魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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明けましておめでとうございます!

新年最初の投稿です!


生きていた災厄

「嘘だろ……」

 

塔の内部に入り、正面にあった石碑を見てそう言われずにはいられなかった。

 

「どうしたの、レンヤ?」

 

「何かあったの……っ!?」

 

アリシアが隣に来て、石碑を見ると……あまりの事に絶句してしまう。 石碑に描かれていたのは……

 

「D∵G教団のエンブレム……」

 

あの最悪の教団、その印だったからだ。 つまり、ここは教団の施設の可能性がある。

 

「! 思い出した……ここ、なのは達からもらった教団のデータにあった……楽園だよ!!」

 

「楽園って、教団の総本山であるロッジのこと!? 今まで調べても何も出てこなかったのに、今になってなんで!?」

 

「………ぅぅ………(ガクガク)」

 

「!? ククちゃん!!」

 

新たな事実を前に騒ぐ中、後ろでマークを見たクレフが自身を抱きしめて震えていた。 そぐさますずかはクレフに近寄り、落ち着かせるように抱きしめたい。

 

「トラウマを刺激されたようなものね……」

 

「どうします? 一旦クレフちゃんをリンスさん達に預けた方がーー」

 

スバルがそう提案した時……重鈍な音を立てて入り口の扉が独りでに動き、閉じ込められてしまった。

 

「閉じ込められた!!」

 

「っ……開かない……!」

 

『ーーよく来たわね。 異界対策課』

 

念話のようで、しかし物理的に辺りに響くような声が聞こえてきた。 すると、頭上で幻影のように現れたのは……青いドレスを着て、日傘を差している黒髪の女性だった。

 

「アンタは……」

 

「対策課を知っているという事は、私達の世界の人間ね? ホアキンは死に教団は崩壊した……なのに今更何をする気かしら?」

 

『ふふ……いきなり答えを出すのは野暮というもの。 知りたければ登って来なさい……この楽園の塔を』

 

女性は背を向けると幻影は蜃気楼のようにかき消え、側面にあった塔を登るための通路が開いた。

 

「この事態がまさかグリードではなく、人の手によるものとはね……」

 

「まさかここに来て私達の不始末のツケを払わさせられるなんてね……」

 

「少なからず残党はいると思ったが……ここで悔やんでも仕方ない。 先に進むとしよう」

 

これは俺達、異界対策課の後始末。 ティアナ達を巻き込んでしまったのは心苦しいが……彼女達ももう一端の魔導師、心配はしない。

 

「クレフちゃん、大丈夫?」

 

「……はい。 ご心配をおかけしました」

 

「ピューイ……」

 

クレフは気丈を装うが……あり得ないほどの汗をかいている。 心に……魂にまで根付いた恐怖はそう簡単に振りほどけない。 だが退路が断たれた以上逃げる事も出来ない。 意を決して先に進み、階段を上ると……少し開けた場所に出た。 そしてそこには……

 

「っ……いきなりエルダーグリードか!」

 

一体のまん丸い風船のようなエルダーグリードが待ち構えていた。 俺はすぐさま飛び出し、交戦を開始する。

 

「でも、1体しかいない……」

 

「……まるで闘うための舞台ね」

 

「ーーよし!」

 

迫り来る弾丸を避け、懐に入って一刀で斬り伏せ倒した。 すぐさま先に進み、また同じ構造のフロアに出ると……今度は鳥型のエルダーグリードが待ち構えていた。

 

「また……!」

 

「っ…………」

 

今度はアリサが飛び出して三手目で倒し、先に進み……またグリード立ち塞がった。

 

「まさか……これは挑戦か?」

 

「挑戦、ですか?」

 

アリシアが戦っているのを後ろで観戦しながら、思わず出た言葉にティアナが反応する。

 

「全階層にいるグリードを倒して最上階に向かう……これが正しいのなら随分と舐められたものだ」

 

「ええ、まるでゲームのようね」

 

「ーーで、どうするの?」

 

グリードを倒し、こちらに戻ってきたアリシアが質問する。

 

「このままだと時間がかかるが……要請(オーダー)を言うぞ。 俺達はその階層で仲間がグリード戦っている間に先に進み、そこにいるグリードを倒す……これを繰り返して上に進む。 安全のためキャロとルーテシア、エリオとコルルとクレフはペアで進んでくれ」

 

『はいっ!』

 

「分かったわ」

 

「……ヤー」

 

「危険だが……皆なら出来る、必ず教団の野望を打ち砕くぞ!!」

 

『おおっ!!』

 

そして次の階に到着し、そこにいたグリードを俺が相手をし。 他はその隙に脇を通って先に進んだ。

 

そして1分でグリードを倒し、次の階層に向かうと……すずかがグリードと交戦しており。 俺は援護せず、視線だけ交わらせると脇を通って上に向かった。

 

(外で見た高さと階層間の階段の数による高さ、それを踏まえて計算すると…………ざっと100階層! やるしかないか!)

 

数える事をレゾナンスアークに任せ、俺はただ階段を駆け上がり、出てきたグリードを斬り伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、残留思念による氷ね……普通の方法ではまず壊れないし溶けない」

 

シェルティス達がリヴァイアスの最期の足掻きによって氷の呪縛にあい、脱出しようともがいていると……突然現れた金髪の女性が氷を見て1人納得する。

 

「これは普通の方法じゃあ突破は無理かもねえ」

 

「じゃ、じゃあどうすれば……」

 

「まあ、方法はなくは無いけど……」

 

「ーー皆〜!!」

 

「あ……!」

 

「お姉ちゃん!」

 

女性が何か言いかけたその時、塔のある方向から美由希が海の上に乗って走ってきた。

 

「大丈夫……じゃ、なさそうだね……」

 

「見ての通りだな……」

 

「ええっと、確かどれだったかしら……?」

 

「! あなたは……」

 

女性はどこからともなく古い本を取り出し、宙に浮かせ、本が独りでにページを開き女性が流し読みする。

 

「いきなり現れて、でもグリードやこちらの事情にも精通していて……あなたは一体何者なんですか?」

 

「その見てくれも含めて、お聞きしたいのですが?」

 

「あ、あった♪」

 

目当ての項目を見つけた女性はシグナムの質問を聞き流し、手をかざし……

 

「これで……」

 

ポンと音を立ててとても小さな火を発生させた。

 

「原初の火種をフーっと吹いて……」

 

女性は火に息をかけて火球にし、火球を氷に近付けると……みるみる氷は溶けていく。

 

「溶けた溶けた♪」

 

「や、やった!」

 

「後はこれで(ピリリリリ♪)あら?」

 

順調に氷を溶かしていると……ふと女性から通信音が聞こえてきた。 女性は胸の谷間に手を突っ込み……そこから携帯端末を取り出して耳に当てた。 その際、男性陣は顔を赤くしながら目を逸らした。

 

「もしもし〜? あら、あなた」

 

『あなた!?』

 

この場合のあなただと、彼女の夫という表現になるのだが……

 

「ええ、ええ……まあ! あの子とあったのね! 羨ましいわあ〜、もう何年も会ってないから寂しくて寂しくて……すぐにそっちに向かうわ!」

 

「え……」

 

「それじゃあねえ〜♪」

 

「ちょ、ちょっと待っーー」

 

止める間も無く、女性は炎をその場に落とすと……転移してどこかに去って行った。

 

「最悪だ! 散々期待させておいて儚い希望だけ残してどっか行きやがった!!」

 

「溶けるとはいえ、こんな残り火でどうしろと……」

 

残されたなのは達は残った火を前にして頭を悩ませる。 この中で動けるのは美由希だけ……その時、ふと美由希が何かを思い出したかのように手を打った。

 

「ーーあ……アレで行けるかも」

 

「お姉ちゃん?」

 

「太陽の砦の地下にあった温泉があったでしょう? 私、あの水の性質を出せるようになったんだよねえ」

 

「……それがどうしたんですか?」

 

「その水で残り火を広げる」

 

その一言に、全員驚愕する。

 

「炎を広げる水だと!?」

 

「ちょ、ちょっと待って! いくらなんでもあり得ないですーー」

 

「行っくよー!」

 

制止も聞かず、美由希は小太刀を構えて温泉水を勢いよく噴射し、残り火の上を通過してなのは達に浴びせると……氷は溶けて全員が脱出できた。

 

「え!?」

 

「なっ!?」

 

「これは……!」

 

「ふっふ〜ん♪ あそこの温泉はレンヤ命名、(ファイヤー)温泉……常に発火性の高いガスを纏っていて、少しの炎でも燃え上がるんだ」

 

「なるほど、残り火でその温泉水を炙り、水の温度が一気に上がってそれで氷を溶かしたのか……」

 

「よくやった、美由希」

 

ティーダに褒められて美由希は顔を赤くし、照れ隠しでドヤ顔をしながら胸を張る。

 

「それにしても、あの女性は何者だったのでしょうか……?」

 

「……まあ、あんな見てくれをしていたんだ。 大方の予想はつくけど……」

 

「あ! そうだ、皆にお願いがあって来たんだっけ!」

 

今思い出したかのように両手を合わせ、なのは達は塔に向かったが……

 

『……ねえ、皆』

 

「言わなくてもいいよ。 さっきの女性についてだろう? 僕も同じ事を考えていた」

 

「ええ。 先ほどの女性……あの目、色ではなくあの瞳……レンヤにそっくりでした」

 

結局、あの金髪の女性については何も分からないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーこれで……終わり!!」

 

降下しながら刀を振り下ろしてゴーレム型のグリードを真っ二つにし。 消滅するのを確認すると息を吐いて刀を納める。

 

「ふう……流石に手強かったな」

 

《現在、98階層です。 順番通りなら上層にはすずかが、他のメンバーは既に最上層に到達しています》

 

「なら急ぐか」

 

塔を登り続けて1時間……やっと最上層に到達した。 当然のように上に上がる度に敵は強くなり……追い抜いて、追い抜かされてを繰り返して何とかここまで来た。

 

そして99階層に到着すると……そこではすずかと、助太刀しているアリシアが仁王像のような腕が4本あるグリードと戦っていた。

 

「孤月閃!」

 

「四刀弦!」

 

槍と二刀小太刀と2つのソードビットによって5つの斬撃をグリードに刻み、消滅して行った。

 

「やったね」

 

「うん。 ありがとうね、アリシアちゃん」

 

「すずか、アリシア!」

 

グリードが消滅したのを確認し、2人の名を呼ぶ。 2人はこちらに気付き、俺は走って近寄った。

 

「他の皆はもう?」

 

「うん。 レンヤが来る前にサーシャが上に行ったよ」

 

「殆どがもう最上層に向かったようだね。 残りはーー」

 

「はあはあ……い、今どの辺り?」

 

《99階層です》

 

『あとちょっとだな』

 

と、そこにエリオとコルル、クレフが階下からやってきた。 エリオ達は俺達を視界に捉えると急いで走ってきた。

 

「皆さん!」

 

「エリオ、クレフ、無事で良かった」

 

「クレフちゃん、体調は大丈夫?」

 

「はい。 問題ありません」

 

『……他のメンバーはもう最上層?』

 

「うん。 もう敵と交戦しているかもしれない……急ごう」

 

俺達は走り出し、前まで登っていたよりも長い塔の内壁に沿って上に上がる巨大な螺旋階段を駆け上がり……

 

「ひゃーくっと」

 

「ここが紺碧の塔の最上層……」

 

最上層に到着した。 どうやらここは屋上にある塔屋のようで、周りには台座がありその上にはオブジェクトや資料が置かれていた。

 

「これって……」

 

「どうやら資料館のようだな」

 

『趣味の悪い事を。 嫌がらせ以外の何物でもないよ』

 

「……………………」

 

クレフはエリオの背にピタッと寄り添い、エリオを壁にして見ないようにしていた。 少し心配しながらも、1番奥にあった資料を手に取る。

 

そこには教団が崇めるグリムグリードについて書かれていた。 名前は混沌の書架(ケイオス・ダンタリア)……悠久の歴史を知り、未来を見通す力を持ったグリード。 しかし現在は7つの本に自身の力と肉体が分けられており、その本の所在も行方不明……

 

「何だそれ。 自分達を崇める神を見失っているんじゃないか」

 

それでよく神がどうのこうの言えたものだ……呆れながら資料を元の場所に放る。

 

「それにしても……先にここに来たはずの皆さんがどこにもいませんね」

 

「……人が通った後はあるみたいだけど」

 

「一体どこにーー」

 

ドオオオオオオッ……!!

 

『!!』

 

突然、かなり近い場所から轟音とともに衝撃が辺りに響き渡った。

 

「わわっ!!」

 

「これは……魔乖咒!」

 

「あっちからだよ!」

 

奥に扉があり、俺達は扉を蹴破って出ると……そこはドームのような空間になっており、その中央に……アリサ達がボロボロになって倒れていた。

 

「!」

 

「皆!!」

 

急いで駆け寄り、アリサの頭に手を回して軽く起こす。 バリアジャケットはボロボロで、焼けた跡や裂かれた跡が目立っていた。 だが……他の皆を見るとボロボロだがアリサほどではない……どういう事だ?

 

「大丈夫?」

 

「う……くっ……!」

 

「はあはあ……」

 

「そんな……アリサさん達がこんなになるなんて……」

 

「そんなの、この場に1人しかいない……!」

 

優しくアリサを横たえると……振り返り際に抜刀し、高速で迫ってきた弾丸を斬った。

 

「随分とご挨拶だな?」

 

『ーーふふ、この程度でやられるようならそれまでよ』

 

真上から声がすると……そこには先ほどの青いドレスを着た女性の幻影が空中にいた。 女性はドレスの裾を掴んで軽く持ち上げ、こちらに向かって礼をした。

 

『初めまして。 私はイム・ハリアー。 楽園の塔の管理者を務めさせてもらっているわ』

 

「まだ幻で……」

 

「……いや、もしかしたらアレが本体なのかもしれないね」

 

「え……」

 

『ふふ、その通りよ。 あなたも昔は霊体になっていただけはあるわね?』

 

女性はアリシアを見下ろすと、アリシアは少し嫌な顔をしながら肩をすくめる。

 

「不本意だけどね。 肉体の霊体化……一体何をやったのかな?」

 

『全ては大いなるDにいたるため……そのためにはこの身すら供物に捧げるのもいとわない……ただ、それだけの事よ』

 

「たっく……狂っているのは1人だけで充分だっていうのに……」

 

「ーー御託はいい。 この異変を終わらせるために……

 

『あら? 聞きたくないなかしら……なぜ、星見の塔、月の僧院、そして太陽の砦があったのかを?』

 

「……………………」

 

確かに、教団が存在しないはずなのになぜあの建造物があるのかは不思議で仕方がなかった。

 

『それはね、あなた達が来る前に……この世界で後付けしたからよ』

 

「え……」

 

『本来あるはずのない世界に後付けする事で時空の歪みを広げ……グリードを放った。 でもね、ここの人間は弱くて弱くて……倒されないと時空は歪む事はなくこのままでは儀式は完成しない、だからあなた達を呼んだの。 そしてあなた達のお陰で時空は歪みこうして楽園を降臨させる事が出来た!!』

 

原理としては夕闇の使徒と同じ……本来正規の世界に無いはずの物を入れる事で時空に歪みが発生し、それを繰り返す事でこの世界に現れたのか……

 

『楽園の力は万能! 世界の在り方を変える事が出来る! 手始めに全ての次元世界……並行世界に至るまでの全てを消滅させ、世界をリセットする!!』

 

「お決まりの宣言どうも。 でも……お決まりだからってそれをさせるわけにはいかない!」

 

「止めさせてもらうよ。 私達の全身全霊にかけて」

 

アリサ達を壁際に集め、残りの5人が前に出てそれぞれの武器を構えてイムと対面する。

 

『フフフ……』

 

「ーーき、気を付けなさい! 奴は……」

 

背後にいたアリサが声を上げ、イムが手を正面にかざした。 すると……辺りの雰囲気が変化した。

 

「!」

 

「これは……」

 

「まさか……魔力素の濃度が操作されている!?」

 

辺りの雰囲気の変化と呼応して、俺達は手に持つデバイスとの繋がりが途切れるのを感じる。

 

魔力素とは、管理下世界のほとんどに存在するもの。 これが存在する空間で生活することで体内にリンカーコアに魔力を蓄積できる。 よほど大人数が密集した密室でもない限り、個人の取り込む量よりも大気中に存在する量の方が多いため不足することはない。

 

逆に、濃度があまりに高くても吸収できる量に限界があるため、自然回復の阻害や魔法の暴走を起こす可能性がある。 通常濃度の±15%が適正値であり、それ以上でもそれ以下でも回復が阻害される。

 

だが、今起こっている現象はそれ以上。 そもそも、デバイスは魔導師がデバイスに魔力を送り込んで蓄積させて力を発揮させる……その流れが操られている。

 

『相反場、と言ったところかしら。 魔力素を操る事で魔導師とデバイスの繋がりを断ち切る……これで殆どがやられちゃって、そこの金髪のお嬢さんが何とか耐えたくらいね』

 

「それでアリサだけが……!」

 

「くっ……どんどんストラーダから魔力が抜けていく!」

 

『AMFに似ているけど……全く違う! 結合じゃない、魔力そのものに作用している!』

 

「ダメ……魔力が送れない」

 

「ピュイ……」

 

「魔力素濃度が低い状況下での戦闘訓練は私達、VII組しかしてないよ! テオ教官の訓練がこんな場所で役に立つなんて……!」

 

「意外にも教官してたんだね、あの人!」

 

いつ役立つか分からなかった訓練に感謝しつつ、改めてイムを見据える。 俺達を見下ろす目はまさしく見下しているように見える。

 

「皆、油断するな……それだけでアリサ達がやられる相手じゃない!」

 

「は、はい!」

 

「ーーヘルメスフィ、緊急起動。 ガントレットと直接(ダイレクト)に接続」

 

《オーライ》

 

クレフは胸に下げているブローチ型のデバイス……ヘルメスフィに指示を送り。 クレフは一瞬苦悶の表情を見せると……左腕についているガントレットが起動した。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット……チャージオン!」

 

「クレフ!?」

 

「まさか……腕に針を刺して直接魔力を送っているの!?」

 

それなら魔力素や相反場など関係無いが……クレフはゲートカードを投げながらクローネを球にして掴み、投げてポップアウトさせるとすぐさまアビリティーカードを取り出した。

 

「あなたの隙にはさせません。 アビリティー発動!」

 

《Ability Card、Set》

 

「デルタストリーム!」

 

クローネは6枚の翼を広げて回転し、気流が乱れ……相反場が大きく乱れる。

 

『あらあら、相反場が乱れちゃった。 でも……気を抜くとまた元に戻るわよ? 頑張ることね』

 

「言われなくても……!」

 

クレフは膝をつき、アビリティーの発動を維持する。 このチャンスを逃すわけにはいかない……俺は聖王の力を解放し、鮮烈になった視界でイムを捉え……腹部に力が集結しているのを発見した。

 

「アリシア!」

 

「分かってる! すずか、エリオとコルル! あいつのお腹を狙って! あそこが霊体化しているイムのコアだよ!」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

『よし!』

 

『フフ、策を1つ退けたくらいで……思い通りにさせると思って?』

 

活路を見出し、散開してイムに接近する。 だがイムがそれを思い通りにさせるわけもなく……上空から隙間のない魔乖咒による弾幕が張られた。

 

「な、なんて弾幕……!」

 

「ーーエリオは自己防衛! すずかとアリシアはエリオをフォローしつつクレフを守ってくれ!」

 

「あ、レンヤ君!」

 

すずかが呼び止めようとする中、イムに向かって飛び出し、密な弾幕が張られている中を駆け抜ける。 聖王の目のお陰で反射神経や動体視力が上がり、そこに虚空を加える事でほんの僅かな隙間を縫って接近する。

 

『あら』

 

「はあっ!」

 

跳躍して自分に直撃する砲弾だけを斬り落とし、イムに向かって刀を一閃する。 だが……その一閃はかざされた手によって展開したいくつもの六角形で構成されたバリアによって防がれる。

 

『残〜念、あとちょっとだったわね』

 

「それはどうかな? 弾幕が止んでいるぞ?」

 

そう言うと同時にバリアを弾いて距離を取り、直ぐにアリシアが右から高速で接近し……

 

《ファイティングスタイル》

 

「とりゃりゃりゃりゃ!!」

 

両手に持っていた小型の2丁拳銃を銃身の下にレーザーサイトが付いた大型の2丁拳銃に変え。 魔力を放出しながらガンカタでイムを格闘戦に持ち込む。

 

『っ……霊体である私に触れるなんて!』

 

「幽霊だって、実態がないだけで存在はしている……数学の除算でどんなに割っても0にはならないようにね、後はそれを捉えるだけ!」

 

アリシアは銃を射撃ではなく鈍器として扱い流れるように、しかし目にも留まらぬ速さで攻撃する。 だがイムもタダではやられず、すぐさま自分に攻撃が当たる箇所にピンポイントでバリアを張って攻撃を防ぐ。

 

そしてイムが反撃に転じ、牽制としてノーモーションでアリシアに向かって弾丸を撃った。

 

「とおっ!」

 

するとアリシアは両足を振り上げて逆さまになりながら両手を上げて銃口を下に向け、魔力弾を発射する勢いで上昇し回避した。

 

『フフフ、さあこれはどうかしら?』

 

イムは手を掲げると……クレフの頭上に無数の槍が現れた。 そして手を振り下ろすと、クレフに向かって降り注ぐ。

 

「きゃああああっ!!」

 

「クレフ!」

 

槍がクレフに直撃してしまうが、エリオがソニックムーブで助け出す。 そして魔力素が元に戻ってしまうのを感じるが、その前に決着をつける。

 

『今だ、エリオ!』

 

「落ちろ、雷鳴!」

 

コルルによって室内に雷雲が発生し、エリオは槍を天に向けイムに落雷を落とした。 イムはバリアで防ぐが、続けてすずかが槍を天に向けた。

 

《スコールヘイル》

 

「霰よ、降って!」

 

コルルの雷雲を利用して霰を発生させ、大粒の雹を降らせる。 だが室内で降っている所を除けば所詮は普通の霰……バリアを張るだけで防がれてしまう。 だが……

 

「はあああああっ!!」

 

姿がかき消える程の速さでアリシアがイムの周りを駆け巡り、降り注ぐ雹をイムにぶつける。 イムを通り抜けるも身体全体を埋め尽くすほど雹をぶつけて一塊の氷の塊を作り出し……

 

「捕らえよ、素は形なき悠久の牢!」

 

『!?』

 

6つの雹を起点に六芒星を構成し、イムの氷に埋まっていない顔だけを実体化させた。 イムはそのまま地面に落下した。

 

「ぐうぅ……な、なぜだ……なぜ霊体化が解けているの?」

 

「あなたみたいなグリードはそれなりにいたし、対処法も知っている。 慢心が過ぎたね、無敵なんてあるわけもないのに」

 

「そうだな……」

 

だが、なにか引っかかる。 アリサが苦戦したには余りにも簡単に決着がついてしまった。 まるで……この状況を狙っていたような。

 

不審に思いながら考え込むと……突然週一辺りにローブとフードによって姿を隠している、おそらく教団の構成員が突如として現れた。

 

「なっ!?」

 

「こ、これって……」

 

「この人達は……教団の?」

 

Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen(地獄の復讐がわが心に煮え繰りかえる)

Tod und Verzweiflung flammet um mich her!(死と絶望がわが身を焼き尽くす)

 

すると、全員が声を揃え……怨念に満ちた歌声を辺りに響かせる。

 

「これは……ドイツ語?」

 

「うっ………夜の女王のアリア……?」

 

「アリサ、目が覚めたのか」

 

気絶していたアリサが目覚め、彼らが口にする歌詞を答えた。 確かそれは……魔笛の1つ、だがあれは独唱曲。 こんな大勢で歌うようなものではない。

 

すると、突然床が光り出した。 床をよく見ると魔法陣になっており、夥しい程の文字が書かれ……その中心にはイムがいる。

 

「……………………(ニヤ)」

 

「! アリシア、直ぐそこから離れろ!!」

 

「ッ……!?」

 

警告と同時にアリシアは飛び退くようにその場から離れ……

 

Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen(復讐の炎は地獄のように我が心に燃え)

 

「う……アアアアアアアアッ!!!」

 

最後の一節を唱えると、教団の人々が胸を抑え……絶叫を上げながら異形な存在へと変わり果て。 魔法陣の中心にいるイムに群がり、今度はイムが絶叫を上げる。

 

「っ!」

 

「うっ……」

 

「エリオ、クレフ!」

 

惨たらしい光景を見せぬよう、2人を庇って耳を抑える。 そして全ての怪物が集合し、1つの存在に成り代ると……そこには完全に実体化したイムが立っていた。 しかし、その目と気配は余りにも人とはかけ離れている。

 

『アアーーハハハッ!! ついに……ついに手に入れた! 終焉に至る力を!!』

 

「貴様! あれだけの人達を生贄にして自身にグリードを降臨させたのか!」

 

『元々はそこらへんの有象無象を贄にしようと思ってたけど……その前にアンタらに邪魔されて、主力は他の用があってここにはいなかったし残りは雑魚同然……全く、本当に使えない奴らだったわね』

 

「あなたって人は……!!」

 

「ホアキン以上の外道だね!」

 

『これで準備は整った……後はこの塔に魔力を充填し、私を生贄に世界再生の引き金を引くのみ!』

 

イムは高らかに、そして狂気的に笑い狂う。 だが、そんな夢見のような事よりも現実はそんな単純ではない……俺は冷静になってそれを指摘する。

 

「……ちなみに、その魔力はどこから出すつもりだ?」

 

『そうね……SSが100人くらいかしら?』

 

「どう考えてもそれはとてもじゃないけど無理です! 個人から出すにしても今からではとても待ち合わない!」

 

『それが可能なのよ。 あなた達のお陰でね』

 

「なに?」

 

『見なさい』

 

イムは隣に幻影のようで、空間ディスプレイのような役割を持った陽炎が発生した。 そこには塔の上空にいくつもの艦隊が映っている。

 

「次元航行隊……クロノ達か!」

 

『次元航行隊は艦の主砲……アルカンシェルの一斉斉射でこの楽園の塔を破壊するそうね。 どうやら上層部が強行して決行したようね』

 

「そんな……!?」

 

「…………! まさか、アルカンシェルの斉射で魔力の充填を……!」

 

「それが狙いか!」

 

楽園の塔にアルカンシェルを撃ち込み、それにより塔の起動に必要な魔力を確保する魂胆のようだ。

 

『フフ、この世界での教団の手はまだ残っているのよ』

 

「内部犯による犯行か……!!」

 

「で、でも、艦隊によるアルカンシェルがこの一点に斉射されたら私達だって無事では済まない!」

 

『その時は……一緒に心中するとしましょう』

 

『巫山戯るな!!』

 

心中など真っ平御免で冗談ではなく、俺達は声を揃えてキレる。 その時、気絶していた他のメンバーが目を覚ました。 それを確認してエリオに指示を出す。

 

「エリオ、皆に活を入れて塔から脱出しろ!」

 

「そ、そんな……皆さんは!」

 

「イムを倒して、アルカンシェルを撃たれる前に終わらせる!」

 

「それしかないね!!」

 

「ーーコホッ……私もいるわよ」

 

「アリサちゃん、もう大丈夫なの!?」

 

「身体の丈夫さは全員の周知の通りよ。 油断していたとはいえ、おちおち寝てられないし……やられたらやり返すのが私のポリシーだし」

 

汚れた口元を乱雑に拭い、アリサは立ち上がって剣を握る。 そしていつもの4人で災厄を前に立ち向かう。

 

「行くぞ……最恐災厄の悪霊……必ず打ち倒し、俺達の家に帰るぞ!!」

 

「ええ!!」

 

「もちろん!」

 

「やってやるぞー!」

 

『フフフ……さあ、世界ヲ終ワラセマショウ』

 

 

 


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