魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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168話

 

 

9月12日ーー

 

地上本部公開意見陳述会……予言が現実となり、事件が起こるとしたら今日。 現在、ミッドのほとんどの地上部隊はこの警備に回され、それは六課も同様。 フェザーズとスターズとリイン、フォワード陣6人は前日から警備に。 フェイトは当日、そしてはやては会議にリンスとシグナムはその護衛に付いていった。 クレードルはすずか以外六課で留守番。 もしも、何かが起こるとしたら何らかの関係のあるイットとヴィヴィオが居るここにも来る可能性ある。 なのでイットとヴィヴィオの護衛にザフィーラ、クレードルが襲撃時の迎撃、それらの指揮をシャマルと兼任してアリシアという体制になった。

 

「ーーはい。 そこはその配置で。 はい……ではよろしくお願いします」

 

今は久しぶりに座る対策課のデスクでツァリ共にと警備状況を確認していた。 通信を切り、一息ついた。

 

「お疲れ様、レンヤ」

 

「お疲れ。 そっちはどうだった?」

 

「全然。 警備は完璧万全の一点張り、これはゼストさんの仲介が欲しいかもね」

 

「ゼストさんもレジアス中将同様に忙しい。 ゼストさん達が防衛に目が回らない事に目をつけて勝手しているようだ」

 

ここの地上本部の警備部隊と連携を取ろうとしても、変更しないと言っている。 こうなるとこっちも勝手するしかなくなる。

 

「しょうがない、やるかな」

 

「あ、やるの? レンヤの未来予知みたいな推理」

 

「ただの予想だよ。 天気予報みたいなもの」

 

「でも、レンヤの推理は的を射ているものばかりだからね。 信用はできるよ」

 

そうは言っても。 相手の手札を知っていて、それがどう攻撃するのかを予測。 それにどう対処するかという問題なだけ。 他に知らないが手札あったらそれまでなんだけどなぁ……と、そこで急にツァリが顔を上げた。

 

「あ、ヴィヴィオだ」

 

「どこまで念威を飛ばしてるんだ」

 

「いやぁ、前にリヴァンから聞いたのが気になってさ。 隣にいるのがまた保護したイットって子? ちょっと不安がっているよ」

 

「……別に、1日くらいいない事くらいあったんだけどな……」

 

昨日ーーといっても数時間前ーーの夜、出発する時にイットとヴィヴィオが見送りに来ていた。 その時の表情が何かを案じるように不安がっており、イットもそわそわしていた。

 

「そっか。 ヴィヴィオちゃんらしいね」

 

「そうだな……」

 

「あ、そういえば。 内部警備の時デバイスは持ち込めないけど……そこはどうなっているの?」

 

「例外なし、デバイスは持ち込めない事になっている。 フォワードの……ソーマに預けようと思っている」

 

「うーん、少し不用心じゃないのかな……あぁ!?」

 

「ん? どうかしたか?」

 

突然ツァリが奇声をあげて硬直した。 何故か顔が赤い。

 

「フェ、フェイトが……服を……」

 

「何覗いてんだよ!」

 

容赦無く脳天にチョップし、ツァリは頭を抑えて蹲った。 だが、ツァリのせいで少し脳内でフェイトの脱衣シーンを妄想してしまい……頰が熱くなるのを感じながら頭を思っ切り振って雑念を振り払い。 作業を再開した。

 

「ふう………もう日の出か……」

 

いつの間にか窓から日差しが差してきた。 公開陳述会開始時刻は1500(ヒトゴーマルマル)、運命の時は刻一刻迫って来ている。

 

(でも、止めることはできない。 今できる最大限の手を打って……この壁を乗り越えみせる)

 

数時間後……ソーマに1階、エントランス前に来るように連絡しながらその場に向かった。 到着すると、ちょうどはやて達が入ってきた。 フェイトが視界に入ると……数時間前の事を思い出してしまい、両頬を叩いて眠気と共に吹き飛ばした。

 

「はやて、フェイト、シグナム」

 

「あ、レンヤ君。 お出迎えご苦労様」

 

「何か問題でもあったか?」

 

「特に何も。 各ジオフロントにも警備網も張っているし、今度は遅れをとらないつもりだ」

 

「でも相手は強大で尻尾も掴めない。 油断はできないよ」

 

フェイトの言う通り。 敵犯罪組織が化物じみているのがゴロゴロいる以上、どこまで通用するか……念のため、非常事態が起きた場合本局と空域にすぐに応援を頼めるようにしてあるが……

 

「まあ、今回の会議……その陳述内容もアレやし。 荒れるかもしれへんなぁ」

 

「ああ。 特に地上部隊の陳述内容……地上防衛用の迎撃兵器、アインヘリアルか」

 

「それって確か、レジアス中将の反対を押し切ってミッドチルダの高地に建造された三基の……」

 

「ああ。 かなり強行派がいたらしくてな。 最高評議会の意向もあったし。 その他の言い分も最もだったわけで結局了承されてしまったわけ」

 

「うん。 それももちろんやけど………内部によるクーデターもな……」

 

はやてが両肩に手を置いて顔を寄せ耳打ちした。 周りに聞かれないようにする配慮なんだろうが……それなら念話でいいのではと思うのは間違いだろうか?

 

「ちょ、ちょっとはやて……! レンヤに近付き過ぎだよ……!」

 

「聞かれたくない話や。 こうした方がええやろ?」

 

「それなら念話でいいでしょ……!」

 

まさしくその通り。 するとフェイトははやての首根っこを掴むと俺から引き離してくれ、そのまま連れていった。

 

「ほら、早くいくよ!」

 

「ほなまた後でなぁ〜」

 

「ふう……すまないな」

 

「いつものことだ、気にするな」

 

シグナムの謝罪を軽く受け、一度ソーマの元に向かわないといけないのでその場で別れた。

 

「さてと……」

 

踵を返して歩き始め。 不意に顔を上げ、ガラス越しに空を見上げる。

 

「こちらの盤上は片や穴だらけ、片や万全の体制。 あちらの駒は強大で未知数……どこまで喰らいついていけるかな」

 

そう呟いた後、正面に向き直りソーマを探しに歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15:00ーー

 

開催までの間に晴れた空から一転して曇り空になる中、公開陳述会が始まった。 はやてが出席している中。 俺となのは、フェイトとアリサが地上本部の警備に当たっていた。 本来なら俺も出席するはずだったが、無理言って断った。

 

それから会議室の中を時折中継で覗き見しながら警備を続けた。 それから数時間は何事もなく会議は続き……外は夕暮れ時になってきた。

 

「レンヤ君」

 

「すずか、そっちはどうだ?」

 

「今の所クラッキングの類いはないよ。 とはいえ、以前の会議をると油断はできないよ」

 

「そうだな。 奴らの目的も明確に分かってるわけでもないし……圧倒的にこちらが不利だな……」

 

襲撃が分かってたとしても、どうしても後手に回ってしまう。 と、その時……どこからか発生した魔力反応を感じ取った。

 

「これは……!」

 

「! 地上本部のサーバー内にクラッキングを受けた! 通信管制システムに異常が発生したよ!」

 

それと同時に地上本部中にアラートが鳴り響いた。 敵襲だ……

 

「来たか……! 俺は会議室を見に行く、すずかはクラッキングの対応をしてくれ!」

 

「もうやってる!」

 

こちらで指示する前にすずかは一心不乱に空間ディスプレイのキーボードを物凄い速度で弾いた。

 

「俺は会議室に向かう。 なのはとフェイトはすずかを見ていてくれ」

 

「了解!」

 

「うん……って、あれ? アリサちゃんは?」

 

「アリサなら大丈夫だ。 俺の推理通りなら、な……」

 

頭で考えた推理はそれなりに保証があるが。 今感じ取れる直感みたいなものだと……嫌な予感しかない。 それでも今は信じるしかなく、会議室に向かって駆け出した。

 

 

 

場所は変わり地下にある魔力炉……そこに魔力炉を背にして右眼に眼帯をした銀髪の少女が立っていた。

 

「ーーふっ!」

 

両手に持っていたナイフを両腕を広げるようにしてナイフを投擲、周囲の壁に突き刺した。

 

「IS発動……ランブルデトーー」

 

少女は手を上げ、指を鳴らそうとした時……正面から紅い閃光が高速で飛来してきた。

 

「何っ!?」

 

「はあっ!」

 

紅い閃光が少女を弾き飛ばした後、周囲に刺さったナイフを弾きながら抜かれた。 少女がナイフを構えながら前を向くと……そこにはアギトとユニゾンしているアリサ・バニングスが堂々と立っていた。

 

「貴様は……!」

 

「レンヤの推理通りね。 相手が物質透過能力を有しているのがいる以上、警備はザルも同然。 となれば……後は残りのザルを取り払いザル穴よりも巨大なものを持って来るように仕向けるだけ。 つまり、魔力防壁の心臓たるここ、魔力炉を狙ったわけね」

 

『予想通り過ぎて怖いくらいだな』

 

アリサは剣を突きつけながらここに現れた理由を言い、少女は任務が阻害されるとわかり顔を歪める。

 

「大人しく投降しなさい。 抵抗は……」

 

剣を下ろし、闘気と魔力をあげながら……

 

「あまりオススメできないわよ?」

 

『痛い目見るのならそれでも構わないけどな』

 

「っ!?」

 

ニッコリと笑った。 見惚れるような笑顔だが、アリサから放たれる凄まじい威圧で掠れ。 少女は身震いを起こした。

 

「ーーただ、その前に!」

 

「おっと」

 

アリサは振り返りぎわに剣を振り抜いた。 それを危なげなく避けたのは燃えるような真紅のチャイナドレスを着た妙齢の女性……ナタラーシャ・エメロードだった。 アリサはナタラーシャと対面し、その隙に少女はナタラーシャの背後に回った。

 

「久しぶりね、ナタラーシャ。 カジノ以来かしら?」

 

「ええそうね。 覚えていただけて何よりだわ」

 

「初対面にあんな事があって忘れるわけないでしょ」

 

『随分と軽いやつだな』

 

軽く呆れながらため息をつき、アリサは改めてナタラーシャを見据える。

 

「それより、何故かここにいるのか……と聞くのは野暮かしら?」

 

「そうね。 私、勝算のない賭けはしないタイプなの」

 

アリサの質問を答えると同時にナタラーシャは自身の周囲に炎を出現させた。 その2つの回答と銀髪の少女とナタラーシャを見て、アリサは笑みを浮かべる。

 

「ふふ、いいわ……」

 

《ロードカートリッジ》

 

「相手にとって不足なし、ねッ!!」

 

『暴れすぎて魔力炉を壊すなよ!』

 

「分かってるわよ!」

 

次の瞬間、魔力炉の方向から噴火のような爆音が轟いた。

 

 

 

「こら! 無闇に近付いたらーーって、もう遅かったか……」

 

地上本部前で、クイントが空に上がった部隊に警告するも……一足遅く、高速でアンノウン2名が部隊に突っ込んで大半が撃墜される。 それと同時に地上本部の魔力障壁の出力が減少……召喚によってガジェットが侵入して来た。

 

「! 遠隔召喚……報告にあった……!」

 

「まさか……アリサちゃんが!?」

 

「いや、多分戦闘に巻き込まれただけだと思う。 おそらく相手は相当な手練れよ」

 

「くっ……クイント! すぐに他の隊員に指示を出すわよ!」

 

「分かってるわよ! ああもう、もうちょっと実力のある部下を持ちたかったわ! 今からでも遅くないからレンヤ君達来てくれないかしら!?」

 

「愚痴を言っても仕方ないわよ」

 

『その通りです』

 

2人の頭上に薄紫色の4枚の花びらで蝶を形作った念威端子が飛んで来た。

 

「ツァリ君! この状況下でも念威が使えるの?」

 

『ええ。 短所は端子を介さなければ通信ができないくらいです。 本拠と空域に応援要請をしました、すぐに到着するはずです。 通信管制もすぐにすずかがどうにかしてくれます』

 

「了解。 さあ、やるとしましょうか!」

 

「久々に暴れるわね!」

 

メガーヌとクイントは空を見上げ、襲撃者2名を睨み……同時に飛び上がった。

 

 

 

場所は変わり異界対策課。 そこではツァリ、ユエ、リヴァン、エナが対策課のあるフロアに閉じ込められていた。

 

「ーーくそ! エレベーターも非常階段もダメだ」

 

「直接外に出る扉もピンポイントで先に壊されました。 敵は恐らく私達をこの場に止める事なのでしょう」

 

「ツァリ、状況はどうなっている?」

 

『今は持ち直して敵の対応に当たっているよ。 でもちょっとマズイかも、戦闘機人に異編卿……あの霊山の時のフェローや報告にあった騎陣隊までいるよ』

 

「統率が取れてない分、こちらがやや不利ですね。 一先ず私達はここから出なくてはなにも……」

 

「ーーコンプリート」

 

そこで1人、両手に工具を持ちながらエレベーターと格闘していたエナが立ち上がった。

 

「……エナ、何したんだ?」

 

「んーー……オッケー、これで開くよ」

 

「何?」

 

リヴァンは半信半疑でドアに手をかけると……抵抗なくドアが開いた。

 

「エレベーターの固定パーツをバラしてオープンしたよ」

 

「エナもすずかに似てきましたね……」

 

「そんな事ないよ……」

 

そう言いながらポケットから大きめのカプセルのようなデバイスを取り出し。 放り投げるとポンと音を立ててバイク……エナの愛車シュペヒトクイーンが現れ、跨ると目の色が変わった。

 

「ーー今からド派手なライディングを開始するんだからなぁ!!」

 

「相変わらずそのテンションの差について行けねぇよ!」

 

「行くぜ行くぞ行きますぞーー!! 未知なるデッドロードがアタイを呼んでいるーー!!」

 

いきなりアクセル全開で発進してエレベーター内に入り、絶叫が反響でこだましながら一瞬で闇の底に消えて行った。

 

「……あれ死ぬんじゃね?」

 

「考えもないし行くような子ではないと思いますが……私達も脱出しましょう。 ツァリ、ラペリングは出来ますね?」

 

「も、もちろん。 ちゃんと皆と練習したし……!」

 

「ーーそうは行きませんね」

 

すぐさまリヴァンとユエはデバイスを起動、バリアジャケットを纏いながらそれぞれの武器を構え声のかけられた方向を向く。 その先の暗がりから……2名の甲冑を身に纏った人物が現れた。

 

「旧VII組、お相手願いましょう」

 

「ま、要は足止めなんだけどな」

 

「き、騎陣隊……」

 

「ここでおいでなすったか」

 

騎陣隊の2人は仮面の顎の部分に手を当てると……機械的にバラけて胸の甲冑に収まり、素顔を見せた。 ラドムは優男風の鮮やかな金髪で、ゼファーは三白眼気味のアッシュブロントだった。

 

「初対面なので名乗っておきましょう。 私は騎陣隊が筆頭、円環のラドムといいます」

 

「破滅のゼファー。 雛鳥と相手をしたかったが、お前らの方が楽しめそうだ」

 

両者はロングソードと二刀のソードブレイカーを抜刀し、リヴァンとユエと睨み合った。

 

 

 

「はやて!」

 

「レンヤ君!」

 

勢いよく駆けながら会議室に入り、とっさにはやての身の安全を確認した。 その後すぐにハッとなり、頭を振った。 私情を持ち込んではいけないこの場で俺は他の誰よりもはやての身を心配した?

 

「レンヤ君?」

 

「あ。 いや、何でもないよ。 とにかく今はーー」

 

「おい貴様! まだ会議の最中なのに勝手に入ってくるんじゃない!!」

 

言葉を遮るようにあの時の管理局員が出てきた。 俺はそれを無視し、背後で騒ぐ中レジアス中将の元に向かった。

 

「ーーレジアス中将! すぐに会議の中止を!」

 

「うむ。 外部からの攻撃により会議は中止する! 混乱防止のため、皆様はこの場で待機していてください」

 

さすがレジアス中将、すぐに退避させては混乱を招くだけだ。 ゼストさんも周囲を落ち着かせようとするが……

 

(恐らく、奴らの目的は……)

 

次の瞬間、衝撃とともに会議室は停電。 辺りがざわめく中、入口の防壁が降りてしまった。

 

「しもうた! 閉じ込められた!」

 

「くっ……AMFによる檻か!」

 

AMF全開の大量のガジェットで地上本部を取り囲んで大多数の魔導師を無力化されたな。

 

「まさしく牢獄(ジェイル)というわけですね……」

 

「濃度も高い……これでは魔力が結合できなくなっています」

 

「通信も通らへん……やられた……!」

 

っていうか、AMFの檻って……どれだけのガジェットを使ってんだよ。 毎度の襲撃で大量に出てきているが……今回はどんだけの量を用意したんだよ!

 

『レンヤ! 大丈夫!?』

 

「! よかった、繋がったか」

 

その時、ツァリからの念話と同時に胸ポケットから大きい花びら二枚、小さい花びら二枚が飛び出し。 それが蝶を形作って羽ばたき始めた。 念のためツァリの念威端子をもらっておいてよかった。 これでこの濃度のAMFを物ともせず通信ができる。

 

「ツァリ、現状報告を。 その後はプラン通りなら本局と空域から応援が来る。 それの中継を頼む」

 

『イエス・コマンダー』

 

どうやらシェルティスとティーダさんが上手く部隊を立て直しているようだな。 そして懸念してた通り、戦闘機人が出てきたか。

 

『ーー地下でアリサが敵戦闘機人及び異編卿と思われる人物と交戦中。 奮闘はしているけど、抜かれて魔力炉がやられたみたいだよ』

 

「防壁が降りてる時点で分かってるよ。 外の障壁が破られたのは出力が落ちたからだろう」

 

「アリサちゃん……大丈夫やろうか……」

 

「大丈夫よ。 騎士アリサは強い……それは他ならぬはやて、あなたが知っているはずよ」

 

カリムが近寄って来て、はやての肩に手を置いた。

 

『通信は僕を介して出来るけど、地上本部のハッキングはどうしようもできないよ。 どうやってそこから脱出する気?』

 

「それはもちろん……」

 

答えながら防壁に向かって歩み寄り。 途中で小型の魔法陣を重ねるように膝の前に複数展開し、駆け出すと同時に膝で壊すように通過。 一瞬で加速し……

 

「華凰拳……迅蕾脚(じんらいきゃく)ッ!」

 

刹那の間で防壁の前に移動。 その速度と身体を捻って回転を加えて捻じ込むように蹴り……防壁に亀裂が走り、粉々に破壊した。

 

「よし。 上手くいった」

 

「……レンヤ。 何をした?」

 

「華凰拳の1つの技に魔法による加速を加えました。 さっきの小さい魔法陣には加速と飛翔の術式が組み込んでありまして、それを重ねて連続で使用。 破壊したわけです」

 

「いえ、そもそもこの状況下でどうやって魔法を?」

 

「AMF下での戦闘には慣れてる。 一瞬くらいなら発動できる」

 

少し呆然としている皆さんの気持ちを代弁するかのようにゼストさんとカリムが聞いてきたので懇切丁寧に説明した。

 

「……お前も大概化物じみてるな……」

 

ゼストさんが何か言っているが、ここはあえてスルーしておく。

 

「コホン……とにかく! 脱出しますよ!」

 

先導して会議室を出て、まずは非常通路までの道を開くため同様に防壁を壊して進んだ。 それを続けて行くと……警備のため、というよりこちらと同様に閉じ込められていた待機していた管理局員を見つけた。 そこにはなのは達も一緒にいた。

 

「なのは、フェイト、すずか!」

 

「レン君!」

 

「はやても……大丈夫だった?」

 

「なんともあらへんで。 そっちの状況はどうなとるんや?」

 

「ついさっきツァリ君からの連絡で大体は把握しているよ。 現在、空ではアンノウン2名とクイントさん、メガーヌさん率いている部隊が交戦中。 アリサちゃんも地下魔力炉で異編卿と。 今ヴィータちゃんが推定ランクSのアンノウンに向かっているよ」

 

次から次へと……連絡法がツァリの念威しかない以上、対応が追いつかない。

 

「システムの方は?」

 

「今やっているけど……かなり手強くて。 スペックもこちらが劣っているみたいだし、一部区画を解放するのが限界かも……」

 

かなり切羽詰まっているようで、すずかは口よりも手を動かしながら答える。

 

「サーシャちゃんを置いて来たのは失敗だったね」

 

「こうなってら仕方ない。 すずか、エレベーターは動くか?」

 

「……ダメ。 扉は開けられるけどエレベーターは呼べないよ」

 

「それで十分。 はやては現場指揮をしつつすずかと非魔導師の皆さんを避難誘導してくれ」

 

「了解や」

 

「分かった」

 

それにしても……こうも簡単に防衛システムを麻痺させ、管理局の警備網をかいくぐるとは。 いくら腕利きのハッカーがいたとしてもすずか、サーシャ、ソエルが組んだファイアーウォールを抜けるなんて……

 

(! まさか……!)

 

「ーーレンヤ?」

 

「……大丈夫、何でもない。 ツァリはこのまま対策課で管制中継と指示を。 側には誰がいる?」

 

『リヴァンがいるよ。 ユエは地下に向かって言ってエレベーターこじ開けて下に』

 

「了解。 なのは、フェイト……レルムでの軍事訓練は覚えているよな?」

 

「! もちろん!」

 

「あれだね」

 

2人は頷き、すずかは空間ディスプレイで表示されたキーボードを弾き……エレベータードアが開いた。

 

「じゃあ行ってくるよ」

 

「気をつけろよ」

 

「はい!」

 

俺達はレジアス中将とゼストさんに敬礼し、底が暗闇の縦穴に飛び込んだ。 両手を魔力で覆い、ケーブルを掴んでラペリングで下に向かう。

 

「テオ教官には感謝しないとね」

 

「うん! でも私達以外にできる人がいなかったのは……少し呆れちゃったなあ……」

 

「仕方ないさ。 一から訓練し直しする程時間もないだろうし」

 

管理局員の大半が実戦的な訓練を受けていないのが現状だ。 改善されつつあるが、年長者には無理な話だし。 結局間に合わなかったようだな。

 

「緊急時の指示通りならソーマ達がデバイスを届けに来るはずだ」

 

「うん。 目標合流ポイントは地下通路……ロータリーホール……!」

 

「急ごう!」

 

手とワイヤーの間の摩擦で火花を散らしながら、落下するように下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このガスは致死性ではなく麻痺性です。 今から防御データを送ります』

 

ツァリの念威による全部隊に一斉連絡で地上本部に散布されたガスの防御データを送った。 ヴィータ達の元にも送られ、フォワード陣のバリアジャケットに防御データが施された。

 

「よし。 はやて達がいる会議室は無事なんだな?」

 

『はい。 今は脱出して非魔導師の方々を避難誘導してます。 あ、ロングアーチとの回線を開きますね』

 

蝶の念威端子がヴィータの周りを飛び交い、ロングアーチとの回線が開いた。 ヴィータが状況を把握する中、スバルが足を止める。

 

「副隊長! あたし達が中に入ります! なのはさん達を助けに行かないと!」

 

「異編卿も出ていています。 いくらレンヤさん達でもデバイスなしでは……」

 

「……分かった。 合流ポイントは分かってるな?」

 

『はい!』

 

『ヴィータ副隊長! 高速に本部に向かって航空戦力が飛来しています!』

 

その時、ヴィータはロングアーチからそう報告を受けた。 それと同時にヴィータは空からとてつもない気迫を肌で感じ取り……無意識のうちに額に冷や汗をかいた。

 

『ランク……推定オーバーSSです!』

 

「了解した。 リイン!」

 

「はいです!」

 

「そっちはあたしとリインが上がる。 地上はこいつらがやる!」

 

そう言いながらヴィータはポケットからシュベルトクロイツとレヴァンティンを取り出し、走りながら後ろにいたティアナとソーマに投げた渡した。

 

「こいつらのことも頼んだ!」

 

「届けてあげてくださいです!」

 

『はい!』

 

そこで二手に分かれ。 フォワード陣は地上本部に向かい、ヴィータとリインは空を見上げた。

 

「リイン! ユニゾン行くぞ!」

 

「はいです!」

 

『ユニゾンイン!』

 

2人は同時に飛び上がり、交差する。 次に現れたヴィータはバリアジャケットの赤い部分が白くなり、瞳の色が青に、髪がオレンジ色に変わった。

 

ヴィータは高速で目標に向かって飛翔。 その間リインが警告として念話を飛ばした。

 

『ーーこちら管理局。 あなたの飛行許可と個人識別票が確認できません』

 

「! この声……リインだね」

 

念話を受け取った2名のうちの片方……コルルが念話の声をリインだと判断した。

 

『直ちに停止してください! それ以上進行すれば迎撃に入ります!』

 

「ーー来ます」

 

白い礼服の目元だけを隠す仮面をつけた腰までの長い金髪の女性が、下から飛来した複数の魔力弾を見た。

 

「おっと……エントラーゲヴィッター!」

 

2人は魔力弾を避け、小人の少年……コルルが迎撃のため両手から電撃を放ち、枝分かれして撃ち落とすが……実体弾である鉄球は止められなかった。

 

「姉さん!」

 

「ええ……」

 

女性がコルルの前に立ち。 一瞬、ランスを持つ右腕がブレると……全ての鉄球が貫かれた。

 

「ーーはあああっ!!」

 

間髪入れず女性に向かって雲の下からヴィータが接近、ギガントフォルムのグラーフアイゼンを振り抜き、赤い魔力が球状に炸裂した。

 

『……ダメです。 完全に相殺されました……』

 

「分かってる。 しかも魔力の放出だけで防ぎやがった……!」

 

煙が晴れると……そこにはコルルの姿はなく。 金髪の髪が黄色い髪に変化した無傷どころか汚れもない女性が立っていた。 ヴィータは女性の出す魔力とオーラに警戒し、仮面越しに見える翡翠の瞳に自然身構える。

 

『さすが姉さん。 僕を使わなくても余裕で防げたよね?』

 

「……そう悲観するものではありません。 私の進む道に、あなたは必要不可欠な存在です」

 

『お世辞でも嬉しいよ』

 

初めて彼女が口にした声はとても澄んで……どこか引き寄せられる感覚に陥る。

 

『コルルさん……アギトちゃんの言う通り、真正の古代ベルカ式融合型……』

 

「! ああ、そうみたいだな……」

 

リインが声をかけてくれたおかげでハッとなり、ヴィータは気を引き締め。 グラーフアイゼンを構えなおした。

 

「ーー管理局機動六課、スターズ分隊副隊長……ヴィータだ!」

 

「フェロー。 騎陣隊が主、星槍のフェロー」

 

ヴィータの名乗り出に、フェローは迷わず返答する。 その反応にヴィータは眉を吊り上げる。

 

「名乗んならその面も外したらどうだ?」

 

「ならば貴女の手でお願いします。 貴女がこの面を剥ぎ取れたら私も夜風を味わえるというものです」

 

「舐めやがって……」

 

怒りを表すが……次の瞬間、フェローからとんでもない程の魔力が放出された。 その勢いで雲が吹き飛ばされ、ヴィータは思わず後退った。

 

「っ!?」

 

『な、なんて魔力……!』

 

『あーあ……姉さん、本気だ』

 

「見せてもらいましょうか? 夜天の一柱、その力の一端をーー」

 

フェローは流れるように、だが超高速でヴィータに向かってランスを突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻ーー

 

ソーマ達フォワード陣は隊長陣のデバイスを届けるため、目標合流ポイントに向かって走っていた。

 

「ーー! 敵襲!」

 

「マッハキャリバー!」

 

《プロテクション》

 

ソーマがいち早く敵襲に気付き、すぐさまスバルが前に出た攻撃を防いだ。

 

「……上!」

 

「ーーっ!?」

 

スバルは上を向いて防御しようとするが……襲いかかって来た人物の顔を見て驚愕し、振り抜かれた蹴りを防ぐも踏ん張りが無く壁に吹き飛ばされてしまった。

 

「痛っつ……」

 

「スバル!」

 

「ーー動かないで!」

 

ティアナがそばに寄ろうとすると……ソーマが手を掴んで止めた。 反論しようとすると、周りに幾つものピンク色のスフィアらしき物体に囲まれていた。

 

ソーマ達はそこで襲撃者2名の顔を見た。 1人はサーフボートのようなものを持っている濃いピンク系の髪を後ろでまとめている少女。 もう1人はローラーブーツと両手のリボルバーナックルといった、スバルと似た武装をしたスバルと顔立ちが似ている赤髪の少女……

 

「ノーヴェ。 作業内容忘れてないスか?」

 

「うるせぇよ。 忘れてねえ」

 

「捕獲対象5名……全部生かしたまま持って帰るんスよ?」

 

「ふん。 旧式とはいえ、タイプゼロがこのくらいでくたばるかよ。 大して喰らったわけでもねぇし」

 

「戦闘……機人」

 

スバルはスクッと立ち上がり、口元を拭いながら敵の正体を見破った。 どうやら衝撃は逃したようで、赤髪の少女のいう通り大したダメージを受けてなかった。 そしてソーマはスバルの進行方向にあるスフィアを一瞬で切り裂き、守るようにスバルの前に出た。

 

「お持ち帰り希望にしては……たった2人で来るとは舐められたものね」

 

「ルーフェンの武芸者を甘く見ないでもらいたいね」

 

「ーーふふ、私達は彼らの雛鳥を甘くは見てませんよ」

 

2人の言葉に答えるように、襲撃者2名の背後の暗がりから誰が歩いた来た。 その人物がゆっくりと見える位置に出てくると……

 

「! あなたは……!?」

 

空白(イグニド)……異編卿か!」

 

「はい。 空白ですよ」

 

「……それだけじゃないよ」

 

今度は通路先から古風な騎士甲冑を纏い、その手には戦鎌を持った女性が現れた。

 

「静寂のファウレ!」

 

「……久しぶり」

 

「ーー腕を上げたようですね」

 

「流動のウルク……」

 

ファウレの隣から、その手に盾を持ちながら同様の甲冑を身にまとっている女性……ウルクが歩いて来た。

 

「そこの銃士も一皮剥けたようですね。 人数は以前より少ないとはいえ、油断すれば膝を地に付かれるでしょう……あなた方も油断しない事をお勧めしますよ?」

 

「ご忠告、どうもありがとうス〜」

 

「ふん、余計なお世話だ」

 

戦闘機人2名は忠告を聞き流し、ウルクはやれやれと首を横に振るった。 だが気を取り直し、ウルクとファウレは何かを操作した。 すると顔を隠していた兜がガチャガチャと音を立てながら機械的にバラけて外れて行き……胴体の甲冑に収まり、2人の顔が光にさらされた。

 

「っ……!?」

 

「き、綺麗……」

 

「ふふ、褒められて悪い気はしませんが……手加減は期待しないでくださいね」

 

ウルクは短髪の紫苑色の髪に、前髪で左眼が隠れており右眼から見える薄紫色の瞳がソーマ達を見ている。

 

ファウレは背中まである白藍色の髪を一纏めにして左肩に回して乗せてあり、眠そうな黄緑色の眼で気怠そうにボーッとしている。

 

「……気乗りはしないけど、マスターの命で相手をしてもらうよ」

 

「くっ……」

 

「気乗りしないなら帰って欲しいわね……!」

 

「来ます!」

 

エリオの一声で、ソーマ達はそれぞれの武器を構えた。

 

これを機に、ミッドチルダを……延いては次元世界中を揺るがす戦いの火蓋が切っておとされた

 

 

 

 


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