その後、しばらくすると日が暮れて夕方となり……
皆は2階の広間に集まってきた。
そして、豪華な山の幸の数々に存分に舌鼓を打ったのだった。
「美味しかったね」
「ちょっと食べ過ぎちゃったくらいかな」
すでに夕食を食べ終え、雑談をしていた。
「子ども達が多いから旅館の人もサービスしてくれたみたいよ」
「良かったな、皆」
「はい……!」
「美味しかったよね。味わい深くて、彩りも豊かで」
「おかげで大満足です。誘っていただき感謝します」
「喜んでいただきなにより」
「さてと……この後、どうするかな」
「そういえば、何するか決めていなかったよね」
「せっかくだから、また温泉に入ってもいいけど……」
「私、お腹いっぱいで動けないの」
「皆で卓球でもせいへん?」
食事の感想を言い合う中、クロノとリンディとクライドが顔を見合わせ頷いた後。クライドが士郎に視線を向け、士郎は無言で頷く。
「皆、せっかくだからお土産でも見に行かないか?」
「そういえば、さっき覗いたけど色々置いてあったわ」
「お土産か、いいですね」
「管理局の同僚に買っておきたいかも……」
「じゃあ決まりだね、レンヤも行くでしょう?」
「ああ、それじゃあーー」
「ーーすみません、レンヤ君達はこの後時間をもらえませんか?」
「先日言っていた話しだよ」
リンディとクライドがレンヤを呼び止める。
「あっ……」
「皆、行きましょうか」
忍が関係ない者を連れて部屋を出る。
「お姉ちゃん、また後で」
「ふふ、いいのを見繕っておくわ」
「早く来るんだな」
「それじゃあ、ごゆっくり」
そう言い、士郎も含め部屋を出た。
残ったのは管理局の全員とチーム・ザナドゥとユーノ。
「ふふ、これで話しができますね」
「話せそうなのはこの時間くらいだからな」
「唐突すぎますね」
「まあまあ」
「それで例の話しておきたいことですか?」
「ええ、この旅行に参加した目的の一つ……」
「と、その前に……」
リンディの言葉をラーグが遮る。
「ラーグ?」
「お前達に異界について改めて話しておく。今後のためにもな」
「あ……」
「……なるほど」
「いい感じにお腹も膨れたし、改めて聞かせてもらうか」
「あの異界と怪異が何なのかをね」
ラーグが全員を見渡し、頷くのを確認すると話し始めた。
「
「あんなことが、世界中で……?」
「信じられないけど……」
「事実は小説よりも、ね」
「すごいですぅ」
異界の事実を知り、驚く。
「そして、異界の出現と同時に、その存在を知る者も現れた。異界専門の管理局ってやつだ」
「地球にそんな組織があるのか⁉︎」
「クロノ、落ち着け」
「奴らは一般人の秘匿を大前提としている、協力を呼びかけ様にもどこにいるのか分からん」
「それに、地球の異界は彼らが対処している。レンヤ達はミッドチルダの事を考えて」
「……分ったよ」
「続けるぞ、例をあげると異界によって引き起こされた大災害は東亰震災が有名だ」
「それって、5年前の……」
「確か、昼間なのに空が夕方みたいに赤くなったっていう異常気象があったんだよね」
「ああ、SSS級の脅威度を持つ、神話級グリムグリードが起こしたとされる」
「しっ神話級……?」
「魔女がお伽話だとして神話クラスって事は……」
「元凶はすでに討伐されている、そしてその現象になぞられて奴らはこう呼んでいる……東亰冥災と」
「冥災……黄昏時の暗い災害、か……」
「そんな事が……」
「超やべえーな」
「以上が異界についてと、それによる現実世界への影響だ。それで、この話しに対して管理局はどうするんだ?」
「もし、ミッドチルダに大災害が起きたら……」
「とんでもない事になるだろう」
リンディが思いにふける後、話しを切り出した。
「上層部や市民からの強い提案もあり、管理局に異界対策部隊を設立することになりました」
「異界対策部隊?」
「それって一体……?」
「その名の通り、異界に対抗する部隊だが……作った所で全員、異界に関しては素人。今の話しをしても焼け石に水だろう、必然的に高ランクの魔導師が投入されるわけだが……」
「ご存知の通り、管理局は万年人手不足。どこの部隊も出向を惜しんでいる状況でね」
「つまり、俺達にその部隊に入って欲しいと?」
「確かに適任だけど……」
「今まで通りに嘱託の依頼で出せばいいじゃない、断る理由もないわよ」
「これは形の問題なんだよ、管理局員に任せるのではなく嘱託魔導師に頼るとなるとね……」
「確実に評判が落ちますね」
「もちろんこれからも対策はしていくが、準備が整うまで事件が起こるとも限らない」
「すでに管理局員で異界に入ったなのは、フェイト、はやてでもそこまで異界を熟知しているわけでもない」
「私達に管理局に入れって事?」
「無論強制はしない、もし了承してくれるなら其方が提示する条件ものむつもりだ」
「なるほど、部隊は本局預かりでも、地上預かりでもできる……と言うことか」
「一応地上預かりで話しを進めています、希望するなら本局でも構わないわ」
「あっ仮に、入局するって事は当然なのは達みたいに試験や仮配属研修を受けなきゃダメなの?」
「試験は当然行います。ただし受けるのは筆記だけで実技やその他試験、仮配属や訓練校での研修は全て免除されます」
「さすがにそれは優遇しすぎていますよ」
「時間がない事もあるが、先日の事件解決で君達は本局に認められている。それにレンヤがレアスキル所持と3人への共有、それによる特例措置が適用される。後、君達には悪いが時々訓練室で模擬戦をしている映像を提出させてもらった。それを見て上層部は筆記以外を免除して、正式な局員として即採用するとのことだ」
レンヤ達は場所の関係でよく、アースラで模擬戦をしてたりする。大抵いつものメンバーだがたまにクロノやなのは、どこからか噂を嗅ぎつけてきたシグナムとよく模擬戦をしていた。
「……私達に強制する権利はないわ、異界が出現しない場合は基本地上または本局と同じ扱いになります。階級は事件の功績も入れ、皆さんは一等士から始まります」
「返事は旅行から帰った後でも構わない、ゆっくり考えてくれ」
その問いに、レンヤは、頭を悩ませた。
そこでいったん、話は区切られることとなり……
皆は広間で解散した後、それぞれ考え事をしながら、その日の夜を過ごすことになった。
大体は先に出て行ったお父さん達と合流して、今は各々自由にしている。
レンヤは最後に広間を出て、階段を降りてから思いにふける。
(五年前のニュースで見ていたけど、あれがミッドチルダでも起こる可能性が……)
俺は頭を振り、辺りを見渡す。なのは達がお土産屋で盛り上がっていた。
「まったりしているみたいだな、さて中庭でボーッとしているかな」
中庭に行き、空いているベンチに座り空を見上げる。
「………………………」
都市部よりもよく見える星空、ただそれをジッと見つめている。
(ここ海鳴はもう大丈夫、地脈も安定しているし闇の書事件以降、異界化も起きていないけど……)
目を閉じて、頭を空っぽにする。
「…………………ふう」
「ため息なんて珍しいなぁ」
いつの間にかはやてが目の前にいた。
「ああ、そうだな……」
はやては隣に座る。
「やっぱり悩んでいるん?」
「そうだな、答えは出てるんだけど、な……」
「なんや、恥ずかしがりやなんかレンヤ君は」
「そうじゃない、ミッドチルダで東亰冥災と同じ事が起こるなんて見過ごせない。でもな……」
「…………レンヤ君は、誰かに認められたい事はあるん?」
「えっ……」
「レンヤ君の事はよう知っとる、レンヤ君は誰かに認めてほしい事を無意識に拒んでいるとちゃう?」
「それは……」
「身内やない、レンヤ君の知らない誰かに」
思えばそうかもしれない、今まで自分から進んで友だちを作ってきたわけでもない。
「…………そうかもしれない、俺は今まで……いや、今も自分を抑え続けている。俺は人々を助けるために表に出ていいのか、てな」
「そうか……」
はやては立ち上がり、俺の前に立つ。
「レンヤ君、歯あ食いしばり」
「えっ……」
言い終わる前にはやてが思いっきりビンタしてきた。
「うっ…」
「そんなわけあらへんやろ、レンヤ君はいつも一生懸命に誰かのために頑張っている。そんなレンヤ君を否定するやつがおるか?」
「はやて……」
「恐れないで、信じて。自分を、信じ尽くせば道もきっと開けるんよ」
はやてが肩に両手を置きながら俯く。
「レンヤ君は、一体どうしたいの?自分の心は何をしたいの?」
「俺は………」
頬の痛みも分からぬまま、考えてこむ。
(俺は……助けたい。名誉とかなんか関係なく困っている人を助けたい、許可なんてない、でも助けるたい人々を……)
そこで気がついた、自分はなんで人を助けたいんだと。
(そうだ……護りたかったんだ、幸せを。血の繋がりもない俺を護ってきたお父さんとお母さんが、与えてくれた温かい幸せを……そんな幸せを誰かのために護ってあげたかったんだ、自分の手で救えるならとことん伸ばしていたんだ、それが俺だから……)
「そうだった、そうだったな」
「レンヤ君……?」
「ありがとう、はやて。答えは出たよ」
「ふふっ、よかったなぁ。それと引っ叩いてごめんなぁ」
「いいさ、喝を入れられた感じだよ、ありがとうな」
「そうか、どういたしまして」
はやては顔を上げて、優しく笑った。
俺も立ち上がった時……
シャン………
『ふふ……答えを決めたんだね』
ピキーーン
一瞬で周りの時が止まった。
「えっ……」
「なっ……」
辺りを見渡すと、水が流れておらず何も聞こえない。
「これは、一体……」
『君達以外の時間は止めさせてもらった。皆と一緒にボクの所まで来るといい』
女の子の声が頭に直接聞こえてくる。
『それじゃあ、待っているよ』
「待って!」
「何が起こっとるんや⁉︎」
その後、動ける者を探した。異界に入った事のある者だけが止まっていなかった。
「だめ、全員ピクリとも動かないわ」
「動けるのはこのメンバーだけだね」
「なんでこんなにことに……」
「どうやら時間そのものが停止しているみたいだね……」
「異界に入った事の無い人だけが」
「そうらしいね」
ちょうどアリシアが戻ってきた。
「どうだったの?」
「私達以外、例外なく停止しているよ。これだけの状況、間違えなく異界絡みだね。はあ〜嫌な予感が当たっちゃったよ」
「でも時間に干渉するなんて、あまりにも常軌を逸している」
「私達に語りかけた声とええ、いったい何が……」
シャン………
その時、鈴の音が聞こえた後。参道に続く鳥居が光った。
「あれは……」
「とっ鳥居が光ったの?」
「行ってみよう」
「うん!」
参道に登ると、祠に続く鳥居だけが光っていた。
「これって……」
「どうやら私達を誘っているみたいね」
「さっきの声が?」
「登ってみよう」
階段を登りきり、祠の前まで来る。
『よく来たね』
目の前に青い靄が現れ、そこから女の子が現れた。
「ーーーーー⁉︎」
「おっ女の子……?」
「にゃ、透けてるの……⁉︎」
「アンタは………!」
女の子は俺達を見てから、話し始めた。
「お姉さん達以外は初めまして。ボクはレム、狭間を歩く者さ。ふふ……ちゃんと全員揃って来てくれたんだね」
「レム⁉︎」
「それって……」
「やっと思い出したわ、けど……答えなさい、この状況はアンタの仕業⁉︎」
「だったらすぐにやめて、それに何が目的?」
「ふふっ………それじゃあさっそく始めようか」
そい言って手を出した瞬間、後ろにゲートのヒビがはしる。
「こっこれって……」
「白い……亀裂?」
白いゲートが開き、レムの目の色が変わる。
「さあ、見せてもらうよ。選択に見合う力が君達にあるかどうかをーー」
次の瞬間、俺達はゲートに吸い込まれた。
目を開けた時、そこはすでに異界の中だった。
地面に幾つもの線がはしり、奥に真ん中が割れた鳥居が幾つもある。
怪異はいるも、いつもの禍々しさが感じられなかったが。
「こ、ここって……」
「迷宮みたいだね」
「それにしても、何なんやあの謎の子は」
レンヤ達が振り返り説明する。
「異界の子、そんな風に呼ばれる存在だよ。異界化が起きた場所で度々目撃されている」
「正体は一切不明だけど異界についての謎を全て知っていると囁かれているんだよ」
「確か、アリサとすずかが前に出会っていたんだよね」
「今まですっかり顔を忘れてたけど」
「そうなんだ」
「でも誰であろうが関係ない……」
レンヤ達がデバイスを起動させ、バリアジャケットを纏う。
レンヤが全員の方に向き直り。
「これより迷宮の探索を開始する、目標……異界の子、レム。とっとと捕まえて、元に戻させてやるぞ!」
「うん、行こう!」
「……ううっ、幽霊じゃありませんように……」
「大丈夫だよ、フェイトちゃん」
「いくで〜、皆〜!」
「さっさと終わらせて、温泉に入るわよ!」
「ふふっ、頑張ろうね」
レンヤ達は迷宮に入っていった。