魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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152話

 

 

6月1日ーー

 

俺となのはの姉こと、高町 美由希が民間協力者として六課に配属されて早2日……姉さんはクレードル隊に預けられる事になり。 姉さんの存在は管理局からすれば異例であり異質で……上層部から急かされるように適格者とソウルデヴァイスのデータ収集に追われていた。

 

「あ〜……疲れた〜……」

 

「大丈夫、お姉ちゃん?」

 

午前のデータ収集が終わり、姉さんはソファーに座って脱力する。 なのはから飲み物を受け取ると一気に飲み干した。

 

「ふう……一応、人助けのためにここにいるつもりなんだけど。 なーんか私が想像してたのと違うんだけど? 私は実験されにここに来たんじゃないってーの!」

 

「ま、まあまあ、気持ちは分からなくもないですけど。 異界の外でソウルデヴァイスを起動できてしまった理由を解明しないと、美由希さんを戦闘に参加させるわけにはいかないんです」

 

どういうわけか、姉さんは現実世界でソウルデヴァイスを召喚できたのだ。 コウに聞いたところによると、ソウルデヴァイスは原則、異界あるいは異界の影響の強い場所でなければ召喚は不可能となっている。 となると、魔法文化があるこの世界だから召喚できたのか、それとも異常がこのミッドチルダに起こっているのか……それを検討しなければならない。

 

「やっぱり大変なんだね、時空管理局って……」

 

他人事みたい、というわけではなく。 姉さんはかなり真剣な表情で考えている。 と、思いきや。 徐にメイフォンを取り出し……四苦八苦しながらソウルデヴァイス展開アプリを開いて右にフリックし……

 

「ソウルデヴァイス起動……」

 

ソファーに座ったまま右手に小太刀のソウルデヴァイスを展開、掴んでジーッと眺めた。 ていうか、姉さんの機械オンチ直ってなかったのか。 機械ひしめくミッドチルダでどう生きるんだよ……

 

「……ねえすずかちゃん、そろそろ異界に行ってもいいよね?」

 

「え……確かに、そろそろ実戦データが欲しいですけど……」

 

「なら行こうよ! このままだと息が詰まっちゃうよ!」

 

ソウルデヴァイスを虚空に消しながら立ち上がり、先ほどの疲労を感じさせず元気になる。

 

「もう、お姉ちゃんったら……」

 

「まあ、ミッドチルダを案内がてら、異界を探索するのでいいんじゃないかな」

 

「そうだな……聖王教会に行ったら何か分かるかもしれないし……」

 

メイフォンを取り出し、はやてと連絡を取った。 事情を説明し、姉さんを連れ出せるか聞いてみた。

 

『ーー了解や、外出を許可するで。 通信回路を開いておいてぇな』

 

「ああ、分かった。 ありがとな」

 

『別にかまへんで。 あ、せやったらベルカの紅茶の茶葉を買ってきてなぁ』

 

「了ー解。 後の事はよろしくお願いする」

 

通信を切り、外出許可が下りた事を言うと姉さんはガッツポーズをして喜んだ。 一緒にアリシアも同行する事になり、自分の車でクラナガンに向かった。

 

「おおっ……! レンヤいい車持ってるねぇ」

 

「すずかが開発した車なんだ。 凝り性だからかなり乗り心地はかなりいいんだよな」

 

「う〜ん、私としては弟に色々負けてる事にちょっとショックかも……」

 

「今更でしょう、そんな事」

 

そんな雑談をしながら目的地に到着し、とりあえずクラナガンのメインストリートを案内した。

 

「へえ、ここがねぇ…………あんまり異世界感がしないね」

 

「まあ、確かに期待して初めてこの光景を見ると拍子抜けだと思うな」

 

「ていうか、美由希はどんなのを想像してたのさ?」

 

「なんと言うかこう……箒に乗ってるような」

 

「無いよ、絶対」

 

だが、クロゼルグなら……もしかしたらな。 どこにいるか知らないけど。

 

「そういえば、なんで2人はメガネしてるの?」

 

「変装の一環だよ。 俺達はそれなりに有名だから」

 

「このメガネには認識阻害の魔法がかけられていてね。 かけるだけでバレないから便利なんだよ」

 

プライベートの時も重宝している優れものだ。 そのまま一通り案内したが、クラナガンの主要地区を回るだけでも1日以上はかかるため、切りがいい所で近くのゲートに向かった。

 

「そうだ、東亰にはいつ行くの?」

 

「東亰? ああ、倶々楽(ぐぐら)屋か。 説明は一応聞いたけど……」

 

メイフォンを取り出し、裏返して裏面を見る。 正確にはその下にある基盤を……

 

「メイフォンの基部にはグリットと呼ばれる機構があり、そのグリットを異界素材を用いて開封・強化する事でソウルデヴァイスの潜在能力を高めることができる……まさかネメシスとディアドラグループが通じていたとは思ってもみなかったな」

 

「通じていたと言うより、ネメシスがサイフォンの設計図を故意に流しただけなんだけだね。 今になって分かるなんて……美由希のメイフォンにアプリが送信できた時に気付いておけばよかったよ」

 

「意外と分からないものなんだね……と、話は戻すけど。 ソウルデヴァイスを強化するために必要な異界素材って、レンヤは持ってるの?」

 

「10年以上貯め続けているのが倉庫で埃被ってるよ。 まあ、ここ最近研究のために使っているけど……今度、東亰に行ったらゾディアックに買い取ってもらおうかな?」

 

確かに異界素材とジェムはかなりあるし。 使い道がほとんどないのが倉庫にあるだけ……資金として売った方が活用できるな。

 

「っていうか、その素材でソウルデヴァイスを最大まで強化する気? ゲームだったらとんだ邪道だよ。 エレメントなら融通してもいいけど」

 

「うぐ……ま、まあ。 身の丈に合わないものをいきなり持っても意味はないし。 ゆっくり慣らしてから強化していくよ」

 

「それがいいよ」

 

それからデパートの屋上の隅ににあったゲート前に到着し、進入防止用の結界を解いて異界に入った。

 

そして数分後ーー

 

「はあはあ………あ、あれ……おっかしいなぁ……前はもっとこう……動けたのに……」

 

異界を出た俺達は、膝をついて息を上げている姉さんに疑問に思った。 というか、何もない所で転んだりソウルデヴァイスを手からすっぽ抜けたり……ドジも直ってなかったのかよ……

 

「戦い方、ソウルデヴァイスの扱い方は分かっていた。 けど最初よりは明らかに動きが悪いな」

 

「うーん、火事場の馬鹿力だったのかもしれないね。 でも美由希ならすぐに動けるようになるよ。 焦らず頑張ろう」

 

「う、うん……」

 

アリシアに回復魔法をかけてもらい、姉さんは少し落ち込みながらも頷いた。 ちょうどこの下にはフードコートもあり、姉さんを空いていたテーブルに座らせて飲み物を買いに行く。

 

『すみません、お茶をくださ……い?』

 

店の前でお茶を頼もうとした時、隣から全く同じセリフでお茶を頼む声がした。 視線を隣に向けると……そこには黒髪の少女、ミカヤ・シェベルがいた。

 

「えっと……あれ? あなたは……っ!」

 

「あ! すみません! お茶を2つお願いします! 大至急!!」

 

「は、はい!」

 

認識阻害で一瞬誰だか分からなかったが、ジッーと見つめられたおかげで気付かれ。 誤魔化すように大声でミカヤの文のお茶も買い、そそくさとその場を離れた。

 

「ふう……なんとかバレてないようだな」

 

「す、すみません、レンヤさん。 事情は知ってたんですが、つい……」

 

「構わないよ、結果的にバレなかったし」

 

「そうですか……それで、レンヤさんはどうしてここに?」

 

「ああ。 ちょっと姉にクラナガンを案内しているんだ」

 

詳しい事は省いてそれだけを言うと……ミカヤは驚きながらも目を輝やかせた。

 

「姉!? レンヤさん、姉さんがいるんですか!?」

 

「コ、コラ……! 静かに……!」

 

「す、すみません……あ、そう言えば前に言ってましたね。 私と同じ、剣の道を進んでいる姉がいると」

 

「今回はそれと少し違う事情でミッドチルダに来ていてな。 すぐそこにいるから紹介するよ」

 

「ほ、本当ですか……! ありがとうございます……!」

 

少し大声気味で頭を下げながらお礼を言うミカヤ。 それを苦笑しながらお茶を渡し、姉さんとアリシアがいる場所に戻ると……そこには誰もいなかった。 と、ちょうどそこにアリシアが戻ってきた。

 

「あれ? レンヤ、美由希は?」

 

「アリシア、どこ行ったかしらないのか?」

 

「うん。 ついさっきはやてから連絡が来てね。 美由希の件で聖王教会からソフィーが来てくれるみたい。 それで席を離れていたんだけど……」

 

辺りを見渡して姉さんを探そうとした時……デパート内が少し騒ついているのに気づいた。

 

「これは……トラブルが起きたのか?」

 

「え?」

 

「そうだね。 もしかしたら……」

 

ミカヤは何がなんだが理解出来ない中、アリシアと顔を見合わせて頷き……ミカヤを待機させて俺達は目的地に移動しながら状況を確認し、どうやら一階の広場で何が起きているらしい。 俺達は一度二階の吹き抜けで状況を見ようとした。

 

「ここだね。 うーん、人が多くて見えないよ」

 

「……あ、あれって……」

 

人だかりに隙間から中心を除くと……そこには女の子を背にして庇っている姉さんがいた。

 

「姉さん……」

 

「早速厄介ごとに巻き込まれているね。 レンヤ達家族ってトラブルに愛されてるの?」

 

「俺に聞くな……」

 

「ーーあんた達、言いがかりはよしなさいよ! 私は見てたわよ、この子に自分からぶつかって行くのを!」

 

「ああん!? こちとらダチが肩やっちまったんだ! どう落とし前つけてくれんだぁ!?」

 

「いてぇーよー……いてぇーよーー……」

 

……ずいぶん古典的な絡みだな。 と、思ったが、本当に痛がってるよ。 とにかくメガネを外して……跳躍。 二階から広場の中心に飛び降りると、そこでは姉さんとガラの悪い男4人が言い争っていた。

 

「(ん? あいつらの付けているブレスレット……)そこまで。 両者落ち着いてくれ」

 

「ああん!?」

 

「レンヤ!」

 

「っ……」

 

姉さんが庇っている子は俺を見ると姉さんの背に隠れてしまった。 チラッと見えたが、どうやら初等部の上学年くらいの年頃だな。 そんな小さい子に絡むなんて……

 

「事情は理解している。 これ以上騒動を起こすのなら連行せざる得なくなるが……どうする?」

 

「ああ、知るかよそんな事!」

 

「(やっぱり……)動くな……お前達はリベルテだな? 身柄を拘束させてもらう」

 

リベルテ……魔法を最強だと信仰しているような犯罪集団……彼らは基本的に魔法至上主義者だ。 簡単に言えば魔法が使える魔導師の中には魔法を使えない人達を見下し、そして魔法以外のどんな力をも格下として見る者達の事を意味する。 この傾向は犯罪組織が1番多いが、一般の魔導師や時空管理局にもいたりする。 昔から度々見たことのある光景だが……この白昼堂々ここまで主張しているのは初めてだ。 芝居で痛がっている男を観察すると……目の下にクマ、薬物の末期だな。 他も彼よりは軽症とはいえやってるな。

 

「レンヤ、大丈夫!?」

 

リベルテのことを姉さんに説明していると……上からアリシアが降りて来て、周りにシールドビットで囲み、周りの民間人に被害が出ないようにする。 すると奴らは銃型のデバイスを取り出し、銃口を向けてきた。 それを見た民間人は悲鳴を上げながら逃げて行く。

 

「はあ……やっぱり俺ってトラブルに愛されてるのかな……」

 

「さあね。 この程度のトラブルなんて気にしてられないし」

 

「そりゃそうか」

 

全く臆する事なくデバイスを起動し、左手に短刀3本を構える。 魔法も長刀も使わない……妄信的な頭に現実を教え込まないとな。

 

「ーー待って。 私がやる」

 

左手にメイフォンを持ちながら姉さんが前に出た。 その表情は変わらないが怒りに満ちている。

 

「そんな……そんな事だけで人の価値を決めるなんて……ふざけているのにも程がある! ここは非魔導師である私が制裁を下す!」

 

「美由希……」

 

気持ちは分からなくもない……だが、突然リベルテの4人は大笑いする者、嘲笑うかの様に鼻で笑う者など人それぞれだが、姉さんの言葉を馬鹿にする様に笑い出した。

 

「なんだこいつ、魔力を持ってねえのかよ!」

 

「てめぇなんかお呼びじゃないんだよ!」

 

「魔法も使えないクズに用はない。 さっさとそこをどけ!!」

 

「……はあ、話にならない」

 

姉さんは溜息をつきながらメガネを取り、ポケットにしまう。 そしてメイフォンを胸の前に持っていき、展開アプリを起動。 画面を横にフリックし……

 

「ソウルデヴァイス起動……斬り開け、アストラル・ソウル!」

 

右手に小太刀型のソウルデヴァイス……アストラル・ソウルを召喚して、握り締めた。 それを見てリベルテの奴らは驚愕し、一歩後ろに下がった。

 

「見た所、あなた達は下っ端だね。 叩いても埃は出ないと思うけど、知らしめてあげないとね……」

 

「ひ、怯むな! やっちまえ!!」

 

『うおおおおっ!!』

 

それを皮切りに一斉に引き金をひき、無数の魔力弾が襲いかかってきた。

 

「ーー遅い!」

 

姉さんはその一言でかき消え。 同様に一瞬で魔力もかき消えて……奴らの背後に姉さんが現れた。 次の瞬間、奴らの銃に線が走り……バラバラになって地に落ちた。

 

「御神流……薙旋(なぎつむじ)……」

 

静かに放った技の名を言い、流れる動作で小太刀を脇に佩刀した。 リベルテは少し時間を置いた後、無言で倒れた。

 

「あ……」

 

鞘がない事に気付き、姉さんは照れ臭そうに頭をかいた。 それにしてもあの動き……さっきとは別人だな。

 

『美由希って、スイッチの切り替えで結構変わるんだね?』

 

『ああ、あんまり推奨したくないが……やっぱり、兄さんに認められるているだけあって凄まじいな』

 

感情によって力が発揮される……現代の魔法でも感情の変化で多少は魔法の威力に変化はあるが、あそこまでの変化は考えられない。 ソウルデヴァイス……魂と結びついているだけあって感情による影響が大きいのか? そこでリベルテが視界に入り、推測はそこでやめて警備員を呼んだ。 奴らは逮捕されたが、リベルテの情報は得られないだろうな。 連行される中、姉さんは絡まれていた女の子と話していた。

 

「大丈夫だった? 怖い思いさせてごめんね」

 

「……いえ。 気にしないでください。 先にぶつかったのはこちらですから。 ……無駄に絡んできましたけど」

 

「そういえばどうやってぶつかったんだ? 相手、それなりに痛がっていたけど」

 

「はい。 あれです」

 

女の子が指差した方向に……台車の上に小型の白い冷蔵庫が置かれていた。

 

「……ディアドラグループの最新式。 ブレイカー撃たれても大丈夫がキャッチフレーズ……」

 

「ソアラ……何てもの作ったんだよ」

 

「お前も人の事言えないだろ」

 

毎度毎度変なものを作るアリシアにツッコミながら、女の子を見る。 髪は銀髪をポニーテールにし、服は年相応の可愛らしいもので……女の子はペコリと頭を下げた。

 

「……ありがとうございました。 このご恩は忘れません」

 

「ううん、気にしないでいいよ。 今度からは気をつけてね」

 

「はい……以後、気をつけます」

 

もう一度頭を下げた後、女の子は台車を押しながらデパートを後にした。 それと入れ替わって上からミカヤが降りてきた。

 

「レンヤさん! 大丈夫でしたか!?」

 

「大丈夫大丈夫。 頑張ったのは姉さんだからな」

 

「あ、そうでした。 それにしても……美由希さん! 凄まじいワザでした! さすがレンヤさんのお姉さんですね!」

 

「あ、あはは……悪い気はしないけど。 なんか複雑だね……」

 

褒められているが、何か複雑なのか姉さんは苦笑いをする。 ちょうどそこに警邏隊も到着し、事後処理を彼らに任せてデパートを出た。 ミカヤと別れ、車を停めた場所に向かうと……隣に駐車していた車にソフィーさんが寄りかかっていた。

 

「あれ、ソフィーさん? どうしてここに?」

 

「連絡しただろう。 適格者の件でそちらに向かうと。 こんな事態に巻き込まれているとは思ってもみなかったがな」

 

「あ、あはは……」

 

「レンヤ、この人は?」

 

「ああ、そうだった。 この人は聖王教会、教会騎士団の団長を務めているソフィー・ソーシェリーさん。 俺の先生でもあるんだ」

 

「昔の話だ。 さて、今回私が出向いたのには理由はお前達にこれを渡しに来たのだ」

 

ソフィーさんが乗って来た車の背後に周り、荷台を開けると……中には何かの機材が置かれていた。

 

「これは?」

 

「つい先日、聖霊教会を通じてネメシスから送られてものだ。 これでソウルデヴァイスを強化できるそうだ」

 

続いて、ソフィーさんが懐から記録媒体を取り出して渡した。

 

「その機材の使い方と、異界に関する必要最低限の情報、それとネメシスの連絡が入っている。 必要ない異界素材があったら売って欲しいそうだ」

 

「なるほど。 考えることは同じみたいですね」

 

聖王教会を経由すればわざわざ出向く手間が省けそうだ。 そう考えていると、ソフィーさんが姉さんの事を注意深く見ている。

 

「? な、なにか……?」

 

「いや。 姉がいると聞いてはいたが、中々面白い逸材だな。 もしよかったら騎士団に入ってみないか? 返事は六課のゴタゴタが終わった後でもいいが……どうだ?」

 

「う〜ん、そうですね〜………保留ってことで。 確かにここにいるキッカケはソウルデヴァイスのおかげなんだけど……この力を使って何をするのかってのは、まだ分かってないんだ。 管理局に行くにしろ、聖王教会に行くにしろ、まずはこの力を見極めて……私が進むべき道を見誤らないようにしないと」

 

自分の胸に手を当て、姉さんは強い意志を持った目でソフィーさんを見つめる。

 

「……そうか……レンヤ、とても良い姉を持ったな」

 

「はい。 自慢の姉です」

 

時々頼りないけど、子どもの頃から尊敬できる人格者だ。

 

「と、そうだ。 風の噂で聞いたのだが……お前達は学院を卒業する時、模擬戦をしたらしいな? 誰が勝ったのか、聞いてもいいか?」

 

「あ、それ私も気になる」

 

「ああ……それですか……」

 

「う〜〜ん……あれはね〜……」

 

俺とアリシアは揃って歯切れが悪くなる。

 

「別に負けたからといって責めはしない。 私はお前の師ではないからな」

 

「いえ、別にそういうわけでも負けて悔しいわけでもないんですよ。 あの模擬戦は俺達VII組の門出……悔いはありません」

 

「まあ、簡単に言うとね。 勝ったのは……はやてなんだよ」

 

「……何?」

 

「はやてちゃんが……皆に勝った?」

 

予想外だったのか、姉さんも含めて以外にもソフィーさんも驚いていた。

 

「正確に言えば勝利を横から掻っ攫って行ったんだよ。 模擬戦終盤、残りは俺、アリサ、なのは、ユエ、シェルティス、そしてはやての6人。 俺達は戦ってたんだけど……はやては隅に隠れていてな……」

 

「え……」

 

「残りが纏まった所をデアボリックエミッションで一掃……それで勝ったわけ。 はあ、とんだ狸だったわけだよ」

 

「……今に始まった事でもないけどな」

 

俺達は揃って溜息を吐いた。 別に反則でもないし、作戦と思えば正当性はあるのだが……

 

「ふむ、確かに騎士はやてならやりかねないな。 変な所で策士だからな」

 

「あはは、確かに」

 

その後苦笑いがしばらく続いたが、ソフィーさんが仕事が残っていたそうなので車に乗ってその場を去り。 俺達も頂いた機材を確認した後、六課に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日ーー

 

ミッドチルダ北部、廃棄都市の一角。

 

「ただいま帰った」

 

デパートで絡まれていた少女が冷蔵庫を引きながら、廃ビルにある一室に入った。 そこには1人の少年が読書をしていた。

 

「あ、お帰り。 大丈夫だった?」

 

「ええ、少しトラブルがありましたけど……何とかなりました」

 

少女は冷蔵庫に電源を入れながら答え、少年から貰ったかなり冷えた水を飲んだ。

 

「トラブルって……もしかして管理局にバレたの?」

 

「いえ、確かにあのリニアレールを確保しようとした時に現れた人物でしたが……私を知っている素ぶりはありませんでした。 問題はないと考えてもいいでしょう。 そちらの方はどうでしたか?」

 

「ああ、うん。 かなり強固なセキュリティだったけど、なんとか戸籍は偽装できそうだよ。 問題はまだまだ山積みだけど……第一歩としては上出来かな」

 

少年はズレたメガネを直し、テーブルに置かれていたノートパソコンと向かい合った。 そこに映っていたのは少年と少女の偽装された来歴が表示されていた。

 

「……偶然故意か、真偽の程はわかりませんけど。 この機会を逃せば私達はモルモットに逆戻りです。 それだけはイヤです」

 

「僕も同じだよ。 この力だって、本当は捨てたいけど……奴らから逃げ切るためには必要だ。 利用できるものは利用する……自由を掴み取る為にも!」

 

少年は固く拳を握り締め、少女は無言で頷く。 そして冷蔵庫が完全に稼働を開始すると少女は冷蔵庫を開け……中に入った。

 

「こうなると不便ですね。 冷却装置が機能してないのが」

 

「仕方ないさ。 谷川に落ちてそれだけで済んだのだから。 後の事は僕に任せて、しばらく休むといいよ」

 

「了解です。 休眠モードに移行します」

 

それを確認すると、少年は冷蔵庫を閉めた。

 

 


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