

 

「それで、何で遅れたんだ?」

 

車から出て来たシェルティスにリヴァンが理由を聞く。

 

それと運転して来たのはどうやらギンガだった様だ。この景色に呆然としている。

 

「ちょっと家庭的な事情でね、あんまり喋る事は出来ない」

 

「なら、仕方ないかなぁ?」

 

「後、これも受け取っていたんだ」

 

シェルティスは首から下げた、青い水晶を見せた。

 

「お、インテリジェントデバイスか?」

 

「うん、名前はイリス」

 

《よろしくお願いしま〜す!》

 

AIとは思えないほど、明るい声だ。中に人が入っていると思う程だ。

 

「………随分と人間くさいな」

 

「………僕もそう思う」

 

《酷い!イリスちゃんの心はブロークンハートです!》

 

「はいはい。イリス、セットアップ」

 

《ぶーぶー》

 

ブーたれながらも、イリスはバリアジャケットを展開する。

 

シェルティスのバリアジャケットは白いワイシャツに黒のジャケット、紺のジーンズ、肘の手前まで隠す手袋と赤いネクタイをしている。

 

武器は今まで通りの持ち手が順手、逆手の双剣だ。

 

「これでVII組・A班全員集合だ」

 

「ギンガちゃんは下がっていてね?」

 

「は、はい!」

 

ギンガは車を降りて、建物の陰に隠れる。

 

俺達は建物から飛び出て、庭園の端にいたオンソクの前に立つ。

 

「ぶっつけ本番だ、遅れるなよ?」

 

「誰に言っている!」

 

「ふふ、皆!頑張ろうね!」

 

「ネコ科は専門外だけど、躾けてあげるわ!」

 

「私の世界に抗って見せてよ!」

 

「特別実習の総仕上げだ………魔導学院VII組A班、全力で目標を撃破する!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

オオオオンンンンッ!

 

オンソクの雄叫びと同時に、リヴァンとシェルティスは飛び出した。

 

「剣晶三十一・星清剣!」

 

「繰弦曲・針化粧!」

 

シェルティスが集めた結晶を放ち、リヴァンが幾つもの鋼糸を飛ばす。

 

それをオンソクは避けて、そのまま走り出した。

 

「待て!」

 

「問題ないよ!」

 

アリシアがオンソクに手をかざすと途端に速度が落ちた。

 

「ここは私の世界だよ、普通の結界じゃないの。時の庭園・夜……私が敵と認識した者は呪縛を受け、魔力を吸い取る!」

 

オンソクに黒いオーラが纏わりつき、動きが鈍くなる。

 

「行くわよ!」

 

《サードギア………ドライブ》

 

「はああああっ!」

 

アリサがオンソクを後ろから接近して、横を通る間に何度も斬り付ける。

 

「ふっ!」

 

止まった隙に、リヴァンが鋼糸で足を縛り付ける。

 

「月輪!」

 

「水晶刃!」

 

俺が右から無納刀で居合いで斬り付け、シェルティスが左から魔力を込めた剣で斬る。

 

すると、AMFを発動したのか。呪縛と鋼糸を振り払い、走り出した。

 

「追うわよ!」

 

「待ちなさい!アクセルシューター!」

 

なのはが魔力弾を撃ち、速度を落とそうとするもAMFに阻まれる。

 

《スターダストフォール》

 

「ファイア!」

 

レイジングハートが浮かせていた石を発射するも、今度はエアロシェルに阻まれる。

 

「おおう⁉︎」

 

「このまま追いかけっこはまずいぞ!」

 

「ならこうすれば!」

 

アリシアがオンソクの前に壁を作り、進行方向を変えさせる。

 

「このまま時の庭園を疾走させる気⁉︎」

 

「結界の境界から分断されているとは言え、AMF張られた状態で暴れられたらたまったもんじゃない!」

 

「先回りするぞ!現実オンソクは12時方面にいる。俺とアリサとなのはで3時方面に、アリシア、リヴァン、シェルティスは6時方面まで先回り!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

すぐさま移動して、オンソクを待ち構える。

 

目標地点に到着したらすぐにオンソクが迫って来た。

 

「止めるわよ!」

 

「うん!」

 

「ああ!」

 

《キャノンフィルム》

 

《エクセリオンモード》

 

《スプリットモード》

 

それぞれ最適な機能に切り替え。フレイムアイズは刀身が割れ、銃身が出てくる。

 

「うおおおおおっ!」

 

アリサは銃身に魔力を集め始めた。

 

《フルチャージ》

 

「アトミックブレイザー!」

 

放たれたのは極太の灼熱の砲撃。射程距離は短いもののかなりの威力だ。

 

それでもオンソクは砲撃を物ともせず、走り続る。

 

「止めるなら壁を!」

 

《プロテクションEX》

 

なのはが障壁を展開した瞬間、オンソクと衝突した。

 

「くっ!うううっ……」

 

衝撃とAMFによる結合不良でだんだんと押されていく。

 

「もう十分よ!」

 

「きゃっ!」

 

障壁が破られた瞬間、アリサがなのはを抱えて飛んだ。

 

そして速度が落ちた瞬間を狙い、刀を構えて一気に接近する。

 

瞬迅雷(しゅんじんらい)!」

 

ズバンッ!

 

一瞬の交差で移動と同時に刀を振るい、頭上に切り込みを入れた。

 

オンソクはそのまま走り去って行く。

 

「行くぞ!」

 

「なのは、早く行くわよ!」

 

「はあ、はあ、待ってよ〜」

 

息つく暇も無く、オンソクを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、リヴァン、シェルティスの3人は目標地点で待機をしているとレンヤから念話が入って来た。

 

「うん………了解。後はコッチで任せて」

 

『頼んだぞ』

 

「突破されたのか?」

 

「そうみたい」

 

念話を切り、2人に内容を伝える。

 

「ココでキッチリ止めるよ!」

 

「言われなくても!」

 

リヴァンは張り巡らせた鋼糸に魔力を込める。

 

「狙うはレンヤが付けた切れ込み、行くよ!」

 

《デュアルマリオネット》

 

私が3人になり、それぞれ別々の魔法を発動する。

 

「サウザンドブリッツ!」

 

「チャリオットキャノン!」

 

「ボムフィーバー!」

 

オンソクに向かって大量の魔力弾、巨大な魔力弾、炸裂する魔力弾を放つ。AMFで効かないけど、衝撃で怯ませて速度を落とさせる。

 

「そこっ!」

 

フラついたオンソクが鋼糸に突っ込んだ。不安定になったAMFでは鋼糸を消せず、足を絡められ勢いよく倒れた。

 

「シェルティス!」

 

「任せろ!」

 

シェルティスが鋼糸を凄い速さで綱渡りして、オンソクの頭上に飛び上がり……

 

「おおおおおおっ!」

 

レンヤが付けた切れ込みに双剣を突き刺した。

 

「やったか⁉︎」

 

「………まだよ!」

 

オンソクはまだ倒れず、それどころか頭に来たようで黄色い線が赤くなる。オンソクは暴れてシェルティスを振り落とそうとする。

 

「うおおっ、うわあああっ!」

 

「シェルティス!」

 

その時残りの3人が到着した。

 

「遅いよ皆!」

 

「悪い悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シェルティス!そのまま耐えてろよ!」

 

「そんなにっ!持たないっ!」

 

頑張っていると思うが、長くは続かないだろう。

 

「アリシア、俺が合図したらシェルティスを転移してくれないか?」

 

「無茶だよ!あんなに動いていたら座標が定まらないし、AMFだってあるんだよ!」

 

「なのは、あんまりアリシアを舐めない方がいいわよ」

 

「そう言うことだ!」

 

接近して、AMFが発生している部位を探す。

 

「発生している場所は………」

 

《特定完了、尻尾です》

 

レゾナンスアークが場所を特定して、尻尾に狙いを付ける。

 

螺穿(らせん)!」

 

一呼吸でオンソクに接近し、尻尾に円回転を加えた突きを放つ。

 

オオオオンッ!

 

「うわっ!」

 

AMFは消えたが、その衝撃でオンソクに刺さっていた剣が抜けシェルティスが宙に舞う。

 

「今だ!」

 

「そこ!」

 

アリシアがシェルティスを転移させた…………上空に。

 

「何でええええ⁉︎」

 

「リヴァン!」

 

「おうよ!」

 

リヴァンは地面を叩き、鋼糸をオンソクの周りから出して取り囲む。

 

「シェルティス!」

 

「事前に言って欲しかったよ!」

 

シェルティスまで届いた鋼糸を蹴り、体勢を整えながら結晶を集める。

 

「やあっ!」

 

《チェーンバインド》

 

なのはが動きを止める為にバインドをかける。

 

「行くよ、アリサ!」

 

「ええ!」

 

「「ワールドプレス!」」

 

アリシアとアリサが左右から接近して、上下からの重力魔法でオンソクを抑えつける。

 

「決めろ、シェルティス!」

 

「ああ!」

 

集めた結晶を剣に纏わせて、落下の勢いと合わせて振り下ろす。

 

「剣晶七十八・輝石双牙(きせきそうが)!」

 

結晶と双剣を突き立て、結晶がオンソクを貫通する。

 

オオオン………

 

オンソクは断末魔を上げて消えていった。かなり走らされて、全員肩で息をしていた。

 

「はあっ、はあっ……」

 

「……何とか倒せたか……」

 

「ふー……かなり手強かったわね」

 

「さ、さすがに疲れた……」

 

「こんなことで………立ち止まってたまるか……」

 

「ふう、ふう………疲れた〜〜」

 

しかし、疲れてはいるが初めての連携による勝利に思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「……はは……」

 

「あははっ……」

 

「全く……笑い事じゃないだろ」

 

「そう言う君こそ何をニヤついているのかな……?」

 

「お、お前だって……!」

 

「やれやれだわ」

 

「あはは!そうだね♪」

 

息を整えて、一旦集まる。

 

「実習の仕上げとしては上々だな……」

 

「うん!皆の息も合っていたし!」

 

「やれば出来るものね」

 

「皆さん!」

 

互いに賞賛し合っていると、ギンガが近寄ってきた。

 

「ギンガ、無事だったか」

 

「済まないな、こんな場所に連れて来てもらって」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

「ありがとうね、ギンガちゃん」

 

「それじゃあ、結界を解除するね」

 

アリシアが結界を解除し、元の荒野に戻った。

 

「う、眩しい……」

 

「暗い場所からいきなりここは少しキツイわね」

 

周りは遮る物も無く、太陽の光で目をすぼめる。

 

「夕焼けか………もう日が落ちそうだ」

 

「皆さん車に乗ってください、送って行きます!」

 

「なら、お言葉に甘えるとしようか」

 

「日が沈む前に着けばいいんだけどね」

 

「飛ばして行きましょうか?」

 

「安全運転でお願いする」

 

車に乗りこみ、都市に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊舎に着いた頃には日も沈んでしまった、俺達は疲れた体に鞭を打ちながらゲンヤさんの元に向かった。

 

「失礼します」

 

「おお、帰って来たか」

 

「どうやらお疲れのようだな」

 

部屋にはゲンヤさんとグランダム少将とイシュタルさんがいた。

 

「父さん、何でここに?」

 

「町の被害もそれなりにあったのでな、近くにいた私が赴いたのだ」

 

「そうそう。グランダムさんはお父さんとしても理事としても心配だったのだよ」

 

「あはは……」

 

「ご配慮、感謝します」

 

「いいお父さんじゃない、シェルティス君」

 

「ふう、出来れば隠して欲しかったよーー」

 

そこでイシュタルさんが言った言葉に気がつき、グランダム少将を見る。

 

「え」

 

「今、理事って言ったよね?」

 

「ああ、そう言えば言ってなかったな」

 

ゲンヤさんがそう呟くと、グランダム少将は一歩前に出る。

 

「改めてーー魔導学院の常任理事を務めるグランダム・フィルスだ。今後ともよろしくお願いしする」

 

「じょ、常任理事……」

 

「そ、そんな話、初耳だよ⁉︎」

 

「フフ、お前の驚く顔が見たくて黙っていたのだ。ああ、ちなみに常任理事は私一人ではない。あくまで3人いるうちの一人というだけだ」

 

「…………………」

 

あまりの驚きで呆然とするシェルティス。グランダム少将の目論みは成功したわけだ。

 

「フフ、もう夜も遅い。魔導学院に戻るのは明日にして今日はもう休むといい。学院には私が話しておく」

 

「ありがとうございます」

 

「正直もうクタクタです」

 

《シェルティス、ちゃんと水分補給して体を洗ってから休んで下さいね。それとこれが一番重要です!先の戦闘で私の表面(お肌)がザラザラです、清潔な布で優しく拭いて下さい!》

 

「ふわあ〜〜、最後のはともかく早く行こう」

 

イリスの要求を流してシェルティスは部屋から出て行った。廊下からイリスの嘆きが聞こえたが……

 

「随分と人間くさいAIにしたのですね?」

 

「その方がいいと思ったからだ。シェルティスにしても、私にしても」

 

「あはは………」

 

それからココで一晩、疲れ切った身体を休めてから。翌日、俺達はエルセアを後にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

車で駅前まで送ってもらい、挨拶を済ませてからレールウェイに乗り込んだ。

 

「ふわああっ……」

 

「……あふ……」

 

なのはとリヴァンがあくびをする。昨日の疲れがまだ残っているようだ。

 

「二人共、だらしないわよ」

 

「一晩ちゃんと寝たんだからもっとシャキっとしろ」

 

「無茶言うな……」

 

「まあまあ、さすがに今回は色々あったからね」

 

「まあ、そうだな。ちょっと見えた物もあるし………」

 

俺の言葉に皆が反応する。

 

「見えた物?」

 

「何それ」

 

「気付かなかった?オンソクを捕らえる為のバリケードを張った時、本局と地上が揉めあっていた」

 

皆納得するように頷く。

 

「あー、また手柄の取り合いね」

 

「そう言えば、確かに」

 

「これは、今後の課題になりそうだな」

 

「問題はまだ山積みだね」

 

怪異だけでも手一杯なのに、そこにまた別の物が入るのはキツイ。人間の悪意は時にグリードよりも恐ろしい物だ。

 

《そんなに暗くならないで下さい!》

 

「イリス」

 

《皆さんはまだ学ぶ立場です。まだ面倒な目に合うと思いますが、皆さんと言う仲間がいればきっと乗り越えられると思います!》

 

「イリスちゃん……」

 

イリスは良いことを言った……そんな風に見えるが………

 

「「「「「「はははっ……」」」」」」

 

全員が笑ったことに驚き、イリスは赤く点滅する。

 

「……くっ……ちょっと面白い……」

 

「やれやれ。何を言い出すかと思ったら」

 

《ちょ、ちょっと……何でそこで爆笑するんですか⁉︎》

 

「ご、ごめん……言っていることはすごく良かったんだけど……」

 

「昨日からのギャップが違い過ぎてね……」

 

「……ちょっとクサイね」

 

「少ししか会っていないけど、似合っていないのは分かるわよ」

 

だけど、今まで暗い雰囲気が明るく変わった。

 

「皆さんと言う仲間がいれば………きっと乗り越えられると思いますならか」

 

「ちょっ……やめろ!悶え苦しませる気か⁉︎」

 

《ああもう!せっかく良いこと言ったのに!皆さんって結構酷いんですね!》

 

皆が笑顔になる中、レールウェイはルキュウに向かい。今回の波乱の特別実習は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達が乗っているレールウェイを、線路脇の丘で見ている者がいた。

 

「帰ったか。まあ面白かったし、ちょっとしたショーだったかさ〜」

 

「ーー不謹慎ですよ、団長」

 

男性の後ろから女性が現れ、注意する。

 

「細かいことは言いっこなしさ〜。それで、ヤツらの足取りは掴めたのか?」

 

「白衣の装束によると………早くて来年には現れるとのことだよ」

 

「やれやれ早いさ〜。まあ報酬分はキッチリ働かせてもらうとしますか」

 

男性は去って行ったレールウェイの方向を見つめる。

 

「良い加減、戻って来て欲しいさ〜。弦殺師(あやとりし)………リヴァン・サーヴォレイド」

 

 


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