魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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リィン以外のVII組メンバーが出て来ましたね。

エリオットがちょっとユーノに似てなくもないような……


153話

 

 

6月16日。 ミッドチルダ、首都南東上空ーー

 

現在、はやて率いる機動六課メンバー、そして民間協力者である姉さんこと高町 美由希と共に、ヘリで新たな任務先へと移動中。 その中で、はやてが任務の概要の説明を始め、全員が真剣な面持ちとなる。

 

「ほんなら改めて、ここまでの流れと今日の任務のおさらいや」

 

パネルを操作しモニターを開き、これまでで入手した情報を表示される。

 

「これまで謎やったガジェットドローンの製作者、及びレリックの収集者が現状ではこの男……違法研究で広域指名手配されてる人物、次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの線を中心に捜査を進める」

 

空間ディスプレイが表示され、映像腰でもわかる異様な雰囲気を漂わせた1人の白衣を身に纏った男が映し出される。 隣にはこれまでスカリエッティが起こしたと思われる事件のデータもあった。

 

「こっちの捜査は、主に私が進めるんだけど……皆も一応覚えておいてね」

 

『はい!』

 

捕捉で説明するように話すフェイトに、フォワード陣は元気良く返事をする。 次にリインが前に出て、はやてに変わり任務先について説明する。

 

「で、今日これから向かう先はここ……ホテル・アグスタですよ」

 

「骨董美術品オークションの会場警護と人員警護。それが今日のお仕事ね」

 

リインの説明に、補足してなのはが説明を付け加える。

 

「取引許可が出ているロストロギアがいくつも出品されるので、その反応をレリックと誤認したガジェットが出てきちゃう可能性が高い……とのことで私達が、警備に呼ばれたです」

 

「この手の大型オークションは、密輸取引の隠れ蓑にもなるし、いろいろ油断は禁物だよ」

 

執務官としてこういったケースを多く見てきたフェイトが言う事からか、フォワード達は任務に対しての緊張を敷き直す。

 

「まあでも、黒の競売会(シュバルツオークション)よりはマシだろ。 適度な緊張感を持って励むように」

 

「確かに、アレと比べたら楽かもね」

 

俺の言葉に、すずかは苦笑しながら同意した。

 

「は、はい……」

 

「あの、黒の競売会とは?」

 

ティアナが疑問に思った事を早速聞いてきた。 まあ、話しても問題ないだろう。 アリサ達と顔を見合わせて頷き、説明を始めた。

 

「マフィア、フェノール商会が2年前まで続いていた闇オークションよ。 上流階級の御用達の裏の催し、扱いに困る曰く付きの物品を相手に押し付けることが最大の利点の競売会よ」

 

「議員や議長もそれに手を貸していてね。 上層部から圧力をかけられたせいで管理局も聖王教会も手出しできない……裏と言っておきながら結構堂々としていたオークションだったね」

 

「そ、そんな事がミッドチルダで起きてたなんて……」

 

「情報規制がかけられていたし、何より……私達が潜入捜査した時……そこでヴィヴィオちゃんを保護したんだよ」

 

『えっ……!?』

 

その事実に、スバル達4人は驚きの声を上げる。

 

「まあでも、ヴィヴィオの存在があったからこそ黒の競売会が潰れたと言ってもいい。 フェノールが人身売買の疑いを無罪にする代わりに俺達への手出しは出来なくなったからな」

 

「ん〜〜、あれ? 確かヴィヴィオって、あれ……どうなってるの?」

 

「んん?」

 

聞いていた話と噛み合わないとのか、スバルとエリオは頭をひねって考えている。

 

「……大方、ルーテシア辺りに聞いたんでしょう。 それ以上は特秘事項な上、複雑になっているからノーコメントよ」

 

「そ、そうですか……」

 

ティアナはそれ以上なにも聞かず、ソーマにフォローされるも照れ隠しに小突いていた。

 

「コホン……現場には昨夜から、シグナム副隊長とヴィータ副隊長、リインフォース・アインス准空尉他、数名の隊員が張ってくれてる」

 

はやてが咳払いをして話を戻し、警備状況を説明した。 警備は厳重に厳重を重ねている、並みの犯罪者なら潜り込む事すら困難だ。 まあ、並みの犯罪者なら……だが……

 

「私達は建物の中の警備に回るから、前線は副隊長の指示に従ってね」

 

『はい』

 

返事を返したフォワード陣。 その中でキャロが何かに気付き視線をそちらに向ける。

 

「あの、シャマル先生。さっきから気になってたんですけど……その箱って?」

 

その言葉を受けて、考えを一旦止めてシャマルの隣の座席へと視線を移す。 そこにはケースが8つあった。

 

「ん? ……あ、これ?……ふふ、はやてちゃん達のお仕事着♪」

 

キャロからの質問に、シャマルは笑みを浮かべて、楽しそうに返答した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル・アグスタ。ロビーーー

 

そこでは、オークションに招待した客の受付を行っていた。 しかし、違うと分かっているとはいえ、やはり黒の競売会と比べてしまうな……

 

「いらっしゃいませ」

 

受付を行っていたホテルスタッフは、視界に新たな客が見えると、頭を下げた。 そんな彼の視界に入ったのは、オークションへの招待状ではなく……管理局員を示すIDカードだった。

 

「あっ……!」

 

受付係は驚愕の声と同時に、顔を上げた。

 

「こんにちは、機動六課です」

 

彼が目にしたのは、ドレス姿のはやて、フェイト、なのは、アリサ、すずか、アリシアの6人とスーツ姿の自分だった。

 

今回、警備の配置は主力部隊の新人達が外に展開。 隊長陣が内部から警備することになっている。 だが、隊長陣が着ているのはドレスやスーツである。

 

これは訳があり、ホテル・アグスタから管理局に警備の依頼があった際に指定されたのである。 ホテル内部、特にオークション参加者の目に入る場所を警備する場合は正装姿のみ受け付ける。

 

という訳で、久しぶりにスーツに袖を通したのだった。 ぱっと見、メガネもかけているので敏腕の社長に見えなくもない。 って、設定が黒の競売会と同じなような……

 

「ふう、久しぶりとはいえ。 慣れないものだな」

 

少し気疲れしながらネクタイを締め直す。 子どもの頃、アリサに誘われたパーティなどで着た時はそこまで気にしなかったが。 中学に上がった頃自分が聖王だと分かった時から、パーティなどの催しで着ると違和感が出てしまった。

 

「レンヤくん、似合っとるで」

 

「うん、スーツ姿がかなり似合ってるよ」

 

似合っているかどうか少し疑問に思っていたが、はやてとフェイトは誉めてくれた。

 

「ありがとう、はやてもフェイトもよく似合っているよ」

 

思った事を口にし、はやてとフェイトのドレス姿を誉めた。こっちも久しぶりに見るドレス姿。 デザインはそれぞれではあるが、今のはやて達と相まって魅力を十二分に引き立てており。 更に6人とも淡く化粧をしているので、より一層大人っぽさが引き立ち、魅力を倍増させている。

 

「あ、ありがとうな……///」

 

「ありがとう……///」

 

誉められた2人は、顔を赤くして俯きながら返答した。 他の4人もドレスの感想を言うと顔を赤くして警備に向かったんだけどな。 それから警備を開始し、各自バラバラにホテル内を散った。

 

「ーーと言っても、オークション開始3時間前……特に怪しいところはないが……これって嵐の前の静けさなのかなぁ?」

 

《理解しかねます》

 

今回はスーツということで左胸に飾りとして付けているレゾナンスアークに聞いてみるが、長年の付き合いだというのに素っ気ない答えが返ってきた。

 

「あれ? レンヤ?」

 

「ユーノ、久しぶりだな」

 

オークション会場を回っていると、偶然にもユーノとロッサ、そしてティーダさんと出くわした。

 

「やっぱり……久しぶりだね。 さっきフェイトを見かけたと思ったんだけど……六課もここの警備を?」

 

「ああ、ロストロギアを扱っている競売会だからな、念のためにだ」

 

「なるほど、それなら安心してオークションに臨めそうですね」

 

「そこまで期待されてもな……ま、この競売会に黒いものがない事を祈るよ」

 

「レ、レンヤ、顔が怖いよ……」

 

割と本気でそう言い。 ユーノが引く中、ティーダさんの方を向いた。

 

「ティーダさんもここの警備を? ちょっと管轄から離れてませんか?」

 

「まあな。 ちょっとクロノにこいつらの面倒を任されちまってな。 不本意だがこうしてここにいるわけだ」

 

「僕はあんな奴の頼みなんかこれっぽっちも嬉しくないですから」

 

「はは、相変わらずだな。 ユーノとクロノは」

 

「見ていて飽きないよね」

 

うんうんと、ロッサとともに頷く。 と、そこでティーダさんが肩に手を置いた。

 

「さて、レンヤ……不出来な妹だが、よろしく頼んだぞ。 あいつは自分の力を過小評価する節があるからな、何事もなければいいんだが……」

 

「それは……確かに。 自分の力を過剰評価するよりはマシですけど、アレはアレで問題ですね」

 

ティアナは自信満々に自身の力量を図らない馬鹿ではなく、自身の力を下に見過ぎている馬鹿である。 だがそれでも事件が起きた時、過程は違えど結果は同じになる事が多い。 例えば……カートリッジロードの過剰使用。 前者はこれぐらい簡単に出来ると思い、後者これぐらいじゃないとダメだと思い……力量を理解せず自爆、最悪味方まで……

 

「まあ、そうならないためにもなのはとアリサが指導してます。 妹さんはどうか任せてください」

 

「ふ、期待してんぜ」

 

「レンヤ……」

 

無意識に胸に手を当てた事にユーノが気付いた。 少し気を使わせてしまったようだな……よし、ここはあれだな。

 

「そうだユーノ、ヴィータにはもう会ったか?」

 

「え!? そ、それは……」

 

「もう行くとこまで行ったのかな?」

 

「ほう、最近の若者は進んでんなぁ」

 

「え、まさか本当に?」

 

「ち、違います!! 皆してからかわないでよ!!」

 

ユーノの叫びの弁明を、俺は笑いながら返し。 逃げるようにその場を後にし警備を続行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達がホテル内の警備をしている中……外では残りの六課のメンバーが警備に当たっていた。

 

『でも今日は八神部隊長の守護騎士団、全員集合かぁー』

 

そんな中……暇だったのか、スバルが別の場所で警備をしているティアナに念話を繋げて、雑談していた。

 

『そうね……スバルは結構詳しいわよね? 八神部隊長や副隊長達の事』

 

周辺への警戒を怠らずに、ティアナはスバルに問いかけた。

 

『うーん、父さんと母さんやギン姉から聞いたことぐらいだけど。 八神部隊長が使っているデバイスが魔導書型で、それの名前が夜天の書って事。 副隊長達とシャマル先生、リンス先生、ザフィーラは八神部隊長個人が保有しついる特別戦力だって事。 で、それにリイン曹長を合わせて、7人揃えば無敵の戦力って事……まあ、八神部隊長達の詳しい実状とか能力の詳細は特秘事項だから、私も詳しくは知らないけどね』

 

聞いた話と言いながらも、かなり詳しくスバルは説明した。

 

『レアスキル持ちは皆そうよね……』

 

『ティア、何か気になるの?』

 

普段と違うティアナの様子に気付いたスバルが反応する。

 

『別に……』

 

『そう……じゃあ、また後でね』

 

スバルは深く詮索せずに、警備を再開した。 そんな中、ティアナは六課メンバーを思い返していた。

 

(六課の戦力は、無敵を通り越して明らかに異常だ……八神部隊長がどんな裏技を使ったのか……いや、確か神崎隊長がレジアス中将に無理を言ったとも聞いたわね。 それでも、隊長格全員がオーバーSランク、副隊長でもオーバーSからニアSランク……他の部隊員達だって……前線から管制官まで未来のエリート達ばっかり……あの歳でもうBランクを取ってるエリオとレアで強力な竜召喚士のキャロは、2人共フェイトさんの秘蔵っ子。 危なっかしくはあっても、潜在能力と可能性の塊で優しい家族のバックアップもあるスバル)

 

ティアナはそこで一旦思考を止めて、視線を横に向けた。 そこには、ソーマとサーシャ、ルーテシアがいた。

 

(極めつけがあの3人……ソーマは剣技は神崎隊長より劣っているけど、高密度の魔力……剄を操り、フォワードの中じゃトップの実力。 しかも短期間で剄の力加減を習得して、ここ最近ダイトを破壊してない。 サーシャは戦闘はもちろん、特出すべきは技術者としての才能……すでに私達のデバイスのプログラムを組んでいるほどの天才。 ルーテシアはキャロと同じだけど、特殊なシステムを使った戦闘は驚異的。 そしてあの作意めいた指揮は私すら越える。 これが異界対策課の……怪異と戦い続けた者の実力)

 

ついこの間の任務で初めて戦ったグリード……あれを基準としてしまって自信を喪失する。 ティアナは少し歩き、付近で警備をしていた美由希を見た。

 

(そして民間協力者である美由希さん。 ソウルデヴァイスを操る適格者という存在。 初めての戦闘であのグリードを越える怪異を圧倒し、その後の戦闘訓練でも私をあっさり越えてしまっている……ホント、自信なくすわね)

 

なのはの訓練は力が付いているかどうか実感できず。 さらに同じ2丁拳銃を扱うアリシアに銃を教わっているからか、ティアナは今までにない深い劣等感と、より一層力を欲するようになった。 ティアナの目には、隊長陣がどんな事でも出来る超人に見えていた。 そこでティアナは俯いたが、ハッとなってすぐに頭を振った。

 

(だけど、そんなの関係ない! 私は……立ち止まる訳にはいかないんだ!)

 

目を閉じ、抱いた劣等感を振り払い。 ティアナは意気込むと、警備に意識を集中させた。 自分の力を証明する……ティアナは意志を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルから離れた場所にあるーー静寂に包まれる森から、時代錯誤の鎧と仮面を着けた女性と水色の髪の少女が六課が警備中のホテルを眺めていた。

 

「……中々の逸材が揃っていますね。 刃が交れないのが残念に思います」

 

鎧の女性は本心で残念がり、隣にいた少女がジッとホテルを見つめている事に気付いた。

 

「何か気になる事でも?」

 

「……………(コクン)」

 

少女無言で頷くと、そこへ空色のハチドリが少女の方へ飛んで来た。 ハチドリは少女の前でホバリング、ピィピィと鳴きながら何かを伝える。

 

「……ドクターの傀儡が、近付いて来ています」

 

「ーーマスター」

 

そのとき、背後に頭から爪先まで甲冑を着た青年が突然現れ、マスターと呼ばれる女性の前に跪いた。

 

「このような戯れ、いつまでお続けになられるつもりですか?」

 

「……戯れ、とは。 一体どこからどこまでの事ですか?」

 

「全て、です。 マスターの目的は重々承知しています。 しかし……その過程であの様な男の力を借りる必要があるのでしょうか。 諸悪の根源はほんの一部……その一部を刈り取るために無垢な民を戦火に落とす事は信義に反します」

 

青年の言動に、マスターに固い忠誠を誓っているのが分かる。 だが、マスターの命に何処までも従いつつも、マスター間違いを正すという一つの忠誠の形も持ち合わせている。 騎士の鏡のような青年騎士だった。

 

「……貴殿の言い分は最もです。 既にあの男によってこの子が犠牲となってしまいました」

 

女性は膝をついて少女と視線を合わせた。 その見つめる少女の目は光を失っており、視線の先は女性ではなく虚空を見つめているようだ。 女性は手甲を着けた手で少女の頰を優しく撫でる。

 

「ですが……既に賽は投げられました。これは止める事は私達には不可能……可能性があるとすれば……」

 

女性は立ち上がり、ホテルの方を向いた。 その瞳に捉えているのは、一度刃を交わした人物がいる起動六課。

 

「ーー任を与えます。 彼らの雛鳥を試してみなさい……この先、我らの壁となれるかどうかを、貴方達で確かめるのです」

 

「はっ!」

 

次の瞬間……青年の背後に、細部は違うものの同種の甲冑を着た3人が現れた。 1人は戦鎌(ウォーサイズ)。 1人はデュエリングシールド。 1人は二刀のソードブレイカーと……それぞれの手に、もしくは装備していた。 そして跪いていた青年は立ち上がり、腰に佩ていた剣……ロングソードを抜刀し、目の前に掲げた。

 

「我ら……騎陣隊(きじんたい)にお任せください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オークション開幕数分前ーー

 

ホテルの屋上で周囲を警戒していたシャマルのデバイス……クラールヴィントに未確認物体の反応が検知される。

 

「クラールヴィントのセンサーに反応……!? シャーリー!」

 

『はい!……来た来た、来ましたよ!』

 

『ガジェット・ドローン陸戦Ⅰ型、機影60、90……』

 

『陸戦Ⅱ型、2、4、8……』

 

応答するシャーリーに続き、アルトとルキノが状況を報告する。

 

「前線各員へ。 状況は広域防御戦です」

 

「ロングアーチ01の総合管制と合わせた……現場はシャマルとリィンフォース・アインスが取る」

 

『はい!』

 

リンスとシャマルの指揮の元、機動六課前線部隊はガジェットからホテル防衛の為、迎撃を開始された。

 

時は同じく、ホテル内会場外で警備についていた俺とはやては、オペレーター陣のガジェット襲撃の報告を受け、予想通りの展開に警戒を改め直す。

 

「フォワード達が迎撃に、動いてるみたいだな」

 

「シグナムとヴィータにザフィーラもや。 今頃フォワードの前に出てガジェットを叩いてる頃やろうな」

 

そう言ってる側から、ホテルから見える森1ヶ所から爆発が起こる。

 

「……派手に、やってるな」

 

「あのくらい序の口やろ。 レンヤ君もそう言うワリには、派手な戦い方やと思うよ」

 

「そ、そうか?」

 

思い返しても身に覚えはない。 せいぜい緩急がついた高速戦闘での立ち回りや付近を更地にする程度や敵を無双みたいに倒すぐらいだけど……

 

「……いまの所、私達が出る幕はなさそうやなあ」

 

「ああ……だが気は抜けない。 こういうのは常にイレギュラーがつきものだ」

 

防衛ラインを突破され、新人達がピンチになった場合は勿論出るが、そうならないなら、新人達の成長を確かめる意味でも、出来れば手は出したくはない。

 

「フェイトちゃん?」

 

そこで、フェイトの名を1人呟くはやて。 どうやらフェイトと念話で状況を報告しているようだ。

 

「フェイトからか?」

 

「うん。 なのはちゃんとフェイトちゃんが、主催者に外の状況を伝えたら……オークションの中止は困るから時間を遅らせて様子を見るって」

 

「妥当な判断だな。 今避難させるとガジェットの攻撃から来客を守りながら避難する事になる」

 

その後一旦皆と合流し、事前に確認しておいたオークションに出品される品物が保管されている部屋に向かった。 基本的に出品物が置かれている部屋はIDを見せればすんなり通してもらい、出品物も見せてもらった。 だが、1箇所だけ不審な場所があった。

 

「関係者以外立ち入り禁止……か」

 

「リインが調べてくれた情報では、この先はただの倉庫のはずやで?」

 

「倉庫の中身も……被災時に使われる食料や寝具みたいだけど」

 

「な〜んか、こういう時って何かあるんだよねぇ」

 

「姉さん、そんな適当な……」

 

「そうでもないわよ。 アリシアの勘は結構当たるし、確認する価値はあるわ」

 

「……行こう」

 

バリケードを越える。 暫く歩くと、1つの扉があった。 まるで後付けしたかのように、この会場の雰囲気とは不釣り合いなほど厳重で武骨なロックが付けられた扉が。

 

「いかにもって感じやな……」

 

「電子ロック……私の魔法ならロックだけ壊せるかも」

 

「いや、無理矢理破壊するのはマズイ」

 

俺はフェイトがロックに手を伸ばそうとするのを止める。 確かにフェイトの電気の魔力変換資質なら破壊は可能だが……こう言ったロックには外部からの力に反応する機能がある可能性もある。

 

「すずか、お願いできるか?」

 

「うん。 開かない扉は……開けるのみ♪」

 

持っていたバックからカードを取り出すと。 カードリーダーな差し込み、展開されたキーボードを弾き始め……数秒でロックが解除された。

 

「よし、開いたよ」

 

「さすがすずか、頼りになる」

 

「えへへ……そうかな?」

 

褒めると頰に手を当てて照れるすずか。 ロックが解除された事ですドアノブに手をかけると……ガチャガチャと音がするだけで開かなかった。

 

「…………………」

 

「……キーロックもあったようだね」

 

「仕方ない。 はやて、ピッキング対策の研修は受けてるよな?」

 

「え!? も、もちろんや」

 

「なんでそこで驚くの?」

 

少し不安を覚えるなのはだが……

 

「大丈夫だ。 俺も自信がない」

 

「ええっ……!?」

 

「事実、以前のトランクならまだしもこのドアロックだ。 俺も昔受けた知識も曖昧だし、手伝ってくれるか?」

 

「も、もちろんや」

 

俺は伊達メガネを外し、携帯しているツールボックスからピッキング用のツールを取り出した。 ツールを鍵穴に入れ、感覚通りにツールをカチャカチャと動かし始める。

 

「あ、そこはこうとちゃうん?」

 

「そうか? ……あ、そうみたいだ。 やっぱりはやてが居てくれて助かった」

 

「ふふん〜、そうやろ」

 

順調にピッキングが進み、はやてと一緒に鍵穴を覗き込む。 そうなると必然的に顔が近付いてしまい、隣1cmにはやての顔がある。 しかもいつもと違って髪を結い上げて薄く化粧もしており……かなり気恥ずかしい。

 

(こっ、これは……! 近い、近いんよ! でも、真剣な表情のレンヤ君をこんな至近距離で……あ、少し照れとる。 ふふ、可愛ええなぁ♪)

 

(むう……)

 

(……羨ましい……)

 

(ピッキング研修、受けとけばよかった……)

 

(はやてめ、こんな時に一歩リードしてる……)

 

(はやてちゃん、ズルい……)

 

(………………………)

 

……なんか、後ろから無言の視線が突き刺さる。 はやては得意げな顔をしてどこ吹く風のように受け流すが、ピッキング中で手元が狂ってはいけないのにこのプレッシャーはキツい。

 

カチャン……

 

「ふう……」

 

「やったな、レンヤ君」

 

扉の鍵を開き、色んな意味で出た汗を拭い、息を吐いて脱力する。 だが、今もなお視線が突き刺さる。 ここはどうにかして空気を変えないと……俺はなのは達をジーっと見つめた。

 

「な、なに?」

 

「どうしたの、レン君?」

 

「……うん。 やっぱり6人とも綺麗だとても良く似合っている」

 

「なっ!?」

 

突然の発言に驚くと……ボンっと音を立てて6人の顔が赤く染まった。

 

「あ、あの、その……ありがとう……///」

 

「いきなりそう言われると照れちゃうよ……でも、ありがとう///」

 

「ホンマはわざとちゃうやろな? まあ、ありがとさん///」

 

「も、もう、レンヤ君たら……///」

 

「こんな時になに言ってんのよ///」

 

「えへへ……でもありがと、レンヤ///」

 

似合っているのは本当だし、素直な感想を述べたが……ちょっと良心にくる。 兎にも角にも本題の部屋に入ることにする。

 

部屋に入ると、色々な品物が置かれていた。その中には色んな骨董品が数多くあった。 アリサがデータと照らし合わせると……どうやら違法品の品々だったようだ。 さて、後は証拠と一緒に、出品者を捕えるだけか…

 

「誰だ!?」

 

『!』

 

俺達は一斉に扉の方向を向く。 そこには関係者であろうガラの悪い男が4人いた。 男達は得物を抜こうとスーツの中に手を伸ばす。 だが、その前に……

 

「はぁっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

「ふっ!」

 

「かっ……」

 

「はっ……!」

 

「ぐっ……」

 

「ほいっと」

 

「ぐほっ!?」

 

俺達は一気に相手の懐に入り込み、俺は1人目をアッパーで。 フェイトは2人目を飛び上がって回し蹴りで。 アリサは3人目の胸ぐらを掴んで背負い投げ。 アリシアは4人目の腹を掌底を撃ち込み気絶させた。

 

「ふえ〜……さすが皆、すごいなぁ」

 

「真似できひん早業やな」

 

「賞賛は後……来るよ!」

 

すずかが入り口を睨んでそう言った。どうやら気付かれてしまったようだな……ん? これは……

 

「あれ? この人達……フェノール残党じゃない?」

 

「え……あ、ホントだ。 この人達フェノール商会の……」

 

「カクラフ会長が逮捕されてなお、こんな事から足を洗えないなんて……」

 

意外な事実だが今は放っておき。 すぐさま廊下に出ると、10数名の男達がやってきた。 どうやら男達もフェノールのようで……奴らは懐に手を入れ、そこから拳銃を取り出した。 質量兵器の拳銃……だが、そんなものを突き付けられて怯む人物はこの中にいない。

 

「はっ!」

 

《プロテクションEX》

 

発砲と同時になのはが前に出て、通路を埋めるようにプロテクションが張られ銃撃から身を守る。

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《タクティカルビット、ソードモード》

 

続いてアリシアがソードビットを飛ばし、元マフィアの拳銃を斬り落とす。

 

「狙い撃つよ」

 

《スナイプフォーム》

 

すずかがスノーホワイトを狙撃銃に変形させ、男達を撃ち抜いて行き……

 

「アリサ!」

 

「分かってるわよ!」

 

アリサと共に一瞬で接近し、徒手格闘で無力化していく。

 

「はい、そこまでや」

 

逃走を図ろうとした者ははやてが立方体の魔力結界で拘束した。 残りの無力化した男達はフェイトが拘束していく。

 

「これで……よしっと。 なんとかなったね」

 

「ーー連絡しておいたよ。 オークション開始前に抑えられてよかったよ」

 

「とはいえ、まだまだ敵は残っているんだけど……シグナム達に任せるとしましょう」

 

その後、警備をしていた警備隊員数名が到着し、事後処理を始めた。 これが終ったら、また会場での警備に戻ることになるだろう。

 

会場に戻る途中、窓の外……遠くの方から爆発音が聞こえてきた。 どうやら予想通り、ガジェット達が攻めて来たようだ。 一度シャマルと連絡を取り、現段階では問題がないようで。 一度は全員で会場の警備へと戻ったが、気になる事があり、少し時間を置いてはやて達に一言断ってから会場を後にした。 会場には6人に加え、六課以外の警備の人間もいる……余程の事態がない限り問題ないだろう。 俺は先程の倉庫だ見つけた資料を取り出した。

 

「……競売会の出品物じゃない、おそらく密輸品のリスト。 探しださないと」

 

こういう場合、1番怪しいのは地下駐車場。 密輸品ならば安易に持ち運べない……持ち込みと受け渡しが同時に可能にするトラックなどの搬入が予想される。 地下駐車場に到着し、徘徊していた警備員に断りを入れて捜索を開始……一台の身元不明のトラックを発見した。

 

「これか、密輸品が乗せてあるトラックは」

 

《推理通りですね》

 

「ただの推測だ。 さて、中身は……」

 

荷台を開けると、中には木箱が積まれていた。 中身は分からないが、リストに載っていた項目数を考えれば全て密輸品だと思ってもいいだろう。

 

「よし、警備員に連絡をーー」

 

「させると思いますか?」

 

突如、頭上から声が降ってきた。 見上げる前にその場から跳びのき……短刀1本だけを展開して構える。 すると、トラックの屋根から甲冑を纏った人物が降りてきた。

 

「お前は……」

 

「初めまして、蒼の羅刹。 私は騎神隊の隊長を勤めている、ラドム……円環のラドムと言います。 以後見知り起きを」

 

騎士らしく礼をする人物は、声からして青年……もしくは同年代の男だと思われる。 そして、あの全身に着込んでいる甲冑は……

 

「アンタ……もしかしてフェローの?」

 

「……まさか、私を見ただけどそこに辿り着くとは。 マスターが一目置かれるわけです。 その慧眼、誠に見事」

 

……なんか調子狂うな。 明らかにこの状況って敵対してるんだよな? フェローのように高尚な精神を持ち合わせているんだろうが……やはりジェイルと結び付けるには綺麗すぎる。

 

「D∵G教団がアンタ達の傀儡組織だったとしても……今更ここに出てきた理由はなんだ?」

 

「……やはり素晴らしい。 そこまで見抜かれていたとは……しかし、その問いにはお答えできません」

 

その返答と同時に、ラドムは剣を抜いた。 どうやらやる気みたいだな……長刀とバリアジャケットも展開し、左に逆手の短刀、右に長刀を構える。

 

「……………………」

 

無言の睨み合いが続く中……無動作で跳び出し先に仕掛けた。 様子見の一閃、ラドムは難なく受け止め鍔迫り合いになる。

 

「っ……片手でこの力。 やりますね」

 

「よく言う。 あっさり止めておいて」

 

力を込め、短刀を振るい。 トラックから距離を取らせようした時……刀が絡め取られ、視界が反転した。 投げられた……!?

 

「くっ……」

 

空中で受け身を取り、ラドムを見据える。 今奴は刀身を握って棒術のように捌き、俺を投げ飛ばした。 奴の剣は見た目はロングソード……しかし両側の樋の部分が内側に弧を描いており、そこだけ刀身が狭い。

 

「ハーフソードか」

 

「ご名答。 剣身を持つことでコンパクトな立ち回りが可能なロングソード」

 

「しかし、いくら手甲をしてるとはいえ。 刀身を持つとはな……サーシャで見慣れていたとはいえ、他にやる奴がいるとはな」

 

「サーシャ……ああ、あの円月刀使いですか。 彼女を含め、あなたの育てている雛鳥は我がマスターが評価する逸材ぞろいでした。 ただ……」

 

ラドムは肩を落とし、ため息をついた。

 

「1人、心底落胆する人物もいましたが」

 

「っ!」

 

誰とは聞くつもりはない。 一定の距離から斬り合い、ラドムは刀身を掴んで棒術のように立ち回り……剣戟を防ぐ。 だが、棒術の腕はなのはより下だ!

 

「はあっ!」

 

「くっ!」

 

ハーフソードを弾き飛ばし、ラドムの手から飛ばした。 すぐさま懐に入ろうとすると……ラドムはハーフソードが完全に飛ぶ前に剣先で持ち。 そのまま振り抜いた。

 

「ぐうっ……!!」

 

迫ってきた柄と鍔をすぐに反応して受け止めたが……まるでヴィータの一撃のような重さで、吹き飛んだしまい壁に衝突してしまった。

 

「素晴らしい反応です。 今のを完全に防ぐとは……アバラの一本は貰いたいところでした」

 

「痛っつ……殺し打ち、モルトシュラークか」

 

剣を鈍器に見立てた技……どうやら奴は騎士でありながら、戦場を生き抜く戦士でもあるようだ。 だが……こっちもタダでやられるわけない。

 

「っ……完全に回避したと思いましたが……」

 

ラドムはよろけ、脇腹を抑えた。 あの一瞬の間に短刀で二撃撃ち込み、続いてモルトシュラークを防いだのだ。

 

「………ここまでにしましょう。 今回は痛み分けで手を打ちませんか?」

 

「何を馬鹿なことを。 お互いダメージはあるものの、明確な損傷はアンタだけだ。 それに、襲撃者と取引するつもりはないし、逃すわけもない」

 

「ふふ、でしょうね」

 

ラドムは脇腹から手を離し、視線を横に向けた。 その先には先程のトラックがあり……中の木箱の1つが破壊され、中身が無くなっていた。

 

「っ! 貴様……!」

 

「これで痛み分けにしましょう。 ですが、私の負けは必然……次はあなたからこの手で勝利を勝ち取ります」

 

拳を固く握り締めて目の前に掲げ、ラドムは見たことない転送魔法で転移して行った。

 

「……!」

 

すぐに転移した地点に向かい、残っている残留魔力を調べる。 この深緑色の魔力光にこの感じ……

 

「……クレフ・クロニクル」

 

あの子もこの付近にいたのか? ガジェットも現れているから、この手口は十中八九ジェイルの仕業。 だがここにレリックはない……奪って行ったのは密輸品の1つ。 レリックとは別の研究に必要なものだったのか?

 

「ふう……ダメだ。 これ以上は深読みしすぎる」

 

静かに頭を振り、思考を止める。 この場での推測はこれで限界だろ、他の戦闘報告も考慮して検討するべきだ。 一度なのは達と合流しないと。 痛みを感じさせずに立ち上がり、すでに開始されたオークション会場に向かった。

 

 

 


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