魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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閃の軌跡IIIに対して。

……セドリックよ。 何があったのだ?


148話

 

5月30日ーー

 

「緊急の派遣任務や、レンヤ君」

 

「いや、いきなり呼び出しおいて開口一番なに言ってるんだ?」

 

火急だという事で呼び出されて急いで部隊長室に赴いたが、中ではリインと呼び出した本人がニッコリと笑っていた為……自分が嵌められた事に気付き、脱力した。

 

「まぁ緊急やないんやけど、任務を依頼してきたトコが教会からやからそれなりに重要なんよ」

 

「教会って……もしかしてカリムからか?」

 

「そうで〜す! カリムさんから今朝管理世界外にあるロストロギアの回収をお願いされたのです!」

 

リインが俺の前に飛び、任務内容を説明を追記した。

 

「ソフィーさん達も忙しいからすぐに動かせる隊がないのは知ってるけど……それで、どこの管理外世界なんだ?」

 

「ふっふっふ〜、聞いて驚くな〜? なんと、管理外世界97番、地球の玖州にある海鳴市や!」

 

「へえ、海鳴市ねえ……」

 

「なんや、驚いとるのかよう分からんリアクションやなぁ……」

 

「これでも結構驚いているぞ。 経験上、その程度は毎度のことで驚き慣れただけだ」

 

ただまあ、海鳴はロストロギアを引き寄せる運命にあるのかと思ってしまったりしてしまう。

 

「まあええ。 緊急出動があらへんかったら2時間後に出発や。 メンバーはフォワード隊の新人・隊長陣は勿論の事、私とリインにリンスにシャマルが同行するんよ」

 

「……多過ぎないか?」

 

「まあ、ある程度の広域捜査になりますから。 司令部も必要ですので」

 

その言い方だと、部隊はグリフィスに任せるとして、ザフィーラは六課で待機だとしても、六課の戦力のほとんどが出動って……

 

「俺は残った方が良いんじゃないか?」

 

「え……どないして?」

 

「明らかに過剰戦力だ。 新人達も実力をつけてきているし、少しメンバーを減らした方がいいと思うぞ」

 

「え、いや、せやかてな……」

 

「?」

 

急にしどろもどろになるはやてに、少し困惑すると……リインが念話をしてきた。

 

『レンヤさん、はやてちゃんはレンヤさんと久しぶりに帰りたいんですよ〜』

 

『帰りたいって……そうか、教団事件の事もあって一昨年から帰郷してなかったな……』

 

帰ったのはレルム魔導学院在学時の2年生の冬期休暇が最後……それ以降はヴィヴィオを保護し、そして教団事件のゴタゴタで……その次は六課設立の為。 帰る暇なんてなかったからな……

 

(……しょうがないか。 ロストロギア回収がメインだけど、別に家族と会っちゃいけないわけでもないしな)

 

それにロストロギアを相手にするわけだし、過剰戦力でも用心に越したことはないか。

 

「分かった。 派遣任務に同行するよ」

 

「! ホンマか!? いやーさすがレンヤ君、話が分かるなぁ!」

 

「段取りはヘリポートから地上本部の転送ポートから地球に向かうんだよな? フェザーズとクレードルはこっちで伝えておく。 他の部隊の連絡は任せる」

 

「はい! 了解でーす!」

 

部隊長室を出て、ソーマ達の元に向かう。 こうして俺は第2の……いや、第1の故郷と言ってもいい第97管理外世界・地球へと向かう事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュク~」

 

(コロコロ)

 

和気藹々とキャロとルーテシアが手の上で球状態のフリードとガリューが転がして遊んでいる中、六課前線メンバーとヴァイスさんが操縦するヘリで地上本部にある転送ポートに移動中だった。

 

「いや〜、本当に久しぶりだね〜、帰るの。 なんか狙っているようで怖い感じもするけど」

 

「せやなぁ。 でも、なんやいつもの同じ感じでワクワクせえへんか?」

 

「そうだね!」

 

はやてとアリシアは楽しそうに会話する。 一応、仕事に行くわけで帰る訳じゃないんだけどな……

 

「何だかこれから任務に入るとは思えないくらいテンション高いね、はやてちゃんとアリシアちゃん」

 

「にゃはは、そうだね。 でも本当はあまりこう言う事言ったらダメだけど、任務先が地元だとやっぱりちょっと気持ちが浮いちゃうな」

 

「地球かぁ……久しぶりだね」

 

「時々両親に連絡で顔を合わせているけど……実際に会うのは本当に久しぶりね」

 

「俺としてはいヴィヴィオを置いていくのが心残りなんだがなあ……」

 

なのは達は仕事だとわかっていても気持ちが浮かれてしまうのは、経緯はどうあれやっぱり故郷に帰られるのは嬉しいのだろうが……やはりヴィヴィオを残して行くのが辛い。 一度両親に紹介したかったし……

 

「なのはさん達の故郷かぁ~……凄く楽しみだよ!」

 

「どんな所なんだろうね?」

 

「綺麗な場所でしょうか?」

 

スバルは、任務先が自分が尊敬する教官の出身世界であるという事で、普段から元気が売りのスバルはいつも以上に元気全開。 ソーマとサーシャも行ったことのない場所を予想する。 そんな2人の横ではキャロが端末で管理局のデータベースを閲覧して書いてある情報を読み上げ始める。 

 

「えっと……第97管理外世界地球、文化レベルB……」

 

「魔法文化なし……次元移動手段なし……って、魔法文化無いの……!?」

 

「にしては過去の魔法関連の事件が多いわね……しかも規模がデカイし」

 

情報を読んだティアナが驚きの声を上げる。 なのは達のような高ランク魔導師の出身世界という事もあり、魔法文化のあるイメージがあったのだろう。 そしてルーテシアは過去に海鳴で起きた事件にも目を通し……その事件の大きさと数に若干引いた。

 

「ないよ。 ウチのお父さんも魔力ゼロだし」

 

「スバルさん、お母さん似なんですよね?」

 

「うん!」

 

確かにスバルとギンガは母親似だが、変な所までは似ないで欲しいと切に願う……

 

「それと、ミッド出身ですけどフェイトさんとアリシアさんも小さい頃暮してて……なのはさん達と一緒に地球の学校に通ってたそうですよ」

 

「ご家族が今も暮してますし」

 

フェイトの事をよく知るエリオとキャロは、詳しく自分が育った地球の事を教えていたようで。 この2人もスバルと同じで地球に行ける事が結構楽しみだったようだ。

 

「……けど魔法文化がない世界で、どうして八神部隊長やなのはさん、アリサさんやすずかさんのようなオーバーSランク魔導師が……」

 

「まぁ、簡単に言えば突然変異とかたまたま~かなぁ?」

 

「あ、八神部隊長! す、すみません……」

 

さっきまでアリシアと話していたはずのはやてがいつの間にかティアナ達の傍に立って話しに参加した事でソーマ達は驚く。

 

「ええよ、別に」

 

「私もはやて隊長も、魔法と出会ったのは偶然だしね」

 

「私とアリサちゃんは先に異界と関わって、それから魔法と出会ったんだよ」

 

「ことの発端はレンヤだけどね」

 

「は、はは……そうだったっけ?」

 

『へぇ~』

 

隊長陣の魔法との出会いを聞いて、ソーマ達は驚きの声を出す。 と、そこでシャマルがリインに。 アリサがアギトに私服を渡していた。

 

「あれ? リインさん、アギトさん、その服って……」

 

「この服は、はやてちゃんのちっちゃい頃のお下がりですよ」

 

「あっちで着る為のやつでな」

 

「あ、いえ……そうではなく」

 

「着れるのかな……って……」

 

「その……八神部隊長とアリサ隊長のお下がりでは……着れないんじゃ?」

 

どうやらはやてとアリサの小さい頃の服のサイズが合っていないと、キャロ達は不思議に思っていた。

 

「? あっ、そういう事ですか。 そう言えばフォワードの皆には見せた事はなかったですね」

 

「そういやソーマ達にも見せたことはなかったな。 ま、見てなって」

 

『?』

 

疑問に答えるように、2人の足元に古代ベルカ式の魔法陣を展開した。

 

「システムスイッチ……」

 

「アウトフレーム……」

 

『フルサイズ!』

 

『おお!?』

 

リインとアギトが身体を構成するシステムを変更した瞬間……2人の体が光に包まれ、光が収まるとエリオとキャロとルーテシアと同じくらいの大きさになったリインとアギトがソーマ達の目の前に降り立った。

 

「でか!?」

 

「いや、それでもちっちゃいけど……」

 

(……何で着てた制服まで大きくなってるんだろう?)

 

ティアナとスバルはリインとアギトの大きさの変化を見て驚いているようだが、ソーマは2人の着てた制服まで何故か大きくなっている事に疑問の目で見ていた。

 

「普通の女の子サイズですね」

 

「向こうの世界には、リインサイズの人間も、ふわふわ飛んでねぇからな」

 

「あの……一応、ミッドにもいないとは思いますよ?」

 

「はい……」

 

いたとしても、そこは人形が置いてあると思うがな。 リインはキャロに近付き、手を頭に乗せて水平に動かして背を比べた。

 

「ふむ……だいたい、エリオやキャロやルーテシアと同じくらいですかね?」

 

「ですね」

 

「リインさん、可愛いです!」

 

「へえ、何だか新鮮な感じね」

 

……どうみても子どもが増えたようにしか見えないのは気のせいだろうか?

 

「リイン曹長、そのサイズでいた方が便利じゃないんですか?」

 

「こっちの姿は燃費と魔力効率があんまり良くないんですよ〜」

 

「コンパクトサイズで飛んでいる方が楽なんだよ」

 

「なるほど……」

 

「あう、アギトさん達も世知辛いですね……」

 

世知辛いというか、リインは知らないがアギトはプライベートの時は基本この身長だったからよくわからない。 というかサーシャ、お前学院にいたから知ってるだろ?

 

数分後、シグナムのメイフォンからアラームが鳴り、はやてに声をかける。

 

「八神部隊長……そろそろ」

 

「うん。 ほんならレンヤ隊長、なのは隊長、フェイト隊長。 私とすずか副隊長とシグナム達はちょお寄るとこがあるから」

 

「やっぱり俺も着いて行こうか?」

 

シグナムがいるし、心配はないと思うが……一応聞いてみた。

 

「うんん、ええよ。それよりもレンヤ君はフォワード達事を頼むわ」

 

はやては少しだけ真剣な目で俺を見つめ……それに負けて頷いた。

 

「……わかった。 シグナム達が付いているし何もないと思うが、気をつけろよ?」

 

「心配しすぎや。 ほな、またな!」

 

「皆、気を付けてね」

 

「うん」

 

「ああ、そっちもな」

 

「先に現地入りしとくね」

 

『お疲れさまです!』

 

「はーい」

 

それから目的に地に到着し……ヘリを降りてからは、はやて、すずか、ヴィータ、シグナム、シャマル、リンスと一旦別れ。 俺達は転送ポートへと向かう。 任務はこれから始まったばかりだ、気を引き締めていかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球、海鳴市郊外ーー

 

地上本部に到着した後転送ポートを使い、俺達は地球へと飛んだ。 転送の影響で発生した光が消え……最初に視界に入ってきたな太陽の光を反射して輝く湖と、緑豊かな自然。 またそこには別荘らしき建物も立っており、差し詰め湖畔のコテージというイメージが一番似合っている。

 

「はい、到着です!」

 

「ここが……地球」

 

リインが俺達の前に出て、手を広げて到着を元気よく告げる。 ソーマの心境は予想通りか外れたのかは分からないが、驚いていることは分かる。

 

「わぁ~」

 

「ここが……」

 

「なのはさん達の……故郷……」

 

自然を見慣れているとはいえ、キャロやティアナ、スバルも目の前の光景に目を奪われている。

 

「そうだよ。ミッドと殆ど変わらないでしょ?」

 

「空は青いし……太陽も一つだし」

 

「山と水と自然の匂いまでそっくりです!」

 

「……最初は一体どんな場所だと思ってたのよ……」

 

(コクン)

 

「キュクル~」

 

「湖……綺麗です」

 

「うん」

 

ティアナとキャロ、エリオもこの景色について感想を言い、ルーテシアがツッコミを入れた。

 

「と言うか……ここは具体的にどこなんでしょう? なんか湖畔のコテージって感じですが」

 

「もしかして、あそこの建物が?」

 

「はい! あの別荘がリイン達の活動拠点になりますよ。 これも現地の方が使用を快く承諾してくれたからですね!」

 

「……現地の方、ですか?」

 

「そうね……そろそろ来てもいい頃だけど」

 

アリサが腕時計を確認すると、ちょうど一台の車がこちらに近付いてきた。

 

「自動車? こっちの世界にもあるんですね」

 

「それはありますよ。 文化レベルBはミッドチルダから魔法を抜いたレベルですから」

 

「もちろん技術的な差異はあるけど、交通機関はだいたい同じだと思うよ」

 

「……オメェら、言いたい放題だな」

 

「あ、あはは……」

 

比較対象がないので気持ちは分からなくもないが、もう少し言葉を選んで欲しい。 車は俺達の前で止まると……運転席から執事服を着た老人……鮫島さんが出てきた。 鮫島さんはアリサの前に行くと恭しく礼をした。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「鮫島、出迎えご苦労様。 そっちは変わりない?」

 

「はい。 旦那様が最近会ってないと寂しがっておられましてよ?」

 

「事情は説明したんだけどね……一度顔を見せた方がいいかもしれないわね」

 

「その方がよろしいかと」

 

俺達にとっては見覚えのある光景だが……スバル達は何も分からずぽかーんと見ていた。 ソーマ達は知っていたが、実際に見るのは初めてで同様に驚いていた。

 

「あ、あの……アリサさんってもしかして……」

 

「アリサは地球では良い家柄の出なんだ」

 

「まあ、簡単言えば貴族のお嬢様ってやつ」

 

「バニングス家の執事をさせてもらっている鮫島と言うものです。 どうか見知り起きを」

 

『えっ!?』

 

アリシアが付け加えるように説明し、鮫島が丁寧に挨拶するとスバル達は驚きの声を上げる。

 

「そんなんじゃないわよ。 変に誤解するようなことは言わないでよ」

 

「別に隠すような事でもないでしょう? あ、ちなみにすずかちゃんもここではお嬢様だから」

 

『ええええっ!?』

 

さらなる事実にさらに声を上げるスバル達。 と、その時。 車の後部ドアが開き……

 

「ーー全く、お前と会う時はだいたい騒がしいな」

 

「はは、そうだな。 本当に何かが起こっていて騒がしい」

 

車から出て来たのは……俺達と同年代くらいの青年と。 活発そうな短髪の少女だった。

 

「久しぶりだな、レンヤ」

 

「お久しぶりです、レンヤさん!」

 

「久しぶり、コウ、ソラ。 ジュンとは前に会ったが、元気にしてたか?」

 

「まあ、ボチボチな」

 

「押忍! 毎日元気にやってます!」

 

コウは俺達を見回し、はやてとすずかがいない事に気が付いた。

 

「そういえば、はやて達は?」

 

「別行動よ。 違う転送ポートから来るはず……恐らくすずかのところね」

 

「そうですか。 後でご挨拶に伺いませんとね」

 

ソーマ達は話が飲み込めないでおり、キャロがおずおずと手を上げた。

 

「あの、レンヤさん。 このお2人は?」

 

「ああ、紹介するよ。 ちょうどこの海鳴で異界の調査をしていた所、俺達の任務に協力してくれる事になった2人だ」

 

「ども、時坂 洸っス」

 

「郁島 空です! どうかよろしくお願いします!」

 

「ど、どうも……」

 

2人の挨拶に温度差があり、特にティアナはソラに戸惑いながらも返事をし。 その後ソーマ達も自己紹介をした。

 

「あの、アリシアさん。 異界の調査って言ってましたけど……コウさんとソラさんも異界対策課なんですか?」

 

「違うわ、この2人は異界対策課じゃないわよ」

 

「そうだよ、2人は元々ここ地球にある組織に所属しているんだ」

 

「そのロストロギアってのが、今回海鳴で発生している異界化の原因の1つだと考えている。 その名目で俺達も協力させてもらうわけだ」

 

「なるほど……」

 

事情は理解したようで……さっそくアリサに案内でコテージの中に入り、荷物類を置いた後リビングに集まる。

 

「さて……じゃあ、改めて今回の任務を簡単に説明するよ」

 

『はい!』

 

フォワード達が返事をし、なのはが空間ディスプレイを表示する。

 

「捜索地域はここ、海鳴市の市内全域。 反応があったのは、ここと、ここと……ここ」

 

「移動してるな」

 

「移動してますね」

 

モニターの対象が移動した事で反応が感知された場所を表している点滅を見てコウとティアナは声を出す。

 

「そう。 誰かが持って移動しているのか……それとも独立してるのかは分からないけど……」

 

「対象の危険性は?」

 

特に注視しなければならない点を、なのはに質問した。

 

「対象ロストロギアの危険性は、今のところ確認されてないよ」

 

「仮にレリックだったとしても、この世界は魔力保有者が滅多にいないから……暴走の危険はかなりないよ」

 

だがそれでも用心に越した事はない。 コウ達が懸念している通り異界化の兆候もあるし、何よりロストロギアだ。 何らかの弾みでどうなるか分からない。

 

「とは言え、相手はやっぱりロストロギア。 何が起こるかもわからないし、場所も市街地……油断せずに、しっかり捜索して行こう」

 

「うん、了解」

 

「では、副隊長達には後で合流してもらうので……」

 

「先行して出発するわよ」

 

『はい!』

 

任務を開始し。 スターズはリインとで対象ロストロギアを手分けして捜索。 フェザーズとライトニングは市内各所にサーチャーの設置、コウ達はサーシャを加えて現存する異界の調査という割り振りとなった。

 

「さて、私は夕食の買い出しにでも行ってくるわ」

 

なのは達がリビングから出た後、アリサが買い出しを申し出て来た。

 

「買い出しって……コテージに用意されてないのか?」

 

「急な話だったから何もないわよ。 人手は十分たりてるし、このくらい任せて起きなさい」

 

「アタシも行くぜ。 久しぶりに街並みを見て回りてぇし」

 

『ならアリサちゃん、すぐに合流できるし、私も一緒に行くよ。 コテージだし、バーベキューなんてどうかな?』

 

「ええ、それがいいわね」

 

それから程なくして、コテージに八神家が合流。 六課メンバーは部隊長であるはやての作戦行動開始の合図で海鳴市へとそれぞれ動き出した。

 

さっそく俺達は街に出て、市内を捜査しながら要所要所にサーチャーを設置して行く。

 

「本当に、平和な所なんですね……」

 

「本当だね……」

 

「魔法文化がないから、分かりやすい犯罪が少ないんだろうね」

 

「つまり分かりにくい犯罪はある、どんな場所でもそれは変わらないって事ね」

 

エリオ、キャロ、ソーマ、ルーテシアの4人は、一見兄妹に見えなくもない感じで歩きながらサーチャーを設置していた。

 

「キュクー」

 

「あ、フリード。 出て来ちゃ駄目だよ」

 

「キュクルー……」

 

ポケットからフリードが顔を出し、出たそうに鳴くが……キャロが注意すると残念そうに鳴いて引っ込んだ。

 

「うーん、静かにできるならガリューみたいにおもちゃとして外に出せるんだけど……」

 

(キョロキョロ)

 

「ガリューも物珍しそうに見ているからね」

 

「なら早く終わらせて、フリードを出してあげよう」

 

『はい!』

 

ソーマの言葉に3人が頷くと、サーチャーの設置を続けた。

 

ピリリリリリリ♪

 

その時、メイフォンに着信が入って来た。 どうやらサーシャからのようだ。

 

「レンヤだ。 何かあったのか?」

 

『あ、レンヤさん。 実は捜索地域内の異界を調べていたのですが……いなかったんです』

 

「いなかった? 何がだ」

 

『……怪異が、一体も見つからなかったんです。 今まで調べた4件全部が』

 

「……………………」

 

今あるだけの情報だけではまだ断定は出来ない。

 

「……サーシャはこのままコウ達と調査を続けてくれ。 何かあったらまた連絡するように」

 

『はい。 あ、コウさんから話したい事があるそうで、変わりますね』

 

間を置いてメイフォンからコウの声が聞こえて来た。

 

『この異変、どう思う?』

 

「判断材料が少ない、まだ何とも言えないけど……4つの異界からグリードが全滅、もしかしたらヤバイのが出て来ているかもしれない」

 

『同感だ……そんじゃ、また後でな』

 

通信を切り、メイフォンをポケットに入れる。

 

「サーシャから?」

 

「ああ……」

 

通話の内容をフェイトとシグナムに伝えた。

 

「……なるほど、そんな事が」

 

「警戒しておくに越した事はないが……もしグリードとの戦いになった場合、スバル、ティアナ、エリオ、キャロはまともに戦えると思うか?」

 

「難しいでしょうね。 グリード戦は対人ともガジェットとも勝手が違う、そういう事態が起きなければいいんだけど……」

 

「そうだね……こんな事なら1度は低ランクの異界に連れて行った方が良かったかもしれないよ」

 

今となって後悔しても後の祭り、仕方なしと思い作業を進めようとすると……遠くから妙な気配を感じた。

 

「この感じは……」

 

「レンヤ?」

 

すぐに探ろうとするが、すでに気配は消えていた。 気配がした方角は……確か旅館があったはずだ。 旅館から発せられたものだとすれば、予想できるのはあの白いゲートの異界……

 

「ねえレンヤ、どうかしたの?」

 

「! あ、いや……なんでもない。 少し考え込んでただけだ」

 

「あ、待ってよ!」

 

誤魔化すように歩き始め、少し懸念しながらも気を取り直してサーチャーを設置して行き……全員がサーチャーの設置が終わった頃、今度ははやてから通信が入って来た。 通常こういう時の通信はデバイスを通しての全体通信だが、怪しまれない為にもメイフォンで通信している。

 

『ロングアーチからフェザーズ、スターズ、ライトニングへ。 さっき、教会本部から新情報が来てな。 問題のロストロギアの所有者が判明したそうや。 どうやら、運搬中に喪失。 事件性は皆無やって』

 

『本体の性質も逃走のみで、攻撃性はないそうよ……ただし、大変高価なものなので、出来れば無傷で捕まえてほしいとのことよ』

 

はやての説明を、シャマルが補足した。 しかし高価なものか……そう言われると無駄に緊張してやらかしてしまいそうだな。

 

『ってなわけで、気ぃ抜かずにしっかりやろ』

 

『了解!』

 

はやての言葉に全員の斉唱が響き、通信は終わった。 そしてこれで……この海鳴で起こっている異界化(イクリプス)は偶然に起こったものという事が分かった。

 

「レンヤ、どうかしたの?」

 

「あ、いや……何でもない」

 

「そう? 今からスターズの皆を拾って行くけど、レンヤはどうする?」

 

「なら一緒に行くよ。 場所はどこだ? 俺が運転して行く」

 

「ならお願いね。 場所はーー喫茶・翠屋」

 

「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリオ達を呼び、車に乗り込んでしばらく走らせ。 一軒の喫茶店の前に車を止めた。

 

「……………………」

 

車から降り、無言で喫茶店を見上げる。 なのは達はすでに中にいるようだが……

 

「こんな形で帰って来るとはなあ……」

 

「どうしたのレンヤ、早く入ろ?」

 

フェイトに引っ張られ、中に入ると……

 

「いらっしゃーい♪ フェイトちゃん、久しぶり~」

 

出迎えてくれたのは、高町 桃子……俺の育ての母親だ。

 

「桃子さん。お久しぶりです」

 

「あの、フェイトさん。こちらの女性は?」

 

エリオが母さんが誰なのか訪ねた。

 

「ああ、ごめんね。こちらの方は、レンヤとなのはお母さんの……」

 

「高町 桃子です、よろしくね♪」

 

フェイトに続くように、桃子が自己紹介すると、しばらく静まり……

 

『お母さん!?』

 

予想通り、ほぼ全員が驚いた。 するとルーテシアがフェイトの側に近寄る。

 

「ねえ、フェイト……」

 

「うん、どうかしたの?」

 

「この世界では、不老不死の研究でも成功しているの?」

 

「……気持ちはわかるけど、落ち着いてね」

 

フェイトがルーテシアが落ち着かせ、俺は母さんの前に出る。

 

「ただいま、母さん。 あんまり顔を出せなくてごめん」

 

「もう、あなたはいつも謝るんだから。 いくら時間が経っても、こうして今顔を見られた……それで十分よ」

 

「……ありがとう」

 

頰に添えられた手を、甘んじて受け入れる。

 

『なんだか……こんなレンヤさん初めて見た』

 

『うん……なんだか、まだ子どもみたいに……』

 

『ふふ、どんな人でも……親は必要なのね』

 

ソーマ達が何か念話で話しているが……その時店のドアが開いてコウ達が入って来た。

 

「えっと……ここであってんのか?」

 

「そのようですけど……」

 

「あ、レンヤさん!」

 

「コウ、そっちも調査が終わったのか?」

 

「ああ。 特に何も分かんなかったが、後で報告しとく」

 

と、その時。 店の奥から高町 士郎……父さんと高町 美由希……姉さんが出て来た。

 

「お? レンヤにフェイトちゃんか。 久しぶりだね」

 

「久しぶり~レンヤー!」

 

「わっ!? ちょ、抱きつかないでよ……!」

 

「お久しぶりです。 士郎さん、美由希さん。 皆、こちらはレンヤとなのはのお父さんとお姉さんの……」

 

「なのはの父で、高町士郎だ。 よろしく」

 

「私が姉の高町美由希です。 よろしくね」

 

姉さんが抱きついたまま自己紹介し、全員また沈黙しかなかった。 まあ、どういうわけかウチの家族はなせが若い……若く見えるからな。

 

「レンヤ〜、今何考えたの〜?」

 

「ぐ……入ってる……入ってるから……!」

 

そして変な時に鋭いのも……とにかく振り解くと、なのはが近付いて来た。 その表情はどこか苦笑い気味だ。

 

「あ、レン君……」

 

「ふう……どうかしたのか、なのは?」

 

「えっとね……」

 

なのはにしては歯切れが悪いな。 と、なのはは見た方が早いと手を引いて店の奥に連れて行き……

 

「あ、お帰りなさい。 レンヤ君、皆さん」

 

「モグモグモグ……」

 

そこには挨拶をするファリンさんと……ケーキを食べるのに集中しているヴィヴィオがいた。 ヴィヴィオは視線に気付いて顔を上げ、俺の姿を捉えた。

 

「あ……パパ!」

 

「……えっと……ファリン? これは一体?」

 

「ヴィヴィオちゃんが行きたい行きたいと何度もごねちゃってね。 急遽、リンディさんに相談した所……レンヤ君が監督責任という事で来ちゃいました♪」

 

「いや来ちゃいました、じゃなくて……」

 

ここに来たのは仕事で、遊びに来たわけじゃないんだが……

 

「パパ。 ヴィヴィオがいちゃ、めーわく?」

 

「う………」

 

目をウルウルさせて、雨の中捨てられた仔犬のような目をして見上げるヴィヴィオ……

 

「そ、そんな事ないぞ!」

 

「わあ、ありがとうパパ!」

 

大喜びではしゃぐヴィヴィオ。 こんな表情をされたら勝てない……なのはもこれに負けたんだな。

 

「うー……レンヤとなのはに先を越された〜……」

 

「ふふ、そうね。 まさか恭ちゃんよりも先に孫を連れて来るなんて」

 

「人生なにが起こるか分かったものじゃないな」

 

その光景を見て、父さんと母さんは微笑み。 姉さんは落ち込む。

 

「レンヤ、この子がおめぇの子どもって……」

 

「事情があるんだよ。 とりあえず今は養子で納得してくれ」

 

「は、はい」

 

事情を知らないコウとソラにはとりあえずこれで納得してもらった。

 

「……あれ?」

 

「ん……どうかしたの、エリオ?」

 

「い、いえ……桃子さんと士郎さんはレンヤさんの両親なんですよね?」

 

「あ……」

 

「……………………」

 

……誰かが聞くとは思っていたが……なのはは少し暗い顔になってしまう。

 

「……俺は養子だ。 高町家に今まで育てられたんだ」

 

「あ! そ、その……すみません!」

 

「別に謝る必要はない。 俺は父さんと母さんに育てられた事を、誇りに思っているからな」

 

「レンヤ……」

 

胸に手を当て、昔を思い出しように話す。 辛い時もあったけど、後悔はしていない。

 

「と、そうだ。 まだお母さん達にヴィヴィオちゃんに自己紹介してなかったよね?」

 

「あ、うん。 そうだね」

 

なのはが話を変え、俺はヴィヴィオを立たせて父さん達の前に立たせた。

 

「ほらヴィヴィオ。 挨拶」

 

「はーい! 神崎 ヴィヴィオです! よろしくお願いします!」

 

「はい、よろしくね、ヴィヴィオちゃん」

 

「元気な子じゃないか」

 

「えへへ」

 

いつものように挨拶するヴィヴィオ、父さん達にも好印象のようだ。

 

「それにしても、ヴィヴィオちゃんは可愛いねえ〜♪」

 

「ふえ〜……?」

 

姉さんに抱き締められ、ヴィヴィオは何も分からない顔をする。

 

「ねえ、ヴィヴィオ。 このままウチの子にならな〜い?」

 

「ウチの子〜?」

 

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 

「いつも忙しいパパ達よりも、ずっと一緒に入られるよ〜?」

 

「う〜ん……」

 

からかうように姉さんはヴィヴィオを誘うが、ヴィヴィオはどうしようかと考えた込むと……

 

「ゼッタイにイヤ」

 

「ガーーン!」

 

とても良い笑顔で断り、姉さんは本気で落ち込んだ。

 

「ヴィヴィオ……」

 

「だってパパ達と離れるなんてイヤだもん。 ヴィヴィオ、ゼッタイに行かない」

 

「ヴィヴィオ……(じーん)」

 

なのはは思わす感動して目に少し涙を出していた。 その気持ちは分かる、これが親の気持ちなのか……

 

「……ふふ、ごめんね。 冗談が過ぎちゃった。 それで……いつ式を上げるの?」

 

『姉さん(お姉ちゃん)!!』

 

「あはは、冗談冗談〜♪」

 

からかっている姉さんを声を揃えて注意し、その後顔を合わせると……なのはは顔を赤くしてしまい、気まずい空気が流れた。

 

「あ……あ、そういえばお父さん。 お兄ちゃんは?」

 

ふと思い出したのか、なのはが質問した。

 

「恭ちゃんだったら、1度2日前に帰ってきたけど、忍さんとまたロンドンに行ったよ」

 

「うーん、それは何とも……」

 

「タイミング悪かったね~」

 

「お兄さん……ですか?」

 

狙う事なんて出るとは思っていないが、少なからず残念だと思う。

 

「そうだよ……っと、君は?」

 

「あ、失礼しました。僕はソーマ・アルセイフです」

 

士郎の問いかけにソーマが挨拶していると、それに続くようにエリオ達が挨拶した。

 

「よろしくね。 そうだ、コーヒーと紅茶でもどうかな?」

 

「あ……ではでは、いただきます」

 

「私は紅茶を頼むわ」

 

「あ、私もそれで!」

 

「俺はコーヒーをお願いするッス」

 

「あ、そうそう。 クッキーもいるかい? 自慢の新作でね」

 

「わあ、ありがとうございます!」

 

エリオ、キャロ、ルーテシア、ヴィヴィオはクッキーをもらい、美味しそうに食べた。 俺も1つもらい、一口かじった。

 

「……うん、すごく美味しい。 父さん、また腕を上げたじゃないの?」

 

「はは、それは頑張った甲斐があったな」

 

「レンヤも皆からお菓子が美味しくなっているって聞いているわよ。 もし暇が出来たら遠月にでも行ってもらおうかしら?」

 

「はは、美味しいのは材料がいいからだよ。 まあでも、当分暇は取れないと思うけど……何とかして帰れるようにはするよ」

 

謙虚するように言い、話を聞いていたスバルが質問して来た。

 

「材料って、レンヤさんお菓子作る時に何か特別な食材でも使っているんですか?」

 

「ああ、たまに異界から取れる食材を使っているんだ」

 

そう答えると、スバル達はビシッと石のように固まってしまった。

 

「あ、あの……もしかして……前に食べたチーズケーキにも?」

 

「ああ、使っているぞ」

 

次の瞬間、スバル達4人は口元を押さえた。 あ、そうか。 怪異が蔓延る異界から取れた食材って聞くとゲテモノのイメージがあるからな。

 

「な、なんてものを食べされるんですか!!」

 

「ティア、落ち着いて。 ティア達が思っているようなものじゃないから」

 

「異界には人が食べられるもんがあるんだ。 別に害はないから俺らもよく重宝してるんだ」

 

「君達も食べたのなら分かるでしょう? とっても美味しかったって!」

 

コウとソラが説明を付け加え、スバル達は納得するようにホッとした。

 

「と、もうこんな時間……俺達はそろそろ行くよ」

 

「またね、お母さん、お父さん」

 

「バイバーイ」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

「気をつけるんだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「また後でね〜」

 

俺達は父さんに別れを告げ、車に乗り込んでコテージに向かって行った。

 

 

 

 


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