魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

191 / 198
交流模擬戦

 

同日ーー

 

レンヤ達並行世界組とこの世界のなのは達が機動六課の訓練場の隅にいる中、中心にはバリアジャケットに身を包んだアリサとシグナムが対面していた。

 

「さて、この勝負どうなるんやろうな?」

 

「アリサちゃんの魔力量はオーバーS、映像を見るからにかなり強い筈だよ」

 

「でも、シグナムも負けてないよ」

 

こちらのなのは達は簡単なプロフィールを見てシグナムとアリサを見て推測を立てる。

 

「レンヤ君、どう見る?」

 

「シグナムには悪いが負けは免れないだろう。 実力の差もあるが、アリサにはシグナムの手の内が見えている。 それに対してシグナムは未知の相手と戦う……実力云々以前の問題だろう」

 

「だよねえ。 見た感じ、あのシグナムは銃を持ってないし……」

 

「え……そっちのシグナムって、銃を使っているの?」

 

レンヤ達の会話に聞き耳を立てていたのか、シャマルは思わず聞き返した。

 

「うん。 チョー強いよ。 レンヤさんといい勝負」

 

「近中距離では無類の強さを誇ります。 僕も10本に1本取れるかどうか……」

 

「シグナムをアッサリ退けたお前でもそう言うのか……そっちのシグナムはどんだけ強えんだよ」

 

ソーマの謙虚な言葉に、ヴィータは少し戦慄する。

 

「バニングス。 お前は炎熱の魔力変換資質を持っているそうだな?」

 

「ええ、アギトの主人でもあるわ。 こっちではあなたが主人だそうね?」

 

「ああ。 先の事件で騎士ゼストから託された」

 

「私の方は研究施設から助け出して以来、かれこれ10年の付き合いになるわ。 そして、こっちの世界のアギトの立ち位置の代わりっぽいのが……あそこにいるコルルって子。 なんでもアギトの兄みたいよ」

 

「なるほど……」

 

世界の差異を改めて感じながら、レンヤが通信を開いて彼女らに呼びかけた。

 

『2人とも、準備はいいか?』

 

「問題ない」

 

「ええ、いつでも始めていいわよ」

 

応答しながらシグナムは鞘からレヴァンティンを抜き、アリサは腰に手を回してフレイムアイズを抜いた。

 

『立ち会いは俺が務める。 双方、全力を尽くすように』

 

レンヤの言葉に2人は無言で頷いた。 そして両者、剣を構え……

 

『ーー始め!』

 

「はあああああっ!!」

 

「やあああああっ!!」

 

ほぼ同時に飛び出し、剣を衝突させ……火花ではなくお互いの炎を撒き散らしながら鍔迫り合いになる。

 

「ふん!」

 

「っと……」

 

シグナムがフレイムアイズを弾き、続けて横薙ぎに振るう。 それをアリサは空中を蹴ってバク転して避け、横に向かって飛翔。 シグナムも飛行して追いかけ、移動しながら剣をまじ合わせる。

 

「……アリサちゃん、飛行魔法で飛んでないね」

 

「うん。 どことなくフワフワしている感じがする」

 

「よく分かったね。 アリサは頭が硬いから非現実的な飛行魔法が使えなくてね。 それで重力魔法を応用して飛んでいるんだ」

 

アリシアが解説すると、それを聞いたティアナが顎に手を置いて考え込む。

 

「重力って……それだったらもっとカクカクした軌道になるんじゃないんですか?」

 

「そのまま使ったら、ね。 応用したっていったでしょ? アリサは重力魔法を下に力が働く重力と上に力が働く反重力に分け、それをリニアモーターに置き換えて飛んでいるんだ」

 

「……つまり重力をN極に、反重力をS極に置き換えているだね」

 

「さすがなのは、飲み込みが早いね」

 

「だがそれだけではあそこまで速く、滑らかにはならない。 アリサはそれに加えて2つ重力を身に纏い、速度制御を出力ではなく身に纏う重力の密度によって制御している」

 

「密度?」

 

「見てみろ」

 

アリサは上昇し、そこから逆さになって足を揃えて空中を踏みしめ……蹴り上げてシグナムに向かって急降下、奇襲を仕掛けた。

 

「な、何や今の!?」

 

「ああやって身に纏う重力の濃度を足元に集中する事で、地面を蹴るように方向転換と加速が出来る」

 

「アリサさん曰く、空を飛ぶと言うより空を泳ぐ気分なんだって」

 

「へえ……」

 

キャロはルーテシアの言葉に興味深そうに声を漏らし、視線を模擬戦の方に戻す。

 

「やるな。 しかもまだ余力があると見える」

 

「そうね。 ちょっと悪いけど、手の内は読めているし……こっちにアドバンテージがあるだけよ!」

 

アリサは手数重視の小技の剣を振るい、シグナムを攻めていく。 確かにシグナムは歴戦の戦士であるが、恐らくアリサ……延いてはレンヤ達はそれ以上の戦場と死線を潜り抜けた戦士。 実力はややアリサの方に軍配が上がっている。

 

「ーーレヴァンティン!」

 

《エクスプロージョン》

 

「遅い!」

 

《イグニッション》

 

流れを変えようとシグナムはレヴァンティンのカートリッジを炸裂させて魔力を上げようとしたが……一瞬遅れてアリサが柄のスロットルをぶん回し、魔力放出力を上げて、シグナムの魔力が上げられる前に剣を大きく弾いた。

 

「なっ!?」

 

驚愕しながら後退し、遅れてレヴァンティンの刀身に炎が纏われる。

 

「カートリッジを使うなら距離を置いて使った方がいいわよ。 それじゃあ高速近接戦においては致命的に遅い」

 

「その機構は、一体……」

 

シグナムはフレイムアイズの柄を見て、思わず声が出る。 観戦していたエリオも気になり、オズオズとレンヤに質問する。

 

「あの、レンヤさん。 柄にあるバイクのハンドルのようなものは何ですか?」

 

「さっき見た通り、カートリッジを使う時に僅かながら時間がかかる。 それを解消し、魔力の上昇とそれを物理機動力に変換できるシステムが……イクシードシステムだ」

 

「単純に考えれば、バイクのスロットルを捻れば速度が上がる。 それをデバイスに置き換えれば魔力が上がる……シンプルにして分かりやすいでしょ?」

 

「ふむふむ、なるほどなるほど……」

 

興味深いのか、シャーリーは納得しながらアリシアの言葉をメモる。

 

「そういえば……レンヤ君やすずかちゃんのデバイスに組み込まれてあったあの歯車は?」

 

「あれはギアーズシステム。 カートリッジは使用後、膨大な魔力上昇が得られる……が、それは短い時間の間だけだ。 俺とすずかが使用しているシステムはその真逆の思想……ギアを個別に駆動させる事で長時間、緩やかに安定した魔力上昇が得られる」

 

「カートリッジのように爆発的な出力は得られないけど、長期戦においては群を抜いているよ」

 

「す、すごい発想です。 勉強になります……!」

 

シャーリーはレンヤとすずかの説明を一語一句違わずにメモを取る。 と、そこで戦況が動いた。

 

シグナムはシュランゲフォルムのレヴァンティンで周囲を薙ぎ払った。 アリサは迫り来る蛇腹剣を紙一重で避け、刀身の一部をスライドさせて砲身を出し、フレイムアイズをカノンフォルムの変形……いくつもの燃え盛る砲弾を撃った。

 

「くっ……!」

 

蛇腹剣では砲弾を消すことは出来ない事を悟り、シグナムは剣に戻そうとすると……アリサが高速で一気に距離を詰めた。

 

「させるかーー」

 

「はっ」

 

《フルドライブ》

 

砲身から炎が吹き出し、刀身にまとわりついて剣を形作る。 アリサがシグナムの眼前に出ると……シグナムは牽制で空いた手で鞘で防御するが、それを読んでいたアリサは防御の鞘を足蹴にして上に飛び上がった。

 

「なっ!?」

 

「あなたは咄嗟の防御の際に鞘を使う! だからこちらのシグナムは左手に銃やもう一振りの剣を持つようになったのよ!」

 

幾度となく模擬戦を重ねていくうちに日々進歩していくレンヤたちに対し、シグナム達は鍛錬を欠かさずとも若い者たちの成長に遅れをとっていた。

 

それが悪いとは言わないが、そんな自分を変え自分の主人たるはやてを守るためにシグナムは新しい武器を、ヴィータとシャマルは新しい戦い方や技を作ったのだ。

 

「バーニング……ソーーードッ!!」

 

そして炎の剣を掲げ、一気に振り下ろした。 シグナムはプロテクションと鞘で防ぐが……スロットルを回し、一気に加速して防御ごと斬り裂いた。

 

「そこまで! 勝者、アリサ!」

 

勝敗が決し、レンヤが声を上げて模擬戦を終了させた。

 

「いい模擬戦だったわ」

 

「ああ。 とても有意義な時間だった。 もっともあちらの私は銃を使っていたようだが……剣にしても、劣っているようだな」

 

「気にする事はないわ、私達の世界を見たはずよ。 強くならなきゃ……今頃死んでいたわね」

 

アリサとシグナムが喋っていると、レンヤが通信してきた。

 

『2人とも、戻って来てくれ。 はやてが後二回やるみたいだから』

 

「了解よ」

 

「では行くとしよう」

 

アリサ達はレンヤ達が観戦しているビルに向かい、次の対戦を決めていた。

 

「次は誰と誰が模擬戦を行う?」

 

「そうだな……実力というより、戦い方を見せるために。 最初はルーテシア、次に美由希姉さんかヴァイスだな」

 

「爆丸とソウルデヴァイスについてだね、それでいいんじゃないかな」

 

「じゃあお相手は、やっぱりキャロにお願いしようかな」

 

「ええっ!?」

 

「それじゃあーー」

 

「待ってください」

 

誰がキャロの手を引いて訓練場に向かおうとするルーテシアを鶴の一声で止めた。 止めたのは……クレフだった。

 

「キャロとのお相手、私に任せてもらえませんか?」

 

「クレフ?」

 

「お願いします」

 

「ピューイ」

 

クローネも同意するように鳴き、クレフは真っ直ぐレンヤを見つめる。

 

「……分かった、ならお願するよ。 すずか」

 

「うん。 はいククちゃん」

 

「ありがとうございます」

 

「ピュイ♪」

 

クレフは緑のガントレットを受け取りながらレンヤとすずかにお礼を言った。 そしてクレフとキャロは訓練場に向かい……キャロはケリュケイオンを構えてフリードを本来の姿に戻し。 クレフはガントレットを腕につけた。

 

「ねえ、あのクレフって子……キャロとはどんな関係なの?」

 

クレフの行動が気になったのか、スバルが隣にいたサーシャに聞いてきた。

 

「えとえと……クレフちゃんはキャロちゃんの親友です」

 

「え……!?」

 

「と言っても、前までこの世界のルーテシアの立ち位置だったんですけどね。 僕達の情報を見たのなら分かるよね……D∵G教団について」

 

ソーマがそう言うと、なのは達から息を飲む音が聞こえてした。

 

「クレフの出身地はキャロと同じ、第6管理世界のアルザス。 数年前に誘拐されて……この前キャロの手によって助け出されて今に至るってわけだ」

 

「そんな事が……」

 

「……………………」

 

「……始まるよ」

 

風が吹いている中、クレフとキャロは対面する。 キャロはフリードの背に乗り、クレフはビルの上に佇んでいた。

 

「お、お願いします……!」

 

「……お願いします」

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット、チャージオン」

 

礼とともにクレフはガントレットを起動。 画面から緑色の光が放射され、クローネが球となる。

 

「は、隼が球に!?」

 

「あの装置……ルーテシアもつけてましたけど、あれは一体……?」

 

「百聞は一見にしかずだな。 見ていれば分かる」

 

「ゲートカード、セット。 お願い、クローネ。 爆丸……シュート……!」

 

シャーリーがガントレットを観察する中、クレフはカードを地面に投げ、懇願するようにクローネを掴み……投げた。

 

「ポップアウト、ゼフィロス・ミラージュ・ジーククローネ」

 

「キルルルル!!」

 

緑色の光を放ちながら現れたのは三対六翼の緑色の隼だった。

 

「これは……!」

 

「ガリューと同じ……もしかして彼女も?」

 

「ええ、あれは使い魔や召喚獣といったパートナーに仮初めの姿を与えて進化させるシステム……爆丸システム」

 

「主人と使い魔を線で繋ぐとしたら、爆丸システムはその間に入って魔力供給を補助、支援する働きがある」

 

「えっと……とにかく凄いって事ですね!」

 

頭を捻っていてよく分かっていないようだが、スバルは凄いの一言でまとめた。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動、フェザーバレット」

 

クローネは六翼を羽ばたかせ無数の羽根の弾丸を放った。

 

「プロテクション!」

 

「グオオオオッ!!」

 

正面にプロテクションに展開して羽根の弾丸を防ぎ、間髪いれずフリードが火球を放つ。 クレフはクローネに飛び乗り、空に飛び上がって火球を避ける。

 

「フリード!」

 

「グルル!」

 

フリードも飛び上がってクローネを追いかけ、訓練場の上空で飛行戦が繰り広げられる。

 

「ほおー……凄いねえ」

 

「機動力はクローネの方に部があるみたいだね」

 

「でも、フリードも負けてません!」

 

「……ククちゃん、大丈夫そうだね」

 

「ああ。 今は複雑な心境だと思うが、キャロはククのカウンセリングに熱心だったからな」

 

上を見上げながらレンヤは呟く。 2人のライダーは何度も衝突し、魔力を散らす。 ふとクレフは攻撃の手を止め、並んで飛行する。

 

「……やっぱり」

 

「?」

 

「やっぱり……あなたは私の知るキャロ・ル・ルシエではない。 ですから、改めて名乗らせてもらいます」

 

クレフはクローネの背に上で立ち上がり、胸に手を当て……

 

「私はクレフ。 クレフ・クロニクル。 コードネームは(シルフ)。 そしてこの子は……ゼフィロス・ミラージュ・ジーククローネ」

 

「キルルル……」

 

「これより模擬戦を終結させます」

 

「え……!?」

 

もう無くなっているとはいえ、自分のコードネームを名乗った。 その行動にキャロは驚くが、クレフは勝利宣言を言いながらガントレットにカードを入れた。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動、デルタストリーム」

 

アビリティーが発動し、クローネは翼を広げ、回転を始めた。 すると気流が乱れ、フリードの飛行を妨害する。

 

「うっ……フ、フリード!」

 

「ダブルアビリティー発動、ゾーンヴェルデ。 プラス……ゴーストストーム」

 

緑色の魔力を身に纏い、身体を強化して高速移動を可能にし。 さらに魔力を纏って威力を相乗させ、高速でフリードに飛来する。

 

「フリード!」

 

手綱を引き、フリードは上昇する。 背後からは高速でクローネが接近し、今にも激突しそうな勢いだ。

 

「プロテクーー」

 

「フェザーインパクト」

 

激突する瞬間キャロはプロテクションを張ったが……クローネはそのまま横を通過する。 しかし、クローネの背に乗っていたクレフがすれ違い間際に横から羽根を飛ばし……衝撃波を放った。

 

「きゃあああああ!」

 

衝撃でフリードは体勢を崩し落下し、キャロは背中から落馬……もとい落竜してしまった。 だが、すぐにクレフがUターンして受け止め、クローネは足でフリードの背を掴んだ。

 

「ーーそこまで! 勝者、クレフ!」

 

レンヤが声を上げて模擬戦を止め、模擬戦の

決着を付いた。 クレフはそれを聞き、キャロを後ろに乗せてレンヤ達の元に飛んだ。

 

「……あの!」

 

「?」

 

その時、キャロがクレフに声をかける。

 

「たしかに、私はあなたの知るキャロじゃありません。 でも……だからこそ、私とお友達になってもらいませんか!」

 

「!」

 

クレフは目の前に差し出された手を凝視する。 そして視線を自分の手に移して……手を背中に回してゆっくりと握手をした。

 

「はい……私でよければ」

 

「うん! よろしくね!」

 

その光景を、レンヤ達は嬉しそうに見ていた。

 

「……よかったですね」

 

「うん。 僕達じゃどうしようもなかったから……あの子が前に進めて本当に良かったよ」

 

「これで本当に、教団事件が解決したな」

 

ツァリ達は柔らかい表情を見せるクレフを見て、ホッと一息ついた。

 

「使い魔に仮の姿を与えて力を上げ、魔力伝導を飛躍的に高める……凄いシステムです。 実力も技術もこちらを遥かに上回っています」

 

「悔しいが、認めるしかねえな……」

 

「まあでも、まだまだ真骨頂じゃないんだけどね」

 

その呟きにシャーリーが驚きの視線を向ける中、レンヤは皆の方を向いた。

 

「さて、残り一戦は出来そうだが……こっちは美由希姉さんが行くとして、そっちは誰が行く?」

 

「あ、はいはい! 私が行きます!」

 

「スバル!?」

 

ウズウズしていたスバルが飛び上がる勢いで手を上げる。

 

「ならそれで決まりだね。 スバル、美由希さんは基本陸戦だから、なるべくウィングロードを使わないでね」

 

「分かりました」

 

「それじゃ、行こっか」

 

すずかが軽い注意事項を言うと、美由希はスバルの手を引いてビルから降りて行った。 数分で2人は訓練場の真ん中に到着した。

 

「なあ、レンヤ君。 レンヤ君はなんで美由希さんの事を姉さんって呼ぶんや?」

 

「簡単に言えば、俺は高町家の養子だからさ。 両親に捨てられ、拾ってくれて、今まで親身になって育ててくれた……血の繋がらない大切な両親だ」

 

「ってことは、なのはと1つ屋根の下で……?」

 

「にゃ!? わ、わわわ、私そんな事……!」

 

「わかっているから動揺しない」

 

慌てふためくなのはをアリサは頭を軽く叩いて止める。 そして、陸上で美由希とスバルが対面する。

 

「……ソウルデヴァイス起動。 斬り開けーーアストラル・ソウル!」

 

美由希はメイフォンを操作し、右手に小太刀型のソウルデヴァイスを展開して構える。

 

「それが……」

 

「そ。 これが私のソウルデヴァイス。 私は魔導師じゃないからバリアジャケットは展開できないけど、Dなんとかのクラッシュどうたらを使ってるらしいから……怪我を気にせずおいで」

 

「はい……!

 

スバルもマッハキャリバーを起動してバリアジャケットを纏い、拳を鳴らした後構え……

 

『ーー始め!』

 

「うおおおおっ!!」

 

レンヤの開始の合図と同時にローラーブーツから火花を散らして飛び出した。

 

「ふっ……」

 

迫ってきた拳を美由希は小太刀で横に構えて一瞬受け止め、受け流してスバルの体勢を崩し……リボルバーナックルを斬り上げて弾き返した。

 

「っ!」

 

「遅い!」

 

すぐさまスバルは体勢を整えようとするが、それよりも速く美由希が背後を取り……

 

飛瀑衝(ひばくしょう)!」

 

逆手で小太刀を地面に振り下ろし、間欠泉のように強烈な水飛沫を上げてスバルを打ち上げた。

 

「うわあああ!?」

 

《ウィングロード》

 

マッハキャリバーがウィングロードを展開し、ローラーブーツで進むことで体勢を整えた。

 

「っとと!? 助かったよ、相棒!」

 

スバルはマッハキャリバーに礼を言い、下を見ると……どこにも美由希の姿はなかった。

 

「って、いない?」

 

《右手、ビルの中です》

 

「ーー渦流刃(かりゅうじん)!」

 

バッと右側に振り向くと……美由希が小太刀を立てながら水を放出し、高速で錐揉み回転しながら突撃してきた。 さながら水の力で回転するドリルだ。

 

「うわっ!?」

 

身をそらせて避けるも、僅かに触れてしまい。 リボルバーナックルに無数の傷を付けた。 そして美由希は制動をかけながら水球を周囲に浮遊させ、その上に立った。

 

「なかなかやるねえ」

 

「な、なにこれ……水球が浮いている?」

 

「私のソウルデヴァイスの属性は霊。 応用でこんな事も出来るんだよねえ」

 

その光景になのは達も驚き、フェイトはオズオズとアリシアに声をかけた。

 

「あの……アリシア……さん……」

 

「……フェイトに他人行儀にされるとかなりむず痒いんだけど……美由希が言った属性についてだね」

 

アリシアは複雑そうな顔をして頭をかいて、軽く咳払いをしてから説明を始めた。

 

「ソウルデヴァイスに限らず異界、グリードにはある法則性があるの。 焔、風、鋼、霊、そして影で構成される5属性……美由希は水や氷に関する霊属性だよ」

 

「ちなみにヴァイスは風属性、速度ではフェイトといい勝負するだろうな」

 

「そ、それは買い被り過ぎっすよ。 美由希のようにあんな事はできないし……まだまだですよ」

 

ティーダは賞賛するが、ヴァイスは身に余るように照れながら手を振った。

 

美由希は微笑むと、足から水球に沈み、自分から水球の中に入った。 スバルはその行動を不審に思えが……次の瞬間、先程より速度が上がった渦流刃で水球から射出された。

 

「くっ……」

 

ウィングロードで駆け抜け、美由希から逃れる。 スバルはこの場所から出ようとする。 だが、寸前のところで美由希に先回りされ道を塞がれてしまい……スバルは水球の檻に囚われてしまった。

 

「水球から水球に移動してスバルさんを追い込んでいる……」

 

「あんなに回って大丈夫なのかしら?」

 

「美由希さんの三排気管は達者だからね。 昔から遊園地のコーヒーカップを全力で回していたし」

 

「……そうだったね……」

 

すずかの言葉に、妹であるなのはガックシと項垂れながら同意した。 世界は違えど、共通点はあるのだった。

 

スバルは美由希を捉え、ラッシュをかける。 だが美由希はスバルの拳を左手で受け流し、隙を狙って蹴りを放ち押し返した。

 

「うぐっ……つ、強い……」

 

「なかなかやるねえ……でもまだまだこれからーーって、お?」

 

美由希は立ち上がると、左手を見下ろす。 そして左手を振ると顔をしかめる。

 

「左手が超痛い、なんで?」

 

確かに左手で防いだが、美由希は打撲もしてないのに痛みを感じる事を不審に思っていた。

 

「……クラッシュエミュレートが発動してるわね。 誰も説明しなかったの?」

 

「し、知っていると思って……」

 

「今からでも遅くはないから切っておく?」

 

アリシアにそう言われてレンヤは美由希を見る。 美由希は嬉々としてあいも変わらずスバルと戦っている。

 

「大丈夫だろ」

 

「ーー澪弧斬(みおこざん)!」

 

「うおおおおっ!!」

 

回転しながら移動し、水の斬撃を放つ。 それをスバルは手をかざしてプロテクションを張り、強引に突き進む。

 

2人は接触すると、お互いにラッシュをかけて打ち合う。 美由希は流れるように小太刀を振るい。 スバルはリボルバーナックルで小太刀を受けつつ、足技をかける。 そして……美由希が仕掛けた。

 

「これで決める!」

 

バックステップでスバルから距離を取り、居合いの構えを取り……

 

荒海(あらがみ)……大蛟(みずち)!!」

 

巨大な水の斬撃が放たれ、枝分かれして無数の斬撃がスバルに向かって飛来する。 スバルはウィングロードを駆け抜けてそれをかいくぐり……拳を握るが……

 

「なっ!?」

 

目の前に美由希はいなく、振られた拳は空を切った。

 

「ーーうわっ!?」

 

「はい、終わりっと」

 

そして、美由希はスバルの背後におり。 足払いをかけてスバルを転倒させ、眼前に小太刀を突き付けた。

 

「決め技を囮に使いますか……?」

 

「決着は付いてたと思うけど?」

 

『そこまで……て言わなくてもいいか』

 

『2人とも、戻って来て』

 

なのはが通信で呼びかけ、2人はレンヤ達の元に戻った。

 

「結果はそちらが全勝……クレフちゃんは全力だと思うけど、アリサちゃんとお姉ちゃんはまだ余力があるね」

 

「何でそない強いんや?」

 

「グリードと戦って、人外と戦い続けたからかな?」

 

「あ、あれとですか……」

 

「あんなレベルがウジャウジャいるのかよ……よく生き残れたな」

 

「まあねえ」

 

「ホント、何度も死にかけたわよ」

 

「大変だったんだね、アリサちゃん……」

 

「色んな人に助けられたからそこまで苦じゃなかったよ。 特に学院での経験は最高だったよ♪」

 

「えっと……確か、レンヤ達は高等部を卒業したんだよね?」

 

「ああ、この世界にはないが……かの覇王が創立した由緒正しい学院、レルム魔導学院をな」

 

「私らのうら若き青春は……仕事によって儚く消えてもうたからなぁ〜……」

 

フェイトの質問にレンヤが答え、はやては遠い目をして空を見上げる。

 

「なんだ、なのは達は高等教育を受けてないんだな?」

 

「ま、まあね……」

 

「確かに管理局での仕事も大事だが、若い時に出来ることをやらないと損するぞ……って、もう遅いか」

 

「まだ遅くないわ! まだピッチピチの二十歳や!」

 

「そ、そこまで必死にならなくても……」

 

「えとえと、まだはやて隊長はお若いですよ」

 

必死になって否定するはやてに、ソーマとサーシャは困惑しながらもフォローする。

 

クゥ…………

 

その時、可愛らしい腹の音が聞こえてきた。 ただし、二箇所から。

 

「パパー、お腹空いたー」

 

「空いたー」

 

2人のヴィヴィオがお腹を抑えて親に食事をねだった。 改めてヴィヴィオ2人を見ると、レンヤ達の方のヴィヴィオがかなり明るく見える。 だがそれも比べるほど差はないが……

 

「そろそろお昼か……」

 

「ヴィヴィオ、何が食べたい?」

 

『なんでも!』

 

「あ……あはは、そう言われると逆に困るけど……」

 

2人のヴィヴィオが同時に言い、なのは本当は一体何に困っているのかはわからないが……父親、母親の2人が親バカなのは変わりなかった。

 

「ーーリヴァン、何か作れるか?」

 

「この人数だからなぁ……ちょっとばかし豪快にやるか」

 

「お! リヴァンの料理かぁ……学院の時以来だね」

 

「え、君って料理できるの?」

 

フェイトは驚いた顔をしてリヴァンを見る。 それを慣れた風に流しながら肩をすくめる。

 

「お前に君呼ばわりはこそばゆいし、それ以前に見た目で判断しただろ」

 

「それはそうだよ。 リヴァンは素朴で野蛮だから」

 

「意味わかんねー貶し方するんじゃねえよ!」

 

リヴァンとシェルティス、最早これが定番の仲の良さの表し方だ。

 

「ちなみち僕達は全員料理はできるよ。 人並みだけどね」

 

「ファリンが来るまでは料理当番は基本ローテーションだったからね」

 

「さて……アリサ、火ぃ頼めるか?」

 

「ええ」

 

すると、アリサは誰もいない場所に火を放ち。 火は大き目な円を描き、それ以上は燃え広がらなかった。 そしてリヴァンがその周りに石を置いていく。

 

「って、ここで料理するの!?」

 

「ーー食材持ってきたよ〜」

 

「おお、あんがとよ」

 

いつの間にかルーテシアとガリューによって揃えられた食材は中華がメイン。 するとリヴァンは鋼糸を出しながら食材を上に放り……豚肉を角切り、豆腐をさいの目切り、卵は卵黄を傷付けずに一瞬で鋼糸で切った。

 

こんなやり方を見たことのないなのは達が驚く中……魔力を物質化して作った簡易巨大中華鍋に食材を入れ、取っ手を足で踏みつけて振り、空いた手で塩などの調味料を鷲掴みして投げ入れ……ものの数分でこの大所帯分の料理が完成した。

 

「す、すごい……あっという間……」

 

「こんな豪快な作り方初めて見ました……」

 

「そりゃそうだろ。 さあ、ルーフェンの郷土料理の完成だ。 不味くはないと思うぞ」

 

鋼糸を使った料理など聞くことはまずない。 レンヤ達は驚くなのは達を置いた料理を皿に取り分け……気にせず、まずは麻婆豆腐を口にした。

 

「おぉ……!? リヴァン、また腕が上がったんじゃないの!?」

 

「ん〜〜♪ 辛いけど優しい辛さ……前はただ辛いだけだったけどこれなら食べられるよ!」

 

「あの時は皆でハヒハヒ言いながらご飯と一緒にかき込んだよね……」

 

「それ以降、麻婆豆腐を見た人はいないけどね」

 

レンヤ達は思い出を遠い目を見てしながら思い返し、なのは達も恐る恐る料理を口にし……驚きで目を見開いた。

 

「ホント、美味しい!」

 

「あの豪快な作り方で出来たとは思えん程の味やなあ」

 

リヴァンの料理に舌鼓をうちながら、親睦会のように和気藹々としていた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。