魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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ふと思った。 Force辺りのエリオとキャロにトールズ士官学院の紅いVII組の制服を着させてみると……案外違和感ないんじゃないんですかね?


149話

 

 

家族と別れた後、郊外にある湖畔のコテージに向かい、夕方頃に到着した。

 

「やっと着いたー」

 

「運転させてすまないな。 フェイト」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「アリサ達はもう帰って来ているようだな」

 

全員2台の車から全員降りると、背伸びしたりして身体を解した。 すると、キャロのポケットから出てきたフリードが、鼻をひくつかせた。

 

「キュクー!」

 

「どうしたの、フリード?」

 

「なにか気付いたの?」

 

キャロとルーテシアがフリードに問い掛けようとしていると……エリオとスバルも何かに気付いた。

 

「あれ、なんか………」

 

「いい匂いが……」

 

少し辺りの匂いを嗅いでみると、風に乗っていい匂いが漂っていた。 コテージの方からだ。

 

「ああ、はやてちゃん達がもう晩御飯の準備してるのかもね」

 

「え……晩御飯?」

 

なのはが匂いの元を言い、サーシャがその意味を聞こうとした時、コテージからアリサ、すずか、アリシア、アギトが出てきた。

 

「あ、おかえり皆」

 

「サーチャーの方は手際よく終わったみたいだね」

 

「ああ、後は反応を待つだけだ」

 

「そうか。 それと久しぶりの海鳴はどうだったんだ?」

 

「うん! 昔と変わってなかったよ!」

 

「アリシアママ〜!」

 

「あ、ヴィヴィオ! 本当に来ちゃってたんだね……」

 

仕事の話から海鳴はどうだったかという話に変わり、少しソーマ達を置いて話し込んでしまう。

 

『……なんだか、普通だね。 なのはさん達』

 

『ええ、ちょっと意外ね』

 

『そうかなぁ? レンヤさん達は基本こんな感じだと思うけど……』

 

『そうね。 最近はキッチリしているけど、対策課では基本こんなのよ』

 

『へえ……』

 

スバル達が意外そうな目で見ていると、コテージに車が1台入って来て、ソーマ達は視線がそちらにいく。 中から降りてきた自分はさっき別れたばかりの姉さんとエイミィさん、あと犬のような耳と尻尾をつけた少女……アルフだった。

 

「は~い!」

 

「みんな~お仕事してるかぁ~?」

 

「お姉ちゃんズ、参上!」

 

そして、どうしてか3人はやたらテンションが高かった。

 

「エイミィさん!」

 

「アルフ!」

 

「それに……美由希さん?」

 

「さっき別れたばっかりなのに……」

 

「いやぁー、エイミィがなのは達に合流するっていうから。 私も丁度シフトの合間だったし」

 

そうだったのか。 一言くらい言って欲しかったけど、姉さんにそれは愚問というものか……

 

「エリオ、キャロ、元気にしてた?」

 

『はい!』

 

「2人とも、ちょっと背伸びたか?」

 

「あはは、どうだろう?」

 

「少しは伸びたかな?」

 

どうやら姉さん達のようで、少し気になってなのは達に一言言って俺はそっちの方に行った。

 

「あれ、姉さんも来たんだ?」

 

「えへへ……」

 

姉さんは教えなかった事に詫びる振りもしないでピースする。

 

「あれ、この人は……確かあの事件にいた」

 

「君達とは写真を撮った時以来だね。 私はエイミィ・ハラオウン。 よろしくね」

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

「ちなみに彼女はクロノの奥さんよ」

 

「ええっ!?」

 

ルーテシアが何気なく言ったクロノの妻という事にサーシャは驚き、次にアルフが胸を張って自己紹介をした。

 

「そしてアタシはフェイトの使い魔のアルフだぞ!」

 

「へえ……ってフェイト隊長の使い魔!?」

 

「そうだよ、アルフは私の使い魔なんだ」

 

ティアナと疑問に答えたのは、こっちに歩いてくるフェイトだった。

 

「フェイトー!」

 

主人と再会したアルフが、喜びのあまりフェイトに抱き付く。 まるで愛犬が飼い主にベッタリ甘えているようで、見ていると穏やかな気持ちになってくる。

 

「エイミィ。 カレルとリエラは?」

 

「母さんが見てくれてる。 本当は連れてこようかと思ったけど、そろそろお眠の時間だしね」

 

「そう……」

 

ここでずっと話し込んでいるわけにもいかず。 コテージに向かうと……匂いが強くなり、何が焼ける音が聞こえてきた。 そして、新人達の視線はその発生源に向けられて……

 

「あ! 皆、おかえり!」

 

「おかえりなさ〜い!」

 

『八神部隊長!?』

 

はやてが上着を脱いで鉄板焼きで料理を作っていた。 隣ではリンスが野菜を切っていた。

 

「八神部隊長が鉄板焼きを!?」

 

「料理なら私達がやりますから!」

 

スバル達ら驚きと遠慮から変わろうとする。

 

「ああ……いやまあ、待ち時間あったし。 料理は元々得意やしな」

 

「それに、お前達は設置と捜索任務で疲れてるだうろ。 ここは任せてくれ」

 

はやてとリンスの二人は、首を左右に振って料理を続行した。 と、そので先に戻っていたヴィータが現れ……

 

「はやて隊長の料理はギガウマだぞ? ありがたくいただけ」

 

久しぶりにはやての作る料理が食べたいのが本心でそう告げた。するとシグナムがシャマルに近づいた。

 

「シャマルよ。 お前は手出ししなかっただろうな?」

 

「リンスに止められたわよ………」

 

唇を尖らせて不服そうに言った。

 

「なに?」

 

「こんな物を入れようとしたからな……全力で止めた……」

 

リンスが指さした方向にテーブルがあり、その上にはかなり混沌めいたものが置かれていた。

 

「これ、全部異界の素材だね……」

 

「えっと……この油は紺青の霊油、蒼海を思わせる異界の油だね。 こっちは獣魔の骨、鉄のような硬さの怪異の骨。 これは悔悟の翼、悔悟の念に満ちた怪異の翼……」

 

「いったいこれで何を作る気だったのよ?」

 

「よくやった、リンス!」

 

アリシアとすずかが素材の説明をし、アリサが疑問に思う中……シグナムはリンスの肩に強く手を置いて褒め称えた。

 

「あの……もしかしてシャマルさんって料理が?」

 

「本人は否定するが、下手だ」

 

「違うもん! シャマル先生、お料理下手なんかじゃないもん!!」

 

ソラの質問にシグナムが答え、シャマルは年不相応に可愛らしく全力で否定する。 そう、シャマルは恐ろしく料理が下手なのだ。 1番記憶に新しいーー新しいといっても5年くらい前だがーーのではオムレツを作ろうとして……結果、固すぎる何かが出来た。 それをザフィーラに無理やり食べさせたところ、ザフィーラは瀕死に追い込まれた。 さらに酷い時は料理が変異して、倒したグリードから出てくる霊石になる始末だ。 どうやったらそうなる……

 

「黙れ。 今まで何回、ザフィーラがお前の作ったモノを食べて倒れたと思っている」

 

「マジか?」

 

「……大マジだ………」

 

それを聞いたコウが、視線をヴィータに向けてと聞くと……ヴィータは視線を上に向いて眼から一筋の雫を垂らしながら告げた。 さらにコウは視線を動かして、なのはとフェイトを見た。

 

『……あ、あはは……』

 

二人はそろって苦笑い。 最後に隣のはやてを見ると……

 

「………………」

 

空を見上げていた。 死んでない、断じてザフィーラは死んでないから……勝手に家族を殺すなよ。

 

「ま、まあでも。 異界の物でもちゃんと食べらるのはありますよ! ほら、例えばこのムーンシープとか!」

 

ソラが場の空気と話題を変えようと、鉄板の上に焼かれていた肉を指差した。

 

「うわぁ……いい匂い」

 

「す、すごい霜降り……」

 

「月の光みたいで綺麗……」

 

スバル達は焼かれているムーンシープに目を奪われる。 コウは他に何かにないか探し、紫色の果物を見つけた。

 

「あとは……あ、こいつだ。 ほれ、食ってみろよ」

 

「え、これって……」

 

「アンブロシア。 あらゆる果物の風味を持つ異界の霊果だ。 一口で3日はしのげるぞ」

 

「う〜〜ん!! おいし〜〜!!」

 

「あ、こらヴィヴィオ! 勝手に食べちゃいけません!」

 

食べてはいけないわけではないが、断りもなく食べるのはご法度。 間違いを正すのも親の役目だが……話は上手く逸らせたようだ。

 

「あ、はやてちゃん。 私も手伝うよ」

 

「ヴィヴィオも! ヴィヴィオも手伝うー!」

 

「ふふ、ならお願いしようかなあ」

 

「ヴィヴィオが手伝ってくれると、料理がうんと美味しくなるからね」

 

「なら私も。 フォワード一同、食器出しと配膳。 お願いしていい?」

 

「は、はい!」

 

「了解です!」

 

それからすぐに調理が終わり、少しはやての前置きを言った後……並べられてた料理を食べ始めた。

 

「美味しい!」

 

「ホントだ、すげぇ美味え!」

 

「ふふ、気に入ってもらえてなによりや」

 

初めてはやての料理を食べるのフォワード陣はもちろんの事、コウとソラも美味しそうに食べている。

 

「そういえば、レンヤさんとコウさん達ってどんな関係なんですか?」

 

楽しく食事をしている最中に、唐突にスバルがフォークを咥えながらそう質問して来た。

 

「んー、どういう関係と言われても……」

 

「やっぱ友達じゃねえか?」

 

「ですよね。 初めて会った時は大変でしたけど」

 

「うん、確かに。 本当に大変で、ギリギリだったね」

 

「? どういう事ですか?」

 

「私とコウ君達はある事件の最中に初めて出会ったんだよ。 まあ、その事件というのは秘密裏に起きて、スバル達が知らないのは当然だね」

 

なのはは3年前に起きた夕闇の事件についてかいつまんで説明した。

 

「ーーとまあ、こんな感じで。 事件が収束した後友達になって。 こうしてたまに連絡も取り合っているんだよ」

 

「そ、そんなことが……」

 

「驚きですぅ……」

 

「あ、でも……魔法も使えないのにどうやってグリードと戦ったのですか?」

 

疑問に思ったティアナが最もな質問をする。 どうやら他のフォワード陣も同じだったようだ。

 

「確かに、そうですね」

 

「うーん、どうしますか? コウ先輩?」

 

「ま、教えといても大丈夫だろ。 もしかしたら一緒に戦う事になりそうだし」

 

ソラの問いにコウは頷き、箸を置いて説明を始めた。

 

「ーーソウルデヴァイス。 異界やそれにまつわる技術に耐性を持つ“適格者”が霊子体を用いて呼び出す武器……それが俺らの武器だ」

 

「ソウル……デヴァイス?」

 

「簡単に言えば自分の心を武器として具現化した物……って考えるといいですよ」

 

「そんで、ソウルデヴァイスの形状や性能は適格者の個性によって決まり、基本的に同じものは存在しない。 ま、例外はあるがな」

 

「あのあの、それって今見せてもらえませんか?」

 

サーシャが遠慮がちに、だが目を光らせて興味津々に聞いてみた。

 

「そいつは無理だ。 ソウルデヴァイスは異界あるいは異界の影響の強い場所でなければ召喚は出来ねえ」

 

「そう……ですか」

 

「サーシャちゃん、そう落ち込まないで」

 

「もしかしたらすぐにでも見れるかもしれねぇぞ」

 

落ち込んだサーシャをすずかとアギトが慰めた。 と、そこでソーマが2人を実力を測るように見た。

 

「そういえば……皆さんはどんな訓練を受けてソウルデヴァイスを発現させる事が出来たのですか?」

 

「あー、そいつはな……」

 

「なんと申しましょうか……」

 

「どうかしたのですか?」

 

真剣に聞いているソーマを見て、コウとソラは苦笑いしながら歯切れが悪くなる。

 

「私達は、特に訓練とかは受けてなくて。 異界と関わったのも偶然なんです」

 

「ええっ……!?」

 

予想外の事実に、サーシャは驚愕する。 他の皆もそれぞれ食事の手を止めて驚愕を表していた。

 

「ソウルデヴァイスの使い方は、適格者として覚醒した時点で知識として得る事ができるんだ。 覚醒したばかりの適格者であっても戦闘そのものは可能なんだ」

 

「なんかこう……昔から使っているように手に馴染んでいて。 私は空手で鍛えていた事もありましたけど、ホントすぐに戦えちゃったんです」

 

「す、すごいですね……」

 

「……………………」

 

エリオはどう凄いのかわからず呟き、ティアナは複雑そうな顔をしていた。

 

「ま、俺達からすればお前達の魔法っつうのが逆によくわかねえけどな」

 

「科学で証明されている現象、というくらいですね」

 

「うーん、その話はまた後にしようか。 そろそろ食べないと冷めちゃうからね」

 

「そうだな」

 

アリシアが区切りよく話を止め、俺達は少し冷めたが、それでも少しも味が変わっていない料理を食べた。

 

それから食事が終わり、後片付けも終わり、一段落つくとはやてが口を開いた。

 

「さて、サーチャーの様子を監視しつつ、お風呂済ませとこか」

 

『はい!』

 

風呂という単語が出たからだろうか。 ソーマとエリオはともかく、特にスバル、ティアナ、サーシャ、キャロ、ルーテシアは嬉しそうに返事をする。 女性というのは本当にお風呂が好きなようだ。

 

「まぁ、監視と言っても、デバイスを身に着けてれば反応を確認できるし」

 

「最近は本当に便利だね〜」

 

「技術の進歩ですぅ!」

 

なのはのシミジミとした言葉に、リインが嬉しそうに言った。

 

「あれ? でも、ここにお風呂なんてないよね?」

 

「まさか、そこの湖で水浴びなんて言わないよね?」

 

「そうよね……ここお風呂ないし、この時期でも湖で水浴びは間違いなく風邪ひくわね」

 

アリサの言うとおり、暖かくなったとはいえ、水浴びをこの湖の冷たさで出来るものではない。

 

「そうすると……やっぱり」

 

「あそこですかね」

 

「あそこでしょ!」

 

そこでなにか心当たりがあるのか姉さんとエイミィさんが揃って声をあげる。 なのは達も分かったのか、顔を見合わせて頷いた。

 

「それでは、六課一同。 着替えを用意して出発準備!」

 

「これより、市内のスーパー銭湯へ向かいます」

 

「スーパー?」

 

「銭湯?」

 

「ああ、あそこか」

 

「スーパーはともかく、銭湯ってのは公衆浴場の事だよ」

 

なのはとフェイトの号令にあったスーパー銭湯という単語が、ミッド育ちのスバルとティアナには伝わらない。 すずかはソーマ達にも簡単に銭湯について説明する。 銭湯がどういうものかわかったソーマ達は、隊長達を見習って銭湯へ行く準備を始める。

 

「よし! 準備できたらさっさと行くで!」

 

『はい!』

 

「ああ」

 

はやての号令が終わり、車に乗り込んで六課メンバーとその他一同は銭湯へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらしゃいませ、こんばんは~! 海鳴スパラクーアⅡへようこ……団体様ですか~?」

 

スーパー銭湯こと海鳴スパラクーアⅡに到着、営業スマイル全開の店員が俺達を出迎える。 ただ人数の多さに流石に店員も一瞬驚いた様子を見せたが、直ぐに対応を始めた。

 

「えっと~、大人20人と……」

 

「子ども7人です」

 

「エリオとキャロと……」

 

「アギトとルーテシアと……」

 

「ヴィヴィオ〜!」

 

「後私とアルフです!」

 

しっかし、改めて見ると以前にも来た事があるが銭湯にしては大きくて近代的というか……俺のイメージだともっとレトロな感じで煙突が立っているイメージだからな。 あ、夏だとプールもやってるのか。 世知辛い世の中の体現してるな、ここは。

 

「あれ、アギトって確か……」

 

「安い方がいいだろ」

 

「いやでも……」

 

「まあ、あんたがそれでいいなら何も言わないけど……」

 

アリサもそれで納得し。 それから受付の店員に案内され、俺達は支払いのあるはやてを残し男女の暖簾がある前まで移動する。 暖簾に書いてある字を見て……

 

「……男女別か。 混浴じゃなくてよかった」

 

「ですね。混浴だったら大変でしたね……」

 

子どもの頃、ここではちょっと苦い経験があったため、混浴なんて実際にあるわけないが少しホッとする。 しかし、エリオは俺のような苦い経験はないはずだが……単純に女性と一緒に風呂に恥ずかしさもあり入りたくはないのだろう。

 

「エリオくん、一緒にお風呂入ろう!」

 

「ええぇっ!? だ、だめだよキャロ! 僕は男の子だし、それにレンヤさん達だっているし……」

 

恥じらいもなく、異性のエリオを一緒にお風呂に誘うキャロにたじたじなエリオ。 だがそこにフェイトが更に追い討ちをかける。

 

「……でも、せっかくだし一緒に入ろうよ」

 

「フェイトさん!?」

 

おっと、ここでフェイトの親バカが発動。 エリオが追い込まれていく。 エリオはなんとか逃げ道を探すが……キャロの指差した注意書きの看板には、女性風呂への混浴は11歳以下の男児のみでお願いしますと……書かれていた。 今のエリオは10歳な訳で、制限をクリアしている為問題なく女湯へ入れる。 というか説明書きにある外国人向けの英語、よく読めるよな。 いくらミッドチルダ語と似てるからって。

 

「え……い、いや……あ、あのですね! それはやっぱり……スバルさんとか、隊長達とか、ソラさん達もいますし!」

 

しどろもどろになりながらもあらゆる抵抗を試みるエリオ。 しかし……

 

「別に私は構わないけど?」

 

「てゆーか、前から頭洗ってあげようかとか言ってるじゃない」

 

「アタシらもいいわよ……ね?」

 

「うん」

 

「いいんじゃない? 仲良く入れば」

 

「私は大歓迎です! エリオ君みたいな子とはよく入っていますし!」

 

「ひゅー……エリオのエッチー……」

 

……無情にもティアナとスバル、アリサ、すずか、なのは、ソラにエリオの退路は潰される。 ルーテシアは明らかに楽しんでいるが……

 

「パパ! パパもヴィヴィオと一緒に入ろーよー」

 

「はいはい。 それはまた今度な」

 

それを余所に、袖を引っ張ってお願いして来たヴィヴィオを軽くあしらう。

 

「エリオと一緒にお風呂は久しぶりだし……入りたいなぁ」

 

「うぅ……」

 

とどめの一撃とばかりにフェイトがお願いし、エリオは観念した……ように見えたが、まだエリオは諦めていなかった。 エリオはこっちに助けを求めるような視線を送る。 その小動物のような瞳を見てしまえば、見捨てる事はできない。

 

「そのくらいにしておいてくれ。 エリオだって恥じる気持ちは持ち合わせている」

 

「こんなちっこくってもいっぱしの男、ここは遠慮してくれや」

 

なんとか断れるようにフォローし、コウはエリオの頭をポンポン叩いた。 だがフェイトはまだ諦め半分のようだったので……

 

「じゃ、そういう事で。 また後でな〜」

 

「あ、レンヤ!」

 

逃げるように暖簾を潜って中に入り、その後女性陣も中に入っていったが……

 

「え~っと……」

 

「キャロ?」

 

「キュクル?」

 

(?)

 

キャロは、注意書きに書かれた看板の一部を見ており。 ルーテシア達はキャロの行動を不審に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男湯まで逃げきったと言っていいのか……まあとにかく風呂の入るために今は脱衣場にいた。

 

「カギは腕に付けるんだ。 無くしたらロッカーは開けられないし、当然弁償だ」

 

「はい、分かりました」

 

上着をを脱ぎながら、エリオにロッカーの使い方を教える。 おそらくこの感じだと銭湯のルールも知らないはずだ。 後でソーマと一緒に教えるとしよう。

 

「………………」

 

「? どうした?」

 

シャツを脱いだ所でエリオが何かを見て固まっいた。 視線に気付いたのかハッとなるエリオ。

 

「い、いえ! その……レンヤさん達の体って凄い引き締まってるな……って」

 

「まぁ、それなりに鍛えてたからな」

 

「そうですね、あんまり意識したことはありませんでしたけど……」

 

「俺はそんな事してないんだが……グリードと戦っていればイヤでもこうなる」

 

俺、ソーマ、コウは身体を見下ろしながら何となく上腕と腹筋に力を入れる。その姿にエリオは目を更に奪われてしまう。やはり少年でも鍛えられた身体というモノに興味があるようだ。

 

「レンヤさんが以前勤めていた異界対策課って、これくらい鍛えないと入れないんでしょうか?」

 

「まさか。 これくらい鍛えれば誰でもなれる。 それに力だけが異界対策課じゃない、エナがいい例だ」

 

「ただ、エリオはまだ成長期だし。 焦らずゆっくり力を付けて行けばいいよ」

 

「そうですか。 でも、僕もこんなふうに鍛えら、えっ!?」

 

「 ? 」

 

突然エリオがこちらを見て……いや、背後を見て固まってしまった。 何が後ろにあるのか確かめようとしたら……

 

「エリオくん! レンヤさん!」

 

「あ」

 

「キャ、キャキャキャキャロ!?」

 

振り向いた先には、体にバスタオルを巻いたキャロが立っていた。一瞬だけ驚いて、直ぐに元に戻るが……エリオは完全にパニックに陥っており、死にかけの金魚のように口をぱくぱくしている。

 

「どうしてここに……」

 

「キャロ……意外と大胆だな」

 

「?」

 

「ふ、ふふふ、服!! 服!?」

 

「うん。 女性用更衣室の方で脱いできたよ。 だからほら、タオルをーー」

 

「うわぁ!?」

 

「ダメよキャロ、前は開けちゃあ。 エリオが興奮しちゃうでしょう?」

 

「こうふん?」

 

「し、しないよ!! って、ルーテシアまで!?」

 

タオルを開けようとするキャロをいつの間にか隣にいたルーテシアが止め、エリオはもっと顔を赤くする。

 

「てゆーか、あの、こっち男性用!?」

 

「女の子も11歳以下は、男性用の方にも入っていいんだって……係りの人が教えてくれたから」

 

キャロの言葉に納得する。女湯に11歳以下の男の子が入れるならその逆もあるという訳だ。 随分と仲が良いとは思うが、エリオにとっては少し気の毒だ。 現に今もエリオは顔を真っ赤にしており、話しが進む様子はない。 ここまで来てしまっては仕方ないと思い……

 

「しょうがないか……キャロ、一緒に入か?」

 

「はい!」

 

「レンヤさん!?」

 

叫ぶエリオにコウは静かに肩に手を置き、耳打ちする。

 

「エリオ、諦めろ。こうなったら、お前が女子風呂に行くか、こっちでキャロと一緒に入るかの二択しか残されてない」

 

「……はい……」

 

エリオは観念し、項垂れた。 がっくしと項垂れるエリオの背中を押して、嬉しそうなキャロと、この状況を楽しんでいるルーテシアを連れ浴場へと入る。 先に簡単に湯の使い方とか、作法とかを教えてから

 

「2人共、髪を洗ってやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

シャワーの蛇口を回し冷水とお湯の比率を熱くない程度に調整しまずはキャロの髪を洗う。 よくヴィヴィオの髪を洗っていたので、それなりに手慣れている。

 

「キャロの髪はサラサラだな。流石は女の子だ」

 

「えへへ」

 

「……うっ……」

 

「ねえねえ、私は?」

 

「ああ、ルーテシアもな」

 

キャロの隣にいるエリオは、未だこの現実を認められないのか目を固く閉じ、首をキャロとは反対方向に向けたが……その先にはルーテシアがいて。 ルーテシアはウインクして返すが、結局エリオはシャワーを被って俯いた。

 

「ほらルーテシア、お湯を被せるよ?」

 

「はーい」

 

「エリオも、恥ずかしがってねえでさっさと洗うぞ」

 

「は、はい」

 

年長者3人で子ども達3人の髪を洗ってあげた。 雑談しながら洗い終わり、自分達の事もすぐに終えて俺達は湯船に浸かった。

 

「はぁ~、気もちいいね」

 

「そ、そうだね」

 

うっとりとした表情で気持ちよく湯船に浸かるキャロ。 エリオにその心境を伝えるが、エリオはそれどころではないようだ。

 

「あはは、フリードとガリューも気持ちいい?」

 

「キュクル〜」

 

(コクン)

 

ルーテシアは桶に湯をいれて、そこに球状態のフリードとガリューを入れて2匹にも風呂に入れてあげていた。

 

「ふう……こういうのもたまには悪くねえな」

 

「日頃の疲れが溶けて出そうですね」

 

「ああ、任務の途中じゃなかったら……ゆっくり浸かっていたかったな」

 

それに、こうして誰かと一緒に湯に浸かる事はルーフェンへ小旅行に行った時以来だ。 そこまで離れた年ではないが、少し……

 

「懐かしいな……」

 

「え、何がですか?」

 

「あ……ちょっとな。 以前にも他のVII組の皆とこうして湯に浸かっていた、って思ってさ」

 

「VII組? ああ、あの紅い制服の……」

 

コウは事件が終わった時の制服姿を思い出していた。

 

「俺らも似たような事があったな……ま、その後レムのやつに試されたんだがな」

 

「レム!? まさかコウ、異界の子と会った事があるのか!?」

 

「お前んとこもか!?」

 

「ああ、以前にコウと同じように試されたんだ。 龍のグリードに化けてな」

 

「同じだ、龍のグリードじゃなくてこっちは狐のグリードだったがな」

 

意外な共通点があり、話が盛り上がってしまうが……話が見えないソーマ達は困惑していた。

 

「あの、レンヤさん……レムとは?」

 

「……簡単に言えば異界の子……ザナドゥの全てを知っていると言われている幽霊みたいな傍観者だ」

 

「えっ……!?」

 

「異界がなんなのか、怪異がなんなのか……レムはその全てを知っている。 が、教える気はねえみたいで。 それでいてピンチの時には助けてくれるよく分かんねえ奴さ」

 

「そんな人が……」

 

意外な事実に、ソーマ達も含めて驚いていた。 最近は会っていないけど、もしかしたら今回の任務中に会えるかもな、多分。 そこで一旦話を区切り、ゆっくりと湯船に浸かった。

 

「あ、エリオエリオ。 あっちに露天風呂があるみたいだよ?」

 

しばらくして、ゆっくり出来なかった……というより落ち着きのないルーテシアが露天風呂がある事に気付き、エリオを誘った。

 

「本当!? 行こう、エリオ君、ルーテシアちゃん!」

 

「わ、分かったから引っ張らないで……すみませんレンヤさん、ちょっと外の露天風呂に行ってきます」

 

「わかった。なにかあったら念話で連絡しろよ」

 

「はい」

 

「は〜い」

 

エリオとキャロとルーテシアは駆け足で露天風呂に向かうドアに向かって行った。 それから数分後……

 

『すみません! レンヤさん、聞こえますか!』

 

突然エリオから念話が届いた。 かなり焦っているようだが……

 

『ん? どうかしたのか、エリオ?』

 

『き、緊急事態なんです! 早く来てください!!』

 

……念話しながら何かに耐えているような感じだな。 何やってるんだ?

 

『うっ……お、お願いします! 早く助けてください!』

 

『……わかった、すぐに行く』

 

『お願いします!!』

 

「さて……」

 

「? レンヤさん、どうかしましたか?」

 

ソーマは突然立ち上がった事に声をかけてきた。

 

「ちょっとエリオに念話で呼ばれてな。 少し見に行ってくる」

 

そう言いながら腰にタオルを巻いて湯船から出て露天風呂に向かった。

 

 

それを見送ると、コウはある看板に気付いた。

 

「ん? なになに……この先の露天風呂は混浴です? ……あ、もしかしてエリオが呼んだ理由って……」

 

「ま、まさか……」

 

 

エリオに呼ばれて露天風呂に向かうが、少し人が少ない気がしながら露天風呂に行くと……

 

「エリオ! いい加減、放しなさい!」

 

「いやです~!」

 

何なら揉め事が聞こえてきた。 とにかく中に入ってみると……

 

「レンヤさん!」

 

「エリオ、何かあったの、か?」

 

そこには……エリオを連れ出そうとするフェイトが、となりにはなのはが。 ただし、一糸纏わぬ状態でだが……

 

「え……」

 

「レ、レン君……?」

 

「な、なのは……フェイト……」

 

お互いただただ顔を固まりながら見つめ合う。 その間に緩んだ拘束を抜け、エリオは薄情にもそそくさと男湯の方に逃げるとそ、れと同時に……ボン!と音を立てて、なのはとフェイトは一瞬で顔を赤くした。

 

『きゃあああああ!!』

 

「ご、ごめん!」

 

2人の悲鳴で我に返り、あわてて背を向けた。 ……なんか、前にもこんな事があったような……

 

「ど、どうしてここに? ここは男性は入れないはずだよ」

 

「あ……しまった、そうだった。 忘れてたし、エリオが入ってたからつい……」

 

「うう〜〜……」

 

「ーーなのはちゃん、フェイトちゃん、すごい悲鳴がしたけどどないんしたんや?」

 

なのは顔を真っ赤にして羞恥でジト目で睨む。 背中にその視線がチクチクと刺さっていると……悲鳴を聞いたのか、はやてが入って来た。

 

「あ……レンヤ君……」

 

「そ、それじゃあ俺はこれで……」

 

「まあ待ちい、乙女の柔肌見といてただ帰るのはあかんで」

 

ふにょん……

 

「いいっ!?」

 

はやてが一瞬で背後に来て……何やら背中に柔らかいものを押し付けられた。

 

「……ふっふー、ここでレンヤ君を籠絡して……既成事実を……」

 

「は、はやてちゃん!?」

 

「ダ、ダメーー!」

 

次の瞬間、グイッと背後に引っ張られ……3人と揉みくちゃになりながら転んでしまった。

 

「ルーテシアちゃん? 何も見えないよ?」

 

「ここから先はアダルティーなので良い子は見ちゃダメよ」

 

「だな……」

 

……どうしてこうなった……現在の状態は、転んでしまうのを防ぐために地面に両手をつこうとしたらこれまた柔らかいものを掴み。 顔は同様に何か柔らかいものに包まれている状態になってしまった。

 

「あ……///」

 

「んっ……///」

 

「っ……///」

 

視線を巡らせると……両手がなのはとフェイトの双丘の片方を鷲掴みにし、はやての双丘に顔面から突っ込んでいた。

 

「わああああああっ!? ご、ごごごごめん!!」

 

自分でもビックリする程静止状態から飛び上がり、ものすごい勢いで90度頭を下げた。 3人はバスタオルで身体を隠しながら立ち上がり、目の前に立った。 ビンタの一つ……三つを覚悟したが……

 

「レン君」

 

「……はい」

 

「ちょっと、頭を冷やそっか♪」

 

「え……うわっ!?」

 

魔法で引っ張られ、水風呂に入れられた。

 

「ぷはぁっ!」

 

「レンヤ君、この意味をよう考えるやで」

 

「恥ずかしくないと言えば嘘になるけど、怒ってはいないから」

 

「レン君はわざと覗きに来るような人じゃないからね」

 

「え……」

 

それだけを言い残して、なのは達はキャロとルーテシアを連れて女湯に戻って行った。 ドアが閉められ、しばらく放心してしまう。

 

「キュクルー」

 

(ピョンピョン)

 

置いていかれたフリードとガリューはこっちに飛んで来て肩に乗り、正気に戻そうとしてくれた。

 

「……大丈夫だ。 係りの人が来る前に早く戻ろう」

 

2匹を掴み、スクッと立ち上がってそそくさと露天風呂を出た。

 

(意味、か……)

 

はやての言葉と一緒に、以前リヴァンに言われた事も思い出した。 一体、俺はなのは達の事を本当にどう思っているのか……

 

(だが……なのは達から見て俺は……)

 

いつものように頭の中でパーツを巡らせて推理する。

 

「っ!」

 

導き出せた答えに驚愕し……あり得ないと頭を左右に振る。 まずは2度目の頭を冷やすために冷水を被るとして……逃げたエリオを締め上げよう。

 

 

 


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