魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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184話

 

 

「ーーいた! アルトさん、早く追いかけて!」

 

「ちょ、キャロちゃん!? 怪我しているんだからジッとしていて!」

 

キャロ達はあの後アルトが操縦するヘリが到着し、保護者含め全員乗り込むと離陸。 本来なら戦線離脱する所、キャロが強引にメランジェの追跡を支持した。 最初はアルトはそれを拒否したが……ガントレットをチラつかされ、了解するしかなかった。 アルトは初めて見るキャロの強引さにかなり驚きながらもヘリを飛ばす。

 

「ていうかどうやって止める気なの? 逆鱗に触れたみたいに暴れまわっているけど……」

 

「ーー文字通り頭を冷やさせます。 メランジェのあの頭の火球をどうにかして消す手前までに水をかけられれば……あるいは」

 

「ここから海は遠いなぁ……」

 

頭の火球に水をかけ大人しくさせる……そう作戦が決まった時、突然メランジェが上昇し、顔をヘリの方に向けた。 口から炎が漏れながら……

 

「うわぁ!?」

 

「しっかり掴まって、狙われた!」

 

ヘリは急旋回すると、その場所に巨大な火球が通過した。 それを横目で見たアルトは冷や汗を流す。

 

「キャロ! 防ぐわよ!」

 

「うん!」

 

《プロテクション》

 

キャロはケリュケイオンを、ルーテシアはアスクレピオスを前方に掲げ。 ヘリの前方に障壁を展開、次に迫ってきた火球を防いだ。 が、それで2人は息を上げて膝を落としてしまう。

 

「キャロ、ルーテシア!」

 

「はあはあ……」

 

「くっ……まだ、回復、しきってないわね……」

 

先刻の激戦での疲労がまだ残っており、また魔法を使った事により2人に憔悴が見えるようになる。 そんな中、エリオがハッチの方を向きながらストラーダを構える。

 

「今度は僕が……!」

 

「エリオ君が行ってもキャロ達と同じ事の繰り返しだから! ここは年長者にーー」

 

その時、メランジェはヘリに向けて連続で火球が放たれた。 その弾幕にアルトは目を見開かせ……

 

「ーーやあああああっ!!」

 

直撃する瞬間、地上から放たれた水の斬撃が火球を斬り裂いた。

 

「皆、大丈夫!?」

 

「助けに来たぜ!」

 

「美由希さん、ヴァイス陸曹!」

 

美由希とヴァイスは火球を迎撃しながらヘリに接近し、中に入った。

 

「アルト、操縦変われ」

 

「は、はい!」

 

「ストームレイダー、アイハブコントロール」

 

《ユーハブコントロール》

 

ヴァイスはアルトの隣の操縦席に座り、ストームレイダーを端末に置いて操縦桿を握った。 ヘリは一気に上昇し、それをメランジェは下から追尾する。

 

「やっ! とりゃ!」

 

開かれたハッチでは落下しないように身体を命綱で固定した美由希が放たれた火球を迎撃する。

 

「美由希さん! 私が引きつけますから、その隙にメランジェの頭に大量の水をぶつけてください!」

 

「ちょ、キャロちゃん!? ボロボロなんだし、危ないから下がってて!」

 

「ーーフリード、ブラストファイア!」

 

「キュクル!!」

 

フリードは口から火球を放ち、メランジェの顔面にぶつける。 だが今のフリードは通常状態、ダメージを与えられるだけの威力は無かった。 メランジェはヘリを睨みつけ、咆哮を上げる。 むしろ怒りを煽る結果となってしまった。

 

「よし、怒った……ルーテシアちゃん!」

 

「了解。 突っ込んで来た所を結界で捕獲する……!」

 

キャロは冷静に欠いたメランジェを誘い、それをルーテシアが捕獲するという危険な賭けをした。 ルーテシアはアスクレピオスを構えた。

 

「やっ!」

 

「とや!」

 

「ーーそこ……!」

 

エリオと美由希の援護で定位置に誘導し、結界を発動しようとした時……メランジェは急降下し、ヘリの下に潜り込んで頭突きをして来た。

 

「くっ……!」

 

「うわあああっ!?」

 

「しまっーー」

 

機体が大きく揺れ、メランジェは火球を放つ準備をしながら狙いをつけ……突然、上空から落雷がメランジェに落とされた。 落雷による電撃はメランジェに大きなダメージを与え、そのまま地上に落下してしまった。

 

「メランジェ!」

 

「今のは……」

 

助かったとはいえ連絡も無しの第三者からの介入、美由希とルーテシアは辺りを警戒しながら見回すと……付近にあったビルの一角に1人の甲冑を纏った女性が立っていた。

 

「星槍のフェロー!?」

 

「な、なんでここに……」

 

「ーー皆!」

 

フェローの背後からアリシアとシグナム、リインが現れ。 飛翔してヘリの中に入り、アリシアはキャロとルーテシアを抱きしめた。

 

「わぷっ……!」

 

「良かった……怪我が酷いけど無事で本当に良かった」

 

「アリシアさん、苦しいですよぉ……!」

 

「それにシグナムとリインも……どうしてここに、というよりもなんで彼女達と一緒に!?」

 

「ちょ、ちょっと事情があってね……」

 

痛いところを質問され、アリシアは少し困惑2人から離れながら後ろを向いてフェローに話しかける。

 

「それで聞かせてもらってもいいですか? ここに来た理由を。 あの子達を竜から助けたかった……というわけでもないのでしょう?」

 

「ええ、ここに来たのはある一つの訳あって……」

 

フェローはヘリに向かって飛ぶ。 ヴァイスは逃げようと操縦桿を握るが、アリシアが様子見として止め……フェローは機内に入った。 コツコツと歩くだけで様になっており、美由希達が警戒を強める中……その青い双眸が1人を見つめた。

 

「ーーエリオ・モンディアル。 私はあなたと立ち合いを願います」

 

「え……」

 

「えええええぇっ!?」

 

突然の申し出に、エリオは驚くが、最も驚いたのはルーテシアだった。 驚きながらもエリオはハッとなって気を引き締め、困惑しながらも聞き返した。

 

「ど、どど、どうして僕と……?」

 

「この子を渡すに値するか否か、それを確かめる為です」

 

「……………………」

 

フェローは肩に乗るコルルに手を向けながら言う。 理由を聞き、エリオは考え込むように黙り込んでしまう。 キャロ達も心配そうに事の成り行きを見守る。

 

「捕らえられていたコルルは私が研究室を破壊した時、恩を返すという一点張りの理由で今まで同行を許していました。 しかし……これ以上は見果てぬ煉獄に進むと同じ、連れてはいけない。 ですから、コルルと同じ変換資質のあなたに願い申し立てたいのです。 この子をよろしく頼むと」

 

「……何で、僕なのですか? 同じ変換資質ならもっと相応しい人が……フェイトさんがいるはずです」

 

同じ電気の魔力変換資質を持っていようと、実力を考えればフェイトに預けた方が良いが……それを否定するようにフェローは静かに首を振った。

 

「彼女ではいけない。 エリオ・モンディアル1個人……まだ見ぬ理がある。 己の存在する意味、生きる意味を見つけようと足掻くあなただからこそ、雷鳴の槍精、コルディアの主人足り得るか……それを示してはもらえませんか?」

 

「……………………」

 

丁寧に話すフェローの説明に、置いていかれるはずのコルルは黙って聞いていた。

 

「差し出がましいのは重々承知です。 この立ち合いを断られても致し方ありません、ですからーー」

 

「……ます」

 

フェローが身を引こうとした時、エリオはポツリとなにかを言った。

 

「エリオ君?」

 

「レンヤさん達から聞きしその槍……未熟に加え、負傷の身ながら……その申し出、受けさせてもらいます」

 

「エリオ!?」

 

「ちょ、ちょっと! 何してるのよ!?」

 

「キャロ、ルーテシアはメランジェをお願い」

 

そう言いエリオはハッチから飛び降り、真下にあったビルに飛び降りた。 それに続いてフェローとコルルも飛び降る。

 

「始めましょう……」

 

「はい」

 

「僕が立ち合う、それでいいね?」

 

エリオとフェローは互いに対面し、武器を構え。 その中間に位置する場所でコルルが控えた。

 

「………………」

 

「………………」

 

ヘリのプロペラ音だけが聞こえ、キャロ達が固唾を飲んで見守る中、エリオはフェローの放つ気迫に押されていた。

 

(ぜ、全然隙がない……それに今の状態じゃあ、まともに戦えたとしても1分も保たない。 例え万全の状態でも1秒も保たないけど……一瞬の邂逅による短期決戦……これしかない!)

 

エリオは心を落ち着かせるために目を閉じて黙想をし……開眼と同時に叫んだ。

 

「ストラーダ、フォルムドライ!!」

 

《ウンヴェッターフォルム》

 

ストラーダの槍にある噴射口と石突から突起物が飛び出し、構える。 ストラーダの第三形態、エリオの電気の変換資質を最大限に強化するための形態……これで決めるようだ。

 

「……機動六課、ライトニング分隊……ライトニング03、エリオ・モンディアル……行きます!」

 

「いきや良し。 ティマイオスが一柱、星槍のフェロー……いざ、尋常にーー」

 

『勝負!!』

 

ほぼ同時に地面を蹴り上げて飛び出し、フェローはランスを神速の如き速さで放ち。 エリオはソニックムーブを使い、自身が雷となり槍を振るい……ほんの刹那の間交差し、互いに背を向けて立ち位置が入れ替わった。 そして一瞬の交差の後……

 

「……………………」

 

「ーーかはっ……!」

 

「エリオ君!!!」

 

エリオは血反吐を吐き、ストラーダを地面に突き刺し支えにして膝をついてしまった。 その間にフェローはスクッと立ち上がり、ランスを一払いする。

 

「そんな……」

 

「エリオの渾身の一撃を無傷なんて……」

 

「……いや」

 

ピシッ……

 

「!」

 

フェローの顔を覆う仮面にヒビが入り……完全に砕け散ってしまった。 フェローは空気に晒された、驚きを見せる顔に手を当てる。

 

「や、やった……」

 

「驚きました……まさかここまでとは……」

 

「ホント、ビックリしたよ……」

 

一太刀入れられた事に喜び、エリオは気が抜けて倒れてしまう。 そして面を破られたことにフェローはもちろん、コルル自身も驚きを露わにしている。

 

「エリオ君!!」

 

「また無茶して……!」

 

メランジェの治療を終えたキャロとルーテシアはエリオの元に駆け寄った。 2人はすぐに治療を施す。 と、そこに聖王医療院で療養していたはずのシャマルとザフィーラが短い茶髪の戦闘機人を連れて飛んできた。

 

「シャマルにザフィーラ!? どうしてここに……」

 

「皆が頑張っている中でオチオチ寝ていられないわよ。 さて……傷は深くないわね。 本当、敵ながら見事な腕前ね……」

 

シャマルがエリオを治療しながらフェローの視線を向け、皮肉気味に言った。 それを聞いたか否か、フェローは口を開いた。

 

「ーーさて、結果が出ました。 エリオ・モンディアル、あなたは雷鳴の槍精の主人に相応しい人間と認めます。 もっとも、そう決まったと同時に我が軍門に入れたいと思いましたが……それは栓なきこと、ここは諦めましょう」

 

本当に残念そうに首を振り、フェローはコルルと向き合った。

 

「コルル、本当に良いのですね?」

 

「うん。 皆と会えないのはかなり寂しくなるけど……これは姉さんが示してくれた道。 僕はそれを自分の意志で歩いて行くだけさ、バチバチとね」

 

頭の後ろで手を組み、気にしてない風にケラケラと笑うが……やはり別れるのは寂しいようで、少し悲しそうに見える。 と、そこで4つの影がフェローの前に降り立ち……騎陣隊の四隊士が主人の前に跪いていた。 その甲冑は汚れており、四隊士は目に見えて負傷していた。

 

「マスター、名を果たされたようでなによりです」

 

「私の不手際で盤面に立つ者が予想より消えてしまいましたが……あなた達も手酷くやられたようですね?」

 

「……はい。 凄く強く……戦いの中で強くどんどんなっていきました……」

 

「いずれは単騎で我らと並ぶ逸材となっていたでしょう。 失礼ながらマスター、その面は彼に?」

 

ウルクは視線を倒れているエリオに向け、フェローは肯定するように静かに頷いた。

 

「ええ、面を破られてしまいました」

 

「それは凄い、敵ながら見事」

 

ラドムはエリオに賞賛を送った。 そして、フェローは腕を横に振ると……足元に転送陣が展開された。

 

「あ!? ちょっと待って! 何良い雰囲気のまま帰ろうとしているの! こっちにはまだまだ聞きたいことが山ほど……!」

 

「ーーいずれ、また(まみ)える時もありましょう。 あなた方が前に進み続けるのなら」

 

「な、何を……」

 

アリシア達は彼女の言葉に疑問の念を感じるが……それを聞く前にフェローが頭上に手をかざし、一瞬光ると……その手にはハルバードが握られていた。 豪華絢爛な装飾が施されながらも実用的な、歴戦を潜り抜けたと感じさせるハルバードが。

 

「これを今世の雷帝に、今の私には不要なものです」

 

「……………………」

 

それを地面に突き刺すと……彼女らは転送され、消えていってしまった。 あとに残ったのはハルバードだけ、そしてそれを見届けたコルルは静かに目を伏せる。

 

「じゃあね、皆……」

 

「コルルさん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以前、トーレが伝えたか……君と私は親子なよく似た物だと」

 

スカリエッティのアジトで、拘束されているフェイトにスカリエッティは話しかける。

 

「やあっ!!」

 

「ふん……」

 

そのすぐ近くで、すずかとリヴァンがナギ・エスパイアと交戦していた。 すずか達が劣勢を強いられており、ナギ1人で戦況が傾いている。 戦闘機人2人はナギに任せ、フェイトを囲っている。

 

「チッ……ことごとく攻撃が消される!」

 

「これが……滅の魔乖咒の真の力……!」

 

全ての攻撃が一撃必殺、当たりでもすれば五体満足にはいられない状況……すずかとリヴァンの精神は次第に磨り減っていた。 その間にスカリエッティはフェイトにプレシアが完成させたプロジェクトFについて語りかける。 フェイトはそれを黙って聞いていた。

 

その次に、空間ディスプレイにエリオ達が映った。 満身創痍になりながらも暴走している長大な竜……メランジェを追っていた。

 

「……っ………ライオット……!」

 

《ライオットブレード》

 

それを見たフェイトは立ち上がり、バルディッシュに形態変形を宣言した。 バルディッシュはカートリッジをロードし、大剣から形を変え……片刃の長剣へと変形し、刀身に電撃が走る。

 

「はあっ!」

 

長剣を横に振り抜き、赤い魔力線で構成された角錐型の檻を破壊し、スカリエッティを睨みつけ構える。

 

「……………………」

 

「それが君の切り札か? ふむ、このAMF状況下でも余裕がありそうだね……私の予想を遥かに超える成長ぶりだ」

 

スカリエッティの言葉にフェイトは答えない。

 

「でも、ここで使っていいのかい? 私を倒しても、ゆりかごも私の作品達も止まらんのだよ? プロジェクトFは上手く使えば便利なものでね。 私のコピーは既に11人の戦闘機人達、全員の体内に仕込んである。 どれか一つでも生き残れば、すぐに復活し。 1月もすれば、今の私と同じ記憶を持って蘇る」

 

「……馬鹿げてる」

 

狂っているとフェイトは一蹴するが、スカリエッティはさも当然のように答える。

 

「旧暦の時代……アルハザード時代の統治者にとっては、常識の技術さ。 つまり君は、ここにいる私だけでなく、各地に散った11人の戦闘機人達全員を倒さねば……私も、この事件も……止められないのだよ!」

 

そう言うと共に、スカリエッティは鉤爪をつけた右手を握り締める。 再びフェイトの足元から赤い糸が発生し、フェイトを捕らえんと迫る。

 

「くっ!」

 

すぐにそれに気付き、その場を飛び退くフェイト。 だが……

 

「逃がしません」

 

「ーーは……!?」

 

「はあっ!」

 

トーレとセッテに先回りされ、道を塞がれた事により速度が落ちた瞬間を狙われて牽制されてしまい……その隙を突かれ、再び赤い糸に囚われてしまった。

 

「さあ、絶望したかい?」

 

「くっ……」

 

「君と、私はよく似ているんだよ」

 

「ッ!?」

 

唐突にそう笑みを浮かべながら答えるスカリエッティに、フェイトは有り得ないと思いながらも思わず息を呑む。

 

「私は自分で作り出した生体兵器達……君は自分で見つけ出した、自分に反抗する事のできない子ども達……それを自分の思うように作り上げ。 自分の目的の為に使っている」

 

「っ!! 黙れ!」

 

そんな気は絶対にない……フェイトはそう思いながら怒りを露わにし、自身の周囲にスフィアを展開して魔力弾を放った。 だがスカリエッティは手をかざし、AMFによる障壁で打ち消してしまった。

 

「違うかね? 君があの子達に自身に逆らわないように教え込み、戦わせているだろう?」

 

「っ……!」

 

「私がそうだし、君の母親も同じさ。 周りの全ての人間は自分の為の道具に過ぎない……そのくせ君達は、自分に向けられる愛情が薄れるのには臆病だ……改心したとは言え、君の母親がそうだったんだ。 間違いなく君もああなるよ。 間違いを犯す事に怯え、薄い絆に縋って震え……そんな人生、無意味だとは思わんかね?」

 

「……………………」

 

「フェイトちゃん!」

 

「余所見はいけないね!」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

スカリエッティの言葉を否定できない自分がいた。 肯定してしまいそうで自信喪失になりかけた時……

 

『違う!!』

 

繋がっていた通信から、エリオとキャロの声が響いて来た。 空間ディスプレイに映し出された2人はヘリに乗っており、どちらも酷い怪我を負っていたが……強い目をしてフェイトを見た。

 

「あぁ……エリオ、キャロ……なんて酷い怪我を……」

 

『無意味なんかじゃない!』

 

『ゴホゴホ……! た、確かにフェイトさんに導かれて六課に来ました。 でも……戦いの場に出た事も、ここまで来たことも自分達で選びました!』

 

『フェイトさんは、行き場のなかった私に、あったかい居場所を見つけてくれた!』

 

エリオは呼吸器官が傷ついて咳き込みながらも、自分の意志をキャロと一緒にフェイトに伝える。

 

『皆さんと一緒に、沢山の強さと優しさをくれた!』

 

『大切なものを守れる幸せを……沢山の人に幸せを与え、与えられる事を教えてくれた!』

 

『助けてもらって、守ってもらって、機動六課でなのはさんとアリサさん、レンヤさんとすずかさんに鍛えてもらって!』

 

『やっと少しだけ、立って歩けるようになりました! 私が前に進む答えも……結果も』

 

キャロは視線を後ろに向けると……そこには気絶して横になっているクレフが映った。

 

『フェイトさんは、何も間違ってない……間違っているはずがない!』

 

『不安なら、私達がついてます! 困った時は助けに行きます!』

 

『もしも道を間違えたら……僕達がフェイトさんを叱って、ちゃんと連れ戻します! もちろん、レンヤさん達と一緒に!』

 

「……ぁ……」

 

『ゴホッゴホッ!!』

 

『うっく……ハアハア……』

 

『2人とも! 無理しないで! ジッとしてなさい!』

 

無理に叫んだせいか2人は傷に響き、膝を付いて痛みに耐え。 横からシャマルが出て治療に当たる。 だが、2人はその手を払いのけ……

 

『この戦いが終わったら、キャロと一緒に伝えたい事がありましたけど……今伝えます!』

 

『フェイトさん……私も、エリオ君も、あなたの家族として……! あなたをこう呼びます!』

 

エリオとキャロは、一呼吸置くと……

 

『頑張って!! “お母さん”!』

 

自分達の想いを口にした。

 

「ッ!」

 

その言葉に、フェイトは目を見開く。

 

「……ごめん……なのは……レンヤ……もう少し、もう少しだけ……私の我儘を……!」

 

フェイトがそう呟くと、金色の魔力光に包まれる。

 

《ゲットセット》

 

「オーバードライブ……真・ソニックフォーム」

 

《ソニックドライブ》

 

フェイトを中心に、金色の魔力の奔流が放たれた。 するとフェイトのバリアジャケットが変化し、髪型が昔を思い出すようなツインテールに。 そして身に纏う装甲が更に薄く、防御を無視した完全な速さ重視の形態へと変わった。

 

(ゴメンね。 ありがとう………エリオ、キャロ)

 

心の中で謝罪、そして礼を言い。 目の前を真っ直ぐ見据える。

 

「疑う事なんて、ないんだよね………」

 

《ライオットザンバー》

 

ライオットソードが分離し、柄がワイヤーで繋がれたら双剣をその両手で掴む。

 

「私は弱いから……迷ったり、悩んだを……きっと、ずっと、何度も繰り返す。 だけど……いいんだ……!」

 

思いを胸に秘めながら双剣を握る力がこもり……

 

「迷っても前に進み続ける。 私は1人じゃない………エリオが………キャロが………皆が………そして、レンヤがいてくれるから!」

 

フェイトは双剣を、ライオットザンバー・スティンガーを構え……

 

「恐れる事なんて、何もないんだ!」

 

吹っ切れたようにそう言い放った。 それを聞き、トーレとセッテは身構える。

 

と、その時、フェイト達の背後で大きな爆発がおき、その中から煤汚れたナギが出てきた。

 

「すずか、リヴァン!」

 

「っ……中々やるようだね」

 

「確かに滅の魔乖咒は強力だ。 だが……強力な反面力押ししかできないようだな?」

 

「それが対処できれば問題ありません。 慣れるまで時間がかかりましたが……もう苦戦はしません」

 

すずかとリヴァンが警戒を強める中、ナギは微小しながらスーツに着いた汚れを手で払う。 そして相対する2人を一瞥し……

 

「ふっ……ここまでかな」

 

「なに……?」

 

「僕はこれでおいとまさせてもらうよ。 あとは好きにしていいよ」

 

「え、あ……ま、待ちなさーー」

 

すずかが止める間もなく、ナギは音もなく消えてしまった。 その身勝手な行動にトーレは怒りを露わにする。

 

「あいつ……なにを勝手に!」

 

「くくく、やれやれ……ここで逃げられたら私達が不利なのだが……まあいいだろう。 ゆりかごが起動した時点で彼らとの契約は終了しているしね」

 

スカリエッティは致し方なしと思い、やれやれと肩をすくめて首を振る。

 

「フェイトちゃん!」

 

「形成逆転だな?」

 

「くっ……いくら虚勢を張ったとは言え装甲が薄い! 当たれば簡単に墜ちる!」

 

「フェイトちゃんはあなた達には墜とされない!」

 

戦闘態勢に入ったトーレが叫び、すずかが間合いを詰めて槍を連続で突く。 トーレは両手と両足で防ぎ……スカリエッティの右手が僅かに動く。 フェイトは瞬間的にその場を飛び退き……一瞬遅れて先程の場所が爆発した。

 

セッテが飛び退いたフェイトに向かってブーメランブレードを投げつけようとするが……

 

「させるかよ!」

 

「ッ!?」

 

爆煙を挟み、リヴァンの矢がブーメランブレードを弾き阻止させられる。 リヴァンはそのまま爆煙を突き抜け、互いの武器をぶつけて鍔迫り合いになる。

 

その時、再びスカリエッティが右腕の鉤爪を動かすと床から赤い糸が発生し……すずかとリヴァンを縛り上げ、更にはフェイトにも襲いかかる。

 

「はあっ!」

 

だが、フェイトに向かった赤い糸はライオットザンバーによって切り裂かれる。

 

「もらったぞ!」

 

一方、セッテは赤い糸に縛られたリヴァンに向かってブーメランブレードを投げつけた。しかし、リヴァンは拘束されたまま指だけを動かし……張り巡らせていた鋼糸でブーメランブレードを絡め取った。

 

「なっ……!?」

 

「蜘蛛が自分の巣にやられるわけねぇだろうが!!」

 

叫びながら発剄を放ち拘束から脱し。 手をかざしてゆっくりと閉じ、それに比例するようにブーメランブレードが締め付けられるで砕かれる。

 

「ふっ……!」

 

《オールギア……ドライブ》

 

すずかも糸を凍らせて砕いて拘束から脱し、全てギアを回転させる。 そしてリヴァンはセッテの懐に潜り込み……

 

「内力系活剄……」

 

「しまっ……」

 

「ーー烈剄!!」

 

内力系活剄で腕力を向上させ、防ぐ間も無く拳がセッテの腹に入り……衝撃がセッテの腹部を突き抜け、そのまま気を失う。

 

「ふははははは!」

 

「科学者なのに、よく動けますね!」

 

すずかの高速の乱れ突きをスカリエッティは糸で、爪で防ぎ、身を翻して躱していく。 その事にすずかは思わず質問してしまった。

 

「くく、なに、研究も言い方を変えれば、肉体労働なんでね!」

 

「それは……同感です!」

 

変な所で共感しながらも、すずかは攻撃の手を休めない。

 

「バルディッシュ!」

 

《イクシードシステム。 イグニッション》

 

右手の長剣にスロットルが付き、フェイトはそれを全力で回し。 それに比例して速度が上がりトーレとの距離を肉薄する。

 

「ーーライドインパルス!」

 

トーレがフェイトのスピードに対抗する為にすぐにISを発動する。

 

フェイトとトーレが超スピードで空中戦を繰り広げた。 お互いの攻撃が掠め合い、傷が出来ても2人は止まらない。

 

「一気に決める!!」

 

するとフェイトが2本の剣を一つに重ね、大剣の状態……ライオットザンバー・カラミティへと形態変化させる。

 

「こおおおおお……」

 

フェイトは目を閉じ、心を落ち着かせながら呼吸を整え丹田に力を込め、大剣を振り上げ……ゆっくりと下ろし正眼に構える。

 

そのフェイトの変化にトーレは肌で感じ、冷や汗を流しながら警戒を強める。 そして……

 

「ーー参る!!」

 

「でやぁあああああっ!!」

 

フェイトは開眼と同時に飛び出し、高速で大剣を振り抜き。 トーレは自身ごと回転させ、回転により威力を上げた腕のインパルスブレードを繰り出す。

 

ガキンッ!!

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「ぐう……ああああっ!!」

 

互いの一撃がぶつかり合い、一瞬拮抗するが……すぐにトーレのインパルスブレードが耐え切れずに砕け散り……さらにフェイトは擦り抜き際にすぐに追撃、高速で移動と攻撃を連続で繰り返し……

 

《フルスロットル》

 

「でやっ!!」

 

トーレの正面に立ち、柄にあるスロットルを全力で回して大剣が雷撃を纏いながら刃渡りを伸ばし……

 

雷速の光斬(ブリッツ・ブレイド)!!!」

 

残像が残るほどの速度で切落、袈裟斬り、右薙ぎ、左薙ぎ、逆袈裟……いくつもの型を一瞬で振り、その斬撃の軌跡がトーレに集中し……強烈な雷撃を放ちなが、トーレは物凄い勢いで吹き飛ばされた。 そしてトーレを撃破したフェイトは身を翻し、そのままスカリエッティに斬りかかる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

裂帛の気合いを入れ、フェイトはスカリエッティに大剣を振り下ろす。

 

「ふん!」

 

「なっ……!?」

 

「嘘!?」

 

「なんて奴だ……!」

 

だが、驚くことにスカリエッティはそれを両手の鉤爪で受け止め、その衝撃で床が大きく陥没する。 その光景にフェイトはもちろん、すずかとリヴァンも驚きを露わにする。

 

「フハハハハハ……素晴らしい……やはり素晴らしい……ああ! この力、欲しかったなぁ! ……だが、私を捕える代償に、君はここで足止めだ……私が倒れても、子ども達が倒れても……見えない場所で既に楔は打ち込まれている! 私がゆりかごに託した夢は、止まらんよ!!」

 

スカリエッティの言葉に、フェイトは一瞬悔しそうな顔をするが……

 

「ーーその心配はありません。 さっきも言った筈です。 私達には、仲間がいると! ゆりかごは、必ず彼らが止めてくれる!」

 

「俺達を舐めるなよ!」

 

すずかとリヴァンがそう言い放ち、フェイトが飛び退くと同時にすずかがスカリエッティの懐に飛び込む。 そして槍を縦に振り回し……

 

「やあぁっ!!」

 

槍の石突きを勢いよくスカリエッティの顎にぶつけてかち上げた。 宙に浮くスカリエッティ、そこにフェイトが追撃をかける。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

フェイトが大剣を振り回し、剣の腹で宙に浮いたスカリエッティを叩いて吹き飛ばし、壁際に叩きつけた。

 

「ハアハア、ハアハア……」

 

「フェイトちゃん……」

 

戦闘が終わり、フェイトは息を整え……スカリエッティに歩み寄る。

 

「……広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。 あなたを……逮捕します」

 

 


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