魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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155話

 

 

同日ーー

 

夕方頃に機動六課に帰投し……任務があった事から午後の訓練は休みとなり、その場で解散となった。 なにやらレンヤさんの顔色が悪かったようだが……何もないといい、早々となのはさん達に連行されていった。 いつもの事になったので特に気にする事はなく、今は汗を流そうと隊舎に向かったのだが……ティアが自主練をしたいと言い出し。 それに僕とサーシャは反対したが、スバル達は賛成して自主練をしようとした。 が、ティアはそれを断って1人で行ってしまい、呼び止める事が出来なかった。

 

「…………………」

 

その後、風呂に入って任務の疲れを取り。 湯船に浸かって思いにふけっていた。

 

「……ソーマさん」

 

「ん? 何かな、エリオ?」

 

「どうしてティアナさんは、あそこまで力を求めているんでしょう? 力を求める理由、分からなくもないんですが……ティアナさんのは少し強過ぎると思うんです」

 

エリオの疑問はもっともだ。 ティアのあの執拗に力を求める様は常軌を逸している。 だけど今は……

 

「……その事は、後で皆と一緒の時に話すよ」

 

「はい」

 

風呂から上がり、どうやらスバルの方にも同様に質問されたそうで。 スバルと目を合わせると……静かに頷き。 近くの休憩所にあったテーブルに座って話し始めた。

 

「ティアが、あそこまで力を求めるのは……やっぱりお兄さんの、ティーダさんの影響なんだよね」

 

「まあ、そうでしょうね。 ティーダの実力は管理局でも上位に入るほどの実力者……その兄を持って焦らない筈がないわね」

 

「それもあるんだけど……その切っ掛けを作ったのはある事件なんだ」

 

そこで一区切りし、スバルは一呼吸置いて口を開いた。

 

「公式には発表されてないけど……異界対策課設立当初の事件にティーダさんが関わってたらしいんだ。 ティアから聞いた事なんだけど、それが切っ掛けみたい」

 

「それが、切っ掛け……?」

 

「よく分からないね。 その事件って、何があったの?」

 

「うん。 その事件の初めに依頼したのは他でもない僕なんだけど……最初に言って置くと、その事件前のティーダさんは結構温厚だったんだよ」

 

「え、マジ?」

 

「とてもそうは思えないよ……」

 

「キュクル」

 

(コクン)

 

予想外の事実に、エリオ達は驚きを隠せない。 まあ、そうだよね。 あの時の性格の変わりようは別人だと思えるくらいだし。

 

「……ティーダさんは昔、ハンティングって言う不良チームにいたんだ。 それがある事件で解散……逃げるように性格を変えたらしんだけど、そのハンティングが異界関連の事件を起こしてね。 レンヤさん達と一緒に事件を解決して、過去と向かい合って今の性格に戻った……となるんだけど」

 

「それが原因にしてはちょっと……よく分からないね」

 

美由希さんは頭をひねって考え込む。 こういう所、そこはかとなくレンヤさんと似ている。 血は繋がってなくても、やっぱり姉弟なんだな。

 

「恐らく、差を感じたんだと思う。 ティーダさん、それ以降みるみる力を付けて……今では優秀な執務官。 ティアは嬉しさの反面……置いてかれる、そう思ったみたいなんだ」

 

「そう、かもしれませんね……」

 

「その気持ち、ちょっと分かるかも。 私も恭ちゃん……私の兄に追いつきたくて剣術を頑張って来たし。 適格者になって、ある意味レンヤとなのはと同じ舞台に立つ事が出来たんだけど……2人は私の遥か先にいる。 内心、これでもかなり焦ってるよ」

 

「へえ、そうだったの。 いつも能天気に笑ってるから気にしてないと思ってた」

 

「……ルーテシアちゃんは時々サラッと毒を吐くね……」

 

しかも悪気があるわけでもなく、ニコニコしながら……

 

「そうだとしても、あの任務の直後から自主練……ちょっと、心配だね」

 

「もしこのまま続けば、いつか必ず身体を壊してしまいます。 でも、何とかしてあげられるのでしょうか……」

 

「そうだねぇ……このままだと、恭ちゃんやなのはみたいな事にもなりかねないし……」

 

美由希さんは本当に心配そうな顔をし、少し俯いてしまった。

 

「ーーとりあえず、今は様子を見ましょう。 この事はレンヤさん達ももちろん気付いていると思いますし、僕達も出来る限りティアをフォローしてあげましょう」

 

「うん!」

 

(コクン)

 

「もちろん!」

 

「ええ」

 

「はい!」

 

「キュク!」

 

「任せてください!」

 

それから解散となり……時間を置いたら一度ティアの様子を見に行こう。 ティアの事だ、きっと休まず練習してバテバテになっているはず、スポーツドリンクを差し入れに持って行くとしよう。

 

そして深夜ーー

 

一度スバルとティアの部屋に向かったが、中にはスバルしかいなく、まだ帰って来てなかったようだ。 心配になり、スバルと手分けして探しに行った。 ティアを探して敷地内の林に入り。 しばらくしてティアを見つけた。 早速声を掛けようとした時……手を鳴らす音が聞こえてきた。

 

「もう止めとけよ」

 

「! ……ヴァイス陸曹……」

 

声が掛けられて、ティアナが振り返ると…そこにはヴァイスさんが立っていた。 僕は何故かとっさに木を背にして隠れ、殺剄で気配を消した。

 

(あれ? 何で隠れたんだろう……?)

 

「一体、何時間やるつもりだ? いい加減にしないと身体壊すぞ」

 

やってしまったものは仕方なく、そのまま隠れる事にした。

 

「……見てたんですか?」

 

「ヘリの整備をしながら、スコープで時々な……」

 

不機嫌顔のティアナの問いに、ヴァイスさんは呆れながら肩をすくめた。

 

「ミスショットが悔しいのは分かるけどよ。 精密射撃なんかそうホイホイ身につくもんじゃねえ。 無理な詰め込みで、変な癖が付くぞ?」

 

ヴァイスさんがそう問い掛けると、ティアナは少し顔をしかめた。

 

「っ……って、昔なのはさんが言ってたんだよ。 俺ぁ、シグナム姐さん達とは、割と古い付き合いでな」

 

「それでも……詰め込んで練習しないと上手く何ないんです……限界まで続けます……自分、非才の身なので」

 

そう言ってヴァイスさんに背を向け、自主練習を再開した。 それを見たヴァイスは、苦い顔をして頭しながら少し離れてティアナの自主練習を見始めた。

 

「非才か……俺からすりゃ、お前は十分に優秀なんだがなぁ? 羨ましいくれぇだ……」

 

「…………………」

 

ヴァイスさんは本当に羨ましそうに言うが……ティアナには皮肉にしか聞こえず、無視して練習を続けた。

 

「ま、邪魔する気はねぇけどよ……身体には気をつけろよ? お前達は身体が基本なんだから」

 

「ありがとうございます……! 大丈夫ですから……!」

 

「……ふう」

 

お礼を言いながらも手を止める事のないティアにヴァイスさんは呆れるしかなかった。 ヴァイスさんは一言言ってその場から離れた。 そして僕が隠れている木の側で立ち止まり……

 

(……早く行ってやんな……)

 

「!?」

 

それだけを言うと、隊舎の方に向かって行った。 パイロットの印象しかないけど……八神部隊長が選んだ人材、あの人もただ者じゃなかったようだ。 まさか殺剄をしている僕を見つけるなんて……

 

「ティア……!」

 

「……スバル」

 

その時、視線をティアの方向に戻すと……スバルがティアと向かい合っていた。 僕がヴァイスさんに驚いている間にスバルがティアを探してここに来たようだ。

 

「ティア、あれからずっと自主練してたの?」

 

「……アンタには関係ないでしょ。 私はもう少し続けるから、先に戻って」

 

心配するスバルを、ティアは素っ気なく返す。 ティアの意地っ張りはここまでくるとただの我儘に聞こえてくる……

 

「私、知りたいんだよ! ティアがどうして自分を追い込んででも力を求めるのか……」

 

「…………………」

 

「私に出来る事なら何でも手伝うから!」

 

「っ……」

 

本当にティアの事を思ってスバルは叫ぶが……その言葉で、無言を貫いていたティアはさらに顔を険しくし、俯いた。

 

「……人の気も、知らないで……」

 

「え……?」

 

留めていた怒りが漏れる小声で何かを呟いた。 そして勢いよく顔を上げると……

 

「ーースバルに……! 私の気持ちなんか、スバルなんかに分からないわよ!」

 

「!!」

 

怒りの形相で大声で叫んだ。 その事にスバルは思わす息を飲んだ。

 

「アンタはいいわよね? すごい母親と姉がいて、魔法や戦い方を教えてもらって……」

 

「…………………」

 

「兄さんは確かに強いわ。 でも、あの日以来、一気に忙しくなって、私にかまけている時間はなくなったわ。 理由は分かってる、どんどん管理局で強くなっていく兄さんを誇らしくも思ったわ。 でも、私は……兄さんに置いてかれたわ」

 

今まで溜め込んでいた想いが決壊し、ティアは感情を出さずにはいられなかった。

 

「……悪気がないのは分かってる。 時間を無理に作ってプールに行った事だってある。 でも、それでも……! アンタなんかに、私の気持ちが分かるわけないでしょ!!」

 

「………ぁ…………」

 

「ーーそこまでだよ」

 

見てはいられず、殺剄をやめて木の陰から出た。 2人は僕の姿を確認すると居心地の悪い空気が流れた。

 

「ソ、ソーマ……」

 

「……ソー、マ……」

 

ティアは戸惑い、スバルは普段なら見ない悲しい顔をしていた。

 

「ティア、言い過ぎだよ。 気持ちは分からなくもないけど……」

 

「………………アンタだって……」

 

「え……」

 

また何かを呟き、ティアは顔を上げてキッと睨んで来た。

 

「アンタだって、いきなり私の前から消えたくせに! 兄さんも構ってくれなくて、ソーマも突然ルーフェンなんかに行って……私を1人ボッチにしたソーマなんかに!」

 

「っ!」

 

思い掛けない所で矛先が自分に向き、ティアはそのまま走り去ってしまった。 見覚えのない、だが確かにある罪に……放心してしまう。

 

(……ティアを、1人に……)

 

ビキンッ!

 

「!?」

 

何かが割れるような音……とっても聞き覚えのある音が突然響いて来た。 すると、スバルの背後の空間が赤くヒビ割れ広がって行った。

 

「なっ!?」

 

「……え……」

 

スバルはかなり落ち込んでいて、背後のゲートに気付いていなかった。 次の瞬間、赤い門が……ゲートが顕現した。

 

「ーーきゃああっ!?」

 

「まずいーー逃げて!」

 

咄嗟に叫ぶが、スバルは何も出来ずゲートに呑み込まれて行った。

 

「くっ……スバルーー!!」

 

すぐさま助け出そうと、無我夢中でゲートに飛び込み……異界に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートをくぐり、異界の中に突入すると……異界の中は辺り一面、床から天井まで黄色かった。 どうやら鋼の属性が色濃い異界迷宮のようだ。

 

「くっ……スバルーーーー!! いたら返事をしてーーーー!!」

 

大声で呼びかけるが……グリードが蠢く音しか返って来なかった。 やっぱり最奥にいるのかもしれない。 スバルなら大丈夫……

 

「って、確か今のスバルはマッハキャリバーも持ってない! いくらスバルでもマズイ!」

 

ティアの前に出たスバルの格好はラフな部屋着、武器の1つも持ち合わせていないはず! 一刻も争う……レンヤさん達に連絡する時間もない。

 

「レストレーション!」

 

ダイトを取り出し、復元鍵語を叫びダイトを復元して剣にする。 ダイトと最大限の注意を払いつつも急いで最奥に向かった。 襲って来たグリードは大した脅威ではなかったが……最奥に到着する頃にはダイトが煙を上げていた。

 

「くっ……何とかここまで持ってくれたけど、エルダーグリード相手にするには……!」

 

だが、素手でも倒せない訳ではない。 スバルに身も心配だ、迷っている暇はない。

 

「! 見つけた……!」

 

最奥に到着し、スバルを見つけたのだが……スバルは改造シューティングアーツの構えを取り、ゴーレム型のエルダーグリード……ドレッドゴーレムと対面していた。 ドレッドゴーレムの腹部の赤いコアが発光すると、スバルに向かって魔力レーザーが照射された。 スバルは難なく避けると……

 

「とりゃあああああっ!!」

 

側面に回り込み、身体にフィールド系の防御魔法を展開しながら流れるように回し蹴り、パンチ、肘打ち、ローキック、膝蹴りを繰り出した。

 

「はあはあ……デバイスの補助なしが……ここまで辛いなんて……」

 

確実にダメージを与えているが、マッハキャリバーの補助が無い分いつもより魔力の消費が激しく。 体力の消費と共にスバルの動きを鈍くしている。 そして、ドレッドゴーレムが右腕を振りかぶり、スバルに振り下ろそうとした。

 

「あ……」

 

「スバル!」

 

振り下ろされる前に飛び出し、紙一重の所で助け出し。 もつれ合いながらドレッドゴーレムから離れた。

 

「大丈夫、スバル?」

 

「う、うん……平、気……!?」

 

スバルから離れ、ドレッドゴーレムに向かって剣を構えながら無事を確認すると。 スバルは何かに驚いた声を出した。

 

「スバル?」

 

「うわ!? こっち見ないで!」

 

「ぶっ!」

 

振り向こうとしたら顔を押されて首が変な方向に曲がり、変な声が出てしまった。 そして、チラリとスバルの格好が見えた。 どうやら上の服が破れてしまったらしいんだが……今のスバルはラフな部屋着。 つまり上1枚しか着てなく、それが破れるとなると……

 

「…………………」

 

「ううう〜……」

 

無言で上着を脱いで渡したが……見られたと気付かれ、スバルに唸り声を上げながら睨まれた。

 

「と、とにかく……! 後は僕に任せて、スバルはそこで待ってて!」

 

「あ……」

 

逃げるようにドレッドゴーレムに向かって走り出し、敵を見据えながら剣に剄を流す。

 

(これじゃダメだ……もっと丁寧に剄を扱うんだ。 余った剄を放出、ダイトにかかる負荷を減らすんだ!)

 

過剰分をダイトに留めておくな……外で剄を溜めておくように……

 

「ーー掴んだ!」

 

外力系衝剄・連弾変化……重ね閃断

 

今まで頭で組み立ていた技……連弾を。今、成果として放った。 外力系衝剄・閃断を連弾として放つ。 剣を振り、衝剄を線状に凝縮して斬撃として放ち、それに加えて留めておいた剄を先に放った斬撃に重ねた。 斬撃は威力を増し……ドレッドゴーレムの左腕を根元から切り落とした。

 

「よし……!」

 

連弾の成功に、思わず拳を握る。 だが……今の一撃でダイトに限界が到達。 崩れるように自壊して行った。

 

「……まだまだ粗さがあるというわけか……だけど!」

 

ドレッドゴーレムが残った左腕を身体ごと回転させて振り回すのを避け、懐に潜り込み……

 

剛力徹破(ごうりきてっぱ)……咬牙(こうが)!」

 

外側からの衝剄と徹し剄による内外同時攻撃により、ドレッドゴーレムを吹き飛ばし、壁にぶつけた。

 

「ってて、やっぱりユエさんのようにはいかないか……」

 

見様見真似で放った剄技。 剄に乱れが生じ、右手を傷付けてしまった。

 

「スバル、怪我はないよね?」

 

「う、うん……」

 

念のため負傷の有無を確認した。 無事を確認すると、右手をプラプラと振って痛みを誤魔化そうとしていた時……突然スバルが後方を見て目を見開いて驚愕した。

 

「! ソーマ、後ろ!」

 

その警告に、すぐさま振り向くと……ドレッドゴーレムが猛スピードで突進して来ていた。 しまった……油断してた!

 

「くっ……この……!」

 

「ーーうおおおおおっ!!」

 

すぐに対応しようとした時……後ろから走って来たスバルが僕を追い越し。 突進してきたドレッドゴーレムの両肩に手を置き……

 

「てりゃあああ!!」

 

容赦無く、ドレッドゴーレム顔面らしき単眼に膝蹴りを入れた。 剛力徹破・咬牙もどきでもヒビが入らなかったのに……スバルの膝蹴りは顔面を粉々にする威力があった。

 

「よしっ!」

 

(うっそだぁ〜……)

 

生身であの威力って……スバルって素でもなかり強いね。 ともかく、あの一撃にはドレッドゴーレムは耐えきれず。 光を放ちながら倒れ伏し、チリとなって消えて行った。 それと同時に周囲が光り出し……異界が収束して行った。

 

現実世界に戻ると、そこはすっかり真夜中……すでに深夜を回っていたみたいだ。

 

「ふう、戻って来られたね。 大丈夫、スバル?」

 

「こ、こっち見るなぁ……!」

 

「ご、ごめん!」

 

さっきの一撃で服がはだけ、健康的な肌がチラリと見えた。 それにしても……

 

(ティアも結構着痩せするけど……スバルもかなり着痩せしてるんだね)

 

「ううう〜……///」

 

考えが読まれたのか、上着を着なおして身体を隠すように抱き締め。 頰を赤く染めて膨れっ面で睨んできた。

 

「そ、それにしても……レンヤさん達遅いなぁ。 ホルスもある事だし、最初からいてもおかしくないんだけど……」

 

「ーー気付いているに決まってるだろ」

 

頭上から声をかけられ、すぐに上を向くと……木の幹に寄りかかって枝に座っていたレンヤさんがいた。

 

「レ、レンヤさん!?」

 

「ふう、休めって言ったのに……とは言えーー」

 

ピピ、ピピ♪

 

「懸念してた通りか」

 

レンヤさんはメイフォンの画面を見て嘆息した。 何も言わずメイフォンをこっちに向かって放り、慌てて受け止めた。 ホッと一安心しながら画面を見ると、そこにはサーチアプリが表示されていた。

 

「!……この数値……ティア……」

 

ティアの画像と共に、サーチアプリが高い数値を弾き出している。 ティアは間違いなく怪異と関わりがある証拠……だが、恐らくティア自身もこの事に気付いていない。 だけど、元凶はティアを狙って、すぐ側にいる。

 

「……今のティアナを1人にするなよ」

 

「え……」

 

「それって、どういうことですか……?」

 

レンヤさんは木から飛び降り、メイフォンを取ると懐に仕舞い。 背を向けた。

 

「ーー人間の持つ“負の感情”。 怒り、妬み、嫉み、恨み……そんな想念に怪異が引き寄せられるケースがある。 そして目をつけられた者の感情の揺らぎに共鳴して異界化を引き起こし……まるで神隠しのように異界に引きずり込む事がある。 本人を……もしくは居合わせた人間を」

 

「それは……!」

 

今し方起きた異界化、サーチアプリの結果……それはつまり……

 

「じゃあ、さっきの異界化はティアが原因だったのですか!」

 

「可能性は高いだろう。 このままだとティアナ自身が異界に取り込まれるのも時間の問題だ」

 

「くっ……」

 

「そんな……」

 

スバルは目に見えて落ち込むが……何か思いついてバッと顔を上げた。

 

「……あ! だったら、すぐにティアを追いかけないと!」

 

「現在ティアナは自室で寝ている。 対応はこちらでもするが……この件、俺達隊長副隊長陣は手を出さない。 お前達自身の手で解決しろ」

 

「え……!?」

 

「そ、それは一体……」

 

「俺達はこの件を傍観していると言っているんだ。 この事件はお前達にとって大きな転機になるだろう……もちろん、ヤバそうだったら手を貸すが……どうする?」

 

……教団事件の時もそうだったけど。 レンヤさんのいきなりの試験は、失敗すれば色んな意味でヤバくなる事ばかりだ。 だけど……

 

「……サーシャにも、協力させてもらっても?」

 

「ああ……ティアナには勘付かれるなよ……健闘を祈ってる」

 

それだけを言い残すと、レンヤは隊舎に向かって去って行った。 残された僕達は、事の重大さを改めて感じていた。

 

「うう……レンヤさん、いつにも増して厳しいよぉ……」

 

「信頼されて任されているのか、丁度いい事件が起きたから試練として任したのか……ま、それはどうでもいいかな」

 

レンヤさん達がどんな思惑を考えていようと、やる事は変わらない。 スバルの前に行き、座っているスバルに手を差し伸べる。

 

「僕達はティアと仲直りして、グリードをブッ飛ばす……それでいいんじゃないかな?」

 

「ソーマ……ふふ、あはははははッ!! そうだね、その方が分かりやすくていいや!」

 

僕の考えに同意するようにお腹を抱えて笑うスバル。 一盛り笑った後、目尻に付いた涙を拭って差し伸ばされた手を取り、立ち上がった。

 

「頑張ろう、ソーマ。 ティアと仲直りするため……」

 

「ティアを狙うグリードをブッ飛ばすため……」

 

『やるっきゃない!!』

 

手を握ったまま上にあげて手を組み合い、声を揃えて叫んだ。

 

 


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