「オラオラ! とっととくたばりやがれ!」
現在、廃棄都市の路地裏で、美由希とヴァイスはビルを破壊しながら迫り来るジブリールから逃げていた。
「何よあれ!? 鉤爪がビルに当たる度に捻じ曲がって粉砕しているんですけど!?」
「それに、ことごとくこっちの攻撃が逸らされるぜ……!」
ヴァイスが牽制として矢を放つが……ジブリールに接近すると突如として不可思議軌道を描き、全く別の方向に直撃。 ジブリールは無傷だった。
「これが歪の魔乖咒の力……心すらも歪めるって聞いているけど、それ以前にあの異常な力も何!?」
「それにもう1人も……!」
そう言いかけた時……目の前にふわふわと浮いているサクラリス・ラム・ゾルグが美由希とヴァイスの前に立ち塞がったた。
「………………(パチン)」
サクラリスは無言で2人に手を掲げ、指を鳴らした。 すると目の前の空間が歪み……無数の刃が飛び出してきた。
「っ!?
「おいおいマジかよ!」
美由希は飛び上がって小太刀を逆手に構え、スピン回転しながら突撃し、ヴァイスは弓の節にある刃と矢を逆手で剣のように持ち迫って来た刃を弾いた。
「おらぁッ!!」
その間にジブリールが距離を詰め、無差別に鉤爪を何度も振るう。
「はあっ!!」
ガキンッ!
「っ!? やるじゃねえか」
美由希は小太刀に水を纏わせ、一太刀でジブリールの両手の鉤爪を弾き返した。
「ーーリバイスショット!」
そしてヴァイスが走りながら3本の矢をつがえ……射ると矢は高速でサクラリスに飛来する。 しかし、矢は全てサクラリスをすり抜けてしまった。
「マジかよ……」
続けてジブリールに放ち牽制しながら恐々とおののく。
「異はものごとの境界を操る力を持つ魔乖咒。 直接的な戦闘力はないけど、ある程度の事はできる」
「こんなのどうやって倒せばいいんだ!?」
「任せて……手はある! 多分……」
少しじしんなさげに言うが、ゆっくりた目を閉じ……開眼と同時に小太刀に激流が纏われる。
「でやあ!」
「無駄だとーーっ!?」
美由希は水の斬撃を放ち。 サクラリスは通り抜けると確信して防御も取らなく……斬撃はサクラリスの肩口を斬り裂いた。 この事実にサクラリスは驚愕し、傷口を抑える。
「……境界を越えて斬撃を飛ばした?」
「もしかしたら、と思ったけど。 上手くいったみたいだね」
「一体何をしたんだ?」
「……御神流・無月の構え。 形無き存在を実体として捉える境地……本来は視界が使えない時に使うんだけど、上手くいってよかったよ」
「……侮っていたかもね……」
サクラリスは懐から魔法薬を取り出し、傷口にかけながら後退した。 と、そこでジブリールがヴァイスに向かって接近していた。
「このやろ……!」
「おっと……アクセルストレイフ!」
刀身を巨大化させた矢に乗り鉤爪を避け、高速で移動しジブリールから逃亡する。 そしてUターンして目の前に姿を確認すると……矢を飛び降り、ジブリールに蹴り飛ばした。
「効くかよ!」
飛来してきた矢を斬り裂き。 続いてジブリールは跳躍と同時に鉤爪を切り上げ、縦長の斬撃を飛ばしてきた。
「おっと……!」
「
ヴァイスはギリギリで避け。 美由希は回転して避け、その回転を利用して水の斬撃を放った。
「っ……! 痛ってぇじゃねえか!!」
「うわぁ……アリサちゃんに聞いた通り。 ダメージを受ければ受けるほど強くなる感じね……」
「面倒な性格してんな」
「ーーこんなのはいかが?」
「!?」
いつの間にかサクラリスが上空におり、彼女は右手を横に広げ、その隣の空間が歪むと……そこから大量のグリードが溢れ出てきた。
「なあっ!?」
「ゆりかご付近にいるのを引っ張ってきた」
「面倒くせえ事すんなっ!!」
サクラリスは剣を前方に掲げ、美由希達の周りにグリードを移動させ、囲まれてしまった。
「あはは! 潰れちまいな!」
「……やりなさい」
ジブリールが笑い、サクラリスが非情にも剣を振り下ろし。 グリードが一斉に襲いかかってきたが……
「とっ!」
「邪魔だ……エリアルイン!」
美由希は跳躍して、ビルを蹴り上げながらサクラリスとの距離を肉薄し。 地上に残ったヴァイスは弓を構え、その場で一回転。 節の刃が全方向から襲いかかったグリードを切り裂き。 さらに風で巻き起こし、離れていたグリードを吹き飛ばした。
「はあっ!!」
「っ……!」
空中で身体を捻り、サクラリスの手から剣を弾き飛ばした。 そして美由希は地上に着地し、2人の前にジブリールが前に出てきた。
「……知ってるか? 人間の感覚器官は対数で感じ取ってんだぜ?」
「はあ? いきなり何言ってやがる?」
突然のジブリールの哲学めいた発言に、ヴァイスと美由希は首を傾げる。
「簡単言えば感覚を正確にする計りのようなもんだ。 これを狂わされると……」
『!?』
ジブリールは手を上げ……下に振り下ろした。 すると、突然美由希とヴァイスが膝を着いてしまった。
「こうなるのさ」
突然、2人はまともに立っていられなくなり。 さらに美由希は音が正確に聞き取れなくなってしまったり。 ヴァイスは視界に映る光量が増減を繰り返ししまった。
「ぐぅ!? な、なにこれ……耳が!」
「視界が……なんだこれは……!」
「耳なら音階が狂い、目なら明るさが狂う。 中々面白いだろ?」
「相変わらず悪趣味な子ね……」
「子ども扱いするな!! オメェからブッ殺すぞ!!」
「怖い怖い」
サクラリスの戯言を真に受け、ジブリールは八つ当たりのように何度も2人を蹴り飛ばす。 鈍い音が響く中……2人耐えるが。 美由希は打たれ弱く、耐えるのです一杯に対し。 ヴァイスがふらつきながらも立ち上がるのにイラつきを覚えた。
「チッ、打たれ強いな」
「ハアハア! お生憎、ソウルデヴァイスでの戦闘経験が少ないんでね。 エレメントを防御系で固めてんだよ」
「ふぅん? なら……いいサンドバッグになりそうだな?」
気を良くしたのか、ヴァイスに集中して袋叩きにした。
「ほらほら? どうしたどうしたぁ!?」
「ぐ……くっ!」
「ーー見えた!」
「がっ!?」
その時……美由希が迷いなくジブリールに接近し。 蹴り上げてヴァイスから距離を取らせた。
「な、なっ!? なんでまともに動けんだよ!?」
「うーん……勘?」
「ふ、ふざけんな!!」
「ふざけてねぇよ!」
感覚が元に戻り、耐え抜いたヴァイスが起き上がると同時に接近する。
「しまっーー」
「そこだぁ!!」
刹那の間に一気にジブリールの真横に入り込み……
「クライムインゲージ!」
姿が搔き消える程の速度で弓の節の刃で連続で素早く切り裂き、最後に蹴り上げた。
「テ、テメェ……!」
「ハアハア……」
「ヴァイス、あんまり飛ばさない方がいいよ? ソウルデヴァイスに慣れてないのに……いきなり全部スキルを最大に強化したんだから。 エレメントを防御主体にしたとしても身体がついてこれるはずがない」
「なに、こいつらを倒すまで持てばそれでいい」
節々が痛む身体を動かし、ヴァイスはジブリールと対面する。
「さあ、デッドヒートだ……飛ばすぜ!!」
「舐めんじゃねぇ!!」
お互い同時に飛び出して、何度も武器を衝突させる。 所々、ジブリールは歪の魔乖咒を放つが。 その度にヴァイスは己のソウルデヴァイスの属性……風をぶつけ防御する。
「とっととくたばりやがれ!!」
「おおおおおおっ!!」
一瞬の隙をくぐり抜け……ヴァイスは右手に剣のような矢、左手に弓を構え飛び出した。
「オラオラオラァ!!」
振るたびに狂風が巻き起こり。 何度も切り裂き、一瞬で後退すると……
「吹き飛べ! テンペスタ……バースト!!」
弓の節が羽を広げるように三節になり、天に向かって矢をつがえる……放つと矢が散るように分裂し、全てが巨大な槍となった。 そして付近全体に強力な槍の雨が降り注いだ。 槍は地面に刺さると小規模の竜巻を起こし、一瞬で辺りは嵐と化した。
「おお……!」
「ち……クソが……! クソったれがあああ!!」
ジブリールとサクラリスが嵐に耐える中、ジブリールは血走った目でヴァイスを睨みつける。
「テメェら全員丸裸にして掻っ捌いてやる!!」
目の前に魔導書を出現させ、独りでに開き始めた。
「疾走を始めた獣の本能! その身貫く無数の鋼刃! 痛みを越えて至る楽土! アーー」
「グギャアアアアッ!!」
ジブリールが何かを発動しかけた時……突然上空に赤い長大な竜が現れた。
「なっ!?」
「あれは……」
「隕竜メランジェ! ルーチェのお母さん!」
暴れ回っていたメランジェがこの場所を通りがかった。 そしてメランジェは口に炎を咥え……ジブリールに向かって発射した。
「うあああああぁ……!?」
直撃はしなかったが……火球の着弾によって発生した衝撃で、小柄なジブリールは遥か彼方に飛んで行ってしまった。
「……どういうオチ?」
「まあ、命拾いしたかもな」
何とも締まりのない幕引きだったが、美由希とヴァイスには不幸中の幸いだった。 と、そこで不意にサクラリスが両手を上に伸ばし、身体を伸ばした。
「あーあ、終わりかな?」
「何ですって? それってどういうーー」
「じゃね」
美由希の言葉を無視し。 手を振りながらゆっくり後退して行き、サクラリスは静かに消えていった。
「……何なんだったんだ……あいつら……」
「さあね。 少なくとも、撃退成功かな?」
当面の危機は脱したが。 まだまだ終わっていないと、美由希は首を左右に振った。
「とにかく、次はさっきの竜を追いかけよう。 あの竜はルーチェのお母さん……暴れているようだし、なんとかしないと」
「おう!」
そして先程吹き飛ばされたジブリール。 クルクルと回りながら飛んでいき……南部にある森に落下した。
「くそっ!! あのクソ竜め……シャランの野郎、後でシメてやる!」
木々の枝がクッションになり、ジブリールは大した怪我もなく悪態つきながら森の中を歩きだした。
「つうかここはどこだ。 オレはどこまで飛ばされたんだよ?」
「ーー君は……」
「あん?」
その時、ジブリールはバッタリと誰かと出会った。 その人物は初等部くらい……ジブリールと同じくらいの男子で。 腰まである長い金髪を三つ編みにしてまとめていた。
「なんだテメェは?」
「ボクはただの通りすがりだ」
「へっ、そうかよ。 こんな事件が起きてんのに……こんな場所でか?」
「………………」
ニタリと歪に笑った。 まるで八つ当たりできるオモチャを見つけたような目をして男子を見た。
「今無性にイラついてんだ……オレに嬲られてくれやぁ……!!」
「それは出来ない。 ボクにはやらなければならない事がある……そして、君の所業は許される事じゃない。 償うべきだ」
「はっ! 調子こいて説教たれてんじゃねえよ!!」
魔乖咒を身体から溢れ出る。 そして男子は一瞬目を閉じ……力強い目で彼女を見つめた。
「なら相手になろう! ボクが最初の勲を示すために!!」
次の瞬間……その森から蒼い雷撃が迸った。