魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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177話

 

 

心を折られたキャロ、そしてエリオ達にクレフの怒りに満ちた砲撃が直撃した。 ガリューが防御を固めていたが……エリオ達がいた場所は瓦礫のみの更地となり、砂塵が高く舞い上がっていた。 そして砂煙が舞う中……シャランは笑みを止め、退屈そうに目を閉じる。

 

「向かってきた割には惨めな最後ね。 ねぇ、クク?」

 

「はい」

 

シャランの問いに、クレフは大して考えもせず頷く。

 

「ーーうおおおおおっ!!」

 

「!?」

 

その時、煙の中からボロボロのエリオがストラーダの推進力で飛んできた。 そしてシャランに接近し、胸に槍を振り下ろし鮮血が散る。 シャランは痛みで顔を歪めるも、腕を振りエリオを殴り飛ばした。

 

「痛ッ………まさか、防御から出てあの砲撃に向かい。 私に一撃いれるとはね」

 

「ハアハア、ハアハア………くっ……!」

 

「でも、愚かとしか言いようがないわね。 立っているのが不思議なくらい。 あのまま守られていればいいものを……」

 

バリアジャケットも8割は破壊され、ストラーダを杖にして立っているのがやっとの状態だ。 そして、直ぐにシャランの傷は癒えてしまった。 砂塵が晴れると……そこには身を呈してキャロとルーテシアを守っていたボロボロのフリードとガリューが立っていた。

 

「ほう……? 身を呈して主人を守るとは、見事ね。 今のはクローネの最大級の攻撃だったのだけど……」

 

「グオオオオ……」

 

(………………)

 

「ハア……ハア……くっ!」

 

ルーテシアも先ほどの砲撃の防御に大半の魔力を持っていかれ、意識が朦朧とし、エリオ同様に立っているのもやっとだった。

 

「いや? もう虫の息ね。 防御もギリギリ、反撃の魔法も出せないくらいではね……」

 

「……エ、エリオ君……ルーテシアちゃん……」

 

「!! この……バカ!!」

 

パンッ!!

 

キャロに頰に振られたルーテシアの張り手、その余りの威力に2メートルは吹き飛び、地面を引き摺って止まった。

 

「フ、フハハハ……」

 

「っ……ル、ルーテシアちゃん……」

 

「フウ……フウ……!」

 

ルーテシアは息を荒げ、足元がおぼつかないながらもゆっくりとキャロの元まで歩み……その胸ぐらを掴んだ。

 

「あなた何してるのよ!! 救うんじゃなかったの!? だったから一言二言言われたくらいでへこたれてんじゃないわよ!! 彼女はもう敵よ! それが分かった時点で何で攻撃しないのよ!」

 

ルーテシアの怒りは理解できる。 だが、キャロは答える事が出来ず涙を流す。 それを見てルーテシアは歯軋りをする。

 

「っ……! 引っ込んでなさい。 腰抜けを守っている暇はないわ」

 

「ルーテシア……」

 

「行くわよエリオ。 犯罪者2名、制圧するわよ……!」

 

ルーテシアはキャロを乱暴に投げ、エリオと共にシャランと対面する。

 

「アハハハ! これはおもしろい! 私、痛ぶるのもかなり好きなのよね!」

 

「……シャラン、あなたも調子に乗らないでください!」

 

「ふん、虫の息で……何を吠えているのやら!」

 

シャランはその手から魔乖咒による弾丸を発射、エリオに向かって飛来する。

 

「うおおおおっ!! でやっ!! はあっ!!」

 

エリオは裂帛の気合いを入れ、槍を振るい魔力弾を弾いた。そしてゆっくりと、倒すために確実にシャランの元に向かう。

 

「エリオ君……(左腕と右脚が……ほとんど動いていない……)」

 

「ふふ、身体が思うように動いていないわよ?」

 

エリオのダメージを見透かされ。 シャランは手に魔乖咒を集め、鞭のようにしならせてエリオに向かって飛来させる。

 

「っ! トーデスデルヒ……!」

 

迎撃しようとルーテシアがダガー展開、発射するも躱され。 エリオは何とか避けよとするが……鞭がしなり、エリオの左腕に巻き付き……爆発した。

 

「うわあああああっ!!」

 

「エリオ君!」

 

「くっ……ガリュー!」

 

「フハハハ! 今度はどこを潰してあげようかしら!?」

 

シャランは笑いながら、エリオとルーテシア、ガリューを痛ぶる。 クレフとクローネはその光景を黙って傍観していた。

 

「っ……ブラストショット……!」

 

キャロは腕を上げ、魔法を使おうとするも……何も起きなかった。 ケリュケイオンも全く反応もしない。

 

「グルル………」

 

(魔法が……出ない……助けなきゃいけないのに……魔力が……湧かない……心が真っ暗に……闇の中に沈んで行く……)

 

キャロは地に両手をつき、少しづつ思考が停止、目の前が真っ暗になっていく。

 

「うわあああっ!!」

 

「きゃあああっ!!」

 

その間にもシャランの攻撃にエリオとルーテシアは倒れていく。

 

「このままじゃ……エリオ君とルーテシアちゃんが……」

 

慈悲なき、弄ぶような攻撃にルーテシアとガリューは倒れ、エリオはシャランのいた高さから落下した。

 

「エリオ……大丈夫?」

 

「……っ!!」

 

ルーテシアは身を案じるが……エリオは天に上げていた手を握りしめ、地面に振り下ろした。

 

「キャロ……」

 

「………ぁ………」

 

「キャロの思いで追っていたものは……キャロが信じていたものは……あんな言葉で潰される……潰されるものだったのっ!!」

 

「ーーふん」

 

「ぐあああっ!!」

 

耳障りと思ったのか、シャランは強めの光弾を放った。 それによりエリオは吹き飛んでしまう。

 

「ーー信じたい! 私だって信じたい……! 私の友達だったククちゃんの事を……でも、そのククちゃんの言葉は……私を、ずっと恨んでいたと言う……シャランの言わせた嘘と信じたい! でも……盗まれた家宝の首飾り……憎しみから出た行動……何を根拠に嘘と言えるの……! 何を根拠に……嘘と……!!」

 

また涙が溢れ出し、頰を伝って手に零れ落ちる。 その時……一陣の風がキャロの涙を拭うように頰を撫でた。

 

「っ……!? この風……どこかで……!!」

 

何かに気付き、唐突にキャロはバッと顔上げ、クレフの顔を見た。 そしてキャロの目に映ったのは……クレフの腕に着いている波打った風のような模様の木製の腕輪だった。

 

(あれは……ククちゃんと最後に行った祭事の時に私が上げた……魔除けの腕輪……木は悪しきを払い、風は恵みを運び……道を示す……)

 

「あ………」

 

【これを着ける時は助けて欲しい証。 風が私達の道を示し……必ず帰るべき家に向かわせてくれる!】

 

フラッシュバックするクレフとの思い出。 それが分かると、キャロの目に光が宿る。

 

「風が……道を示す……!」

 

『ーー助けて……キャロ』

 

「! ククちゃん……」

 

口から出た声音ではない。 念話でもないが……確かにキャロには聞こえた。 クレフの叫びが……

 

『助けて……助けて、キャロ!!』

 

シャランの隣で無表情に立っているクレフを……キャロの目には涙を流して救いを懇願するクレフが映った。

 

「ククちゃん……聞こえたよ。 あなたの本当の声が……!」

 

「ーーふ、そろそろゲームは終わりにしないとね。 1日、1時間くらいにしなくちゃ」

 

「……くっ……ふざけて……!」

 

「……そんなに経ってないわよ……」

 

「そう? でも、終わりにしましょう」

 

手を突き出し、シャランの周りに幾つもの巨大な魔乖咒による砲弾が形成され……エリオとルーテシア、ガリューに向かって振り落とされた。

 

「ルーテシア!」

 

「!? エリオ!?」

 

せめてルーテシアだけでも、と。 エリオはルーテシアを守ろうと彼女に覆い被さる。 が、その時……背後にいたキャロが立ち上がり、燦々と黄色く光り輝くガントレットを上にあげ……

 

「フリード! 上を向いて!」

 

「! グルオオオオッ!!」

 

「ーーアビリティー発動! テラ・ソルレイン!!」

 

フリードの翼から高速に光線が上空に打ち上げられ……天から、太陽から降り注ぐように光線が落下。 シャランの砲弾を上から押し潰し、そのまま両者の間の大地に……廃棄都市の真ん中に巨大な谷を作った。

 

「これは……!」

 

「凄っ……」

 

「っ……うあああああっ!!??」

 

目の前の状況に、光線が目の前で降り注ぐのをエリオとルーテシアは呆然と見ていた。 そして……腕を突き出していたシャランはその右手を光線で焼かれていた。

 

「ごめんなさい……エリオ君、ルーテシアちゃん。 フリードとガリューも……必ず、必ず力になるから……」

 

キャロは涙を拭い、吹っ切れた顔をし。 一歩前に出てエリオとルーテシアを見つめた。

 

「一緒に戦って! もう、惑わされない!」

 

「っ……了解!!」

 

「任せなさい!」

 

2人はキャロの願いに迷いなく答え、シャランに向かって対面する。 そして……吹っ切れたキャロの意志にフリードが反応した。

 

「グオオオオオッ!!!」

 

「!? フリード!?」

 

突如、フリードは天に向かって咆哮を上げ……光に包まれしまった。 その光景に驚きつつも、エリオとルーテシアはこの現象に見覚えがあった。

 

「これは前にガリューにあった現象と似ている。 まさか……!?」

 

「進化……まだ半年しか経っていないのにもう……!」

 

そして……光りが弾け飛んだ。 中から現れたのは……頭の頂点に剣のような鋭い一角を持ち、口にはリングを咥え、四肢は強靭に大地を踏みしめ。 鏡のような翼だったものは透き通るようなクリスタルに変わり。 爪や鱗、牙などが鏡に似た光沢を放っていた。

 

太陽の化身のような白銀の竜……全体的に鋭利な体格となった新たなフリードリヒがそこにいた。

 

「(ククちゃん……必ず……必ず……あなたを助ける!) 行くよ……ルミナ・ホライゾン・フリードリヒ」

 

「グオオオオオッ!!」

 

キャロはクレフを見据えて手を上に掲げ、それに応えるようにフリードは雄々しく吼える。 とはいえ、進化してフリードの身体能力が上がったとはいえ、疲労やダメージまでは回復しきれていない。 何よりキャロやエリオ達のダメージも蓄積されている……そして、腕を焼かれたシャラン。 この程度すぐに回復してしまうが……それでも彼女の怒りは収まらなかった。

 

「私の腕を……ガキ供が……どこまでも舐めたてんじゃないわよ!」

 

怒りのあまり口調が崩れてしまっている。 シャランは高速に飛び出すと、ジグザグと飛行しながら距離を詰める。

 

「不意打ちを1発当てたくらいで意気がってるんじゃないよ、死に損ないが!」

 

「っ……スパークーー」

 

「ーー遅いわ!!」

 

「うあっ!!」

 

シャランは魔乖咒で鞭を形成しキャロに向かって投げる。 キャロは対応しようとするがその前に鞭が左脚に巻きつき……爆発、キャロは倒れてしまう。 だが息つく暇もなく魔乖咒の砲弾をキャロに発射する。

 

「キャロ!!」

 

「アビリティー発動! シェードリング!」

 

フリードがキャロの目の前に光の輪を展開し、シャランの砲弾を角度を変えて跳ね返した。

 

「ふん。 もう跳ね返すので精一杯のようね。 足は傷付き満足に歩く事も出来ないでしょう。 残りも満身創痍……私を怒らせた事を後悔する事ね!」

 

「ううっ!!」

 

「やあっ!!」

 

立ち上がろうとしたキャロに追い打ちをしかけ吹き飛ばす。 エリオが攻撃に転じようとするも、軽く躱されてしまう。

 

光弾(これ)くらいが早くて避け難いようね。 今のあなた達ならこれで十分ね」

 

(速い……まさかここまで出来るなんて……どんな人でも魔乖術師……侮っていた……やっとここまで来たのに……! ククちゃん……!)

 

「この……私達を舐めるんじゃないわよ!」

 

《Ready、Prayer Armor》

 

ルーテシアはガンドレットを操作し。 複数の紫色のパーツが展開、組み合わさり正方形のバトルギアが構築され……

 

「バトルギア……セットアップ!!」

 

ガリューに向かって投げた。 バトルギアはガリュー背に装着され……身体の上下を覆う、まるで陣羽織のような鎧が形成された。

 

「バトルギア・アビリティー発動! プレアーアーマー・シャウラ!!」

 

ガリューの纏う鎧が紫色に輝き、波動を発すると……一瞬でガリューの数十の分身が出現した。

 

「行って……ガリュー!」

 

ガリュー達は一瞬で消え……シャランとクレフ、クローネを囲うように現れた。 そしてガリュー達は両手を近付け、その間に紫色の魔力を充填し……全方向から彼女らに向かって砲撃を放った。

 

「ククゥ!!」

 

「ダブル・アビリティー発動! メタルヴェルデ。 プラス……ハイパーヴェルデ!!」

 

「キルルルッ!!」

 

クローネは両翼の風切羽の刃を伸ばし、刃と身体の一部分を鋼のように変化させる。 さらに風切羽を緑色に輝かせてビットのように切り離し、クレフ達をを取り囲むような位置に配置し……全方向からの砲撃を防いだ。

 

「ふふ、この程度……さあクク! 憎っくき召喚士に最後の贈り物をあげなさい!」

 

「………………(コク)」

 

クレフは無言で頷き、ガントレットを輝かせて手をエリオ達に向けて掲げる。

 

「来るよ……キャロ、ルーテシア!」

 

「分かってるわ!」

 

「今度こそ……!」

 

相手がどんな手でこようとも、エリオ達は現状の万全の体制で構えるが……

 

『!?』

 

「ーーバトルギア・アビリティー発動……カルマスピナー・アルタイル」

 

突如としてクローネが横を向き、円盤から放たれた4つの砲撃は全く別の場所、エリオ達の真隣に直撃した。

 

「一体何を……!?」

 

「! まさか……」

 

その時、突然地揺れが起き始め。 砲撃が直撃した部分から亀裂が走り……エリオ達がいた部分が崩落を起こし、キャロの作った谷に落下していく。

 

「うわあああっ!?」

 

「フリード!」

 

「ガリュー!」

 

すぐさまルーテシアはガリューに、キャロはフリードに乗りエリオを救出し。 谷から脱出しようとするが……その先にシャランが待ち受けていた。

 

「沈みなさい!」

 

「アビリティー発動! ディスペルクロウザー!」

 

ガリューは左手で光弾を受け止め、ダークオンエネルギーに変換した光弾を右手から打ち返した。 シャランは驚きもせずにそれを避け、その間にエリオ達は谷から脱出した。

 

「ちっ……ガキ供が……!」

 

「行きなさいエリオ!」

 

エリオはフリードの背からガリューの手の平に移動し……ガリューはエリオをシャランに向けて投擲した。

 

《エクスプロージョン》

 

「うおおおおおっ!!」

 

カートリッジを炸裂させ、雷撃を纏った槍で一閃。 シャランの腕を斬り裂いた。

 

「っ……学習能力がないのか!? 何度やっても私に傷跡すらも残せないのよ!!」

 

「ハアハア……でも、これならどうです?」

 

息を上げながらも答え、シャランの腕を見た。 つられて彼女も斬られた腕を見ると……そこには雷球が定着していた。

 

「なっ……!?」

 

「いっけえええっ!!」

 

《スパークスフィア》

 

「ぎゃあああああっ!!!」

 

雷球が放電。 シャランは絶叫を上げながら雷撃の痛みをその身体で表す。

 

「アビリティー発動! スピリッツボール」

 

クローネの周りに緑色の球が浮遊し、それがシャランにぶつかり、弾けると光の粒子が舞った。 それがシャランの傷でなく、心を癒し鎮めた。

 

「……ありがとう、クク。 よくもやってくれたわね……肉体的な損傷が望めないから精神的に疲労させようって魂胆ね? 随分と浅はかな策ね……もう手打ちに近いのかしら?」

 

「っ……まだ、私は戦えます!」

 

《Ready、Release Canon》

 

「バトルギア……セットアップ!」

 

キャロはバトルギアを投げ……フリードの背に巨大な一門の大砲が装着された。 続けてアビリティーカードをガントレットに差し入れる。

 

「バトルギア・アビリティー発動! レリーズキャノン・カノープス!!」

 

バトルギアアビリティーが発動し、急速に砲身に魔力が充填されていき……

 

「はあっ!」

 

「! キャロ!! 今すぐ発射して!」

 

「ーーフリード!!」

 

シャランが手をかざした事にルーテシアが反応。 すぐさまキャロは発射宣言し……1つの砲門から無数の魔力砲撃が発射された。

 

「また飽和狙っての自壊かしら? もう同じでは喰わないわよ!」

 

「くっ……小生意気な小娘が!」

 

「アビリティー発動……ウィングハリアー」

 

クローネは六翼の翼を大きく広げ、風切羽から魔力を放出……上空に駆け上がり、音速を超える速度とあり得ない軌道を飛行し砲撃を避ける。

 

「な、何て速度と機動力だ……!」

 

「! エリオ、キャロ! 対防御体制!」

 

ルーテシアはクローネが近付いているのに気付き。 エリオとキャロを抱き寄せて防御障壁を展開し……次の瞬間、クローネの刃のような片翼が障壁を破壊した。

 

「うわあああっ!?」

 

『きゃああああっ!?』

 

通過による衝撃波でフリードとガリューは吹き飛び。 直接衝突してしまったエリオ達は大きく吹き飛ばされ、地面を強く転がる。 3人は身体のあちらこちらから血を流し、既に満身創痍だ。 だが、キャロは頭から血を流しながらも諦めずに立ち上がる。 エリオとルーテシアも立ち上がり、フリードとガリューもその目には敗北の色はない。

 

「……う……く……(もう少しなのに……やっと手が届く場所まで来たのに……!)」

 

「……ふう……ふう……キャロ。 あなたはこの時のためにやる事はやって来たはずよ」

 

「っ……フェイトさんと、ルーテシアと、レンヤさん、なのはさん、それに皆さんと。 次元世界を守る……なんて大それた事じゃないけど。 生きる為に、自分の為に、そしてフェイトさんの為に頑張って来たじゃないか」

 

「……うん。 フェイトさんに提案されかもしれない。 流されるように来たのかもしれない。 逃げたいから背を向けたのかもしれない。 でも……もしかしたら、私は……この時の為に、六課に入ったのかもしれない」

 

一歩、また一歩前に出ながらキャロは目を閉じ、フェイトとエリオ。 フォワードのメンバーと隊長、副隊長達との訓練の日々を思い出す。 そしてその中のフェイトの言葉を口にする。

 

「ーーどんな事があっても目を閉じちゃいけない。 一瞬でも周りが見えなくなったら……そこで終わる」

 

瞬きもせずキャロは次々と放たれた光弾を紙一重で避ける。 フェイトとの訓練の日々が……今ここでキャロを前に歩かせる。

 

「冷静に……攻撃を見極める……!」

 

「何を小言を!」

 

怒りによって放たれた光弾を跳躍して避ける。 続けて鞭も放たれるも目を閉じず、瞬きもせず必死に避け……

 

「こいつ……段々動きが……くそが……!」

 

シャランは光弾を隙間なく連射するも……キャロは全て紙一重で躱し続ける。

 

「足に怪我を負っているのになぜ……なぜそこまで動ける!?」

 

シャランは小技で痛ぶるのにも痺れを切らし、大玉サイズの光弾を放つ。 しかしそれも避けられ、シャランはイラついて歯軋りをする。

 

「キャロ……」

 

「うん。 大丈夫だよ、エリオ君」

 

逆転の可能性を信じて、キャロ達は前を見る。 だが、シャランは何かを思いつきクレフに近付く。

 

「ふふ、さあクク。 どうしようかしら?」

 

「……!」

 

クレフが一瞬よろめき……意志のありそうな、悲しみが見える顔でキャロを見下ろした。

 

「辞めてキャロ!」

 

「っ……」

 

「私からシャラ……ン様を、仲間を奪わないで! キャロ……あなたはいつまで私を苦しめるつもり……!? やっと手に入れた自由を……本心から心を許せる仲間を奪っていくつもり!?」

 

「………………(シャランの名を言い淀んだわね。 彼女の本当の仲間は、本心から大切だと思っているのね……)」

 

クレフの言葉が全てが嘘ではない事をルーテシアは気が付いた。 そして、キャロの目には叫ぶ虚言を吐くクレフは映っておらず。 キャロが見つめる先は、その腕に着いている腕輪と……キャロの視界だけに映る涙するクレフの姿だけだった。

 

『助けて……私をシャランから救い出して!!』

 

(ククちゃん……私が必ずククちゃんを助ける!)

 

「ーーアビリティー発動! エアルストリーム!」

 

「はあっ!!」

 

クレフはアビリティーを発動し、クローネが起こした大波のような全てを破壊する風を飛ばし。 シャランは牽制の為に無差別に光弾を発射した。 キャロ達は光弾を避け……

 

「アビリティー発動! スカイボルト!」

 

キャロはフリードの両翼から光線を発射して風の大波を相殺し……

 

「アビリティー発動! ヴォイドプレッシャー!」

 

「ぐあああああっ!?」

 

「ストラーダ!」

 

《エクスプロージョン》

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

ガリューの手から魔力を放出、残りの風を圧量を増やして押し潰し。 ついでに接近していたシャランを地面に叩きつけ、エリオが追い打ちをかける。

 

「ぐうう……(なぜ……なぜガキ供の魔力が無くならない……2人はいい。 だが、桃髪の小娘にはククの言葉には強い暗示をかけてある。 陰険ジブリールが施した直接心に語りかけるとても強い言葉……!)」

 

この決戦の為に、キャロを対象にして勝利への策は張り巡らしてきたシャラン。 だが、心を砕いたはずのキャロは立ち直り、エリオとルーテシアも予想外の実力を持ち……彼女のシナリオとは全く違う展開となっている事に驚愕していた。

 

「(いくらあの小娘が耳を塞ごうと気を逸らそうと……強く聞こえているはずなのに……!) ぐううっ……クク……! 首飾りを見せろ!」

 

必死に叫ぶシャランの命令に、クレフはル・ルシエの家宝の首飾りをキャロに見せるように掲げる。

 

「キャロ! この首飾りが見えないの!?」

 

「……うん。 よく見えるよ、ククちゃん。 でも、何でだろう……私にはそれが偽物にしか見えないの」

 

「!? に、偽物だと……!? ふざけるな……! あれは私がククの記憶を覗いて忠実に作り上げた……ーーあっ!?」

 

「……シャラン・エクセ……語るに落ちましたね」

 

「ふう、随分と必死ね。 そんな種明かしを自分から喋るなんて」

 

エリオとルーテシアは哀れみながら見つめ、シャランは自身が追い詰められている事も明かしていた。 後もう少しと思った時……

 

カシャン……

 

クレフの手から首飾りが滑り落ち……廃ビルの屋上にぶつかり砕け散った。 そして、それを落としたクレフの目には光が映っていなかった。 今まで、クレフが言っていた言葉が虚言だと立証された証拠だ。

 

「シャラン。 あなたに人の心を知る事は出来ない。 人の心を完全に操ろうなんて……永遠に出来るはずがない!」

 

「もう終わりです……大人しくしてください!」

 

「っ〜〜〜!?!? ク、ククゥ!!」

 

最後の手段としてシャランが取った判断は……クレフは一歩前に出て、廃ビルから飛び降りた。

 

「なっ……!」

 

「ククちゃん!?」

 

「ハッハァ! さあどうする!? このままだと大事な大事なククちゃんが、あんたが作った高熱で焼かれた谷に落っこちて死ぬわよ!」

 

「このっ……! 無駄な悪あがきを!」

 

「ククちゃん!!」

 

キャロは迷わずクレフに……谷に向かって走り出す。 その時、ルーテシアの意識がクレフに向いてしまい、シャランを拘束していた圧力が消えてしまう。

 

「! (圧力が解けた……! 魔法で助けるか、竜が飛んで助けるかは分からないが……) この勝負、私が貰った!!」

 

シャランは重圧から解放され……起き上り、クレフに向かって走るキャロに手をかざした。

 

「アビリティー発動! ミラージュタイフーン!」

 

クローネは大きく口を開け、そこから鋼鉄をも破壊する巨大な音波を放った。

 

「負けるかぁ!!」

 

《Ability Card、Set》

 

「プレアーアーマー・ダンマ!!」

 

迫ってした音波をルーテシアが対処し、ガリューの纏うプレアーアーマーが紫色の波動を放ち……音波を完全に無効化した。

 

「くたばーー」

 

キャロに向かって光弾が放たれようとした、その時……クレフのアビリティーの発動と同時にキャロの手からアルケミックチェーンが飛ばされ、シャランの手をかざしていた腕に巻き付き……上に投げ飛ばした。 そしてシャランから巨大な光弾が何もない空に空撃ちされた。

 

「な……に……!?」

 

「あなたの器はもう見えました! エリオ君!!」

 

「わっ!?」

 

キャロはシャランを投げたアルケミックチェーンをそのままエリオに伸ばし、エリオは驚きながらもチェーンを掴んだ。

 

「お願い……私をククちゃんの元に!」

 

「ーーうん!」

 

「行って来なさい!」

 

エリオはチェーンしっかりと握り締め。 キャロはチェーンを掴んで走り出し……迷いなく谷に飛び込んだ。

 

「くっそぉ……これで最後だぁ!!」

 

シャランはクレフに手をかざし、精神操作の為のリンク……使い魔と似たリンクを通して魔力を譲渡する。 キャロとクレフは同時にガントレットにカードを入れる。 そして、キャロのガントレットの輝きは……クレフのガントレットの輝きより遥かに強かった。

 

《Ability Card、Set》

 

「カルマスピナー・ニルヴァーナ!!」

 

「レリーズキャノン・サンサラ!!!」

 

同時に放たれたのは高熱を発する黄色い砲弾型の魔力弾と荒れ狂う対流している緑色の同型の魔力弾。

 

「で、でかい……!」

 

「グオオオオオッ!!!」

 

「キルルルルルッ!!!」

 

谷の上で衝突する2つの巨大な魔力弾。 大きさはキャロの魔力弾の方が遥かに大きく、クレフの魔力弾が目に見えて押され……軌道がズレて空中にいたシャランに迫っていた。

 

「ふざけるな……この小娘の魔力に……なぜ私がーー」

 

次の瞬間、緑色の砲弾はかき消され。 黄色い砲弾がシャランを飲み込んでいった。 その大きさにエリオとルーテシアも呆然と見上げていた。

 

「ふう……………(ガキンッ!) !? わっと!?」

 

するとエリオが持っていたチェーンが強く張り、谷に向かって力が引いていた。

 

「ちょ、エリオ! 踏ん張りなさい!」

 

「ご、ごめん! でも重ーー痛ッ!?」

 

「2人だからって女の子に重いって言わないの!!」

 

「だ、だからって傷を抉るような事をしないでよ〜……」

 

エリオは強烈な痛みと悲しみで涙目になりながらもストラーダを地面に突き刺して踏ん張り、ルーテシアも手伝って引き上げようとする。 クローネも意識を失ってしまい、球に戻って落下してしまうが……それをガリューが救出した。

 

「お待たせ……ククちゃん……」

 

キャロは右手は命綱のチェーンを掴み、左手は気絶したクレフを強く抱き締め……嬉しさと、そして他の色んな感情も入り混じりながら涙を流した。

 

「やっと……やっと……!」

 

キャロは数年振りに感じるクレフの暖かさをその腕で確かに感じ取った。 そして2人は引き上げられ、エリオ達は自分達とクレフ、クローネのーーついでに拘束しながらもシャランにもーー応急処置をすると大の字になって倒れ込んだ。

 

「はあぁ〜……全部出し切ったわねぇ……」

 

「魔力も尽き果てたね……よくあそこまで絞り出せたのか不思議なくらいだよ」

 

「ホントだよ。 一度は尽きて何も出来なかったのに……吹っ切れたらいきなり湧いて出てきたんだもん」

 

「魔力、魔法は人の意識感情に機微に反応する……って、前にアリシアさんが言っていたわね」

 

その隣では元の姿に戻った、主人と同じくボロボロのフリードとガリューが座り込んでいた。

 

「キュクル〜……」

 

(…………………)

 

「あはは、フリードとガリューもお疲れ様」

 

「フリードもゴメンね。 迷惑かけちゃって……」

 

「キュクルー!」

 

「ガリューもよくやったわね。 まだまだ仕事は残っているとはいえ、最大の難関は突破したわ」

 

(コクン)

 

満身創痍で疲労困憊……全員立つのも億劫だった。 キャロはアルトに連絡を取り、アルトはかなり心配しながらもこちらに向かうとの事になり。 とにかく一息ついたその時……ふとルーテシアは何かを思い出した。

 

「………あれ? 戦闘が始まる前に何か重大な事があったような……」

 

「……うん。 この数十分で色々あったけど……何か、忘れているような……」

 

「……………って、ああっ!? まだルーチェのお母さんが残っているよ!!」

 

『あ……』

 

戦闘を開始する前。 シャランは球状態だったメランジェを放り投げ、暴走状態で野に放っていたのを思い出した。

 

それに気付くとキャロは無理に転がってうつ伏せになり、そこから両手を着いて立ち上がろうとする。

 

「うっ……く……! 早く! 早く助けに行かないと!!」

 

「ちょ、ちょっとキャロ。 激戦の後で私達はもう立つだけでもギリギリなのよ?

 

「ここは皆さんに任せるしか……」

 

「ーーダメ! ルーチェと、レンヤさんと約束したんだから! 必ず、自分の手で解決して……ルーチェを必ずお母さんのメランジェの元に返すって!」

 

まだ終わってはいなく。 キャロは既に限界の身体に鞭を打って立ち上がろうとする。 キャロ1人で行かせる訳にもいかず、エリオとルーテシアもフラフラになりながらも立ち上がろうとした、その時……

 

『ーー私の作品と戦っているFの遺産と2人の召喚士。 聞こえているかい?』

 

『!?』

 

唐突に前触れもなく、場違いにも目の前に空間ディスプレイが展開され……そこにこの騒動の主犯、その一角たる男が映っていた。

 

 




一気にフォワード陣、ちびっ子チームの終わらせてしまいました……そしてやっぱり作品が変わった気がする。

まあそれはそれはいいとして。 次は残りのフォワード陣なのだけど……ゆりかご、まだ先かな?

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