魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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162話

 

 

同日ーー

 

「てやっ!」

 

コルルはソーマ達に向かって手を上げ、振り下ろした。 すると突如雷落が発生、コンクリートを砕き砂塵が舞い上がる。 すぐさまソーマ達は後退し、距離を取った。

 

「キャロちゃん、大丈夫?」

 

「…………………」

 

「キャロ?」

 

「どうしたの? どこか怪我でも……」

 

キャロを抱えた美由希が話しかけるが……一点の方向だけを見つめて放心するキャロ。

 

「……ごめんね」

 

「あ……」

 

「ちょ、美由希さん!?」

 

美由希はキャロの首を少し圧迫させ、キャロを気絶させた。

 

「気絶しただけよ。 今のキャロ、明らかにおかしかったから」

 

「ご、強引ですね……」

 

「でも、おそらくその理由はあのククって子にあるようだね」

 

「………まさか!」

 

キャロとクク、その理由にルーテシアが気付いた時。 砂塵の中から緑鳥……クローネが現れ。 鋭い爪を突き立てながら滑空してきた。

 

「はああっ!」

 

咄嗟にギンガが飛び出し、クローネの爪とギンガのリボルバーナックルが激突。 火花を散らし、爆発。 その衝撃で両者は離れた。

 

「よっと」

 

間髪入れずコルルが雷球を発射、地下水路に流れていた水にぶつけ水飛沫をあげる。

 

「……ティア、どうする?」

 

石柱に隠れ、水飛沫を浴びながらソーマがこの後どうするのか聞いてみた。

 

「任務はあくまでケースの確保よ。 撤退しながら引き付ける」

 

「相手は逃走が目的だよ。 上手く行くの?」

 

「……こっちに向かっているヴィータさんとリインさんに上手く合流できれば……あの人達を止められるかもしれません」

 

「うん。 それがいいと思うよ」

 

『ーーよし、中々いいぞ』

 

作戦が決まった時、ヴィータの念話が届いてきた。

 

『ヴィータ副隊長!』

 

『私も一緒です。 皆さん、状況を呼んだナイス判断ですよ!』

 

「あのあの、お2人は今どちらに?」

 

「ーーっ!」

 

サーシャがどこにいるのか質問した時、コルルが何かを察知した。

 

「クク、増援だよ。 どうやらあの子達の親御さんが来たみたいだね」

 

「…………………」

 

コルルの警戒に、ククが上を見上げた瞬間……

 

「とりゃあああっ!」

 

ヴィータが天井を突き破って両者の間に割って入って来た。 その影響で砂塵が舞う中、中からリインが古代ベルカ式の魔法陣を展開しながら飛び出してきた。

 

「ーー捕らえよ、凍てつく足枷! 凍てつく足枷(フリーレンフェッセルン)!」

 

ククの周辺に水が舞い上がり、瞬時凍結させて閉じ込めた。

 

「今だ!」

 

「ぶっ飛べ!」

 

その隙を狙ってソーマがクローネに向かって九乃を飛ばし。 怯んだ隙にヴィータがラケーテンフォルムのグラーフアイゼンをクローネに向かって振り抜き。 クローネは爪で受け止めるが、少しの拮抗の後に吹き飛び。 先にあった壁に激突した。

 

「……今のは……ううん……ただの見間違いの……」

 

「リイン?」

 

「! み、皆、無事で良かったですぅ!」

 

ヴィータはリインの行動に不審に思うが、声をかけられリインはソーマ達の無事を確認する。 だが、ソーマ達……特にティアナ達はヴィータ達の確保に至るまでの早業に呆然としていた。

 

「あ、あはは……」

 

「ふ、副隊長達、やっぱり強ー……」

 

「でも局員が公共施設を破壊して良かったのでしょうか……?」

 

「まあ、このジオフロントE区画は開発予定区画と言って、計画性のない案件だったしいいんじゃないかな?」

 

「そ、そういうものなのかな?」

 

ソーマ達がそんな事を疑問に思う中、ヴィータは吹き飛ばしたクローネの元に向かうと……そこには何も無かった。

 

「……ち、逃げられたか」

 

「ーーこっちもです! 逃げられた、ですね」

 

ヴィータの呟きにリインも反応し、凍てつく足枷を解除すると……そこには誰もいなく。 地面に穴が空いていた、恐らくここから脱出したのだろう。

 

ドオオンッ!!

 

その時、轟音と衝撃と共に地面……ここは地下なので全体が揺れた。

 

「っ……何だ!?」

 

「ーー大型召喚の気配があったわ。 恐らくそれが原因でしょう」

 

揺れの正体をルーテシアが推測で答える。 だがそれでも長居は無用で、ヴィータは脱出を図った。

 

「一先ず脱出だ! スバル!」

 

「はい! ウイングローードッ!!」

 

スバルは拳を地面にぶつけ、ウイングロードを上に向かって螺旋を描きながら脱出路を確保した。

 

「スバルとギンガが先導しろ! 殿はあたしとソーマが勤める!」

 

『はい!』

 

「了解です!」

 

「美由希さん! これ」

 

ティアナは美由希に拾ってきたキャロの帽子を渡した。

 

「ありがとね。 それにしても……ちょっと強くやり過ぎたかな?」

 

「あ、あはは……どうなんでしょう?」

 

「ルーテシア、レリックの封印処理をお願いできる?」

 

「いいけど……何を考えているの?」

 

「ちょっと考えがあるの。 手伝って」

 

「ふう、了解!」

 

ソーマ達はウイングロードを伝って地上に向かった。

 

そして地上では、さらに巨大化したゼフィロス・ジーククローネの周りが大気が渦巻いており。 それによる重圧で大地を揺るがしていた。 その頭上ではベルカ式の魔法陣の上に立っているクレフがいた。

 

「やめてよクク! そこまでしなくてもいいじゃないか!」

 

そのククの行動に、コルルは異議を唱えて辞めさせようとする。

 

「それに埋まった中からどうやって探す気なのさ? それに彼らを生き埋めにしたらそれはそれで面倒だしさ」

 

「………あのレベルなら死ぬ事はまず無い。 ケースはクアットロとセインに頼んで探してもらう」

 

「それもダメだって! あの変態とナンバーズと関わっちゃダメだって姉さんからも言われてるでしょう? 協力関係とか言ってるけど、実際奴らはククの事を……!」

 

コルルがそう言いかけた時、大きな音が轟いてきた。 どうやらクローネの起こした重圧で地割れを引き起こしたようだった。

 

「……あーあ、やっちゃったよ……」

 

「クローネ、行こう」

 

「ピイィ……」

 

コルルは地割れを見てガックシと項垂れる。 クレフは特に気にせず、クローネを戻そうとガントレットを操作しようとした時……クローネの全体から鎖が飛び出し、巻き付いてクローネが戻るのを妨害した。

 

「ピイィィ……!」

 

「あ、やっぱり生きてたね」

 

コルルが視線だけ辺りを見渡す。 いつの間に六課のメンバーに囲まれており、どんどん距離を縮められていく。

 

「ちっ!」

 

2人はティアナの狙撃を避け、コルルは雷球を投げてティアナを牽制。 クレフは複数の鉄の塊を精製、近付いてきた全員に向かって発射……爆発した。 クレフも撃墜を狙わず、牽制で放ったようだ。

 

クレフはそのまま廃棄された高速道路の上に降り立つと……激流が意思を持つかのようにクレフの前に接近。 弾けると、中から美由希が現れ、小太刀をクレフに突き付けた。

 

「っ……」

 

「コルルさん……」

 

コルルも移動した先に氷のダガーが待ち構えおり、身動きを制限された。 ダガーを設置したリインは困惑しながらコルルを見つめ、2人を拘束した。 この人数相手に、コルルとクレフは逃げる事すら出来なかった。

 

「あらら……」

 

「ふう、子ども虐めてるようでいい気分はしねぇが……市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、その他諸々で逮捕する」

 

「ーーまずは、あの子を大人しくさせてもらいましょうか?」

 

飛んできたルーテシアが、彼女によって拘束されているクローネを一瞥した。 クレフはその意図を読み、クローネを球に変え。 自分の足元に転がした。

 

「爆丸システム……それにクレフ・クロニクル。 何度かレンヤさん達と交戦した事のある子よ」

 

「この子が……」

 

クローネを拾いながら、ルーテシアは自身が知っているクレフの素性を話した。

 

『は〜い♪ ククお嬢様♪』

 

その時、クレフにクアットロから念話が届いた。 クレフは問いかけられる質問を無視して念話に応答する。

 

『クアットロさん……』

 

『何やらピンチのようで……お邪魔でなければクアットロがお手伝いいたします♪』

 

『はい、よろしくお願いします』

 

『……くふふ、とても使い易いお人形さんですこと。 では、私が今から言う事をそのまま赤い騎士にお伝え下さい』

 

クアットロは内心ドクターに感謝しつつ、狂気に満ちた笑みをしながらそう伝えた。 そしてクアットロはクレフに向かって話し始めた。

 

「逮捕はいいけど……」

 

「っ……」

 

突然クレフは硬い口を開き、抑揚のない棒読みで話し始めた。

 

「大事なヘリは放っておいていいの?」

 

『なっ……!』

 

「まさか!」

 

「狙いはもう片方のレリック!」

 

ソーマとサーシャはその答えまで導き出したが……その結果でどう対処するかまでは答えが出なかった。 クレフはピクリと震えると顔を上げ、ヴィータの方を見た。

 

「ーーあなたは……また、守れないかもね」

 

「っ!!」

 

ヴィータの表情が驚きを見せる中……それとほぼ同時に、ヘリに向かって砲撃が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻ーー

 

俺達は海上のガジェットをはやて達に任せ、レリックが積んであるヘリに向かっていた。

 

「ーーあ、見えた!」

 

海上から全速力で飛行し、ようやくヘリに追いついた。

 

「よかった、ヘリは無事みたい」

 

「ふう、後はもう片方の方だけど……」

 

「そうだな……っ!」

 

その時、別の方向から巨大なエネルギーの波を感じた。 それと同時にオペレーターから通信が届いた。

 

『市街地に高エネルギー反応! 大きい!?』

 

『っ!』

 

『レンヤ君! 狙いは……!』

 

「ーー分かってる!」

 

すずかの警告に、飛行速度を一気にあげる。

 

『砲撃のチャージを確認! 物理破壊型……推定Sランク!』

 

 『チャージ完了までの予想時間、約10秒!』

 

「短いわね!」

 

チャージ後のトリガーを引くまでのタイムラグ、発射から着弾までの時間も入れても間に合うかどうか……

 

「ーーなのは!」

 

「ーーアリサ!」

 

だから、俺とフェイトはほぼ同時に2人の名を呼び、手を伸ばした。

 

「うん!」

 

「行くわよ!」

 

俺はなのはの手を掴み、フェイトはアリサの手を掴み……

 

『行っけええーー!!』

 

身体強化を最大にし、全力でヘリに向かって投げた。 間髪入れず、アンノウンがヘリに向かって砲撃を発射。 砲撃がヘリに迫って行き……コンマの差でなのは達が間に割って入り……

 

ドオオオオンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『砲撃……ヘリに直撃……』

 

『そんなはずない……状況確認!』

 

『ジャミングが酷い……データ来ません!』

 

「そんな……」

 

ロングアーチからの応答に、ヴィータ達は呆然とする。

 

「ヴァイス陸曹と、シャマル先生……」

 

「それにエリオとアギトと……ヴィヴィオとファリンさんまで……!」

 

「お姉ちゃん……」

 

「ーーテメェ!」

 

ヴィータは怒りのあまりクレフの胸元を掴み、地面から足が浮くように持ち上げた。

 

「ちょ、副隊長! 落ち着いて!」

 

「うっせ!」

 

「ヴィータさん、落ち着いて下さい。 近くにレンヤさんが居たはずです、必ず皆さんは無事です」

 

「っ……」

 

その時、ギンガは何かの気配を感じ。 後ろに振り返ると……地面から人差し指を立てた手が生えていた。 どう見たって普通じゃないと感じたギンガは……

 

「ーーてやっ!」

 

「うわっ!?」

 

その場で短く跳躍、身体を捻って不審と感じた美由希すぐ側の地面に踵落としを放った。 手は当たる直前に引っ込んだが……美由希は咄嗟に避けたせいで持っていたケースを落としてしまい。

 

「いっただきー♪」

 

「待ちなさい!」

 

今度は両手が生えてきてケースを掴み、ティアナが魔力弾を撃って止めようとするが、そのまま持って行ってしまった。

 

「くそっ!」

 

ヴィータは急いで追いかけ、それにティアナ達が続いて行く。

 

「…………………」

 

「ーー動かないで。 砲撃を撃った人物、さっきの物質を通過する人物も含めて組織構成を洗いざらい喋ってもらうよ」

 

残ったソーマ達は2人を監視し、ソーマはククの前方を剣で塞いだ。

 

「コルルさん……何であなたが……」

 

「あはは、騙す気はこれっぽっちも無かったよ。 あの時の行動も僕の独断……やりたいからやっただけ。 そうでしょう?」

 

「……………………」

 

コルルの回答に、リインは微妙に納得してしまった時……

 

「ーーん……」

 

「キャロちゃん」

 

「キュル……」

 

「……サーシャさん……フリード……」

 

サーシャに抱えられていたキャロが目を覚ました。 キャロは辺りを見渡し、状況を確認しようとし。 視界にククの姿が入ると目を見開いた。

 

「……ククちゃん……」

 

「ーーえ」

 

「ククちゃん!」

 

「わわ!? キャロちゃん、暴れないで……!」

 

キャロは抱きかかえられたままジタバタと暴れ、たまらずサーシャはキャロを離し。 すぐにキャロはククの前に向かった。

 

「今までどこにいたの!? 突然行方不明になって……皆、心配してたんだから! それにその髪はどうしたの!? 昔は綺麗な茶髪だったのに……それに!」

 

「うわっ!? キャ、キャロ……?」

 

ルーテシアの手から緑色の球……クローネをひったくられ、ククの眼前に突き付けた。 今まで見たことのないキャロに、ルーテシア達は困惑する。

 

「キュル! キュル!」

 

「この子、ククちゃんのお友達のクローネだよね? このシステムを使っているのはともかく……さっきのあの姿、獣化だよね? どうして禁忌の力をーー」

 

フリードも忙しなくククの頭上を飛び回り、キャロは今まで発したことの無い大声でククを質問責めにする。 その声にヴィータ達も足を止めてしまう。

 

「………………あなたは……」

 

「っ……クク、ちゃん?」

 

「あなたは……誰?」

 

「っ!!」

 

ようやく発した言葉に、キャロは衝撃を覚え、フラフラと後退する。 その時、ククはおもむろに目を閉じた。

 

「ーーほい、クローネ回収」

 

「あ!? ククちゃん!」

 

「待て!」

 

「ばーいば〜い♪」

 

一瞬でキャロの手からクローネをひったくり、先ほどと同様に地面に沈んで行った。

 

「! コルルさん!」

 

『待たね、リイン。 アギトにバチバチよろしく言っておいてね』

 

「っ……!」

 

コルルもそれだけをリインに言い残し、両名の反応が途絶えてしまった。

 

「……反応、ロストしました」

 

「ーーくそ……!」

 

ヴィータは思いっきりグラーフアイゼンを地面に叩きつけた。 地面がひび割れる中、ヴィータは通信を入れる。

 

「……ロングアーチ。 ヘリは無事か? あいつらは……落ちてねえよな!?」

 

クレフの言葉に過去の記憶がフラッシュバックする中、ヴィータは悲痛な叫びを八つ当たりのようにロングアーチにぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリが砲撃に直撃した地点……そこでは未だに砲撃によるノイズで観測が難しかった。

 

『……スターズ2からロングアーチへ……』

 

その時……通信がノイズに塗れだが、確かに聞こえた。 砲撃による爆煙が晴れると……そこにはヘリと共に無傷のなのはとアリサがいた。

 

『こちらスターズ1、およびフェザーズ2。 ギリギリセーフでヘリの防御……成功!』

 

『ホンット、ギリギリだったわね。 まあ、砲撃が大した威力じゃなかったのも救いだけど』

 

アリサが言うには本当に大した事なかったのだろうが、それでも冷や汗モノだった。

 

『はあー……危なかった、ギリギリや』

 

『ふひー、冷や汗かいたよ』

 

『ふふ、なのはちゃんとアリサちゃんにはいつも驚かされるね』

 

はやて達も通信越しホッと一息をついた。 だが、俺が一安心するにはまだ早い。

 

「さて、俺達もやるぞ」

 

「了解!」

 

俺達は砲撃の射線上にあったビル、その屋上に2組の女性を捕捉した。 俺はその位置情報をすずかに送った。

 

『すずか、そこから狙いるか?』

 

『もちろん。 もう捕捉したよ』

 

さすがすずか、もう遥か遠方にいたすずかがスコープ越しに砲撃を撃った人物を捕捉したようだ。 そして引き金を引き……持っていた大砲を破壊した。

 

『ふふ、スコープ越しの出会いは別ればかりだと思ってたけど……こういうのも悪くないね』

 

……一瞬寒気を感じだが、気を取り直し。 フェイトは幾つもの魔力弾を発射、回避方向を誘導させるように魔力弾を操作し……ビルの屋上は爆発。 2名は狙い通りの位置にあったビルの屋上に降り立った。

 

「ーーお前達が」

 

「! こっちも!?」

 

「速い……!」

 

先回りされた事に驚いたのか、2人組は驚愕の表情をする。 それと、メガネをかけた女性はどっかで見た覚えがあるような……そう思っていると2人組は踵を返して逃走を始め、俺達はすぐに追跡する。

 

「そこの2人、止まれ! 時空法に基づき、市街地での危険魔法使用、及び殺人未遂の現行犯で……逮捕する!」

 

「あなた達の背景……洗いざらい喋ってもらいます!」

 

「今日は遠慮しときますー!」

 

今日もの間違いかもしれないが……とにかく捕まえない事には始まらない。 その時、メガネの女性が何かを始め……2人の姿が掻き消えた。

 

「ーーレンヤ!」

 

「分かってる!」

 

《モーメントステップ》

 

一瞬で加速、超高速で搔き消えるように移動し。 銃を構え、何もない地点を乱射した。 すると消えていた2人組が姿を現した。

 

「嘘っ!? シルバーカーテンが破られた!?」

 

「気配が見え見えだ。 どうやら能力にあぐらをかいていたようだな?」

 

「くっ……!」

 

まあ、今のは気配も含まれているが、実際はほぼ直感で見つけたんだけど……

 

「ーー最終通告だ。 これ以上の逃走は身の安全を保障できない」

 

「あ、あらあら〜……」

 

「………………」

 

メガネの女性はどこか楽しみながらも両手を上げて降伏の意志を見せ。 残りの長い茶髪を後ろで縛った女性の反応を見ると……

 

「ディエチ!」

 

「っ!」

 

いきなり背後から人の気配が現れると共に奴らとの間に丸い物体……手投げの爆弾らしき質量兵器が投げ込まれた。

 

《ラウンドシールド》

 

咄嗟にレゾナンスアークが防御魔法を展開。 次の瞬間、質量兵器から大量の煙が発生した。 どうやら2人を逃がすための目くらましだが、あんまり視界に頼らない俺には通用……

 

「だあっ!」

 

「な……」

 

煙の中から茶髪の女性が両腕で頭を守りながら突進してきた。 まさか攻撃に転じて来るとはおもなかったが、冷静に対処。 拘束しようと腕を掴もうとすると……腕は掴めずにすり抜けた。

 

「幻影……!?」

 

「シルバーカーテン……最大駆動!」

 

どうやら幻影で頭を守っていた腕は幻影、本当は頭突きのように突進してたようだ。 そして後ろに抜かれ、メガネの女性が茶髪の女性を回収、逃走した。 巻き上がる砂塵の中、気配が消え……何も感じ取れなくなった。 どうやら姿を消す機能を最大に使い、かなり遠くまで逃げたようだな。

 

俺はもう逃げていると思うが、質量兵器を投げた人物を見ようと後ろに振り返ると……地面から手が生えていた。

 

「あ、やばっ……」

 

人差し指についていたカメラがこちらを向き、すぐに沈んで行った。

 

《どうやら無機物内を自在に通り抜けられるようです》

 

「厄介な能力を持っている事で……まあいい、はやて! 通告無視を確認! よろしく頼む!」

 

『了解や!』

 

念話ではやてにそう報告し、レゾナンスアークに位置情報を転送させた。

 

『位置確認……詠唱完了! 発動まで……後4秒!』

 

「了解……! フェイト!」

 

「うん……!」

 

はやてと通信後、すぐにUターン。 その場から離脱する。 チラリと背後を見ると……はやての魔力がする巨大な黒い球体が浮かんでいた。 広域空間攻撃による燻り出し……はっきり言って大袈裟過ぎるな。

 

『遠き地にて、闇に沈め………デアボリック・エミッション!!』

 

黒い球体が圧縮し……爆発するように増大、辺りを一帯を黒い衝撃が飲み込んでいく。 あ、いた……2人は上空に逃げたが……

 

《投降の意志なし……逃走の危険ありと認定》

 

「そう……」

 

パルディッシュの意見を聞くと、フェイトは魔力を高め出し。 2人を挟んでその反対方向にはなのはとアリサが待ち伏せしており。

すでに砲撃の発射体制に入っていた。

 

「トライデント……スマッシャー!」

 

「ディバイン……バスターー!」

 

「アトミック……ブレイザーー!」

 

3人はカートリッジをロード。 目標の2人に向かって容赦無く同時に砲撃を放った。

 

「これは………避けられないわね」

 

「そうですね」

 

2人が諦めモードに入っていると……砲撃が当たる寸前、何かが間に割って入り、2人を回収していった。 3つの砲撃が衝突、大きな爆発を引き起こしながら辺りを見渡す。

 

『ビンゴ!』

 

「ーーじゃない! 避けられた!」

 

『え……』

 

「直前で救援が入ったね……ロングアーチ、すぐに追跡を!」

 

『は、はい!』

 

フェイトが指示を出す中……俺はなのは達の前から姿を消し、ある場所を目指してた。

 

「ーー見つけた」

 

「なっ……私のランドインパルスに追いついたのか!?」

 

先ほどの地点から数十キロ離れ地点、そこに先ほどの2人組と救援に入ったと思われるもう1人の女性がいた。

 

「あなたのその魔法みたいなのは前に見た事があってね。 それで反応できたのさ。 まあ、俺は敵を認識するのに視覚はあんまり頼ってないのもあるけど」

 

「くっ……」

 

《マジェスティー。 3人の内2名は9年前、違法研究所で交戦した人物です》

 

「ーーああ、思い出した。 そこのメガネの女性……確かクアットロって言ってたね」

 

「…………………」

 

レゾナンスアークにそう言われ思い出した。 そういえばゼストさん達を救出した時に襲いかかってきた3人組、その中にあのメガネの女性と短髪の女性がいたな。 他は当時同い年ぽかった銀髪の少女……これは今はいいか。

 

「さて、昔の事は置いておいて……今度こそ大人しく投降してもらおうか」

 

「ちっ……!」

 

威圧を発しながら刀を突き付け、短髪の女性は身構える。 すると横から羽根が飛来してきま。 問題なく切り落とし、飛来してきた方向を見ると……ビルの路地裏からクレフが現れた。

 

「……クレフ・クロニクル」

 

「ククお嬢様!」

 

「……サンドストリーム」

 

久しぶりだというのに、警告もなしに手をこちらに向け、ククが砂塵の竜巻を引き起こし飛ばしてきた。

 

「ーー抜刀!」

 

刀に集束魔法を付与、迫ってきた竜巻を両断したが……

 

「忠告しておく、マテリアル1に噛まれるなよ」

 

「何っ!?」

 

短髪の女性はそれだけを言い残し、奴らはその隙にククの集団転送によって逃げられてしまった。

 

『…………だめです。 完全にロストしてしまいました』

 

「……ふう、逃したものは仕方ないか」

 

それにしてもマテリアル1……ってことは2もいるわけで。 奴らが狙ったのはヘリ、機内にいた人物は……そう推測するとマテリアルに当てはまる2名は、あの少年とヴィヴィオ。

 

「……考えても仕方ないか」

 

思考を切り替え、その場をなのは達に任せ。 ソーマ達と合流するため、高速道が見える地点にあるビルに降り立った。

 

そこではヴィータが深刻そうに報告する中、ギンガがスバルの脇腹を小突き。 スバルは意図を理解して頷いた。

 

「あ、あの〜……ヴィータ副隊長」

 

スバルは遠慮がちに声をかけるが、目の前にグラーフアイゼンを突き付けられて言い出せず。 ヴィータは報告を再開する。

 

「ああ、フォワード陣はベストだった。 今回は完全にあたしの失態だ……」

 

「リインもです……」

 

「ヴィータさん、あのー……」

 

「っ、何だよ! 報告中だぞ!」

 

今度はソーマが声をかけるが、自分の責任と分かりながらもイラつくヴィータを、サーシャが慌てふためきながらも落ち着かせようとする。

 

「あ、あのあの、怒る気持ちは渡りますけど、一旦落ち着いてください」

 

「いや……あの、その……ずっと緊迫してたのでいつ切り出そうかと迷ってたんですけど……」

 

同様に、ティアナも遠慮がちに話を切り出した。

 

「レリックには一工夫してまして……」

 

「ん?」

 

『あ、あははは……』

 

3人は苦笑いした後、ヴィータとリインにその一工夫した内容を説明した。

 

「ケースはシルエットではなく本物でした。 あたしのシルエットって衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから」

 

「なので、ケースを開封してレリック本体に直接厳重封印をかけてね」

 

「それでその中身は……ちょっとごめんねー」

 

「え?」

 

スバルは断りを入れてキャロの帽子を取ると、そこには花咲いたカチューシャがあった。

 

「え、何これ?」

 

「ーーこんな感じで」

 

パチンッ!

 

キャロがあたふたする中、ティアナは指を鳴らして魔法を解除。 カチューシャの魔法が解けてキャロの頭の上にレリックが出現した。

 

「ふえええ!? な、何で私の頭の上にレリックが!?」

 

「こうしてレリックを守ってたのよ。 それで敵との直接接触が一番少ないキャロに持たせたの。 まあ、気絶してたから勝手に乗せたけど」

 

「そうだったんですかぁ〜!」

 

「あ、あはは……」

 

リインは驚きながらも納得し。 ヴィータはしてやられたと顔を引攣らせ、変な笑い声を出した。

 

「……気絶させたのは美由希さんでしょう」

 

「あ、あはは……」

 

「まあ、キャロとククが顔見知り……同郷だったのは驚きだけどね」

 

「あ……」

 

何気なくルーテシアがそこを指摘すると、キャロは色んな感情が胸の中で渦巻き……落ち込んでしまった。

 

「……話すべきかな、D∵G教団……過去に引き起こされた事件を……」

 

「ーー陛下!」

 

キャロに真実を伝えるか否か悩んでいたら……背後から声をかけられ、振り返るとシャッハとシグナムが飛んできた。

 

「シャッハ、シグナム。 遅い到着だな」

 

「どうやら、我々の出番は無くなったようだな」

 

「ああ、ご足労をかけたな」

 

「いえ、気にしないでください。 ここは素直に任務完了を喜ぶとしましょう」

 

俺達はソーマ達の元に向かい、すぐに事態の収拾に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、聖王医療院ーー

 

市街地での事件を収集した後、聖王医療院に例の少年とフェイトの強い意向でエリオを搬送、治療を受けさせた。

 

『検査の方は一通り終了、大きな問題はなさそうだったから今からそっちに戻る』

 

なのは一緒に移動しながら、フェイトに少年の容態を念話で報告していた。 本当はフェイトも来たがっていたが、自分の立場をようやくわきまえて俺となのはにエリオを任せたようだ。

 

『うん、了解』

 

『フォワードの皆は?』

 

『元気だよ。 キャロの怪我も割と軽かったし、報告書を書き終えて今は部屋じゃないかな?』

 

そう言い切ると。 フェイトは少し間を置いて質問してきた。

 

『それでその……エリオは?』

 

『外傷ばかりで臓器などの損傷はなし。 そのまま健康診断も受けさせるから、明日にも退院できるってリンスが』

 

『そう……よかった』

 

砲撃で狙われたこともあり、やはり心配だったのか。 フェイトはホッと一息ついた。

 

『私も戻って報告書書かなきゃ。 今回は枚数多そ』

 

『大丈夫。 資料とデータは揃えてあるから』

 

『あはは、ありがとう』

 

『ま、1番酷かった報告書を思い出せば……どんなのでも楽だと思うさ』

 

『…………そうだけど……思い出させないでよ……』

 

フェイトでも目に見えてテンションが下がった。 やっぱりあの教団事件後の報告書は堪えたようだ。 俺もだけど。

 

そこで念話を切り、俺となのはは医療院の購買前に差し掛かった。

 

「あ……これ、あの子にどうかな?」

 

なのはが手に取ったのはうさぎのぬいぐるみ……どうとはと言うと、恐らく少年へのお見舞いの品だろう。

 

「いやいや、ヴィヴィオじゃないんだから」

 

「え〜? じゃあこっちは?」

 

今度は隣にあった犬のぬいぐるみを指した。 いや、大して変わってないんだけど……

 

「……まあ、うさぎよりはいいか」

 

それで決まり、犬のぬいぐるみを購入した。 その後病室前でなのはと別れ、少年が寝ている病院に入った。 その中にあったベットの中にあの少年が眠っていた。 その側に、ヴィヴィオが少年を見守っていた。

 

「あ、パパ」

 

「ヴィヴィオ。 六課に帰って無かったのか?」

 

「うん。 ちょっと気になって」

 

枕の隣になのはのお見舞いの品である犬のぬいぐるみを置いた。 ……やっぱり違和感があるな。

 

「ワンちゃんだあ……! パパ、ヴィヴィオのうさぎさんと一緒だね!」

 

「は、はは……そうだな」

 

ヴィヴィオの言葉に苦笑いで同意しながら、側に立てかけられてあった刀袋に入っている太刀を手に取った。

 

「太刀、か……」

 

太刀を鞘から抜き、刀身を眺める。 奴らと少年、そしてこの太刀から推測すると……そこで考えを止め、太刀を片付けた。

 

「……ここから先は資料を見ないとな……」

 

「パパ?」

 

「あ、何でもないよ。 そろそろママ達が心配してるし、帰ろうか?」

 

「うん!」

 

差し出した手をヴィヴィオは笑顔で握り、手を繋ぎながらもう一度少年に振り返った。

 

「じゃあ、また来るな」

 

「バイバーイ」

 

それだけを言い残し、俺とヴィヴィオは病院を後にした。

 

 

 


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