魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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167話

 

 

9月上旬ーー

 

あのオルディナ火山島の任務から1ヶ月近く経った。 日に日に暑さが強まる中、その期間中に幾度となくガジェットの出現、または襲撃。 特にグリードを使用した襲撃が……従来の(ビースト)昆虫(インセクト)植物(プラント)(ピスケス)(バード)天使(エンジェル)妖魔(デモニア)妖精(フェアリー)機凱(エクスマキナ)精霊(エレメンタル)タイプはもちろん。 龍精(ドラゴニア)巨人(ギガント)獣人(ワービースト)タイプなど珍しい種類も現れまさしく魑魅魍魎。 立ち向かうのは人類のみ……何度も交戦を繰り返す日々だった。 そのうち本物の神霊種や幻想種とかが出て来そうだな……

 

そして、今日の朝練から機動六課にギンガとマリエルが出向となった。 自己紹介を終え、それぞれ準備運動し……訓練が開始された。 そんな中、なのはの提案でスバルとギンガの一対一による模擬戦が始まり。 俺達はそれを見学していた。

 

「はあっ!」

 

「っ……!」

 

お互い、シューティングアーツによる攻防とローラブーツで常時移動しながらの格闘戦。 ギンガの猛攻に、スバルは防戦一方だ。 だが、ギンガの攻撃にキレがない……その事に気付かない六課の隊長と副隊長陣ではなかった。 特にギンガを見るシグナムの眼光は凄まじい……

 

「はあああっ!」

 

《ストームトゥース》

 

「っ!」

 

《プロテクション》

 

ギンガは左拳を引き絞り、リボルバーナックルが回転。 スバルは右手を突き出し、プロテクションを張って防御を展開し……

 

「ーーはああああああっ!」

 

激突、拮抗は一瞬……ギンガがプロテクションによる防御を破った。 そして肉薄、左の打ち上げがスバルのボディに入り、その衝撃で砂塵が舞い上がる。

 

「……なるほど。 悪くはないが……」

 

「ああ。 ギンガの動きに迷いがあるな」

 

「ギンガ……」

 

シグナムとヴィータに見抜かれる中、事情を知るフェイトは静かに見守った。 火山島の任務に同行したソーマ達も心配そうに見守る。 そして砂塵が晴れていくと……

 

「ーー何これ……こんなの、ギン姉の……!」

 

「!」

 

ギンガの一撃をあえてフィールド系の防御……ディフェンドアーマーで受け止め、スバルは受けた一撃に悲痛な顔をする。

 

「こんなの、ギン姉の……拳じゃないよ!」

 

《ディフェンサー》

 

ギンガはとっさに防御魔法を展開し。 スバルは一瞬で拳を構え鋭いパンチが放たれ……拮抗する事なくギンガは吹き飛ばされた。 確かにスバルは成長しているとはいえ、本来ならリボルバーナックルを回転させてない一撃で破られる防御ではないはずだ……

 

「相棒!」

 

《ギア・セカンド》

 

スバルは追撃をかけ、マッハキャリバーのモード2を起動。 外見の変化はないが出力が向上し、機動性が上がってすぐにギンガに追いついた。

 

「てやっ!」

 

「っ!」

 

追撃の勢いを利用した回し蹴り、それが当たる直前ギンガは跳躍……蹴りは木をへし折り、ギンガはウィングロードで上空に退避。 スバルもウィングロードで追いかける。

 

「はあっ!」

 

「でやあっ!」

 

藍紫色と水色の2色のウィングロードとギンガとスバルが上空で激突。 何度も交差して火花を散らす。

 

「ギン姉! 何迷ってんの!? パンチがぶれっぶれだよ!」

 

「っ……! 分かってるわよ……そんな事は!」

 

「何があったの? 後で話してよね!」

 

「あなたに言ったところで……!」

 

姉妹喧嘩一歩手前……2色のウィングロードが正面から衝突、その狭間で2人が激しい攻防を繰り広げる。 リボルバーナックルを駆動させず、掴みや膝蹴りや肘打ちが放たれ、それを身体をズラして受け威力を落としながらの防御が行われた。 だが、徐々にスバルが押している。

 

「お2人とも……何かあったのでしょうか?」

 

「うーん、あれはお姉さんの方に原因がありそうだね」

 

「そうね。 確かにギンガさんの様子がいつもの違うわね。 スバルもそれに気付いて反発しているし……」

 

事情を知らないサーシャ、美由紀姉さん、ティアナは2人を見て困惑する。 と、横からフェイトが近寄ってきた。

 

「レンヤ、ギンガの事は……」

 

「一応、クイントさんとゲンヤさんには話してある。 だが、それでもどうしようも出来ないだろう。 ギンガが六課にいる間に、ギンガ自身で掴み取らなければ……先はない」

 

非情だと思われるが……これはギンガが悩み、乗り越えなければならない。 その時、上から爆発音が鳴り響き。 上を見上げ、煙か晴れると……スバルの頭を掴んで放たれたギンガの膝蹴りが、スバルの眼前で寸止めされていた。

 

「ーーはい! そこまで!」

 

なのはの模擬戦終了が告げられ、ギンガはスバルから離れ、背を向けた。 勝者はギンガだが……息が上がっているに対し、スバルは少しだけ息が乱れている程度だった。

 

「あ、あはは……負けちゃった。 やっぱりギン姉は強いや……」

 

「そうでもないわよ。 スバルも色々上手くなっているし、私もうかうかしてられないわね」

 

2人は会話しながら戻ってきて、その後はスバルはフォワード陣とシグナム達とで先ほどの模擬戦の評価や対処指導を始め。 ギンガはこちらの方にいた。

 

「ギンガ。 どうだった、スバルの成長は?」

 

「びっくりしました。 攻防の切り替えが早くて、威力も段違いで……」

 

「そう。 それで、ギンガ自身の評価は?」

 

なのははあえて直球で言った。 その問いにギンガはうつむきながら答える。

 

「…………ハッキリ言って、ダメダメでした。 まだ、自分自身と向き合っている最中。 迷いっぱなしです。 スバルにああ言われても仕方ないですね」

 

ギンガはあははと苦笑いをする。 あれから1ヶ月……まだ自分自身を見い出せていないようだな。

 

その後、ギンガを含めたフォワードチーム9人と前線隊長6人チームの時々行われる模擬戦が開始された。

 

数十分後ーー

 

「ーーはい、じゃあ今日はここまで」

 

「全員、防護服解除」

 

『はい……』

 

「……皆マジチート……」

 

俺達は何事もなく歩く中、フォワード陣は息絶えだえで座り込んでいた。 姉さんが人聞きの悪い事を言った気もするが……

 

「ふむ、惜しいところまでは行ったな」

 

「後もうちょっとだったね」

 

「もっと精進する事ね」

 

シグナム、フェイト、アリサはそう言うが……ソーマ達は聞き流し、後もう少しのところでと言いながら嘆いていた。

 

「反省レポートまとめとけよー」

 

『はい』

 

「特に美由紀姉さん、あんまり感覚的な擬音語を書かない事」

 

「は〜い」

 

最初の時の姉さんのレポートはなのはがズガーンと撃ってきたとか、レンヤがシュッと現れてとか、実際にそん感じで動いたかもしれないが……とにかくよく分からないレポートだった。

 

「ちょっと休んだら、クールダウンして上がろう。 お疲れ様」

 

『ありがとうございました!』

 

フォワード陣は少し休み、さっそく体操や柔軟でクールダウンを始めた。 その間、しばらく今後について話し合っていると……

 

「パパ〜! ママ〜!」

 

「あ……」

 

こちらに向かって、ヴィヴィオと太刀を抱えて困惑しているイットを引っ張って走ってきた。 どうやらファリンさんとザフィーラが連れてきたようで、シャーリー達と一緒にいたすずかとアリシアが付いて行っている。

 

「ヴィヴィオー!」

 

「転ぶんじゃないわよー」

 

「……あれ? なんかデジャブ?」

 

アリシアが首をひねりながら何かを思い出そうとするが、何事もなくヴィヴィオがお馴染みのタックルをかまして来た。

 

「おっと、ヴィヴィオは今日も元気だな」

 

「うん!」

 

「イットも、鍛錬は続けているか?」

 

「は、はい。 紛い物でありますが、八葉の一端ですから……」

 

質問すると、イットは遠慮がちに答える。 やはり、ヴィヴィオより年上なため心を開くには時間がかかりそうだ。

 

「そういえば、あの黒髪の子は? 質量兵器持ってるけど……」

 

「えーっとですね、あの子は……」

 

「はっ! ま、まさか……ヴィヴィオちゃんに続いて第2子……!?」

 

「違うわ!」

 

「あ、そうだよね。 ヴィヴィオちゃんより歳が上だし……ま、まさか……ヴィヴィオちゃんより前に……!?」

 

「な、何馬鹿な事考えてんのよ!? そ、そんなわけないじゃない!?」

 

「ふふ。 アリサちゃん、何を考えているのかなぁ?」

 

「す、すずか……笑みが怖いよ……」

 

マリーの暴走に、アリサが動揺しながら否定した。 そんな光景を俺とヴィヴィオは笑って見つめ、手を繋いで隊舎に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝訓練が終わり、現在は皆で食堂にて朝食。 全員で食事を運んでいた。

 

「なるほど、ヴィヴィオちゃんと同じ保護児童なのね」

 

両手にトレーを持ち、席に移動しながらイットの事情をマリーに説明した。

 

「僕の時の同じような感じです」

 

「レンヤ君が保護責任者、後見人がなのはさん達6人です」

 

「ああ、うん、そっか……よかった」

 

「……何が?」

 

マリーの安堵に疑問を覚えるが、朝食を食べる時には頭の隅に追いやった。 皆で楽しくワイワイと朝食を食べる中、ヴィヴィオの皿の上にはピーマンが横にあった。

 

「ヴィヴィオ、好き嫌いはダメだぞ。 しっかり食べないと大きくなれないぞ?」

 

「え〜……だって苦いの嫌いだもん」

 

「ヴィヴィオ、ピーマンは体にいいのよ?」

 

「好き嫌いは良くないから、頑張って食べようね?」

 

「うう〜〜……」

 

皆が説得するも、ヴィヴィオはピーマンを見つめながらしぶる。 その隣では、イットが器用に箸を使いながらピーマンが入っているサラダ炒めを食べていた。

 

「ほら、お兄ちゃんも食べてるわけだし」

 

「え、俺はその……」

 

話を振られ、1度箸を置いてイットは縮こまりながら口ごもる。 前にリンスが言っていたが、イットにはここに来る以前の記憶がある。 つまり、非人道的な実験を受けていた……食事もままならず、好き嫌いなんて言えないのだろう。

 

「……まあ、そやなぁ……好き嫌い多いと、ママ達みたいな美人になれへんよ?」

 

それを見たはやてが、機転を利かせてくれた。

 

「イットはレンヤみたいにカッコよくなるかもね?」

 

「あ、はい……」

 

「う〜……」

 

説得を続けるが、ヴィヴィオは恨みを込めるようにピーマンを睨みつける。

 

その背後で、キャロがニンジンをエリオに渡そうとしていたが……話を聞いていたのか。 エリオにどうするか聞かれ、こちらもしぶりながら結局自分の口にいれた。

 

「キュー、キュー」

 

「あ、ごめんねルーチェ」

 

キャロの足に擦り寄って来たのは隕竜の子どものルーチェ。 あの一件で母親を異編卿に連れ去られ、今はキャロが保護している。 ルーチェは一応赤ん坊なので哺乳瓶でミルクを与える食事になっており、それなりに大きいのでエリオが抱え、キャロが哺乳瓶を持ってルーチェにミルクを飲ませた。

 

「キュ、キュー♪」

 

「よしよし、いい子だねルーチェ」

 

「ルーチェもすっかりここに慣れたわね〜」

 

「そうだね。 それにしても……」

 

サーシャはルーチェを抱えているエリオ、哺乳瓶をもつキャロを見て頷いた。

 

「こうして見ると、夫婦って感じだね」

 

「ふ、ふーふー!?」

 

「あらら。 動揺しすぎて伸ばしてるよ」

 

「うーん、まあそう見えなくもないけど……」

 

ルーテシアは微笑みながら立ち上がり、2人の前に向かい……キャロから哺乳瓶を取ってエリオに寄り添った。

 

「こっちの方がエリオ的にはいいんじゃないの?」

 

「ええっ!?」

 

「ル、ルーテシアちゃん!?」

 

「ルーチェもエリオもペッタンコなお母さんより、こっちの方がいいと思うわよ?」

 

ルーテシアは胸をはり、キャロと現在の違いを見せつける。 確かに同い年にしては発育に差があるな……

 

「レン君? 何見てるのかなぁ?」

 

「痛い痛い!?」

 

突然なのはに耳を思いっきり引っ張られる。

 

「レンヤってまさかそういう趣味?」

 

「どおりで私達に靡かないわけだね」

 

「……犯罪だよ?」

 

「レ・ン・ヤ?」

 

皆一斉に疑いの目を向けるが、特にフェイトが怖い……

 

「違う! 違うから! 俺の好みとしては……」

 

『好みとしては?』

 

誤解を解こうとそこまで口に出すと……なのは達は怒りから一転して興味津々になって答えを待った。 しかも、何やら目が光っているような……まるで獲物を狙う肉食獣の如し……

 

「えっと…………料理ができて、明るくて優しい女性かな?」

 

そう答えると……三者三様、ガッツポーズしたり考え込んだり落ち込んでたり……なのは達はそんな事をしていた。

 

「? お兄ちゃん、ママ達どうしたの?」

 

「さ、さあ……?」

 

(! 俺の女性の好みを聞いて………まさかな)

 

勘違いと思い頭の隅に追いやり、朝食を口にいれた。 それにしても、六課はいつでも騒がしいな……学院を思い出す。

 

その後、俺は地上本部に向かい。 異界対策課に顔を出した。

 

「あ、レンヤ! 久しぶり〜♪」

 

「久しぶりソエル、元気してたか?」

 

「ソエルはいつでも元気100倍だよ〜♪」

 

飛び込んできたソエルをキャッチし、近くのデスクの上に置いた。

 

「そういうお前の方こそ元気なのか? かなり忙しいと噂で耳に入ってんぞ」

 

「まあな。 今のところスカリエッティ、異編卿、それに魔乖咒師集団もこのミッドチルダで暗躍している。 まあ恐らくスカリエッティの戦闘機人は大した事なかったけど……それ以外の実力、技術力は化物レベルだ」

 

「蒼の羅刹が言うならマジだろうなっと」

 

資料室から出てきたリヴァンが両手に抱えきれない程の紙媒体をデスクにドンと置いた。

 

「よおリヴァン、依頼が終わったのか?」

 

「ああ。 公開意見陳述会が迫ってるから、ここ最近は管理局の各部署の雑務に追われてる。 ユエは今ベルカに、ツァリも無限書庫に行きっぱなしで、エナもミッド郊外の隅から隅まで爆走中だ」

 

「それはそれで楽しそうだな」

 

「違いねえ」

 

2人揃って冗談のようにハハハと笑うが……数秒でため息に変わった。 たまに六課のフォワード陣に手伝ってもらっているが……それでも対策課は管理局一人手不足だ。 アルバイトでもいいから募集しようかな……ミッドチルダなら中等部の子でも働けるし。

 

「シェルティスから連絡は?」

 

「今んとこ特にないな。 前に来たのは空は現状問題はないくらいとかで……やっぱり警戒すべきはここくらいだと」

 

リヴァンはその場で足踏みをした。 つまりここ……地上本部というわけだ。 レジアス中将が信頼できるとはいえ、その下につく他の管理局員の黒い噂は絶えない。 そして1番問題視しているのは最高評議会……150年前からその席は変わってなく、何を考えているのかまるで分からないでいる。

 

「ふう、問題は山積みか」

 

「そうだな……さて、俺はもう行くよ。 レジアス中将に用もあるし」

 

「行ってらっしゃーい」

 

ソエル達に見送られ、そのままエレベーターで上層階に向かい。 レジアス中将がいる部屋に向かうと……

 

「ーーうおっ……!?」

 

通路を曲がったら地上の管理局員が通路の左右にビッシリと列を作って整列していた。 これにはさすがにビックリした。 非常識にはビックリしないのに……と、そこでその往来を堂々と歩いているレジアス中将を発見した。

 

「レジアス中将!」

 

「む? レンヤか、何かあったのか?」

 

「いえ、定期的な報告に来たのですが……これは?」

 

「ふう、各地上部署を足で回っていたのだが……陳述会が1週間後なのか、景気付けのようにこうなった」

 

「そ、そうですか……」

 

少し鬱陶しそうに話すが……さすがはレジアス中将、人望が厚いと言う事だろう。 と、そこで左右の管理局員達がヒソヒソと話しているのに気付いた。 こっそり聞き耳をたてると……どうやら若造が中将に気安く近付いてんじゃねえよ的なアレらしい。 昔から中将はもちろん色んな人に優遇されていたようなもので、実績は出しているとはいえ恨み妬まれる事はたまにある。

 

「おいお前、いくらなんでも中将に不敬ではないのか?」

 

と、それを体現するように中将の背後に控えていた1人が一歩前に出て来た。

 

「やめないか。 彼は……」

 

「お言葉ですが、神崎二等陸佐は少々上司に馴れ馴れしいと思われます。 教団事件もお前達の手柄ではない、我ら管理局の手柄だ。 そこを履き違えるな」

 

そう言い切り、彼は背後に控えた。 レジアス中将は少しため息をつき、俺を隣に置いて移動した。

 

「すまないな。 彼は優秀なのだが……いかんせ融通がきかなくてな」

 

「いえ、どんな形であれ年上を敬うのは当然の事です。 自分が不躾でした。 それに教団事件解決は確かに俺達の手柄ではありません。 事実、当時1人でも欠けていたら解決は出来なかったでしょう」

 

「そうか……」

 

「それでは自分はこれで。 オーリス三佐、後ほど報告書を送ります」

 

「分かりました」

 

ここにいるとまた面倒になりそうなので……足を止め敬礼し、視線が背中に刺さる中来た道を引き返した。 逃げるようにエレベーターで降下し、壁に寄りかかってため息をついた。

 

「ふう……一応ここはホームなのにアウェー感が半端ないな」

 

《嫉妬というものでしょうか?》

 

「そうだな。 誰もが持っている感情……人はそれを内に抑えて生きている。 それがあるからこそ人は人であれるかもしれない」

 

《正と負、善と悪が両立して人であれると?》

 

「善がなければ争いか絶えず、悪人が跋扈し。 悪がなければ欲という概念がなくなり、人から感情が消え失せる。 正義も度が過ぎれば悪になり、悪人であるからこそ捌ける正義もある……結局、その人次第なんだろうな」

 

自分で言っておいてあれだが、実際は自分自身もよく分かっていない……まあ、人間が分かるというのは永遠になくていいだろう。

 

(そういえばあの子が言ってたな。 人間は美しい面もあれば醜い面もある事……愛情と憎しみのどちらか一方だけではなく、その二面を併せ持ち、その狭間で悩み、苦しみ、それでも前に進もうとする……)

 

そう考え、結局意味がわからないと降参気味に笑った。 その後六課に帰り、軽く書類の整理をし。 フォワード陣の様子を見ようと訓練場に向かった。 そこではフォワード陣に混じってシグナムとヴィータが軽い訓練をしていた。 まあ、とうに軽いという基準を超えているが……

 

「あ、レンヤさん!」

 

「サーシャ、皆仕上がって来ているな」

 

「はい。 明日にはデバイスの3つ目のリミッターも外れますし、公開陳述会までにはせめて使えこなせるようにします」

 

「その息だ」

 

すぐ側ではフォワード陣と混じってイットがエリオと訓練をしていた。 最初は険悪な出会いだったが……歳はイットが1つ下だが今では仲が良いようだ、2人ともいい顔をしている。 と、そこでシグナムとヴィータが訓練を終えて降りてきた。

 

「ふう……どうだレンヤ? ここは景気付けに私と本気の模擬戦をしてもらえないか?」

 

「……いいけど、景気付けはついでだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「まあいいんじゃねぇか。 敵は化物がうじゃうじゃいる。 フォワード陣の目を慣らすにはちょうどいいだろ」

 

目を慣らすって……ここ最近の奇想天外満載な怪異を目の当たりにしていまさら驚く事はないと思うが。 敵には人をやめてそうなのがいそうだし……

 

「分かった。 受けて立つ」

 

「そう来なくてはな……」

 

「あ、では僕が審判を務めてもいいですか?」

 

「いいぞ、間近で見て驚かないようにな」

 

「はい!」

 

そうと決まり。 ヴィータ達は隅により、俺とシグナムは訓練場の中心で相対した。

 

「ーー行くぞ」

 

「はい」

 

それを合図にデバイスを起動。 バリアジャケットを纏い、3本の短刀と長刀を構える。 同様にシグナムもレヴァンティンを起動し拳銃と剣を構える。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

互いに睨み合い、沈黙が続き……

 

《モーメントステップ》

 

「ーーしっ!」

 

ノーモーションで飛び出し、袈裟斬りを放った。 シグナムはすぐに反応、冷静に剣で防ぐ。 一瞬の鍔迫り合いの中、短刀から魔力を放出。 それを推進力にして押し込む。

 

「っ……!」

 

シグナムは刀を弾いて距離を取り、拳銃を構え。 燃え盛る魔力弾を撃ってきた。

 

「くっ……」

 

《シールドビット、アクティベート》

 

大量に迫る魔力弾を弾き、対処できないのはレゾナンスアークの操作によるシールドビットで防ぐ。

 

「ーー昇龍(しょうりゅう)……」

 

「っ!?」

 

穿牙(せんが)ッ!!」

 

背後から気配と同時にシュランゲフォルムによる蛇腹剣が高速で放たれた。 斬撃は迫ってくるが……あえて斬撃に向かって走り出す。

 

「え……!?」

 

「レンヤさん!?」

 

「ーーいや、あれでいいんだよ」

 

サーシャとキャロが俺の行動に驚き、ソーマが冷静に観察する。 そして斬撃が目の前まで迫り……直撃する前にモーメントステップで横に移動、コートの裾が切り裂かれる中ギリギリで避けた。

 

「はあああっ!!」

 

身体を捻り、四刀を揃えて斬りかかる。 刃が届く瞬間……シグナムはシュランゲフォルムのレヴァンティンの柄を手離し、鞘を手にして防いだ。

 

「はあっ!」

 

放たれた蹴りを躱し、地上に降り立ち。 続けて振り下ろされた蛇腹剣を避ける。

 

「まだ終わらんぞ!」

 

《蛍火》

 

振り下ろした蛇腹剣を剣に戻し、銃口をこちらに向け乱射。 大した威力はないが、あの魔力弾は爆発する……1発でも当たれば体勢が崩れ。 そこから一気に距離を詰められて剣でやられる。

 

「っ……!」

 

「そう来るか……!」

 

だが、俺は怯まず……銃弾と爆炎の嵐を自分が生きられる隙間を走り抜ける。 距離が縮まるに連れシグナムにも苦悶の表情が見えてくる。

 

鎌枸(かまからたち)っ!!」

 

回転で威力をあげ、3本の短刀を爪のように振り下ろした。 シグナムは拳銃と剣を交差させて防ぎ、衝撃で地面が割れる。

 

「ーーぜあ!」

 

シグナムは踏ん張りながら弾き、お互い距離を置いた。

 

「……腕を上げたな」

 

「シグナムこそ。 まさかレヴァンティンから手を離すとは思ってもみなかった」

 

「騎士の誇りたる剣を手放すなど……あまり褒められた行為ではないがな」

 

《今の行動がなければ命に関わるダメージを負うなら。 それもやむなし》

 

「そういう事。 柔軟な思考をしている証拠ですよ」

 

「そうか……」

 

そんな会話をしながらもシグナムは高度を下げて地上に降り立った。

 

「さて、今までは武器と技だけの勝負だった。 次からはーー」

 

《エクスプロージョン》

 

「全力で行くぞッ!」

 

「望むところ!」

 

《オールギア……ドライブ》

 

お互いに魔力を上げ、放つのは全力の技。 無納刀で居合の構えを取り、刀身に青い魔力を纏い。 シグナムは八双の構えを取り、刀身に赤い魔力が纏われ……

 

「陽光ーー」

 

「月光ーー」

 

「ストーーープッ!!」

 

刀を振り抜こうとした時……自分とシグナムにバインドがかけられて拘束された。 色は桜、という事は……

 

「2人ともやり過ぎだよ! シュミレーターも壊れそうだよ!」

 

上空から憤慨気味のなのはが降りてきた。 改めて周りを見てみると……ちょっと森が焼け野原気味の更地になっていた。

 

「一体これで何度目だと思ってるの……! 2人の軽い模擬戦は被害が酷いから気が気じゃないんだから……!」

 

「あら〜……やり過ぎたな〜」

 

「ふむ、緊迫して周りの事など考えてもいなかった」

 

「ーー黙りなさい」

 

『はい』

 

なのはの前に直立不動でシグナムと一緒に並んだ。 ガミガミと叱られる中、側ではフォワード陣にアリサが先ほどの模擬戦の解説していた。

 

公開意見陳述会まで残り1週間。 機動六課は特に緊張もしてなく通常運転だ。


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