魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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62話

 

 

俺達11人は現在、混乱のただ中にあった。

 

 何の説明もなく連れてこられた旧校舎らしい建物の中で自分たちは今年から新たに設立され第三科生・Ⅶ組だと告げられ、かと思えば今度はいきなり落とし穴に落とされて特別オリエンテーリングをやれと言われた。ちなみに、入学式が終わってから旧校舎の地下に落とされる今に至るまでまだ30分も経っていない。

 

(一体何が目的なんだろうな……)

 

30分の間にここまでのことをやってくれたテオ教官に、俺は呆れを通り越して感心すらして、ひとまずは旧校舎の一階に出られるというダンジョンの入り口の前に集まることにした。

 

「え、えっと……」

 

「……どうやら冗談でもなさそうやなぁ」

 

「………………」

 

誰もが警戒心を露わにしてダンジョンに入ろうとしない中、シェルティスが黙ってダンジョンに入ろうとした。

 

「待て、1人で行くつもりか?」

 

「俺は勝手にやらせてもらう。それとも1人で行くのが怖いのか?」

 

「言ってろ、たかだか魔力量に頼っている奴に負けるつもりはない」

 

リヴァンは対抗するようにダンジョンに入って行き、シェルティスも少し見送った後続いて行った。

 

残された俺達は何とも気まずい沈黙が流れる。

 

「…………………」

 

「あらら」

 

「えっと……」

 

「ど、どうしようかな……?」

 

状況が飲み込めない中、俺はなのは達に念話を送る。

 

『皆、聞こえるか?』

 

『レンヤ?』

 

『どうかしたの?』

 

『レン君の考えている事は分かるよ、私達は3人1組に分けて行くから他の男の人を頼める?』

 

『さすがなのは、了解した』

 

念話を切り、アリサが話しをする。

 

「念のため数名で行動しましょう。はやて、アリシア、いいわね?」

 

「かまへんよ」

 

「了解〜」

 

「なのは、すずか、よろしくね」

 

「うん!」

 

「頑張ろうね」

 

さすが幼馴染達であっさりグループが決まった。

 

「私達は先に行くね」

 

「男の子何やから心配あらへんけど、気いつけてな」

 

「わかった」

 

「じゃあね〜」

 

なのは達はダンジョンに入っていった。残されたのは俺とツァリと俺と色合いの違う黒髪の長身の男子だけだ。

 

「レンヤは彼女達と知り合いなの?」

 

「ああ、同じ町で暮らしていた幼馴染だーーそれで、どうする?せっかくだからか俺達も一緒に行動するか?」

 

長身の男子の方を向きながら提案する。

 

「うんっ、もちろん!……と言うよりさすがに1人じゃ心細いよ」

 

「私もそれで構いわない、同行させてもらいます」

 

それから戦法や武器の確認のためにデバイスを起動させ、武器取り出す。2人はデバイスだけなようでバリアジャケットは無かった。

 

「ユエ・タンドラ。ミッドチルダに来て日が浅いですからよろしくしてくれると助かります」

 

「なるほど、留学生なのか。こちらこそよろしく、神崎 蓮也だ。寝ているがこいつらは俺の守護獣、ラーグとソエルだ」

 

ポケットからラーグとソエルを見せる。

 

「ツァリ・リループだよ。それにしても……それが武器なの?」

 

「ああ、これですか」

 

ユエは両手両足に手甲と脚甲を付けている、非人格のアームドデバイスのようだ。

 

「ストライクアーツをやるのか?」

 

「いえ、故郷の流派を使います、武具の名はフォルマシオン。そちらもまた……不思議なものを持っているようですね」

 

「あ、うん、これね」

 

ツァリは杖型のデバイスのようだが……細部の形状が異なり片側に花弁のような装飾が付いていた。

 

「杖にしては形状が異なっているな」

 

「これは僕専用に作られたストレージデバイスで名前はウルレガリア。僕は戦闘はからっきしなんだけど……」

 

ツァリはウルレガリアを構えて花弁を散らして、薄紫色の花弁を周囲に浮かせる。

 

「これは……」

 

「僕の意思で動く端子だよ、半分物質と魔力でできているんだ。この端子を介して念話や索敵を行うんだ、利点としては念話の妨害を受け付けない事かな。それに幾つものマルチタスクと空間把握能力が無いと使いこなせないんだ」

 

「充分凄いじゃないか」

 

「あはは、ありがとう。でも攻撃は端子を鋭くしたりとか爆撃なんだけど……威力がなくて。それで……レンヤの武器はその?」

 

「ああ」

 

俺は刀を抜いてみせる。

 

「それって……剣?」

 

「いや、これは刀です」

 

「正解、そして相棒のレゾナンスアークだ」

 

《よろしくお願いします》

 

柄頭に付いている青いクリスタルが光って返事をする。

 

「よろしくお願いする。さて……私達もそろそろ行くとしましょう」

 

「ああ、警戒しつつ慎重に進んでいこう。まずはお互いの戦い方を把握しないとな」

 

「うん!」

 

行こうとしたらユエが近寄ってきた。

 

「それとレンヤ、あなたのことはソーマから聞いています」

 

「ソーマを知っているのか?」

 

「3年前に地元に修業の名目で来ました。流派は違うものの幾度か交流があり、あなたことを聞いた……とても優しいと」

 

「そうか、ティーダさんからどこかに修業の為に、と聞いていたが……ソーマは元気してるか?」

 

「元気です、そしてソーマはとても才ある者、確か今年ミッドチルダの訓練校に入ると言っていました。暇があったら会いに行きませんか?」

 

「もちろん!」

 

そして俺達は周囲を警戒しつつ、ダンジョンに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テオ教官が言っていた妨害はAMFによる魔法の使用不可とドローンによるものだった。

 

「単純な試験用のドローンだな、俺が先行するから戦い方を見ていてくれ」

 

「分かった」

 

「気をつけてね」

 

俺は刀を抜刀して、2体のドローンに接近する。

 

戦い方をみせるためにすぐに倒さず、ドローンの攻撃をさばいていく。

 

「せいやっ!」

 

5分ぐらい経ったので刀身に魔力を流してドローンを切り裂いた。

 

ドローンは一瞬光って消えてしまった、随分と処理が楽なドローンだな。

 

刀を納めたら2人が近づいてきた。

 

「凄いねレンヤ」

 

「見事な体捌きに技量だ、私も迂闊いていてはいられないな」

 

「そんなことはないさ、さて次にーー」

 

「待って、進行方向に3体くるよ」

 

ツァリが目を閉じて、意識を集中している。仄かに髪が薄紫の魔力光で光っている。

 

「次は私が行こう」

 

「よろしく」

 

するとすぐに3体のドローンが現れた。

 

「ふう……」

 

ユエは呼吸を整え、ドローンの攻撃を避ける。動きが早く普通の人が見たらただの線にしか見えない速さだ。

 

「はあああああっ!」

 

ドローンを一ヶ所に集め、拳を地面に叩きつけたら地面が槍のように迫り出しドローンを貫いた。

 

「凄いよユエ!あんな事が出来るなんて!」

 

「まだまだ修業中の身、この先を目指さなければ」

 

「そうだな、だがまずはここを出よう」

 

周囲の探索をツァリに任せて、俺達はツァリの道案内の元先に進む。

 

「ツァリってやっぱり凄いじゃないか、安心して前に進めるんだからか」

 

「ありがとう、でも僕にはこれぐらいしか出来ないから。魔力量も平均だし……あっ、来るよ!」

 

「やはり凄いではないか!」

 

正面から数体のドローンが現れた。

 

「行くぞ!」

 

「承知!」

 

「うんっ!」

 

ユエが撹乱、俺が攻撃、ツァリが敵情報の割り出しとそれの伝達。

 

ユエとは息を合わせられて楽に対処でき、ツァリの空間把握能力は舌を巻く程だ。

 

「はあぁ~……つ、疲れた……」

 

しばらく進んだ所で襲い掛かってきたドローンの群れを倒した直後、ツァリが膝をついて大きく息を溢した。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、ちょっと緊張が途切れただけだから。此処まで気疲れしたのは久しぶりだよ……でも2人は凄いなぁ。全然平気そうだもん」

 

「まあ、慣れの違いだろう」

 

ユエが答え、それに俺も頷く。

 

「大丈夫か?手、貸そうか?」

 

「ううん、大丈夫。一人で立てるよ」

 

 と、ツァリが腰を上げた時だった。

 

「ーーっ⁉︎ツァリ、危ない!」

 

「大丈夫、気付いているよ」

 

何か気配がして視線を上に向けたらドローンがいて俺が叫んだが、ツァリは冷静に振り返らず端子を飛ばすと、1体のドローンがツァリを目掛けて飛びかかって来たのを端子を爆撃してドローンを破壊した。

 

「ふう……」

 

「ツァリ、一体どうやって……」

 

「え、こんな近くにいて気付かないわけがないよ」

 

しれっと当たり前のようにツァリは言う。

 

「その、ツァリの索敵範囲はどれ位なんだ?」

 

「え、僕の索敵範囲は直線30キロ、全方向だと半径10キロの円の中で……複数の人と同時に念話をするなら50人が最大かな?」

 

思ってた以上にとんでもなかった。

 

「やっぱり凄いじゃん」

 

「これだけだよ、それに今はAMFの影響で1キロ未満しか索敵できないし、戦闘になると足を引っ張っちゃうし、間違いなく二科生に入るレベルだよ」

 

「確かに、評価対象に入らない項目だ……が、それでもツァリは私達が出来ない事が出来る。充分誇ってもいいぞ」

 

「えへへ、ありがとう」

 

「ーーーほう、かなりの実力者ぞろいだな」

 

「「「!」」」

 

前の通路から制服姿のリヴァンが左手に片刃のブレイカー付きの剣を持って出てきた。

 

「あなたは……」

 

「リヴァン・サーヴォレイド……だったな?」

 

「ああ、さっきは済まなかったな」

 

リヴァンは頭を下げて謝罪する。

 

「構わないさ、俺は神崎 蓮也だ」

 

「ツァリ・リループだよ」

 

「ユエ・タンドラ。どうか宜しく頼みます」

 

「改めて、リヴァン・サーヴォレイドだ………神崎……蓮也?」

 

リヴァンは俺の名前に覚えがあるのか少し考え込む、それなりに有名人だと思ったんだがな。まあ興味がなかったら知らなくて当然かな?

 

「あああ!思い出した!時空管理局、異界対策課隊長にして聖王、神崎 蓮也!」

 

ツァリが思い出したようで叫ぶ。

 

「そうか……!確かあそこはエリート揃いの……」

 

リヴァンはそう言い俺のことを見てきた。

 

「…………リヴァン。俺は恥になる行いをしてきたつもりはない、だからシェルティスのような態度を取っても普通に接するつもりだ。恥ずべき行いをしてないから」

 

「!、いや済まない。君の事は噂でよく知っている、一科生のような態度を取らない事も」

 

「ならいいさ、よろしくな」

 

俺は手を差し出し、リヴァンと握手する。

 

「こちらこそ……出来れば俺も同行しても構わないか?それなりに剣とコイツの自信はあるんだ」

 

リヴァンは右手の手袋から琥珀色の線を出した。

 

「それは……鋼糸か?」

 

「ああ、扱いは難しいが慣れればなんてことない。それでいいか?」

 

「もちろん」

 

「よろしくお願いする」

 

「見たところ女子もいないし、先を急いだ方が良さそうだ」

 

こうして、リヴァンを加えて俺達はダンジョンをさらに奥へと進み始めた。迷宮のようなダンジョンを右へ左へと進んで行くと、やがて分かれ道に差し掛かった。どちらに行こうか決めあぐねていると、片方の通路からなのは達がが現れた。

 

「なのは」

 

「あ、レン君!」

 

バリアジャケット姿のなのは達は俺達を見つけると近くまで歩み寄った。

 

「あなたも少しは頭が冷えたようだね?」

 

「……おかげさまでね」

 

決まりが悪い表情になるリヴァンに、フェイトは柔らかく笑った。

 

「自己紹介がまだだったね、私は高町 なのは。そしてコッチがレイジングハート」

 

《よろしくお願いします》

 

「フェイト・テスタロッサです、コッチは相棒のバルディッシュ。どうかよろしく」

 

《よろしく》

 

「月村 すずかです、コッチが私のデバイス、スノーホワイト」

 

《よろしくお願いします》

 

「ユエ・タンドラ。よろしくお願いする」

 

「改めてリヴァン・サーヴォレイドだ。先程は済まなかった」

 

「ツァリ・リループです………ん?高町、テスタロッサ、月村?」

 

その流れのまま、なのは達は自己紹介を済ませる。ツァリはなのは達の名前を思い出しーー

 

「あ、レンヤと同じ管理局のエース達!」

 

「っ!」

 

やっぱりなのは達の事でリヴァンが反応したか。

 

「リヴァン」

 

「あ、ああ済まない。他意があるわけじゃない、気を悪くしたなら謝る」

 

「分かっているならこれ以上何も言わないけど、あまり自分の価値観で人を決めつけないで」

 

すずかの言葉を受けて、リヴァン強く出ることはなかった。

 

「えっと……それでこれからどうしようか?せっかく合流したんだし、このまま一緒に行く?」

 

「それはやめておこう、こんな狭い場所で大勢いたらむしろ危険だよ」

 

「なのはに賛成だ、なのは達の実力は噂でも知っているはずだ。このまま別々に行った方が効率がいい」

 

「………わかった、お互い出口を目指して行こう」

 

「それじゃあ皆、気をつけてね」

 

「そっちもな」

 

なのはは達は来た道の反対側の通路向かった。その背を見送ってから、ユエがつぶやく。

 

「やはり女子だけでは心配だな。誰か1人くらいついて行った方が良いのではないか?」

 

「気持ちはわかる、でも大丈夫だ。この程度のドローンしかいないのなら問題ない」

 

「レンヤは彼女達のことをよく知っているのだな?」

 

「レンヤと彼女達は地球出身なんだよ」

 

「そういうこと、俺達も行こう」

 

俺達も出口に向かって歩みを進める。

 

しばらく歩いていると……

 

「…………どこやーー…………」

 

「…………アリシーーア…………」

 

遠くから声が聞こえてきた。

 

「何だ?」

 

「前方に女子2名、残りの女子達かも」

 

「1人足りないぞ」

 

「あーごめん、だいたい予想できる」

 

俺は顔に手を当てて嘆息する。すぐに開けた場所に着くと……

 

「アリシアちゃーーん!どこーー!」

 

「さっさと出てきなさい!」

 

案の定、はやてとアリサしかいなかった。

 

「はやて、アリサ」

 

「あ!レンヤ君!」

 

2人を呼び掛けるとこちらに気が付いて近寄ってきた。

 

「レンヤ、ダメ元で聞いてみるけど……アリシアは見た?」

 

「アリサの予想通り、見ていない。ツァリの方はどうだ?」

 

「この近くにはいないよ、もっと奥に行ったのかも」

 

ツァリは端子を飛ばしながら答える。

 

「はあ、仕方ないわ」

 

アリサは気持ちを切り替え、こちらを見る。

 

「自己紹介がまだだったわね、アリサ・バニングスよ。そして相棒のフレイム・アイズ」

 

《よろしくお願いします》

 

「私は八神 はやてや、以後よろしゅう」

 

「ツァリ・リループだよ、よろしくね」

 

「ユエ・タンドラだ、よろしくお願いする」

 

「リヴァン・サーヴォレイド、先程は済まなかった」

 

「かまへんよ、ただあんまり独断専行は控えてほしいなぁ」

 

はやては気にしてないようだ。

 

「はやてさんは変わった喋り方をしているんだね」

 

「あはは、はやてでええよ。これは地球の方言の1つでなぁ、聞き取り難いとは思うけどかんにんなぁ」

 

「それで、だいたいアリシアがはしゃいで突っ走った、てところか」

 

「その通りよ」

 

予想通りとはいえ、もうちょっと自重してほしい。

 

「私達はアリシアを探しながら出口に向かうんよ、もし見つけたら引っ張って来てえなぁ」

 

「また後でね」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

アリサとはやては先に進んだ。

 

「あれが夜天の主、特別捜査官八神 はやて三佐なんだ。思ったより普通なんだね?」

 

「一応俺も三佐だし特別捜査官なんだけどな。それなりに有名人だと思っていたんだが……ユエはともかく、ツァリはなんで今まで気付かないんだ?」

 

「あはは、ここに来るまでの印象が大き過ぎてすっかり忘れてたよ」

 

「ふむ、レンヤと先程の女性達は管理局員なのか?」

 

ユエが確認するように質問する。

 

「かれこれ入局5年目、三佐になってもやる事は同じで人助け。本物の軍隊ならありえない光景だ」

 

「確かに、ありえないな」

 

リヴァンが同意するように頷く。

 

「まあ偉くても俺はまだまだ子どもだ、これぐらいがちょうどいいのかもしれない」

 

「ふふ、レンヤらしい答えですね」

 

「そうだね、それじゃあそろそろ行こうか?」

 

それから慣れてきた連携でドローンを退け、奥に進んでいった。

 

しばらくして、ツァリが……

 

「皆、階段を上った先に2名がドローンと戦闘中だよ」

 

奥の状況を感知したらしく、それからすぐに戦闘音が聞こえてきた。

 

「これは……」

 

「急ごう!」

 

「ああ!」

 

俺達は走って音源に向かい、少し開けた場所に着くと……

 

「やあああああっ!」

 

「せいっ!」

 

アリシアが右手の剣でドローンを斬り、左の銃で撃ち抜く。シェルティスが右順手、左逆手の双剣でドローンを斬り裂く。

 

「へえ、シェルティス中々やるな」

 

「見たところ助けはいらないようだ。それに独学ではないようだ、良い師に教えられたのだな」

 

「うん、それにフェイトさん似の女の子も凄いね。妹さんかな?」

 

残念、姉だ。まあ身長は同じ位になったけど言動が今だに子どもっぽいし。

 

「はあああっ!」

 

シェルティスが最後のドローンを二閃し破壊した。2人はデバイスをしまい息を整える。

 

「ーーそれで、何の用だ?」

 

「あ、レンヤーー!」

 

シェルティスのおかげで気付いたのか、アリシアがこちらに向き飛びついてきた。

 

「よっと、アリシアはともかくいい腕しているな」

 

飛び込んで来たアリシアの頭を鷲掴みにして、シェルティスに近寄り賞賛する。

 

「あだだだだだ!」

 

「神崎 蓮也。さっきは名乗る暇が無かったから自己紹介をしておくよ」

 

痛がるアリシアを放っておいて名乗る。

 

「どうも……ツァリ・リループです」

 

「ユエ・タンドラです。よろしく頼みます」

 

「シェルティス・フィルス。改めて名乗っておこう………それにしても」

 

シェルティスがリヴァンの方を向き、何か理解するように言う。

 

「何だ?」

 

「意外だな、あれだけ啖呵をきっておきながら連れて戻ってくるとは……大方、すぐに頭を冷やして詫びを入れたんだろう」

 

「……そんな挑発に乗るとでも?」

 

出会ってそうそう険悪な雰囲気になったな。その時アリシアが手から抜けた。

 

「こら!喧嘩はダメだよ!」

 

「フン……」

 

アリシアに止められ、シェルティスはそっぽを向く。

 

「コホン、私はアリシア・テスタロッサだよ。デバイスの名前はフォーチュン・ドロップ。よろしくね」

 

《よろしく》

 

「よろしく頼む」

 

「うん、それでアリシアさんはフェイトさんの妹さんなの?」

 

「ちっがう!私がフェイトのお姉ちゃんなの!」

 

「え……」

 

意外だったのか、リヴァンも含め全員が唖然とする。

 

「付き合いきれん」

 

シェルティスが先に行こうとする。

 

「あ、待ちなさい!レンヤ、また後でね!」

 

アリシアはシェルティスが心配なのか、ついて行った。

 

「少し位妥協してもいいんじゃないか?俺が知っている人はシェルティスより酷いのを見たことあるぞ」

 

「わかっているさ、だが割り切ることは出来ない」

 

「リヴァン……」

 

「すまないが、今はここを出ることを優先しよう」

 

「あ、ああ……すまない、行こうか」

 

一旦この話しは終わりにし、それから入り組んだダンジョンをツァリの道案内で迷わず進むと一段と開けた場所にでて奥に地上に続く階段と扉だあった。

 

「……どうやらここが地上に通じる終点らしい」

 

「ああ、陽も差し込んでいるし、間違いないだろう」

 

「やれやれだ、突然落とされたと思ったら拍子抜けするほど楽だったしな」

 

「そっそうかな〜。結構大変だったと思うけど………でもVII組か。一体どんなクラス何だろうね?」

 

ツァリが最もな質問をする。

 

「そうだな……」

 

(クラスの半分以上、俺の知り合いで管理局員だし………何か意図があるのか……?)

 

クラス設立の理由を考えてみる、はっきり言って裏で何か動いているに違いないが……

 

ピシッ……ビシビシッ……

 

「「「「?」」」」

 

不意に何かがうごめくような音が聞こえてきた。

 

「なんだ……?」

 

「メキョ!」

 

ポケットの中で寝ていたソエルが起きて、飛び出てきた。

 

「レンヤ!グリードの気配だよ!」

 

「何⁉︎」

 

「!、あれだ……!」

 

ユエの見る方向を見ると、獣の石像があり。徐々に色付き始め動き出した。

 

「あれは……!」

 

「な、なにあれっ⁉︎」

 

「これがグリードか……!」

 

グアアアアアア!

 

獣は飛び降りて来て行く道を塞いだ。

 

「うわわわっ……⁉︎」

 

「エルダーグリード……イグルートガルム!」

 

「……ミッドチルダにはこんな化物が普通にいるのか?」

 

「世界の裏側に、ね……」

 

俺達は武器を抜き、構える。

 

「ーーいずれにせよ、こいつを排除しないと地上に戻れない……皆、何とか撃破するぞ!」

 

「承知!」

 

「相手に不足はない……!」

 

「が、頑張らなくちゃ!」

 

グアアアアアア!

 

イグルートガルムの咆哮を合図に戦闘が始まった、ツァリの薄紫色の端子がイグルートガルムの周りに浮かび、イグルートガルムはそのまま尻尾を薙いでくる。

 

「はあっ!」

 

俺が抜刀と跳躍を同時に行い、尻尾を上から受け流し地面にぶつける。

 

「本来ならこの程度俺1人で充分なんだけど、AMFの影響で厳しい。皆も気をつけろよ!」

 

「言われなくとも!」

 

ユエが茜色の魔力を腕に纏い、イグルートガルムを顔面を殴る。

 

「効かないか……」

 

「皆!側面を狙って、そこが1番柔らかい!」

 

「分かった!」

 

ツァリの言葉を聞き、リヴァンが左から剣で斬り裂いた。

 

だがイグルートガルムは首を曲げてリヴァンに噛みつこうとする。

 

「おっと……」

 

当たる瞬間に鋼糸で飛び退き、口を鋼糸で縛り付ける。

 

「リヴァン!鋼糸を借りるぞ!」

 

「何⁉︎」

 

ユエだ了承を聞かないまま、一本の鋼糸の前に立ち……

 

「外力系衝剄・化錬変化……蛇流!」

 

拳を鋼糸にぶつけて、鋼糸を伝わり魔力……茜色の剄と衝撃がイグルートガルムに直接ぶつかり角を砕く。

 

「さすがだな、ルーフェンの剄。魔力の密度が半端じゃない」

 

「それは後でいい、それに様子が変だぞ」

 

するとイグルートガルムが更に色付き、翼を羽ばたかせ浮き上がる。

 

「うわあああっ⁉︎」

 

「ツァリ!」

 

イグルートは素早く接近してツァリに向かって前脚の爪で斬りかかってきた。

 

「させるかってえの!」

 

それをリヴァンが腕を鋼糸で巻きつけてとめる。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

鞘に備えつけられたギアが回転し始め、魔力が上がった勢いで吹き飛ばしツァリから離れさせる。

 

「大丈夫か?」

 

「うっうん……あっ見て!」

 

ツァリ言われてみると、イグルートガルムは翼を大きく羽ばたかせこちらに向かって突風を起こす。

 

「しまった……!」

 

「させないよ!」

 

正面に端子が現れ、端子を起点に障壁が展開された。

 

「ううっいつもより保たない……」

 

「充分だ!」

 

鋼糸がツァリを掴みリヴァンの元に引っ張り、俺は突風の直撃コースから外れ……一瞬遅れて障壁が破壊された。

 

「ユエ!」

 

峰をユエに向けてからイグルートガルムを見て、ユエは意図に気づき頷く。

 

「いっけええっ!」

 

峰にユエが乗った瞬間、振り上げイグルートガルムの上に飛ばす。

 

「ふうっ!」

 

拳に魔力を纏わせ、直撃の瞬間衝剄として放つ。上からの強烈な一撃にイグルートガルムは地面に落ちる。

 

「よし、これで……!」

 

リヴァンそう言うが、俺はまだグリードの気配が残っていたのに気づく。

 

「いや、まだだ……!」

 

イグルートガルムは傷を物ともせずに起き上がる。

 

「うわあああっ⁉︎」

 

「回復したのか……⁉︎」

 

「面倒なことを……」

 

「仕方ない……ここは神衣でーー」

 

状況を打破する為に、ソエルから神器を取り出そうとすると……

 

「ーー下がって!」

 

桜色の魔力弾が後ろから発射されて、イグルートガルムを足止めする。

 

「えいっ!」

 

「やあっ!」

 

イグルートガルムの左右からすずかとフェイトが接近して両腕を斬り裂く。

 

グアアアアアア!

 

攻撃に耐え兼ね暴れ始めるが……

 

「やらせへんで!」

 

「静かにしなさい!」

 

血色のダガーが顔面に直撃して、怯んだ所をアリサが上から剣で叩きつける。

 

「きっ君達は……!」

 

「追いついたか……!」

 

「皆!無事だね!」

 

「遅れてごめんね……!」

 

シェルティスとアリシアを抜いた全員がここに到着したようだ。

 

「いや、助かった……!」

 

「しっかし、えらいタイミングに来てもうたなぁ」

 

「しかもグリードがいるなんてね、しかも硬いときた」

 

「ああ、しかもダメージを与えても再生される」

 

「俺達がAMFで弱体化しているとはいえ、この人数なら勝機さえ掴めればーー」

 

イグルートガルムを倒す為に策を考えていると……

 

「うわっ!何これ⁉︎」

 

後ろからアリシアとシェルティスが現れた。

 

「間に合ったのかな?」

 

「お前は……」

 

シェルティスが両方の双剣を逆手に持ち、振りかぶり……

 

「でやっ!」

 

イグルートガルムに向かって思いっきり投げた。両翼に当たり剣は宙に浮きシェルティスの元に戻る。

 

「ほっ……」

 

その隙にアリシアが双剣を抜き、イグルートガルムを飛び越えて両後脚を斬り裂く。

 

その攻撃に耐えられずイグルートガルムは体勢を崩した。

 

「勝機だ……!」

 

「ああ!」

 

「順番は僕に任せて!」

 

一斉に武器を構えて全員の横にツァリの端子が浮き、同士討ちや攻撃が重ならないようにする。

 

「今だ!」

 

俺が合図を出し一斉に攻撃を開始する。ツァリの指示で綺麗に連携が繋がり、再生する隙を与えないようにイグルートガルムにダメージを与えていく。

 

「アリサ!」

 

「任せて!」

 

《ロードカートリッジ》

 

トリガーを引きカートリッジをロードして、大剣を構えて、大剣と身体に魔力を込める。

 

「はあああああっ!」

 

渾身の一撃が硬い皮膚を貫通して、その頭を首から断ち切った。

 

頭を失ったイグルートガルムの胴体は力無く崩れ落ち、光を放ちながら塵へと消えた。

 

「あ……」

 

「やっやった……!」

 

「よかった……」

 

脅威が去った事により安心する、デバイスとバリアジャケットを解除して一旦集まる。

 

「AMFがある状況でよくここまでやれたな」

 

「もう、へとへとだよ……」

 

「それにしても、何でグリードがこんな場所に……」

 

「ーーあれは、以前から存在してたものだ」

 

すずかの言葉に続けるように、頭上から声が聞こえてきた。旧校舎一階に続く階段、その途中の踊り場に満足そうな笑顔を浮かべたテオがいた。

 

「いや~、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利。うんうん、感動した」

 

そう言って階段を降り、呆気に取られている俺達の前に立つ。

 

さて、とテオは口火を切って……

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは終了なんだけど……なんだ君達。もっと喜んでもいいんじゃないか?」

 

「よ、喜べるわけないでしょう!」

 

「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが……」

 

「……あら?」

 

予想外の反応だったのかそれとも予想していた上での反応か、テオは目を点にして首を傾げた。

 

「……単刀直入に問おう。第三科生、Ⅶ組……一体何を目的としているんだ?」

 

シェルティスの問いに全員がテオに目を向ける。成績や魔力量に関係なく集められたというのは分かったが、結局のところ、なぜ自分たちが選ばれたのかを教えてもらっていない。

 

「そうだな〜」

 

テオは呟いて、俺達が集められた理由を語った。

 

「お前達がⅦ組に選ばれた理由は色々あるんだけど、一番判りやすい理由は戦い方……デバイスにある」

 

「デバイス……?」

 

「もしかして……種類や形や戦法がバラバラだから集められたんですか⁉︎」

 

「もちろんその他もろもろの理由もあるが……大まかに言えば異界に対しての配慮だ」

 

異界のことを聞き驚く。

 

「今だ人員が増えない異界対策課、その理由はグリードに対して臨機応変な対応ができない事にある。そして異界の性質上大部隊での対処は難しく、必然的に少数精鋭になる。そして異界に必要なのは魔力ではなく実力だ、その人員の育成の為にお前達が集められた」

 

それが、魔力量関係なく俺達がⅦ組に選ばれた理由だとテオは語った。

 

「レルム魔導学院は、その適任者としてお前達11名を見出した。だが、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃない。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるだろう。それを覚悟してもらった上でⅦ組に参加するかどうか……改めて聞かせてもらおうか?」

 

長い説明が終了し、真面目な表情に変わったテオの問い掛けに俺達はお互いの顔を見合わせた。

 

「あっそうそう、辞退するなら本来所属するクラスに入ってもらうぞ。その時にクラスわけも提示するからな、今なら初日だしそのままクラスに溶け込めると思うぞ?」

 

時間にして1分ほど。冷たい風音が地下に響き渡り、ダンジョンを抜けて頬を撫でる。

 

て言うか、人員の育成の為って言うけどすでに異界と戦っている俺達がいる意味あるのか?まあ、ハードなカリキュラムなら望む所だし……

 

「神崎 蓮也。参加させてもらいます」

 

VII組参加を名乗り出た。

 

「一番乗りは聖王か……まあ当然ちゃあ当然か、それに何か事情があるみたいだな?」

 

「いえ……我侭を言って行かせてもらった学院です。自分を高められるのであれば、どんなクラスでも構いません」

 

「なら私も参加します!」

 

「私も、1から異界のことを勉強したいし」

 

「当然、私も参加するんよ」

 

「私も参加します、教わる立場からしか見えない事もありますから」

 

「異界より私はカリキュラムの方に興味があるわ。アリサ・バニングス、参加するわ」

 

「はいはーい!皆が参加するなら私も参加しまーす」

 

俺が参加表明したらなのは達も次々と名乗り出た。

 

「管理局組は全員参加っと、残りはどうする?」

 

「ふむ、ならばユエ・タンドラ、参加する。異郷の地に訪れた以上、やり甲斐のある道を選びたい」

 

「それなら僕も、役に立てるかわからないけど……」

 

「レーフェンからの留学生と天才念威操者も参加っと、これで9名だが……」

 

テオ教官はリヴァンとシェルティスを見る。

 

「お前達はどうする?」

 

2人は質問に答えず黙っている。

 

「まあ、色々あるんだろうけど深く考えなくてもいいんじゃないか?」

 

「………………………」

 

リヴァンは黙ったままで、その時シェルティスが一歩前に出た。

 

「シェルティス・フィルス。VII組に参加する」

 

意外な発言に全員が驚いた。

 

「何故だ?お前のようなヤツが、こんな事に乗るとは」

 

「勝手に決め付けるな、それに……このクラスなら媚び諂う連中もいないしな。だがここでお前と別れるのもいいな、ここはお互いの為に参加しないのも手だぞ」

 

「フン、誰がそんな指図を受けるか。リヴァン・サーヴォレイド、VII組に参加する。魔力量が全てではない事を証明してみせる!」

 

「ほう……」

 

挑発的なシェルティスの態度に、半ば喧嘩腰で参加の意思を示し、2人は対抗するように睨み合う。

 

「これで11名。全員参加ってことだ!……それでは、この場をもって第三科生・Ⅶ組の発足を宣言する。この1年ビシバシしごいてやるから、楽しみにしてろよ!」

 

こうして、桜似の花が咲き誇る3月31日。レルム魔導学院にて第三科生・Ⅶ組が発足した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段上、旧校舎の出口手前に、同じ赤い制服を着た異色の顔ぶれを眺める2つの影があった。

 

「これも巡り合わせというものでしょう」

 

「ほう・・・?」

 

「ひょっとしたら、彼らこそが光となるかもしれません。動乱の足音が聞こえるミッドチルダにおいて障害を乗り越えられる唯一の光にーー」

 

ヴェント学院長と共に生徒たちを見下ろし、レジアス中将はそう告げる。まだ何色にも染まっていない彼らがこれからどう成長していくのか。

 


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