魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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164話

 

 

同日ーー

 

その後、俺達が六課に戻るとはやてがなのは達に召集をかけ。 なのはとフェイト、アリサ、アリシアを連れて聖王教会に向かった。 恐らくカリムから六課の創設の真の理由を教えるのだろう。 俺とすずかははやてから事前に聞いていたから、今回は六課で待機していた。

 

「……………………」

 

そんな中、医療院から連れてきたあの少年は六課到着と同時に目を覚まし。 特に暴れるなどしなかったので自分の置かれている状況など説明した。 その間、少年は顔色も変えず無言でただ頷いて答えた。 それが終わると少年に与えた部屋からそそくさと出て行き、現在は太刀を抱きかかえて埠頭の縁に座ってボーッと海を眺めていた。

 

「あの子、海を眺めて何してるんだろ?」

 

その様子をフォワード陣が見ており、恐らく全員が思っている事を姉さんが口にした。

 

「あの子、また暴走したんですよね? 大丈夫なんですか?」

 

「ああ、短時間だったから身体への負担も少なくてな。 特に問題はない」

 

「いえ、そうではなく! 連れてきて大丈夫なんですか!? 心配なのは分かりますが、教会に預けてもよかったのでは?」

 

「あ、あのあの、ティアちゃん。 もう少し声を抑えて……!」

 

「あの子に聞こえちゃうよ……!」

 

慌ててサーシャとソーマが、あの子に声が届かないようにティアナを静かに抑える。

 

「確かに、六課の安全を考えるとティアナの言い分も最もだ。 だが、これは俺が何とかしないといけない気がするんだ」

 

「……私情が出ていませんか?」

 

「そうかもな。 そうかもしれない……どこかヴィヴィオを見ているようで放ってはおけないんだよ」

 

フェイトも、エリオとキャロに対しての気持ちもこんな感じなのだろう。 保護者としてではなく、家族として心配している……

 

「うーん……エリオ君はどう思うの? 彼のこと」

 

「え……!?」

 

「いきなり理由も無しに襲われたんだから、怒りの1つくらい出てもいいんじゃない?」

 

いきなり攻撃されて入院までする事になった……普通なら怒ってもいいかもしれないが……

 

「……どう、だろ………彼の境遇は理解出来るし、あの時の表情も切羽詰まっているようにも見えた。 僕は彼を責めるつもりはないよ」

 

「そうか……強いな、エリオは」

 

フェイトの教育か、それともエリオの境遇の影響か分からないが……そう褒めるとエリオは照れて顔をうつむかせた。

 

「できれば、あの子の事もどうにかしたいけど……」

 

「とりあえず、さりげな〜くあの子の隣に行くとしよう」

 

「ーーよし。 じゃあ俺が行ってくる」

 

姉さんの提案に乗り……同意しながら釣り道具を取り出した。

 

「釣りをする気満々ですね……」

 

「これはただの口実だ。 ま、お前達はまず書類仕事があるだろ。 訓練がない分頭を動かせよ?」

 

「は、はーい……」

 

苦手なのか、スバルの返事には元気がなかった。

 

「と、そうだキャロ、後で会議室に来るように。

 

「!」

 

「キャロが認めるのなら他の皆も連れてきてもいいからな」

 

「……分かりました」

 

それだけを言い残し、釣り道具を持って少年の元に向かった。 少年は1度振り向いて俺を一瞥し、また海の方に向き直した。

 

「隣いいか?」

 

「…………………」

 

無言は肯定と受け取り、隣に座る。 だが少年は横に少し移動してあからさまに距離を取った。 その行動に苦笑いしながら手に持っていた竿を振って釣りを始めた。 気になるのか、浮きをジッと見つめている。

 

「ここは穴場でな。 結構いい魚が釣れたりするんだ」

 

ま、今は昨日のドンパチの所為で海がかなり荒れおり。 全く釣れないか運良く釣れるかのどちらかだがな。

 

「………俺を………」

 

「ん?」

 

「俺を、どうするつもりですか?」

 

会ってから始めて交わした会話は、探りを入れられていた。 どうやらまだ信用されてなく、疑われているようだ。

 

「別にどうもしないさ。 当面は六課にいてもらうけど、それ以外は特に何も言わない」

 

「…………………」

 

そう言うと少年は黙り込んでしまった。 それはいいんだが、先ほどから気になるのは……医療院の時から少年の頭に乗っかている犬のぬいぐるみだ。 よっぽど気に入ったようにみえる。

 

「そういえば、そのぬいぐるみ。 ずっと頭の上に乗せてるけど、よっぽど気に入ったのか?」

 

「ほ、ほっといてください……あげませんから」

 

少年は頭とぬいぐるみを押さえながらプイッとそっぽを向く。 だが、仕切りにチラチラとこちらの様子を確認している。

 

「ふふふ……あはははははっ!!」

 

その行動がおかしく見えてしまい、つい笑ってしまった。

 

「な、何ですか!?」

 

「いやなに、俺に警戒しているのに釣りに興味津々で。 そのくせぬいぐるみを見せたがる……まるでうさぎだな」

 

「むう……」

 

「まあ、うさぎと言っても1人が好きな……孤高の魔物っぽいけど」

 

頭の中でもの凄い顔をした前歯が凄いうさぎが思い浮かぶ。 そう思っていると少年は頰を膨らませて太刀を左右に揺らしていた。

 

「…………………」

 

「はは、まあそう不貞腐れるなよ。 結構君が普通の子なのが分かったよ……って、そういえば君の名前は?」

 

「……マテリアル1……」

 

「……そうか。 じゃあ君は今から一兎(いっと)だ」

 

「え……?」

 

「一匹の兎で一兎。 今の君にぴったりだろ?」

 

「イッ……ト……」

 

ぶっちゃっけ今決めた安直な名前だけど、マテリアル1よりは全然マシだろ。

 

「あの、えっと……」

 

「ああ、そういえば自己紹介してなかったな。 俺は神崎 蓮也、まあ好きに呼んでくれ」

 

「じゃあ、レンヤさん。 これから俺は……どう生きればいいでしょう?」

 

……この子は確かに人造生命体だが、ヴィヴィオより年上なため、確固たる自我を持っている。 それ故に自分の存在意義を見出せずにいるようだな。

 

「人の理から外れた俺がいるだけで周りの人が不幸になる。 そんな俺が生きていた所で……意味があるのか……」

 

「……………イットは、自分が生きる事が許されないと思っているのか?」

 

「……分からない……なにも……なにも……」

 

「ーーやらなきゃいけない義務はないさ」

 

「……え」

 

「どんな命であれ生きる意味は人それぞれだ。 今、君は生きている。 だからそれを願い続けるべきだ」

 

「……生きたいと願い続ける……」

 

「ああ」

 

「……………………」

 

自分の考えを言ってみたが、イットは思い悩んでいた。 それからしばらく、海の細波を聞いていると……

 

「パパーー!」

 

隊舎の方からヴィヴィオが走ってきた。 ヴィヴィオはそのまま釣りをしている体勢の俺の背中に抱きついた。

 

「おっと、ヴィヴィオ。 どうかしたか?」

 

「これ! ヴィヴィオが書いたの!」

 

一度離れ、横に座ったヴィヴィオに差し出されたのは年相応の絵心で描かれた自分だった。

 

「へえ、上手いじゃないか」

 

「えへへ……」

 

褒めるように頭を撫で、ヴィヴィオは気持ちよさそうに笑い、笑顔になる。

 

「ねえねえパパ。 その人は?」

 

「え……俺は、その……」

 

「この子はイット。 今日から六課で面倒を見ることになったんだ」

 

「へえ……私ヴィヴィオって言うの! よろしくね!」

 

「あ、うん……」

 

イットはヴィヴィオに手を掴まれて握手し、戸惑いながらも返事をする。 過程は違うが2人は同じ境遇だ。 傷の舐め合い……かもしれないが、いい影響になるだろう。

 

「ーーあ! パパ、お魚が動いているよ!」

 

「え!?」

 

ヴィヴィオに言われ正面を向くと……竿がしなっており、浮きが沈んでいた。 竿を掴み、持ち上げてみると……かなりの大物がヒットしたようだ。

 

「これは思いがけない僥倖を当てたようだな……!」

 

思った以上の力で引っ張られ。 腕に力を入れ、足腰にも力を入れて踏ん張り、リールを巻き上げる。

 

「おおっ……! 久しく感じてなかったこの感覚……やっぱり釣りはいいなぁ!」

 

「パパ! 頑張って!」

 

「おおー……!」

 

その様子をヴィヴィオは応援し、イットも興奮を隠せずに海面を見入った。

 

「うっ……おおおおおおっ!!」

 

気合いとともに腕を限界まで振り上げ……海から銀色に輝く巨大なマグロっぽい魚が一本釣りされた。

 

「おおっ!? ツェナーだ! こんな岸の近くにいるなんて……昨日の戦闘で追い立てられたのか?」

 

「やったー! 釣れたー!」

 

「おおっ!」

 

2人は陸に上がったビチビチと跳ねるツェナーを目を輝かせながら喜んだ。 尾ひれを掴んで持ち上げてみると、かなりの重量感を感じた。 かなり身が引き締まっていて美味しそうだ。

 

「よし……今夜はイットが来たお祝いだ。 たっぷりとご馳走を食べさせてやるからな!」

 

「やたーー!」

 

「え、あ……ありがとう、ございます……」

 

今まで喜んでいた表情が打って変わり、イットは最初の時のようにまた表情を暗くする。

 

「まだ、気持ちの整理がつかないか?」

 

「……分かりません」

 

「そうか………レゾナンスアーク……刀を」

 

《イエス、マジェスティー》

 

一旦ツェナーを拘束しながら置いて。 レゾナンスアークに頼みながら膝をつき。 左腰に刀を展開した佩刀、ゆっくり抜刀する。 その行動にヴィヴィオは驚き、イットは警戒して太刀を握る力が強まる。

 

「パパ!?」

 

「…………………」

 

「ーーイット。 俺は君に誓う。 俺の全てを賭けてでも、イットの事を救ってみせる」

 

刀を持ち替え、剣先を自分の胸に向け、柄をイットに向けながら誓言を口にした。 しばらくの沈黙の後、イットは顔を背けた。

 

「……難しくて。 よく、分かりません……」

 

「じゃあ、言い方を変えよう。 俺は、イットに必ず自分で選んで歩いて行ける未来を作ってみせる」

 

「……余計分かりません」

 

「今はそれでいいさ」

 

「むう……パパ! ヴィヴィオにも分かるように言って!」

 

「はは、そのうちにな」

 

刀を納めて立ち上がり、膨れっ面のヴィヴィオの頭を撫でてごまかし。 ツェナーを持って六課に戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー

 

夕食に釣り上げられたツェナーで作られた一品が追加され、皆であっという間に平らげてしまい……その後、満腹になってウトウトしていたヴィヴィオを寝かせ。 俺ははやてが帰って来たとなのはに教えてもらい、こっそりとキャロに例の件について会議室で話すと伝えた後、すずかと一緒に部隊長室に向かった。

 

「ーーはやて」

 

「あ、レンヤ君、すずかちゃん……」

 

「どうしたの? 明かりも点けずに」

 

中に入ると部隊長室は真っ暗で、はやては明かりも点けずデスクに座っていた。

 

「どうだった? なのは達は」

 

「まあ、予想通りの反応やったな。 覚悟はしとったけど、それでも驚いてた感じや」

 

「そうか……予言の内容は俺からレジアス中将に伝えておく。 まあ、信じるかどうかは別として……」

 

「ふふ、あの堅物おじさんが信じるなんて想像できへんなぁ」

 

そう言いながらはやてはカリムのレアスキル……預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)によって出た詩文が書かれた紙を渡した。 内容は……

 

旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地

死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る

死者達が踊り、中立つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち

それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる……

 

「前と変わってないな……ロストロギアをきっかけに始まる管理局地上本部の壊滅と、管理局システムの崩壊」

 

「……変えられる、未来なのかな……?」

 

「分からへん……けど、その予言の内容に、なのはちゃん達はこんな時間まで意見を出し合ったんや」

 

「それでこんな時間に帰って来たのか」

 

そう言いながらはやてから古代ベルカ語で書かれた原文の写しも受け取り、目を通す。 俺は彼女の記憶があるからなのか、古代ベルカ語はそれなりに読める。

 

「……紅き結晶、無限の欲望、狂人達が交わる地

護り人の下、聖地より彼女の翼、異形となりて蘇る

使者達は踊り、異なる詩の元大地の法の塔は虚しく焼け落ち

大地は蒼き翼と狂人達の宴により混沌と化す

それを先駆けに次元の海を守る法の船は砕け落ちる……」

 

原文を読み、自分で選んだ和訳を音読した。 それを2人は聞き、どう言う意味か考え込む。

 

「うーん……だいたいは同じやけど所々の部分が違うなぁ」

 

「それにカリムの和訳より、その……怖い文書が多いね」

 

「俺もあっているかどうかはわからないが……判断材料としては十分じゃないか?」

 

言ってて色々と気になる点は多いが、今はこれでいいだろう。 と、その時、はやての表情がこの暗がりの中でも分かるくらい暗い事が分かった。

 

「……はやて。 お前は……自分の選択を後悔してるか?」

 

「そんな事あらへん!」

 

はやての表情から思った事を口にすると。 突然はやては声を荒げて否定し、すぐにハッとなって背を向けた。

 

「そんな事あらへんけど……レンヤ君達にもこの命を助けてもろうた恩もあるし……」

 

「なら私達も六課に参加した事も後悔してないよ。 それに、それが友達でしょ?」

 

「友達を助けるのに理由はいらない、当然だろ? 俺ははやてを信じる。 はやてはこの道を選んで進んだんだろ?」

 

「うん……自分で選んだなら受け入れるよ。 自分で決めるっちゅうのはそういうことなんやから」

 

はやては自身の胸に手を当て、自信の満ちた表情で言った。

 

「さて、ここに来た本題に入ろうか。 キャロに教団事件の被害者について話そうと思う」

 

「! それって……!」

 

「うん。 キャロちゃんにクレフ・クロニクルの……延いてはD∵G教団の概要をね」

 

「…………分かった。 かなり堪える話やろうし、念のためリンスも同席させるで」

 

「ああ、それで構わない」

 

はやての了承を得て、その後呼ばれたリンスと一緒に会議室に入りキャロを待った。

 

「し、失礼します」

 

「来たな」

 

ドアがノックされてキャロが会議室に入り、キャロを先頭にスバル達も続いて入ってきた。 どうやらフォワード陣全員いるようで……ソーマ、サーシャ、ルーテシアは少なからず知っているはずだが、どうやら付き添いでいるようだな。

 

「全員来たのか……キャロはいいんだな?」

 

「はい。 皆さんにも知ってもらいたいですし、私1人だと心細いですから……」

 

「キュクル……」

 

「そういうこと。 追い出さないでよね?」

 

(コクン)

 

「分かってる。 キャロが認めたのなら何も言わない」

 

それを確認するとキャロ達は席に座り、すずかが前に出て説明を始めた。

 

「まずクレフ・クロニクルについて話す前に、ある組織について説明しなくちゃいけないの」

 

「ある組織とは?」

 

「ーーD∵G教団。 聞いたことくらいはあるだろう?」

 

ティアナの質問に答えると、全員驚愕した表情になる。 すずかは皆のその表情を一瞥すると、話を進める。

 

「D∵G教団……簡単に言えば聖王の存在を否定している狂気の教団。怪異を信仰しているとされているけど、これは“聖王を否定する”ということからきたもので、実際は都合がいいので形式的にそうしているようだね」

 

「へえ……」

 

「あ、あの……何でこんな話を」

 

「話は最後まで聞くように」

 

姉さんが興味深そうに聞く中、キャロがすぐにクレフの事を知りたいばかりに質問するが。 すずかが静かに一喝し、説明を再開する。

 

「……平等を唱えており、幹部司祭であっても位階そのものはさして高くない。名称の「D」は未だに不明だが……「∵」は~なぜならばを意味し、「G」は怪異、グリードを意味する」

 

「ここ数十年間で最悪の事件を起こした最低最悪の組織……各次元世界から多数の子ども達を誘拐して「儀式」と称した非道な人体実験を行い、その過程でネクターと呼ばれる薬品を開発、子どもたちがその実験で使用された」

 

「そんな……」

 

すずかに続いて補足として説明し、スバルは思わす口に手を当てた。 同様にティアナ達も皆同じ反応のようだ。

 

「けど、教団はまた別の犯罪シンジケートによって襲撃、崩壊した。 その組織の意図は分からないけど、結果的に教団本体は崩壊したものの、教団そのものは完全に滅亡するまでには至っていなかった。 そして一部の幹部が「楽園」と呼ばれる拠点を勝手に創り上げ、議員などの権力者たちに提供して取り込んでいったの」

 

「……でもそれは、教団事件の時に関係者全員逮捕されたんですよね?」

 

「ああ、議員から秘書に至るまで隅々調べた。 今の議会に教団の息のかかった人物はまずいないだろう」

 

「ーーこれまでがD∵G教団の大まかな概要……そして、キャロに話すのはその中の一部」

 

一度手を叩いて説明を終わらせ。 すずかはキャロの隣まで歩き、白いファイルをキャロの前に置いた。

 

「白いファイル?」

 

「目を通してみて」

 

「は、はい……」

 

真実を知りたい気持ちと不安が入り混じるなか、意を決してキャロはファイルを開いた。 そこには……非人道的な実験の数々と拠点が乗ってある地図、そしてーー実験を施された被験者の顔写真の数々。

 

「こ、これは……!」

 

「酷い……」

 

「そのファイルに記載されているのは6年前に行われたらしい“儀式”の被験者達。 そしてその被験者の大半はもろとも拠点を処分されている」

 

「外道め……!」

 

「ま、まさか……そんな……」

 

無情ながらも事実を述べる。 そしてキャロは教団の説明とこのファイルを見せた意味が分かったのか、それでも震える手でページをめくって行き……ある1つの写真に目が止まる。 水色の髪をした、生気のない目で写真に映る少女。

 

「ーーーっ!!」

 

「嘘……」

 

「現在、なぜクレフ・クロニクルがスカリエッティに加担しているのかは定かではないが……過去、教団の被験者の1人だったのは事実だ」

 

スバル達はもちろんだが、キャロの驚き用は半端じゃなかった。 リンスもそれを懸念してキャロの元に寄り、乱れていた精神を落ち着かせた。

 

「……教団事件後、私は各世界の誘拐事件を徹底的に洗い出した。 するとその大半は教団が関わっていた事実を見つけた。 そしてその中に、クレフちゃんがいた」

 

「……家族は……ククちゃんのお父さんとお母さんは!」

 

「……残念だけど………誘拐された日にお亡くなりに……」

 

「っ……」

 

……やっぱり、辛そうだな。 だが、ここで話さなければ前には進めない。

 

「キャロ。 確かクレフの元の髪の色は茶髪だったらしいな」

 

「……………はい」

 

「今のあの水色の髪になったのはネクターを多量に投与されたせいだ。 その他にも眠る事が出来ないなどの症状があるが……彼女にそれがあるかどうかは判断できない。 また、別の症状もあるかもしれない」

 

「……記憶障害、ですか?」

 

「キャロちゃんの事が分からないのなら、それも否定できない」

 

そこまで言うと、とうとうキャロの目から涙が溢れ落ちる。

 

「キャロ!?」

 

「だ、大丈夫です! 大丈夫……ですから……」

 

「キャロ、無理はするな」

 

「……私達が知るクレフちゃんの事はこれで全て。 もちろん、私達も全力でクレフちゃんの事を救い出す。 けど、あの子が犯罪組織に協力している以上、最悪罪に問われる場合もある……」

 

時空管理局は一応公務員みたいな役職……私情で見逃す訳にはいかない。

 

「キャロ。 アルザスにいた頃のクレフはどんな感じだったんだ?」

 

「………いつも明るくて、友達のクローネと一緒に遊んでました。 でも、6年前……ククちゃんの家が火事にあったんです。 原因も分からなくて、ククちゃんを含めた3人の行方が分からなくなって……捜査のため訪れた管理局も夜逃げとして取り扱われました」

 

「え……いったいどうして……?」

 

「ククちゃんの家はル・ルシエとは違う家系なんです。 召喚士として優秀家系でしたが、どうしてかルシエから嫌われていて……よく長から関わらぬよう注意されてました」

 

今のキャロでは考えられない程の大胆さだな。 それだけクレフと会うのが楽しみであり……それだけ後悔も深いのだろう。

 

「でも、私とククちゃんはそんな事関係なくお互い目を盗んでは遊んでました。 そんなククちゃんが……私の事を……忘れちゃたなんて……」

 

「そ、それは仕方ないよ。 教団が人道に反した実験を無理矢理クレフに施してたからで……クレフ自身も忘れたくなかったと思うよ?」

 

「あ、あのあの……レンヤさん。 何とかならないのでしょうか?」

 

「さあな。 俺達では何とも言えないが……お前達がやるなら何とかなるかもしれないな」

 

「え……」

 

「それはどういうことですか?」

 

「私達だとあの子の目を覚まさせる事は難しく、保護したとしても海上隔離施設行きに出来るかどうか……でも、あなた達……キャロちゃんになら、それが出来るかも知れない」

 

「これも教団事件の延長……キャロ、お前にその意志があるのなら協力は惜しまない。 どうする?」

 

キャロは涙を拭い、強い意志を持った目で俺を見た。

 

「……私……やります! 絶対に、この手でククちゃんを取り戻してみせます! 必ず……!」

 

「キュル!」

 

フェイト……お前の預かり知らない所でキャロは確かに成長しているぞ。

 

「キャロ、僕も協力するよ!」

 

「言わずもがな、あの子には借りがあるしね♪」

 

(コクン)

 

「もちろん、僕達もキャロに協力するよ」

 

「こ、こういう時こそ年長者として頼りにしてください!」

 

「ま、これを聞いて黙っている方が無理あるわよ。 乗りかかった船、付き合ってあげるわよ」

 

「まったく〜、ティアは素直じゃないなぁ〜」

 

あの重苦しい空気から一転、キャロの意志に賛同する者が次々と名乗りを上げ。 和やかな空気に変わった。

 

「あはは、いい感じになってきたね、このチーム」

 

「いや、姉さんもそのチームに入っているよね?」

 

「全くだ、美由希もあの中に入ればいいだろう」

 

「いやいや、年長者があそこに混ざるには勇気がいるって」

 

「ふふ、そうですね。 でも、これでキャロちゃんも一歩前に進める。 それは喜ばしい事だよ」

 

俺達はそう言いながら、和気藹々としているキャロ達を見守るのだった。 そして後日、俺はイットに親代わり……保護責任者になると提案すると、イットは恐れ多いと思いながらも了承してくれた……なぜかなのは達まで便乗してきたが、多いに越した事はないと思いそのまま了承した。

 

 




八葉一刀流→一刀→いっとう→イット→一兎

つまりそゆこと。

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