魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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158話

 

 

7月2日ーー

 

模擬戦での一件から数日が経過した。 今日もフォワードのメンバーは朝からなのはとアリサの教導を受け、メキメキと実力を付けてきていた。 そしてその日の午後……

 

「う〜んっと……ここだね」

 

ソーマ、サーシャ、ティアナ、スバルの4人はミッドチルダ西部の郊外にある聖王教会系列の教会前にいた。

 

「ふう……何でアタシ達が対策課の手伝いをする羽目になったのよ」

 

「ご、ごめんなさい……! 対策課はいつも人手不足で、偶にこうして私達が依頼を受け持つ事もあるんです」

 

「というか、ティアとスバルを同行させたのはなのはさんの指示でしょう? そう文句言わないの」

 

「むぅ……それは、そうだけど……」

 

納得のいかないティアナは頰を膨らませる。 ソーマ達は現在、午後の訓練を急遽異界対策課の依頼を手伝っていた。 訓練漬けの毎日なので気分転換も兼ねており、エリオ達も別行動で同様に依頼を手伝っている。

 

「それで? ここでどんな依頼を受ければいいの?」

 

「え〜っと、ハチの駆除をお願いしたいみたい」

 

「怪異全く関係ないわね! そんなの専門の業者に頼みなさいよ!」

 

「ま、まあまあ。 とにかく行ってみてから考えよう」

 

スバルはキレるティアナを落ち着かせ、ソーマ達は教会内に入った。 ここの責任者である神父に会おうと教会に入ると……

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「あら、スバル。 それに皆も」

 

神父と一緒に、陸士108部隊に所属しているギンガ・ナカジマと出くわした。

 

「何でギンガさんがここに?」

 

「ここのシスターさんから、教会内にあるハチの巣を駆除をしに来たのよ」

 

「え、それって私達と同じ依頼……」

 

神父に確認を取ってみると……どうやら神父とは別にシスターが陸士108部隊に届けを出したようで。 結果ダブルブッキングとなったようだ。

 

「すみません、こちらの不手際で……」

 

「いえ、気にしないでください。 カブった所で一緒にやれば特に問題はありませんから」

 

「そうだね! さすがお姉ちゃん!」

 

「はあ……さすが姉妹ね……それで、そのハチの巣はどこにあるんですか?」

 

「ああはい、こちらです」

 

神父に案内され、教会から少し離れた小屋に案内されたのだが……

 

「ほら、アレです。 いつの間にかあったんですよ」

 

「え……」

 

指差された方向にあったのは……小屋の壁を突き破っている巨大なハチの巣だった。

 

「どうですか? まあ、こちらは全部お任せしますけど」

 

「お任せしますじゃないわよ。 アレのどこがハチの巣なのよ……バケモノの巣の間違いでしょう!!」

 

「す、すみません! 昨日までは何もなかったんですよ!」

 

「あわわわ……」

 

キレ気味のティアナは、クロスミラージュを神父の額に当てて脅し気味に責め立てる。 神父は慌てて弁明し、どうやら一夜にしてこんなハチの巣が出てきたらしい。

 

「どこの世界に一夜にしてこんなハチがいるのよ。 女王蜂の我儘っぷりが目に見えるわね」

 

「いや、それティアが言える事じゃないから」

 

「うーん、これどうにかなるかなぁ?」

 

「そこを何とかお願いします。 私もこういう職業なんで殺生とかはちょっと……」

 

「人間は死んでもいいのかしら? バケモノに喰い殺されてもいいのかしら!?」

 

「っていうか神父に殺生もなにもないですよ。 異端審問とかやってそうですし」

 

「まあ、どうやらこれは私達の専門分野みたいですよ? エコーに反応がありますし、異界絡みなのは間違いないですよ」

 

サーシャがメイフォンを操作し、確認を取った。

 

「このままだと近隣にも迷惑がかかりますし、お願いします。 私らも応援しますので、聖歌歌いますので」

 

『〜〜〜〜〜〜♪』

 

いつの間にか後ろで盾を構えていたシスター達が一斉に聖歌を歌い出した。

 

「聖歌は辞めなさい! 縁起でもない!」

 

「あ、ではアカペラで。 皆さん、準備しますよー!」

 

「あ、ちょっと! 何を勝手に!」

 

神父の先導の元、関係者は準備のためにゾロゾロと教会内に入って行った。

 

「どうしよう……準備始めちゃったよ……」

 

「というかアカペラに準備って必要?」

 

「さ、さあ……」

 

「……頭痛くなってきた。 神崎隊長達はいつもこんなことをしてたのね……軽く同情するわ」

 

「あ、あはは。 まずは元凶のグリードが潜むゲートをどうにかしないと。 この小屋の中に反応があるよ」

 

「そうだけど……この巣を放置するのもね」

 

どう対処しようか悩んでいたソーマ達を他所に、スバルとギンガは準備体操をして体を解していた。

 

『ん?』

 

『ホァタアアァァッ!!』

 

スバルとギンガが姉妹仲よろしく一緒に飛び出し……巨大ハチの巣を容赦無く蹴った。巣が小屋に沈み込み、砂塵や風圧が舞う中、ティアナ達は呆然と2人を見た。

 

「終わったよ」

 

「これにて一件落着」

 

ナカジマ姉妹は笑顔で振り返って終わりを報告したが……振り返った先にいたソーマ達は地面に倒れ伏していた。

 

「あれ? 何やってるの?」

 

「おーい! ティアー、ソーマー、サーシャー!」

 

『話しかけくるんじゃないわよ! あのバカは姉が揃うともっとバカになるなんて……!』

 

『ちょっとティアー! ハチに死んだフリって意味あるの!? 聞いた事ないんだけど行けるのこれ!?』

 

『一説によると……死んだフリをしなくても動かないでじっとしているだけで、生き物と認識されない事が多いみたいです………多分』

 

『いや、そんな真剣に返されても……』

 

ソーマ達は地に倒れ伏した状態のまま、念話で会話する。 それよりも彼らの後方……神父達がソーマ達同様に死んだフリをしていた。 何人か血反吐吐いてダイニングメッセージを書いている。

 

「ねぇーー! ここからどうするのーー?」

 

「ちょっとあなた達ー、何死んだフリしてるのー?」

 

「…………あれ? 襲ってこないね」

 

「……そうね、留守だったのかしら?」

 

「いえ、異界にいるのではないでしょうか?」

 

何事もない事が分かり、ソーマ達は死んだフリを辞めて立ち上がり。 巣の前に向かった。

 

「そもそもこれ、本当にハチの巣なのかしら?」

 

「ゲートがこの奥にありそうですね。 でもハチの巣が道を塞いで通れないみたいですけど……」

 

「と、言うことは……」

 

「道がないなら……」

 

「え……」

 

『作るだけ!』

 

2人は声を合わせて頷き……巣を一蹴、粉々に壊した。

 

『よしっ!』

 

ゴンッ! ゴンッ!!

 

「よくないわよバカ姉妹!」

 

ティアナはスバルはおろかギンガにも容赦無く脳天に拳骨を下ろし、2人は頭から煙を上げながら倒れ伏した。そんな事を他所にサーシャは開けた道を通り、エコーを起動してゲートを顕現させた。

 

「で、ではでは、行きましょうか」

 

「う、うん、そうだね……」

 

「レッツゴー!」

 

いつの間にか復活したスバルが先導し、意気揚々に異界に突入した。

 

数十分後……全身が異界の蜂蜜、ミード塗れになったソーマ達3人がトボトボと、ナカジマ姉妹が笑いながら異界から出てきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、首都クラナガンーー

 

「はーい! 横断歩道は手を上げて渡りましょうねー!」

 

『はーい!』

 

美由希が横断用の旗を手に、子ども達に道路を横断させていた。 子ども達が去った後……

 

「って、ちっがーーうっ!!」

 

美由希は旗を地面に叩きつけた。

 

「これ異界対策課の仕事だよね!? なんでこんなボランティア紛いなことしてんの!?」

 

「異界対策課に依頼のほとんどはボランティアみたいなもんよ。 比率で言えば8:2くらい」

 

「何が8? ねえ、一体何が8なの!?」

 

「あ、やっぱり9かも」

 

(コクン)

 

「余計酷くなってる〜〜!?」

 

ルーテシアの残酷な真実に地面に手を付いて項垂れる美由希。 そんな中、幼稚園児の手を引いて来たエリオとキャロが歩いてきた。

 

「まあまあ、これはこれで楽しいですよ?」

 

「はい! とても楽しいです!」

 

「キュクルー!」

 

2人は子ども達にからかわれながらも、楽しそうに子ども達に道路を渡らせる。

 

「……そもそも、この中で一番年長者なのに、この扱いってどうよ?」

 

「フォワードの中で一番ミッドの事を分かってないんだから、あんまりウロチョロされたくなかったんでしょう? それに美由希、機械オンチだし」

 

「くっ……事実だし何も言い返せない……!」

 

「あ、あはは……それにしても、平和ですね。 先月の任務が嘘みたいです」

 

エリオは人の往来を眺めながら、そう呟いた。 エリオは人や車の喧騒が当然のように聞こえる日常が、久しぶりに思っている。

 

「私は初めてターミナルに行った時の人の多さにびっくりしてたから、よく分からないけど……確かにそうかも」

 

「ふっふーん、これも私達(対策課)がコツコツと地道に重ねて来た結果よ。 ……すぐそばに得体の知れない化物が潜んでいるかも知れない、いつもそんな恐怖を持って欲しくないから私達が頑張って……市民の皆と助け合いながらここまで頑張ってこれたんだ」

 

(コクン)

 

ルーテシアは胸を張りながら誇らしげに話してくれ、同意するようにガリューも頷いた。

 

「そうだね……他の管理局の人も優しくしてくれたし。 レンヤ達、ホントに皆に愛されているんだね」

 

「改めてすごいですね……」

 

「ーーにゃあ〜」

 

「ん?」

 

「あ、猫ちゃんだ〜♪」

 

不意に足元から猫の鳴き声が聞こえ、足元に黒猫がいた。 キャロは膝を曲げ、顔を綻ばせながら黒猫の頭を撫でる。

 

「野良猫かな?」

 

「首輪とかないし、そうだと思うよ」

 

「キュクルー」

 

「にゃあ」

 

エリオとキャロは寄って来た猫を目を輝かせながら優しく撫でる。

 

「にゃあ……」

 

「あれ? この子もしかしてお腹空いているのかな? 何かあったかな……」

 

「すみません、私は何も持ってないです」

 

「僕も食べさせてあげられるものは……」

 

「う〜ん、残念ながら今は……A5霜降り和牛しか持ってないわ」

 

いきなりルーテシアの両手に持ちきれない程の大きな肉が登場した。

 

「って、どこから大きいお肉を出したの!? それになんで持ち歩いているの!?」

 

「この後お母さんに届ける予定だったから」

 

(コクン)

 

「そ、そうなんだ……」

 

「そっか、それしかないか。 それじゃ仕方ないか、ごめんね。 このお肉じゃ身体に良くないから」

 

「にゃ、にゃあ……」

 

「変わりと言ったらなんだけど………これ、焼いてみたから」

 

美由希が猫の前に置いたのは……正体不明の暗黒物質だった。

 

「こっちの方が100倍身体に悪いですって!!」

 

「はあ……まいいわ。 あなた達、猫と戯れるのもいいけど、ちゃんと仕事しなさい」

 

「う、うん」

 

「ごめんなさい……」

 

「キュクル〜……」

 

ルーテシアに注意されて、2人は目に見えて落ち込む。

 

「にゃあ!」

 

「あ!?」

 

「キュクルーー!?」

 

突然猫がキャロに飛びかかり、肩に乗っていたフリードを咥え、走り去ってしまった。

 

「フリードーーー!!」

 

「あっちゃあー、フリードが物珍しくて興味持っちゃったか。 前にもガリューであったんだよねー」

 

(コクン)

 

「いやそうじゃなくて! 早く追いかけないと!」

 

美由希が猫を追いかけ出し、エリオ達も慌てながら続いて走り出した。 日頃なのはとアリサの訓練を受けている4人、猫に追いつく事などわけないが……猫は軽やかなフットワークで捕獲の手を逃れ続ける。

 

「うわあっ!?」

 

「もう、素早っこいわね!」

 

「フリードーー!」

 

「キュクーー!」

 

「待ちなーーぎゃん!?」

 

猫ばかりに気を取られ、美由希は頭から鉄柵に突っ込んだ。猫は華麗に鉄柵の間をすり抜け 、美由希の伸ばした手は鉄柵の間を抜けるだけで虚空を掴むのだった。

 

「美由希さん!?」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ーーふ、ふふ、ふふふ……」

 

メガネがずり落ちるのも気にせず、美由希は突然不敵に笑いだした。

 

「また、また私の邪魔をするんだね、鉄柵くん……」

 

「ちょ、ちょっと美由希……?」

 

「こ、この威圧は……!?」

 

「あわわわ……」

 

(ブルブル……)

 

黒いオーラを放つ美由希に気圧され、3人と1匹は恐怖を感じていた。 美由希はゆらりと立ち上がり、おもむろにメイフォンを取り出した。

 

「ソウルデヴァイス……」

 

「ちょ、ちょっと! 何する気よ!?」

 

「落ち着いてください、美由希さん!」

 

「ダメですよ! ソウルデヴァイスを出しちゃ!」

 

「止めないで……! 私は今こそ、鉄柵を超えなくちゃいけないの!」

 

美由希がエリオ達に止められる中……

 

「にゃあ」

 

「キュクル」

 

そんな光景を屋根の上から……いつの間にか仲良くなっている猫とフリードが見下ろしていた。

 

 


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