11月20日ーー
事件から2ヶ月ほど経ち、六課の隊舎も完全に修復されそれぞれのメンバーが通常の業務に戻っていた。 イットとヴィヴィオも一時保護と検査を終え、今は六課で平和に暮らしている。 幸せを……守れたんだよな。
ちなみに事件後、空気が読めないと判決を受けたクロノはなのは達やツァリ達によってフルボッコにされたりする……俺は仕方なしと思い、撃たれた事に気にしてはいない。
そして、逮捕されたスカリエッティとその一味の戦闘機人、ウーノ、トーレ、クアットロは事件捜査に協力的を見せなかった事からそれぞれ別世界の次元拘置所へ。 逆に罪を認め、事件捜査に協力的なチンク、セイン、セッテ、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディードの8名はミッド海上の隔離施設。 そこにはライトニング隊が保護したクレフ・クロニクルとコルルことコルディアも自分の意志でそこにいた。
「よお、元気してるか?」
「また来たのかよ、随分と暇してんだな?」
「あはは、まあね」
隔離施設の広場の芝生に座っていた水色髪の女子……セインが皮肉気味に言う。 俺達、旧VII組男子組は時々、こうして彼女らの見舞いのように顔を合わせていた。
「どうやら良い子にしているみたいだね」
「子ども扱いをするな!」
「生まれて二桁歳を取ってないんだから十分子どもだよ」
「あはは、そうスっね」
ツァリはディエチの頭を撫で、ディエチは照れ臭そうにその手を払う。 それを見ていたウェンディは他人事のように笑う。
「……いい加減、私を心配するのはよしてもらいたいのですが……」
「そういうな。 鋼糸の怪我は普通の医療では治りにくいんだ」
「ふむ……?」
リヴァンは先の事件で負傷させてしまったセッテの治療を行っていた。 どうやらあの事件の時に腕や足を複雑に斬ったらしい。 その光景を横からチンクが興味深く観察している。
「他の姉君は残念でしたが、今度はあなた達自身の意志で……選ぶ道を模索してください」
「はい!」
「延いてはやはり……」
ユエはカウンセリングとして通っており、双子のオットーとディードにカウンセリングをしていた。 ちなみにユエ、どうやら聖王教会に興味を持ったようで、ここ最近は頻繁にベルカを出入りしていたりする。
「ヤッホー、レンヤ。 エリオは元気?」
「ああ。 もうすっかり回復して、槍の鍛錬を毎日やっている」
「そうこなくちゃ。 姉さんから受け継がれたんだ、かの雷帝の足元くらいにはなってもらいたいね」
ハードルかなり高いな……まあ、仮にも一撃入れたエリオなら、いつかはあの領域まで届くかもしれないな。 今後が楽しみだ。
「それよりも……レンヤの方こそまだ治ってないの?」
「右腕が1番酷かったからな。 もう数日はかかるそうだ」
まだ怪我が治りきっておらず、右腕をギプスで固定して首から下げていた。 これでも十分早い方だがな、本来なら半年はかかる。 まあ、歳のせいで代謝が落ちているのもあるけど……これが歳を感じるというものなのか?
「ふうん……?」
「ーークレフちゃん、キャロちゃんはあの時言った事は気にしていないみたいだから……そろそろコルルも含めて出所できるんだし、顔を合わせてもいいんじゃないかな?」
「…………はい…………」
シェルティスはクレフにそう話しかけ、クレフはとても小さな声で返事をした。 恐らくキャロとの関係修復は時間がかかるだろう。 D∵G教団に攫われたのも事実、しかし……どうやら操られていた時の記憶はないらしい。
あの闇の魔乖術師、シャラン・エクセは記憶が残るように仕向けていたようだが……記憶処理を施した歪の魔乖術師、ジブリール・ランクルがどういうわけかあっさり元に戻してしまった。 最も、それがなかったらキャロとルーテシアが脅していたそうだが……
魔乖術師で逮捕されたのは前述の2人のみ。 シャランは拘置所、ここにはいないがジブリールはこの隔離施設にいるそうだ。 聞くところによると、かなりこちらに協力的らしい。 なんかアリサと聞いた話と第一印象を元にするとかなり怪しいが……凄く大人しくしているようなので特に問題視はしていない。
「ノーヴェも、スバル……というより、クイントさんにちゃんと向き合ってやれよ?」
「うぐ……仕方ねぇだろ。 なんかあの人、妙な目つきでアタシを見るんだから……」
どうやらノーヴェはギンガとスバル同様、クイントさんの遺伝子から生まれたらしく。 一応直接的な遺伝子上の姉妹に当たるらしい。 それを聞いたクイントさんは“娘が増えた!”と、興奮しているのだ。
「ま、お前達も新しい道が開けたんだ。 まずは夢を……目標くらいはもってもいいんじゃないか?」
「目標かぁ……人外にならない事?」
「……どこ見て言っている……?」
「つうか、アタシ達の方がよっぽど人じゃねえぞ」
「そこは気にしな〜い」
調子のいいセインは俺を見ながら目標を言い、ノーヴェの指摘をどこ吹く風のように流した。
「……心身ともに良好か。 ま、元気そうでなによりだ。 ホレ、差し入れのーー」
「うおおおぉ!! ドーナツ寄越せーー!!」
「よこせー♪」
リヴァンは持っていたドーナツの箱をセッテに見せると……近くにいたウェンディはそれを見て目を見開き、リヴァンの頭を鷲掴みして襲いかかり。 便乗してセインも行った。
「あいつら反省する気あんのか……?」
「いいじゃないかな、面白くて」
「全く……」
「ふふ、これならここを出るのも時間の問題ですね」
「出たら出たで心配だがな……」
ミッドチルダにある霊園、そこにゲンヤ・ナカジマ、すずか、アリサ、シグナム、そして……ゼストが歩いていた。
レジアス中将の葬式は先週、知人や彼の舞台のみの静かなものとなったが、彼らは日を改めてまたここに来た。
「すずか、お前が見つけてくれたデータのお陰で、戦闘機人事件は綺麗に肩が付いた。 改めて礼を言わせてもらおう」
「いいえ……! あのハルバードを調べている途中、偶然見つけたものですから。 彼女も結構回りくどかったようですし……」
「ふ、言えてるな。 かの雷帝は人に試練を与えるのが好きだったからな」
「どこまでも武人、というわけね」
そしてそのハルバードは検査後、かの雷帝の願い通り。 今世の雷帝ダールグリュンの血統、ヴィクトーリア・ダールグリュンに受け渡された。 受け取った時のヴィクトーリアの顔は畏れ多く、しかし宝物を見つけたようなキラキラした目をして恭しく受け取った。
そして、レジアス・ゲイズが眠る墓に到着すると……そこには既に花が添えられてあった。 辺りを見回すと……木の陰にオーリスがいた。 その後ろには黒服の男が彼女を監視するように控えている。
オーリスはこちらに敬礼をすると、全員静かに敬礼を返した。そして……そのまま黒服の男に連れてかれて行った。
「ゼストさん……」
「致し方ない……
あのフェローから得られた情報により、過去の戦闘機人事件を裏から関与していた事が見つかってしまったのだ。 いくら改心したとは言え、過去の過ちは消すことは出来ない。
死者であるレジアスは罪に問われなかったが、生者であるオーリスには罪に問われた。だが改心している事もあり、大きな罪に問われないのがせめてもの救いだろう。
「レジアス……お前の守ろうとした世界は……俺が必ず」
「……………………」
「どうか、安らかに……」
そして墓の前で、彼らは静かに黙祷を捧げた。
隔離施設から出て、陸に戻ると一旦皆と別れ六課の道を帰っていく。 本来なら車で向かうのだが……右腕が使えないので公共機関で向かった。
(……ヒソヒソ……)
(ねえ、あの人……)
(うん、絶対にそうだよ!)
(……歩いて帰るべきだったかな……いや、変装してなかった自分の落ち度か……)
隔離施設近辺からまでは良かった。 が、都市部に近付く事に人は増えていき……市民から遠目でコソコソと噂話をされているのが聴こえてしまった。
どうやらあの事件、後にジェイル・スカリエッティ事件……もしくはJS事件の解決貢献者しとして機動六課の名が上がり、“奇跡の部隊”などと言われていたりする。
ともかく、その1人が変装もしないでレールウェイに堂々?と乗っていたりすると……周りが騒がしくなるのは当然の事だった。
俺はクラナガン中央ターミナルに到着するとすぐに降り、レールウェイからタクシーで向かおうとした時……目の前に黒塗りの車が停車した。
「ーーレンヤ!」
「アリシア!」
運転手はアリシアだった。 だがその登場によりさらに周りは騒ついてきたが……
「乗って、送っていくよ!」
「ああ、助かる」
視線から逃げるように助手席に乗り、車を出して騒ぎから離れた。 しばらく公道を走り、六課へ向かった。
「助かったよ。 まさかここまで有名になるとは思わなかったけど……」
「あはは、異界対策課から有名だったけど。 今回のはそれに拍車がかかったからね。 サインを書く練習でもすれば?」
「……冗談言うな……」
「なら……もっと堂々してよね、私達の
「ああ、そうだな……」
本当に嬉しそうに喋るアリシア。 なぜ自分が彼女の旦那と言われているのかというと……事件解決すぐのあの高原の花畑、石碑の前で俺が……6人全員に告白したからだ。
馬鹿で欲張りなのは重々承知だが、ずっと苦楽を共にしてきた彼女達1人を選ぶ事は俺には出来なかった。 だが……彼女達は目に涙を浮かべながら、頷いてくれた。
「式はいつにしようなぁ♪ なるべく早い方がいいよねぇ、ヴィヴィオとイットも喜ぶし♪」
「そうだな……」
イットは正式に俺の養子になる事になり、ヴィヴィオと同じ神崎の姪を与えられて神崎 一兎となった。 漢名になって語呂がいい……一兎って名付けたの俺だけど。
「フフフフ……って、違う違う。 コホン、それよりあの子達、どうだったの?」
「ん? ああ、元々スカリエッティに命令された傾向が強かったからな。 問題なく隔離施設からは出られるだろう。 後は保護者だけだけど……そこはナカジマ家が何とかするだろう。 コルルはフェイトが、クレフはメガーヌさんが見てくれるそうだ」
「そっか……良かった」
それを聞き、アリシアはホッと一安心する。 そしてしばらく静かに高速道を走っていた、その時……
「ーーうわっ!?」
「くっ……!」
突然、目の前に何かが通り過ぎ……アリシアは咄嗟に急ブレーキをかけ、俺は手すりに手をかけて衝撃に身体を固定し……耐えた。
「な、何今の……? 傘みたいなのが通り過ぎたけど……」
「…………あそこだ」
指差した方向に、青い日傘がクルクル回りながら飛んでいた。
「傘が吹き飛ばされている?」
「だとしても不自然だな……追いかけてくれ」
「了解!」
高速道から公道に戻り、不審な傘を追いかける。 傘は風に流されるように飛んでいるが、まるでこちらを誘っているようにも思える。
「路地裏に入った!」
「行くぞ!」
車から降り、路地裏に入る。 しかし、路地裏には傘の姿はなく、奥に進んでも見つけられなかった。
「どこ行ったんだろう?」
「……杞憂だったのか?」
あの事件の後だからなのか、それとも気を張り過ぎただけなのか、そう思った時……突如として目の前にモヤがかかり……霧が出始めた。
「? 何でいきなり霧が……」
「まさか……!」
話している間にどんどん霧が濃くなり、1メートル先すら見えなくなる程の濃霧に包まれてしまう。
「アリシア!」
「レンヤ!」
俺達は互いを呼びかけ、手を繋いだ。 そして何かに呑み込まれるような感覚に陥り……
「うっ……?」
感覚が元に戻るのを感じると目を開け、辺りを見回す。 先ほどの……裏路地のようだ。 隣には手を繋いでいるアリシアもいる。
「ううん…………ここは……?」
「さっきと同じ場所のようだ。 変だな、異界に入るような感覚だったんだが……?」
「うん、それは私も思ったけど……気配がまるでしなかった。 でも、怪異と無関係ではなさそうだね」
なら、まずはこの場を離れ、六課や対策課に連絡するべきだろう。
「もしかしたら、JS事件の影響で起きてしまった歪みの所為かも。 それで厄介な能力を持ったグリムグリードが顕現した……って、所かな?」
「恐らくは。 まずは皆に連絡をーー」
路地裏から出て、メイフォンではやて達に連絡しようとすると……メイフォンは圏外だった。
「こんな街のど真ん中で……?」
「ーーあああああっ!?」
「うおっ……!? ど、どうしたアリシア?」
「な、ない……! 私の車が……無くなってるぅーー!?」
その言葉につられて停車した場所を見ると……アリシアの車は影も形もなくなっていた。
「うう……こんな短時間でレッカーされるなんて……酷いよ……」
「いやいや、そんな訳あるか」
「でも……だったらどうして……!」
「周りを見てみろ」
「周り?」
改めて周りを見回すと……普通のクラナガンの街中だった。 そうあの事件で大なり小なりでも被害に受けたはずの街中が……
「……あれ? もう復興工事が終わっている?」
「まだ事件から2ヶ月、いくらなんでも早過ぎる……もしかして……」
ピロンピロン! ピロンピロン!
答えを導き出そうとすると、間の悪い事にエコーにグリードの反応を検出した。 ここ最近音沙汰なかったのに……何かこの事態に関係していそうだな。 俺はアリシアと向かい合い、頷いた。
「皆と連絡が取れない以上、まずはここから行ってみよう。 情報を得られるかもしれない」
「うん。 でも、もしかしたら……私の想像を超える事になっているかもね……」
アリシアの呟きに無言で頷く。 エコーが示した座標はミッドチルダ中央区の大通り。 かなり目立つ場所にあるが……俺達はすぐにその場所に急行した。
指定した場所に近付く事に……悲鳴や戦闘音などの喧騒が大きくなっているのが聞こえた。
「まさか……現世に顕現しているの!?」
「……アリシア、こっちだ」
「え!?」
現場に向かおうとするアリシアの手を引き、近くにあるビルに入り、そのままエレベーターに乗って屋上に向かう。
「どうして屋上に!?」
「こんな状況だ。 いきなり出て行ってもマズイ、先ずは上から状況を把握する!」
そして扉を蹴破り、屋上に駆け込む。 そして縁まで向かい大通りを見下ろすと……そこでは管理局の一部隊と巨大な蛇のグリードが戦っていた。
「大蛇……ううん、海蛇のエルダー……でもない、あれグリムグリードだ」
「つまりはアレは眷属か。 となると、あの海蛇の主人は恐らくあの日傘の持ち主……これで辻褄が合いそうだが……」
顔を上げ、辺りを見回す。 この付近で1番高いビルに登ったので辺りを一望でき、景色はいたって普通のミッドチルダの街並みだが、記憶の中の街並みと差異があり過ぎた。
「元通りなんてレベルじゃない。 ここ付近の私の知っている大手産業の広告や支部がまるでないなんて……」
「ここはミッドチルダで間違いはない。 が、メイフォンが繋がらない事、完全に修復された街とその差異……導き出される答えは1つ、限りなく近く、極めて遠い世界ーー」
「ーー動かないでください」
とても聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。 だが、その声は明らかに警戒しているの色が見える。 俺達はゆっくりと振り返ると……
「
「時空管理局機動六課所属、フェイト・T・ハラオウンです。 この場所で何をしているのですか?」
いつも見る顔、いつも聞く声、いつも見る凛とした姿……だが、その名だけは差異があるも、目の前にいたのは紛れもなくフェイトだった。