魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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32話

あれから3カ月

 

もう怪我は完全に塞がった。

 

だがお見舞いに来る人が聖王教会の人ばかりで、励ましの言葉もだいたい同じだった。

 

髪もお母さんに整えてもらい、襟にかからない位の長さになった。

 

そして6年生、事故として学校に伝えられたらしく、怪我の事や髪の事で話題が持ち切った。

 

いつも通りにアリサが静めてくれたが、今問題はそこではない。

 

「……………………………」

 

ズーーーンという効果音が付きそうなくらい落ち込んでいるフェイト。

 

「えっと、フェイト?今回は流石に仕方ないと思うのよ」

 

「そっそうだよ!レンヤ君が事故にあっちゃたんだから。勉強に身が入らなかったんだよ!」

 

「それに次こそは大丈夫やと思うで!」

 

「そうそう!3度目の正直って言うし!」

 

「2度あることは3度あるとも言う」

 

「「「「「ラーグ(君)!」」」」」

 

そう、フェイトはまたしても執務官試験を落としてしまったのだ。

 

「ほら!失敗しても、失敗した部分が分かるんだから、それを生かして………」

 

「レンヤには分からないよ………この気持ちは……」

 

小学生に受験に落ちた気持ちが分かる方が難しいです。

 

「全く、ほらくよくよしない!今日はアリシアの記念すべき第一歩よ!」

 

「そっそうだよフェイト!出来ればお姉ちゃんを祝って欲しい……かな?」

 

すずかが管理局の指導の下、アリシアのインテリジェントデバイスが完成したのだ。

 

アリシアは結界魔法や転移魔法、幻影魔法が得意なサポートタイプの魔導師だ。デバイスもそれに合わせて作られた。

 

「……うん、そうだね。ここで立ち止まっていられない!」

 

「それでこそフェイトちゃんだよ!」

 

「俺達も中学位で管理局に入る予定だ、お互い頑張ろう」

 

「うん、よろしくね!」

 

放課後

 

毎度お馴染みのすずかの家、そこの会議室……ではなく地下に作られたデバイスルーム。

 

前にあった方がいいとソエルに言われ作ったらしい、有言実行できるってすごいね。

 

「ここだよ、さあ入って」

 

すずかはにデバイスを扉のパネルにかざしてロックを解除する。

 

「うわああ!」

 

「これだけの設備どないしたん?」

 

中は管理局顔負けの設備だった。

 

「全部、ソエルちゃんから出してもらったの」

 

「私の中で腐らせるより、いいからね」

 

「よく俺達のデバイスをここでメンテナンスしてもらっている」

 

「すずか本当にいい腕しているからね」

 

「そんなことないよ、メンテナンスくらい簡単だよ」

 

「十分すごいよ」

 

「それでこれがアリシアちゃんのデバイスだよ」

 

すずかはボードを操作して壁に付いているスライドドアを開ける、中には黄色の雫型のデバイスがあった。

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとう!すずか!」

 

アリシアはデバイスを手にして喜んでいる、デバイスの起動は外でやる事になった。

 

「いっくよー!あなたの名前は運命の雫、フォーチュンドロップ!」

 

黄緑色のミッド式の魔法陣が現れた。

 

「フォーチュンドロップ!セートッ!アープッ!」

 

《レディー、セットアップ》

 

デバイスが光り、バリアジャケットを纏う。

 

デザインは黄緑色のスカートで白いYシャツだが肩から先がなく、肩から露出している。リボンやネクタイの色は薄い緑色をしている。

 

手には小型の2丁拳銃を持っている。

 

「わあ、アリシアちゃん可愛い!」

 

「よく似合っているよ」

 

「えへへ、ありがとう///」

 

アリシアが顔を赤らめて言う。

 

「コホン、それじゃあアリシアちゃん。簡単に結界魔法と転移魔法をやってくれないかな?」

 

「あっうん、分かった」

 

アリシアはフォーチュンドロップに魔力を流し、すぐに結界を張った。

 

「おお!いつもより早いし簡単にできた!」

 

「すごいわねアリシア」

 

「普通ここまで早くできへんやろ」

 

「方向性は違えど、姉妹揃って優秀って事だよ」

 

転移魔法も連続で使っているアリシア、見えたと思ったらすぐに消える。

 

「アリシアちゃんー!どんな感じー!」

 

「うん!全く問題ないよ!」

 

「よかった」

 

「もうすずかはデバイスマスターって呼んでも差し支えないね」

 

「ソエルちゃん、言い過ぎだよ」

 

「いや、本当にすごいよすずか」

 

「そっそうかな、ありがとうレンヤ君///」

 

顔を赤らめてお礼を言うすずか。

 

「コホン!それじゃあ皆でこれから模擬戦でも……」

 

「あーちょっと待って、レンヤ」

 

アリシアがいきなり真剣な顔になった。

 

「ん?なんだアリシア?」

 

「私を……私をレンヤの従者にして欲しい」

 

「え?」

 

「ちょっと!」

 

「姉さん!」

 

アリシアの突然の発言に驚く皆。

 

「アリシア、それがどう言う意味か……本当に分かっているのか」

 

「うん、ちゃんと分かっているよ。私は今で力になれなかった、無力な私は誰も守れなかった、聞き方によれば私はただ力が欲しい様にしか聞こえない、でも違う私は皆を守りたい、そして世界を見てみたい、あなたと一緒に!」

 

アリシアの正直な気持ち、そこには確かな心があるアリシアらしい答えだ。

 

「……うん、いいよ」

 

「レン君⁉︎」

 

「俺はアリシアの意思を尊重する、それにアリシアはきっと正しい事に使ってくれる、そう信じている」

 

「レンヤ君……」

 

「姉さん、本当に……」

 

「心配してくれてありがとうフェイト、私もすぐにあなたの隣に行くからね」

 

アリシアはレンヤと向き合い。

 

「ラーグ」

 

「ほいきた、アリシア、俺の手を掴んでくれ」

 

言われた通りにアリシアはラーグの手を掴む。

 

「我が宿りし聖なる枝に新たなる芽いずる花は実に 実は種に 巡りし宿縁をここに寿がん今、聖王の意になる命を与え、連理の証しとせん答えよ、従士たる汝の名はーー」

 

「ーーアリシア・テスタロッサ」

 

アリシアの上に魔法陣が現れ、アリシアの体を通り抜けた。

 

「これでいいぞ」

 

「……あんまり変わってないね」

 

「神衣が使える様になっただけだからな」

 

「でもそれって、よく考えたらレアスキルの共有ちゃう?」

 

「まあ……そうとも言えるね」

 

「とりあえず、神器を渡してみなさい」

 

「そうだな」

 

ラーグが風の神器をアリシアに渡した。

 

「やり方は聞いているな?」

 

「うん、大丈夫」

 

アリシアは目を瞑り、神器に魔力を流しながら。

 

「……………ユクム」

 

静かに見守るなか。

 

「ルウィーユ…ユクム」

 

解放する。

 

「ルウィーユ=ユクム!」

 

神器が光り身に纏う、装飾の色が緑なだけで白い服は同じ。そして背中に剣の翼があった。

 

「きゃあ!」

 

「すごい風!」

 

「これって暴走⁉︎」

 

「いや、よく見てみろ」

 

風が収まり、アリシアがはしゃいでいた。

 

「すごいすごい、力が溢れ出る、どこまでも飛べそうだよ!」

 

「嘘……」

 

「もうコントロールしている」

 

「年齢的な問題だろ」

 

「年を重ねれば、当然精神も強くなる。レンヤ達は時間がなかったからね」

 

「アリシア、気分はどうだ」

 

「すーーふーー…うん、落ち着いたよ」

 

「これからもよろしくな、アリシア」

 

「こちらこそ、主レンヤ」

 

「あんまり巫山戯るな」

 

「イタッ!」

 

アリシアに頭を叩く。

 

「それじゃあさっきのアリサの提案で模擬戦をしようか」

 

「うん、いいよ!」

 

「手加減しないから」

 

「やるからには勝たせてもらうで!」

 

「腕が鳴るわね」

 

「ふふふっ」

 

「やってやるぞー!」

 

「お前まず神衣化を解け」

 

その後思い思いに模擬戦を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、俺とアリサ、すずかとアリシアは、アリシアの事をウイントさんに報告するため聖王教会に来ていた。

 

「そうか、君が新しい従者か」

 

「アリシア・テスタロッサです」

 

「うむ、それと現状、レンヤのおかげでなんとか教会はまとまってきているが……」

 

「やっぱり、俺が聖王にならないといけないんですよね」

 

「ああ、所詮私は代理。正当後継者である君が上に立つべきだがな」

 

「今やっている事を放り投げるほど、軽いものは持っていません」

 

「分かっているさ、だから君に言ってもらいたいんだ」

 

「レンヤ君に演説をしろと?」

 

ウイントさんは静かに頷く。

 

「演説かー、王様モードで行けるかな?」

 

「従者の3人にも付き添ってもらうけどね」

 

「予定はいつ頃行いますか」

 

「1週間後だ、準備はこちらで進めておく」

 

「ありがとうございます」

 

「いやそれはこっちの台詞だ、レンヤがいなければ始まらないのだから」

 

細かい説明を聞き、演説の内容を確認した。

 

そして1週間後。

 

演説の会場は聖王教会の講堂内で行われる、教会には溢れんばかりの人がおり、噂を嗅ぎつけたのかテレビ局の人までいる。

 

レンヤ達は教会の裏手で控えていた。

 

「うわーすごい人だねー」

 

「王様の演説ともなればこうなるわよ」

 

「きっとレンヤ君が聖王になるって思っているんだろうね」

 

「………勘弁してくれ」

 

「私達も応援するよ」

 

「一応、出席はするからな」

 

俺達は騎士風の正装をしている、デザインは一緒でそれぞれの神器に合わせた色の変化がされておる、マントを付けている。

 

ラーグとソエルにもローブが巻かれている。

 

「時間だ、覚悟はいいね」

 

レンヤ達は顔を見合わせて…

 

「「「「はい!」」」」

 

大きな声で返事をした。

 

ウイントさんの後に続き講堂に出ると、フラッシュの嵐に合う。俺はすでに聖王モードだ、しかし緊張はするものだ。

 

アリサ、すずか、アリシアは俺の後に続く様に歩いている。

 

演壇の前に着き、演説が始まる。

 

「私は聖王の代理を務めさせて頂いているウイント・ゼーゲブレヒトだ、此度の演説は聖王の末裔である彼からだ」

 

ウイントさんが壇から離れて俺が前に出る、プレッシャーが半端じゃない。

 

「ご紹介に預かりました、レンヤ・ゼーゲブレヒトです。私はこの場で発表する事があります、私は……聖王にはなりません」

 

その言葉に動揺の声が広がる。

 

「私が聖王にならずともこの教会はやって行けます、必ずしも聖王は必要ではありません」

 

「しかし、貴方が聖王になる事を大勢の方々が望んでいます!」

 

記者の一人がそう言ってきた。

 

「私が聖王になったところで現状なにも変わりません、私はまだ子どもです、政治などを行うには若すぎます。ウイント氏はよくやってくれています、それに聖王に襲名して何になりますか、独立でもする気ですか、私を旗印にして何になりますか。私は人を守りたい、ならばこそそれは聖王でもいいではないか、しかしそれでは私は人を守れない。手を伸ばし前に行き過ぎれば後ろの人が助からない、聖王では守りきれない。私は名ばかりの王にはなりたくない!私の望む王は、人々を信じ信じられるそんな王でありたい!だが、私はまだまだ未熟者だ、もし!私がふさわしい王になれれば、貴方達は私を受け入れてくれるだろうか?」

 

静まりかえった講堂内、一人が拍手をしそれに続き大勢の人が拍手をしてくれた。

 

俺は一礼をして戻ろうとするが、その時魔力を感じた。とっさに避けると魔力弾が通り過ぎた。

 

「ルウィーユ=ユクム!」

 

アリシアが神衣化をして犯人に接近する、アリサも神衣化せず剣を抜き……アリシアに振り下ろした。

 

周りが驚く中、アリシアは…

 

「瞬転流身!ゲイルファントム!」

 

真空波を飛ばし、犯人に当たった瞬間アリシアと犯人の位置が入れ替わる。

 

「なに、がっ!」

 

犯人が驚く中、アリサの剣が犯人に当たった。

 

犯人はそのまま管理局に連行された

 

人々は2人を…特にアリシアの神衣に見惚れていた。

 

「騒がしくして申し訳無かった、これにて演説を終了とさせていただきます」

 

視線が背中に刺さる中、講堂を出て行った。

 

場所は聖王家の屋敷、会議室

 

「あの後犯人はどうなりましたか?」

 

「管理局の者に連行されたよ」

 

「よかったー」

 

「それで、講堂内にいた人達は」

 

「全員無事だ、怪我人も0。演説も概ね成功かな」

 

「だといいんですけど」

 

「あの犯人、これが狙いじゃないかしら」

 

アリサがそう言ってきた。

 

「どう言う事だい?」

 

「暗殺をするならもっと早くできたはずよ、でも攻撃したのは演説終了間際、何か胡散臭いわね」

 

「確かに少なからず影響は出るだろうが、今考えても仕方がない」

 

「そうだね」

 

「なら俺達はこれで失礼させていただきます」

 

「気をつけてな、それとその服はそのままあげよう。こっちに置いといても埃をかぶるだけだからな」

 

「なら有難く頂戴します」

 

「それでは失礼します」

 

俺達は屋敷を出て、管理局に向かった。

 

「ふう、精神的にも魔力的にも疲れた」

 

「お疲れ様レンヤ君」

 

「これで少しはマシになるといいんだけど」

 

「無理みたいだよ」

 

「「「え?」」」

 

「ほら」

 

アリシアが指差したのは、大きなディスプレイにレンヤが演説をしている姿が映っていた。場面が切り替わり、犯人を拘束する瞬間まで撮られていた。

 

「プライバシーの欠片もないわね」

 

「て言うか今気づいたんだけど、俺ら格好変わってないよな」

 

「「「あっ」」」

 

レンヤ達は自分の体を見下ろすと、正装のままだった。

 

改めて周りを見ると、結構目立っており浮いている。

 

「………早く行こうか」

 

「そうね」

 

「うん」

 

「帰ろう」

 

「そう簡単に行くかな」

 

ラーグが指差した方向に、講堂にいた記者達がものすごいスピードでこっちに来ていた。

 

「「「「……………………」」」」

 

「走っれ〜」

 

ソエルに言われ、俺達は走って管理局に行き地球に送ってもらった。

 

 


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