魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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172話

 

 

9月13日ーー

 

地上本部襲撃から翌日……

 

「……見る影もないな……」

 

「そうだね……」

 

現在、なのはと共に他の隊員に指示を出しながら崩壊した六課の状況を確認し回っていた。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

お互い一言も喋らず黙々と仕事を続ける。 俺自身も声をかけたいが……今それをしたら簡単に崩れて壊れてしまいそうで怖かった。

 

『レンヤさん』

 

と、そこでソーマから念話が届いた。 同様になのはも恐らくティアナからの念話を受け取っていた。

 

『ソーマか……何かあったのか?』

 

『シグナム副隊長が現場を変わってくれまして。 僕とティアは病院の方に顔を出してきます』

 

『分かった。 フェイトもそっちに向かっている、合流するといい』

 

『はい。 それでは失礼します』

 

念話を切り、ちょうどあっちもティアナとの念話が終わったようで。 そのままなのはと並んですす汚れた廊下を歩く。

 

「あ……」

 

その時、唐突になのはが足を止めた。 その表情は動揺、悲しみ、後悔の色が混ざり合っているように見える。

 

「……っ……!」

 

そこには……汚れ、無残にも破かれて綿が出ているウサギと犬のぬいぐるみがあった。 ヴィヴィオとイットにあげたぬいぐるみ……

 

「うっ……く……」

 

「なのは……」

 

なのはの目に涙が浮かび……たまらず俺の胸に飛び込み、嗚咽を漏らしながら静かに涙を流した。 それを、俺はただただ頭を撫でるしかなかった。

 

ふと、ぬいぐるみが落ちている場所にある壁を見ると……そこには刀傷が途中まであり、その床には隆起したようや跡があった。

 

(イットの太刀に……黄金のマハによる創造魔法)

 

イットの抵抗が、自分の心を締め付ける……この戦いで多くの人が傷ついた。 こうなるとは予想していたのに……地上に戦力を集め過ぎた自分のミスであの子達を……

 

(約束、破ってしまったな……)

 

誓ったのに……イットを守ると、救ってみせると、そう約束したのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後なのはは涙を拭いながら謝り、その後会話もなく別れ。 俺は聖王医療院に向かった。 現在、ここには六課も含めて多数の管理局員が入院しており。 俺はアリサがいる病室に向かい、ノックして中に入った。 そこのベットの上にアリサ、横にアギトがいた。

 

「あら、いらっしゃい」

 

「やっほーアリサ、来たよー」

 

「アリサ、具合はどうだ?」

 

「元々不意を突かれて気絶しただけだから大した事はなかったんだけど……アギトが入れた薬湯のおかげですこぶる調子が良いわ。 いつの間にこんな事が出来るように驚いたわよ」

 

「えへへ……ちょっと興味が出たらのめり込んじまってな。 役に立てたのなら嬉しい事はないぜ」

 

「どうやら隊の中で1番に復帰するのはアリサのようだな」

 

「負傷者の中で1番軽いとはいえ、炎で受けたダメージでいちいち寝てられないわよ」

 

そこでアリサは真剣な表情になり、咳払いして話を変えた。

 

「……なのは達の様子はどう?」

 

「俺も含めて、皆同じだな。 気丈に振る舞っているけど、ヴィヴィオとイットが拐われたんだ、気が気じゃない」

 

そう言いながら静かに首を振った。 俺達は本当なら全てを放っぽり出しても助けに行くべきと思っているが……理性でそれを抑え、それが堂々巡りするばかりだ。

 

「ふう……そういえばアリサはナタラーシャと戦ったそうだな?」

 

「ええ、異編卿とは思わなかったけど、完璧な炎熱のコントロールにしてやられたわ。 初っ端、衝突の余波で魔力炉が一瞬で飛んでしまったのよ」

 

「遅れを取るとは思っていなかったが……予想外の結果だな」

 

「そうだね。 善戦していたとはいえ、ほぼ完敗に近いね。 それに私がヴィヴィオとイットの側に入れば、連れて逃げて入れば……」

 

「ーーストップ。 あの子達については誰の責任でもない。 いや、むしろ俺達全員の責任かもしれない……」

 

結局、誰もが責を負って楽になりたいのかもしれないな……

 

「……すずかは?」

 

「はやてと本局に。 壊れた六課の代わりにアースラを借り隊舎として使わせてもらえるように準備しているよ」

 

「ピット艦だけじゃ小さいからな。 老艦を無理させるのは気が乗らないけど……すぐに動かせるのはアースラしかない。 とことん最後まで付き合ってもらうかな」

 

「ま、落とされないように私達がなんとかするしかないわね」

 

それから2、3必要事項を伝え、病室を後にした。 アリシアは退院準備を手伝うとのことで俺はギンガとエリオの病室に向かった。

 

「あ、レンヤく〜ん」

 

「ん?」

 

この声はファリンさん、後ろから彼女に声をかけられて振り返ると……どこにもファリンさんの姿はなかった。

 

「こっちこっち」

 

「え……」

 

下から声が聞こえて下を向くと……そこにはビエンフーのハットの上に粘土みたいな材質のファリンさん人形がいた。 だがその人形はまるで生きているように動いていた。

 

「ファリン……さん?」

 

「うん、そうだよ」

 

「どうしたんですかそんな小さくなって……」

 

「いや〜、昨日の戦闘でボディにガタが来ちゃってね。 今はすずかちゃんが直しているから、直るまではこのパペットにOSを入れ替えてるわけ」

 

……一体どういう仕組みなのかはあえて聞かないでおこう。 なんか複雑な事情っぽいし。 そしてそのままファリンさんと共に病室に向かう事にした。

 

「入るぞ」

 

「あ、レンヤさん」

 

「お疲れ様です」

 

病室に入るとギンガがベットの上で起き上がっており、隣のベットでは左腕をギプスで固定しているエリオが座っていた。 他のソーマ、ティアナ、スバル、キャロ、サーシャはイスから立ち上がって敬礼した。 美由希姉さんとルーテシアはそのままだったが。

 

「ギンガ、エリオ、具合はどうだ?」

 

「問題ありません。 リンス先生に2、3日でギプスは取れるだろうって言われましたし」

 

「私も全治それくらいですね。 ちょっと神経回路がやられて動かしにくいですけど」

 

そう言いながらギンガは左腕を上下にゆっくり動かす。 その時に微かに駆動音がする。

 

「そうか………ここにいる全員、スバルとギンガの体についてはもうソーマかティアナ辺りから聞いているな?」

 

「はい。 大雑把にですが、ちゃんと」

 

「なら説明はいいだろう」

 

「うわぁ、レンヤも大雑把」

 

美由希姉さんが何かを言っているが、ここはスルーし。 機動六課……延いては地上本部の現状を説明した。

 

「そう、ですか……」

 

「地上本部だけじゃなく、管理局全体にも影響していますね」

 

「それに敵の主力も出てきた事も多かれ少なかれ……」

 

「ーースカリエッティ一味、騎陣隊、異編卿、魔乖咒師集団……どの組織も一筋縄ではいかない。 昨日の戦いは烽火だ……まだ始まったばかりなんだ」

 

「……………………(ゴクリ)」

 

話と空気が変わり、その雰囲気にスバルが息を飲んだ。

 

「で、でもまだ希望はあるわよね。 今回のはたまたま隙を突かれただけだし」

 

(コクン)

 

「それは違うよ、ルーテシア。 最初の地上本部システムの麻痺は手際が良過ぎた。 恐らく内通者がいたとみて間違いないよ」

 

「……そうね。 恐らく上層部の誰かがスカリエッティに情報をリークしたんでしょう」

 

「それについてはゼストさんが手を打った。 今内通者を洗い出している最中だ」

 

主にアイエへリアル設置を強行していた一派だったため、尻尾を掴むのはそう難しくはなかった。

 

「それに今回の一件でスカリエッティ一味も捨て置けなくなったね」

 

「はい。 戦闘機人はもちろんの事ですが、何よりグリムグリードを戦力として使用している事です」

 

「そして贋作とはいえ神話級グリムグリードの登場。 過去に傀儡型のグリードが登場しているから見ても、スカリエッティがお得意の物量作戦で来られたらいくら準備を整えても無理があります」

 

ソーマ達はいつの間にか今後の対策を話し合っていた。

 

「今まではグリードを操れず誘導していてましたけど、どうやらあの黒い装置で完全に操っているようです」

 

「あ、それってアマデウスが持ってたあの黒いの?」

 

「はい、恐らくは」

 

「はあ……結局、私達は敵組織の大きさを把握出来ずどうにかしなくちゃいけないわけね」

 

「どうすればいいのでしょう……」

 

ソーマ達が考え込む中、俺は横からそれを黙って聞いていた。 そして話が止まるのを見計らいってとある事を口にする。

 

「ま、この件でお前達が悩む必要はない。 こういうのは俺達隊員の役目だ。 お前達はさっさと怪我を直すのに専念していろ」

 

「はい……」

 

「まあ、既に敵の本拠地は判明している。 そう急ぐ必要はない」

 

「はい……って、ええ!?」

 

ティアナは生返事からハッとして、驚愕を露わにした。

 

「ルーテシアが戦闘機人の1人にサーチャーを付けたんだ。 そのおかげで判明した」

 

「い、いつの間に……」

 

「ほらいたでしょ? 赤髪を後ろで纏めているボードみたいなのを持った戦闘機人が。 エリオが攻撃する前に背後に寄って付けたのよ」

 

「ああ、あの時か」

 

「場所はミッドチルダ東部、森林地帯の山中だ。 今ヴェロッサ・アコース査察官が確認している所だ」

 

「って事は、反撃のチャンスはあるって事ですね!」

 

「仮にあったとしてもお前達の任務は首都防衛だ」

 

「ですよねぇ……」

 

「あはは……私としては少し安心です……」

 

少しは希望を持てたのか、皆は笑顔を見せた。 その後静かに病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動六課があんな事になったため、ゲンヤさんに許可を得て陸士108部隊を仮の拠点として活動する事になった。 今、隊長室でははやて達がゲンヤさんとクイントさんから戦闘機人について今までの捜査結果を説明をしている時、俺はここの訓練所に向かっていた。

 

《報告を聞かないのですか?》

 

「はやて達が聞いていればそれでいいだろう。 俺はちょっとでも勝機を見出せるようにしないとな……後もう少しで掴めるんだ」

 

そう言いながら右手を見下ろして見つめ、握りしめる。 と、訓練所に到着すると先客がいた。

 

「あれ、ヴァイス?」

 

「ーーうおっ!? って、なんだレンヤか……」

 

集中していたのか、声をかけるとヴァイスは驚いたように振り向いた。 焦るヴァイスを余所に、その手にある不思議な雰囲気を出す弓に視線を向けた。

 

「そういえば適格者になったんだってな?」

 

「ああ、なんかいきなり出ちまってな。 弓なんてシグナム姐さんとリヴァンのを見た事あるだけで使った事なんてねぇのに、不思議と手に馴染むんだよなぁ」

 

そう言いながらヴァイスはグリップを返して弓の両節にある刃を振り抜く。

 

「だが、使い方が分かるだけで使いこなせてねぇ。 何とか本番までには仕上げねぇと……」

 

「日頃特訓せずにヘリパイロットしてるからいざという時にこうなるんだ」

 

「うっせい」

 

軽く聞き流しながらヴァイスは矢をつがえ、ストームレイダーの補助で2キロ離れた的に狙いをつけ……矢を射た。 矢はギリギリ目視できる速さで飛び、的の中心やや左を射抜いた。

 

《ナイスショット》

 

「ふう……少し固すぎたがようやくここまで来れたか」

 

ヴァイスは息を吐きながらゆっくりと構えを解き、集中が途切れると途端に吹き出た汗を乱暴に拭う。

 

「ソウルデヴァイスとストームレイダーを併用して戦う気か?」

 

「ああ。 試してないがかなりの距離を狙いるらしいからな。 ストームレイダーにはターゲットとの距離と捕捉、照準をサポートしてもらうつもりだ。 そのための装備もすずかさんに頼んである」

 

「そうか……なら、俺も手伝うとしようかな」

 

レゾナンスアークを起動し、バリアジャケットを纏いながら周りに複数の的を模したターゲットが展開される。

 

「今から高速戦闘による近接格闘を仕掛ける。 ヴァイスはそれを避けるなり防ぐなり反撃するなりしつつ周りにあるターゲットを射貫け。 これなら速度に身体が慣れ、同時に目も慣れれば狙撃の命中率も上がる。 一石二鳥だ」

 

「…………いつもなら勘弁してくれ、とでもいうが。 よろしくお願いしようか……!」

 

今度は細心の注意と弱い技の選択、そして自身に課した枷をしながら訓練に挑んだ。 訓練所に剣戟と弦の音が響く中、数十分後……

 

「まさかここまでやるとはね……」

 

「はあはあ……ど、どんなもんだ……」

 

最終的にヴァイスは反撃どころか攻撃を開始し、そして的を落とす命中率が9割を超えてこの訓練を終了した。 それなりに訓練はしているとはいえ、この結果は驚きだ。

 

(これが……適格者として目覚めたヴァイスのポテンシャルか……)

 

「正直驚いたよ。 これなら本番までに仕上げられんじゃないか?」

 

「その本番がいつ来るか分かんねえけどな」

 

「……捜査状況にもよるが、だいたい1週間以下の期間は残されている。 まあ、3日後にしろ明日にしろ。 万全な状態で挑まなくちゃいけない」

 

例え全員が万全な状態でも、奴らに届くかどうか……定かではないが、やるしかない。

 

(それに、おそらく最終決戦の時にはリミッターが外れるだろうし)

 

「ふう……レンヤ、俺は先に上がんぞ」

 

「! ああ、俺はもう少し残ってるよ」

 

「あんまやり過ぎんなよ、明日もよろしくお願いすんだから」

 

「了解」

 

ヴァイスは手をヒラヒラさせながら隊舎に向かった。 気を取り直し、もう少し訓練しよう刀をぬこうとした時……

 

「レンヤ〜!」

 

聞き覚えのある声が訓練所の入り口から聞こえ、振り返ると……そこにはツァリ、ユエ、リヴァン、そしてシェルティスがいた。

 

「ツァリ! それに皆も!」

 

「それはお互いさまだよ」

 

「良かった。 無事とは知っていたけどこうして会えると安心する。 2人は騎陣隊のもう片方と相手したんだろ?」

 

「ああ、いけ好かねえ野郎どもだったが。 かなりの使い手だった」

 

「とても強い2人でした。 こちらが押していたとはいえ、まだ余力を残していました」

 

確かに、ユエの言う通りかもしれない。 フォワード陣の戦闘記録を見ても、騎陣隊の初戦が1番手強かった。 彼らの真骨頂は4人揃ってこそ発揮される。 と、そこまで考え込んでいると、シェルティスが前に出てきた。

 

「久しぶり、元気そうだね」

 

「シェルティス……空域の方はいいのか?」

 

「うん。 父さんとティーダさんがまとめているし、僕1人抜けても特に問題ないよ。 それで僕がここにいるのはある一件の事件がレンヤ達が追っている事件に関連していると思ったからなんだ」

 

「ある事件?」

 

「ーー数日前から突然、ユミィが失踪したんだ」

 

シェルティスから出された言葉に、一瞬驚いてしまう。 だがすぐに勝機に戻り、思考を巡らす。

 

「ユミィが? 一体何で……」

 

「分からない。 昨日の事件前から姿を消していて、それを追っていた矢先にこれだ。 どこか繋がっているように感じてね」

 

「つまり、ユミィが巻き込まれて。 どこかに監禁されていると?」

 

「その可能性も否定できない。 とにかく、僕はユミィを探さなくちゃいけない。 協力してもらえる?」

 

少し不安気味に協力をお願いするシェルティス。 だが、相談するまでもなく俺達の答えは決まっていた。

 

「もちろん!」

 

「言わずもがな、だな」

 

「微力ながら」

 

「ま、仮一つにしてやるよ」

 

「別にリヴァンはやらなくても大丈夫だよ」

 

「んだとテメェ!!」

 

相変わらずだな、この2人は。 だが、これでこそ俺達の友情としての形なんだろうな。

 

「? どうかしたの?」

 

「いいや、何でもない」

 

あの子達を攫われた罪は決して軽くはない。けど、少しだけ……ほんの少しだけ、皆のおかげで救われた気がした。

 


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