魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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160話

 

 

7月8日ーー

 

今日もフォワードのメンバーは朝からなのはとアリサの厳しい教導を受けていた。 俺は模擬戦の時に発生した異界の調査のために訓練場を訪れ、調査が終わって異界を出る頃には訓練も終わっていた。 ソーマ達はあの一件以来、それなりに心を許しあえるようになり。 アギトとリインの事も含めて六課はいい方向に風が吹いていた。

 

「はい、今朝の訓練と模擬戦も無事終了……お疲れ様。 でね、実は何気に今日の模擬戦が第2段階クリアの見極めテストだったんだけど……」

 

『え!?』

 

「ふふ、どうでした?」

 

なのはの答えた事に、フォワード陣が驚きの声を上げる。 まあ、驚くのも無理はないか、いきなりだったわけだし。 そして、なのはが驚いた表情を見て笑いながら後ろにいるフェイト、アリサ、ヴィータに評価はどうかと問いかける。

 

「合格」

 

『早っ!』

 

フェイトの即答に、ティアナとスバルは思わず思ったことを口に出した。

 

「まぁ、こんだけみっちりやっていて問題あるようじゃ大変だってこった」

 

『あ、あはは……』

 

ヴィータの言葉に、エリオとキャロとルーテシアが苦笑いする。

 

「私も、皆できていると思うけど……アリサちゃんはどう?」

 

「まぁ、最初の頃に比べれば断然によくなっている。皆……よく頑張ったわね」

 

『はい! ありがとうございます!』

 

アリサの激励に、ソーマとサーシャは座りながらも背筋を伸ばしてお礼を言う。

 

「うん。 それじゃあ、これにて2段階終了」

 

「やった~!」

 

フォワードの全員は本心で喜んだ。 色々と右往左往したが……ここまで来れたからな。

 

「デバイスのリミッターも1段解除するから、後でシャーリーの所に行って来てね」

 

「明日からはセカンドモードを基本形にして訓練すっからな」

 

「はい!」

 

「………え、明日?」

 

ヴィータが言ったことに、姉さんが思わず聞き直した。

 

「ええ、訓練再開は明日からよ」

 

「今日は私達も隊舎で待機する予定だし」

 

「皆、入隊日からずーっと訓練漬けだったしね」

 

つまりどういう意味か……ソーマ達は顔を見合わせた。 俺は苦笑いしながら皆に近付いた。

 

「ーーつまり、今日は全員1日お休みと言う訳だ」

 

「あ、レン君」

 

「もう調査はいいの?」

 

「ああ、あの異界は特に問題ないだろう」

 

「まあとにかく……今日1日休むなり街に行くなりして、疲れをリフレッシュしてから明日また訓練を頑張りさい」

 

『は〜〜い!』

 

休みだと分かると、皆は訓練の疲れも忘れ、控えめなティアナとサーシャも含めて元気よく返事をするのだった。

 

 

訓練終了後、俺達はすずかとアリシア、はやてとシグナム達と鉢合わせし。 そのまま一緒に朝食を取っていた。

 

「へぇ……皆は町で朝食を済ませるんだね?」

 

「ここの食事は不味くはないとはいえ、たまには他の物も食べたんでしょう」

 

「ふふ、そうだね。 私はここのごはんは好きだよ? どこかお母さんの味がするし」

 

「六課のおばあさん達は地球文化がそれなりに好きだからな」

 

それと噂好きでもある。 よく有らぬ事を吹聴したりして困ってたりもする。

 

「お姉ちゃんも街出ても良かったんだよ?」

 

「いいのいいの。 私は部屋でゴロゴロしてる方が性に合ってるから」

 

「それはそれでいいのか……?」

 

アギトとは美由希の自堕落っぷりに呆れる。

 

「そういえばヴィヴィオは?」

 

「ついさっきファリンとビエンフーと一緒に街に出かけたよ。 多分公園で遊んでいるんだと思う」

 

「そうか……ヴィヴィオとは最近遊べてないし。 寂しい思いをさせているかもな……」

 

「考え過ぎよ。 あの子は我儘をあまり言いたがらない子よ。 とはいえ、やっぱりそう考えるのも……」

 

「親バカめ」

 

ヴィータにそう言われ、自覚がありながらもどうしようもないと思いつつも苦笑してしまう。 まあそこは置いておき、ちょうど食堂で空間シュミレーターのモニターに表示されニュースが流れてきた。 そのニュースを聞き流しながら和気藹々と食事を続ける。

 

『ーー当日は首都防衛隊の代表、レジアス・ゲイズ中将による管理局の防衛思想に関しての表明も行われました』

 

レジアス・ゲイズ……という名前が出ると俺はテレビに視線を向ける。 なのは達も気になるのか、モニターの方に注目する。

 

『魔法と技術の進歩と進化、素晴らしいものではあるがしかし! それ故に我々を襲う、危機や災害も10年前とは比べ物にならないほどに危険度を増している! 兵器運用の強化は進化する世界を守る為のものである!』

 

巌のような強面な表情と、厳とした迫力で表明を行うレジアス中将。 最初にあった時よりはまろやかになった気もするが……相変わらずで何よりだ。 レジアス中将に参列していた管理局員達の拍手を聞きながら、食事を再開した。

 

『首都防衛の手は未だ足りん。 地上戦略においても、我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪発生率も20%、検挙率においては35%以上の増加を初年度から見込むことが出来る!』

 

「……このオッサンはまだこんなこと言ってんのな」

 

「中将は、古くからの武闘派だからな」

 

ヴィータは呆れながらパンを口に頬張り、シグナムは思った事を口にした。 だがそれを否定するようにアリサは静かに首を振った。

 

「でも、それは彼の優しさの裏返しよ。 人の上に立つ以上、示しが無ければいけない……そう言う意味で、レジアス中将は私達に期待しているのよ」

 

「対策課としても、六課としてもねー」

 

「そしてゼストさんが力でミッドを守り、レジアスさんが政治でミッドを守る。それがあの人達のやり方」

 

「……もし、あの時ゼストさんを救えなかったら……レジアス中将はあの見た目の通りに、そしてさらに深刻になっていたかもな……」

 

「ゼストの旦那、元気になってるかなぁ〜?」

 

「……あ、ミゼット提督」

 

「ミゼットばーちゃん?」

 

なのはがモニターに映っている人物を見て呟いた。 ヴィータはミゼットに反応しモニターを見る。 視線をモニターに戻すと、レジアスさんの背後に、ミゼットさんの他にもレオーネさん、ラルゴさんが同席していた。

 

「あ、キール元帥とフィルス相談役もご一緒なんだ」

 

「伝説の三提督揃い踏みやね」

 

「でもこう見ると……普通の老人会だな」

 

「あ、確かにー。 浮きまくってるけど……」

 

……確かに。 それにレジアス中将の表明もすぐ側で行っているので……かなり浮いている。 場違いではないことは分かっているが。

 

「もうダメだよヴィータ、偉大な方達なんだよ」

 

「管理局のシステムを組み立てた凄い人だけど、こう見るとヴィータちゃんと同じ印象を受けるね」

 

「ま、アタシ好きだぞ。 このばーちゃん達」

 

ヴィータは嬉しそうに笑い、はやてと同じ気持ちのようだ。 ただ……

 

「前にミゼットさんと会ったら、ヴィータが大きくなり過ぎたって愚痴ってたぞ」

 

「そうね、孫娘の限度を越えているのかもしれないわね」

 

「な、なんだよそれ!?」

 

「まあそれはいいとして……ミゼットとレオーネの孫達、シェルティスとユミィと友達だしねぇ。 そこまで世界観が違うとはあんまり思わないかなぁ〜」

 

「そうだね。 雲の上の存在とはあんまり思わないかな?」

 

「そやな。 対策課のおかげ、それにVII組での経験のおかげかもしれへんなあ」

 

「ええ、そうかもしれません。 あの3年間は主はやてを大きく成長させました」

 

『ーー私は今までそう考えてきた。 しかしこの考えも変えなければならないといけない』

 

その時、流しっぱなしにしていたニュース……レジアス中将の発した言葉になのは達は思わず驚いた。俺達対策課のメンバーは顔を見合わせ……少し笑い、コーヒーを一口飲んだ。

 

『いくら技術が進化しようと我々も変わらなければ何の意味はない。 我々一人一人の力は弱い……だから共に助け合い手を取り合わなければならないのだ。 海も陸も空も関係なく互いが協力することで犯罪がなくなる。 それを図らずとも立証してくれたのが異界対策課だ。 彼らは世界の脅威たるグリードを討伐する傍ら……海、陸、空関係なく協力してくれる。 おかげで地上の犯罪発生率は30%低下し検挙率は40%を超えた。私はこの実績を見て海、陸、空の3つが対策課のように協力し合えればさらなる効果を発揮すると確信した。 今必要なのは管理局の改革なのだ』

 

レジアス中将の長い表明に拍手が送られる中、なのは達はポカーンとした顔になる。 無理もない、今までレジアス中将が言っていた事とは全然違う発言だからな。

 

「ふーん、ようやく切り出したのかなー?」

 

「ホント、レジアス中将も随分と丸くなったものね。 昔とは大違い」

 

「ふふ、いつも強面だからすっごい分かりにくいけど。 内心喜んでいるみたい」

 

「いや、アレのどこが喜んでるんだ?」

 

「全然変わってないですぅ」

 

それなりに交流があった対策課のメンバーはともかく、なのは達にはレジアス中将の感情の変化はよく分からないようだ。

 

「さてと、俺はもう行くよ」

 

「ああそうか。 レンヤ君はまだ仕事あったんやったけ?」

 

「ああ。 午前は事務処理、午後は対策課に行って訓練場にある異界の現状報告。 ちゃんと働く限度は守っているとはいえ、当分はソーマ達みたいに休めないだろうな」

 

「お互い、大変やな……」

 

「なら、事務処理くらいは私がやっておこうか? この後仕事は簡単な書類整理だけだから」

 

「なら、ありがたくお願いするよ。 ありがとな、フェイト」

 

「ううん、気にしないで」

 

(むう……)

 

(出遅れちゃった……)

 

(ま、まだまだ焦る段階じゃないわ)

 

(フェイトちゃん、抜け目ないなぁー)

 

(お姉ちゃんを出し抜くとは、やるようになったね)

 

なにやらなのは達の視線が気になるが、フェイトは特に気にせず。 俺の腕を引いて食堂を後にした。

 

「あ、ごめんレンヤ。 少し待って来れないかな?」

 

「何か予定でもあったのか?」

 

「ううん、エリオ達が……」

 

「……ああ。 それぐらいなら構わない、行こうか」

 

心配なんだな、エリオとキャロが。 フェイトは過保護だと思うが、俺もヴィヴィオの事でも人の事を言えないな……

 

その後、休憩スペースに向かい。 先にいた私服のエリオにフェイトは母親よろしく忘れ物が無いかの確認やお小遣いが足りるかどうかの確認をした。

 

「エリオー!」

 

(パタパタ)

 

「お待たせしましたー!」

 

「キュクルー!」

 

着飾ったルーテシアとキャロがやって来た。 2人とも年相応に可愛らしい服を着て、肩の上にはガリューとフリードがおり、エリオは頰を少し赤くして固まっていた。 俺はそんなエリオの反応に苦笑し、静かに背後に回って耳打ちをした。

 

(ほらエリオ、褒めてあげろ)

 

「(え!? あ、はい……!) ふ、2人とも、よく似合ってるよ……!」

 

「えへへ、ありがとう!」

 

「へえ、気の利いた事を言うじゃない。 及第点はあげるわよ」

 

「あ、あはは……」

 

ルーテシアの少し辛い評価にエリオは苦笑い。 相変わらずマセてるな、こいつは。

 

「そうそう、これからシャーリーから貰ったプランなんだけど……どう思う?」

 

「どれどれ?」

 

差し出されたメイフォンの画面に映っていたプランを見ると……どう見たってデートプランだった。 このプランの意味絶対エリオとキャロは知らないだろ。 笑顔で無意味に応援するシャーリーの顔が思い浮かぶ……

 

「ま、まあ3人には少し難しいと思うし。 このプラン通りにしなくてもいいじゃないか?」

 

「ふう〜ん?」

 

(?)

 

「キュクル?」

 

その後、3人を正面玄関まで見送りし。 ソーマ達を見送っていたなのはと一緒に中に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻り、ティアナ達は街に出るために足を確保していた。

 

「貸すのはいいけど、転かすなよ?」

 

「はい、分かってます」

 

ティアナは公道で街に向かうため、ヴァイスが私用していたバイクを借りる事にしていた。 その隣にはサイドカーが外されたレンヤのバイクも置かれていた。 ヴァイスが訓練でのティアナの動きを褒める中、ソーマがやってきた。

 

「ヴァイスさん!」

 

「おう! 準備は、出来てるぞ」

 

二つ返事でバイクのキーを放り投げ、ソーマは危なげなく受け取る。

 

「2人は?」

 

「正面玄関で待ってるわよ。 ……あのヴァイス陸曹、聞いちゃいけない事だったら申し訳ないんですけど……」

 

「ん?」

 

唐突にティアナはバイクのエンジンをかけ、跨りながら遠慮がちにヴァイスに質問する。

 

「ヴァイス陸曹って魔導師経験ありますよね?」

 

「……まあ、俺ぁ武装隊の出だからなぁ。 ど新人相手に説教くれられる程度にはよ。 オメェの兄さんとも何度か仕事をした事もある」

 

「あ……」

 

そこでティアナの一瞥し、話を続けた。

 

「とはいえ……昔っから乗り物……特にヘリとかが好きでな。 そんで今はパイロットだ。 ま、腕が鈍らない程度に時々シグナム姐さんにシゴかれているがなぁー……」

 

「…………………」

 

「ほれほれ、彼氏が待ってんだろ。 行ってやんな」

 

「なっ!?///」

 

背を向け、からかいながらガレージに入るヴァイスに。 ティアナは顔を一瞬で真っ赤にして慌てふためく。 ちょうどその時、横にバイクに跨ったソーマが来た。

 

「むぅ……」

 

「ティア、どうかしたの?」

 

「何でもない! 行くわよ!」

 

「???」

 

照れ隠しのように先に行ってしまったティアナを、ソーマは困惑しながらも追いかけた。 正面玄関に着くとスバルとサーシャがおり、見送りになのはがいた。

 

「じゃ、転ばないようにね?」

 

「大丈夫です。 前の部隊にいた時はほとんど毎日乗ってましたから」

 

「ティア、運転上手いんです!」

 

「そう。 ソーマ君も気をつけてね」

 

「はい。 反面教師がいましたし……」

 

「エナちゃんですね……」

 

バイクに乗ったら性格が豹変して爆走するエナ……アレを見たら誰でも気圧されてしまう。

 

「あ、お土産買ってきますね! クッキーとか!」

 

「嬉しいけど、気にしなくてもいいから。 皆で楽しく遊んできてね」

 

『はい!』

 

「行ってきまーす!」

 

ソーマとティアナはアクセルを回し、なのはに見送られながら六課を出発した。

 

「うっきゃあああーー!! たーのしーーい!!」

 

かなりのスピードで何度もカーブを曲がり、スバルは興奮して変な叫びを上げた。

 

「ちゃんと掴まってなさいよー」

 

「だーいじょーぶーー!」

 

先頭を走る2人は楽しそうに走るが、後方を走っていた2人は少し違かった。

 

「うっ……あのコーナリングをあのスピードで入るかなぁ」

 

「あうあう、ティアナさん……結構怖いもの知らずです」

 

上司に反論できる時点で怖いもの知らずも何も無いが……ソーマはティアナに着いて行くのに精一杯だった。

 

『ソーマー、まずは街でアイス食べる事になったんだけどいいよねー?』

 

『う、うん。 それで構わないよ』

 

『ならスピード上げるわよ。 ちゃんと着いて来なさいよね!』

 

『あうあう、ティアナちゃんも性格変わってるよぉ……』

 

念話でそのような会話をしながら、ソーマ達4人は公道を走り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバル達がゆっくり息抜きしている中……ミッドチルダの地下道路で事故が起きていた。 警邏隊が道路を封鎖、事故の原因の調査をしていた。

 

「ーー陸士108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です。 現場検証のお手伝いに参りました」

 

この事件の場に、長い紫の髪に頭の後ろで結んだリボン女性……スバルの姉であるギンガ・ナカジマが現れた。

 

「ありがとうございます」

 

「横転事故と聞きましたが……」

 

「ええ、ただ事故の状況がどうも奇妙でして」

 

管理局員の話を聞きつつ、ギンガは辺りは観察する。 辺りにはトラックの積荷であろう物が無残にも散乱していた。

 

「運転手も混乱しているようですが、どうも何かに攻撃を受けて……荷物が勝手に爆発したって言うんですよね」

 

「運んでいた荷物は缶詰や飲料ボトル……爆発するような物ではないですね……」

 

「それと、下の方に妙な遺留品があってですね……」

 

それは……斬り裂かれて破壊されたガジェットだった。 ギンガは驚きながらも視線を横に向ける。 妙な液体が転々としており、その先には……

 

「……これは……生体ポット……!?」

 

中身がない、生体ポットが置かれていた。

 

「どうしてこんな物が……っ!」

 

生体ポットが積まれていた事実にギンガは驚くが、それと同時に嫌な気配を感じ。 その方向に振り向くと……そこにはガジェットがいた。

 

「ーーとりゃあああああっ!!」

 

ガジェットの発見と同時にノーモーションで飛び出し、回し蹴りを繰り出してガジェットの胴体を凹ませ。 その勢いのまま壁にめり込ませた。

 

「ふう……レンヤさん達の判断に仰ぐしかないわね」

 

ギンガはそう呟くが、管理局員達はギンガの変わりようにかなり引いていた。

 

 

時を同じくして、エリオ達は楽しそうに街を歩いていた。

 

「っ!」

 

突然、エリオは何かを感じ。 笑顔だった顔を一緒で引き締めた。

 

「? エリオ君?」

 

「いきなりどうしたの? 変な顔して?」

 

「……キャロ、ルーテシア。 今何か聞こえなかった?」

 

「何か?」

 

「ゴトっていうか……ゴリっというか……」

 

エリオは辺りを見渡し、目の前にあった路地裏が目に入った。 すぐに走り出し、路地裏に入ると……タイミングよくマンホールの蓋が動いた。

 

「な、何?」

 

「静かに……警戒しなさい」

 

ルーテシアも真剣な表情になり、この後どうなるか警戒する。

 

ガンッ! ガンガンッ! ガンッ!!

 

マンホールが引っかかっているようで、力づくで開けるようにマンホールを何度も蹴られる音がし。 それから何事なかったかのようにシーンとなった。

 

「……あ、あれ?」

 

「何も出てこないわね……」

 

「そうだね………っ!?」

 

3人が緊張を緩めたその時、凄まじく剣呑な気配がマンホールの下から発せられた。 その気配にキャロが尻餅を付いた瞬間……

 

ジャキンッ!!

 

マンホールの上が一瞬閃き……

 

ガンッ!!

 

マンホールの4当分され、その一切れが蹴り上げられた。

 

『っ……!』

 

その現象に3人の息を飲んだ。 誰かいる、しかも凄まじく強い……

 

「っ!」

 

出てきたのは……1人の黒髪の少年だった。 年はエリオ達と大差ないが……少年はエリオ達の姿を捉えると警戒し、敵意を剥き出しにし。 手に持っていた身の丈に合わない普通の……質量兵器の太刀を構えた。

 

「ま、待ってください! 僕達は時空管理局です!」

 

「ううっ……!」

 

エリオはIDを見せながら警戒を解こうとするが、少年は突然胸を押さえ出した。

 

ドックン! ドックン!! ドックン!!!

 

「オオオオオオオオッッッ!!!」

 

少年の胸から黒い魔力が溢れ出し、天に向かって雄叫びをあげると黒い魔力が全体に放出された。

 

「きゃあ!!」

 

「こ、この魔力は……!」

 

「うっく……!」

 

エリオ達は魔力に気圧されないよう踏ん張り、黒い魔力が晴れると……そこには少年が立っていた。 だが、その姿は変化しており。 黒髪が白髪になり、黒い瞳が血のような紅の色になっており。 身体中から黒い電撃や炎のようなものまで出ている。

 

「オオオオッ!!」

 

「っ! ストラーダ!」

 

《セットアップ》

 

襲いかかってきた少年に、エリオはすぐさまストラーダを起動、バリアジャケットを纏い振り下ろされた太刀をストラーダで受け止めた。 その衝撃音に、一般市民は何事かと集まってしまう。

 

「ぐうっ! 何て力だ……!」

 

「アアアアアアッ!!」

 

エリオは余りに力に膝をつき、両手でストラーダを掴んで堪える。 その威力は地面を凹ませ、亀裂が走るほどだ。

 

「シャアッ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

少年は一瞬力を抜き、そのせいで踏ん張っていた力が空振りしエリオは前につんのめる。 それを狙って少年はエリオの胴体に蹴りを入れ、反対側のビルに吹き飛ばした。 そこでようやく、自体を理解した一般市民達が慌てふためくようにエリオ達から離れていく。

 

「エリオ君!」

 

「エリオ!」

 

「だ、大丈夫だから! 2人は六課に連絡を!」

 

心配して呼びかけたキャロとルーテシアに問題ないと言い、エリオはストラーダを支えにして立ち上がる。

 

(……どこかデタラメのようで、太刀筋に理がある。 理性は飛んでいるけど、彼が持っている剣術は生きているのかな?)

 

ピンチの時こそ冷静に状況を判断せよ……レンヤの施した教えがエリオに活力を与えていた。

 

(僕が今もてる、槍術の全てを彼に……! フェイトさん、ごめんなさい。 無事に夕方まで帰れそうにありません!)

 

「オオオオオオオオッ!!」

 

「はあああああああっ!!」

 

心の中でフェイトに謝罪し、エリオは自分から少年に走り出し……2人の少年の叫びと共に、太刀と槍がぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピロンピロン! ピロンピロン!

 

フェイトと事務処理をしていた時、レゾナンスアークに通信が届いた。 どうやらルーテシアからの六課全体に向けられたようだ。

 

「六課全体に?」

 

「これは……ルーテシアか、なにかあったのか?」

 

『こちらフェザーズ4! 緊急事態につき現場状況を報告します! サードアベニュF23の路地裏にてレリック思しきケースを発見!』

 

『ケースを持っていたらしい、私達と同年代くらいの男の子ですが……』

 

困惑するキャロが次に映し出したのは、エリオと白髪と紅の目をした少年が戦っていた光景だった。

 

『ッシャアアアアアアアッ!!!!』

 

『ぐっ!? うおおおおおっ!』

 

少年が獣のような叫びと共にとんでもない速度でエリオに肉薄、鋭い太刀筋が一瞬でエリオを斬りつけた。 エリオも負けじと応戦するが……少年は鎖に繋がれている手も御構い無しに、レリックごと振り回している。

 

『相手は錯乱状態よ。 しかもレリックに鎖が繋がれている状態でもあり得ないくらい強い!』

 

『し、指示をお願いします!』

 

かなり緊迫しているようで、キャロはもちろんのことルーテシアも冷や汗を流していた。 はやては行動に移し、なのははスバル達に指示を出した。

 

『スバル、ティアナ、ソーマ、サーシャ。 ごめん、お休みは一旦中断』

 

『はい!』

 

『大丈夫です!』

 

「救急の手配はこっちでする。 4人はそのままエリオ達の元に向かって」

 

『はい!』

 

「ソーマ、サーシャ、少年を無傷で制圧。 その後応急処置、レリックの回収だ。 通信は常時開けておいてくれ」

 

『了解』

 

『わ、分かりました!』

 

俺達はすぐさま準備を整え、ヘリポートに向かって走り出した。

 

「エリオ……無事でいて……!」

 

「フェイト……」

 

先ほど映し出された傷付いたエリオを見て、悲痛な表情を浮かべながらも足を止めなかった。 そんなフェイトを頭を優しく撫でた。

 

「! レンヤ……」

 

「大丈夫だ、フェイト。 エリオを信じよう、あの子はフェイトが思っている以上に強い子だ」

 

「レンヤ……うん……」

 

少しはフェイトの気持ちは落ち着いたようだな。 だが、それでも急がないと……少年の事もあるが、レリックもある。 ガジェット、スカリエッティが出張ってくる可能性が高い。 やれやれ、飛んだ休日になってしまったな。

 

 

 

 


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