7月16日ーー
日が昇り始めた朝早く、フォワード陣がなのはとアリサの指導の元、早朝訓練をする中……
「えい! やあ!」
「もっと脇を締めて。 力を入れ過ぎず、脱力して振るように」
「は、はい!」
訓練場が見えるすぐ側でイットの剣を指導していた。 イットはスカリエッティの所為でユン老師の剣……八葉一刀流を頭に転写されている。 だがそれだけでは何の意味もない……剣は心を持ってこそ意味を持つ。
それにイットの身体付きは年相応の武術をしていない身体……動きはイメージ出来るが身体がついて行かず、基礎もままならない状況だ。 だからこうして毎日基礎をしっかりと固めている。
「……よし。 今日はここまでだ」
「はあ、はあ、はあ……」
終了を言うと、イットは木刀を地面刺して杖にし、膝をついて息を荒げた。 やっぱり体力ないな。 まあ当然か、ヴィヴィオも数日は誰かと手を繋いで、それを支えにして歩いていたし。
「パパーー!」
と、その時、隊舎の方からフェイトとヴィヴィオが手を繋ぎながら歩いてきた。 ヴィヴィオはフェイトの手から離れて駆け出すと、お馴染みのタックルしながら抱きついてきた。
「おっと……ヴィヴィオ、おはよう」
「うん! おはようパパ! おはようお兄ちゃん!」
「う、うん。 おはよう、ヴィヴィオ……」
どういうわけか、あの日以降ヴィヴィオはイットの事を兄と呼ぶようになった。 理由を聞くと何となくらしく、姉さんも呼ばせたかったようだが……伝家の宝刀“ゼッタイにイヤ”でいつも通り撃沈された。
「フェイト、ヴィヴィオを散歩に連れ出していたのか?」
「うん。 気分転換にね」
「そうか。 この後、フェザーズとライトニングは任務だよな。 あっちはどうだった?」
「前に行った実習と変わってないよ。 船長さんとも話はついているし、到着した次第すぐに出航できるって」
「そうか……」
それを聞いて少し考え込むと……イットから離れたヴィヴィオが手を引いてきた。
「パパ! 朝ごはん、行こ!」
「ん? ああ、今いくよ」
「イットもシャワーを浴びておいで。 一緒に朝食を食べよう?」
「は、はい」
イットは差し出されたフェイトの手を戸惑いながらも取り、俺達は仲良く隊舎に向かった。
朝食を済ませた後、フェザーズとライトニングのメンバーは列車でミッドチルダ南部に向かっていた。 窓の外に流れる景色を眺めながら先日の事を思い出した。 この前オーリスさんが六課に臨時査察が来たのだ。 だが、特に何事もなく終わった。 帰り際、たまには地上本部に顔を出すようにと催促されたが……そこは苦笑いしながら頷いた。
「ーーそういえば……前から思ってたんですけど。 ヴィヴィオっていつも何しているんですか?」
「あ、それ私も気になる」
唐突に、キャロが日頃ヴィヴィオが普段なにをしているのか聞いてきた。
「日曜学校に行く時以外は基本部屋でお留守番だな。 寮母のアイナさんとすずかのメイドのファリンさんが面倒を見てくれて、ザフィーラも一緒にいてくれている。 ま、今のザフィーラの仕事はイットの監視がメインだけど」
「そう、ですか……」
エリオは心配なのか、それとも別の感情が渦巻いているのか……襲われた身としては複雑な心境なんだろう。
そしてフェイトはエリオ達に、後の事態……を予言関連をボカした上で地上本部が襲撃される可能性を語った。
「ーーテロ行為って……地上本部にですか?」
「まあ、そういう可能性があるっ……て程度だけどね」
「でも、確かに。 管理局施設の魔法防御は鉄壁ですけど、ガジェットを使えば……」
「そう。 管理局法では、質量兵器保有は禁止だからね……対処しづらい」
「質量兵器?」
質量兵器の意味がわからないのか、キャロは首を傾げた。
「簡単に言えば、魔力を使わない武器の事だ。 分かりやすい例はイットの持つ太刀が質量兵器に当たる。 まあ、今の説明のままだと本来イットの持つ太刀は押収されるはずなんだけど……そこはほら、裏技でちょちょいと」
「そ、それっていいんですか?」
「別にイットが太刀を無闇矢鱈に振り回すような子じゃないのは知ってるからな」
「コホン。 話は戻して……」
咳払いで話を戻し、フェイトは過去に起きた戦争の話を交えながら質量兵器の恐ろしさを伝えた。
「管理局は創設以来、平和の為、安全の為にそういう武装を根絶して、ロストロギアの使用も規制し始めた。 それが150年くらい前」
「だが、色んな意味で武力は必要だ。 当時の管理局はどうしたと思う?」
唐突に質問のようにソーマ達に問いかけると……顎に手を当てたり、首を傾けたりしながら考え始めた。
「う〜ん……」
「ーーあ……比較的クリーンで安全な力として、魔法文化が推奨されました」
「正解。 魔法の力を有効に使って管理局システムは今の形に、各世界の管理を始めた」
空間ディスプレイを展開、3つ管理局本部を映し出した。
「各世界が浮かぶ次元の海……次元空間に本拠。 発祥の地、ミッドチルダに地上本部。 そしてミッドチルダ西部に空域本部を置いた」
「あ! それが新暦の始まり。 75年前……!」
「そう。 で、新暦前後の1番混乱していた時期に管理局を切り盛りして。 今の平和を作るきっかけになったのが?」
「ーーかの三提督……」
エリオがそう答えると、フェイトが頷き。 空間ディスプレイにこの前放送された三提督が映し出された静止映像を表示した。 それを見て皆は納得する。
「へえ〜」
「なるほど」
「ふむふむ」
「ま、歴史の勉強は置いていて」
フェイトは両手を右から左に移動させ、身振り手振りで話を元に戻した。
「ガジェットが出てくるようなら、レリック事件以外でも六課が出動になるからね、ってこと」
「今まで以上に大変になるが、しっかりやれよ?」
『はい!』
説明が終わり、ソーマ達はそれぞれ会話を始めた。 そんな中、フェイトはバルディッシュを取り出し。 無言で見つめた後……硬く握り締めていた。
俺はそれを何も言わずに横目で見た。 その後、昼前までには目的地である終点に到着。 ホームを抜けると……
「おお〜! 海だーー!!」
目の前に広がっていたのは陽の光で輝く青い海。 真っ先にルーテシアが飛び出し、目を輝かせながら海を眺めた。
「海くらい毎日見てるだろ」
「レンヤさんは分かってないなー。 あそこには砂浜がないでしょう、リゾートホテルがないでしょう……その違いこそが! 同じ海でも天と地ほどの差があるんだよ!?」
「あ、熱く語るね……」
「ル、ルーテシアちゃん、どうどう……」
「キュクル」
(パタパタ)
エリオとキャロは興奮気味のルーテシアを落ち着かせ。 フェイトが移動しながら次の説明をした。
「次は港で船に乗って、目的の島に行くよ」
「そういえば、何でヘリで来なかったのですか? そのまま島にまで飛んで行けそうですし……」
「確かに……今回クレードルはヘリを使っていませんでしたし、こうしていると手間も感じます。 一体どうしてですか?」
街並みを眺めながら歩いていると、キャロとエリオが疑問に思った事を質問してした。
「目的の島の名前はオルディナ火山島……そこは年中上空の気流が強いから滑走路もヘリポートもないし、海路から上陸するしかないんだ」
「まあ、船旅もまたいい経験になると思うよ」
程なくして港に到着し。 フェイトはそこに停泊していたフェリーを指差した。
「これが私達が乗る船、オルディナ火山島とミッドチルダ本土を繋ぐ定期貨物連絡船ユルバンだよ」
「おおー! フェリーだぁー!」
「大きいですね……乗船するだけにしては大き過ぎる気もしますが……」
「ーー人を乗せる他に、荷物の運搬や宿泊施設なんかが詰まってるからな。 ちょっとした旅行気分が味わえぞ」
その時、誰かがエリオの質問に答えた。 声は頭上から聞こえ、タラップからこの船の船長服を肩に羽織っている男性が降りてきた。
「あ! ライル船長!」
「久しぶりだな、フェイト。 初めて会った時は学生だったのに、今は管理局の執務官とは……出世したもんだな」
「……初めて会った時から執務官ですよ……」
ガハハと笑うこの船の船長を前にフェイトはガックシと項垂れる。
「あのフェイトさん、この方は?」
「ああ、そうだね。 以前、レルム魔導学院の実習でお世話になったライル船長。 今回、私達が乗るフェリーの船長だよ」
「よろしくな、チビども」
「ど、どうも」
「よろしくお願いします……!」
挨拶が終わり、俺達はフェリーに乗り込み。 それから数分後、フェリーはオルディナ火山島に向けて出航した。
「ーーオルディナ火山島はミッドチルダ本土より南に400キロ程離れた場所にある活火山島だ。 今回、俺達の任務は火山島の資源調査と……火山島に潜入している密猟者の捕縛だ」
出航してすぐ、ロビーの一角を借りてソーマ達に目的地の説明と任務の概要を話していた。
「密猟……者?」
「まさか、火山島の資源を狙って?」
「うん、その通りだよキャロ。 前に自然保護隊にいただけはあるね」
フェイトが素直に褒めると。 照れ臭いのか、キャロはえへへと照れながら笑った。
「つまり、僕達の今回の任務は主にその密猟者の捕縛。 その次に資源調査って事でいいんですか?」
「うん、概ねその通りだけど……表向きの任務は資源調査だけで通してね」
「これは密猟者対策のためだ。 どちらにせよ俺達が行く時点で警戒されるが……これはこれ以上警戒されないための配慮だ。 くれぐれも気をつけろよ」
『はい!』
「キュクルー!」
(コクン)
ソーマ達は元気よく返事を返し。 詳細な事項が載っている資料データを渡してその後の質問は受け付ける事にし、そこで一度解散となった。 移動時間は丸一日、フェイトも実習の時は港まででオルディナ火山島に行くのは初めてらしい。
「フェイト」
「あ、レンヤ」
夕方になり、船内から出ると……手すりに寄りかかって日が沈むのを見ているフェイトがいた。
「どうしたんだこんなところで? あんまり潮風に当たるとベトベトになるぞ」
「え、そうなの? 訓練場に長時間いてもそんな事なかったけど……」
「訓練場には軽く結界を張ってあるからな。 潮風は基本届かない。 知らなかったのか?」
「………うん」
……フェイト、昔からどこか天然な所があるけど……ここまでだったとはな。
「ま、それはともかく。 今回の任務……どう思う?」
「依頼者はオルディナ火山島の自然保護隊から。 信頼できる部隊だし、おそらく密猟者は本当にいるけど……」
「問題は侵入経路か。 転移や飛行魔法だと必ず探知できる。 だから海路からの侵入になるが、その対策を自然保護隊が怠っているとは思えない」
「そうなるとその監視網を何らかの方法で潜り抜けた……今回の任務、油断はできないね」
昼から一転した、目の前に月明かりで照らされた海を見つつそのような会話をする。 そのあと皆で夕食を取った後、コーヒーを飲みながら六課から送られてきた書類を後でまとめて処理しようと種類ごとに整理していた時……メイフォンが着信音を鳴らしてきた。
「ーーなのはか。 もしもし?」
『あ、レン君。 もうオルディナについた?』
「まだ船の中の海の上だ。 そっちはどうだ? ヴィヴィオはまた愚図っているか?」
『あはは、まさしくその通り。 不貞腐れ顔でザフィーラの尻尾に抱きついているよ』
うわぁ〜……簡単にその光景が想像できるよ。 ザフィーラが困り顔でされるがままなのも……
「まあ、それはいいとして。 イットの具合はどうだ?」
『今も頑張って稽古しているよ。 レン君がいなくても大丈夫なようにって』
「はは、やっぱりイットとエリオは似た者同士だな。 エリオも今自主練をしているんだ」
食堂から甲板が見える位置まで歩くと……甲板の上でエリオが一身に槍を振っていた。 他に同乗していた人達もエリオの槍さばきに魅せられていた。
『……ねえレン君、レン君はイットの素体になった人物を知ってる?』
「それは…………」
『イットの黒い魔力、それがイットの心身ともに侵している。 そのせいで情緒不安定、いつ暴走してもおかしくない……もしかしたら、あの子はそれを恐れて。 忘れるために剣を振っているのかな?』
「……そうかもしれない。 でも、俺はイットの事を信じているし……救うと……そう誓ったからな」
『レン君……』
俺は首を横に振り、気持ちを切り替えた。
「話が逸れたな。 イットの素体についてだな……もちろん知っている」
『……………………』
「……古代ベルカ時代、一時期2人の王を連れ回し。 黒のエレミアと親友だった人物……」
目を閉じると脳裏に浮かぶ。 無愛想で、それでいて優しく。 そして誰よりも復讐の念に駆られていた人物……
「ーー異形の左腕を振るい。 復讐に駆られ、自分の心を貫き通した……鬼神と謳われた者。 それがイットの素体主だ」
翌日ーー
日が昇っても、そこまだ海のど真ん中。 目覚めとともに外の空気を吸おうと甲板に出ても、そこは船が海を進む音が聞こえるだけ。 任務中とはいえ初めての船旅、その醍醐味を味わうのは中々楽しかった。
「レンヤさん、昼頃には到着するんですよね?」
全員で朝食を取っている時、ソーマがそう質問してきた。
「ああ、昼前には到着。 昼食を取ったらすぐに任務を開始する」
「ならそれまでは自由行動ね。 エリオ、キャロ。 昨日は出来なかった船内探検に行くわよ!」
「ええっ!?」
「ちょ、ルーテシア!?」
「ほらほら、レッツゴー!」
「キュクルーー!」
(ふるふる……)
エリオとキャロがルーテシアに引っ張られて食堂を出て行き、肩に乗っていたガリューがやれやれと首を横に振った。
「いいんですか?」
「あはは……まあ、到着するまでの間だし。 それに2人にも子どもらしい遊びをしているのも……嬉しいとは思うし」
「そうだな。 エリオもキャロも年相応に遊んでもバチは当たらないんだけどな」
「うん……」
そして、本当は戦ってほしくない事も……フェイトはそう思っている。 だからこそフェイトは2人を守り抜くのだろう。
その後、定刻通りユルバンはオルディナ火山島に到着。 俺達は管理局の施設に向かってそこで荷物を置き、資源調査と密猟者の詳細な情報を受け取っていた時……
「ーーあれ? レンヤさん、フェイトさん?」
「え、ギンガ!?」
「ギンガ、どうしてここに?」
ばったりと陸士108部隊所属のギンガ・ナカジマと鉢合わせになった。
「私はここに仕事の関係で訪れていて……今は密猟者の捜索に当たっています」
「なるほど」
「俺達は街の外で資源調査に向かう。 何かあったら連絡をくれ」
「分かりました」
ギンガと別れ、街の外に出てさっそく資源調査を開始、フェイトが調査のための順序や注意点などの説明を始めた。
「ーーと、言うわけで、説明は以上。 調査方法は今説明した通りだよ」
「それでは、結晶鉱石の量と純度の調査を開始するぞ」
『はい!』
説明が終わり、俺達は分担して調査をする事になった。 どこかで密猟者が監視しているかもしれないので、全員知らないフリを装う。
「私はフリードと空から調査しますね」
「キュクルー!」
「あ、空は危ないから私もついて行くよ。 高く飛び過ぎたら気流に巻き込まれちゃう危険もあるから」
「だ、大丈夫ですよフェイトさん。 あまり高く飛びませんし、火山には近寄りませんから」
「ダメ。 キャロはエリオ同様に危なっかしいんだから」
「あ、あはは………はあ……」
エリオは自分もまだ心配されていると分かり、苦笑いをした後ため息をついた。 結局一緒に行く事になり、フェイトとキャロはバリアジャケットを纏い、ゆっくりと飛翔して行った。 残りの俺達も地上から調査を始めた。
「へえ……少し
「そうなんですか?」
森の中で目につく結晶をレンズ越しで次々と観察し、状態などを記録して行く。 それと崖の上からこうして見ると、地面の至る所から結晶が出てきており、かなり幻想的な風景だな。
「ふ〜む……ねえ。 この結晶って何に使えるの?」
「ん? 主にデバイスのコアに使われるな。 管理局が使っているデバイスのほとんどが、ここで採取されている結晶が使われている」
崖の上からルーテシアの質問に答え。 膝についた砂を払い、跳躍してルーテシアの隣に着地した。
「そうなんだ……」
(コクン)
「確かアリシアさんが言ってました。 ここの真下に地脈……しかも特殊な地脈湧点があって。 それが影響してここの結晶が成長しやすいとか」
「ああ。 その結晶の種類によって様々な用途に合わせてデバイスが作られるんだ。 例えばその白い結晶なら回路作りに必要で、あの赤い結晶は出力を増幅する部品に加工できるそうだ」
「へえ………それならクレードルに調査、採取させればよかったんじゃないの?」
「その他にも採取した後の結晶の精密な調査や加工があるんだ。 そうなると負担がかかるし、俺達に出来るならそれでいいだろ。 それに、気分転換にもなるだろう」
「あ……キャロの……」
ルーテシアの呟いた言葉に無言で頷く。 その時、背後からソーマが走ってきた。
「レンヤさん! 前回の調査記録より成長がかなり進んでいるようで……どうしますか?」
「そうか。 それなら予定通り保護採取ができそうだな」
「保護採取?」
隣で作業していたエリオが首を傾げていたので、保護採取の説明をした。
「エリオ。 こういった鉱石は時間をかけて形成される」
「はい」
「それゆえに、自然に伸びていく分だけを採取して……根こそぎ採ったりしない。 それが保護採取だ」
「なるほど……」
「自然の調和を乱さず、大地の恵みを少しだけ分けてもらう……そんな感じですね」
ソーマがまさしくその通りな答えを出した。 現代の発展した社会でも、自然との関係は切っても切れない……だからお互いを支えつつ、共に生きていかなければならないのだ。
「結晶や鉱石は人の便利な暮らしに大切なものだが……大地と自然もそれと同じくらい大切なものだ。 そのため、この島には大きな採掘場はなく、大規模な採掘も禁止されている。 一応、この先もし自然保護隊に行くなら覚えて損はないぞ?」
「はい!」
経験談として説明し、エリオは元気よく頷いた。 と、その時……
ドオオンッ……!!
ここから離れた地点、火山がある方向から轟音が響いてきた。 それにソーマ達が飛び上がるように反応しながら驚いた。
「うわっ!?」
「な、何々! 何なの!?」
「噴火! レンヤさん、あれは大丈夫何ですか!?」
「ああ、結構頻繁に起こっているらしいから問題はないはずだ。 まあ、あの火山の火口付近には竜が住んでいるからな。 あれくらいは普通だろ」
「へえ…………って、竜!?」
何気なく答えた質問に、ソーマは慌てて聞き直した。 あ、そういえば言ってなかったな……
「竜って、フリードみたなやつ?」
「うーん、竜と言われれば竜だけど。 見た目は蛇とトカゲを合わせた感じに近いな。 何でもここに街が出来る前から住み着いていて、この島の大地に活力の恵みを与えているんだとか」
「その竜がグリードという可能性はありますか?」
「エコーにも反応はない。 確実に真正な竜だ」
まあ、竜が存在する自体珍しいからな。 驚くのも無理はないし、対策課としてグリードという線も考えなくもない。
「さて、早く保護採取を終わらせよう。 明日は火山に近付くしな」
「うへぇ、暑そうだなぁ……」
「これも訓練のうちだよ」
気を取り直して俺達は結晶の採掘を開始しようとした時……
「ーー! 何だ……」
何か、妙な感覚が身体中を通り抜けた。 だがそれは一瞬だけで、辺りを見回しても何もなかった。 今のは敵意や気配というより……悪寒や前触れに似た感覚だ。
「……何か、起こるかもしれないな……」
直感とも言える根拠のない事だが……空を見上げ、そう呟いた。
「これは……」
「どういう事でしょう……?」
「グルルル………」
私達はレンヤ達と別行動で空から調査していた時……フリードが何かを感じ取り、街と火山の中間にある森に降り立った。 そこで暴れていたり、怯えている動物達を発見した。 元の姿のフリードに恐怖しているわけでもなく、キャロの腕の中にうさぎが震えながら収まっていた。
「森も、何だか落ち着きがないです」
「グルルル」
「……そのようだね。 これは密猟者が侵入した影響?」
……いや、恐らく違うだろう。 だとすれば一体なにが……私には計り得ない脅威を動物達が感じ取っているのかもしれない。
「……予定通り調査を再開するよ。 この事は皆と合流してから考えよう」
「は、はい」
先に飛翔して安全を確保しつつキャロを待って。 キャロはうさぎを優しくおろし、慌ててフリードに飛び乗り、飛び立った。
「それじゃあ行こっか」
「はい!」