魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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186話

 

 

ゆりかごではレンヤとアルマデスが最後の決戦を繰り広げている中、スカリエッティアジト前……そこには今しがた到着した聖王教会の教会騎士団がおり、シャッハとロッサが確保した戦闘機人数名を引き渡し、護送をしていた。

 

「……よし、私はフェイト達の救援に向かう。 後のことはよろしく頼みました」

 

「それなら私も……!」

 

「シャッハ! その怪我じゃ無理だよ。 あの戦闘機人に加えてA級エルダーグリードを何体も相手にしたんだ。 ここは無理せず、ユエ君に任せよう」

 

ユエに同行しようと、シャッハが再びアジトに向かおうとするが……ロッサが肩に手を置いて引き止めた。

 

「ですがロッサ、このままでは……!」

 

『ーー待って!』

 

「! フェイト!」

 

突然通信回線が開くと……そこにはフェイトが写っており、すずかと共に空間ディスプレイのキーボードを弾いて自爆を止めようとしていた。

 

『こっちは自力で脱出するから大丈夫』

 

『それより、この崩落を止めないと。 このポットの中の人達……まだ生きているかもしれない!』

 

『この人達に罪はねぇ、こんな奴のためにくだらない心中させてたまるか』

 

「で、ですが……!」

 

シャッハはなお食い下がろうとするが、その時……獣の叫び声が通信越しに轟いて来た。

 

『おっと……お友達が来たみたいだ。 こっちは何とかする! ユエ、お前はレンヤの元に!!』

 

「……分かりました」

 

「ユエさん!?」

 

ユエはリヴァンの提案に頷き、踵を返し……跳躍してレンヤ達の元に向かってしまった。 その迷いのない判断に、シャッハは疑問を覚える。

 

「どうして……そんなあっさりと……」

 

「信頼しているんだよ。 彼らの……VII組の絆はとても深いからね」

 

それ以外に答えはないと、ロッサは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマ達を乗せたヘリは、先行していたピット艦と合流し、ゆりかごの空域に到着した。

 

『ーー現在、ゆりかごの中は奥に進むほど強力なAMF空間が発生している。 他の部隊は負傷して救援には迎えない……お前達が頼りだ』

 

「ウイングロードが届く距離までくっ付けるそうだ。 そいつで突っ込んで、隊長達を拾って来い。 露払いはしといてやる!」

 

『はい!』

 

「燃えてきたぜぇぇ!!」

 

ヴァイス達は甲板におり、リンスがゆりかごの状況を通信で伝える。 カタパルトデッキにはバイクに跨ったティアナとスバル、エナとソーマがいた。 エナは相変わらず豹変しているが……

 

「……………………」

 

「ソーマ、天剣は大丈夫? ()()した方がいいかな?」

 

「え……」

 

「こんな時に寒いギャグかましてんじゃないわよ!!」

 

「痛ッ!? った〜〜〜い!!」

 

スバルはティアナの乗るバイクの後ろにおり、ティアナは振り返らず裏拳でスバルの額を思いっきり殴った。

 

「全く……」

 

「うう……緊張をほぐそうとしたウェットに満ちたジョークじゃないかぁ〜……」

 

「ふふ、相変わらずだね、スバルは」

 

「ーーおら、ぼさっとしてんじゃねえぞ! 狙い撃つぞ……ストームレイダー!」

 

《ロックオン》

 

ヴァイスは和気藹々としているソーマ達を注意しながら、利き目に付いているスコープを通して弓型ソウルデヴァイス、ストライクレーブを構える。

 

「リバイスショット!!」

 

ストームレイダーが撃ち落とすべき目標をヴァイスに伝え、矢を射れば目の前に現れるガジェットやグリードを次々と撃ち落す。

 

「あっ……」

 

その射撃に、ティアナは声を漏らす。 それに気付いたのかヴァイスは振り返らず、手を動かしながら喋りかけた。

 

「前に言ったな? 俺はエースでも達人でもねえ………身内が巻き込まれた事故にビビッて、それからずっと誰かに頼ってばかりだ……!」

 

自分の過去を語りながら、ガジェットやグリードを落とす手を緩めない。

 

「それでもよ! 無鉄砲で馬鹿ったれな後輩の道を作ってやることぐらいならできらぁな!!」

 

ヴァイスはその言葉と共に、ゆりかごの外壁に設置されたガジェットⅢ型を射抜き……その爆発によって突入口を作った。

 

「さすがです……」

 

「ーーよし! 行けっ!!」

 

ティアナは小さな声で賞賛しながらもヴァイスの号令でハッとなり、ハンドルを握りなおした。

 

「は、はいっ!」

 

「ーーウイングロード!!」

 

すかさずスバルがウイングロードで道を作り、2つのバイクのエンジンが吹かされ……空気を揺らす。

 

『主を頼むぞ……』

 

『ブラスト……オフ!』

 

グリフィスの指示と同時に、ティアナとエナはアクセルを全開にし……カタパルトデッキから射出された。 そこからウイングロードでゆりかごまでの道を繋げ……突入した。

 

ゆりかご内部に突入すると……ティアナはAMFの強度を肌で感じ、驚きを表す。

 

「くっ……本当に全然魔力が結合しない!」

 

「でも、私は戦闘機人モードでなら……撃てるし走れる!」

 

「剄も問題なし!」

 

「アタイのシュペヒトクイーンはこの程度じゃあ止まらねぇぞ!!」

 

目の前にはグリードの大群や隔壁が道を塞ぐが……

 

「行くよ……僕達でレンヤさん達を救うんだ!」

 

『おおっ!!』

 

構わずソーマ達は走り出した。 4人は何度も物理的に道を切り開いては突破し、ひたすらゆりかご内を駆け抜けていた。

 

「ーーん? あれは……」

 

「ヴィータ副隊長! ご無事で!」

 

「お母さん!」

 

「メガーヌさんにソフィーさんも!」

 

奥に向かう途中、ティーダのゆりかご突入部隊と負傷しながらも戦うヴィータ。 そしてクイントとメガーヌとソフィーと鉢合わせし……その隣を通過した。

 

「ちょっとなのはさん達助けに行ってくるね!」

 

「あっ!? スバル!」

 

「夕方には戻って来ますから!」

 

「そんな子どもの遊びじゃーー」

 

メガーヌの言葉が届く前に、4人はさらに奥に進み、バイクの音で声はかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩落するスカリエッティのアジトでは、シャーリーのサポートにより解除パスコードを入力するフェイトとすずか。 そして襲いかかるグリードを1人で食い止めているリヴァンがいた。

 

『ーーデータ解析、パスコード看破! フェイトさん!』

 

「うん!」

 

「これで……!」

 

2人はキーボードを操作し、パスコードを入力し終えると……自爆により続いていた地震が停止する。

 

「……止まっ、た……?」

 

『はい!』

 

「やった!」

 

シャーリーの言葉で、フェイトは一安心して息を吐く。 少し離れた所では、リヴァンが最後のグリードを倒した所だった。

 

「おっ、どうやら上手くいったみたいだな」

 

拓也も内心安堵する。 そして、フェイト達に歩み寄ろうとした時……フェイトの真上にあった天井が崩れ、崩落を起こした。

 

「ッ!?」

 

フェイトはすぐさま気付くが……反応が遅れてしまった。

 

「フェイトッ!!」

 

「フェイトちゃん!!」

 

すずかとリヴァンがすぐに助けに向かおうとするが、それよりも早く落盤が落ちると悟ってしまった。 そして、フェイトが落盤の下敷きになるかと思われたその時……

 

《ソニックムーブ》

 

閃光が2人を追い抜き、フェイトを救い出した。

 

「今のは……!!」

 

「っ……!」

 

落盤による風ですずかは顔を覆うが、誰がきたのかすぐに分かった。 目を瞑っていたフェイトがゆっくりと目を開けると、そこにはホッと息を吐くエリオの姿。 だが、その髪は黄色に近い金髪で、目は翡翠のような翠だった。

 

エリオは動かない身体をコルルとの初めてのユニゾンによって無理矢理動かし、キャロとともにここまで来たようだ。

 

「エリオ……?」

 

「はい! 大丈夫でしたか? お母さん?」

 

「! あ、改めて聞くと……そ、それは反則じゃないかな?」

 

「ちなみに、父親は誰なんだ?」

 

面白半分でリヴァンが便乗し、エリオは真剣に悩んだ。

 

「うーん、僕としては……やっぱりレンヤさんが1番かと」

 

「ちょ、ちょっとエリオ!?」

 

「くっ、まさかフェイトちゃん……外堀から埋める気じゃ……?」

 

「すずかまで何を!?」

 

『……なんか、緊張感ないね。 そう思わない、変態ドクター?』

 

「……フフ、そうだね……」

 

エリオとユニゾンしていたコルルは拘束されているスカリエッティを罵倒しながら見下ろし、スカリエッティも彼らを見てコルルの言葉に同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘機人としての能力を解放し、姉のブリッツキャリバー使うスバルと、天剣を掴み能力が十二分使用できるソーマ、そしてその2人の後を追うバイクに乗るティアナとエナがゆりかごの通路を駆け抜けていた。

 

「ーー前方から敵グリード……来るわよ!」

 

ティアナの宣言通り、道を塞ぐようにグリードが群がっていた。 ソーマはそれを見て……一気に飛び出した。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

天剣技・霞楼(かすみろう)

 

一閃の斬撃として放った衝剄を一定距離で多数の斬撃として四散させ、全てのグリードを一瞬で切り刻んだ。 そしてその剄技を放った後なのに、天剣はまるで悲鳴をあげない。

 

「これなら……!」

 

「うおぉぉ……!」

 

スバルは受け取った左のリボルバーナックルを振りかぶり……

 

「やっ!!」

 

砲撃を撃ち出し、正面の壁にヒビを入れ……

 

「うおっりゃああぁぁ!!」

 

続けて右のリボルバーナックルを振り抜き、眼前に迫った壁を破壊した。 そしてしばらくそれが続くと……

 

「ーーいた!」

 

「なのはさん! はやて部隊長!」

 

脱出のため走っていたなのは、はやて、シェルティスと鉢合わせした。

 

「ご無事でしたか!?」

 

「うん、なんとかね。 正直助けに来てくれて助かったよ」

 

「これもなのはちゃんの訓練の賜物やなぁ」

 

「…………? レンヤさんの姿が見えないですけど……」

 

「それにシェルティスさんが抱えている女性は……」

 

「その事は今は後にしよう。 脱出経路を案内してくれる?」

 

「は、はい!」

 

「こっちです!」

 

ソーマ達はなのは達を抱えるかバイクに乗せ、グリードを掃除した来た道を引き返し……ゆりかごを脱出した。

 

「ふう……それでなのはさん、レンヤさんはどうしてまだゆりかごに?」

 

「……脱出する途中、異篇卿のアルマデスと鉢合わせしたの。 それで彼はイットを狙って……それをレンヤ君が食い止めるために」

 

「それで……」

 

「すぐに応援に行きましょう!」

 

「ーーダメや」

 

ソーマ達が応援に向かおうとするが……それをはやてが一声で拒否された。

 

「どうしてですか!?」

 

「アレを見てみ」

 

後ろを指差すと、ゆりかごは上昇を始め、宇宙に向かおうとしていた。

 

「なっ……!?」

 

「ゆりかごは軌道ポイントまで自動航行させ、宇宙空間で次元航行隊の艦隊による主砲斉射で轟沈させる……悔しいけど、私達に出来る事はない。 今は信じて待つしかないんや」

 

「そんな……」

 

『ーースカリエッティ本拠地、震動停止……突入隊、及びライトニング01、ライトニング03……脱出確認!』

 

そこでシャリオの通信が入り、フェイト達の無事と任務の完了を確認した。

 

『巨大船内部に突入した魔導師、第1隊から第4隊まで退避。 最深部の機動六課メンバー……全員…………いえ、神崎二等陸佐の姿を確認出来ません!』

 

次元航行隊もなのは達を確認したが……レンヤがいないことに、その艦隊の1つ、クラウディアにいたクロノが驚きを露わにする。

 

「っ! レンヤのやつ……一体なにを……!」

 

『ーークロノ提督!』

 

そのとき、クロノの目の前に花びらで構成された蝶……ツァリの念威探査子が飛んで来た。

 

「ツァリか。 アースラは無事だったか?」

 

『はい。 僕1人じゃ無理でしたけど……アリシアとシグナムさん、ユエとティーダさんが来てくれたおかげでなんとか。 それよりも……今レンヤがゆりかご内で異篇卿第一位、白銀のアルマデスと交戦中です!』

 

「それでか!」

 

クロノは肘掛けを力強く殴る。 もう全艦の砲撃準備が開始されてしまい、止める事が出来なくなってしまったのだ。

 

「くっ……早くしろよ、レンヤ……僕の手を……君の血で汚してくれるな……!」

 

主砲のエネルギー充填完了時間……つまりタイムリミットまで、残り10分……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーアルマデス様! アルマデス様!!』

 

ゆりかご内でのレンヤとアルマデスの戦闘の途中……後退しないアルマデスに、このゆりかご内にいないナタラーシャに通信が入ってきた。

 

だがその間も攻防の手は緩めず。 引いては攻撃、引いては攻撃を繰り返し。 それによりジグザグと移動し、ゆりかご内部を破壊しながら高速で移動……戦っていた。

 

『一旦お引きください! 管理局が間も無く艦隊の主砲による斉射でゆりかごを破壊します!』

ナタラーシャは事の重大さを伝えるが……アルマデスは聞く耳持たず、攻撃の手を緩めなかった。 二人は同時に大剣と刀を振り下ろし、火花を散らしながら上に駆け上がり……弾いて距離を取る。

 

『アルマデス様!!』

 

「ーー邪魔だ!」

 

ナタラーシャの通信を手で振り払い、通信を強制的に切った。

 

「今をただ戦いたい……お前と戦いたい!」

 

「っ!」

 

一瞬で接近したアルマデス、レンヤはすぐさま短刀を収めるが……1本上に弾かれて手から離れ、刹那の間を置かず拳が放たれ……それを後退して足で受け止め、後退によって飛んだ短刀を掴んだ。

 

「ぐうっ!!」

 

強烈な横薙ぎを受け止め、尋常ではない攻防がさらに苛烈さを増していく。 既にギアも最大駆動しており、一進一退の戦いが続いているが……それよりも、レンヤの様子がおかしかった。

 

(……逃げられない……どうしてだ? どうして逃げない…………こんな事をしている場合じゃないのに……)

 

ーーーかえ

 

(頭の中に声が響く……! それが俺を無理矢理……どうして、突然こんな……!!)

 

ーーたかえ!

 

(まさか……! ここに来て……ゆりかごによって、彼女の記憶が……血が!俺を!)

 

ーー戦え!!

 

突然レンヤから苦悶の表情が消え……両目が紅玉と翡翠の色に変わった。 そして、関係なく襲うアルマデスの猛攻を防ぎ、振り下ろされた一太刀を紙一重で避けると背後に回り蹴り飛ばし、さらに一瞬で先回りして蹴り飛ばした。

 

「そうか……お前は聖王の血脈の者か。 ならば、分かるだろう……戦いが!!」

 

「ああああぁぁぁ!!」

 

大剣を振るえば壁や天井、床は砕かれ。 刀が振るわれれば同様に壁などが真っ二つに斬られる……そんな破壊を続けていた時……今度はレンヤに通信が開いた。

 

『ーーフェザー01! フェザー01!! これ以上の戦闘は無意味です!』

 

(! シャーリーの声……!)

 

ーー逃げるな!!

 

「っ…………違う!! 戻らないと!」

 

シャーリーの声を聞き……レンヤは頭を振り払って理性を取り戻し、両目の色が元に戻る。 だが、それでも頭の中に声が響く……

 

ーー戦え!

 

「ふざけるな……!!」

 

ーー戦え!

 

「ダメだ!!」

 

感情がグチャグチャになり、長刀と短刀を握る手が震える。 血が沸騰するように熱く、頭の中がメチャクチャになる。

 

ーー戦え!!

 

「っ!」

 

また目の色が変わり、アルマデスに向かって飛び出し、高速で剣を交じ合わせる。

 

(苦しい……呼吸が出来ない、身体が動かない! それでも戦いたい……俺の命が燃え尽きるまで……!)

 

自分の身体なのに自由には出来ず、感情に任せて身体が勝手に動く。 それでもレンヤは戦う……戦い続ける。そしてシャーリーの通信を完全に無視し、切断した。

 

『フェザー01!? フェザー01、応答してください! ……レンヤさん!!』

 

「! レン君!?」

 

「一体どうしたの……?」

 

『皆! レンヤを連れ帰って来て!』

 

「ソエル!?」

 

突然、六課にソエルから通信回線が開いた。 何か事情を知っているようだが、それをラーグが説明した。

 

『恐らくゆりかごに聖王の血が反応しているんだろう。 そうなると、選択肢が戦いだけになっちまう。 誰でもいいから止めてこい!』

 

『このままじゃ主砲を斉射しても、戦い続けるよ!』

 

ソエル達の説明に、なのは達は驚きを露わにするが……何も出来ないのが歯がゆかった。

 

「な、なにあれ……」

 

「バ、バケモノか……あの2人は……」

 

ポツリと、クラウディアのクルーが思わずそう呟いた。 ディスプレイ越しに、彼らの目の前には……あちらこちらで爆発が起きているゆりかごだった。

 

ゆりかごの前方が不自然な爆発をすればそれが線となって後方まで伸び……次元航行隊が手を出さずとも落ちそうな勢いで破壊されていた。 この状況を……AMFの中でたった2人の人間が引き起こしている事に驚愕していた。

 

『レン君! もう戦わなくていいんだよ!!』

 

「ーーうおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

「それだ、それでいい!!」

 

なのはの言葉も耳には入らず、既にレンヤの髪の色もヴィヴィオの髪色に似た金髪に変わり。 一瞬で懐に入り、短刀を放り投げ胸ぐらを掴み……勢いを殺さずタックルし、アルマデスを吹き飛ばしと同時に刀を振り上げ……

 

嵐杤(あらしとち)……!!」

 

「銀翼……!」

 

螺旋により威力が増した一刀を振り下ろし、アルマデスは一瞬で大剣を二閃し対抗した。 刀と大剣は轟音を響かせながら衝突し、あまりの威力に2人は同時に吹き飛ばされてしまった。 レンヤはいくつもの外壁を突き破り……

 

「カハッ!!」

 

ようやく壁に強く打ち付けられて停止し、受け身も取れず地面に落ちてしまう。

 

「ゴホ! ゴホ!……はあはあ……くっ……!」

 

大きく咳き込み、呼吸を整える。 アルマデスも吹き飛ばされた事もあり、ほんの僅かな休憩をしていた時……

 

「こ、ここは……」

 

辺りを見回すと、そこは玉座の間だった。 また同じ場所に戻って来たと心の中で苦笑しながら立ち上がろうとすると……

 

「……………………」

 

「…………?」

 

不意に、レンヤの顔に影がさした。 気配は感じなかった……確認しようと顔を上げると……

 

「ーーえ」

 

比喩抜きで本当に目が点になるような……あり得ない物を目にしてしまったような表情をしてしまう。

 

「やはりその血が、ゆりかごに反応して戦いを求めてしまったようですね。 忌むべき事であり……無くてはならない枷ではありますが、今世では必要ないでしょう」

 

声は年若い女の子の声、目の前にいたのは……この場所で、先ほどまでヴィヴィオが座っていた場所……王が座る場所にドレスのような戦装束を纏っている女の子がいた。

 

女の子は立ち上がり、近寄ると……レンヤの額に手をかざし淡い光を放った。 すると今まで頭の中で渦巻いていた声が綺麗に消えた。 両目の色も、髪の色も元に戻る。

 

「ーー行きなさい。 あなたを心に想う人の元へ……私と同じ過ちを繰り返さないでください……」

 

そう言い残すと踵を返し、この場から去ろうとする。

 

「……ま、待って。 待ってください……! なんで……なんであなたが……どうして……!」

 

レンヤは痛む身体を無理矢理起き上がらせ、去ろうとする女の子に語りかけるように質問する。 女の子はそれに答えるように身をレンヤの方に向け……

 

「……ーーー護り人」

 

「……え……」

 

何かを呟くと、突然ドレスの裾を捲り……自身の両足を見せてきた。 レンヤはすぐに顔を背けようとしたが、身体はすぐに動かず、女の子の脚を見てしまった。 が、照れる事は無かった……

 

「いずれ、分かる時が来るでしょう」

 

なぜなら、女の子の右太腿には……目を模した赤いアザがあったからだ。 しかもその裾をめくった両手は、その両腕は……義手だった。 そして女の子また踵を返し、今度こそ去って行った。

 

「………………」

 

あまりの出来事に呆けてしまい、頭がついていかない……だが……

 

ガラ……

 

「!」

 

不意に起きた落石がレンヤを正気に戻した。 痛む身体を立ち上がらせ、前だけを見る。

 

(今はアルマデスが最優先だ。 意図は読めないけど、()()のおかげで頭がスッキリした……今度は、俺の意志で戦うんだ!)

 

『ーーレンヤ!!』

 

その時、どこからともなくツァリの蝶の探査子が飛んで来た。

 

『レンヤ、聞いて! 君はーー』

 

「分かってるよ、もう大丈夫。 ようやく頭の中がスッキリした気分だ」

 

『レン君!!』

 

『よかった……本当に!』

 

『全く、心配してもうたわ』

 

『一体何があったの?』

 

「それはーー」

 

説明しようとした時、段々の衝撃が近付いて来ているのに気が付いた

 

「くっ……」

 

『ーーフェザー01、退却してください!』

 

「了解!」

 

踵を返し、また対面する前に逃げようとすると……壁を破壊し、現れたアルマデスがその退路を塞いだ。

 

「そうは……させない……!」

 

「っ……!」

 

やはり戦うしかない……レンヤは覚悟を決め、刀を構える。 するとアルマデスは首を横に振るう。

 

「まだだ、まだ俺は満足していない!」

 

「くっ!(改めて思うけど……この人、戦闘狂だ……!)」

 

「ーーどこまでも追うぞ!」

 

「うあああぁぁ!!」

 

再び、レンヤとアルマデスは刃を交える。 攻防は先ほどよりも一層激化し、両者ゆりかごを壊しながら駆け抜け……勢い余って外壁を突き破ってしまった。

 

「ここは……!」

 

「外に出たか……」

 

レンヤの目に映ったのは黒い空間に浮かぶいくつもの艦隊と、とても巨大な青い球体。 つまり……宇宙空間に出てしまった。 レンヤはバリアジャケットにより問題なく活動できるが……それを持たないアルマデスも、どういう理屈か動けるようで。 場所が変わっただけ……と言いたいが……

 

「うおおおおぉぉぉぉっ!!」

 

外に出た事により強力なAMFの束縛から解放され、レンヤの魔導師としての力が完全に使用できるようになった。

 

《パルクールステップ》

 

「はあああぁぁぁ!!」

 

モーメントステップの空中バージョン。 それにより虚空を蹴り、アルマデスとの距離を詰め斬撃の間に蹴撃を繰り出し確実にダメージを与える。

 

それが高速で、神速で剣戟を交わし。 そのままゆりかご周囲を高速で移動する。 甲高い音が鳴り響けば、続いては隙間ない打撃音が鳴り響く。

 

『神崎二等陸佐を確認! 異篇卿と思わしき男性と交戦中です!』

 

『ですが、ゆりかご周囲で戦闘している模様……これでは主砲の範囲内です!』

 

「くっ……さっさと離れればいいものを……!」

 

『ーーそれは違います。 レンヤは何度もこの宙域から離脱しようとしてますが……それをアルマデスが先回りしてゆりかごから離れられないんです』

 

ツァリがクロノにそう伝え、クロノは悔しそうに歯ぎしりをする。

 

《主砲、充填完了まで……残り3分》

 

「もう時間は残されていないぞ……」

 

『レンヤ!!』

 

『早くしろ、巻き込まれるぞ!』

 

『そこから離れてください!』

 

『急いで!』

 

ツァリ、リヴァン、ユエ、シェルティスが喋り掛けるも、レンヤの意識は目の前のことで手一杯……まともに答えられる状況ではなかった。

 

『レン君……! お願い、早く……!!』

 

『パパァ!!』

 

『レンヤさん!!』

 

なのはとヴィヴィオとイットも切羽詰まったように懇願し、レンヤは隙をついて踵を返して逃げようとするが……アルマデスが放ったバインドが首に絡まり、息が出来ず拘束されてしまう。

 

『レンヤさん、退避してください! レンヤさん!!』

 

バインドを切り裂き、息つく暇もなく神速で振られる大剣を防ぐ。 シャーリーのオペレーションもまるで聞こえなかった。

 

さらに段々と肉弾戦も交わすようになり。 顔面、腹部を殴られるも蹴りを入れ、続いて迫ってきた拳を受け止めた。 そして受け流し、左手の短刀を突き出すが……

 

「なっ!?」

 

それをあろうことか左足に突き刺して防いだ、と言っていいのか……だがアルマデスは苦悶も見せず空いた右足で蹴り上げてレンヤを飛ばし、大剣を振り下ろす。

 

『レンヤ! 退避して、レンヤ!!!』

 

『何してんや!!』

 

『早く戻ってきて!」

 

『もうすぐ主砲の斉射が始まるわよ!』

 

『レンヤ君!!』

 

フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずかが急いで退却するように煽りをかけるが……レンヤは大剣を受け止め、さらに蹴りを連続で入れ、反撃するので手一杯だ。

 

「アルマデス様……」

 

その光景を、別の場所でナタラーシャが見ていた。 その彼女の背後に……全身黒色の人物、空白(イグニド)が歩いてきた。

 

「あら、生きてたの? まあ、そうでなくては計画がパァだからね。 そういえばマハは?」

 

「マハさんは所用らしいですよ。 大事なものを無くされたそうだとか……」

 

空白はナタラーシャの隣まで歩き、空間ディスプレイに映るレンヤとアルマデスの苛烈な戦闘を目にする。

 

「……本能のまま生きて、死ぬ。 生きとし生けるものとしては……ある意味最高の生き方。 お元気で、アルマデスさん」

 

「っ! 貴様……!」

 

その言葉にナタラーシャは怒りを露わにするが、空白はどこ吹く風のように流し……黒い帽子に隠れた淡い金髪が風でなびく。

 

「今……実像(ユメ)虚像(ユメ)は別れた。 その福音、派手に鳴らしてくださいね、アルマデスさん?」

 

映像の中のアルマデスを見て、空白は不敵に笑う。

 

『発射まで……10秒!』

 

『お願い……!/馬鹿ぁ!/レンヤ!/早くしなさい!/急いで!』

 

一斉に喋られ、何を言っているのは聞き取れなかったが……それでも2人は戦い続ける。

 

《5……4……3……2……1》

 

管理局の全員が固唾をのむ中……カウントダウンは刻一刻と迫り。 それでもレンヤは聞き流すしかなく、アルマデスの剣戟を避け、耐え、反撃する。

 

《ーー0》

 

『………………主砲……斉射、開始……!!』

 

重苦しく、後悔するような……しかし、決心するようにクロノが発射を宣言した。 すると、6隻からなる全艦隊の主砲からの砲撃……アルカンシェルが発射された。 全ての砲撃はゆりかごに着弾し、崩れかけていたゆりかごにとどめを刺した。 そして、ゆりかごは爆発を起こしながら墜落し、レンヤとアルマデスは……その余波に巻き込まれてしまった。

 

「レン君ーーー!!」

 

「レンヤァァーー!!」

 

地上ではその爆発が目に見え、なのはとフェイトの叫びが空に向けられる。 空高く輝いた閃光は花火のようで……儚く消えていった。

 

『巨大船、撃墜……』

 

『…………ゆりかごの……崩壊が……始まりました』

 

『……作戦……成功……任務……完了です……』

 

クラウディアのオペレーター、そしてシャーリーからの重々しい声で報告を受けた。

 

「あ……あ……」

 

「そん、な……」

 

「……ヒック……ヒック、うえええん! パパ……パパァァ!」

 

「ヴィヴィオ……」

 

全員、特になのは達6人は絶望したような表情を見せて立ち尽くす。 ヴィヴィオは周りの反応で理解したのか、涙をポロポロと流して泣き叫ぶ。 そんなヴィヴィオをアリサは強く抱きしめる。

 

「………………ぅ………………」

 

しかし……レンヤはかろうじて生きていた。 だが、ゆりかごの爆発の余波による衝撃で吹き飛ばされ、レンヤは額から血を流しながら気絶。 そしてミッドチルダの重力圏に引っかかり……大気圏をバリアジャケットによって突破し、地上に向かって落下していた。

 

それによりバリアジャケットを維持していたレゾナンスアークがフリーズし、成すすべなく重力に引かれて落ちていると……頭から血を流すアルマデスが追撃をかけてきた。

 

「待っていたぞ……この時を!!」

 

「ーーーっ」

 

その殺気にレンヤは目を覚まし、振り下ろされた大剣を避けるが……続いて振り下ろされた踵落としが左肩を砕いた。

 

「っ…………ああああぁぁっ!!!」

 

痛みを耐え、沸き上がる苦痛を咆哮に変え残っている右の長刀を振るう。 だが、アルマデスは飛行魔法で飛翔し避け、続けてレンヤは高速で魔力弾を撃つが……それも避けられる。

 

「ううっ!!」

 

一気に距離を詰められて背後を取られ、今度は左腕を砕かれてしまう。 痛みに耐えながら距離を取ろうとするが……一瞬で間合いを詰められて大剣を振り下ろされ、右腕が砕かれる。

 

レンヤは制動をかけ、反撃するが……それよりも早くアルマデスは動き、回し蹴りが頭に直撃、さらに血を流してしまう。

 

「あああ!!」

 

もう使えるのは足だけになってしまい、防御魔法を使って足を守り。 さらにその状態で攻撃に転ずるが……一瞬の攻防の隙に負傷した腕を掴まれ、痛みに耐える隙にアルマデスは手の指を揃えて手刀の形を取り、防御が薄かった左太腿を斬られてしまった。

 

「ぐうう……!! ……ま、まだまだぁ!!」

 

牽制で魔力弾を放つが……魔力も尽きかけ、大した牽制は出来なかった。 それを狙い、アルマデスはレンヤに向かって飛ぶ。

 

「っ!」

 

「今こそ……お前を倒す!」

 

アルマデスは大剣を構え、最後の一刀を振ろうとした時……

 

「ーー皆の元に生きて帰るんだ!!」

 

レンヤはほぼ無意識のうちに、一瞬で操作魔法と硬化魔法を同時に使用した。 操作魔法で骨折した骨をパズルのよう元に戻し、それを硬化魔法で固定、強化。 さらにまた操作魔法で無理矢理身体を動かし……一転してアルマデスから背を向けた。 アルマデスは無防備になった背に大剣を振り抜いた、が……

 

「なにぃ……!?」

 

斬り裂いたのはレンヤのコートだけ。 そしてレンヤは刀の刀身に蒼い魔力を、集束魔法(ブレイカー)の抜刀を発動し、真下から一気に接近し……

 

「斬り……祓ええぇぇっ!!」

 

八葉一刀流、伍の型の派生技。 秘技、虚月(こげつ)

 

それを無納刀で放ち、神速蒼き二閃がアルマデスの胸に刻まれた。 アルマデスはそれにより完全に戦闘不能になるが……

 

「……ふ……強くなれ……何も失いたくなければな……」

 

「……………………」

 

最後にそれだけを言い残し、アルマデスの溜めていた魔力にレンヤの斬撃が反応し、膨れ上がり……大きな衝撃が発生し、2人は吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーガッ!! グッ……ブホッ……!」

 

上空から飛行魔法による制動もなく、バリアジャケットの強度のみで地上に不時着。 情けない声を出し、地面を大きく引きずってようやく停止した。

 

「くうっ……はあはあ、はあはあ……」

 

何とか仰向けになり、空を見上げる。 目だけ動かして辺りを見ると……どうやらどこかの花畑に落ちたようだ。 ちょっと悪い事をしたかな……

 

「……レゾナンスアーク」

 

《……………………》

 

声をかけるが応答がない、完全にフリーズしたようだ。 メイフォンも出して見るが……画面が蜘蛛の巣のようにヒビ割れ、電源がつかなかった。

 

「皆が見つけてくれるのを待つしかないか……」

 

メイフォンを放り、大の字になって寝転ぶ。 休むといっても硬化魔法は解いてなく、解いたら信じられない程の激痛に襲われるだろう……が、それでも全身の傷により流れる血のせいで気力が持たない、早く来てくれ……

 

そう思いながらも目を閉じ、今日の出来事を思い返す。 ヴィヴィオとイットを取り戻すためにゆりかごに乗り込んで、戦って戦って戦って……本当に濃い一日であり、人生で1番死にかけた日だった。

 

「……………………」

 

そして、懸念すべき事は山ほどある。 異篇卿の目的、魔乖術師達の目的、そして……俺の前に現れたあの女の子についても……

 

「っ……痛ッ……」

 

無理に起き上がると身体中に痛みが走る。 そして辺りを改めて見回すと……どうやら高地にある花畑のようだった。

 

「……ベルカ方面みたいだけど……こんな場所あったっけ?」

 

仕事柄、このミッドチルダの隅から隅まで知っているはずなのだが……この場所はまるで時が止まったような、忘れ去られたような雰囲気を感じる。 その時ふと、崖の方に何かの石碑があるのに気がついた。 近寄って見てみると……ミッド語で何か書かれていた。

 

「……えっと……“あなたに永遠の愛を誓う、例え何があろうとも、どんな結末になろうとも……この想いに嘘はない。 アルフィン・ゼーゲブレヒ”って、母さん!?」

 

こんなものがあるのも驚きだが、母親がこんなラブレターを石碑に残す事が1番驚いた。 自分のことではないけど、なんか物凄く気恥ずかしい。これはアレだ、母親が授業参観に来た感じの恥ずかしさに近い。

 

『見つけた!』

 

「お、ツァリ」

 

その時、横からツァリの蝶の探査子が飛んで来た。 やっぱり探索においてツァリに右に出る者はいないな。

 

『良かった……生きてて本当に良かった……!』

 

「娘と息子を置いて先に逝けるかよ」

 

『そうだね。 すぐに救援を……って、皆!?』

 

「レン君ーー!!」

 

ツァリが驚いた声を出すと同時に、遠くからなのはの声が聞こえて来た。 振り返ると……なのは達6人と、アースラがこっちに向かって飛んで来ていた。

 

「おーい、皆ーー!」

 

「レン、君ーー!!」

 

「どわっ!?」

 

手を振って呼ぶと……なのはは着陸と同時に駆け出し、俺に向かって飛び込み、抱きつかれて勢い余って倒れてしまう。 しかもそれを他の5人も飛び込んで来て、超痛い……というか死ぬ程痛い……

 

「良かった……本当に、良かった……」

 

「もう……エリオもだけど、心配かけて……」

 

「ホンマ、生きててくれてよかったんよ……」

 

「……心配かけさせんじゃないわよ……」

 

「グスッ……」

 

「レンヤ〜〜……!!」

 

「ちょ……辞めてくれ……死ぬ……冗談抜きで死ぬから……」

 

なのは達は慌てて俺から離れてくれた。 なんかこんな事、前にもあったような気がするな……

 

「うーんと……最新医療機器を使えば全治2ヶ月ってところだね。 当分は安静にしていてよね?」

 

「了ー解」

 

ふと、また石碑が目に入る。 こんなものがここにあるという事は、恐らく両親はここで……

 

(覚悟を、決めろって事かな。 なんか験を担いだような気もするけど……)

 

目を閉じ……少し間を置いて目を開け、皆の方を向いた。

 

「ーー皆、こんな時だけど聞いて欲しい事があるんだ」

 

「え、なに?」

 

「大事な事なんだ」

 

「べ、別にいいけど……」

 

「それで、なにを話したいの?」

 

「それはーー」

 

 


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