魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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150話

 

 

露天風呂で一悶着あったが、エリオを頭グリグリの刑に処した後。 女性陣とーー当然、なのは達と少しギクシャクしながらーー合流し。 全員温泉から出た。

 

「ふい〜〜、なんだかすっかり堪能してしまいました」

 

「日頃の訓練の疲れも、ちょっと取れたでしょう?」

 

「はい」

 

「できれば、もうちょっとだけ居たかったけどね〜」

 

「しょうがないよ。 一応任務中だし」

 

「また今度の機会に持ち越しね。 それはそうと……」

 

アリサは振り返り、俺、なのは、フェイト、はやてを見回す。

 

「アンタ達……何かあったの?」

 

「そ、そうかな?」

 

「な、何もないよ?」

 

「う、うん……特になーんもあらへんよ」

 

「そうだよ。 露天風呂で鉢合わせてなんかーー」

 

とっさになのはがフェイトの口を塞ぎ、愛想笑いで誤魔化す。 アリサ達は不審に思い追求しようとする。

 

「……ん?」

 

「この感覚は……」

 

「ちょっと、何誤魔化そうとーー」

 

その時、俺とアリシアが何かの気配に気付き、その直後……

 

「! サーチャーに反応が!」

 

キャロのケリュケイオンと、シャマルのクラールヴィントが反応を示した。

 

「リインちゃん!」

 

「エリアスキャン……ロストロギア反応キャッチ!」

 

「皆、頑張ってね」

 

「お姉ちゃん達は別荘で待ってるから」

 

「フェイト、アリシア、エリオ、キャロ……気を付けてな」

 

「うん!」

 

『はい!』

 

「ありがとね、アルフ」

 

「パパ、頑張ってね」

 

「ああ、姉さんの言う事をちゃんと聞くんだぞ?」

 

「うん!」

 

声援を受け取り、姉さん達はコテージに向かうため車に乗り込んだ。

 

「ティアナ。 シャマル先生とリイン、はやて隊長にオプッティクハイド!」

 

「はい!」

 

なのはの指示に、ティアナはクロスミラージュを構えて応答する。

 

「空に上がって結界内に閉じ込めるわ。 中で捕まえて!」

 

『はい!』

 

「ほんなら……スターズ、ライトニング&フェザーズ、クレードル、出動や!」

 

『了解!』

 

はやてはスイッチを切り替え。 指揮官らしい、凛とした声で命令を出し、フォワード陣は敬礼で答えた。

 

「俺達は周辺を散策している。 何かあったら連絡してくれ」

 

「ソーマ君達、頑張ってね!」

 

「ありがとう、ソラさん」

 

ソーマはソラからの激励をもらい、コウの元にアリサ達が近寄った。

 

「なら、私達も同行する。 異界が現れたら只事では済まされないわ」

 

「そうだね。 なんか、妙ーな気配がするし」

 

「2人よりも効率はいいし、問題ないよね?」

 

「ああ、助かる」

 

作戦が決まり、協力者を含めた機動六課は目標に向かって出動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

海鳴市内、河原ーー

 

ロストロギアの封印処理をフォワード陣、その指示を基本ロングアーチに任せ。 隊長、副隊長陣は河原上空で隠蔽用の結界を張っていた。

 

「ロストロギアの封印作業か……昔を思い出すね」

 

「にゃはは……そうだね。 後でユーノ君とメールしよかな」

 

フェイトとなのはが昔を思い出して、懐かしんでいた。

 

「それって確か、ジュエルシードだっけ? その時は魔力隠蔽用のペンダントをしてたからよく分からなかった」

 

「そうだね。 ソエルちゃんとラーグ君はリンディさんに接触していたみたいだけど」

 

「むしろ、レンヤ達が異界なんてものに関わっていたのが一番驚いたよ」

 

「ま、お互い様か……」

 

結界を維持しながらも他愛ない雑談を交わし、ソーマ達は順調にロストロギアの封印処理を終えた。

 

「終わったようやな」

 

「さて……後はコウ達の方だがーー」

 

ピロンピロン♪

 

いきなりメイフォンが鳴り響き、急いで取り出した。

 

「はい、神崎です」

 

『ーー時坂だ。 そっちは終わったみてぇだな?』

 

「ああ、今さっきな。 そっちはどうだ? 不穏な気配はしてないけど」

 

『散策した異界は全て空。 ただ……』

 

そこでコウは一旦話を区切り、一呼吸置いた。

 

『……なんかヤベえ予感がしてならねぇんだ』

 

「ヤバい予感?」

 

……こういう時の勘、経験則は当てになる。 お互い、異界……特に夕闇の戦いを経験しているしな。 その時……頰に水滴が当たった。

 

「あ……」

 

「雨が降ってきたね。 濡れる前に早く撤収しよう」

 

「そやな」

 

はやてがフォワード陣に撤収準備を始めさせ、シグナム達に補助を任せた。

 

ピロンピロン♪

 

それと同時にメイフォンがまた鳴り響いた。 今度は……ホロスによる反応だった。

 

「これは……!」

 

画面に映し出された結果に驚愕する。

 

「異界の反応が……7つ!」

 

「え……!?」

 

「なんやて!?」

 

場所はここを中心とした数キロ先の四方点と四隅点の8つ、それから北を抜いた7箇所だ。 まるでロストロギア封印を皮切りに出てきたようなタイミングだ。とにかく、各異界に3名ずつ対処する事にし、スバル達の4人をバラけさせるようにチームを組んだ。

 

「……よし。 今回の異変はロストロギアによって誘発されたものであるが……各自、慎重に異界の探索をするように」

 

『はい!』

 

異界に関する事なので、指揮権ははやてから譲渡してもらい。 全員の指揮を取った。 急遽リインとリンスも作戦に参加することになり。

 

俺、シグナム、キャロは北東

なのは、ヴィータ、スバルは東

フェイト、すずか、エリオは南東

アリサ、ソーマ、ティアナは南

アリシア、サーシャ、アギトは南西

はやて、ルーテシア、リインは西

コウ、ソラ、リンスは北西

 

各自、その地点に発生した異界を請け負うことになった。

 

「ーーこれより、海鳴市に発生した7箇所の異界の調査、及び探索を開始する。 各自、全力を尽くしてくれ!」

 

『了解!』

 

『おおっ!』

 

ソーマ達とシグナム達は敬礼しながら……コウとソラ、なのは達はVII組の名残で喝を入れるように応答した。 散開し、キャロを抱えながら北東に数キロ先にあったゲートの反応がある竹林に入った。

 

「ここか……」

 

「ここのどこかにゲートが……」

 

「キュクル……」

 

「ふむ、雨脚が強くなってきたな。 何事も無ければいいが……」

 

雨の激しさは移動中で勢いが増している。 まるで、今回の異変と連動しているように……

 

(……現世に影響を及ぼす程の力を持った怪異……グリムグリードの仕業か?)

 

それにしてはいつもの異変とどこか差異がある気がする。

 

「レンヤさん? どうかしました?」

 

「……大丈夫だ。 先に進もう」

 

「はい!」

 

「………………」

 

不審を残しながら竹林内を進み。 少し開けた場所に、赤い門……ゲートがあった。

 

「これが……ゲート。 異界に入るための門……」

 

「キャロ、肩の力を抜け。 お前はお前に出来る事を最大限に発揮すればいい。 私もフォローする」

 

「はい。 ありがとうございます、シグナムさん!」

 

「キュクルー!」

 

シグナムは、ゲート初めて目の当たりにしたキャロの肩に手を置き。 緊張を解いた。 それを確認し、六課に出向してから初めてゲートと向かい合った。

 

「ーー行くぞ!」

 

「はい!」

 

「キュクル!」

 

「ああ!」

 

俺達はゲートに向かって走り出し、ゲートを潜り抜けた。

 

「う……」

 

キャロが眩しさのあまり目を覆い隠し、そのまま異界に突入した。 ゲートを潜り抜けると……異界の中は岩山を模している異界だが、異界の中も雨が……しかも土砂降りのように激しく降っていた。 側を流れる川は洪水のように荒々しく流れている。

 

「ここが……異界。 本当に別世界みたい……」

 

「キュクル……」

 

「どうやら、外の雨も無関係ではなさそうだな」

 

「……おそらく残り6箇所の異界も同じかもしれない。 それを確かめる為にも、前に進もう」

 

俺達はデバイスを起動し、バリアジャケットを纏う。

 

「ーー先導する。 キャロは補助をしながらグリードの迎撃。 シグナムはキャロを援護しつつ殿を頼む」

 

「はい!」

 

「了解した」

 

正面から降り注ぐ豪雨に逆らいながら、異界の探索を開始した。 といっても、コウの報告通り……グリードが一体もおらず。 異界自体、迷宮の形をとってなく。 一本道を進んでいた。

 

「な、何も来ませんね?」

 

「……拍子抜け、と言いたいが……レンヤ」

 

「ああ、この先から強い気配を感じる。 おそらくは……」

 

先から感じられる気配にはどこか覚えがある。 だが、一体どこで? 頭を捻っても思い出せず、最奥の開けた場所に出た。 あいも変わらず豪雨が続いていて、岩山が辺りを囲っていた。

 

「ここが最奥か?」

 

「何もいませんね……」

 

「………っ! 来る……!」

 

次の瞬間……雨雲を突き破り、一体の東洋の龍が舞い降りて来た。 その龍は……数年前に白いゲートの異界で相対した龍……一首の神龍だった。 神龍は天に向かって咆哮し、空気を震わせる。

 

「きゃあ!?」

 

「キュルー!?」

 

「あの時の、龍型のグリムグリード!」

 

「くっ、なんて凄まじい咆哮だ。 だがーー」

 

シグナムは鞘からレヴァンティンを抜き、剣の剣先を神龍に突き出した。

 

「だからこそ、戦い甲斐があると言うものだ! 行くぞ、レヴァンティン!」

 

《ヤヴォール》

 

神龍はこっちに向かって再び咆哮を上げ。 シグナムは大地を踏みしめ、水しぶきを上げながら飛び出した。

 

「はあああああっ!」

 

裂帛の気合いとともに剣が振り下ろされ。 神龍は身体を捻り、鋭利な尾で受け止めた。 そのまま水しぶきを弾きながら戦い始める騎士と神龍……うわぁ、1人であの神龍を抑えているよ。 少し凄いと思ってしまうが、傍観を続けている気は無く、回り込むように走り出す。

 

「陣風!」

 

《シュトゥルムヴィンデ》

 

神龍が口を開けてシグナムに向かって飛び出して来た。 シグナムは至近距離で剣を振るうと同時に衝撃波を発生させ、刀身に乗せて斬撃を飛ばし……斬撃が神龍に直撃した衝撃で噛みつきを避けた。

 

「無茶な避け方をする!」

 

衝撃で怯んだ隙に神龍に潜り込み、両手で刀を構える。

 

軌槐(きえんじゅ)!」

 

刀は振らず、構えを取ったまま近付いて移動しながら斬りつけた。 複雑に動き回る蛇の身体を相手だとこれが有効、避けるのに専念しながら攻撃できる。

 

パチン!

 

その時、キャロが自分の両頬を叩いて活を入れていた。

 

「私、竜召喚士なのに……竜を怖がってちゃダメだよね! 行くよ、フリード!」

 

「キュクル!」

 

《Gauntlet Activate》

 

左腕に装着していたガントレットを起動、にカードを入れてシステムを起動させた。

 

「ゲートカード、セット!」

 

ゲートカードを地面に投げ、キャロはフリードを手のひらに置いた。

 

「行くよ、フリードリヒ……!」

 

「キュクル!」

 

「爆丸、シュート!」

 

思いっきりフリードを投げ、球は神龍に目の前で止まり……

 

「ポップアウト! ルミナ・フリードリヒ!」

 

グオオオオオッ!!

 

球が地面に立って展開。 光を放ちながら巨大化したフリードが現れた。

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! レイヴンロア!」

 

フリードの身体に光の螺旋を纏い力を上げ、さらに神龍にも同様に光の螺旋で逆に力を下げた。

 

「行くよ、フリード!」

 

キャロは魔力を送りながら指示を出し、フリードは咆哮を上げながら突進した。 光の螺旋がドリルのような役割を果たし、神龍は受け止める事も出来ず吹き飛んだ。

 

「やるな、キャロ」

 

「ありがとうございます! でも、まだまだ行きます!」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ルミナスフォース!」

 

見事な活躍振りにシグナムはキャロを賞賛し、勢いづいたキャロは続けてアビリティーを発動。 フリードは鏡の翼を広げ、魔力レーザーを撃ち出した。

 

「やった!」

 

レーザーが直撃し、神龍は煙に包まれる。 その時、神龍が静かに唸り始め、身体から電気を帯びだし……雨と風が一段と強くなってきた。

 

「龍もお怒りのようだな」

 

「他人事みたいに言うな……」

 

《ファーストギア……ドライブ》

 

シグナムの軽口にツッコミながら、レゾナンスアークに長刀の刀身に埋め込んであるファーストギアを駆動させる。

 

「っ!」

 

《モーメントステップ》

 

刀を構えると同時に地面を蹴り、素早く神龍に接近する。 すると神龍は……

 

オオオオオオッ!!

 

「っ!」

 

咆哮を上げながら目の前に雷を落とし、ギリギリのところで避けたが余波で体勢を崩してしまう。だがタダでやられる訳にはいかない。短刀の1本を抜刀と同時に投擲、額に突き刺さった。

 

「これで……!」

 

「ーーレンヤさん!」

 

攻撃が通った事を確認しながら受け身を取ると……後方からキャロが声を上げた。 一瞬遅れて、左から神龍の尾が迫って来ていた。

 

「ぐっ!」

 

とっさに刀で防ぎ、尾が刀とぶつかり合って火花を散らしながら横を抜ける。 すぐさまその場から離れようとしたら……尾がしなり、抵抗が無くなって防御で踏ん張っていた足元が躓きそうになる。 そしてさらに尾が周りを囲み、捕縛されてしまう。

 

「このっ……!」

 

「レンヤ!」

 

振り解こうともがくが、その前に神龍が頭を天に向け、身体が電気を帯び出した。

 

「しまっーー」

 

ピシャァッ!!

 

「ぐあああああっ!!」

 

神龍が避雷針となって落雷を自身に落とし、身が裂けるような痛みが身体中を駆け抜ける。

 

「ぶはぁっ! バリアジャケットに電撃耐性が無かったら一瞬で黒焦げだぞ!」

 

《何度も防げません。 速やかに脱出を》

 

「出来たら直ぐにやってる!」

 

だが身体中を蛇に巻きつかれているのと同じで、力技では全く抜けられない。 魔法陣を外に展開して魔力弾を発射するが、神龍の硬い鱗の前では効果は薄い。

 

「ーー喰らえ!」

 

「フリード!」

 

その時、神龍の顔に何発もの大型の魔力弾が撃たれ。 怯んだ隙にフリードが尾に噛みついて締め付けを緩ませた。 すぐに拘束から抜け、キャロの元まで後退する。

 

「大丈夫ですか、レンヤさん!?」

 

「……ありがとうキャロ、助かった」

 

「私には礼はないか?」

 

「あ、ごめん……って……あれ?」

 

あの魔力弾って……誰が撃ったんだ? キャロはあそこまで威力は出ないし、シグナムは剣1本だし……疑問に思いながらシグナムの方を向く。 右手にはいつもと同じようにレヴァンティン。 だが左手には……レヴァンティンと同じカラーリングがされた大型のハンドガン型の魔導拳銃を持っていた。

 

「シグナムが……銃を!?」

 

「古き騎士だからといって……新たな戦い方くらい取り入れる!」

 

いや、それ以前にシグナムが剣と銃って……子どもの頃使っていたが凶悪な組み合わせだ。 戦闘狂に拍車がかかりそうだか……

 

《蛍火》

 

「はあああっ!」

 

1人考え込んでいる間に……シグナムが魔導銃を神龍に向け、轟音を立てながら大型の魔力弾を神龍に向かって撃った。 着弾と同時に魔力弾が炸裂して炎が爆発するように弾け、神龍は爆発にもまれて大きなダメージを負った。

 

《業火輪》

 

「これも受け取れ!」

 

続けて今度は神龍の横から炎を纏いながら接近、横一文字に斬り裂き。 後ろへ飛び退くと同時に魔導銃を乱射して体勢を崩させた。

 

「ここだ!」

 

《ドライブウェッジ》

 

ここで神龍の額に突き刺さっていた短刀のカートリッジを炸裂させ……神龍の額がヒビ割れた。

 

「キャロ!」

 

「はい! 今だよフリード!」

 

《Ready、Sparta Blaster》

 

俺の合図で、キャロはすぐさまガントレットを操作した。 画面から黄色い光が照射され、宙に小さなパーツが展開。 組み合わさって1つの八角推状のバトルギアが完成し、それを掴んだ。

 

「バトルギア……セットアップ!」

 

フリードに向かって投げ、バトルギアが巨大化して背中に装着。 八角推が開き、フリードの背中に縦横に4枚の細い翼、そして斜めに特徴的な4枚の翼が出来た。 続けてキャロはガントレットにカードを入れる。

 

「バトルギアアビリティー発動! スパータブラスター・リゲル!」

 

グオオオオオオッ!!!

 

フリードは咆えると、特徴的な4枚の翼から針状にした強力な魔力レーザーを雨のように降り注がせた。 レーザーは神龍の身体中を余す事無く直撃し……神龍は力無く倒れた。

 

「やった!」

 

「よくやったキャロ。 なかなかの戦いぶりだった」

 

「えへへ……」

 

シグナムに褒められて頭をかきながら照れるキャロ。 まともなダメージを受けたのは俺だけだな……ま、油断してた自分のせいだけど。

 

「っと……痛てて」

 

「あ、レンヤさん! 今治療します!」

 

「大丈夫大丈夫。 この程度慣れてるから」

 

「ダメです! ちゃんと治しておかないと、後々響いてしまいますよ!」

 

「お、おう……」

 

いつものキャロよりも強気で説得され、押されながらも素直に頷いた。 と、それと同時に辺りが光り出し……異界が収束して行った。

 

「う……ううん……?」

 

「どうやら現実世界に戻ったようだな。 だが……」

 

シグナムは上を……竹林の葉が遮る先にある空を見上げた。 グリードを倒したというのに未だに雨が降り続いていた。 俺はキャロに治療を受けながらメイフォンを取り出し、シャマルと連絡を取った。

 

「こちらフェザーズ01。 ロングアーチ、応答をしてくれ」

 

『ーーこちらロングアーチ。 北東の異界の収束を確認……順調に終わったようね?』

 

「まあ、なんとか。 他の皆は?」

 

『フェイトちゃん達、アリシアちゃん達、コウ君達の担当した異界は収束したよ。 残りの皆もそろそろ終わる頃だよ』

 

フェイト達はもちろんの事、コウ達もさすがだな。 俺ももうちょっとしっかり……いや、もっとしていれば、もっと早く終わったと思うが……

 

「……グリードは……? 他の組が相手をしたのはどんなグリムーグリードだった?」

 

『え……ええっとね……どうやら皆龍型のグリムグリードみたい。 もしかしてレンヤ君達も?』

 

「ええ、まあ……」

 

となると、他の……というより現在現れている異界全てに龍型のグリムグリードがいた事になる。 合計7体のグリムグリード……何か引っかかる。

 

「……いったん合流しよう。 場所は先ほどの河原で」

 

『了解、皆にも伝えておくわ』

 

通信を終了し、メイフォンをしまう。 移動する事を2人に伝え、飛行魔法を使用しようとした時……

 

ピロンピロン♪ ピロンピロン♪

 

着信が入り、またメイフォンを取り出した。 画面に映し出された相手は……

 

「エイミィさん?」

 

「なに……?」

 

「何かあったのでしょうか?」

 

不審に思いながらも回線を開き、メイフォンを耳に当てる。

 

「はい、もしもーー」

 

『レンヤ君!!』

 

不意打ちでスピーカーと思うほどの音量で思わずメイフォンを耳から離した。 耳を抑えて連絡してきた経緯を聞いてみた。

 

「エ、エイミィさん……落ち着いてください。 一体どうしたんですか?」

 

『そ、それが……美由希が……美由希がゲートに……!』

 

「……姉さんに何かあったんですか?」

 

……どうやらエイミィさんはかなり混乱しているようで……エイミィさんと自分を落ち着かせるように静かに聞いた。

 

『私達、レンヤ君達と別れてからコテージに行って、皆の帰りを待っていたんだけど……今さっき突然目の前にゲートが現れて。 ゲートからいきなり蛇の尻尾みたいなのが出てきた美由希を……』

 

「……そうですか……」

 

おそらく、蛇みたいな尻尾というのは神龍の事だろう。 だが、神龍は倒したのと今交戦中のを7体……ゆえに8体目が姉さんを攫ったのだろう。

 

(っ! 8体目の龍……姉さんを攫った理由……まさか!)

 

今回の事件と関連する物が、昔読んだ書物の内容と酷似しているのに気付いた。 確証はない、だがそれ以外に思いつかない。

 

「エイミィさん、すぐにシャマルを向かわせます。 落ち着いて、俺達の帰りを待っててください。 姉さんは必ず救ってみせます」

 

『う、うん……お願い、レンヤ君……』

 

通信を切り、すぐにまたシャマルに連絡。 コテージに向かわせるように指示を出し……アリシアと連絡を取った。 そして龍と姉さんに起きた事態、行き着いた推測を伝えた。

 

『……レンヤの推測通りだね。 このままだと美由希の身が危ない』

 

「やっぱりそうなるか……! 姉さんと本命がいる場所は?」

 

『もちろん。 残った八方位の一つ……河原を中心にした北……風芽丘だよ』

 

「そうか……分かった」

 

『1人で行こうとしないでよね。 すぐに私達も向かうから!』

 

念入りに釘を刺され、通信を切られた。 俺は2人に今までの話の概要をかいつまんで説明し、特にキャロは驚愕した。

 

「そんな……美由希さんが……」

 

「……此度のグリードの正体……目星はついているのか?」

 

「ああ、アリシアと相談して可能性が上がった。 今回の事件を引き起こしているグリードの正体は……」

 

一呼吸おいて、口を開いた。

 

「ーーヤマタノオロチ。 それがグリムグリードの正体……いや、もう相手は怪異じゃない。 神……神獣と言ってもいい。 伝承と少し差異はあるが、美由希姉さんは生贄に選ばれたんだ……洪水の龍神を沈める生贄に」

 

 


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