魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

181 / 198
181話

 

 

レンヤ達と離ればなれになりながらも、はやて達は駆動炉に向かうため、異界迷宮を進んでいた。

 

「ふう……どれくらい進んだんやろか?」

 

襲いかかってきたガジェットとグリードを殲滅し、はやて達は辺りを見回しながら一息つく。

 

「さあな。 ガジェットやらグリードやらが邪魔で潰してたしあんま気にしてなかった」

 

《この先に広い空間があります。 恐らく中間地点だと思われます》

 

「………………」

 

そんな中、シェルティスは先の通路を静かに睨みつけていた。

 

「シェルティス?」

 

「どうかしたのか?」

 

「……ううん。 なんでもない……行こう……」

 

シェルティスは気になる事がありながらも先に進み、しばらくして通路を抜けると……薄暗い迷宮とはうって変わり太陽と大空がある、風なびく草原だった。

 

「ここは……外か?」

 

「異界やろうな。 意外と普通の光景で驚くけどなぁ」

 

「……いるんだろう? 異編卿第三位、黄金のマハ」

 

「え……」

 

シェルティスの呼び声に答えたのかはわからないが、近くの岩から地面を引きずるような音を立てながら現れたのは……色褪せた黄土色のローブを着て、身体の各所をリングで圧迫している人物……

 

「黄金のマハ……久しぶりです。 また草原で会いましたね、昼夜違いますけど」

 

「……………………」

 

「報告で聞いとったけど、無口やなぁ……」

 

「我が名はマハ。 黄金のマハ」

 

「って、そこで名乗るんかい!」

 

目深のローブから重く、響くように名乗った。 そして性分なのか、はやてはそれにツッコミを入れる。

 

「これより介入。 対象3人の排除を開始する……」

 

「問答無用かよ」

 

「マハはこんな人だよ。 そして……非情だ」

 

「来るで!」

 

「ーー()()()()()()()()()()()……()……()()()()……()……」

 

呟かれたのはマハが黄金たる黄金術式の詠唱。 虫の羽音のように紡がれる術式は万物を創造しえる力を持つ。

 

()()()()()………()……()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()………()()……()()()()()()()()……()……()()……()()()()……()()()()()………()()()()()()()()()()()………()()()()()()()()()()()………()()()()()………」

 

ぼこり、と突如地面から何が飛び出してきた。 それは黄金の杭……地中から高速で撃ち出された無数の杭が、(やり)さながらな鋭利な先端を向けて放たれた。 何十本、何百本という桁違いの数が。

 

「以前と同じ展開!」

 

「ーー撃ち返せ、イージス!」

 

はやてが目の前に六角形で構成された半球型の障壁を展開し、全ての鎗を防ぎ跳ね返した。

 

「弾幕はパワーだ!」

 

《ゲフェーアリヒシュテルン》

 

「でやっ!」

 

ヴィータははやての防御から出て横に移動しながら目の前に複数の鉄球を展開し、ハンマーを振り下ろし全て打ち出した。

 

「規定する。 花が理想を彩る夢」

 

怯むことなく詠唱し、マハは迫ってきた鉄球を地面から芽生えた土塊の花によって受け止められた。

 

「鉄球より擬似創造。 色は翡翠。 性質は嫉妬。 形状(かたち)蟷螂(かまきり)。 万物を斬り刻む鎌を持って顕現せよ。 眼前の敵の断滅を規定する」

 

ヴィータの鉄球は実体のある物理魔法。 マハそれを利用し、鉄球を受け止めた花が萎んで鉄球を呑み込み……エメラルドの光沢を持った蟷螂を創り出した。

 

「なっ……!? こっちの攻撃が利用されただと!?」

 

「初めて見るタイプだ……2人とも、気をつけて!」

 

蟷螂は真っ直ぐ、はやて達に向かって鎌を向けながら疾走する。

 

「散開!」

 

はやてがそう指示すると、3人は3方向に飛び出した。 すると蟷螂は左右のはやてとヴィータに鎌による斬撃を飛ばし、正面から来たシェルティスに鎌を振り下ろそうとする。

 

「剣晶十二……翠晶剣!」

 

シェルティスは自身の双剣を納め。 両手ににいくつもの翠の水晶で構成された剣を作り出し、振り下ろされた鎌を受け止め……剣を鎌にめり込ませるように斬らせて手放した。

 

「せいっ!!」

 

剣がくっついてまごついている間に新たに剣を作り、動体を斬り裂いた。 その間にはやてとヴィータはマハに向かって走り出す。

 

「はやて!」

 

「分かっとる!」

 

「ーー規定する。 世界は終焉を迎える」

 

はやてとヴィータが一歩踏み出そうとした時……黄金の魔力が波として地面に流れ……マハのいる方面を抜いてみるみるうちに草原が砂漠と変貌しまい、2人は足を取られてしまった。

 

「草原が一瞬で砂漠に……!」

 

「なんて魔力だ!」

 

これだけの質量を一瞬で変化させるだけの魔力、そして黄金六面体の本領が発揮されつつあり。 続けてマハは詠唱を行う。

 

「地中の砂鉄より擬似創造。 色は灰色。 性質は畏怖。形状は鼠。 個にして全、軍団にて顕現せよ。森羅の(かさね)を規定する」

 

次々と砂の中から何百……何千匹もの灰色の鼠が出てきた。 灰色というよりも鈍色に光る鉄のような針鼠だ。 それがカサカサと音を立て、砂漠に無数の足跡を残しながらはやて達に迫ってくる。

 

「うわぁ!? なんやこれ!?」

 

「うう……なんか知らねえけどゾワゾワってくるぅ!?」

 

「シェルティスくーーん! 助けてーー!」

 

「たっく……剣晶百十四、光臨翠瀑布!!」

 

呆れながらも上空に無数の翠の氷柱のような結晶を作り出し、それを高速に落下させ鼠の軍団を一掃しようとするが……氷柱が鼠に直撃すると身体を砂鉄にしてバラバラにし、その後二匹となって元に戻った。 つまり増殖した。

 

「うわっ!? 増えた!?」

 

「何やってんだよシェルティス!?」

 

「僕のせい!?」

 

「えっと……ここはどうしたらええんや? うーん……あっ、そや!」

 

刻々と鼠達が迫りながらも考え抜き……何か名案を思いつき、はやては杖を掲げる。

 

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。 銀月の槍となりて、撃ち貫け……石化の槍、ミストルティン!!」

 

鼠の軍団の真上に魔法陣を展開し。 魔法陣を中心に6本と、その中心から1本の最大7本の光の槍を放った。 すると一瞬で鼠達は時が止まったように動かなくなってしまった。

 

「本来なら非生物には効かんけど……応用でこないな事もできるやで」

 

「さすがはやて! アタシも負けられねぇな!」

 

対抗意識が出たのか、ヴィータはマハの背後に回り。 しっかりとした地面を踏みしめて鉄槌を振るう。

 

「モルトシューー」

 

「規定する。 愚者は奈落へ帰天する」

 

「ラー……って、おおっ!?」

 

「ヴィータ!?」

 

突如ヴィータの足元が崩れ、反応する間も無く落下してしまう。

 

「落とし穴!?」

 

《古典的、しかし効果的な戦術ですね》

 

「重圧にて排除する」

 

バンッ! と、音を立てヴィータが落ちた落とし穴は左右の壁に押し潰されて消えてしまった。

 

「ヴィータ!!」

 

《ツェアシュテールングスフォルム》

 

「ーーおらあああっ!!」

 

はやてが叫ぶ中、マハの真下の地面が盛り上がり……ヴィータが飛び出しフードに隠れた顎を蹴り上げた。

 

「この程度でやられるかよ!」

 

どうやらグラーフアイゼンのリミットブレイクを発動、ドリルとブーストが付いた鉄槌に変形し。 圧殺される前にドリルで穴を掘り、マハの真下から飛び出てきたようだ。

 

「規定する。 根が世界を覆う夢」

 

マハは一歩後退しながらも乱れない詠唱を唱える。 マハの足元から極太の根が飛び出し、ヴィータに絡み付こうとする。

 

「ちぃっ!」

 

「させるか!」

 

絡み付こうとした根をシェルティスが放った結晶によって射抜き、その間にヴィータは距離を取った。

 

「フラガラッハ……シュート!!」

 

はやては高密度の魔力で構成された1本の短剣を目の前に浮かせ、杖を一振りするとマハ目掛けて高速で発射された。

 

「規定する。 憤怒を遮断する」

 

はやてとマハの間にいくつもの土壁が盛り上がり、短剣は土壁によって進路を阻まれるが……短剣の勢いは全く衰えず、次々と土壁を貫通していく。

 

「…………っ…………!」

 

初めて聞いた痛みの反射神経からきたマハの声。 短剣が直撃し、マハは大きく吹き飛ばされる、

 

「よっしゃ! 上手くいったで!」

 

「ようやくまともなダメージを与えられたと思うけど……」

 

「あれくらいで倒れる奴じゃないからな。 気を抜くなよ」

 

3人が警戒を強める中、マハはスクッとダメージを感じさせずに立ち上がる。

 

「結晶より擬似創造」

 

ローブからこぼれ落ちたのは魔力が込められた結晶。 それが大地に落ち、水の中に落ちるように地面に吸い込まれる。

 

「色は藍色。 性質は意志。 形状は巨人。 その創造に細工は不要。 大いなる体躯と四肢、比類なき豪腕を有して単体にて顕現せよ。 全ての敵の圧倒を規定する」

 

地面が盛り上がり、少しずつ形作られる。 そして出来上がったのは藍色を基調にした丸い頭の巨大な人型のゴーレムだった。

 

「でかっ!?」

 

「圧倒せよ」

 

その一言で巨人は動き出し、一歩前に進めばその場所は砂であろうが固められて確実に前に進んでしまう。 そして徐々に歩く速度が上がり……見た目と体格に合わない速度で走ってきた。

 

「来たぁ!?」

 

「見た目に反して動けるんだね……」

 

巨人は跳躍し、飛び上がりながら腕を振り上げ……

 

『うわぁああああっ!?』

 

走る勢いと落下速度を利用して放たれたパンチは地面を抉り、衝撃ではやて達はかなり吹き飛ばされる。 それによりヴィータの怒りが第1段階を超えた。

 

「ブチ切れた……!」

 

《ゲッターラヴィーネ》

 

「おらあああっ!!」

 

感情の変化によって魔力が上昇し。 大地を蹴って巨人の真上に飛び上がり……鉄槌を巨人の足元に振り下ろし衝撃が立ち上った。

 

「はやて!」

 

「万海灼き祓え! シュルシャガナ!!」

 

ヴィータの合図ではやての周りに複数の炎の剣が展開、発射し。 巨人を足止めし……

 

「千山切り拓け! イガリマ!!」

 

巨人を超える背丈の大剣を精製し、真上から振り下ろし真っ二つに斬り裂いた。

 

「剣晶二十二……翠晶穿(すいしょうせん)!!」

 

シェルティスが走り出し、双剣を揃えて突き出し……そこから結晶が構成され。 自分自身が槍となり突撃する。

 

「阻め」

 

「うおおおおおっ!!」

 

土壁と結晶の槍が衝突し……槍が貫通し、シェルティスは土壁ごとマハを突き飛ばした。

 

「これで……!」

 

「……我が術式に敵は無し」

 

マハは立ち上がり、空を仰ぐように両手を掲げ、そして勢いよく振り下ろした。

 

「黄金六面体が規定する」

 

さらさらと、振り下ろした両袖から溢れる大量の黄金色の砂。 異界の陽の明かりで反射するその輝きは、紛れもなく黄金そのものだった。 しかし、以前よりその量はかなり多い。

 

(何て砂金の量だ……何かをする前に叩くしか……!)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして黄金より生まれるマハ。 黄金によって創造した自分自身。 ただし……詠唱の一文通り百にも及ぶマハが現れた。

 

「な、なんやてぇー!?」

 

「多過ぎだろ!?」

 

「エリス、本物はマークしているよね?」

 

《もちろんしていますが……全マハの魔力パターンが全て一致しています。 すんごいシャッフルされたら追い切れませんよ?》

 

「本物と偽物の区別がつかないってことね……」

 

そう思案していると……ダラーンと腕を下げながら、恐らく本物も含めてマハの軍団が襲いかかってきた。

 

「速い……!!」

 

「くっ!?」

 

「防げ、イージス!!」

 

マハの軍団は一斉に拳を繰り出し、はやてはまた防御障壁で凌ごうとするが……一体一体のパワーが桁違いに高く、耐えるのに精一杯だった。

 

「な、なんてパワーや……!」

 

「まさしくゴールデンパンチ……重さが違うね」

 

「このままやられるかよ!」

 

先程と同様にはやての障壁から飛び出し鉄槌を一振りし、ドリルの反対側にあるブースターを点火する。

 

「うおおおっ!! メツェライシュラーーークッ!!」

 

ブースターの勢いで回転しマハに突撃、直撃と同時にマハが砂金となり飛び散る。 その光景をはやてはジッと見つめていた。

 

(……なんや勿体ない気もするなぁ……)

 

「剣晶十九……飛雹晶!」

 

ヴィータの進行を阻まれないよう、シェルティスが幾つも結晶を飛ばし反撃するマハを止め、その瞬間を狙ってヴィータが通過し砂金が舞う。

 

「……そろそろヴィータも限界や。 早いとこ本物を見つけなぁあかんのに……」

 

はやては猛攻に耐えながら考えを巡らせる。 突破口を探して視線を巡らせる。 と、ふと地面に目を止める。

 

「(……ちょお待ち。 あの中に本物がいる保証はホンマにあるんか? 地の利は奴にある、つまりは……)ーー下や! アガートラム!!」

 

杖の先端に魔力を纏わせ……地面に振り下ろした。 杖はハンマーのように大地を震わせ、砂を吹き飛ばし、大地を砕いた。 打ち上げられる瓦礫と砂……その中にマハがいた。

 

「見つけた! シェルティス君!」

 

「任せて!」

 

シェルティスはその場で斬りあげる体制で構え、はやては防御をやめて飛び上がり……

 

「剣晶三十三……星清剣!!」

 

「銀の流星……アガートラム!!」

 

氷柱のように翠の結晶を伸ばして動体を突き刺し、十字杖から白い魔力刃が伸びマハを斬り裂いた。 すると地上にいたマハの分身は色を失い、砂金となってくずれおちた

 

「手応えあり!」

 

「ハアハア……どうや!?」

 

「……………………」

 

倒れ伏して微動だにせず分かりにくい反応だが、確実にダメージは蓄積されているようで、マハはすぐに立ち上がれなかった。

 

「見事……」

 

「え……」

 

マハはそれだけを言い残し、一瞬で転移して消えてしまった。 とても分かりにくく、静かな終わりだった。

 

「全く……最後まで無口な野郎だったぜ」

 

「ウプッ……回り過ぎた……気持ち悪い……」

 

「大丈夫か、ヴィータ? 見た目これやのにやっぱり中身はまだまだ子どもやなぁ」

 

「うっせ……ウプッ……」

 

手のかかる子どもを見ているような心情ではやては微笑みながらバランス感覚を整える魔法をヴィータにかけ酔いを止めた。 と、その時、奥へと続く道が開いた。

 

「道が開けたね」

 

「行こうか?」

 

「おう」

 

3人は出口に向かい歩みを進める。

 

「? なんやこれ?」

 

はやてはマハが倒れた場所に何かが落ちているのに気付き、近付いてそれを拾い上げた。

 

「これは……飴ちゃんの……髪留め?」

 

土を払いのけると、はやての手には2つで1組の飴型の髪留めがあった。

 

「マハの持ち物? それにしてはえらい可愛らしいなぁ……」

 

「はやてー! 何してんだー!?」

 

「あ、うん! 今行く!」

 

気になりながらも飴の髪留めをしまい、ヴィータの後に続いて通路を抜けた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。