闇の書の呪いは解かれ、夜天の書へと変わった。だがせっかくの再会だと言うのに騎士達の表情は晴れない。
「はやて………」
「すみません…」
「あの…はやてちゃん、私達…」
再会を喜べず、主との約束を破ってしまった事に肩を落としている。
「ええよ、皆分かっている。リインフォースが教えてくれた。そやけど、細かい事は後や今は…」
はやてが柔らかく笑う。
「おかえり、皆」
「…っ、はやてーーーー!」
ヴィータが感極まった様ではやてに抱き着く。それをはやては優しく抱き返す、他の騎士は見守っている。
はやて達のそばに降りてくるレンヤ、なのは、フェイト、アリサ、すずかの5人。
5人の表情も穏やかな笑みを浮かべていた。
「なのはちゃんにフェイトちゃん、アリサちゃんにすずかちゃんもごめんな、それにレンヤ君も。皆にはお世話のなりっぱなしで」
「はやてが無事なんだから構わないさ」
「うん」
「そうだね」
「当然よ」
「はやてちゃんが無事でなによりです」
再会を喜ぶ穏やかな時間、だが問題は残っている。
本番はこれからだ。
その時、後ろからクロノ、アルフ、ユーノ、プレシアさんがやって来た。
「……………………」
クロノはクライドさんを見て開いた口が塞がらない。
「クロノ・ハラオウン執務官、状況の報告を」
「……!はい!」
俺がクロノを注意する、再会はリンディさんと一緒に。
「コホン、時間がないので簡潔に説明させてもらう。あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムが後数分で暴走する。僕らはそれを何らかの方法で阻止しなければならない。停止のプランは今の所二つ」
クロノは懐ろから一枚のカードを取り出す、それは杖型のデバイス……デュランダルに変化する。
「一つは強力な凍結魔法で停止させる」
「残りの一つは軌道上に待機しているアースラのアルカンシェルで消滅させる。これ以外にいい方法はないかしら?」
「えっと………最初のは無理だと思います。主のいない防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから」
「凍結させてもコアがある限り再生は止まらん」
あっさり第一候補が却下された。
「アルカンシェルも絶対ダメ!こんな所でアルカンシェル撃ったら、はやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」
ヴィータが手で大きくバツを作る。
「そんなにすごいものなのですか?」
すずかが疑問に思う。
「発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲って言えば大体わかる?」
「全然分かりません」
「凄い威力て言うのは分かるけど」
「とにかく、海鳴がぶっ飛ぶくらいの威力」
「私もそれ反対!」
「同じく絶対反対!」
「僕も艦長も使いたくないよ、でもアレが本格的に暴走したら被害はさらに大きくなる」
『皆!暴走開始まであと15分切ったよ!会議はお早めにお願いします!』
エイミィさんから通信が入り、一同は焦る。
「すみません、アルカンシェルってどこでも撃てますか?」
「何か思いついたのか」
「いえ、防衛プログラムを宇宙に転移して。そこでアルカンシェルを撃てないのかなあ〜って」
『ふっふっふ、管理局のテクノロジーを舐めてもらったら困りますな……撃てますよ、宇宙だろうが、どこだろうが!』
「でもあれだけの質量の転移は無理でしょう」
「せめてコアさえ露出していれば……」
「あっ、これいけるんじゃね」
「レン君?」
「おい、ちょっと待て君、まさか!」
「これしかないだろ」
レンヤは全員に作戦を伝えた。
クライドさんのデバイスは壊れていたのでアースラに転送してもらった。
「何ともまぁ、相変わらずもの凄いと言うか」
「計算上では実現可能って言うのがまた怖いですね…………クロノ君、こっちの準備はOK。暴走臨界点まであと10分!」
リンディとエイミィが呆れたように笑う。
「クライドさんと会わないんですか?」
「今は作戦途中、現場を離れるわけにはいきません。それに……」
リンディは笑みを浮かべ。
「これが終われば、いつでも会えます」
とても嬉しそうに笑った。
「個人の能力頼みで、実にギャンブル性の高いプランだが…まあやってみる価値はある」
「防衛プログラムのバリアは物理と魔力の複合三層、まずはそれを破る」
「バリアを抜いたら私達の一斉攻撃で、コアを露出」
「そしたらユーノ君達の強制転送魔法でアースラの前まで転送!」
「後はアルカンシェルで蒸発、っと」
「上手くいけばこれがベストです」
「最初から全力で挑むわよ」
「皆で力を合わせれば絶対に行けるよ!」
『暴走開始まで、後2分!』
「あ、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、レンヤ君」
「「「「「?」」」」」
「シャマル」
「はい、5人の治療ですね。クラールヴェント、本領発揮よ」
《ヤー》
「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」
シャマルの魔法で5人が回復する。
「うわぁ」
「すごい」
「傷が治ってくいくわ」
「暖かい」
レンヤは手を閉じたり開いたりを繰り返し。
「…………来る」
その言葉と共に幾つもの闇の柱が立ち上がる。
「夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム、ナハトヴァールの侵食暴走形態ーー闇の書の闇」
現れたのは額に女性の像を乗せた化け物、シグナム達が蒐集して来たあらゆる生物の要素を持っているようだ。
「ケイジングサークル!」
「チェーンバインド!」
ユーノのサークル状のバインドとアルフのチェーンバインドが組み合わさり、拘束する。
「囲え、鋼の軛!」
ザフィーラは光の杭をナハトヴァールの体に突き刺す事で動きを止める、しかしナハトヴァールは身をよじるだけでそれを破壊し、触手から光線を乱発するが3人は回避した。今度は砲台のようなものがレンヤ達がいる岩場に向かって砲撃を撃つがそこから離れて回避する。
「先陣突破、なのはちゃん、ヴィータちゃんお願い」
シャマルの指示に合わせ、なのはとヴィータが飛び出す
「ちゃんと合わせろよ……高町 なのは…」
「っ!うん!」
わずかに頬を染めながらなのはの名を呼ぶヴィータ。そして、ちゃんと名前を呼んでもらった事に喜び満面の笑みを浮かべるなのは。
「やるぞ、アイゼン!」
《ギガントフォルム》
カートリッジを2発使い、アイゼンの形態を変化させる。
「アクセルシューター・バニシングシフト!」
《ロックオン》
「シュート!」
レイジングハートは熱源反応を捕捉し、なのはは魔力弾を作り出す。ナハトヴァールは攻撃するもなのはは防御し発射、ヴィータの背後から拡散させて触手を撃墜していく。ヴィータはそのまま闇の書の背後を取る、ナハトヴァールはヴィータを撃つがなのはがそれを撃ち落とす。ヴィータが赤いベルカ式魔法陣を展開しその上に乗る。
「轟天、粉砕!」
カートリッジをロードし天高く掲げられたグラーフアイゼンが巨大化する。
「ギガントシュラーク!」
巨搥が1枚目のバリアを打ち砕く。
「シグナム、フェイトちゃん!」
乱射される魔力弾をかわしながらシグナムはフェイトの後ろに来る。
「行くぞ、テスタロッサ」
「はい、シグナム」
フェイトはザンバーフォームのバルディッシュから斬撃を放ち、ナハトヴァールの動きを止める。そのまま高く飛び上がりシグナムのいる反対方向に行き魔法陣を展開して着地する。
《ボーゲンフォルム》
シグナムはカートリッジを1発使いレヴァンティンを鞘と合体させ弓に変化させる、、弦を引くと矢が形成される。
フェイトはバルディッシュを掲げる。
「翔けよ、隼!」
《シュツルムファルケン》
「貫け、雷神!」
《ジェットザンバー》
矢は隼の形をした炎となりバリアを貫通、巨大化したバルディッシュの魔力刃は2枚目のバリアを破壊するも3枚目に阻まれる。
「アリサちゃん、すずかちゃん!」
アリサは右から、すずかは左から近づく。
「すずか!やるわよ!」
「分かったよ!アリサちゃん!」
《セイバーフォルム》
アリサはカートリッジを1発使いフレイムアイズを刀状に変化させる。
《スナイプフォーム》
刃を変化させスノーホワイトを長銃に変える。
「穿て、氷弾!」
《スパイラルライン》
「吼えろ、陽光!」
《サイファーバースト》
放った弾丸は一筋の光となりバリアを貫通しアリサの横を掠める、バリアに開いた穴を通りナハトヴァールの接近しアリサの姿が複数の閃光となり足を全部切り落とした。
「レンヤ君!」
レンヤはナハトヴァールを踏み台にして上空に上がる、両手に持つ双剣のギアが全て回転している。
「瞬け」
《クレッセントブレイク》
「極光!」
空中を蹴り急降下して、2つの弧を描いた軌跡が交差し3枚目のバリアとナハトヴァールを斬った。
「やったの……?」
「…まだだ!」
ナハトヴァールは魔力弾を乱射し、咆哮とともに障壁を張り直す。
「うおおおおぉぉぉ!」
「落ちなさい」
ザフィーラが拳に魔力を集め障壁を破壊し、プレシアが杖を掲げ極大の雷を落とす。
「はやてちゃん!」
「彼方より来たれ、やどりぎの枝」
『銀月の槍となりて、撃ち貫け』
「『石化の槍、ミストルティン!』」
上空に魔法陣が出現しその周囲に光が生まれる、そこから放たれた石化効果を持つ槍がナハトヴァールを石化させていく。しかしナハトヴァールから新たなパーツが生え、見てくれがひどくなっていく。
離れた所でクロノはデュランダルを構える。
『クロノ君!やっちゃえ!』
「はぁぁ……」
デュランダルを掲げるとナハトヴァールの周囲にデュランダルのビットが浮かぶ。
「凍てつけ!」
《エターナルコフィン》
デュランダルから凍結魔法がナハトヴァールに直撃、拡散したものもビットが増幅させ凍らせていく、ナハトヴァールは呻き声を上げる。
「なのは、フェイト、レンヤ、はやて!」
凍結魔法の余波が凄まじくクロノ自身、服や髪の一部が凍りついていたが、それでも4人の名前を呼ぶ。
上空の4人がそれぞれ最大級の魔法を放とうとしていた。
「全力全開、スターライト…………」
なのはの前に星が集まるように魔力が集まり巨大な球体を作っていく。
「雷光一閃、プラズマザンバー………」
バルディッシュに雷が落ち、魔力を飛躍的に高めていく。
「煌めけ蒼空よ、スカイレイ………」
前に双剣が円を描くように回転し輪となり、双銃に魔力を込めていく。
「ごめんな………お休みな」
切り捨てる事になってしまった夜天の書の闇、謝罪と別れの言葉を告げ、杖を掲げる。
「響け終焉の笛、ラグナロク………」
展開されるベルカの魔法陣の角に集める魔力。
「「「「ブレイカー!!!」」」」
星達の集いから放たれる桜色の砲撃。
振り下ろされる金色の斬撃。
輪を通りさらに巨大になる蒼空の砲撃。
絡み合い巨大な1つとなる白銀の砲撃。
4つの光がナハトヴァールを吞み込み、凍てついた海を砕いていく。
露出したナハトヴァールの核を、シャマルの旅の鏡で見つける。
「捕まえ………たっ!」
「長距離転送!」
「目標、軌道上!」
ユーノとアルフの魔法陣がコアを挟み転送準備を整えた。
「「「転送!」」」
3人の力を合わせて強制転送魔法が発動し、虹色に光る環状魔法陣が闇の書の闇の残骸を囲み、コアを軌道上に転送する。
「コアの転送、来ます!」
「転送しながら生体部品を修復中!もの凄い速さです!」
「アルカンシェル、バレル展開!」
「ファイアリングロックシステム、オープン」
リンディの前に透明な立方体が現れる。
「命中確認後、反応前に安全圏まで退避します、準備を!」
「了解!」
全員が見守る中アルカンシェルは発射される。
「アルカンシェル、発射!」
リンディが立方体に手をかざすとロックが解除され、アルカンシェルが発射され、闇の書の闇に命中した。時空を歪める砲撃に飲まれて、完全に消滅した。
「効果範囲内の物体、完全消滅。再生反応………ありません!」
『という訳で、現場の皆、お疲れ様でした。状況、無事に終了しました!』
エイミィの言葉にそれぞれが互いに笑い合ったり、終わったと大きく息を吐いたりそれぞれだが、何はともあれ一安心だ。レンヤとなのはとフェイト、アリサ、すずか、はやてと笑みを浮かべハイタッチをしたりと無事に終わった事に安堵した。
その時、はやてとリインフォースの融合が解かれる。
「主はやて、まだユニゾンを解除されては……」
リインフォースの言葉が終われないうちに意識を失い、力なく倒れるはやてをレンヤが支える。
「はやて!」
「はやてちゃん!」
その様子に守護騎士達も集まって来る。
「クロノ、救護班を頼む」
「ああ、分かった」
クロノは頷き、アースラに転送するため魔法陣に乗る。
「ああー緊張して肩が凝ったわね〜」
「皆、頑張ったからね」
「アリサちゃんとすずかちゃんも凄かったよ!」
「うん、私でも勝てるかどうか…」
「とりあえず、一休みしたいな」
レンヤ達が労いの言葉をかけあい、アースラに戻ろうとした時。
ビキン!
「「「!」」」
ビキ、ビキ、バキ………スー
背後の空間に赤いヒビが走り、ゲートが出現した。
「どうやら……」
「私達は……」
「一息つけないらしい」
「えっ」
「レンヤ?」
転送される瞬間、3人は魔法陣から出る。
「レン君⁉︎」
「どうしたの……」
フェイトが言い終わる前にアースラに転送された。
レンヤ達はゲートを見つめ……
「あれだけドンパチやったんだ、出現する確率もあるさ」
「全く、もっと時と場合を読んでほしいわ」
「でも放っては置けないよ」
その時アースラから通信が入ってきた。
『君達!一体なにをしているんだ!』
「ごめんなクロノ、どうやらまだそっちに戻れそうもない」
『そこに一体何があるって言うの!』
「これは私達がすべき事、あなた達はゆっくり待っていなさい」
『もう闇の書の闇は消えたんだよ!』
「でも影響は出ました、見過ごすわけにはいけません」
『レン君!アリサちゃん!すずかちゃん!』
「なのは、すぐに戻る」
ディスプレイから視線を外し、ゲートをみる。
「レンヤ、ここはいつもの号令をやってくれない?」
「そうだね、よろしく頼みます主様♪」
「からかわないでくれ……」
レンヤはアリサとすずかに向き合い、昔に皆で決めたチーム名を言う
「チーム・ザナドゥ、これよりナハトヴァールの影響により海鳴近海に出現した異界の探索を開始する。2人共、気を引き締めて行くぞ!」
「ええ!」
「了解!」
レンヤ達はゲートの中に飛び込んだ。
「消えた!」
「転移したのか!」
「通信が遮断!復帰もできないし転移反応も魔力反応も検出できない!」
リンディ、クロノ、エイミィが3人を捜索。
「レン君……」
「レンヤ……」
「だっ大丈夫だよ、フェイト」
「レンヤ、一体どうして……」
なのは、フェイト、アルフ、ユーノが顔を暗くしている。
「ナハトヴァールの影響……」
「我らの不手際を、任せてしまった」
「待っている事しか出来ないのが歯痒いな」
「3人共、無事でいて」
「………異界」
守護騎士達も待つ事しか出来ず……
「お母さん…」
「大丈夫よ、きっと」
「レンヤ、どうか無事でいて下さい」
アリシア、プレシア、リニスも含め全員がレンヤ達の心配をしていた。
「行くのか?」
「うん、私達がいてチーム・ザナドゥなんだよ」
「忘れていやがるから、1発ガツンと言ってやるんだ」
「そうか、先程の座標に君達を送ろう。よろしく頼んだよ」
「任された〜!」
クライドがラーグとソエルを転移させた、転移後すぐにラーグとソエルはゲートに入った。
「転移反応!ここから転移…ラーグ君にソエルちゃん⁉︎」
「私がやったんだ」
「クライド⁉︎」
「父さん⁉︎」
「今は、彼らを信じよう」