魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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154話

 

 

オークション開始前。 ホテル・アグスタ周辺ーー

 

ホテル・アグスタをガジェットから防衛する前線部隊。 ヴィータがグラーフアイゼンで打ち出した鉄球はAMFを物ともせずガジェットⅠ型を破壊し。 シグナムの攻撃を受け止めようとしたガジェットⅡ型は、迫るアームごとレヴァンティンに真っ二つに斬り裂かれ、大型拳銃から放たれた大型の魔力弾で残りのガジェットを一掃する。 ザフィーラはⅠ型から放たれるレーザーを、ザフィーラは不動のまま防ぎ、勇ましい雄叫びと同時に地中から魔力の針が出現し、Ⅰ型を串刺しにする。 そして身の丈程ある太刀を出現させて咥えると、そのままガジェットを斬り裂いた。

 

フォワード達は先行して戦っているヴォルケンリッター達の活躍を見て、驚かずにはいられなかった。

 

「副隊長とザフィーラ、すご~い!」

 

「さすがはベルカの騎士。 レンヤさん達と全然引けを取ってない」

 

「これで……能力リミッター付き……」

 

スバルは純粋に、ソーマは賞賛してヴォルケンリッターの戦いに驚いているようだが、ティアナは何か他の意味もあるようだった。

 

このまま行けば、ヴォルケンリッターだけで状況を終了させる事も可能だろう。

 

『山岳方面より、新たなガジェットが接近中!』

 

ロングアーチから、敵の増援の報告が入る。 しかもその場所は、シグナム達が戦っている場所とはホテルを挟んで正反対。 この指示はフォワード陣が受け持つことになった。

 

『フォワード陣はガジェットの迎撃に向かってください』

 

『了解!』

 

ソーマ達は迷いなく返答し、現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルからやや離れた森の中で、甲冑の女性……フェローと水色の髪の少女……クレフが戦闘を眺めていた。 そこへ、ある人物から通信が入る。 フェローは通信者の顔を見た瞬間、仮面に隠された瞳が僅かに動く。

 

『ご機嫌よう。 騎士フェロー、クレフ』

 

「……ご機嫌よう……ドクタースカリエッティ……」

 

「……何用ですか?」

 

クレフは通信者のスカリエッティへ無表情で挨拶を返すが、フェローは不快そうにスカリエッティを仮面越しで睨む。

 

『冷たいねぇ……近くで状況を見ているんだろう? あのホテルにレリックはなさそうなんだが……実験材料として興味深い骨董が1つあるんだ。 少し協力してはくれないかね?

君達なら、実に造作もない事の筈なんだが……』

 

「お断りします……レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはず」

 

『そう言う割には、君の騎士達が出張っているようだけど?』

 

「……………………」

 

スカリエッティの頼みを即座に断るが、行動が監視されていたようで、それ以上反論ができなかった。 だが特に表情を変える事なくスカリエッティは、クレフの方に視線を移す。

 

『クレフはどうだい? 頼まれてはくれないかな?』

 

「……了承しました。 ドクタースカリエッティ」

 

『優しいな……ありがとう。 今度ぜひ、お茶とお菓子を奢らせてくれ。 君のガントレットに私が欲しい物のデータを送ったよ』

 

その言葉と同時に、クレフの左腕に装着していた緑色のガントレットの起動ボタンが点滅、データが転送された。

 

「……受け取りました……失礼します、ドクタースカリエッティ。 朗報をご期待ください」

 

『ああ、それではごきげんよう』

 

通信を切り、クレフは魔法を行使するためコートを脱ぎ捨てた。

 

「……良いのですか?」

 

「はい」

 

「…………………」

 

即答して頷くクレフ。 そこに彼女の意志がない事は、フェローも承知だが……彼女にはどうする事も出来なかった。 クレフは足元に召喚のミッド式とベルカ式が複合したような魔法陣を出現させる。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット……チャージオン」

 

ガントレットを起動し、続けて手を横に突き出した。

 

「来て……おいで……七色の翼を広げ、かの者に災厄を……」

 

次の瞬間、クレフの隣に孔雀が現れた。 深緑色の翼と七色の飾り羽を有した孔雀が。 クレフは孔雀の頭をひと撫ですると、カードを取り出した。

 

「キランディ……お願い……」

 

「クエー!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動……ウイングインターフェイス」

 

カードをガントレットに差入れ、能力が発動……孔雀は鳴きながら翼と飾り羽を広げ、飾り羽が飛び散り、ホテル方面へ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマ達フォワード陣がホテル周辺で警戒を敷いていた時……キャロのケリュケイオンと、ルーテシアのアスクレピオスが反応を示した。

 

「あっ!?」

 

「これは……!」

 

「キャロ、ルーテシア、どうしたの?」

 

「近くで、誰かが召喚を使ってる」

 

「この感じ……あの子ね……」

 

エリオの問いに答えるキャロ。 ルーテシアは召喚反応から発動者を予測する。 それとほぼ同時に、現場指揮担当のシャマルから通信が入る。

 

『クラールヴィントのセンサーにも反応! だけど、この魔力反応って……』

 

『お、大きい……』

 

シャマルの通信に管制のシャーリーも入る。 また魔力反応を探知して直ぐに、ガジェットの動きが急激に変わり状況が変わる。 動きが変わったガジェットはシグナム達の攻撃にすら対応しはじめた事で、副隊長陣もガジェットの対応を状況に適したものへと移行せざるおえなくなった。

 

『ザフィーラはシグナムと合流して』

 

『心得た』

 

念話で戦術の変更を確認し、副隊長陣はガジェット迎撃を再開する。

 

そしてフェザーズとスターズ、ライトニングは合流し、ホテル正面付近で警戒に当たっていた。 そんな中、キャロとルーテシアのデバイスが再び反応をしめす。

 

「!? 遠隔召喚……!」

 

「来るわよ!」

 

次の瞬間、4つの深緑色の召喚魔法陣が地面に展開される。そして、そこから現われたのは30機以上のガジェット。

 

「あれって、召喚魔法陣!?」

 

「召喚ってこんなこともできるの!?」

 

「うわぁ〜……魔法ってなんでもあり?」

 

「優れた召喚師は、転送魔法のエキスパートでもあるんです」

 

現れた召喚魔法陣に動揺を隠せないエリオとスバルと美由希に、キャロも驚きながらも解説をする。

 

「解析…………近いわね。 少なくとも術者は近辺に潜んでいるはずよ」

 

「なんでもいいわ、迎撃行くわよ!」

 

『おおっ!!』

 

ティアナの指示で、6人は臨戦態勢に入る。

しかし、最初は良かったものの……途中からガジェットが訓練のシュミレーターのものとは比べものにならない動きをし、ことごとく攻撃が回避されてしまう。 かろうじて当たった魔力弾もAMFが強化されているのか、大したダメージを与える事はできなかった。

 

『レーダーに反応! 数は3……でも、この反応はガジェットじゃない?』

 

その時、ロングアーチからそのような報告が来た。 次の瞬間、木々の間から何かがスバルに向かって飛来してきた。

 

「ぐっ!?」

 

それをとっさに肩で受け、フィールド系の防御魔法と併用して衝撃を半減以下になるようにした。 スバルはすぐさま体勢を整え、飛来して来た物体を確認すると……それは人1人が入るくらいの大きさの盾だった。

 

その盾は独りでに飛んできた木々の間へと戻っていき、その先にいた何者かが盾を掴んだ。

 

「誰っ!?」

 

「姿を見せなさい!」

 

ソーマとサーシャが警戒を強めながら声を掛ける。 するとその人物は歩いて木々の間から姿を見せた。 全身を甲冑で身を包んだ時代錯誤な騎士がいた。

 

「あ、あなたは……」

 

「この人……強い……!」

 

いきなり現れた人物にスバル達は驚愕し、ソーマとサーシャは目の前の人物から滲み出る闘気で緊張を高める。 更に、別方向からソーマに向かって風が吹き……

 

「っ!?」

 

「不意打ち御免!」

 

同様に甲冑を着た人物が両手にソードブレイカーを構えてソーマに斬りかかった。

 

「……ハッ……!」

 

「……む?」

 

サーシャは突如目の前に現れた空間の揺らぎに反応し……輪刀を防御に構えると同時にまた甲冑を着た人物が戦鎌を振り回しながら現れ、両者は自身の得物と共に回転しながら一瞬の攻防を行った。

 

「離れなさい!」

 

一旦状況を確認しようとティアナが両者の間に魔力弾を放ち、距離を取らせた。 甲冑を着た3人組は隊列を組み、武器を構えた。

 

「騎士……?」

 

「かなり以前の質量兵器で武装してた騎士……一体何者?」

 

「ーー我らは……」

 

さらに、3人組の背後からもう1人現れ……

 

「我らは騎陣隊……偉大なるマスターの命により、手合わせを願おう」

 

名乗ると同時にロングソードを鞘から抜いて構えた。

 

「くっ……あのレベルが4人……正直厳しいね……」

 

「……お父さんやお兄ちゃんも大概だったけど……世界は広いねぇ……あ、世界の意味違った」

 

「み、美由希さん……何を呑気に……」

 

突然現れた敵を前に美由希はあっけらかんとし、思わずサーシャが呟いた。

 

「あの、こっちは8人もいるんですよ? 1人ずつ2人で対処すれば……」

 

「数の差なんて、連携でどうとでもなるのよ。 あの4人、私達より連携が取れているわよ」

 

「それに……ひとりひとりの強い。 私とソーマ君の2人ががりでようやく1人と相手できるくらい……エリオとキャロには荷が重すぎる」

 

「そんな……」

 

「くっ……!」

 

状況を冷静に判断するが、その事実はエリオとティアナを苦悶の表情にする。 と、その時ソーマ達の背後から無数がガジェット現れ、襲いかかってきた。

 

「こんな時に!」

 

「邪魔!」

 

「ーー無粋な」

 

ティアナがガジェットに銃口を向ける間に……4人の姿がかき消え。 破壊音と同時に風を切る音……武器を振るう音が聞こえ、ガジェット全機が破壊された。

 

「なっ……!?」

 

「なんて速度……!」

 

「助けて、くれた?」

 

「っ……アンタ達、何が目的なの?」

 

虚空に向けられた銃口を慌てて4人に向けるティアナ。 彼はその返答は剣を構える事で答えた。

 

「改めて名乗ろう。 騎陣隊、隊長を務めている円環のラドム」

 

ロングソードを構えてラドムと名乗った青年の次に、盾を構えた騎士が前に出る。

 

「私はウルク。 流動(るどう)のウルク」

 

次に戦鎌を構えた騎士が……

 

「……静寂の……ファウレ」

 

次に両手にソードブレイカーを構えて騎士が……

 

「破滅のゼファーだ」

 

それを皮切りに、騎陣隊は隊列を組み。 ソーマ達に向けて強烈な敵意を向けた。

 

「ひっ……」

 

「キャロ、落ち着きなさい。 呑まれてはダメ」

 

「ふふ……邪魔者はなし。 どうやら彼らは私達だけの手合わせを所望みたいね」

 

「……ティアナ、全体の指揮を任せる。 的確な指示を出して!」

 

「言われなくても……!」

 

ソーマの提案を了承したと同時にエリオと美由希が飛び出した。 ウルクは盾を横に構え、2人に向かって突撃した。 エリオ完全に避け、美由希はギリギリ小太刀で受け流しながら潜り込もうとすると……ウルクを壁にした死角、左右からファウレとゼファーが武器を構えていた。

 

「うわっ!?」

 

「っ……」

 

エリオは驚きながらも振り下ろされた戦鎌を受け止め、美由希はソードブレイカーと刃を合わせないように牽制しながら少しずつ後退する。

 

「てやあああっ!!」

 

突撃を続けていたウルクにスバルが飛び膝蹴りを撃ち込み、勢いを減少させ……横からソーマが剣を振り抜いた。

 

「ふうっ!」

 

ウルクは盾を回転させながら振り回し、スバルを弾くと同時に瞬時に盾を移動。 ソーマの一撃を塞いだ。

 

「キャロ! ルーテシア! 皆の防御と回復を!」

 

「は、はい!」

 

「それしかないわね……!」

 

この状況でフリードとガリューを入れてしまえば状況はさらに混乱する。 ティアナはそう判断し、ラドムを牽制しながら指示を出した。 2人はすぐさまソーマ達の援護に回る。

 

「はあっ!」

 

「来ますか……」

 

その隙に、サーシャは輪刀を2つの半月刀にし、交戦中のソーマ達を飛び越えて後方にいたラドムに向かって行く。 サーシャは円回転を利用し、半月刀の威力を上げながら隙間ない連撃を繰り出す。

 

「てやああ!」

 

「…………………………」

 

その連撃をラドムは難なく受け流し……一瞬の間に刀身を捉えて弾き返した。

 

「まだまだ!」

 

片足を地面に突き刺すように踏みしめ。 身体を限界まで捻り上げ、爆発的な勢いで回転し。 その速度を乗せた半月刀を振り下ろした。

 

「ほお……やりますね!」

 

「きゃあ!?」

 

だが、ラドムは片手で持ったロングソードで受け止め。 刀身を掴んでサーシャを後方に投げた。

 

「くっ……硬い……!」

 

「中々の一撃です。 ですが……」

 

中央で交戦中のソーマとウルク。 ウルクは盾を回転、ソーマの剣を弾きながら後退。 ソーマも即座に反応し、剄を身体に流して強化。 背後に回り込んだが……

 

「な……いない!?」

 

「ソーマ! 前ーー」

 

「ここですよ」

 

「かはっ!?」

 

ティアナの警告の前にソーマの胴体に蹴りが入った。 ウルクは一瞬で盾の正面に移動して隠れ、ソーマが気付くと同時に盾を反転させて蹴りをいれたのだ。

 

「ぐううう……!」

 

「……荒削りだけど、よく仕上がっている」

 

エリオの渾身の槍を、ファウレは棒だけで防ぐ。 実力差はまさしく子どもと大人の差……いや、それ以上だ。

 

「うあああっ!?」

 

「次……」

 

無音で鎌を振るい……戦鎌の峰でエリオを無力化し。 ファウレはキャロとルーテシアを視界に入れた。

 

「っ!」

 

「キャロ、しっかりしなさい!」

 

「ーーはああ!」

 

すぐさまスバルがウイングロードで壁を作り、上から拳を振り下ろした。 リボルバーナックルと戦鎌が衝突、武器の接触部分から火花が散る。

 

「はあっ!」

 

「はっ!」

 

美由希とゼファーは手元が見えない攻防が続くが、ゼファーは何度もソードブレイカーの峰にかませようとする。 美由希は握りを緩めて手の中で回転させる事で対処しているが、握りを緩めるという事は、一つ間違えれば小太刀が弾かれかねない危険な行為……美由希は神経を尖らせて集中した。

 

「ぜあああああっ!」

 

「っ……澪孤斬(みおこざん)!」

 

高速で放たれた突きを紙一重で避け……円回転で回避しながら斬撃を飛ばし、距離を取り。 ゼファーが追撃しかけた所を、ティアナが魔力弾を撃って止めた。

 

「ありがとうティアナ!」

 

「はい! ルーテシア、キャロ……エリオを!」

 

「は、はい!」

 

ルーテシアが転移魔法でエリオを回収し、キャロが回復魔法をかけながらルーテシアがエリオの頰ビンタして喝をいれた。

 

「ほらしっかりしなさい!」

 

「ぶっ!?」

 

「ル、ルーテシアちゃん!?」

 

驚くキャロを、ルーテシアは手を……アスクレピオスを突き出して止めた。

 

「仕切り直すわよ……キャロ、準備いい?」

 

「うん! アルケミックチェーン!」

 

騎陣隊全員に鎖で拘束しようとするが……全員虫を払うかのように鎖を引き千切った。 だが、たった1秒だけでも稼げた……

 

「トーデスドルヒ!」

 

ルーテシアは1秒の間に魔力のダガーを精製、騎陣隊全員に誘導して放ち……手前で爆発させた。 それにより、両者は一旦離れる事が出来た。

 

「つ、強い……」

 

「個々の力だけじゃない……最初のあの連携で、完全に分断されてる……!」

 

「これが、騎陣隊……」

 

「くっ!」

 

特にティアナは自分の非力さに、歯噛みをせずにはいられない。 自分に対して苛立ちを覚える。 その時、ソーマ達に念話が入ってきた。

 

『防衛ライン、もう少しもちこたえててね! ヴィータ副隊長がすぐ戻ってくるから!』

 

「大丈夫です! ちゃんと無力化して、制圧します!」

 

『ちょ、ティアナ大丈夫? 無茶しないで!』

 

「大丈夫です! あんなに朝晩練習してきてるんですから!」

 

心配するシャーリーにそう応えると、ティアナは全員に指示を出す。

 

「ソーマ、サーシャ、エリオ、美由希さん、センターに下がって! 私とスバルのツートップで行く! 突破口を開くから、ソーマとサーシャ、美由希さんでこじ開けて!」

 

「あ、はい!」

 

「ちょっとティア! 無茶が過ぎるよ!」

 

「そうですよ! ここはヴィータさんを待ってーー」

 

「ーースバル! クロスシフトA、行くわよ!」

 

「おうっ!」

 

サーシャの言葉も聞く耳持たず、ティアナは行動を起こした。 クロスシフトAとは、ウイングロードで駆け回り敵を撹乱、ティアナの射程に誘導し、複数のターゲットを殲滅する作戦だ。 今回はティアナの射撃も撹乱に入り、決め手はソーマ達が引き受ける作戦だ。

 

(……証明するんだ……特別な才能や、凄い魔力が無くたって。 一流の隊長達がいる部隊でだって……どんな危険な戦いだって……どんなに強い敵だって……!)

 

「うっく…………ティ、ティア! は、早く……!」

 

あの4人を引き付けるのはまさしく命がけ……スバルは騎陣隊の猛攻に耐えながら時間を稼ぐ。 ティアナはその間にカートリッジを4発ロードし、周囲に無数の魔力弾を出現させ魔力を上乗せさせていく。

 

「私は…………撃ち抜く……どんな相手にだって!」

 

自分に言い聞かせ、更に魔力弾に魔力を圧縮させ、威力を高める。

 

『ティアナ!4発ロードなんて無茶だよ! それじゃあティアナもクロスミラージュも……』

 

「撃てます!」

 

《はい》

 

再三の警告も、意固地となっているティアナに通じる訳もなく、シャーリーに構わず魔力を圧縮する事を続け、ティアナはクロスミラージュを構える。

 

「クロスファイアー……」

 

騎陣隊に狙いを定め、引き金を……

 

「シューーートッ!!」

 

引いた。 ティアナの放った誘導弾が騎陣隊に襲い掛かる。

 

「はあぁぁぁぁッ!!」

 

休まず撃ち続け。 次々と魔力弾が騎陣隊に飛来、騎陣隊は難なく避けるが……数で押されて徐々に隊列が崩れて行く。 ソーマ達はそれを狙い一気に接近……騎陣隊の4人にまともな一撃を食らわせた。 だが………

 

「あっ!?」

 

その内の一発が敵から逸れ、ウイングロードを走るスバルへと向かっていく。 多数の魔力弾の制御する事は難しい技術な上に、カートリッジロードによる負荷……完全制御できなかった魔力弾が暴走したのだ。

 

騎陣隊を引き付けていたスバルは、集中して騎陣隊から目を離して無く……背後から迫る魔力弾に気付いていない。

 

『スバルさん!』

 

「えっ……?」

 

エリオとキャロが声を上げ……スバルは迫る魔力弾に気付くが、回避が間に合わない。 直撃しかけた時、スバルの前に影が割って入り……爆音と共にスバルが爆煙に飲み込まれた。

 

「う、嘘だろ……」

 

フォワードのフォローに駆け付けたヴィータが、爆煙を見て唖然とする。 無論、この目の前の状況を作ってしまったティアナも……誰もが最悪の光景を頭に思い浮かべていた。 そして、煙が晴れると……

 

「あ、あなたは……」

 

「兄……さん……?」

 

スバルの前には防御魔法陣を展開し、銃剣を構えたティーダの姿があった。

 

「やれやれ、気になって警備を抜け出して来てみれば……」

 

ティーダは呆れながら視線を下に……ティアナに向けた。

 

「すまねぇ、ティーダ。 アタシがもっと早く来ていれば……」

 

「気にするな。 俺はただ妹が心配になって護衛を放ったらかしてきた、ただのバカだ」

 

ティーダに軽く頭を下げて謝った後、ヴィータは地上で呆然としているティアナをキッと睨みつけ、怒声を上げた。

 

「ティアナ! この馬鹿! 無茶やった上に味方撃ってどうすんだ!」

 

「あ、あの! ヴィータ副隊長……今のもその、コンビネーションの内で……」

 

ミスショットを撃ってしまったティアナを庇おうとするスバル。 だがその弁解は無茶苦茶であり、全く筋が通っていない。

 

「ふざけろタコ! 直撃コースだよ今のは! ティーダが割ってなけりゃ、お前の背中に直撃してたんだぞ!」

 

「違うんです! 今のは本当に私がいけないーー」

 

「いい加減にしろ」

 

「えっ……?」

 

下で騎陣隊と戦闘を続けているソーマ達を見ながら……この言い争いに嫌気が差したティーダは、スバルに厳しい口調で話し掛ける。

 

「さっきの動きでお前は何一つミスなんてしていない。 ミスをやったのはティアナだ」

 

「ち、違いーー」

 

更に食い付こうとするスバルにティーダは銃剣をスバルの喉元に突き付け黙らせた。

 

「スバル、お前は優しい……だが勘違いするな。 今のお前の言葉はかえってティアナを苦しめているぞ」

 

「えっ?」

 

「誰だって失敗はする。 問題はその失敗を次にどう生かすかなんだ。 アイツの……妹の事を思うなら、今は何も言うな」

 

「………………」

 

ティーダは殺気を少し混ぜて言い。 スバルは言い返せず、ティアナの事を思い口を閉じた。 ティーダも心苦しいが、命の危険があるこの場で私情と優しさは持ち込めない。

 

「あと、スターズはもう前線から離脱しろ。 戦闘なんてとてもじゃないが任せられない。 いいよな、ヴィータ?」

 

「ま、待ってください! 私達はーー」

 

「ティーダの言うとおりだ。 テメェらは下がってろ。 後はアタシ達がやる」

 

「………はい」

 

有無を許さないヴィータに、スバルは大人しく下がる。 2人が地上に向かおうとした瞬間……大きな衝撃が走った。

 

「うあぁぁ!」

 

「きゃあ!」

 

「うっ……」

 

「エリオ!」

 

「っ……」

 

ソーマとサーシャは吹き飛ばされ、エリオは腹を抑えながら膝をつき、美由希は衝撃を地面を引き摺りながら耐えるも苦悶の表情を見せた。

 

「ーー潮時ね」

 

「……器は見極めた。 マスターもお喜びになるよね?」

 

「ああ……こりゃ、うかうかしてられねぇな」

 

ウルク、ファウレ、ゼファーはおそらく満足といった表情を仮面の下に見せているだろう。

 

『ラドム』

 

「っ……マスター。 たった今名を果たしました」

 

ラドムにフェローから念話が届き、ラドムは姿勢を正して応答した。

 

『確認しました。 あなたにはこの後、ホテルからある物を持ってきてもらいたいのです』

 

『……私に、盗賊紛いな真似をさせるおつもりですか? 失礼ながらその命、もしやスカリエッティの物では。 クレフによるガジェットの操作も感じ取れました、その目的は……』

 

『ーー無論、断られても咎める気はありません』

 

それ以上の言葉を止めるように、フェローは咎める気はないとラドムに言った。

 

『いえ、マスターがそう判断されたのなら。 私はそれに付き従うまでです』

 

念話を切り、ラドムはロングソードを納め、右手を左胸に当てて礼をした。

 

「では、これにて失礼させてもらう」

 

「中々楽しかったぜ。 アンタとぶつかり合えなかったのが少し残念だがな」

 

「そりゃどうも」

 

「ーー撤退します……ウルク」

 

「了解」

 

ラドムの指示でウルクは頭上で盾を回転させ……業風を放ちながら振り下ろし、地面を叩き割った。 地割れは全体に広がり、それにより砂塵が舞い上がり、騎陣隊は砂塵に紛れて撤退を始めた。

 

「……逸材揃いだと思いましだが……凡骨が混じってましたか」

 

「!」

 

砂塵の中からラドムが呟いた言葉を、ティアナは聞き逃さず。 衝撃を受けたようにこの世の絶望を表すような表情をして、俯きながら2、3歩よろけながら後退する。

 

「ちっ……!」

 

ティーダはイラつきながら砂塵に向かって飛び込み、銃剣を一閃して砂塵を晴らすと……そこには誰もいなかった。

 

「逃げたか……」

 

「転移反応もなし、か。 厄介な奴らが出てきたな」

 

「……………………」

 

「ティア……」

 

その後、副隊長陣とティーダの活躍によりアグスタに進行していたガジェットは全て殲滅され、無事防衛に成功。 前線を外されたティアナとスバルはホテルの裏手で警備についていた。

 

「ティア……向こう、終わったみたいだよ?」

 

スバルは、後ろ向き俯いたティアナに気を使って声をかける。

 

「私は……ここの警備やってるから……アンタはあっち行きなさいよ」

 

「……あのね、ティア」

 

「いいから行って」

 

「ティア、全然悪……」

 

「スバル」

 

ティアナは悪くない……そう元気付けようとしたが、追ってきたソーマが肩に手を置いて止めた。 ソーマは静かに首を振り、スバルはティーダに言われた事を思い出し……喉まで出てきた物を飲み込んだ。

 

「うんん、何でもない……また後で、ね? ティア」

 

「事後処理は僕達でやっておくから……」

 

それだけを言いのこし、ソーマとスバルは引きずりながらも走り去った。 1人残されたティアナは、壁に手をつき涙を流す。

 

「私は……私は……」

 

頭に思い浮かぶのは、自分の放った魔力弾がスバルめがけて向かってい場面。 もしあの時ティーダが間に入っていなかったら……起こりえた最悪の事態を思い浮かべ、握り締めた拳を壁に叩く。

 

【凡骨が混じってましたか】

 

「私は……!」

 

自分が犯したミスが許せず、ティアナはそれ以上言葉を続けられなかった。 そして、ラドムの言葉を認めてしまう自分がいた……その憤りは、ティアナ自身を追い込んでいった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高台ーー

 

戦況が収束していく中……ホテルから離れた場所に居たクレフ達の元に、足にトランクを掴んでいる白い隼が飛んできた。

 

「お帰り、クローネ……手に入った?」

 

「ピューイ」

 

クレフがそう問い掛けると、白い隼……クローネは足元に降り立ち、肯定の意味を表してひと鳴きした。

 

「それじゃあ……それはドクターに届けてくれる?」

 

「ピュイ」

 

クローネは頷き、トランクごとスカリエッティの元に転送された。 それと同時にフェローの背後に4人の騎士……騎陣隊の4人が控えた。

 

「マスター、ただいま帰還しました」

 

「ご苦労でした。 ラドム、あなたには不快な思いをさせてしまいましたね」

 

「いえ……マスターご決断であれば、私はそれに従うまでです」

 

その答えにフェロー頷くと、ホテルの方を向いた。

 

「あの者達はいかがでしたか?」

 

「はい。 荒削りではありますけど、中々見所のある子達でした」

 

「……ちょっと、楽しめました」

 

「アレはすぐに化けると思います。 子どもの成長は侮れませんし、胡座をかいているとすぐに喉元を斬られそうですね」

 

「ですが……少々残念な者もおりました」

 

「あの誤射をした、橙色の髪の娘ですね」

 

フェローはホテルを一瞥すると、マントを翻して踵を返した。

 

「蒼から受けた傷は?」

 

「問題ありません」

 

「では……引き上げます」

 

「はっ!」

 

「はい、クレフ」

 

「ありがとうございます」

 

ウルクは拾い上げたマントをクレフに渡すと、クレフは淡々と礼を言ってマントを羽織った。 フェロー達はホテルを背にして歩き始めると……音もなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル・アグスタ内ーー

 

俺は駐車場での出来事をロングアーチに報告しながら、オークション会場に向かっていた。

 

「ーーえい!」

 

と、オークション会場前に来ると。 はやてが長い緑髪の男性……というかロッサに軽く拳を腹部に叩き込んでいた。

 

「っと……この!」

 

はやての拳を受けたロッサは、はやての頭に手を置いて、はやての髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。

 

(仲の良ろしい事で)

 

「また任務を放り出して、サボっとるとちゃいますか? アコーズ査察官?」

 

「ひどいなぁ、はやて。 僕だって任務中だよ……重要人物の護衛でね」

 

その2人の様子を見て、少し戦闘で荒んだ心が癒される気がした。 それと同時にチクリと痛んだ……なんだ、この痛みは?

 

「はやて」

 

「あ、レンヤ君! 大丈夫やったか?」

 

「少し受けただけだ。 問題はない」

 

「そうか……良かった」

 

はやては本当に安心したように安堵し、その後見惚れるような笑顔になった。

 

「どうやら色々とあったみたいだね。 さて、僕は失礼しようかな……2人の邪魔をしたくないし」

 

「な!? ななな何を言うとんのや! そ、そんなんじゃあらへんし……」

 

ロッサの冗談にはやては顔を真っ赤にしながら反論し、無意識に髪を指で弄って照れ隠しをした。

 

「はは、相変わらず仲良いな、はやてとロッサは」

 

「うん? ああ、まぁね。 はやてとはそれなりに付き合い長いからね、はやては僕にとってかわいい妹のようなものなんだ」

 

「ロッサの妹……ねぇ~?」

 

「あれ? もしかして不服かい?」

 

はやては腕を組んで、微妙な顔でヴェロッサを見る。

 

「カリムの妹なら納得やけど、ロッサの妹はなぁ~」

 

「酷いなぁ」

 

はやてにそう言われ、笑いながら少し複雑そうな顔になるロッサ。 その微笑ましいやり取りを聞いていると2人は本当の兄妹にしか見えない。

 

チクッ……

 

(! まただ……一体なんなんだ?)

 

ダメージを受けた部位でもないし、持病もあるわけないのに……胸が痛い?

 

「レンヤ君? どないしたんや?」

 

「あ……いや、何でもない」

 

「?」

 

はやては小首を傾げ俺を見てくる。 それを顔を逸らして耐えると……逸れすぎて少しロッサとぶつかってしまった。

 

「おっと……」

 

「あ、ごめん。 ちょっと悪ふざけが過ぎた」

 

「………………いや、構わないよ。 それより聞きたい事があるんだけど」

 

「ん? なんや?」

 

「ーーレンヤって、最初は女装してここの警備に当たらせる予定だったのかい?」

 

「なっ!?」

 

ロッサの口から出た言葉に思わず驚愕してしまう。 なんでもいきなりそんな事を……

 

「あ! お前勝手に人の頭の中を覗くなよ!」

 

「あはは、ぶつかってきた君が悪いんだよ」

 

詫びる気もなく笑うロッサにヘッドロックをかました。 ロッサの希少技能(レアスキル)の一つ、思考捜査。 触れた相手の頭の中を読むことが出来るホアキンみたいな趣味の悪い力だ。

 

「趣味の悪いとは酷いなぁ……」

 

「だから人の頭の中を覗くな!」

 

ヘッドロックを辞めてすぐさま離れる。 ホンット趣味悪いな。

 

「それではやて、何か写真でもないのかな?」

 

「おお! もちろんあるで〜♪」

 

はやてはノリノリでメイフォンを取り出し、ある写真をロッサに見せた。 メイフォンに写っていたのは……艶のある黒い長髪、大胆に両肩が晒されている紺色のドレスに同色の二の腕まで覆う手袋をはめ。 長い睫毛に薄っすらと化粧が施される事によって目がパッチリと開かれており、髪型によって顔全体が小顔風に見え、頰を赤くして恥じらう長身の女性が写っていた。

 

「どや? メッチャ美人やろ!」

 

「いや、はやてが胸張らないでよ! メッチャクチャ恥ずかしいかったんだからな!」

 

最初、スーツやドレスが入っていたケースは8つあった。 そしてホテル内の警備をしたのは7人……1個多かったのだ。 そして着替える時にはやてとアリシアがこのドレスとかつらを持って迫り、その後姉さんも便乗して……結果こうなった。 ちゃんとした部隊なのに何でこうふざけているのか疑問に思いたいが……それ以前に俺は何度女装されればいいんだよ……

 

「ほほう……これはこれは、凄い変わりようだね。 はやてすら越える美人じゃないか」

 

「ぐはっ! そ、それを言われると何とも言えんダメージが……」

 

「……ノリいいな。 2人とも……」

 

とにかく、報告は一応終わっていたので逃げるようにその場を後にした。

 

その後ソーマ達の様子を見るため、地上本部の制服に着替えてホテルの外に出た。

 

外では調査隊が慌ただしく動いており、ラドム含めた騎陣隊と言われる4人組と……フェローとクレフの捜索を行っていた。 そしてそれをソーマ達が積極的に手伝っていた。 その中で、ティアナだけがいつもと様子が違った……先ほどのロングアーチからの報告では誤射で危うく同士討ちになる所だったようで、その事を気にしているようだ。

 

「レンヤ」

 

呼び掛けられ声の聞こえた方を見る。 調査班から離れた所で、ドレスから地上本部の制服に着替えたなのはとフェイトがこちらに歩いてきた。

 

「あ……」

 

2人と一緒に、薄い金髪にメガネを着けた女性のような顔立ちの男性……ユーノも一緒にこちら歩いてきた。

 

「はやてちゃんに報告は終わったの?」

 

「ああ。 さっき別れたところだ」

 

「お疲れさま」

 

「そっちもな……それとユーノもお疲れ様。 オークション、大変だったろ?」

 

隣にいたユーノに労いの意味も込めて言った。 ユーノは照れ臭そうに後頭部をかく。

 

「あはは、まあレンヤ達ほど疲れてはいないよ。 それよりも、なのはの教え子の……ティアナって子。 何か言わなくてもいいのかい?」

 

「……うん。 その事はティアナのお兄さんであるティーダさんに任せてるよ。 なんとかケアできればいいんだけど……」

 

「おーい、なのはー!」

 

その時、ユーノの後方からヴィータが近付いてきた。

 

「調査隊を奥の方に向かわせたいんだが……って、ユーノ! おめえもいたのか!」

 

「やあ、ヴィータ。 どうやら無事みたいだね、怪我がないようでよかったよ」

 

「あたりめえだ。 それよりも……ちゃんと寝てんのか? 少し顔色が悪いようだが、ちゃんとメシ食ってんのか?」

 

ヴィータがキツめの目つきでユーノを覗き込むように睨み、ユーノはタジタジになりながら顔を晒す。

 

「ちゃ、ちゃん寝てるし、ご飯も食べるよ……あ、そうだ。 レンヤに聞きたい事があったんだ」

 

「俺に?」

 

あからさまにユーノは話を変えて、ヴィータは少しご立腹で頰を膨らませており、なのはが肩に手を乗せてなだめている。

 

「それで、聞きたい事ってなんだ?」

 

「うん。 この前遺跡調査で第8管理外世界に行ったんだ。 そこの海の多島海って場所にある小島に小さい遺跡があって、その壁画に……ううん〜、これは見た方が早いかな?」

 

珍しく説明を省いて、ユーノはメイフォンを取り出してある画像を見せた。 そこには多種多様な生物が描かれていおり、それが並んで一方向に向かって歩いている壁画だった。

 

「へえ、こういうの見るのは初めてだけど……歴史を感じるね」

 

「人じゃない? けどこれは一体……」

 

「あはは、まあまだ調査中で何を比喩しているのか僕もさっばりなんだ。 それで、レンヤに聞きたいのは……この集団の最後尾に並んでいる人物なんだ」

 

ユーノが指差したのは、列の最後尾に並んでいる女性と思わしき人物。 壁画なので目と言った特徴は描かれていないが……髪を結い上げて長いリボンで結び。 両手がミトンのような手袋……

 

「ーーっ!」

 

「レンヤ!?」

 

突如、頭に何かが流れ込んできた。 脳裏に浮かんできたのは……

 

「(ここは……玉座?)……ぐうっ!?」

 

「レンヤ! おい、どうしたんだ!」

 

ヴィータの呼び声が遠い……次の瞬間、意識が誰かと一体化したような感覚に陥る。

 

【いったいどれくらいの時がたったのだろう。 命がいまだに吸われ続けている、意識が……自我が崩れていく。 ああ……このままでは死んでしまうだろう……でも、死ぬ事は出来ない。 命の炎は燃え尽きる事なく、自我が崩れては……楽しい思い出……悲しい、辛い思い出と共に修復されていく。 戦はまだ続く……しかし、この王座に座る意味はあるのだろうか……私は、私は……】

 

視線が移動し、自身の右足……右太股を見た。 裾を掴んで上げて行き、右太腿が光に晒されていき……

 

【ーー決心は着きましたか?】

 

「レン君!?」

 

そこで意識が現実に戻ってきた。 いつの間にか蹲っており、なのはに抱き締められていた。 心臓の音が聞こえ、少しずつ落ち着いていく。

 

「レンヤ、大丈夫?」

 

フェイトもかなり心配させたようで、目尻に涙を浮かべていた。 俺はもう大丈夫と言い、なのはは心配しながらも離れてくれた。

 

「ごめん、レンヤ。 まさかこんな事になるなんて……僕が知りたいが故に後先考えなかったから……」

 

「ユーノのせいじゃないさ。 こんな事、誰にも予想は出来なかった」

 

「そうだぜ。 ユーノが負い目を気にする必要はねえんだ。 何もなかったんだし」

 

それを決めるのはヴィータでは無いんだが……まあいいか。 とりあえず先ほどの夢のような物を思い返そうとするが……何も思い出せず、思わず額に手を当てる。

 

「あれ……? 何も、思い出せない?」

 

「あの時に何かあったの?」

 

「……もしかしたら、彼女の記憶かもしれない。 封印されたように霞んでいるけど……」

 

『ーー通達。 現場調査が終わったので、機動六課は撤収します。 総員、撤収準備が終わり次第ヘリまで戻ってください』

 

と、そこでシャマルからそのような通達が入り。 それと同じタイミングで俺達の下にはやてとロッサが来て、それと同時にティーダさんとティアナも戻って来た。 ユーノはティーダさんとロッサと共に本局に戻ることになり、俺達は六課に帰投するためヘリに向かった。

 

ホテル・アグスタの警備任務は、色々な凝りを残しながらも……こうして幕を引いたのだった。

 

 


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