魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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37話

7月下旬ーー

 

あのミッドチルダの事件から数日、地球はすでに夏休みに入った。

 

俺達は毎年の恒例行事である海鳴温泉に向かっていた。

 

今年は高町家、月村家とアリサはもちろんのこと。テスタロッサ家やハラオウン家と八神家とユーノとエイミィさんが参加していてちょっとした大世帯だ。

 

去年は管理局のゴタゴタで、予定が空かなかったが今回は空いてよかった。ただ車を運転する関係もあり、俺のいる車に大人は父さんと母さんだけだ。

 

兄さんと忍さんはすでに免許を取っていて今は車の運転をしている。姉さんは歳の近いエイミィさんと一緒にいる、2人とも気が合うらしい。

 

送迎の車は全部で4つ、その1つに俺は乗っている。

 

「わあ、緑が深まってきたね……!」

 

「そう言えばアリシアは初めてだったな」

 

「私も、前は飛んできたから、車で来るのは初めてだよ」

 

「ふふっ……でも本当に晴れてよかったよ」

 

「またしばらく雨続きだったからね」

 

「うん、今年の梅雨も終わったの」

 

「予報だとこの周囲も週明けまで快晴になるらしいな」

 

「ふふ、絶好の行楽日和ね」

 

「私もちゃんと温泉に入りたかったんだ〜!」

 

「桶の温泉も悪くないがな」

 

皆、思い思いに会話を楽しんでいる。

 

それとこの旅行には他にも行く理由が今回はあった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日前ーー

 

クロノに呼び出され、俺達はアースラの会議室にいた。

 

「えっいいんですか?今年の旅費を出してくれるって」

 

会議室でリンディさんがいきなりそんなことを言った。

 

「先日の霧の事件での管理局のささやかながらのお礼よ、被害の規模を考えれば少ない方よ」

 

「今回、管理局は何もできなかったからな。そう言う意味でのお礼と受け取ってほしい」

 

リンディさんとクライドさんが理由を言う。

 

「それはありがたいんですけど……」

 

「他にもあるでしょう」

 

「ああ、君たちに話しておきたい事があるんだ」

 

「話しておきたいこと?」

 

「それって……」

 

俺達は顔を見合わせた、考えている事は一緒のようだ。

 

「分かった、その話し受けるよ」

 

「私も大丈夫だよ」

 

「フェイト達とはやて達も一緒に行く予定だったし、これ以上増えても問題ないわ」

 

「うん!皆と一緒の方が楽しいし!」

 

「ありがとう、今週末でいいのよね?」

 

「はい、後で詳細を連絡します」

 

その後、連絡をして。全員で旅行に行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサがこれから向かう海鳴温泉について、フェイトとアリシアに説明していた。

 

「これから向かう海鳴温泉は、ここじゃあ結構知られている古い名湯なのよ。霊験あらたかな山中にあって綺麗な場所よ」

 

「そうなんだ」

 

「へえ〜〜」

 

(霊験、あらたかな……嫌な予感がする)

 

アリシアがいきなり顔をしかめる。

 

「アリシアちゃん?」

 

「!、何でもないよ……!」

 

「酔ったなら、寝るか?」

 

「だから大丈夫ーーー⁉︎」

 

俺は膝を叩きながら聞くが、またいきなり表情が変わる。

 

「そっそうだね〜、昨日も楽しみで寝不足だし。お願いするよ〜」

 

そう言い、アリシアは俺の膝を枕にして寝始めた。

 

「「「「なっ!」」」」

 

「おっおい……!」

 

「すう、すう……」

 

早くも寝息を立て始めた。

 

「全く、仕方ないな」

 

困った顔をしながらも嫌がらず、アリシアの頭を撫でた。

 

「〜〜〜♪」

 

「むう……」

 

「姉さん…羨ましい」

 

「アリシアちゃん……」

 

「……出遅れたわね」

 

4人が何か言っているが、聞こえなかった。

 

「皆、おしゃべりしている所申し訳ないけど……」

 

「もうそろそろ着くからな」

 

窓の外を見ると、旅館がちらりと見えた。

 

それからすぐに旅館に到着した。

 

他の皆とも合流した。

 

「わあ……ここが海鳴温泉!」

 

「雰囲気のある旅館ね」

 

「こんな所にあるなんてね……」

 

「秋頃になると綺麗な紅葉も楽しめるよ」

 

「そうなんや」

 

「しかし、今の時期も深緑が映えていいものだ」

 

「来るのは久々だが、中々いい感じだ」

 

ちょうどその時、車を運転していたお父さん、兄さん、忍さん、ノエルさんが戻って来た。

 

「皆揃った事だし、さっそくチェックインをしましょうか」

 

「はい」

 

「そうですね」

 

俺達は旅館の中に入る。

 

「中は結構モダンな感じだな」

 

「そちらの中庭もとっても風情があるわね」

 

「影響されて部屋を作り変えるなよ」

 

ハラオウン家が旅館内の感想を言う。

 

「こっこんな立派な所に泊まっていいのかな」

 

「平気平気、お金はリンディ達が出してくれるんだし、楽しもうよ」

 

「お前は前に無銭で入っただろ……」

 

「アルフ……」

 

「あっそれはだね〜」

 

「後でお仕置きです、アルフ」

 

「許してよ〜リニス〜」

 

「ふふっ、私達は手続きをしてくるわ」

 

「ちょっとだけ待っていてね」

 

「よろしく頼むよ」

 

「待っててえな」

 

それぞれの家の代表が手続きに向かう。

 

「………………………」

 

「アリシア?」

 

「えっ!何?」

 

「どうかしたの?」

 

「ぼーっとして、まだ寝ぼけているのかしら?」

 

「あはは、そうみたい。あっそう言えばここにも異界があるんだよね?」

 

「ああ、俺達のレベルでは余裕の所だ」

 

「暇があれば顔を出してみようよ」

 

「あはは、あくまでもついでだからね」

 

「本来の目的を忘れるな」

 

「でも一度でいいから見てみたいよね〜」

 

「好奇心は猫をころすぞ、美由希」

 

「危ない事はしちゃダメだからね」

 

「はーい」

 

ちょうど手続きも終わり、お母さん達が戻ってきた。

 

「お待たせ、チェックインは終わったわよ」

 

「荷物のほうは部屋に運んでおいてくれるそうよ」

 

「早速、温泉に行きましょうか?」

 

「今の時間なら貸切で使えるみたいよ」

 

「わぁ、いいですね」

 

「明るいうちからお風呂も悪くないわね」

 

荷物を預け、全員で温泉に行く事になった。

 

「中庭もいい雰囲気だね」

 

「ししおどしが……周りに浮いていない……!」

 

「あの部屋が異常なだけだ」

 

「あはは……」

 

「レンヤ、あれは何?」

 

アリシアが指差したのは、奥にある小さな門だ。

 

「ああ、あれか。裏山の参道に繋がっていたな」

 

「確か、龍の骸が祀られている旧い祠があったよね」

 

「長い階段といくつもの鳥居の先にあったような気が……」

 

「そう……、ありがとう」

 

「姉さん……?」

 

ここに着いてからアリシアの様子がおかしかったが、女性陣と別れて温泉に入った。

 

「ユーノはフェレット状態だったとはいえ、入るのは二回目だろ」

 

「うん、前からちゃんと温泉に入りたかったんだ」

 

「僕としてはフェレット擬きでも構わないがな」

 

「なんだと!」

 

「あんまり巫山戯るのはやめるんだ、クロノ」

 

「はは、いいじゃないですか。生真面目だと思っていましたが、そう言う冗談も言えて安心しました」

 

「私に似て、融通が利きませんがね」

 

「とっ父さん……」

 

さすがのクロノもクライドさんの前では、1人の子どもか。

 

それから温泉に入った。

 

「ふう……」

 

「はああああ〜………」

 

「あああーーー」

 

少年組は温泉の気持ちよさに、思わず声をもらす。

 

ちなみにザフィーラは温泉が苦手らしく、洗ってあげたら早々に出て行ってしまった。

 

「……ここ数日の疲れが溶けて出てしまいそうだよ」

 

「気に入ってもらえてなによりだ」

 

「久々だが、変わらなくて良かった」

 

「こういうのも悪くねえな」

 

年長組はそれぞれの感想を言う、1モコナは桶に乗ってお湯に浮いている。

 

「ユーノはあれからどうだ、何か変わった事はあるか?」

 

「特に何も、強いて言えばあの事件の事をしつこく聞かれるくらいかな」

 

「あの事件については情報規制されている。無闇矢鱈にしゃべるんじゃないぞ」

 

「むしろ信じてもらえるかだな、外は知っていても中は知らんからな」

 

「それもそうだな」

 

その時、ラーグがお酒を取り出した。

 

「士郎、一杯やろうぜ?」

 

「おっいいね」

 

「てっこらあぁ!」

 

「おお、私もいいですか?」

 

「父さん⁉︎」

 

「俺もいいか、一度はやってみたかったんだ」

 

「恭弥さんまで……」

 

年長組はお酒が入ってしまい、少年組には肩身が狭くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、女湯では……

 

「はあ〜、極楽極楽」

 

「このまま溶けて無くなっちゃうかも〜……」

 

「やっぱり気持ちがいいの」

 

「うん、そうだね」

 

「日頃の疲れが取れるわ」

 

「ふふ、この機会にゆっくりして下さいね」

 

「お母さんはいつも忙しいんだから」

 

「せや、もっとゆっくりしぃ」

 

「ただでさえ、周りから期待されているからね」

 

「ありがとう、皆」

 

労いの言葉をかけ合い、温泉を満喫する。

 

「それにしてもここの温泉は最高ね〜」

 

「そうでしょう!」

 

「まったりとして、芯から温まるというか」

 

「ああ、評判以上だ」

 

「あああーー」

 

「ヴィータ、行儀が悪いぞ」

 

「気持ちいですぅ」

 

守護騎士達にも高評価らしい。

 

「そういえば、露天風呂もあったわよね」

 

「へえ、そうなんか」

 

そう言い、はやては皆を見渡す。

 

「はやて?」

 

「いや、フェイトちゃんとすずかちゃん、最近胸が大きくなってへんか?」

 

「えっ///」

 

「そっそれはその……」

 

「そうなの、フェイトちゃん!」

 

「忍さんがアレだから、もしやとは思っていたけどもう…」

 

「これは確認せなあかんなぁ〜」

 

はやてが手をわきわきしながら近づく。

 

「やめなさい」

 

「あたっ」

 

リニスがはやてにチョップして止める。

 

「ふふふ、そうだこの際だから聞いておくわ。皆、レンヤの事をどう思っているのかしら?」

 

「「「「「「!」」」」」」

 

「あの子は頭もいいし、髪を切ってから一気に男前になったからね〜」

 

「周りが放っておかないでしょう」

 

「あっ私も気になる」

 

「はい、じゃあなのはから」

 

「ふえっ!私は…その、レン君とも一緒にいたいし……」

 

「わっ私も、レンヤとは大切な最初の友達だから……」

 

「レンヤ君はとても優しいんし……」

 

「れっレンヤとは別になにも無いわよ……」

 

「えっと、えっと、レンヤ君とは……」

 

「レンヤの事は大好きだよ」

 

5人はアリシアが率直に言った事に驚く。

 

「あら直球ね」

 

「レンヤには色々とお世話になったし、この命もレンヤから貰った様なもの。そうじゃなくても私はレンヤだから好きになれたんだ」

 

「はっ恥ずかしくもなく言い切ったよこの子……」

 

「ふふ、頑張りなさいアリシア。応援しているわ」

 

「ありがとう、お母さん!」

 

「わっ私だってレン君の事……!」

 

「私だって……!」

 

「私やって……!」

 

「譲らないわよ……!」

 

「これだけは負けない……!」

 

6人が立ち上がり目から火花が出る。

 

「修羅場だね」

 

「あらあら、レンヤも大変ね〜」

 

「他人事みたいに言いますね……」

 

その時、桶に入ったソエルが流れてきた。

 

「ならいっそ、皆でレンヤと結婚しちゃえば〜〜」

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

突然のソエルの提案に驚く。

 

「今もベルカに残っている一夫多妻制、聖王のレンヤなら周りを気にせずにできるよ〜〜」

 

6人は顔を見合わせ、頷き手を合わせる。

 

「皆で、レンヤを落としましょう!」

 

「「「「「おおおおっ!」」」」」

 

敵同士から心強い味方に変わる瞬間であった。

 

「あらあら」

 

「聖王様も大変だね〜」

 

「えーと、いいのかな?」

 

「あの子なら、安心してなのはを渡せるわ」

 

「泣かせたら承知しないけどね」

 

「同じく、主を泣かすようならレーヴァテインで斬る!」

 

「レンヤがはやてを泣かすようなことするかよ」

 

「心配して泣かしそうだけど」

 

「ありえるな」

 

「ですぅ」

 

「すずかも大変ね」

 

「すずかちゃん、ファイトです」

 

「ふう……」

 

レンヤの与り知らない所で、大変な事が女湯で起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、レンヤ達は昼間の温泉を堪能した後、改めて客室に通されて。

 

それぞれ夕食までの時間、自由に行動することになった。

 

レンヤはラーグを縛りつけた後、部屋を出る。

 

(皆は適当に自由にしているみたいだな)

 

しかし、レンヤは温泉を上がった後のなのは達の様子が変わった事に気がついていた。

 

(まあ、一緒に温泉に入って色々としゃべって改めて打ち解けたんだろ。結構長風呂だったし)

 

「さて、俺も行こうかな。せっかくだから裏山の祠を見に行ってみようかな」

 

レンヤは祠に行く途中、皆と話しをしながらも祠への参道に着く。

 

「ここか、鳥居も多いし階段も長いな。大層な龍が祀られているのかな?」

 

長い階段を登り、祠に着く。祠の前にはアリシアがいた。

 

「アリシア」

 

声に気がつきアリシアは振り返る。

 

「レンヤ」

 

「アリシアも来ていたんだな」

 

「うん、聞いてみた時から気になっていてね」

 

「へえ」

 

レンヤはアリシアの隣に来て、祠を見る。

 

洞窟が祠なのか、洞窟の中に祠があるのか分からないが。洞窟の上に太いしめ縄が掛かっており、洞窟に入らない為の仕切りがある。洞窟の左右に龍を模した石像が向かい合わせに置いてある。

 

「龍の骸がここに祀られているんだよな」

 

「うん、そうだよ。とてつもなく霊格の高いのがね……」

 

「えっ分かるのか?」

 

「あっ、感だけどね。あはは……」

 

アリシアが誤魔化す様に苦笑する。

 

「……アリシア、何か感じ取ったな」

 

「!………うん、あの事件以来、霊感が強く敏感になっているんだよ。元々死んで魂の時もあってか前からそんな感覚はあったんだけど、あれ以降さらに強くなっているのかな……」

 

「大丈夫なのか?」

 

「特に問題は無いよ、心配してくれてありがとう」

 

アリシアは笑顔を作り、レンヤを安心させる。

 

「分かった、無理はするなよ」

 

「うん、もう戻ろう?」

 

「ああ」

 

レンヤとアリシアは旅館に戻って行く。

 

シャン………

 

「ん?」

 

(今なにか……気のせいか)

 

旅館に戻り、アリシアと別れてから辺りを歩き回り、その後旅館に戻って夕食まで休む事にした。

 

 


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