魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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楽園の崩壊、そして……

はやてとアリシアは、消え始めていながらも塔を登り続けるイムを追いかけていた。 イムは超常的な身体能力で外壁を駆け上がり、その後を2人が追う。

 

『私ハ負ケラレナイ! 真ノ自由、人ガ運命ニ束縛サレナイ自由ヲ作ルタメニモ!!』

 

「! そうか……イム、あなたも教団の実験による被害者……」

 

「……居た堪れないなぁ……」

 

イムの必死な叫びに、アリシアとはやてはその中に含まれた感情を読み取り……ほんの僅か、少しだけだが同情した。

 

『痛ミト恐怖ノ中デ真ナルDハ囁イタ! 真ノ自由ガ欲シイカト呟イタ!! ソウ……私ハ選バレシ者! 私ガDト共ニ真ノ世界ヲ作ル!!』

 

「っ! それは人の自由を奪って……人を犠牲にして作るものなんかっ!!」

 

同情も刹那の間だけ。 はやてはその物言いに怒りを覚え、怒鳴る。

 

『世界ヲ変エルニハ人ノ意志、ソシテ神ノ意志ガアッテコソ実現出来ル! コノ世ハ矛盾ト混沌ノ泥デ出来テイル……ソレヲ変革スルニハコレシカナイト何故分カラナイ!!』

 

背から何本もの腕を生やし、その手の指先が空を描くと……巨大な魔乖咒による陣が形成された。

 

「なんて魔乖咒……まさか塔ごと消滅させる気じゃ!?」

 

「そんな事、させへんでえぇ!!」

 

『フフ、今度ハ人ノ届カナイ次元世界デ必ズーー』

 

その時、イムの頭上にリングが……アルフィンのリングが出現した。

 

「あれは……!」

 

『ナ、ナンダ?』

 

突然の事にこの場にいる全員が驚愕し。 リングから3つの魔力が飛び出すと……

 

「レヴァンティン!!」

 

「グラーフアイゼン!!」

 

「クラールヴェント!!」

 

「ーーえ?」

 

シグナム、ヴィータ、シャマルが騎士甲冑を纏った戦闘状態の姿で現れた。 その手には自身の愛機が握られ、魔力が高められ……

 

『紫電双閃!!/コメットクレイジー!!/ジャッチメントウィップ!!』

 

二刀蛇腹剣による一閃、ペンデュラムによる無数の刺突。 そして、ハンマーによる一点突破の打撃……それがほぼ同時に3人の技がイムに叩き込まれ、イムは何が起きたのか理解する間もなく、最後のハンマーの一撃により塔に向かって勢いよく落ち……塔を破壊して中に叩き込んだ。

 

「ちょっと待て! 同時に技名叫んだせいで何言ってんのか分かんなかったんだけど!?」

 

「仕方なかろう。 急にあの男によって呼ばれたのだ」

 

「っていうか、ヴィータちゃんって技名叫ぶのこだわっての?」

 

「み、皆……どないしてここに?」

 

「あ、はやて!」

 

塔の上空で言い争っている3人に、はやてとアリシアは困惑しながら近付くと……2人に気付いたヴィータが駆け寄ってくる。

 

「我が主、ご無事でなによりです」

 

「どこか痛いところはない?」

 

「そ、それは大丈夫やけど!」

 

「はやての言いたいことは分かってる。 アタシ達もいきなり現れたアイツに言われるままここに来たからな」

 

「アイツ? アイツって、誰かが3人をここに連れてきたの?」

 

「ああ。 ルーフェンの部族衣装を着た男だった。 あれはかなりの達人だったが……男が主の助けになると言われたので言われるがまま輪の中に入り……異様な人物がいたので思わず剣を抜いて今に至る」

 

相変わらず剣で全てを解決するシグナムだったが、はやてはそれよりもその3人を連れてきたの人物について考え込む。

 

(……あのリングから通ってきたちゅうことはアルフィンさんと縁のある人。 ルーフェンの部族衣装を……そういえば、レンヤ君のお父さんって……)

 

「ううーん……初めて会う人だったけど、どうにも初対面には思えなかったのよねぇ」

 

「あ、それはアタシも思った。 誰かに似てる気がしたんだが……」

 

記憶の中から思い出そうと頭を捻っていた時、塔全体が揺れ始めた。 すると魔力の奔流が起こり……崩壊し始めた。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「塔から魔力が……まさかアルカンシェルの魔力が暴走しているの!?」

 

「暴走!?」

 

「元々、あれだけの魔力を一か所に留めておく事自体が不安定なんや」

 

「! そうなったら行き場をなくした魔力が弾けて爆発するわ!」

 

「そうなったらここにいる私達も含めて、周囲にいる人達ももろとも全滅だね」

 

「なら、急いで皆をーー」

 

はやては塔の中に向かって飛ぶが……側にあった結晶が熱で柔らかくなったように膨らみ、爆発した。

 

「はやて!」

 

「大丈夫や……」

 

「器をも変形させるほどの魔力……想像以上の破壊力を秘めていそうだね」

 

「この場にいては危険です。 主、ここはお引きください」

 

「せ、せやかてまだ中にはレンヤ君達が……」

 

「この程度でくたばるような皆じゃないよ! 私達がイムを倒している間に撤退しているはず……私達も急ぐよ!」

 

はやて達は空を飛び、その場を離脱する。 そしてアリシアはチラリと塔の方を向き……

 

(大丈夫……だよね?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異界が崩壊して、膨大な魔力に塔も耐えられずに崩れる! 急いで脱出するぞ!!」

 

リンスの先導の元、アリサとすずかは2人で毒で動けなくなっているレンヤの両肩を抱え、崩壊する塔の中で出口に向かって走っていた。 すでにレンヤには異界の薬……アンチドーターを服用させたが、まだ目は覚まさない。

 

「……いつもレンヤが死ぬ思いで頑張っていた……今度は私達が!」

 

「うん、必ず救い出してみせる!」

 

「っ……崩壊するスピードが速い!」

 

「早く、こっちだ!」

 

アリサ達は急いで走るが。 退路はすでに崩れかけ、燃え盛る通路を走り抜けていた時……

 

「どこへ行く気だ?」

 

突如、どこからともなく現れた逆三角形の仮面を付けた男が立ち塞がった。

 

「くっ……!」

 

「教団の残党、他にもいたの!? もう、戦えないのに……」

 

「確か、イムが言っていたここにいないはずの教団の主力……」

 

いつもなら問題ない相手だが……今までの度重なる戦闘による疲労と、消耗し枯渇している魔力では抵抗すら出来ず。 どうにかしようと後ずさっていると、近くから風切る音が聞こえ……

 

「ぐあああ……!?」

 

「!!」

 

突風が巻き起こり、逆三角形の仮面の男を遠くに吹き飛ばした。 そしてそこにいたのは……

 

「ぐずぐずするな、行くぞ!!」

 

「ヴァイスさん!」

 

「行くわよ!」

 

「ーー行かせはしない」

 

再び走ろうとした時……筋肉質で、それぞれが違う種類の仮面を付けた見上げるほどの身長を有している4人の男に一瞬で囲まれてしまった。 その付けている仮面からは異様な気配が発せられている。

 

「か、囲まれたっ!!」

 

(この気配……かなりのランクのグリードがあの仮面に……! しかもこの人数……くそっ、今度ばかりはヤバい……!!)

 

「っ……お前ら……俺達が隙を作る! 振り返らず走り抜けろ!」

 

「ヴァ、ヴァイスさん!」

 

襲いかかってきた男の拳を、ヴァイスは左手の矢で受け止めたが……弾き飛ばされ、ゴギャっと、鳴ってはいけない音を立てながら腕が折れ曲がってはいけない方向に曲がってしまった。

 

「ぬぅああ!! エリアルイン!!」

 

痛みに耐えながらも右手の弓を構え、その場で一回転。 節の刃が楕円面の男を切り裂き、巻き起された竜巻によって天井に叩きつけた。

 

「やああ!!」

 

リンスの蹴りが猿面の男の脇腹に入るが……男は怯まず、手に持つ曲刀を振るった。 それにはリンスは避けられず、痛みを覚悟した瞬間……間にアリサが割って入り、曲刀を剣で受け止め、余りの威力に2人は吹き飛ばされてしまった。

 

「おい!! なんで隙を見て逃げねえ!?」

 

「っ……仲間を見捨てて逃げられる訳ないでしょう……!」

 

「それに……レンヤ君だったら……やっぱりこうしたはずだから!!」

 

「私達も加勢する、全員で逃げられるチャンスができるかもしれない……!」

 

例え戦えなくても、仲間を置いてはいけない……レンヤを壁に寄りかからせ、アリサ達は武器を構える。

 

「フン、意味のない事を!」

 

「構わん……みなで死ねい!!」

 

「ぐあっ!!」

 

「ヴァイス!!」

 

鳥面の男がヴァイスの顔面を殴って壁に打ち付け、拳を振りかぶりトドメを刺そうとしたその時……突然誰もいない鳥面の男の背後から腕がヌッと出てきて、鳥面の男の振りかぶっていた腕を掴んだ。

 

「!?」

 

「え……」

 

「誰だ!?」

 

「気配もなく我らの背後を取るとは……」

 

それには仮面の男達も驚愕し、すぐさま構えを取るが……腕を掴んだ部分からメキメキっという音が出てきた。

 

「ぐがあああ!!」

 

鳥面の男は絶叫を上げながら腕を振りほどき、そしてそこにいたのは……眼鏡をかけた太った男性、塔の入口にいたグリードに連れ去られたはずの一般市民だった。

 

「あ、あなたは……!」

 

「な、なんでここに!?」

 

(な、なんて力……)

 

アリサ達は太った男性を見て驚くが。 アリシアはどうしてここにいると言う感情より、あの仮面の男の腕を掴んで止めた事に驚いていた。

 

「逃げ出した贄か!?」

 

「! 危なーー」

 

蛇の面をした男が背後から太った男性に襲いかかり、アリサが叫んだが……

 

「うっ!!」

 

太った男性は右手の人差し指を立てふりかかった拳を……あろうことかその指の隙間に人差し指を入れて受け止めた。 それにより蛇の面の男からくぐもった声が漏れる。

 

「貴様!!」

 

「何者だっ!!」

 

今度は猿面と鳥面の男が襲いかかったが……今度は左手を広げ、2人の拳を先と同様に受け止めた。

 

「ば、ばかな、拳が抜けん!!」

 

「こやつ、魔神の類か!?」

 

「う、嘘……」

 

あの筋肉質な仮面の男3人を相手に、太った男性は顔色一つ変えず、指先だけで圧倒していた。 そして太った男性はその状態から3人を一気に振り回し……拳から指を抜いて壁に叩きつけた。

 

「おのれ!!」

 

すると、先ほどの曲刀を楕円面の男が怒りを露わにし。 跳躍して太った男性の頭上に飛び……

 

「ヒュウ!! くらえ!!」

 

曲刀を何度も振るって天井を破壊し、落盤が仁王立ちしていた太った男性の上に落下してしまった。

 

「ああ……!!」

 

「そんな……」

 

瓦礫が埋まり、火の手もあってアリサとアリシアは男性の安否に絶望するが……燃え盛る瓦礫が盛り上がり、岩が落ちる音とともに身体の骨がゴキゴキと組み変わるような音を立てながら太った男性が立ち上がり……ジュウっと何が焼ける音も聞こえ、太った男性が火の手から出てくると……

 

「あ、あなたは……」

 

そこにいたのは……羽織っていた外套の下にルーフェンの部族衣装を着た、セミロングの黒髪を一纏めにした二十代くらいに見える男性だった。 すずかは思わず男性を尋ねると、男性はすずか達の方を向き……

 

「私は、その子と縁のある者……名をシャオ・ハーディン」

 

『!!』

 

その名に、アリサ達は反応した。 それが本当なら、彼は……

 

(こ、この人が……!)

 

(ルーフェン武術の1つ、華凰拳歴代最強と謳われた武人!)

 

(そして……レンヤ君の……お父さん!!)

 

すずか達はバッと、背後の壁に寄りかからせていたレンヤの方に向き直ると……そこには既にシャオが肩に羽織っていた外套をレンヤに掛けている途中だった。

 

「!!」

 

「なっ、速い!」

 

「め、目の前にいたはずなのに!!」

 

「気配も、音もまるで感じなかった……!」

 

目の前から消える事すら自覚させない程の速さでシャオはレンヤの元に向かい。 父親らしい行動を見せるが……仮面の男達はシャオが背を向けた隙を狙った。

 

「えああああ!!」

 

「ちっ!!」

 

楕円面の男が曲刀を振りかぶり、飛びかかってきた。 ヴァイスは対応しようと弓を振ろうとした瞬間……シャオはパッと外套を手放し……

 

『うげ!!/がっ!?/おぶっ!!/むご!!』

 

『!!』

 

突如、強烈な旋風が巻き起こり、ほぼ同時に4人の仮面の男達のくぐもった声が聞こえ……勢いを失って地に倒れ伏した。 どうやら男達はシャオによって刹那の間に全身に何度も拳を撃ち込まれたようだ。

 

(は、速くて目で追えない!!)

 

(なんて速度!!)

 

「ーー息子が世話になったね」

 

『!?』

 

シャオはレンヤの元に戻ると重力に引かれて落ちようとしていた外套を掴み、優しくレンヤに被せた。 その間までにかかった時間は1秒にも満たず、アリサ達はシャオに翻弄される。

 

「えっ!?」

 

「感謝している」

 

「いつの間に!」

 

(な、なんてデタラメな速度……しかも今の攻撃、相手は死……)

 

シャオから感謝の言葉を受け取りながら、アリサは冷や汗を流しながら緊張で溜まっていた唾液を嚥下し。 ソーっと、後ろにいるあの攻撃を受け、血を流している男達を確認しようとすると……スッと、アリサの前に横から男達を遮るようにシャオの手が差し出された。 その手の上にはレンヤのリボンがあった。

 

「息子から手当に使われたリボンだ」

 

「え……」

 

「………………」

 

アリシアが呆然とする中、アリサは無言でリボンを受け取った。 するとシャオはフッと微笑む。

 

「ありがとう。 今まで私達の代わりに息子を……ルノの側に居てくれて」

 

「ルノ……それがレンヤ君の本当の……」

 

「ああ、だがもう……あの子はレンヤなのだろう」

 

シャオは少し寂しそうな顔をし、目を伏せる。 その時……

 

「ぐうう……!」

 

「ヴァイス!」

 

隣にいたヴァイスが折れた腕を抑えてうずくまり、リンスが慌てて処置を施す。

 

「……………………」

 

すると、シャオはヴァイスの方を向き、また一瞬で移動して手を伸ばすと……ヴァイスの折れた腕を捻り上げた。

 

「ぐあああ!!」

 

「き、貴様!! ヴァイスに何を!!」

 

その行動にリンスが怒りを露わにする中、シャオはどこからともなく圧力注射器を取り出すとヴァイスの折れた腕に打った。

 

「最新の回復促進剤を打った。 今、治療しなければこの腕はダメになっていただろう」

 

「えっ!?」

 

あの行動が治療と分かると、リンスは怒りの勢いを失い。 シャオは布でヴァイスの左腕を首に吊るし、即席のギプスを作った。

 

「なんて手際の良さ……」

 

「このやり方……どことなくレンヤに似ているような……」

 

「やっぱり、お父さんなんだ……」

 

「ーーおっと、どうやら迎えが来たようだ」

 

「え?」

 

すると、すぐ前にあった壁にヒビが走り……

 

「はあああああっ!!」

 

壁を粉々に破壊してユエが飛び出してきた。

 

「皆さん、無事ですか!?」

 

「ユエ!」

 

「助けに来てくれたの!」

 

「ええ、ヴァイスさんとリンスさんが救出に向かったので無用かと思いましたが……来てよかった」

 

「あ、ああ、本当に助かったぜ……」

 

「……ほう、見事な剄だ。 ヤンの後を継ぐだけはある」

 

「!? あ、あなたは……!?」

 

「それは後! 急いで脱出するよ!」

 

アリサ達はユエが壁を破壊して通って来た道を通ってショートカットして塔を脱出したが……まだ爆発の危険があるため転移で距離を取ろうとした時、目の前にツァリの探査子が舞い散る。

 

「ツァリーー!!」

 

『失敗しても恨まないでよね!!』

 

すると、塔の周囲を囲うように6か所から魔力が溢れ出ると……念威によって構成された桜の木が出現した。 それがバラバラに散って万を超える桜の花びらとなり、爆発寸前の塔の周りを回り、竜巻を引き起こすと……

 

ドオオオオオオンッ!!!

 

塔が爆発したが、竜巻によって衝撃と魔力は天に向かっていき。 アリサ達がいる地点まで衝撃は及ばなかった。

 

「魔力が空に……空中に流されていく!」

 

「た、助かった……」

 

「死ぬかと思った……」

 

『ゼエ、ゼエ……こ、こっちも死にそうなんだけど……』

 

命の危機を脱し、全員地べたにへたれこむ。 沿岸から念威を飛ばしていたツァリはバテバテになって倒れているのだった。

 

そして、2つの世界を隔てた事件は概ね解決し。 一同は一旦沿岸付近に集まった。 ちなみに2匹のザフィーラがいた。 どうやらこちらのザフィーラも飛ばされて来たようで、大太刀を背負っていなったら区別はつかなかっただろう。

 

「うっ……ハアハア……」

 

「レン君!」

 

「アンチドーターでも治せないなんて……」

 

「どうすれば……」

 

先の戦いでレンヤは毒で倒れ、全員はレンヤを囲って一心の思いで治療に当たっていた。

 

「私がもう1人……」

 

「あれがそちら側のシグナム……ふっ、勝てんな……」

 

「ほおー、こうしてみると圧巻やなぁ」

 

「よお、そっちのアタシ。 変わらずちっさいな」

 

「うっせえ! お前が無駄にデカいだけだろうが!!」

 

治療に参加できないシグナムやここのなのは達は、もう1人の自分を見てそれぞれ別の反応を示していた。

 

「……アルフィン」

 

「ええ。 皆、これをレンヤに飲ませて」

 

すると、アルフィンが手元に薬品が入ったビンを転移させ。 なのは達の前に差し出した。

 

「これをこの子に。 解毒薬じゃないけど、治癒力を高めて毒に抵抗出来る身体を作る事が出来る薬……これでレンヤを救えるわ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「じゃあ、早速ーー」

 

「あ、出来れば口移しでお願いね。 溢すとマズイから♪」

 

『!!』

 

アルフィンがそう言った瞬間、なのは達の背後に雷が落ちた。 そして硬直する中、はやてがビンを受け取った。

 

「じゃ、じゃあ皆こんなのイヤやと思うし、せやから私がーー」

 

「イヤじゃないよ! ここは1番付き合いが深い私がーー」

 

「な、なのは、はやて! 抜け駆けはズルいよ! 私がやった方が丸く収まるから!」

 

「それなら私がやるわ!」

 

「いや私がやる!」

 

「私だって!」

 

レンヤの頭上でやいのやいのと、6人の恋する乙女達がビンと唇を巡り合って騒ぎ立てる。

 

「み、皆、レンヤ君の事が好きなんだね……」

 

「なんだか変な光景だね……」

 

「なんやなんや、修羅場かいな」

 

こちらのなのは達3人は自分と同じ顔をした人物が、自分が見た事の無い顔をして争うのを複雑そうに見ており……

 

「んっ!」

 

『ああああああ!!』

 

「あ」

 

一瞬のスキを狙いフェイトがビンを手に取り……一気にグイッと、ビンを煽って薬を口に含み。 残りが大声を上げた時、アルフィンが声を漏らし……

 

「それかなりマズイから」

 

「○×◻︎△ッ?!?」

 

飲み込めず、かと言って吐き出す訳にもいかないフェイトはは声にならない悲鳴をあげる。 そして、涙目になりながらもレンヤに覆いかぶさり……口移しで薬を飲ませた。

 

「ん……///」

 

薬を飲ませらフェイトは顔を真っ赤にしながらレンヤかれ離れた。 するとすぐに効果が現れた。

 

「ーーうっ……! ゴホゴホッ!!」

 

「レン君!」

 

「…………ここは…………」

 

味のせいか咳き込みながらもレンヤは目を覚ました。

 

「身体が怠い……っていうか、また死にかけたのか……」

 

「全く、心配かけさせて……」

 

「良かった……本当に良かったよぉ」

 

レンヤの無事に全員が一安心した時……後ろの方でエリオが抱きかかえていたクレフが目を覚ました。

 

「……うぅ……う?」

 

「!! ククちゃん!」

 

「……ここは……」

 

「大丈夫? 痛いところはない?」

 

エリオはそう呼びかけるが、クレフはボーッとしながら自分を抱えていたエリオを見る。

 

「エリオ……さん……」

 

「よかった……どうやら無事のようだね」

 

『全く、ヒヤヒヤしたよ、っと』

 

コルルはユニゾンを解除し、近寄ってクレフの頭を撫でる。そんな中、クレフはジーッとエリオを見つめる。 そしてほんの僅かに、頰を赤らめる。

 

「……………………」

 

「? クレフ?」

 

「あなたが……私の葦牙(あしかび)……」

 

唐突に、クレフが胸に手を当ててそう呟き。 何のことかエリオは尋ねようとすると……クレフは手を伸ばしてエリオの首に手を回し……

 

「……ん……」

 

「え……むぅ!?」

 

「あ」

 

『あああぁーー!!??』

 

クレフは自分に向かってエリオを引き寄せ……口と口を合わせた。 つまりはキスをした。 エリオは突然の事に呆然としていた。

 

「な、なな、なななっ!?」

 

「幾久しく」

 

2人は離れるとエリオは口をパクパクして顔を真っ赤にし、クレフはエリオの胸に顔を寄せた。 その表情はどことなく嬉しそうだ。

 

「こ、ここ、これって……前にククちゃんが言っていた……こ、婚約の儀!?」

 

「婚約!?」

 

「くっ……思わぬところに伏兵がいるなんて……!」

 

「レ、レレレンヤァ!! エリオが……エリオが大人にぃ!?」

 

「落ち着けフェイト! ガクガク揺らすな、気持ち悪い上にまた毒が回る……」

 

「キュクル……」

 

(………………)

 

「ピューイ♪」

 

ギャアギャアと騒ぐ人達を他所に、召喚獣3体はその光景を微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイワイと言っていいのか、とにかく騒いでいたのをこちらに合流したテオ教官の一喝によりようやく落ち着き静かになった。 そして改めて今回の事件を思い返した。

 

「ふう、一時はどうなることかと思ったけど、何とかなったなぁ」

 

「まあ、私達にかかればあの位ちょちょいのちょいだね」

 

「調子に乗るんじゃないわよ」

 

軽口を叩くはやてとアリシアに、アリサが軽く手刀で頭を叩いた。

 

「ともかく、皆のおかげで助かりました。 管理局を代表してお礼を言います」

 

「皆、本当にありがとう」

 

あちらのはやては標準語でそう言って頭を下げ、次いでなのはもお礼を言った。

 

「さて、後はどう元の世界に帰るかだけど……」

 

「あ!? すっかり忘れてた!」

 

「連れてきたのはイムである以上、事件を解決して即帰還……とは行かなかったね」

 

「ど、どうするんだよ?」

 

どうしようかと思っていたら、母さんが前に出て胸を張った。

 

「それは私にお任せよ!」

 

「アルフィンさん?」

 

「どうやって帰るんですか?」

 

「もしかしてなのは達やシグナム達を連れてきたように?」

 

「この人数じゃあ無理ね。 だから、この子に連れて帰ってもらうのよ」

 

手を前に出して、ポンっと手品のように軽い煙を上げて出てきたのは……

 

「ヤッホー、久っしぶり〜♪」

 

「ソ、ソエル!?」

 

俺の守護獣のソエルだった。 ここ最近ご無沙汰だった気がする。

 

「もしかして、ソエルちゃんの転移魔法で?」

 

「うん! 元の世界にいるラーグをマーカーに、皆を連れて帰るよ!」

 

「ただし、もちろん一方通行だけどね」

 

つまり、この世界とも……ここのなのは達ともお別れか。 多少の寂しさも感じながらヴィヴィオ達とも合流し。 かなりの大人数になってしまったが、ソエルによる転移が始まった。

 

「モコナ=モドキもドッキドキ~! はぁーっ、ぷう~!」

 

額の宝石が光り、背から翼が生えると地面に魔法陣が展開され、陣の縁から魔力の波が上がり俺達を包み込んでいく。

 

「短い間やったけど、ホンマにありがとうな」

 

「こっちも、少しの間やったけど色々と勉強になりましたわ。 おおきにな」

 

「お互い、このミッドチルダの平和を……自分の幸せを大事にしようね!」

 

「うん!」

 

「バイバーイ!」

 

「皆さん、どうかお元気で!」

 

そして、包んでいたいた波が完全に俺達を覆い、球体となり小さく圧縮されると……

 

「は〜……パクッ! ぽ~んっ!」

 

ソエルが大きく口を開けて飲み込み、陣の中に飛び込んで行った。 光が収まり、はやて達が閉じていた目を開けると……そこには誰もいなかった。

 


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