魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

166 / 198
166話

 

 

同日ーー

 

保護採取を終え、管理局施設に戻ると……先にフェイトとキャロが到着していた。

 

「フェイト、先に戻っていたのか」

 

「うん、島をぐるっと回って。 一通り見てきたよ。 はい、資源調査をまとめておいたから」

 

フェイトはメイフォンを操作、資料を送り。 調査報告書を受け取った。 軽く目を通し……

 

「…………こっちと差分のない結果だな。 密猟者に盗られた形跡もないし……これなら他の場所でも保護採取はできそうだ」

 

「そう……よかった」

 

「でもそうなると、密猟者は何が目的でオルディナ火山島に侵入したのでしょう?」

 

「結晶の採掘が目的でないとすれば……この島で他に目的があるのでしょうか?」

 

「う〜ん……」

 

エリオ達は頭をひねって考え込む。 と、丁度そこに自身の捜査を終えたギンガが戻って来た。

 

「あ、レンヤさん達。 戻って来てたんですね」

 

「丁度良かった。 ギンガ、差し支えなければ得られた密猟者の情報をもらえないか?」

 

「? ええ、構いませんよ」

 

ギンガは少し疑問に思いながらも捜査結果を話してくれた。

 

「どうやら報告にあった密猟者は火山を中心にして活動しているようです。 付近で街の人が怪しい人影を見たとも報告を受けてます」

 

「火山で? 火山では結晶は育たないはず……他に金目のものがあるの?」

 

「いえ、特出してそのようなものは何も……せいぜい竜がいるくらいです」

 

「竜……先ほどレンヤさんが話してましたよね、あの火山の火口に竜が住むって」

 

「ああ、聞いた話ではな」

 

「あのフェイトさん、あの動物達についても話した方が……」

 

「あ、そうだね。 実はーー」

 

フェイトは先ほどの調査で動物達の変化を話してくれた。

 

「動物が怯えたり暴れていたりしていたのか……確かに気になるな」

 

「うん。 なんだか何かを感じ取っているみたいで」

 

「動物が騒ぐ……災害の前兆か?」

 

地球にいた頃、地震の前には動物達が機敏に何かに反応するとアリサとすずかから聞いた事がある。 もしかして……

 

ズウウウンッ!!!

 

そう考えた時、突如建物全体が大きく揺れ出した。

 

「な、なになに!?」

 

「地震……いや……!」

 

「外だ……確かめるぞ!」

 

俺達は急いで施設を出て、辺りを見回すと……

 

「な……!?」

 

「あれは……!」

 

港にある造船所の上に、ツノが顔と同じ方向を向いて三叉槍のような……さらに頭上に燃え盛る火球を乗せているのが特徴な長大な竜が鎮座していた。 突然起こった事に、人々は混乱しながらも竜から逃げている。

 

グギャアアアッ!!!

 

「うわっ!?」

 

「な、何あれ!?」

 

「なんて大きさ……!」

 

「これは……竜!?」

 

「はい、おそらくは火山に住む竜です!」

 

ルーテシア、ギンガ、ソーマ、エリオは目の前の竜に驚愕を見せるが。 さすがは竜を使役しているだけあって、キャロは冷静だ。

 

「まさか……これは報告された密猟者が!?」

 

「……まあ、否定はしない」

 

ギンガの問いに答えるように、造船所の上から誰が答えた。 次いで現れたのは……銀髪の男性だった。

 

「……!」

 

「あなたは……!」

 

「あなたは誰、そこで何をしているの!」

 

フェイトはバルディッシュを起動し、魔力球を展開しながら男性に向かって質問した。

 

「……異篇卿第一位、白銀のアルマデス。 俺はそういう者だ」

 

淡々とフェイトの魔力弾による威圧も気にせず男性……アルマデスは質問に答えた。

 

「白銀……アルマデス?」

 

「異篇卿……空白(イグニド)の仲間か!」

 

「空白!? それって前にお母さんが言っていたあの……!?」

 

「それを抜きにしても……あの人、かなり強いです……!」

 

エリオ達はアルマデスから滲み出る闘気を感じ取り、冷や汗をかいている。 俺はエリオ達の前に出て壁となり、アルマデスを見上げる。

 

「アルマデスといったな。 そんな大層なものを連れてなんのつもりだ? 異篇卿は何を企んでいる!?」

 

「さてな……む!」

 

アルマデスに質問を投げかけるが、彼はわざとらしく肩をすくめた時……勝手に竜が街に向かって火球を放った。 この行動はアルマデスにも予測出来なかった事から、どうやら竜は操られているだけのようだ。

 

「ああっ!?」

 

「街を焼き払う気つもり……!?」

 

「……やれやれ。 手間をかけさせてくれる」

 

アルマデスは一回の跳躍で竜の額に飛び乗り竜を操る。 竜はこちらに背を向け、身を縮めた。

 

「ま、待ちなさい!」

 

「……この件に首を突っ込むのはあまりおすすめしない。 身の安全を考えるなら無用な手を出さぬ事だな」

 

それだけを言い残し、竜は強烈な風を起こしながら飛翔。 火山に向かって飛んで行った。

 

「きゃあっ!!」

 

「待て!」

 

「すぐに追いかけないと!」

 

「ーーダメだ、街の被害状況を確認が先だ」

 

「でも……!」

 

「役割分担をする。 追跡班と救助班にわける、それでいいな?」

 

エリオとキャロ、ルーテシアはすぐに走り出そうとするが、肩に手を置いて止め。 軽く説得し……理解してくれ、エリオ達は黙って頷いた。

 

「ギンガ、キャロ、2人が竜を追跡してくれ。 くれぐれも手は出すなよ」

 

「レンヤ!?」

 

「は、はい!」

 

「了解しました!」

 

敬礼し、2人は火山に向かって走り出した。 俺達も救助に向かおうと造船所に行こうとしら……フェイトがキャロを向かわせた事を納得いかないように道を塞いだ。

 

「レンヤ! どうして2人を……!」

 

「ギンガは数日前からここにいるから地理は分かってるはずだ。 そして、この状況ならキャロが何らかの情報を手に入れられる」

 

「それは……」

 

「エリオもそうだが、キャロも成長している。 信じてくれ、俺とキャロを」

 

脇を通りながら頭を軽く叩きながら撫で、造船所に向かい。 フェイトもしぶりながら後に続いた。

 

「レンヤさん! 造船所内で瓦礫の下敷きになった人や逃げ遅れた人が多数います!」

 

「分かった、すぐに行く!」

 

造船所に入ると、中は大混乱だった。 機材は地面に散らばり、ここの関係者が瓦礫や鉄骨が通路を塞いで脱出出来ずにいた。

 

「ーーフェイト。 ソーマと一緒に逃げ遅れた人を避難誘導してくれ!」

 

「了解!」

 

「分かりました!」

 

2人は動ける関係者の元に向かい、避難誘導を始めた。

 

「エリオ、ルーテシア。 俺達は瓦礫の撤去を手伝うぞ!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

辺りを見回し、瓦礫の前で止まっている3人を見つけ、駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!」

 

「誰か下にいるの!?」

 

「は、はい……息子が……私をかばって瓦礫の下敷きに……!」

 

「分かりました。 このくらいなら1人でも……!」

 

瓦礫の側に寄り、両手でしっかり掴んで……

 

「フッ!!」

 

一呼吸で持ち上げた。 瓦礫の下には男性が倒れていた。 どうやら衝撃で身体を打っただけで、外傷は軽く意識もあった。

 

「エリオ、運ぶのを手伝って!」

 

「うん!」

 

その後、エリオとルーテシアが男性を運び出し、この島唯一の病院に運び込まれた。 事態の収拾に辺り、怪我人は多いものの死人はいない……不幸中の幸いといった結果となった。

 

そして、事態がある程度落ち着いた後。 その場を現地の管理局員に任せ、俺達はギンガとキャロを追ってオルディナ火山に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、暑いわね」

 

ギンガとキャロはアルマデスと竜を追跡し、この島の火山に向かっていた。 火山に近付くにつれ当然気温は上がり。 ギンガは額の汗を拭い、上着を脱いでネクタイを緩め、少しでも涼もうとする。

 

「だいぶ火山に近付いて来ましたから。 どうやら竜は火口付近に降りたようです」

 

「……キャロちゃん、もしかして暑いの平気?」

 

「うーん、フリードの攻撃は炎を使いますから。 自然と暑さに慣れちゃいましたね」

 

「キュクル」

 

汗一つない表情でキャロとフリードは頷いた。 ギンガは少し羨ましく思いながらも山を登り始め……その中腹で洞窟を発見した。

 

「ここは……」

 

「こんなところに洞窟なんてあったっけ?」

 

「キュクルー!」

 

「あ、フリード!」

 

突然、フリードがキャロの肩から飛び出し、元の姿に戻って洞窟に入って行った。 2人は慌てて追いかけ、洞窟の内部に入り込むと……

 

「ーーうあっつ!?」

 

その先は溶岩が流れている空洞だった。 2人の足場から溶岩までの距離は離れているが、発せられる熱気は凄まじいものだ。 2人は危険を感じ、念のためバリアジャケットを纏った。

 

「さて、フリードはどこに……」

 

「キュクル!」

 

「あ、フリード! そこにいた!」

 

空洞の中央、天井が吹き抜けになっている地点にフリードがいた。 そこに向かうと窪みがあり……

 

「スピー……スピー……」

 

「竜の……赤ちゃん?」

 

竜の赤ん坊がその場で蹲ってスヤスヤと寝ていた。 一見するとあの街を襲った竜とは別種の竜に見えるが、その頭の上に乗っている球体が類似していた。

 

「あの竜の子かな? ………似てないけど」

 

「おそらく成長過程で身体の長大化や角の発達、翼の退化などが行われると思います。 それにほら、燃えてないだけでこの頭の球体がそっくりですよ」

 

「あ、ホントだ。 コブみたい」

 

「キュクルー」

 

キャロが頭の球体を指差し、ギンガは納得する。 それにフリードも同意するように鳴くと……竜の赤ん坊が目を覚ました。 赤ん坊は真ん丸い可愛らしい目でギンガとキャロとフリードを見つめる。

 

「…………………………」

 

「お、おはようございま〜す……」

 

伝わるか分からないが、ギンガが挨拶すると……

 

「ギャア! ギャア! ギャア!」

 

赤ん坊は目をウルウルさせ、口から炎を出しながら泣き叫び始めた。

 

「ああ、泣いちゃった……どうしよう?」

 

「私に任せてください」

 

キャロは迷う事なく果敢に赤ん坊に近付き……人間の赤ん坊を抱くように抱えた。

 

「大丈夫、大丈夫だから。 私達はあなたのお母さんを助けに来ただけだから」

 

「え!? あれメスなの!?」

 

ギンガはあの竜がメスだった事に驚くが、キャロは関係なくあやすように腕を揺らした。

 

「キュキュイ♪ キュキュイ♪」

 

「ふふ、良かった」

 

「キュクル〜」

 

すると赤ん坊は泣き止み、機嫌を良くして嬉しそうに鳴いた。 フリードも同様にキャロの頭上を飛びながら鳴いた。

 

「へえ〜、さすが竜召喚士。 手慣れているわね」

 

「昔のフリードもこんな感じでしたから。 それにしても、この子がここにいると言う事は……おそらくここが竜の巣でしょう。 でもお母さんがアルマデスに操られて……許してはおけません」

 

「そうだね。 よし、まずはこの吹き抜けを抜けるとして……その子はどうする?」

 

「キュ?」

 

キャロの腕から離れ、自身の翼を羽ばたかせて飛ぶ竜は首を傾げた。

 

「ごめんね、私達が絶対にあなたのお母さんを連れて帰るから。 ここで待っててね」

 

「キュクル、キュクー」

 

「キュキュ、キュイー♪」

 

キャロと共にフリードも事情を話し、竜の赤ん坊はほとんど理解していないと思うが頷いてくれた。

 

「じゃあ行くよ……ウィングロード!」

 

リボルバーナックルを地面に叩きつけ、螺旋状にウィングロードを吹き抜けに通した。 そして2人はウィングロードを駆け上る。

 

「いい子だから大人しくしてねー!」

 

「すぐにお母さんを助け出すから!」

 

竜の赤ん坊にそう言い残し、2人は吹き抜けを上り……吹き抜けを抜けるとそこは火口内にある平坦な場所、頂上付近に出た。

 

「頂上まであと少しだね」

 

「はい、何としてもあの子のお母さんを取り戻さないと……!」

 

グギャアアアッ!!

 

その時、別の場所から竜の咆哮が聞こえてきた。 2人は急いでその場所に向かうと……

 

(あ、あれは……!)

 

火口付近の開けた場所には……竜と対立するアルマデスがいた。

 

「………………………」

 

アルマデスは無言で懐から黒い物体を取り出すと……その物体から黒い波動が放たれた。 次の瞬間、竜は唸り声をあげながらとぐろを巻き、大人しくなった。

 

「よし……それでいい」

 

アルマデスは竜が命令を聞いた事を確認し、肩をすくめる。

 

「ふむ、データを取るにはまだかかるか。 面倒だが、もう少し付き合うとするか」

 

(!!)

 

(! ギンガさん!?)

 

その言葉に、ギンガの冠に触れ。 ギンガは怒りに任せて岩陰から出て、アルマデスの前に歩いていく。

 

「……何が面倒ですって……?」

 

「! お前は……」

 

「街を襲っておいて、面倒とは随分な言い草じゃないの?」

 

「陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマ陸曹か」

 

「……なかなかの情報収集力ね、感心するわ」

 

相手がどのような組織か探りながら呆れ半分でそう言い。 あまり有益な情報が出てこないとわかると次いで表情を切り替えた。

 

「さて、今すぐ投降するか、ボコボコにされて逮捕されるか……選ばせてあげるわよ?」

 

「ふ、どうらも捨てがたい提案だ。 だが、後者を選ばせてもらおう」

 

「それは……なかなか気が合うわね!」

 

《セットアップ》

 

ギンガはブリッツキャリバーを起動、バリアジャケットを纏い。 左手に装着されたリボルバーナックルをアルマデスに突き付けた。

 

「威勢のいいことだ。 だが、この程度の事件、差ほど大きくはないだろう。 11年前……お前が見た光景に較べればな」

 

「ーーー!」

 

「管理局の最重要人物の経歴は一通り調べさせてもらった。 お前の経歴は簡単に洗い出せた。 そうだろ、タイプゼロ・ファースト?」

 

「…………………………」

 

ギンガは一瞬アルマデスの言葉に呆然とし……少しずつ反応していき、次第に怒りと共に拳を強く握り締め出した。

 

「……ふざけんじゃ……ふざけんじゃ、ないわよ……!」

 

そして、怒りのあまり魔力が漏れ出し……

 

「何も知らない奴が、知ったような口を利くなああっ!」

 

地面を砕くほど踏みつけ、一瞬でアルマデスに接近、リボルバーナックルを振り下ろす。 アルマデスはどこ吹く風のように避け、怒涛の連続で攻撃を繰り出すギンガの蹴りや拳を避け……顔面に迫った拳を展開した大剣で弾いた。 そして幾度となくリボルバーナックルやローラブーツと大剣がぶつかり火花を散らし、アルマデスはギンガの渾身の拳を大剣の刃で受け止め鍔迫り合いになる。

 

「……腕は確かのようだが……冷静に欠いてる、万に勝ち目はないぞ。 加えて竜の脅威もあるだろう。 そこの竜召喚士の力も借りない……なのに何故、あえて1人で挑む?」

 

「そんなの関係ないわよ……あなたは気にくわない……ただ、それだけなのよっ!」

 

「やれやれ……その程度か。 これでは竜を使うまでもない」

 

「なに……!?」

 

アルマデスは軽い人踏みで一瞬で後退、そしてすぐに接近し……高速で大剣を振るい、わざと防御の上を狙ってギンガを弾き飛ばした。

 

「くうっ……」

 

「ーーそれでお前の力が限界ではないのは分かってる」

 

「な、なんですって……?」

 

「俺が剣を振るうのは理に至るため……しかしお前は、己の力から逃れるために振るっている」

 

「…………………………」

 

ギンガにそのような自覚はないが、こうして面と言われ……反論の言葉が出なかった。

 

「己の力、存在を畏れている。 それを母から得た別の力を振るうことで己の本質から目を背ける……その武術さえあれば、己の力を使う必要がないと思っているからだ。 しかし、どのような力であれ使いこなさなければ意味はない、ただ空しいだけだ。 そして……在るものを否定するのもまた“欺瞞”でしかない」

 

「……………やめなさい……………」

 

「立ち上がることもできず……己の存在を畏怖したまま朽ち。 考えるのを放棄し、常に自覚のない迷路を彷徨い続ける……人ですらない」

 

「うるさああああいッ!!!」

 

それ以上聞きたくない、認めたくない……ギンガは自暴自棄になり叫んだ。

 

「はあああああっ!」

 

怒りが混じった、裂帛の気合いと共にローラが火花を散らしながら回転、アルマデスとの間合いを一気に詰め膝蹴りを繰り出す。 それをアルマデスは大剣の腹で受け流し、続いて放たれた蹴りを跳躍して避ける。 ギンガはそれを追撃、移動しながら一瞬で前転、踵落としを繰り出すも……アルマデスはほんの少し横に移動、紙一重で避け距離を置いた。

 

「この……」

 

「無様だな……せめてもの情けだ。 そろそろ幕を下ろそう」

 

アルマデスは大剣を構え、気迫と魔力を貯め始める。 ギンガはその気迫と魔力に気圧され後退する。

 

「はあああああああっ……」

 

「くっ……」

 

「ーーはっ!」

 

ギンガは防御の魔法と体勢を整えたが……神速の一閃が身体中を駆け抜け。 リボルバーナックルとローラブーツが破壊され、ギンガは膝をついた。

 

「……かはっ……!?」

 

「………………………」

 

決着はつき……アルマデスはうずくまるギンガの背中を一瞥し、竜の方に向き直った。

 

「さて……ちょうど時間のようだな。 今のうちに“コレ”の制御式を調整しておくか……」

 

「……ま、待ちなさい……」

 

アルマデスは懐に手を入れようとした時、背後から地面が殴られる音と共に呼び声が聞こえてきた。

 

「ま……まだ……まだ終わってないわよ……」

 

「この期に及んでまだ力を見せないか……いいだろう」

 

大剣を握る力を入れ直し、アルマデスはギンガに向かって歩みを進める。

 

「至らぬ身のまま果てるがいい」

 

大剣を真上に掲げ、振り下ろそうとした時……

 

「だめーっ!!」

 

キャロが甲高い声を出し、2人の間に割って入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はアルマデスを追い、火山を登っていた。 その途中、キャロからの念話で位置を教えてもらったが……キャロの声がかなり切羽詰まっていたようで。 急いで聞いた地点に向かうと……そこではボロボロなギンガと余裕があるアルマデスが戦っていた。

 

「あれは……!」

 

「な、なんでギンガさんが戦って……」

 

「だめーっ!!」

 

「! キャロ!?」

 

キャロの悲鳴とも取れる声が別方向から聞こえ、倒れているギンガの前に出てきた。

 

「ギンガ、キャロ!!」

 

「……留めろ」

 

俺達もすぐに向かおうとすると……竜が動き出し、火球が放たれ行く道を塞がれ。 続いて威嚇されてキャロ達の元に近付けなかった。

 

「フェイトさん!」

 

「くっ、マズイですね……」

 

「キャロ!」

 

「な、なにしてるの……私の事はいいから……早く逃げなさい……!

 

ギンガは残りの力で顔を上げ、アルマデスは様子見で一歩前に出た。

 

「こっ……こないでくださいっ! でないと、こ……攻撃します!」

 

「キュクル!」

 

キャロはアルマデスの威圧に相対し、怯えながらも威嚇としてケリュケイオンを突き付ける。

 

「アルザス出身のキャロ・ル・ルシエか……内気と聞いていたがいささか無鉄砲が過ぎるな……大人しくそこをどくがいい」

 

アルマデスは大剣をキャロの眼前に突き付ける。

 

「ど、どきませんっ! 私はーー」

 

バン!

 

アルマデスは大剣の腹でケリュケイオンとフリードを弾いた。 その衝撃でキャロは倒れ、帽子も取れてしまう。

 

「キャロ、フリード!!」

 

「女子供とて関係ない。 必要とあらば……斬る」

 

「や、やめなさいっ……!」

 

「お前もだ。 いい加減……」

 

アルマデスがそう言いかけた時、横からギンガを遮るように手が出てきた。 その正体はキャロで、両手を目一杯広げアルマデスの前に立ち塞がった。

 

「……そこをどけと言っている」

 

「ど……どきません」

 

「………キャロ………」

 

「私は……弱いです。 でも、そんな私でも意地くらいあります。 あなたが何と言おうと……ギンガさんはギンガさんです。 出会って間もないですが……ギンガさんはスバルさんのお姉さんなんです。 それだけでギンガ・ナカジマという女性が優しい人だって分かります! 意味はよく分かりませんが……あなたの言うような人じゃないです!!」

 

キャロはよく知らなくてもギンガの長所を精一杯口にし、両手を広げ続けながらゆっくりと立ち上がり……

 

「だから……私……絶対にどきません!!」

 

アルマデスの顔を見ながら、自分の意思をはっきりと叫んだ。 その行動に、アルマデスは目を細め……フッと目を閉じた。

 

「……健気なことだ。 邪魔も入ったようだし、今日はこれで退いてやろう」

 

「え……」

 

「キャロから離れろー!!」

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガリュー!!」

 

とうとう痺れを切らしたルーテシアがガントレットを起動。 すぐさまガリューを投擲、巨大化したガリューが竜を抑える。

 

「フッ……ようやく出てきたか。 これで最後の実験を始めることが出来そうだ」

 

大剣を収め、竜はその場で高速で回転。 ガリューを弾き飛ばし、すぐにアルマデスは一回の跳躍で竜の額に飛び乗った。

 

「あっ……」

 

「ま、待ちなさい……ッ!」

 

「忘れるな。 ギンガ・ナカジマ。 欺瞞を抱えている限りお前は何者にもなれない。 大切なものを守ることもな」

 

「……………ッ……………」

 

「待てっ!! 白銀!!」

 

「神崎 蓮也。 お前はお前で心しておけ」

 

「なに……」

 

「今回の実験が終われば計画は次の段階に移行する。 気を引きしなければ必ず後悔する事になるぞ」

 

アルマデスは意味深な事を言い残すと黒い装置を取り出し、それで竜を操作して火口から飛び立った。

 

「行くぞ、隕竜メランジェ」

 

「待ちなさい! ガリュー!!」

 

「ルーテシア! 深追いはしないで!」

 

「あのキャロがあんな事を豪語出来るようになった……だったら、私も負けてられないわよ!!」

 

ルーテシアはガリューの肩に乗り、竜……メランジェとアルマデスを追って火口から飛び出した。 頂上に出てルーテシアはガリューから降り、竜を見据える。

 

「竜も白銀も……両方痛い目を見てもらうわよ! キャロの思いに……答える為にも!!」

 

(!)

 

ルーテシアがそう叫んだ瞬間、ガリューが一瞬震えると。 ガリューから紫色の魔力が溢れ出し、ガリューを覆い始めた。

 

「うわっ!?」

 

「ガリューが!」

 

「な、何が起こってるの……敵の攻撃!?」

 

「いや、あれは……」

 

突然の事に困惑しながらも経緯を見守る。 数秒してガリューを覆う黒い球体が揺らぎ出し、闇が弾けると……そこにはガリューがいた。 だがその姿は大きく変化しており、大きさは変わっていないが全体的にスマートになっている。 腕や脚、胸などに軽装だが鎧と見て取れる物が装着されており。 トレードマークのマフラーが風に吹かれながら竜を見据えて立たず舞う様は一見して侍とも見て取れる。

 

「これは……」

 

「ガリューの姿が……変わった?」

 

「まさか……進化したのか……」

 

以前、ソエルから聞いたことがある。 このシステムを使用使い魔がある一定以上の経験を積むと外見が変化する現象……進化が起こると。 そしてその現象は使い魔の全てのポテンシャルを飛躍的に上昇させるとも……

 

「ダークオン……ヴォイド・ガリュー……」

 

唐突にルーテシアが進化したガリューを見ながらそう呟いた。 だがルーテシアはそんな場合ではないと頰を叩き、驚きつつも竜の方へ視線を向けた。

 

「ガリュー! 構えなさい!」

 

(コクン)

 

「そ、そこから攻撃するの!?

 

「当たるわよ! ダークオンの遠距離攻撃を舐めない事ね!」

 

意気揚々にガントレットを操作するが……何も起こらず。 ルーテシアは慌てふためきながらガントレットをいじくりまわす。

 

「……あれ? あれ、あれあれ? バトルギアが、作動しない……」

 

「…………ああ! メガブラスターが進化したガリューに対応してないんだ」

 

「え、マジ……? だったら……!」

 

《Ability Card、Set》

 

「ガリュー! 進化した力を見せてやりなさい! アビリティー発動! ナイトカーテン!!」

 

手をポンと叩いて推測を言うと……ルーテシアはバトルギアが使えないとわかるとすぐさま別の手を取り。 首に巻いてあるマフラーが闇色に光り、独りでに動き出してガリューが腕を振るうと高速で竜に向かって飛来した。

 

「グオオオオ……」

 

「しつこい奴め……」

 

マフラーはメランジェの尾に絡みつき、距離にして3km……2体の巨大な生物がマフラーで綱引き状態になった。

 

「ガリュー! ルーテシア! そのままの状態を維持しろ!」

 

(コクン)

 

「了解!」

 

一瞬でルーテシアの元に、次いでガリューの腕に移動。 マフラーを橋にして一気にアルマデスの元まで接近する。

 

「アルマデス!」

 

「っ……速いな。 さすがは蒼の羅刹だ」

 

あの距離を数秒で移動した事を賞賛しながら大剣で横一閃に振るわれた刀を防ぐ。

 

『レンヤさん!』

 

「ああ!」

 

『フュージョンアビリティー発動! スピリットブレイク!』

 

ルーテシアの合図ですぐに離脱。 ガリューは伸ばされた状態のマフラーが光沢を放ち、変幻自在の刃がメランジェを斬りつけた。 メランジェは痛みの咆哮を上げ、巨大な火球をガリューに向かって放った。

 

「アビリティー発動! ディスペルクロウザー!」

 

左手で火球を受け止め、吸収。 吸収したエネルギーを自身の魔力に変換して右手から紫色の魔力弾として打ち返した。

 

魔力弾はメランジェに直撃、その間に俺は不安定となった竜の足場に飛び乗り。 アルマデスに向かって刀を振り下ろし……そのまま鍔迫り合いになった。 大剣と刀の接触している部分から火花が散り、互いに竜の上で睨み合う。

 

「答えろ! お前達は何が目的だ!」

 

「その問いに答えるつもりはない。 だが、あえて言うなら……ーー鏡界計画(きょうかいけいかく)

 

「!」

 

一呼吸置き、アルマデスが紡がれた言葉に俺は目を見開いた。

 

「覚えておくことだ。 例えお前達でもどうしようもならない現実があることに」

 

その隙にアルマデスは力を緩め身を翻し……自身から海に向かって落ちた。 その行動に転移と予測した次の瞬間、メランジェが赤く光り出し……一瞬で凝縮され。 赤い球となってアルマデスの手の中に収まった。 そしてアルマデスの足元に見たことのない陣が展開され……アルマデスは転移した。

 

(魔力が……感じられなかった……!)

 

あの転移には魔力反応が無かった。 その事が気になりながらも回収されるマフラーを掴んで皆の元に戻った。 その後、負傷しているギンガを連れて吹き抜けを経由して火山の麓に向かった。

 

「済まない、逃してしまった」

 

「ううん、気にしないで。 出し抜かれたけど……怪我がなくて良かったよ」

 

「ですか、それと同時に敵対勢力の全貌も少し見えてきました。 あれほどの戦闘能力を持つ人間が何人もいそうですね」

 

「はい。 ですが……」

 

エリオは視線を後ろに向けた。 そこにはあのメランジェの子どもの竜が泣きわめいていており、キャロが必死に謝りながら宥めていた。 どうやら母親が消えたことに気付き、飛んできたようだ。

 

「ギャア! ギャア!ギャア!」

 

「ごめん……ごめんなさい……あなたのお母さん……取り戻せなかった。 何も……出来なかった……!」

 

「キャロ……」

 

キャロは竜の子どもの謝罪と自分の不甲斐なさの両方の意味で、炎がかかるのも気にならずに竜の子どもを抱きしめた。 エリオもそれを黙って見ることしか出来なかった。

 

「あの子……母親を奪われたんだよね……この後どうなるんだろう……?」

 

「人工保育としたいところだが……自然保護隊でそれができるのは……」

 

「ーー私がやります」

 

竜の子どもを抱えたまま、キャロが名乗りを上げた。

 

「私が、お母さんを取り戻すまでの間、この子を育てます!」

 

「キャロ……あなたはそれでいいの?」

 

「はい。 罪滅ぼしだと思われてしまいますが……これは私がしなければならない、私自身の意志だと思います」

 

「キュイ!」

 

いつの間にか泣き止んでいた竜の子どもが、キャロの目尻についた僅かな涙を舐めた。 伝わったかどうかはわからないが、キャロの表情が少し和らいだ。

 

「! ありがとう……」

 

「そういえば、この子の名前はどうする?」

 

「キュ?」

 

「名前……そうですね……女の子みたいですし……ルーチェなんてどうでしょうか?」

 

「へぇ、いいんじゃないかな?」

 

「キュイー!」

 

「あ、気に入ったようね」

 

(コクン)

 

「キュクルー!」

 

「ガリューもフリードも喜んでいるね」

 

フォワード陣が竜の子ども……ルーチェを囲みながら

 

「ふう……機動六課はいつから保護施設になったんだ?」

 

「あはは、そうですね……」

 

「笑い事じゃないっての」

 

「アイタ……」

 

応急処置を受けながら軽口を叩いてるギンガの額を指で弾いた。

 

「大体の事情はブリッツキャリバーの戦闘ログで分かっている。 けど、あんまり無茶はしないでね」

 

「そうですよ」

 

「ソーマ……」

 

「ギンガさん事情はスバルから聞いてます。 感情的になるのは理解できますが……」

 

ソーマは膝をついて、横になっているギンガの手を取った。

 

「今のギンガさんは迷っています。 でもそれでいいんです。 迷ってこそ人は人であれるんです。 だからギンガさん、今は自分を見つめ直してください。 歩みを止めないためにも……」

 

「………………………」

 

手を握る力が込めるのを感じながら、ソーマの言葉にギンガは黙って聞いた。

 

「さて、イレギュラーはあったが一応は任務完了だ。 六課に帰投するぞ」

 

「は、はい!」

 

「だが……」

 

振り返り、俺はキャロの額を指差し……

 

「時に任務には裏がある。 その裏まで完遂しなければ任務は終わらない……キャロ、お前の任務はここで終わりか?」

 

「いえ! 必ず取り戻してみせます……ルーチェのお母さんも、ククちゃんも!」

 

「結構」

 

キャロは出された質問に迷わず強く頷きながら返答した。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。