魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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黄昏の童子

 

 

腹も膨れ、それなりに信頼関係を築けた所で……俺達は六課の会議室に集まっていた。

 

「さて……満腹になり、お互いに信頼関係が出来た所で本題に入ろう。 俺達は独自に調査した結果…………何も分からなかった」

 

そう言い切ると、期待していたなのは達はガクッとコケた。

 

「な、なんやそれ……」

 

「どうやらかなり深い場所に隠れているそうで、調査もツァリの探査子と私の霊感頼り……ハッキリ言えばもう疲れた」

 

「お、お疲れ様です……」

 

「というか霊感って……グリードってもしかして?」

 

「ええ、幽霊に近い存在よ。 アリシアは私達の中で最も感応能力に秀でていてね、よく助けられているわ」

 

アリサは前に出て、スクリーンに映し出されたここ1週間に現れたグリードについて説明を始めた。

 

「ここ1週間で現れたグリードは全部で20体。 抜きん出て関係あるとしたら……海蛇、鼠、馬、羊、猪、兎、それに同時に猿、犬、鳥。 そして昨日の虎に牛ね」

 

「改めて見返すと……グリードの種別がバラバラだね」

 

「猿、犬、鳥が出た時なんかアレだと思ったよね? 桃太郎」

 

「あんまり可愛げがなかったけどね……」

 

「グリードに可愛げを求めるな」

 

太郎がいない、超凶暴なお供の三体だったな……そしてルーテシアの言葉を、ティーダさんはバッサリ切り捨てる。

 

「コホン……最初が海蛇、1番新しいのは牛……しかもエルダーグリードですね」

 

「エルダーグリード?」

 

「それって、さっき言っていたグリムグリードとは違うのですか?」

 

当然、彼女達はグリードの違いがわからないか。 そう思い俺達は説明を始める。

 

「エルダーグリード、簡単に言えばグリムグリードの下位に当るグリードだよ」

 

「エルダーグリードは自身の異界でしか力を行使できない。 だけど、グリムグリードは現実世界に自身の眷族を送る事で力を広い範囲で行使できる……」

 

「脅威度はグリムグリードの方が上なんですが……」

 

「虎と牛型のエルダーグリード……今までグリムグリードだったのに、なんでいきなり……」

 

異界対策課は一応グリードのプロフェッショナル?なのだが……グリードはそれを上回るほど奇怪で歪だ。 依り代の魔導書があるわけでもなく、だからといって突然変異で現れたわけでもない……ホント、グリードの特異性にはいつも頭を悩まされるな……

 

「ーーあ……あああぁぁ!!」

 

「うわっ!?」

 

突然、アリシアが絶叫しながら乱暴に立ち上がった。

 

「ど、どうしたのアリシアちゃん?」

 

「分かった! 今回の事件……じゃないけど、牛と虎、2体のエルダーグリードの関係性! (ことわり)が作用する降臨儀式だ!」

 

そのアリシアの説明に、頭の中に電撃が走ったような感じになり……点と点が結びついた。

 

「……どういう意味?」

 

「……干支で丑と寅が位置する方角の意味、わかる? あそこ、鬼門だよ?」

 

「!? まさか……!」

 

「ーー鬼とは鬼門から這い出るモノ。 鬼門に位置する丑と寅の方角……北東より形を成したもの……そして、今まで現れたグリードも、干支を基盤にすれば」

 

「……順番から海蛇は巳、そこから子、卯、午、 未、申、酉、戌、亥……そして丑と虎、確かにそうなれば繋がるね」

 

「ね、ねえ……その仮説が正しいとして、残るのは……アレだよね……?」

 

「そうだろうな。 それにもしかしたら……八岐大蛇より、な……」

 

そう呟くと、意味がわかる人は顔を少し俯かせる。 と、そこでティアナとスバルが手を上げた。

 

「あ、あの……どうして牛と虎で鬼なんですか?」

 

「話が見えないのですが……」

 

「そうか、ミッドチルダ出身は知らなくて当然か。 大雑把に鬼のイメージは赤い肌をした筋肉質な身体、手には金棒……そして、牛のツノ、虎の皮の履物。 今回は鬼に関する概念が2つを捧げる事で新たな鬼のグリムグリードを顕現させたんだ」

 

「本当はそんなの存在しない、架空の存在なんだけど……グリードを贄にするとなると……」

 

「かなりマズイね……」

 

「あのレベルのエルダーグリードを贄にするなんて……霊気だけが異様に高かったからS級が出てもおかしくない」

 

S級……この位が鬼に当てはまると、ただ本能に任せた暴れまわり。 虐殺を繰り返す存在になる……

 

「やるしかないか。 俺も一応は蒼の羅刹……目には目をってね」

 

「あら、気に入ってたの?」

 

「そんなわけあるか。 アリシア、場所は北東でいいのか?」

 

「うん。 イラはなくて普通の街だけど……すぐに向かった方がいいよ」

 

「はやて、ヘリを借りるぞ!」

 

「りょ、了解や」

 

レンヤ達は会議室を飛び出し、屋上のヘリポートに停めてあったヘリに飛び乗った。 運転はレンヤがやり、エンジンをかけてプロペラを回転させた時……なのは達が走って来た。

 

「待って! 私達もーー」

 

「4人だけだ! それ以上は容認できない」

 

「え!? もっと連れてはいけないんですか?」

 

「そんなに強い人が多いのになんで……」

 

「話を聞いてなかった? 鬼なんだよ……今まで見たグリードとは比べ物にならない。 連れて行くにしても戦闘には参加させない、避難誘導に専念して」

 

シェルティスの凄味のある説明に、なんとか彼女達は納得してもらい。 なのはとフェイト、シグナムとヴィータが同行する事になった。

 

イットとヴィヴィオ、クイントとメガーヌとティーダとリンス、クレフとクローネとコルルは六課で待機し……残りはヘリに乗って目的地に向かって飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリは十数人を乗せ、ミッドチルダ北東にある町の郊外を飛んでいた。 近付くにつれ、鬼気と言うのだろうか……身の毛のよだつような気配が強くなってきた。

 

「うう……(ブルブル)」

 

「なんて嫌な予感……」

 

なのはとフェイトも肌で感じたのか、身体を抱いて震える。

 

「どうやらグットタイミングだったようね」

 

「ああ。 そろそろ着く頃だが……」

 

「ーー! 下から異常な程の霊力が……来るよ!」

 

窓から下を見ると……そこには大きな岩場があった。 その中で1番大きな岩にヒビが走り、大岩を砕いて現れたのは……

 

ーーオオオオオオオッ!!!

 

「鬼……」

 

「マジか……」

 

「なんて威圧、気迫がここまで届いてきます」

 

「……予定通りなのは達は近隣の住民の避難誘導。 残りのフォーメーションはいつも通り、街から離しつつ迎撃に当たる!」

 

『了解!』

 

ヘリの操縦をオートパイロットにし、なのは達を残して俺達は降下した。 そこで改めて鬼の全貌を把握する。 黒々した肌に頭から生えている鋭い一角の角、全長は3メートルを超え手には身の丈を超える肉断ち包丁を持ち、血走った目で降りて来る俺達を視界に捉える。

 

「これが……鬼……」

 

「確かに、ヤバそうだな」

 

「相手にとって不足なし……」

 

「ーー状況開始。 異界対策課、これより鬼退治を開始する……総員、全力で挑むぞ!!」

 

『おおっ!!』

 

ーーオオオオオッ!!!

 

鬼のグリムグリード……トワイライトオーガは咆哮を上げて走り出し、無造作に肉断ち包丁を振り下ろした。 それを散開して避けるが……地面に衝突すると地を割り、衝撃が辺りの木々を大きくなびかせる。

 

「なんて力……!」

 

「小細工なし、正真正銘の怪力かよ」

 

「掠ってもアウトっぽいね……」

 

技も何もない……ただ力任せにがむしゃらに振られている。 だがそのせいで変則的な剣戟になってしまい、受けることも受け流すことも出来ず距離を置いて避けるしかない。

 

「こういうのが一番厄介なんだけど!」

 

「! このグリード……街に向かってますよ!?」

 

「こんなのが街に出たら……!」

 

「ーーリヴァン!」

 

「応ッ!」

 

リヴァンは弓を構え、目にも留まらぬ速さで矢を何発も放ち……トワイライトオーガを鋼糸でがんじがらめにした。 トワイライトオーガはもがくが、もがけばもがくほど鋼糸が身体を切り刻んで行く。

 

「よし!」

 

「今だ! 一斉にかかれ!」

 

捕縛され、動きが封じられた隙を狙い……全方位から一斉に攻撃を仕掛けた。 斬撃は切傷を作り、打撃は骨を砕き、射撃は弾痕を無数に開け、突きは肉を断つ。

 

短期決戦で決着をつけようとした……その時、突如トワイライトオーガの肉体が隆起し、全員の攻撃をその身で弾いた。

 

「なっ!?」

 

「これは……!」

 

驚愕する間も無く、トワイライトオーガの受けた傷が治っていき……さらに肌が鋼のように硬化して鋼糸を切り、筋肉がさらに増える。

 

「傷が治って……!」

 

「しかも鋼糸まで切れた!?」

 

「まさか……攻撃を受ければ受けるほど硬くなるの!?」

 

「マズイ……今ので仕留められないと……!」

 

『! 危ない、避けて!』

 

ツァリの警告と共に、トワイライトオーガは包丁を両手で持ち……無造作に周囲を薙ぎ払った。 それによる衝撃で全員はもちろん木々は吹き飛んでしまった。

 

「くっ……!」

 

「なんて馬鹿みたいな力……!」

 

「キャアアア!」

 

「サーシャ!」

 

トワイライトオーガはサーシャに狙いをつけ、サーシャに向かって包丁が振り下ろされようとした時……横から人影が飛び出し、風が切られる音がすると肉断ち包丁を弾き返し、さらに吹き飛ばして壁にぶつけた。 巨大な剣を振って煙を振り払い、そこにいたのは……

 

「テ……」

 

『テオ教官!?』

 

「よお、久しぶりだな、お前ら」

 

大剣を片手で肩に担ぎ、獲物を狙う肉食獣のような目をした男……旧VII組の戦術教官、テオ教官が立っていた。

 

「いきなりこんな場所に飛ばされてこんな奴がいきなり現れてどうしようかなぁ、と困っていたら……一体どんな状況だよ?」

 

「あ、あはは……」

 

「それはですねーー」

 

ここが並行世界だということ、次元漂流されたのはグリードの仕業だと言うことをかいつまんで説明した。

 

「なるほどね。 しっかし、お前らはホントトラブルに愛されているな。 この前死にかけたばっかりじゃねえか」

 

「お、俺だってこんなの望んでいません!」

 

「そうか、よ!」

 

テオ教官は振り返り側に大剣を振るい、襲ってきたトワイライトオーガの包丁を受け止めた。 それにより発生した剣圧が巻き起こる。 そして両者は何度も剣をまじ合わせ、その度に衝撃が轟く。

 

「凄い……太刀風すら起きてない……!」

 

「大剣を振るうのに余分な力がない証拠だ。 あいつ、また強くなりやがったな」

 

「まあ、それがテオ教官だし」

 

その一言で、皆は納得する。 だが、いくらテオ教官でも決め手がない。 この中で一番攻撃力があるのは……

 

「ーーよし、剄で攻める……武芸者は剄を高めろよ!」

 

「はい!」

 

「分かりました!」

 

「応よ!」

 

剄を使える俺、ソーマ、ユエ、リヴァンは飛び出し、それを見計らってテオ教官が包丁を大きく弾きトワイライトオーガの体勢を崩した。

 

「先ずは俺!!」

 

外力系衝剄・爆刺孔

 

モーメントステップにより一瞬で距離を詰め、剣を右腕に突き刺して体内で指向性のある爆発を起こさせ……右腕を吹き飛ばし金棒を手放させた。

 

『次はリヴァン!』

 

「行くぞ!」

 

外力系衝撃剄・流適

 

ツァリの合図でリヴァンが背後から接近。 衝剄を左脚の細胞内に浸透させ内部からの破壊した。

 

『ユエ!!』

 

「おおおおっ!!」

 

剛力徹破・咬牙

 

脚でトワイライトオーガの胸を踏みつけて徹し剄を流し、続いて掌底で外側からの衝剄を撃ち込み……内外同時に破壊した。

 

『最後はソーマ君!』

 

「参ります!」

 

天剣技・静一閃(しずかいっせん)

 

ソーマは動けなくなったトワイライトオーガの前で天剣を掲げ。 剣に纏われた超高密度の剄を撃ち放った。 が……

 

「遅ッ!!」

 

しかし速度は遅く、思わずアリシアがツッコんだ。 だが、その遅い斬撃は地面を大きく抉りながら進み……超重力斬撃はトワイライトオーガを呑み込み、消滅させた。

 

「ふう……テオ教官、助かりました」

 

「お前らも無事で何よりだ。 それより……今後の方針は決まっているのか?」

 

「いえ、目下元凶の捜索中です」

 

「そうか……しばらくここで腰を落ち着かせる場所はあるか? 徹夜明けでかなり疲れてんだ」

 

「それなら六課に行きましょう。 詳細な情報もそこで」

 

なのは達も戻って来たので、俺達はヘリに乗って六課に帰投する。

 

「あの、レンヤ君。 この人がレンヤ君達の学生時代の?」

 

「ああ、テオ教官だ。 昔は俺達が束になってようやく勝てる程の人だ」

 

「す、すごい……」

 

「……手を合わせる前から負けを認めざる得ないか……」

 

なのはとシグナムはテオ教官を見て、驚きの表情で見つめる。

 

「しっかし、ホント久々だな。 また強くなったようで……シバいた甲斐があったもんだ」

 

「もっと言葉を選んでください」

 

「あ、あはは……」

 

「それに対し……なのはとフェイト、お前ら弱くなってねえか? 目に見えて弱体化してんぞ」

 

「そ、それは……」

 

「え、えーっとぉ……」

 

「テオ教官、実は彼女達はーー」

 

テオ教官は2人を怪訝そうにジロジロ見る中、ユエが2人の事を自分達が知るなのはとフェイトではない事を伝えた。 それを聞いたテオ教官は軽く目を見開いて驚いた。

 

「ほおー……なるほど、通りで」

 

「2つの世界には差異があるんですから、あまり無考えな発言は控えてくださいね」

 

「了解だ」

 

ヘリはそのまま六課に帰投し、俺達は早速会議室に集まった。 そして……

 

「ーー鬼はフェイクだ。 本命は別にいる」

 

「え……!?」

 

開口一番に事実だけを述べ、それに対してはやては思わず驚きの声が漏れ出る。

 

「おそらく日傘のグリムグリードはワザと鬼を出させたんだ。 まるで実験をしているようだな」

 

「夕闇よりタチが悪いね」

 

だが、なのは達はまるで話について行けてなかった。

 

「おそらく機械型グリードはフェイク、残りの生物型グリードを使って降臨儀式をやるつもりだろう」

 

「機械型グリードを混ざらせて、本命を隠していたようだね。 鬼が出たという事は……相手もそろそろ出てくるかも」

 

「干支となると……やっぱりアレかなあ」

 

「ーーあの〜、さっきっからなんの話かチンプンカンプンなんですけど……」

 

おずおずと手を上げて質問するスバル。 他の皆もついて行ってないようで……辛うじてシャーリーが首を傾げて考え込む程度だ。

 

「……鼠、牛、虎、兎、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪……これら11体を生贄に捧げれば……何が出ると思う?」

 

「えーっと……?」

 

アリサの問いに、なのは達は頭を捻る。 だが、答えが出る前にすずかがヒントを言う。

 

「ーー髭は鼠、耳は牛、掌は虎、目は兎、体は蛇、頭は馬、毛は羊、手足は猿、爪は鳥、鼻は犬、牙は猪……これらが合わさって、何が生み出されると思う?」

 

「また難しい質問を……」

 

そのヒントになのは達は頭を悩ませる。 その時、ふとキャロが閃いた。

 

「あ、どこかで聞いたことがあります。 確か竜になるとか……」

 

「竜?」

 

「そう、正確に言えば東洋風と言えばいいのかな? とにかく、それらを合わせる事で龍が生み出される。 しかも11体を完璧に融合させ、綻びもない完全なグリムグリード……その力は計り知れないね」

 

「つまり、私達は嵌められたのですね?」

 

「ああ、鬼なんか目じゃないヤツが出てくるぞ……」

 

「元凶でも厄介ってのに、まだ出てくるってわけだ。 さっさと決着をつけねえとヤバそうだな」

 

「急ぐ必要がありそうだね」

 

俺達の真剣な、剣呑とした雰囲気になのは達は冷や汗を流す。

 

「……進展があるまで現状維持。 何かあったらすぐに動けるようにはしてくれ」

 

「了解」

 

「今後、テオ教官の他に知り合いが次元漂流するとも限らない……はやて、管理局にを伝えておいてくれないか?」

 

「分かったで」

 

「あ、後連絡がつきやすいようにメイフォンの連絡先を教えてくれない?」

 

「…………? メイフォン?」

 

「あ、イラがないから……皆、メイフォンを持ってないのね」

 

こうして、順調と言っていいのか……とにかくこの世界の機動六課と協力関係を組み。 事件解決に向けて歩みを進めるのだった。

 

 


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