魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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180話

 

 

数十分前ーー

 

「はああああっ!!」

 

ゆりかごを囲う結界の要の1つ、その中の異界を守護するエルダーグリードを渾身の一刀で斬り伏せた。

 

「ふう……手こずったな」

 

額の汗を拭い一息入れつく。 時間短縮のため既にレゾナンスアークのフルドライブ……スペリオルモードも発動しており、魔力も出し惜しみはしてなかった。

 

《異界化が収束します》

 

レゾナンスアークの言葉通り、周囲から光が溢れ出し……現実世界に帰還した。 だが、そこは未だに戦場。 管理局総出でガジェットとグリードと交戦していた。

 

「……ゆりかごがあんなに高く。 もう時間はないな」

 

脱出した場所は突入した地点から動かなかったようで。 顔を上げると上空にゆりかごが浮かんでいた。 しかし、周りに展開されている球体はその数を減らし、残りは2つとなっていた。 どうやら何人かの他の突入メンバーも既に異界を攻略したようだ。

 

「レン君!」

 

「無事みたいね」

 

後方からなのはとアリサが飛んできた。 2人とも既にレイジングハートとフレイムアイズのフルドライブ……エクシードモードとネクストフォルムを発動しているようだ。

 

「オメェがアタシらの後なんて珍しいな」

 

「厄介なグリードが多かったんでな。 残り2人ははやてとシェルティスか……」

 

「そのようね。 けど、その前にアレを見なさい」

 

アリサが指差した方向は上空、つまりゆりかごなのだが。 少しズレており、目を凝らして見てみると……ゆりかごを囲むように丸いリングがかかっており、四角い箱のようなものがリング上で移動していた。

 

「なんだあれ? あんなもの突入前には無かったはずだよな?」

 

「この場で交戦していたティーダさんによれば私達が突入したすぐ後に出現したそうだよ」

 

「ついさっき起動したみたいでね。 どうやらレーザー殲滅兵器のようで結果がこれ」

 

アリシアが指差して方を、真下を見ると……そこは焼け野原が線上に伸びていた。

 

「一種のレーザー兵器みたいでね。 何とか犠牲は避けられたけど、何度も撃たれるとマズイね」

 

「それにどうやらあの球体が消える度に威力が上がっている。 早いとこ何とかしねぇとな」

 

「そうだな……ーー!!」

 

その時、件の兵器が起動し。 四角い箱の底から砲身……いや長大な砲塔が飛び出し、急速に砲門にエネルギーが充填されていく。

 

『全部隊に通達! 上昇しろ!!』

 

ティーダさんが念話で大声で叫んだ。 すぐにこの場にいる管理局員は上昇し、射程の外に、ゆりかごの同じ高度に逃れようとするが……行く手をガジェットやグリードに塞がれる。

 

「ーーレンヤ!」

 

「了解!」

 

退路を開くためアリサと同時に飛び出し、高速で上空に向かい……

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

「ーー虚空千切(こくうちぎり)!」

 

真っ直ぐ突き進み、その線上にいた敵を全て斬り裂き退路を開いた。

 

「フレイムアイズ!」

 

《イクシードシステム。 イグニッション》

 

「さあ、燃やす尽くすわよ!」

 

アリサはフレイムアイズの柄にあるスロットルを回し、轟音を轟かせながら鍔の峰の方面にある排気口から魔力が噴き出す。

 

「ブレイジングアサルト!!」

 

魔力の噴射を推進力にして大火を纏った剣を一回ながら振り抜き、炎の円の斬撃が飛び、周囲にいたガジェット及びグリードを殲滅した。

 

「へぇ、スゲェじゃねぇか」

 

「うん。 高密度の魔力が凄い出力で噴き出しているよ……」

 

「ーーイクシードシステム。 カートリッジやギアーズとは違うコンセプトが採用されたシステム。 従来のとは違ってほぼタイムラグなしで魔力を上昇させられ、さらに物理的な加速も同時に得られる……その分、扱いはさらに難しくなるがな」

 

すずかとアリシアが共同開発で誕生した新しいシステム。 バイクのアクセルを回す要領で特殊魔力機関が駆動、魔力を上昇できるシステム……高速戦闘においてはカートリッジをロードしてから魔力を上げるにしても、ギアを回して上げるにしてもその間に隙があり。 前々からアリサは使いにくそうにしていた。

 

そして、1月前に完成の目処が立ち。 試験動作を経て……フレイムアイズのカートリッジとギアーズの併用機能を廃して昨日ようやく実装された。

 

「早く射程の外へ!」

 

「は、はい!」

 

「急げ!!」

 

ティーダさんが隊員達を叱咤し。 隊員達はすぐさま上空に退避し、次の瞬間……

 

ドオオオオンッ!!!

 

砲門から高熱のレーザーが照射され、民間人などはいないが豊かな自然が焼き払われた。

 

「何をしているんだ? あんなことして意味なんかねぇのに……」

 

「分からない……けど、このまま放って置くわけにはいかない! レイジングハート!!」

 

《ブラスターモード》

 

なのははレイジングハートのリミットブレイクモードを起動。 外見的な変化はないが性能は先程は比べ物にならないくらい高くなり、出力も大幅に向上した。 しかし、その分使用者とデバイス両方に過大な負荷がかかる……諸刃の剣のような機能だ。

 

なのはの左右にレイジングハートと似たような機構の2つのビット……ブラスタービットが展開、浮遊する。

 

《ブラスターモード、アクティベート》

 

周囲に漂っている大量の魔力を集め、2つのブラスタービットに急速に魔力が充填されて行く。

 

『高町一尉がレーザー兵器を破壊します。 総員、敵集団に対処しながら後退してください』

 

『了解した』

 

全空域に念話で伝令を出し。 部隊が後退している間になのはは狙いを定め、発射準備をいていた時……突然高速で何かがゆりかごから発進、なのはに向かって飛来してきた。そしてゆりかごとなのはの間に割って入ってきたのは……人型をしたガジェットだった。

 

「あれは……!」

 

「新型のガジェット!?」

 

人型のガジェットはなのはに目標に狙い、両肩の装甲が展開、ワイヤーが射出される。 その先端には鉤爪が付いており、狙いはなのはで……なのはは飛翔して避けるが、充填の為速度が出せず掴まれてしまう。

 

「きゃあああっ!!」

 

「なのは!!」

 

「邪魔だ!」

 

すぐさま振り解こうとした瞬間、ワイヤーを使って電撃が走った。 バリアジャケットの絶縁で電撃は軽減されるもダメージは受けてしまう。 ヴィータも援護しようとするもグリードに行く手を塞がれる。

 

「っ……!! レ、レイジングハート……!」

 

《充填率60%》

 

援護に行けない事が歯痒いが、なのはは電撃に耐えつつ魔力を急速に充填していき……

 

《チャージコンプリート》

 

「ーースターライト……ブレイカァーーー!!」

 

チャージ完了と同時にトリガーを引き、槍のような杖の先端から巨大な集束砲撃魔法が発射された。

 

人型ガジェットのAMFと物理防御フィールドに直撃……ほんの少しの拮抗の後容易く突き破った。 砲撃はそのまま直進、はるか遠くにいた射線上のガジェットを破壊するも……レーザー兵器からは外れてしまい、砲撃はゆりかごを通過してしまう。

 

「外した!」

 

「でも、道は出来た!」

 

「ーーうううっ……!!」

 

「? なのは?」

 

外したにも関わらず、なのはは砲撃の発射を辞めず、その状態を維持したままレイジングハートを下に動かし……砲撃を動かし始めた。

 

「こいつは……!」

 

「砲撃じゃ……ない!?」

 

「あれは……魔力刃か!!」

 

「ーーこれが私達の……」

 

砲撃のような魔力刃、それがレーザー兵器に振り下ろされ……

 

《スターライトサーベル》

 

「魔法だああああっ!!」

 

魔力刃がレーザー兵器に沈み込むように斬り込み、そこから横に振り抜き……レーザー兵器を破壊した。

 

「な、なんて子なの……」

 

「さすがはなのは、と言ったところかな」

 

だが、なのはの奴、かなり飛ばし過ぎたな。 周囲の魔力を代用して自身の魔力消費を抑えたかもしれないが……あの砲撃を維持するのにかなり体力を消費している。

 

「ハアハア……」

 

「なのは、大丈夫か?」

 

「うん……AMFも弱かったし、大丈夫だよ」

 

「そんなわけねぇだろ! 砲撃は撃ってすぐ止めるもんなのに、あんなに保たせるなんて……レイジングハートの負荷も半端ねぇぞ!」

 

《問題ありません》

 

ヴィータの言う通り、なのははもちろんのこと、レイジングハートも砲身が歪むほどの高熱を放っており、先程から大量の熱を排出している。

 

『ヴィータ、なのはを頼む。 回復次第、合流してくれ』

 

『わかった』

 

「ふう……気疲れしたな。 それにしても……」

 

視線を横に向け、異形のゆりかごを見る。 ゆりかごにも砲撃……もとい魔力刃が直撃したはずなのに、無傷だった。

 

《砲撃が直撃した瞬間、砲撃の魔力が霧散を検知しました。 恐らく強力なAMFが展開されているもよう》

 

「なのはのスターライトブレイカーすら通らないAMFか……どう突破するか」

 

「レンヤ、あれ」

 

その時、浮遊していた残り2つの球体が消滅。 結界が解除された。 はやてとシェルティスがやったようだ。

 

「皆ーー!!」

 

「どうやら僕らが最後みたいだね」

 

そして異界から脱出したはやてとシェルティスがこちらに飛んできた。

 

「さっきよりかなり敵が減ったようやけど……ようやく本丸に突入か?」

 

「ああ。 先ずは入り口を見つける。 もしくはこじ開け、入り口を確保。 なのはとヴィータと合流次第ゆりかごに突入する」

 

「分かった。 まずは甲板に行こう」

 

『ティーダさん。 機動六課はこれよりゆりかご内部に突入します。 ある程度減らしたとはいえ、増援に警戒しつつこの場をお願いします』

 

『ああ、さっさとヴィヴィオとイットを取り返してこい!』

 

『はい!』

 

その時、ゆりかごから大量のガジェットが射出された。 ちょうど警戒すべきだった増援が出てきてしまったようだ。

 

「はやて、いけるか?」

 

「もちろん! 行くでぇ!!」

 

あの軍団をどうにか出来るかと質問すると、はやては頷き杖を天に掲げる。

 

「天より来たれ雷神の槌、此方に駆けよ颶風の天威……」

 

足元に白い古代ベルカ式の魔法陣を展開すると、ゆりかごの真下に黒い雲……雷雲が集まり始め、雷撃が内部と迸り……

 

「渦巻き集い地を穿て! エウテルペ!!」

 

杖が振り下ろされ……無数のかなり大きい枝状の雷が上下に落とされ。 上にゆりかごが、下にガジェットに落とされた、ゆりかごはほぼ無傷だったがガジェットは一掃した。

 

「よしよし♪ もうノーコンの称号は返却やな」

 

「気にしてたのね、それ」

 

満足気に頷くはやてに、アリサは少し呆れながらも微笑んだ。 そして障害物がなくなり、ゆりかごに接近し甲板に降り立った。 本来のゆりかごなら甲板のような平たい場所はないのだが……既にこれはゆりかごとは言い難いだろ。

 

「影の属性がかなり色濃いわね……」

 

「夕闇の落とし子を思い出すな」

 

異形といってもかなり機械的な変化が多い。 それでも本来のゆりかごと比べればふた回りは大きい。 侵入口を探そうと辺りを見回すと……甲板後部方面にあった内部へに入るための入り口が開いた。

 

「誘っているな……」

 

「好都合よ。 穴を開ける手間が省けたわ」

 

「ーー皆!」

 

ちょうどそこへなのはとヴィータが甲板に降り立ち、こちらと合流した。

 

「待たせたな」

 

「私らもちょうど着いたところや。 さて……レンヤ君、そろそろ行こうか?」

 

「ああ!」

 

例え罠であろうと、迷わずゆりかご内部に突入した。 内部もやはり影の属性が強いようだが、所々に植物を目にする。 まるで有機物と無機物が同時に存在、混ざり合っているような場所だ。

 

「どうやらさっきの球体のように、このゆりかご自体が異界と化しているようね」

 

「……気配がかなり多いわね。 進むのにも苦労しそうね」

 

「敵はグリードやガジェットだけじゃない……恐らく異編卿や魔乖術師も潜んでいるはず」

 

「それでも、やるしかねぇだろ。 シャマルとザフィーラのやられた借りを返さねぇといけねぇしよ」

 

「……いつでも行けるよ。 レンヤ、いつものをお願いできる?」

 

シェルティスの提案に無言で頷き、俺は皆の前に立った。

 

「機動六課ーーこれより異形と化した聖王のゆりかご内部の探索を開始する。 目標、艦首付近の玉座の間にいるヴィヴィオとイットの保護。 そして艦尾後部の駆動炉の破壊……皆、明日を掴むために、全力を尽くしてくれ!!」

 

『了解ッ!!』

 

発破のような号令に皆は大きく応え。 それぞれの武器を手にし、俺達は異界に向かって走り出した。 のだが……

 

「……なんでこうなった」

 

異界に入って数分後。 俺は独り、狭い通路……ダクトの中で匍匐前進しながらそう呟かずにはいられなかった。 順番は前からアギト、アリサ、なのは、俺、はやて、ヴィータ、シェルティスとなっている。

 

「仕方ないだろ。 大量にグリードやらガジェットやらが押し寄せて来て、後退しようと思った所にダクトがあったんだし」

 

「そもそも、なんでこんな場所に来てまでダクトがあるのかが疑問に思いたいのだが?」

 

「ゆりかごも一応戦艦やし、ダクトくらいあるやろ」

 

「そ、そういうものかなぁ……」

 

《あるもんは仕方ないですよ》

 

納得できるか、とは言えず。 結局ダクトを進むしかなかった。 そして……俺はまた列の中間にいた。 急いでいたとはいえ、敵の侵攻を防ぐのを放棄して先に入る訳にもいかなかったが……今回はなのはが前、はやてが後ろにいる。 太陽の砦の時とは逆だな。

 

「………………」

 

「………………///」

 

「なのはちゃーん? 今更照れる必要ないと思うで? それよりもっとスゴイ事をーー」

 

「わーわー! はやてちゃん、ストーップ!」

 

はやての言葉を言わせないようになのはは大声で叫ぶ。 しかし、ダクトの中で叫ばれると反響してかなりうるさい。 その意味を込めてはやてに軽くて蹴りを入れた。

 

「アタ……」

 

「それにしてもどこに向かってんだ? 方角が分かんなくなってきたぞ」

 

「方向からして後部に向かっているとと思うけどーー」

 

ガコン!

 

『!?』

 

その時、何かが動き出した音がダクト内で聞こえた。 次の瞬間……底が開いて落とされてしまう。

 

「うわあああっ!?」

 

「落とし穴!?」

 

「こんなダクトの中で!?」

 

「くっ……!」

 

そのまま落下していき、落下途中で二手に分かれてしまった。 そしてまたダクトの中に入り……途中でダクトが曲線を描いていたため落下から力が横に向き、滑るようにダクトを通り抜けどこかのアトラクションのように放り出された。

 

AMFが強過ぎて飛行魔法に支障が出るが、冷静に空中で身体を捻り姿勢を正し……着地する。

 

「ふう……してやられーー『きゃあ!』どわっ!?」

 

はめられたと後悔していると先程のダクトからなのはとアリサが飛び出して来て……俺は2人に押し潰されてしまった。

 

「痛たた……」

 

「もう、なんなの一体……」

 

「……あの……どいてもらえるかな?」

 

『え……』

 

2人に押し倒されているのは分かるが、何か柔らかい物に押し潰されて視界が塞がれている上に息がしづらい。 とにかく押し退こうと手を押し出そうとすると……

 

フニュン……

 

「あ……///」

 

「ん……///」

 

「あ」

 

この両手が鷲掴みにしている柔らかいものは、これってもしかして……とりあえず手を下ろした。 続いてなのはとアリサは退いてくれた。 その顔はどことなく……いや目に見えて赤くなっている。

 

「えっと……まあその、2人とも怪我がなくてよかったよ」

 

「……レン君のエッチ……」

 

「……変態、節操なし……」

 

「…………ごめんなさい…………」

 

「何やってんだお前ら?」

 

謝るしかなかった。 と、そこで薄紫色の蝶型の念威端子が飛んで来た。

 

『皆、無事……って、なにかあったの?』

 

「な、なんでもない……全員無事だ。 はやて達の方も無事か?」

 

『うん。 3人とも無事だよ。 どうやら意図的に分けられたようだね。 あ、通信をはやてに繋げるよ』

 

『ーーレンヤ君。 私達は無事や。 このまま予定通り任務を遂行するで、私達は駆動炉に向こう。 レンヤ君達はヴィヴィオとイットを』

 

「分かった。 気をつけてな」

 

『うん!』

 

通信を終え、ツァリに随時外の状況を伝えるようにし。 この先にあった通路を見た。

 

「そのうち分かれるつもりだったが、予定が早まっただけだ。 俺達は艦首、玉座の間に向かう」

 

「了解よ」

 

「さて、じゃあやるか」

 

気を取り直し行動を開始し。 目を閉じて手を前に出し、全ての感覚を研ぎ澄ませた。

 

「……風の流れ、音の反響からしてかなり入り組んでいる、ガジェット6、グリード4の割合で敵も多い。 しかも軽く1キロはある……ゆりかごの中は完全に異界と化しているようだな」

 

「よ、よく分かるね……」

 

「それも八葉の教えかしら?」

 

「手解きを受けただけだ、正統な後継者じゃない」

 

3学生の時、1度だけ老師はミッドを……ルキューのレルムを訪れた事があった。 その時に授業そっちのけで丸一日中、八葉一刀流の型を一通り叩き込まれてしまった。 心身共にバテバテになり。 老師は帰り際に、俺に初伝は一応授けたようだが……

 

(最初、八の型を徹底的に叩き込まれたけど……伍の型が一番しっくり来るんだよなぁ)

 

「まあ、今はこの事はいいでしょう。 先に進みましょう」

 

「AMFが強いから近接格闘が主流になるけど、気を抜かずに行こう」

 

武器を構えら俺達は異界迷宮へ足を踏み入れた。 迷宮の中は凶悪なトラップなどの仕掛けもあったが、慣れたもので冷静に対処して先に進む。

 

「ここは……」

 

しばらくすると開けた空間に出た。 しかし、ここはどう見ても古風な劇場という場所だ。 観客席が奥に向かうに連れて段差が上がる半円型で、中心に舞台がある真紅をイメージさせる紅い劇場……柱や壁の所々に見える黄金は絢爛差をさらに感じさせる。 そして、ここがゆりかごの中だと考えるなら場違いな劇場だ。

 

「何だここ?」

 

「劇場のようね。 もはや何でもアリね」

 

「かなり空間が捻じ曲がっているな」

 

「……あ。 あの人は……」

 

なのはの視線の先……舞台の上には真紅のチャイナドレスを着た長いウェーブがかかった赤髪の女性、ナタラーシャ・エメロードが高価そうな椅子に座っていた。 俺達は階段を降り、舞台の前に向かった。

 

「ーー題して、燃ゆる真紅の劇場……ようこそ、私の舞台へ」

 

「ナタラーシャ……エメロード……」

 

「まさかあなたがここにいるなんてね。 もしかして他にも異編卿がいるのかしら」

 

「ええ、このゆりかごには私の他にもマハ、空白(イグニド)、そしてアルマデス様もここにいるわ」

 

ナタラーシャは椅子から立ち上がり、舞台を歩きながら話した。 その左手は俺達の方に向き、次に舞台の反対側に向けた。

 

(登って来いって事か……)

 

俺は舞台に上がり、なのはとアリサも後に続き………舞台の片側でナタラーシャと対面する。

 

「一応聞いておくけど、あなたも魔法文化崩壊という夢物語を目論んでいるのかしら?」

 

「それを一番に推奨しているのは空白よ。 私達はただの偶然が起こした集まり……目的もなく、空白の余興に付き合っているだけ。 それが異編卿の形……歪でしょ?」

 

「……そうかもしれない。 でも、歪ではないと思う」

 

「レン君?」

 

「確かにあなた達が行っている事は犯罪だ。 しかし、魔乖術師と違ってあなた達には意志が感じられる。 目的は明白ではないのかもしれない……けど、その形があなたは気に入っている。 違いますか?」

 

「……………………」

 

思いがけなかったのか、ナタラーシャは少し呆ける。 そして口を手で押さえ、笑みを浮かべた。

 

「ふふ……本当に鋭い子ね。 そこまで見抜かれるなんて……」

 

「異編卿にも色々あんだな」

 

「ええ、そうね。 でも……それとこれとは話は別よ。 ナタラーシャ、ここを通してもらえないかしら?」

 

アリサは腰に佩た剣を抜き、ナタラーシャに向かって剣先を向けながら質問した。

 

「それはお断りさせてもらうわ。 一応は空白の考えに賛同している身、人の醜い一面は……よく知っているのよ」

 

「え……」

 

パチン!

 

不意にナタラーシャは右手を上げ、指を鳴らした。 すると彼女の左右の空間が歪み……2体炎の精霊(エレメント)、エルダーグリードE=クリムゾンが現れた。

 

「場も暖まった事だし……始めましょう。 この終焉へ向かう歌劇を!!」

 

ナタラーシャの意志に反応するように、全身から高熱の炎が留めなく勢いよく溢れ出してきた。

 

「熱っ!?」

 

「な、なんて熱量……!」

 

「気をつけなさい。 私でも火傷する程の豪炎よ!」

 

アリサを医療院送りした程の炎……警戒しつつ長刀と3本の短刀を抜刀し、号令を出す。

 

「状況開始ーー機動六課、目標を撃破する!」

 

『おおっ!』

 

同時にアリサはアギトとユニゾン。 髪はナタラーシャのような炎のように紅く、目は紫色に変わり。 柄のスロットルを回し魔力を高める。 と、そこで2体のE=クリムゾンが滑るように移動し、アリサとナタラーシャの直線上をジグザグと進みながら火炎弾をばら撒く。

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

水椹(みずさわら)!」

 

1番目の歯車を駆動させながら長刀を床に突き刺して手放し、左の3本の短刀で無納刀での居合いの構えを取り……縦並びの広範囲の魔力斬撃を放った。 アリサはこれを跳躍して避け、3本の斬撃は全ての火炎弾を弾き飛ばし、威力が落ちながらもE=クリムゾンに斬りつけた。

 

『内部機関駆動、炎熱加速!』

 

「フレアドライブ!」

 

剣が炎を上げながら刀身に纏い、回転をつけながらナタラーシャに振り下ろした。

 

「炙れ」

 

その一言で彼女の左右から炎柱が上がり、それが中に折り曲がりアリサの剣を受け止めた。 まるで質量のある炎の腕だ。

 

「爛れろ」

 

続けてナタラーシャの頭上からこちらに向けて炎が滝のように吹き出してきた。 炎は水のように流れながら迫って来た。

 

「アクセルショット……」

 

《ロッドモード》

 

「ファイア!!」

 

なのはは目の前に魔力弾を浮遊、レイジングハートを棍に変形させ、魔力弾に棍をぶつけて放った。 魔力弾は炎の波の中間を突き抜け……2つに割いた。

 

「行くぞ……!」

 

《モーメントステップ》

 

その間を高速で突き抜け、ナタラーシャとの距離を詰める。

 

《ポジグラビティ》

 

「はあああっ!!」

 

頭上で剣を止められていたアリサは自身に強い重力をかけ、さらにイクシードを駆動させ加速、炎の腕を突破した。

 

《セカンドギア……ドライブ》

 

柚匁(ゆずめ)!」

 

「喰らいなさい!」

 

2番目の歯車も駆動させ、左手の3本の短刀を操作魔法で浮かせ……風車のように高速で回転させながら突進し。 アリサは縦に回転し、加速して勢いよく自分ごと剣を振り下ろした。 と、不意にナタラーシャは両手を上げ……

 

(フン)ッ!!」

 

一瞬で両手から巨大な火球を作り出し、俺達に向かって放った。 咄嗟に回避行動を取ろうとするが……

 

(間に合わないっ!!)

 

「ーー避けて!!」

 

《メーザーフォース》

 

その時、背後から複数の砲撃が火球を消した……までは行かずとも勢いを衰えさせた。 その一瞬で俺とアリサは左右に飛び、射程から離脱した。

 

「ありがとう、なのは」

 

「助かったわ」

 

一息つく暇もなくE=クリムゾンに向かって走り出し、片方のE=クリムゾンは魔力を貯め始める。

 

「させるか!」

 

《モーメントステップ》

 

長刀を納刀し、一気に距離を詰め……抜刀と同時に背後に回った。

 

月梅(つきうめ)

 

刀を振り払い、納刀すると……E=クリムゾンに一閃が走り、消滅した。

 

「アギト、フェアライズよ!」

 

『応ッ! 遅延魔法の用意をしとく。 右手が火炎弾、左手が防御障壁だ!』

 

アリサの両手に紫色の魔力リングが展開し……ユニゾンが解かれ、アギトを置いてアリサはもう片方のE=クリムゾンに向かう。

 

《ブレイドライド》

 

地面に剣を突き刺してスロットルを回し、炎の道を作りながら剣で疾走する。

 

「でやあああっ!!」

 

複雑な軌道を描いて接近し、真下からE=クリムゾンを斬り上げた。 そして浮いたそれをなのは追撃する。

 

《ロードカートリッジ》

 

「理を尽くし、螺旋を掴む!」

 

カートリッジを炸裂させながら棍を振り回して力を一点に集中させ……

 

「とりああゃっ!!」

 

E=クリムゾンに振り下ろした。 その直撃による衝撃は凄まじく、強烈な音を響かせながら高速でナタラーシャに向かって落下する。

 

()えろ」

 

そう呟くと……E=クリムゾンは爆発、四散した。 そして発生した爆炎をアリサが突き抜けてきた。 ナタラーシャは火球を放つが、アリサは左手の遅延魔法を発動し。 障壁を展開して防ぎ……スロットルを回しながら剣を振り抜いた。

 

「やるわね」

 

「軽く受け止めておいてよく言うわ」

 

ナタラーシャは手に炎を纏わせ、アリサの一閃を受け止めていた。

 

「顕現術式による炎……敵じゃなかったら尊敬してたわね」

 

「それは光栄ね。 でも……」

 

その時、鍔迫り合いをしている2人の足元が陽炎のように揺らぎ始めた。 そして地面から炎が噴き出し始め……

 

「アリサちゃん!」

 

《ラバーバインド》

 

「きゃあっ!?」

 

「ーー(ゼツ)ッ!!」

 

なのはがアリサの腰にバインドを掛け、一気にバインドを引き戻し距離を取らせ……次の瞬間、ナタラーシャは自身ごと業火に焼かれてしまった。

 

「嘘……自分ごと……」

 

「ーーそんなわけあるかよ。 あいつが自分の炎で焼かれるはずがねぇ。 そんな事よりアリサ、こっちは準備万端だ!」

 

「ええ。 アギト……行くわよ!」

 

「応よ!」

 

『フェアーー』

 

「灰燼と化せ!!」

 

フェアライズを発動させようとした時……燃え盛る業火から横向きの炎の竜巻が飛来してきた。

 

「くっ……!」

 

《スピアウォール》

 

すぐさまなのはが魔力で構成された鋭角な障壁を展開し、炎の竜巻の衝撃の大半を横に逸らした。 だが、結果的に横に逸れた炎は2人を火炙り状態にしてしまった。

 

「このっ!」

 

「余波でこれかよ……」

 

「ハアハア……な、なんて炎……バリアジャケットを着ていても火傷するなんて……」

 

「応急処置する。 なのはジッとしてなさい」

 

アリサは一払いで炎を退け、アギトと共に火傷を負ってしまったなのはに応急処置を施す。

 

「ーーそんな事をさせると思う? 隙多いのよ、それ」

 

「確かにそうですね。 そして……あなたも」

 

「っ!」

 

ナタラーシャのすぐ横で魔力を込め、精神を統一してながら控えていた俺は……開眼してナタラーシャを見据える。

 

「ーー鏡花水月。 我が太刀は鏡……捉えた!!」

 

一瞬で加速、納刀状態の刀でナタラーシャを上には打ち上げる。

 

「はあああああっ!!」

 

追撃して神速の居合で一閃、通り抜け納刀。 そして追撃して居合で一閃……ジグザグとそれを繰り返しながら上昇し……

 

「斬ッ!!」

 

ある程度上昇すると一瞬で頭上に移動し、そこから神速の居合で一閃、スタッと地面に着地し……

 

「五ノ太刀……朔月(さくげつ)!」

 

刀を一振りして刀身に纏っていた魔力を振り払い、逆手に持ち替え。 目の前で鍔を鳴らせながら斜め向きに納刀すると……蒼の一閃が走り、上空のナタラーシャを一刀両断した。

 

「………………」

 

「レン君?」

 

「どうかしたのかよ?」

 

「手応えが薄い……」

 

「ーーふふ、ふふふ……やるわね。 でもまだまだ足りないわね」

 

地面に落下したナタラーシャは何事もなかったかのように起き上がり、不敵に笑みを浮かべる。

 

(原因はやっぱり八葉の鍛錬不足、ぶっつけ本番で奥義を使ったのが仇になったか……)

 

「さて、このまま終わるのも面白くないし……」

 

すると、ナタラーシャの全身から炎が溢れ出してきた。 しかもただの炎ではない、どことなく異質な気配を感じさせ……

 

「どこまで私を“アツく”させるか試させてもらいましょうかーー!」

 

一気に炎が溢れ出した。 その変化は彼女自身にも起き、目の瞳孔が縦に伸び、露出している顔や腕、足の表面に鱗のような模様が浮かび上がってきた。

 

「な、なに……これ……」

 

《熱量が段違いに上がりました。 このままではバリアジャケットの耐熱でも耐えられません》

 

「……あの鱗……コーの民か……」

 

「今まで本気じゃなかったのかよ!?」

 

「!!」

 

その時、ナタラーシャは手を掲げ、その手に渦巻く火球を出現させる。

 

「ーー避けなさい!」

 

(シャア)ッ!」

 

放たれた火球は渦巻きながら進み、俺達は防御を固めながら後退し避け……火球は左側に逸れて劇場を破壊する。

 

(ゴウ)ッ!」

 

続けて同じような火球を放ち、今度は最初から狙いが外れるも……右側の劇場を破壊する。 まるで準備運動をしているかのようだ。

 

「異編卿第2位、真紅……」

 

「ここまでだったなんて……!」

 

「(このままではヤバい……なんとか突破口を開かないと!)レゾナンスアーク! 抜刀ーー」

 

「ーーその必要はないわ」

 

『!?』

 

近接ブレイカーの抜刀を発動しようとした時……どこからともなく声が聞こえてきた。 聞き覚えがあるが、その前にいくつもの魔力刃がナタラーシャに飛来した。

 

「なに……!?」

 

「ーーバー・クワン・サバッド・ナー(狂気の牙を打ち振る舞い)ッ!!」

 

ナタラーシャを奇襲し、そして誰かが彼女に向かって突っ込み、突撃するように振りかぶって強烈な肘落としを放った。

 

「っ……!!」

 

かなりの威力で、ナタラーシャは防御しながらもかなり押され……舞台の壁まで押されてしまった。 そして舞台に降り立った2人は……

 

「クイントさん!?」

 

「それにメガーヌさんも!」

 

「どうしてここに!?」

 

「地上の方はひと段落ついてね。 後のことはゼスト隊長に任せて応援に来たのよ」

 

「ふふ、グットタイミングだったみたいね」

 

どうしてここにいるの答えると……2人は俺達を背にナタラーシャと対面する。

 

「へぇ……あなた達が出てくるなんてね。 私としては地上部隊筆頭とやり合いたかったんだけど……地上部隊の最強コンビ、これはこれで燃えるわね!」

 

竜のような瞳でナタラーシャはクイントさんとメガーヌさんに狙いを定める。

 

「ーー行きなさい。 彼女は私達が引き受ける」

 

「あなた達はヴィヴィオちゃんとイット君の元に」

 

「! ……はい!!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「どうか気をつけて!」

 

この場をクイントさん達に任せ、俺達は舞台裏に入り……そこにあったエレベーターで上に向かった。

 

 




次元世界中を恐怖で震撼させた管理局の白い悪魔!

その名はガン……ではなくて、高町 なのは!!

俗語で知ってから使ってみたかった、00が好きな作者。

この作品の赤い彗星は誰でしょうね(笑)。

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