魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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64話

 

 

3日後の水曜日、4月21日ーー

 

まだ桜似の花が散る間際の季節、俺達VII組のメンバーはドームにいた。

 

「それじゃあ予告通り、実技テストを始めるぞ」

 

かねてよりテオ教官から告げられていた実技テストを実施する為である。

 

「前もって言っておくけど、このテストは単純な戦闘力を測るものじゃない。状況に応じた適切な行動を取れるかを見る為のものだ。その意味で、何の工夫もしなかったら短時間で相手を倒せたとしても、評点は辛くなるだろう」

 

真面目な口調でテオ教官が実技テストの目的を語った。

 

「面白い」

 

「単純な力押しじゃ評価に結びつかないわけね」

 

出された条件に、シェルティスは面白がり、アリサは納得する。

 

「それではこれより、4月の実技テストを開始する。レンヤ、ツァリ、ユエ。まずは前に出ろ」

 

「はい……!」

 

「いきなりかぁ」

 

「承知した」

 

俺達はデバイスを起動して、準備を整える。

 

「よし、お前らの相手はこいつだ」

 

指を鳴らし、青紫色のベルカ式の魔法陣が展開され機械の人形を召喚した。

 

見たことない物で、俺達は驚く。

 

「これは……」

 

「機械兵器⁉︎」

 

「何と……」

 

「そいつは作り物の動くカカシみたいなもんだ。そこそこ強めに設定してあるけど、決して勝てない相手じゃない」

 

武器を構えて、機械兵器を見据え……

 

「ーー始め!」

 

実技テストが開始された。

 

機械兵器は突撃して来て、ユエが側面を蹴り後ろに流した。

 

「やあ!」

 

ツァリが端子を鋭く尖らせて、機械兵器に勢いよくぶつける。

 

「はあああっ!」

 

飛び上がり上段に構えて機械兵器に振り下ろし縦に斬り込みを入れて、斬り返し薙ぎ払い吹き飛ばす。

 

『ユエ!』

 

「承知!」

 

一瞬の隙を狙い、ツァリがユエに指示を出す。

 

機械兵器に周りに端子が飛び回り、端子間でバインドが発生して機械兵器を縛り付ける。

 

「剛力徹破・突!」

 

拳を強く握り、機械兵器の鋼の体に深く突き抜けさせ、剄を爆発させたた。

 

機械兵器はその攻撃で一瞬で消えた。相変わらずエコな兵器。

 

「……よし」

 

「きっ緊張したぁ……」

 

「ふう」

 

武器をしまい、息を整える。

 

「中々悪くないな、思ったよりコンビネーションもいいらしいし……ちょっとにし楽すぎたな」

 

「あはは、そうかもしれません」

 

テオ教官が拍手で褒め称え、俺達の評価を改めたようだ。

 

「さて、時間は有限だ。なのは、アリシア、シェルティス、前に出ろ!」

 

それから全員、あの機械兵器と戦い……それぞれ連携も取れておりいい評価を得られたと思う。

 

「上手くいったね!」

 

「うん、武術訓練の成果が出たね」

 

「やれやれだ」

 

皆も結構いい感じだったようだ。

 

「それにしてもテオ教官、さっきの機械兵器は何だったんですか?」

 

「そういえば……」

 

「ガジェットとはまるで別物だったね」

 

オリエンテーリングのドローンもそうだが、あの機械兵器も跡形も無く消える現象を起こした。まるでグリードのように。

 

「あれはとある筋から押し付けられたもんでな。色々と設定ができて便利だから有効活用してるんだ。ま、ちゃんと稼働したし結果オーライってことで」

 

できればとある筋について聞きたいが、喋るつもりはないだろう。

 

「実技テストはここまでだ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項がある。お前達VII組ならではの特別なカリキュラムに関するな」

 

と、その言葉を聞いた瞬間、場の空気が一気に引き締まった。全員が黙ってテオ教官の言葉に耳を傾ける。

 

「さすがに皆気になっていたようだな。それじゃあ説明する」

 

「お前達に課せられた特別なカリキュラム……それはズバリ、特別実習!」

 

随分もったいぶって告げられた割にはいまいちピンと来ず、俺達は頭上に疑問符を浮かび上がらせた。しかし、予想済みの反応だったらしく、テオ教官は構わず説明を続けた。

 

「と、特別実習……ですか?」

 

「何ですか、それ?」

 

「お前達にはA班、B班に分かれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらう事になる。まさに、特別(スペシャル)な実習ってわけだ」

 

「学院に入ったばっかりなのにいきなり他の場所に……?」

 

俺は少し、テオ教官の言った事に疑問に思い……

 

「その口ぶりだと、教官が付いて来るわけでもないそうですね?」

 

「もちろん、本職に任せるさ」

 

「VII組の目的は異界に対する部隊の育成の為が目的だから……」

 

「私達に丸投げ⁉︎」

 

「ま、もちろんフォローは入れる。さ、1部ずつ受け取れ」

 

そう言ってテオ教官は、全員に一枚の紙を配った。それには班分けされたⅦ組メンバーの名前と、VII組メンバーが赴く手筈となっている実習先が記されていた。

 

 

【4月特別実習】

 

A班:レンヤ、すずか、はやて、ツァリ、フェイト、ユエ

(実習地:ミッドチルダ北部・セニア地方)

 

B班:アリサ、アリシア、リヴァン、シェルティス、なのは

(実習地:ミッドチルダ南部・アルトセイム地方)

 

 

確か、どちらからも異界対策課に依頼が来ていたな。管理局と協力しているらしいが、何故俺に話を通さない………100パーセントあの黒まんじゅうだな、あとゲンヤさん。

 

「面白い組み合わせだね」

 

「異界対策課は半分に分けられたみたい」

 

「セニアとアルトセイム……どちらもミッドチルダの地方なのか?」

 

「うん、記述通りの場所にあるよ」

 

「アルトセイムはフェイトちゃんとアリシアちゃんの出身地だよね」

 

「私はよく覚えていないけど……」

 

「緑豊かでいい場所だよ」

 

「セニアは結構廃棄区画が多いが、それを抜けばいい場所だ」

 

しかし問題は班分けにあった。

 

「ば、場所はともかくB班の組み合わせは……⁉︎」

 

「……………………」

 

言うまでもなく、リヴァンとシェルティスの二人である。ただでさえ仲の悪い彼らを同じ班にするとは、テオ教官もだいぶ性質が悪い。

 

「日時は今週末。実習期間は二日間くらいになる。A班、B班共にレールウェイを使っての移動になる。各自、それまでに準備を整えて英気を養っておけよ」

 

その言葉を最後に実技テストは終了、同時に昼休みの終わりを告げる鐘楼が鳴った。午後の授業の準備の為に他の者達が教室に戻っていく中、俺は独り空を仰ぐ。

 

(なんか、ただで終わりそうにない気がしてきた)

 

単にB班の顔ぶれを見てそう思ったのか、それとも異界対策課としての勘がこの特別実習自体を警戒しているのか……

 

どちらにせよ何かが起こるだろうと、胸中の不安を拭う事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月24日、特別実習当日の早朝ーー

 

「レンヤ、ヘルプ」

 

レンヤ、すずか、はやて、ツァリ、フェイト、ユエの組み合わせとなったA班は、第三学生寮の玄関前で集合してから各々の体調などを確認し、そのままルキュウ駅のホームへと向かった。その際に、先に到着していたB班に振り分けられていたアリシアがそんなことを言ってきた。

 

その視線の先にいるのは、本日も仲の悪さをこれでもかと見せつけている二人組。わざわざ互いが確認できる距離に立って不機嫌な顔で背中を見せているところを見ていると、毎回俺の中で、ホントは気が合う、という疑問が浮かんで来てしまう。

 

しかし、これからこの二人という名の一触即発の時限爆弾を抱えて実習地に向かわなくてはならない面々にとっては死活問題らしく、アリシアは元より、アリサとなのはもどことなく元気がないように思えた。これでは、アリシアの懇願も、ある意味仕方のない事だと思えてしまいそうになった。

 

だが、これは学院長も公認してしまった正式な課外授業である。今更その内容を変更する事などできないだろうし、よしんば班の振り分けが決まったあの場で抗議をしたところで、テオ教官に上手い事躱されていたのは目に見えている。確かに不幸だとは思い、同情の念も湧いてくるが、だからといって目の前の嫌な事から目を背け続けたままではきっと成長など望めないだろう。

 

俺はアリシアの肩に手を置き……

 

「ファイト」

 

「この薄情者め〜〜!」

 

怒るアリシアを抑えて、アリサの方を向く。

 

「そっちはもう出発か?」

 

「ええ、そんなに離れていないとはいえ早めに着きたいから」

 

「僕達もそれぐらいに着きたいからね。それはともかく……」

 

ツァリの視線が3人の後ろに向かれる。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

もはやそこに突っ立っているだけのただの彫像なのではないかと思ってしまうほどに微動だにしないリヴァンとシェルティスの両名。

 

『ずっとあの調子なのか?』

 

『まあ、そうね』

 

『思った以上に溝が深くて……』

 

『どうにかして、本当に』

 

『結構難しい問題やなぁ』

 

『うっうーん……』

 

念話で会話していると始発列車到着予定のアナウンスが流れると共に2人はようやく動き始める。

 

「…………………」

 

「時間だ、行くぞ」

 

それでも頑なに、顔を合わせようとはしなかったが。

 

「……大変そうだけどそちらも頑張ってくれ」

 

「あの2人の間を取り持つのは大変そうだけど……」

 

「うん、やれるだけやってみるよ」

 

「武運を祈る、気をつけるといい」

 

「初めての特別実習……お互いに頑張ろうね」

 

「フェイトも気をつけてね」

 

「また元気に姿で会いましょう」

 

「そうやな」

 

その後、いくらか気分が晴れた様子のアリサ、アリシア、なのはも二人の後を追ってホームへと向かっていった。本当なら一緒に行った方がいいが、もうレールウェイは行ってしまった。

 

「よし、それじゃあ俺達も行くか」

 

「うん、心配だけどね……」

 

「アリサちゃんがいるから、滅多な事にはならないと思うよ」

 

「そうだね、私達は自分達の事をちゃんとやろう」

 

「そうや、はよう行こか」

 

「そうだな」

 

ゲートに端末を当ててホームに入り、次に到着したレールウェイでミッドチルダ・中央区画に向かった。

 

「それでセニア地方には何があるのだ?」

 

「セニア地方は中央区画とベルカ自治領の間にあるから、その間の交通が多い場所だ」

 

「もちろん少し外れると廃棄区画が多いけど……」

 

「主にあそこは海にほど近いから漁業が盛んな地方なんだよ」

 

「それに廃棄区画も魔導師試験や訓練なんかによく使われとるなぁ」

 

「うん、それにセニアの皆はどんな事があっても一致団結して完結する、強い団結力があるんだよ」

 

この中で1番セニアに詳しいのはやっぱりすずかか。

 

「それにしても、皆ももう分かってるんだろうが、この特別実習……随分と用意が良いと思わないか?」

 

「うむ、確かにそうだな。ルキュウ駅でも受付が既に私達の分の乗車券を用意していたようだな」

 

「それに実習先のセニアでも、着いたら宿に向かってそこで実習課題を貰う手筈になっているみたい」

 

特別と付いているからある程度予測はしていたが、それにしても随分と手が込んでいる。

 

とそこへ……

 

「ーーそれだけお前達に期待してるってことだ」

 

考え込んでいる俺達の耳に、聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。声のした方に目を向けると、そこにはテオ教官の姿があった。

 

「……教官?」

 

「今朝から見かけないと思っていたが、まさか列車に乗り込んでいるとは……」

 

「Ⅶ組A班、全員揃ってるみたいだな」

 

「その、どうして教官がここに? 俺達だけで実習地に向かうという話だったんじゃ?」

 

「んー、レンヤとすずかがいるから大丈夫だとは思うが、最初くらいは補足説明が必要かと思ってな。宿にチェックインするまでは付き合ってやるよ」

 

「そ、それは助かりますけど……」

 

そこまで言ってフェイトは口籠もった。確かに初めての特別実習で、ほぼ分かりきっているとはいえその説明をしてくれると言うのならそれほどありがたい話はない。

 

がしかし、俺達にはそれを素直に喜べない理由があった。

 

「……俺達よりB班の方に行っといた方が良いんじゃないですか?」

 

俺はテオ教官にそう言った。そう、一同が気にかけているのはB班……主にリヴァンとシェルティスの犬猿コンビのことである。そんな気まずい組み合わせに仕立て上げた張本人であるテオ教官はB班に同行し、彼らの仲裁に入って然るべきだと思うのだが……

 

「どう考えてもメンドクサさいじゃん。あの二人が険悪になり過ぎてどうしようもなくなったらフォローに行くつもりだ」

 

テオ教官はあっけらかんと、とても教官とは思えない発言をするのだった。

 

(ダメだこの人……)

 

(険悪になるって分かっててあの班分けにしたみたいやな……)

 

(完全に確信犯だ……)

 

俺、はやて、フェイトの三人は、大きく溜息を吐きながら愉快そうに笑う自分達の担任を冷やかな目で見るのだった。

 

「ま、俺のことは気にしないで話を続けてろ」

 

しかし、そんな彼らの視線をどこ吹く風と受け流し、テオ教官は「よっこいしょっと」とどこか年寄り臭い声をあげて隣のボックス席に腰を下ろす。

 

「テオ教官?」

 

「昨日から寝てなくてな、着いたら起こしてくれ」

 

それですぐに寝てしまった。

 

「はやっ!」

 

「なんだか本当に教官なのか疑っちゃうよ」

 

「同感だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央ターミナルで乗り換えでセニアに向かい、快速レールウェイで1時間……ザンクト・ヒルデ魔法学院前の駅に着く。

 

「ここも久しぶりだね」

 

「あの霧の魔女事件以来やな」

 

「そっか、4人はあの事件を解決した貢献者だったね」

 

「うん、あの時は皆に迷惑をかけちゃってね……」

 

「大丈夫フェイトちゃん、気にしないで」

 

「誰でも過ちを犯す、気にすることはない」

 

落ち込んだフェイトをすずかとユエが励ます。

 

「お前ら、こっちだぞ」

 

テオ教官に呼ばれ、俺達はついて行った。

 

しばらく歩くと航空火災の時に泊まったホテルに着く。

 

「いらっしゃいませ、当ホテルのご利用誠にありがとうございます」

 

「オーナーさん、お久しぶりです!」

 

「これはすずか様、レルム魔導学院のご入学、遅れながらおめでとうございます」

 

「いえ、それに今回の実習でホテルの一室を貸していただきありがとうございます」

 

「いえいえ、すずか様はもちろんのこと異界対策課にはお世話になっておりますから」

 

「……………なんか、やっぱり凄いんだね。異界対策課」

 

異界対策課の一端を見て、ツァリが驚く。

 

「役職の性質上、こうなるさ。すずかはご覧の通りだし、アリサはヤクザと知り合いだし、アリシアは有力資産家と知り合いだし、俺はせいぜい局の救助隊と警備隊ぐらいと知り合いなだけだ。後レジアス中将」

 

「充分凄いんよ」

 

「あはは……」

 

それから部屋に案内されて、荷物を置いてからロビーに集合した。

 

「レンヤ様、これをどうぞ」

 

オーナーから渡されたのは、レルムのエンブレムが入った封筒だった。

 

「今回の実習内容が入っています、それでは実習の成功を祈っています」

 

「ありがとう、オーナーさん」

 

「感謝する」

 

封筒を開けて、内容を確認すると……

 

「えっと……ザンクト・ヒルデ魔法学院で異界の授業を行って欲しい、現存する異界の探索が必須で。後は第四陸士訓練校で教導だね」

 

フェイトが読み終えると、俺とすずかはため息を吐く。

 

「まんま異界対策課と同じことをやっているな」

 

「でも確かに異界と向き合うには必要不可欠なものだよ」

 

「授業でも習ったけど、異界は日常生活のすぐそこにあるんだね」

 

「だから、このような依頼が1番効率的なんやな」

 

「とりあえずザンクト・ヒルデに行こう、初めだし手分けしないで一ヶ所ずつ確実に終わらせていこう」

 

「了解した」

 

「あれ?そういえばテオ教官は?」

 

ツァリがテオ教官を探す、俺は視線をホテル内のバーに向ける。

 

そこには見たことある後ろ姿の男性がジョッキを持っていた。

 

「サッサと行こうか」

 

「…………うん」

 

「そうやな」

 

見なかった事にして、ホテルから出てザンクト・ヒルデ魔法学院に向かった。

 

「ここがザンクト・ヒルデ魔法学院かぁ」

 

「確か聖王教会系列のミッションスクール、だったな」

 

「ここが聖王なら、レルムは覇王だね」

 

「あんまりここには来たくないんだけどなぁ……」

 

「前は夜だったし、ちゃんと見るのは初めてだね」

 

「もしかしたらカリムやシャッハやロッサと会えるかもしれへんなぁ?」

 

受付で依頼の受諾を申請して、次に講義に出席することになった。

 

「それで誰が教師をやってくれるの?」

 

「ここはレンヤ君かすずかちゃんの出番やな」

 

「それならやっぱりすずかで……」

 

「ううん、ここはレンヤ君にお願いするよ。私は1人ならともかく大勢の前じゃ緊張しちゃうよ」

 

「意外だな、委員長はなんでもそつなくこなすと思ったが」

 

「あはは、アリサちゃんなら物怖じしないんだけどね。それでお願いできる?」

 

「まあ、そういうことなら」

 

そして次の講義の時間。扇型で奥に行く程高くなる大学風の教室で、どうやら学年はばらばららしいな。好奇心の視線が注ぐ中、俺は教卓の前に立つ。

 

「今回は実習の一環でこの時間の講義を行うことになった、レルム魔導学院、三科生VII組の神崎 蓮也だ。どうかよろしくお願いする」

 

無難な挨拶をして、様子を見てみる。

 

なんだか内緒話……特に女子が隣と話し会っている。男子は好奇心旺盛なキラキラした目で見て来る。

 

「コホン、講義の内容は異界に関するものだ。異界は日常生活のすぐ側にある、それを知った上で受けてもらいたい。それでは始める」

 

それから講義を始めた、どれも知っている内容だからスムーズに行えた。

 

「異界は5年前にここ、ザンクト・ヒルデ魔法学院で起こった霧の魔女事件以来ミッドチルダでその存在を認識された。しかしグリードやゲートを認識できるのには個人差があり魔力を持っていても見えない人や、魔力を持っていなくても見える人もいる」

 

その時、1人の女子が手を挙げた。

 

「何か質問か?」

 

「はい、霧の魔女事件以降大きな事件はないのですが……でも、異界に関する事件は起こっているのですよね?魔女事件は特別な事件だったんですか?」

 

「んーー、そこはまだ情報規制されているから教えられないけど。通常のグリードとは違う……と言っておこうか」

 

「あっありがとうございます」

 

「そうか、もっと気軽に質問をしてもいいぞ。それでは再開する」

 

全員真面目に受けていてとても嬉しいな、教師も悪くないかな。

 

それからどんどん来る質問に答え、あっという間に時間になってしまった。

 

「それでは講義を終わりにする。受けてもらってありがとうな」

 

拍手をもらいながら教室を出て、皆の元に行く。

 

「レンヤ、お疲れ様」

 

「ありがとうフェイト」

 

フェイトから水をもらい、喉を潤す。

 

「凄いねレンヤは、僕は緊張してガチガチになっちゃうよ」

 

「さすがレンヤ君や!」

 

「そうだね。さて、次は第四陸士訓練校だね。時間はまだあるけどどうする?」

 

「少し休んでからでも構わないぞ」

 

「大丈夫、すぐに行こうか」

 

校舎から出ると、もう下校時間なのか初等部、中等部の生徒がチラホラといた。年上なのと制服の違いで結構浮くな。

 

「あーー!神崎 蓮也さんだ!」

 

「噂は本当だったんだ!」

 

「見て見て!月村 すずかさんにフェイト・テスタロッサさん、八神 はやてさんもいる!」

 

「もしかしたら、ここに転校を……!」

 

声を抑えることもせず、特に女子達は騒いでいる。

 

「あはは、有名人だね」

 

「笑えないよ」

 

「とにかく学院を出よう」

 

遠目で見るだけで、誰も近づいては来なかったのが不幸中の幸いだ。

 

「陛下!」

 

「シャッハか」

 

その時、横からシャッハが近づいてきた。

 

「はやても、どうしてここに?」

 

「実習の一環でここに訪れたんや。もう次の実習場所に行くで」

 

「そうですか、お気をつけて陛下」

 

「陛下いうな」

 

そそくさと学院を出て、訓練校に向かう。

 

「あの人は?」

 

「聖王教会修道女のシャッハ・ヌエラ。あの性格をどうにかしたんだけどなぁ」

 

「あれがシャッハのいいところなんよ」

 

「かなりの手練れでもあったな」

 

「シャッハは騎士でもあるんだよ」

 

話しながらバスで第四陸士訓練校に向かった。

 

「ここは確かなのはとフェイトが短期プログラムで卒業した学校だよな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「その話しは後、まずは受付に行こう」

 

すずかに諌められて、受付で依頼人がグラウンドに入ることを聞きグラウンドに向かった。

 

そこでは訓練生と教官が一緒に走り込みをしていた。

 

「珍しいね、一緒に走り込みをするなんて」

 

「僕、呼んでくるね」

 

ツァリが教官を呼ぶために走って行った。

 

そこに……

 

「レンヤさん?」

 

呼ばれたので振り返ってみると、オレンジの髪をツインテールっぽくした少女がいた。

 

「もしかて、ティアナか?」

 

「はい、お久しぶりです!ここには何をしに来たんですか?」

 

「ここには教導の依頼があって来たんだ。それにしてもすっかり大きくなったな、ティアナは見学か?」

 

「はい!6月に入校する予定です」

 

「レンヤ、彼女は?」

 

ユエがティアナにことを聞いてきた。

 

「ああそうだな、俺は今レルム魔導学院にいて、彼はクラスメイトのユエ・タンドラ。ソーマの知り合いだ」

 

「ソーマ⁉︎ソーマを知っているのですか⁉︎今どこに……」

 

「落ち着いてティアナちゃん、ソーマ君も今年訓練校に入るみたいだからもしかしたら会えるかもしれないよ」

 

「そう、ですか」

 

落ち込みながらも少し嬉しそうな表情をするティアナ。

 

『ティアナとソーマは幼馴染なんだ』

 

『なるほど、心配するわけだ』

 

「お待たせ!」

 

その時、ツァリが教官を連れて戻ってきた。

 

「君達がレルム魔導学院VII組の者か?」

 

「はい、教導の依頼があって来ました。訓練内容はこちらで決めて構いませんか?」

 

「構わない、ただ最後に軽い模擬戦を入れてくれてもいいかな?」

 

「了解しました」

 

それから全員と教官で訓練生の教導を行い、後は模擬戦をやることになった。

 

「異界で必要なのは砲撃や魔力弾ではなく身体能力だ。これから近接戦闘の模擬戦を行う、相手は俺達だ。遠慮なく挑んできてくれ」

 

訓練生の全員もやる気になり、VII組A班全員で相手をした。

 

「これで教導を終わりにする、各自疲れを残さないよう水分補給をすること」

 

そう言うが全員肩で息をしていて返事をする気力がなかった。

 

「はあはあ、疲れたよ」

 

「お疲れや、ツァリ君」

 

「教導も楽しいね、なのはの気持ちが良くわかるよ」

 

「でも、ちょっとやり過ぎちゃったかな?」

 

「これぐらいが丁度いい………む」

 

ユエが何かに気づき、観客席方面をみると。誰かが近づいてきた。

 

「あれは……」

 

「おーい、ユエさーん!」

 

「ソーマか」

 

よく見てみると、ソーマの面影を残した少年がいた。

 

「お久しぶりです!ユエさん!レンヤさんとすずかさんもお久しぶりです!」

 

「ソーマ君!すっかり大きくなったね、見違えちゃったよ!」

 

「なるほど、ルーフェンで鍛えられたようだな」

 

「はい!レンヤさん、僕と今から模擬戦を……」

 

ソーマが俺と模擬戦を申し込もうとした時、後ろからティアナが来て……

 

「ソーマ‼︎」

 

「あ、ティア。久しぶり」

 

「久しぶりじゃないわよ!今まで連絡しないで、心配したんだからね!」

 

「それは、その……ごめん」

 

「フン!……………おかえりなさい」

 

そっぽを向きながらも、おかえりを言うティアナ。どうやらソーマを許してくれたようだ。

 

「さて、模擬戦だけど……いいですか?」

 

「構わんよ、もう教導は終わっている。好きにするといい私達は見学している、お前達もいいか?」

 

『はい!』

 

教官の問いに訓練生達は元気よく返事をする。

 

「ソーマ、入校前の贈り物だ。覚悟はいいか?」

 

「はい!その胸、お借りします!」

 

グラウンドでソーマと向き合い、デバイスを起動しバリアジャケットを纏い刀を構える。

 

ソーマも剣の柄だけのデバイスを取り出し……

 

「レストレーション!」

 

起動して、刀身に少し装飾がある白い剣を構える。

 

「双方、構え……」

 

ユエが手を挙げて……

 

「始め!」

 

振り下ろした。

 

「内力系活剄……旋剄!」

 

ソーマは剄で身体能力を強化して高速で接近して剣を振るう。

 

「ふっ!」

 

「はあ!」

 

俺はその強烈な一撃を受け止める。

 

「やるようになったな、ソーマ」

 

「当然、です!」

 

弾き返され、すぐにソーマは突きの構えをとり……

 

「外力系衝剄……背狼衝!」

 

背後に放った衝剄の反動を推進力に利用して、高速の突きを放つ。

 

「ふっ……!」

 

「っ!」

 

突きを受け流し、体勢を崩させる。

 

「双月」

 

「うわっ!」

 

一瞬で刀を交差させてソーマ斬る。

 

「あの一瞬で剄で防御するとはな」

 

「イテテ、魔力を剄に変化して体に纏い硬化する。それぐらいしか防御法はないんです!」

 

ソーマは視力を強化させて、太刀筋を見極めるつもりか。

 

斬り、防ぎ、弾き、避け、この工程が高速で行われている。一瞬でも気を抜けられない状況が続いている。

 

俺とソーマは身体能力強化しかしておらず、魔力弾や砲撃を使わず剣技のみで攻防している。

 

「どうした、息が上がっているぞ?」

 

「はあはあ、やっぱり剣技じゃ敵わないですね……でも、負けるつもりはありません!」

 

ソーマの体から剄に変換された紺色の魔力が溢れ出す。

 

「最後に一太刀か、来い」

 

「はあああっ!」

 

ソーマは剣を振りかぶり、突撃して来た。

 

俺は上段に構え振り下ろし、鍔迫り合いになった瞬間……

 

「鉄槌斬り!」

 

斬ると押すを同時に行い、鍔迫り合いに押し勝ち……

 

ズガンッ!

 

そのまま押し潰してしまい、ちょっとしたクレーターを作ってしまった。

 

「やり過ぎたな」

 

「そうだな」

 

ユエがソーマを担ぎ、観客席まで運んだ。

 

「お疲れ様、レンヤ君」

 

「大丈夫だすずか、ソーマを診てくれ」

 

それからすぐにソーマは目を覚ました。

 

「うーーん……」

 

「ソーマ、起きたか?」

 

「え、レンヤさん⁉︎………そっか、負けたんですね」

 

「そうかもしれないが今回は剣技だけの模擬戦だ、制限無しならもっと戦えただろ?」

 

「そうですけど……やっぱり悔しいです」

 

「でも凄いよソーマ、私とは比べ物にならないくらい」

 

「ティアナはこれからだよ、焦ることはないと思うよ」

 

「あ、ありがとうございます。フェイトさん」

 

教官と訓練生達に挨拶して、ソーマとティアナと正門まで来た。

 

「頑張れよ2人共」

 

「技能試験、応援しているよ」

 

「これからも鍛錬を怠るなよ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「ご期待に添えられるよう、頑張ります!」

 

「あはは、頑張ってね」

 

「怪我せんようになぁ」

 

ソーマとティアナと別れて、最後の依頼を終わらせる為にこの付近にある異界に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、疲れたよ」

 

「お疲れ様だ、ツァリ」

 

「レンヤ君達はいつもこんなのをやっとるんか?」

 

「前は異界だけだったけど、ここ最近はこんなのものだ」

 

「アリサちゃんは納得してないけどね」

 

フェーズ1の異界を探索した後、ホテルに戻っていた。

 

「初めての異界とグリードはどうだった?」

 

「武術訓練通りにやったから、そこまで苦労はしなかったけど……」

 

「やはり勝手が違うな、グリードも生きていることを感じた」

 

「それは……確かに」

 

「どこぞのRPGゲームのようにはいかんへんな」

 

「事実は小説よりも、ね」

 

グリードも生きている、その事実は前から知っていた。でもそれで放っておく訳にはいかない。

 

夕食を済ませ、一息つく。

 

「ふう、美味しかったね」

 

「実に美味だった」

 

「うんうん、またシェフさんは腕を上げたみたいや」

 

「後でお礼を言わないと」

 

「その前にレポートを終わらせるぞ」

 

「このままベットには、って行けないよね」

 

ちなみにテオ教官はホテルに戻った時に出会わせ、そのままB班のいるアルトセイムに向かった。

 

「それにしても本当、僕たちⅦ組ってどうして集められたんだろうね?」

 

単純ながらも、核心をついた言葉。その一言を何気なく口にしたのは、食休みを取っている時のツァリだった。

 

何故、自分が三科生と言う場所に選ばれたのか。テオ教官はデバイスと異界の適応力と言っていたものの、それだけが理由ではないという事は各々が薄々感づいていた。

 

もし本当にそれだけが理由ならば、わざわざ手間をかけてまで特別実習などに生徒を向かわせたりはしないだろう。

 

ならば、どういう基準で自分たちを選んだのか。一同が思考を巡らせる中、フェイトがポツリと呟いた。

 

「魔導学院を志望した理由が基準と言う訳じゃないだろうし……」

 

ミッドチルダには数多くの学校が存在する。中には、レルムと歴史的にも学力的にも肩を並べる教育機関、今日行ったザンクト・ヒルデとか幾つかあるものの、何故敢えて魔導学院を選択したのか。

 

その理由を、各々が一人ずつ話していった。

 

「僕はこの力が誰かの為に役に立てるならって思って」

 

「私は修業の名目でこの学院に志望した、いつか私の師を越える為に」

 

ツァリとユエらしい志望理由だった。

 

「んー、そうなると私達は結構何も考えておらんからなぁ。なんか皆に申し訳あらへんなぁ」

 

「私達、レンヤについて来ただけだからね……」

 

「わっ私はちゃんとデバイスの勉強をしたいと思ってーー」

 

「ついでやろ、それ」

 

「…………はい」

 

すずかが誤魔化そうとするも、はやてにあっさり見破られた。

 

「あはは、そうなるとB班の女子達も同じかな?それでレンヤは?」

 

「俺は自分を高める為にここに入ったんだ。地球じゃあ出来ないからな」

 

「レンヤの故郷は確か魔法文化がなかったらしいからな、それにレンヤらしい理由だ」

 

結局のところ、どれも悪いと言う訳ではない。形も見えない曖昧とした目標を追いかけるのも、ただ流されて辿り着いたと言うのも、人間らしい在り方だ。大事なのはそうして入った場所で何を見出し、何を為すのか、その一点に限られる。つまるところ、切っ掛けなどどうでもいいのである。故に、志望理由がない、と言うのもまた立派な理由になれる。

 

「まあなんにせよ、俺達の心労が軽減されるのならそれでいいけど」

 

「レンヤ君達はいつも大変やからなぁ」

 

「本来なら1人一区じゃなくて、1部隊一区が丁度いいんだよね。それに中央地区は今まで共通だったし」

 

「本当に大変なんだね、異界対策課って」

 

「同情する」

 

「あはは……」

 

それからレポートの書き方をツァリとユエに教えながら終わらせ、明日に備えて早めに寝ることにした。

 

 


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