魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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147話

 

 

5月20日、初の出動から1週間後ーー

 

あれから出動もなく、今日も六課は通常勤務……フォワード達も個別スキル訓練に入り、より一層精進しているだろう。 まあ、しているというよりは……

 

「させてるんだけどな」

 

「何独り言を言っているんですかーーー!!」

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

後ろを走っていたソーマはツッコミを入れて来た。 今俺はソーマ、ルーテシアの訓練をしていた。 今日は午前の仕事はそこまでなく、時間が出来たので2人の指導をしていた。

 

「そ、そもそもなんで走らされているの……」

 

「オールフィールダーはすぐに移動し、どんな距離でも対応する必要がある。 そうなると体力は必須、意味は分かるだろう?」

 

「だ、だからってこんな強力な魔力負荷バンドを付けなくても……」

 

「お前達の戦闘スキルは俺がよく知っている。 まずは応用より基礎を固めないと、足元すくわれるぞー」

 

基礎はとても大事だ。 基礎が出来なければ応用も難しいし……技術、魔法、作戦、これら全てが通用しなくなった時、基礎はとても重要な役割を果たすことが出来るからな。

 

「ほら、後10キロだ。 張り切って行くぞ!」

 

「ひええー……!」

 

「じぇ、じぇろにも〜〜……」(意味不明)

 

(パタパタ)

 

ルーテシアの肩の上で両手にうちわを持って応援するガリュー。 と、その時……左から何かが接近するのを感じ、その場から飛び退くと……

 

「うわぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

ソーマは吹っ飛んで来たスバルに巻き込まれ、そのまま転がりながら木にぶつかった。 スバルが飛んで来た方向にはグラーフアイゼンを振り下ろした状態のヴィータがいた。

 

「ヴィータ、もうちょっと手加減してもよかったんじゃないか?」

 

「う、うるせ……お前らがここを通るから悪いんだ」

 

「だ、大丈夫ですかー?」

 

「う、う〜ん……」

 

「ふひゃ!?」

 

ソーマがスバルを押し退けようと腕を上げた時、突然スバルが奇声を発し……

 

「いやああああっ!!」

 

「ぐふぁっ!?」

 

リボルバーナックルでソーマの鳩尾を思いっきり殴り、ソーマはそのまま死に絶えたように気絶した。

 

「あーりゃりゃ……」

 

(…………)

 

「お、おい大丈夫か?」

 

慌てて近寄り、容態を見てみる。 気絶しているだけで、特に問題なしっと……

 

「スバル、少しやり過ぎだぞ」

 

「え!? え〜〜っと……すみません……」

 

「はあ……なにやってんだよ」

 

結局、フェザーズはそのまま休憩となり。 その場でスバルとヴィータの訓練を見学、ヴィータがフロントアタッカーとしてすべき事を教えていた。

 

「あ、フィールド系か……」

 

「ん? 何かあんのか?」

 

「い、いえ……! ただ、フィールド系なら私のシューティングアーツと相性がいいかなーって」

 

「ふうん? なら試してみろ、どう打って欲しい?」

 

「それじゃあ射撃型で」

 

2人は距離を取り、ヴィータは魔法を発動して周りにいくつもの鉄球が浮かび上がる。

 

《シュワルベフリーゲン》

 

「でやあっ!」

 

グラーフアイゼンで鉄球を打ち出し、スバルは身体全体に魔力を纏い……

 

「っ!」

 

両腕を縦に別の高さに上げて防御の構えを取って前進。 鉄球が当たる直前に片足も上げて……防御の上に鉄球が直撃すると腕と足を捻るように回転、鉄球を弾いた。

 

「なるほど、な!」

 

「ぐうっ……!」

 

ヴィータはスバルの考えに納得しながら接近し、横にグラーフアイゼンを振った。 スバルは肩をすくめて、あえて肩で受けて衝撃を逸らして威力を半減させた。

 

「ふむ……お前のシューティングアーツ……アタシが知ってるのとはかなりアレンジされてんな。 シューティングアーツはクイントから教わったんだよな?」

 

「は、はい」

 

「拳や蹴りはともかく、攻撃に膝や膝まで使っている……それに今の防御の動き、明らかに対武装兵用に改良されてんな」

 

……確かに、ギンガから見てもそれは感じた。 突進して来た敵には容赦なく顔面に膝蹴りを入れ、キックでグリードを吹っ飛ばしてたな。

 

「……あ……」

 

今思い出した、ギンガのあのしなる鞭のような蹴り……スバルの防御の構え……武器に対抗している武術……

 

(ムエタイじゃん……)

 

地球の武術の一つで、簡単に言えばお国柄のキックボクシング。 ……軽そうなクイントさんならシューティングアーツをムエタイ風にアレンジしそうだな……

 

「さて……」

 

少し気にはなるが一先ず置いておいて、魔力弾をソーマの耳元に設置。 軽く炸裂させると、ソーマはビックリしながら飛び上がった。

 

「うわっ!? ………あれ、ここは……」

 

「もう十分休めただろ? 訓練を再開するぞ」

 

「は〜い」

 

「え、あ……はい!」

 

その途中、フェイト、なのは、アリサの訓練場を走りながら少しだけ見た。 フェイトはエリオとキャロに回避のトレーニングを、なのははティアナに瞬時に判断して射撃するトレーニングを、アリサはサーシャに間合いの取り方を……全員、的確なスキルを鍛えている。 俺もエリオとキャロの指導が出来そうだが……俺の場合、高速戦闘状態の回避は基本的虚空……直感で回避しているから2人の指導に向いてない。

 

それと、余談だが。 本来ソーマの指導はシグナムが担当するのだったが……あの人の指導は届く距離まで近付いて斬れ……だけだったので。 当分は基礎を固める事になった。 まあ、シグナムの指導を受ければそれだけで実戦経験は得られそうだけど……

 

それから数時間後ーー

 

ホイッスルと同時に午前の訓練が終了した。 フォワード陣は全員例外なく息を上げて地面にへたれこんだ。

 

「個別スキルに入ると、ちょっとキツイでしょう?」

 

「ちょっとと……言うか……」

 

「その……かなり……」

 

「レンヤ隊長とフェイト隊長は忙しいからそうしょっちゅう付き合えねえけど、アタシは当分お前らに付き合ってやっからなあ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

意気揚々にグラーフアイゼンを突き付けながらヴィータの言葉に、スバルは少しありがた迷惑そうに返事し、俺とフェイトは思わず苦笑いしてしまう。

 

「それから、ライトニングの2人は特にだけど……フェザーズ、スターズ、クレードルの皆もまだまだだが成長している最中なんだから」

 

「くれぐれも、無茶は控えるように。 身体に異常を感じたらすぐに報告するだぞ」

 

『はいっ……!』

 

「じゃ、お昼にしよっか」

 

『はいっ!』

 

最初の返事よりも大きな声で返事をし、少し現金に思いながらも隊舎に向かった。

 

「ん?」

 

その途中……進行方向から肩まである髪を一纏めにして、スバル並みのラフな格好に長袖のジャケットを着て、赤いスカーフを首に巻いて左頰に絆創膏を付けた女の子が両手に荷物を抱えて歩いてきた。

 

「あら? あなたは……」

 

「……ハーイ……コマンダー……ソエルから荷物をデリバリーしてきたよ」

 

「お、ありがとう」

 

この、会話に英語をカタカナ読みしたように混ぜてゆっくり話す不思議っ子はエナ・ヴェルシス。 ついこの前異界対策課に配属した新人だ。 年は確かスバルと同じ15歳だったな。

 

「中はなんだ?」

 

「アイドンノー……特に何も聞いてないよ」

 

「……中は見てないでしょうね?」

 

「そこはライダーとしてのポリシーがあるから……見てないよ」

 

……そう、エナが異界対策課に入った動機は人助け……依頼を中心として働きたかったからである。 本人いわく魔力量もCしかなく、そこまで強くないからだと言う。

 

「あれ? レンヤさん、その子は?」

 

「私は、エナ・ヴェルシス。 異界対策課の新人だよ……ユー達は六課のフォワード隊だね……ナイス トゥ ミーチュー……」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「大切なものはシュペヒトクィーン……嫌いな事はゆっくりと安全運転だよ」

 

「え……」

 

よく分からない自己紹介だな……そのままエナと一緒に隊舎の玄関前に行くと……すずかが大型ロードスポーツ型のバイクのメンテナンスをしていた。 その隣には屋根なしの管理局の制式採用車が停められていた。

 

「あ、お帰りエナ。 レンヤ君に荷物は渡せた?」

 

「イエス……」

 

「うわぁ! すごいバイク!」

 

「カッコイイ……!」

 

「ただのバイクじゃない……シュペヒトクィーン……私の相棒」

 

スバルとエリオが好奇心の満ちた目でバイクを見る。 このバイク、シュペヒトクィーンはすずか限界以上に改造されたマシンで、安全性に難があったりする……と、その時隊舎内からはやて、リイン、シャーリーが出て来た。

 

「あ、皆お疲れさんや」

 

「はやてとリインは外周りか?」

 

「はいです、ヴィータちゃん!」

 

「うん、ちょおナカジマ三佐とお話してくるよ。 スバル、お父さんとお母さん、お姉さんになんか伝言でもあるか?」

 

「あ、いえ。 大丈夫です」

 

「なら、俺からよろしく言っておいてくれ」

 

「了解や」

 

はやてとリインは車に乗り込み、エンジンをかけた。

 

「じゃあ、はやてちゃん、リイン、いってらっしゃい」

 

「ゲンヤ三佐とクイントさん、ギンガによろしく伝えてね」

 

「うん」

 

「いってきま〜す!」

 

車が発進し、それを見送った時……ちょうどすずかがシュペヒトクィーンの点検が終わった。

 

「これで、よし! エナちゃん、特に問題はないよ」

 

「センキュー ベリマッチ……すずかさん」

 

「シュミレーターで何度も確認しているけど……運転に支障はない? 少しでも違和感があったら言ってね」

 

「ノープロブレム……すずかさんのおかげでシュペヒトクィーンは完璧……私には分かる……彼女にはソウルがあるから……」

 

「ソウル? そんなのあるわけないじゃない、変な事を言うのね」

 

「……シュペヒトクィーンを……ディスったの……?」

 

「な、なによ。 本当の事でしょう?」

 

ティアナは事実を言っただけだと思うが、表情は変わってないがその発言はエナにとっては少し気分を悪くしたようだ。

 

「ま、まあまあ落ち着いてよ。 ティアも悪気があったわけじゃ……」

 

「なら……後ろに乗って……あなたにも聞かせてあげる……シュペヒトクィーンの……ソウルが奏でる音を……」

 

「ええっ!? なんでそうなるのよ!」

 

ソーマが間に入って止めようとしたが、その前にエナがそう言いながらシュペヒトクィーンに近寄った。

 

「ふふっ、結構頑固な子だね。 いいよ、少しならティアナを連れてっても」

 

「センキュー」

 

「高町隊長!?」

 

なのはが許可を出した事にティアナは驚き、それを聞いたエナはシュペヒトクィーンに跨り、エンジンをかけた。

 

「早く……乗りなよ……乗れば分かるよ……シュペヒトクィーンにソウルがあるって……」

 

「ああもう、乗ればいいんでしょう! 乗れば!」

 

ティアナはほぼヤケになってシュペヒトクィーンに乗った。

 

「ちゃんとホールドしておいてね……聴かせてあげる……シュペヒトクィーンの……そして……」

 

ブオオオオンッ!!!

 

「アタイのソウルフルなシャウトをなぁ!」

 

一気にアクセルを噴かせ、シュペヒトクィーンはいきなり臨界まで上昇したような音を出す。 そしてボーっとしていたエナの顔が突如豹変する。

 

「ちょっ!? なによこれー!?」

 

「黙ってねぇと、舌噛んじまうぜ! シューティングスターは誰にも止められねぇ! ヒヤッハーー!!」

 

「きゃあああああああ!!??」

 

ティアナを後ろに乗せたエナのシュペヒトクィーンはいきなりのウィリーを披露し、前輪が地に着くとともに一気に走り去って行った。

 

「……なに、あれ?」

 

「エナちゃんはバイクに乗ると性格が変わっちゃうんだよ」

 

「いえ、それもありますけど……あのスピード……」

 

「シュペヒトクィーンは元々エナの改造していたのを、すずかが限界以上にカスタマイズしているから……初速は300キロ、最速は500キロは出るぞ」

 

「……すずか……あんたなにやってるのよ」

 

「〜〜〜〜〜〜♪」

 

珍しくすずかは口笛でごまかした。 それから2分後、エナとティアナを乗せたシュペヒトクィーンが爆音を奏でながら戻ってきた。 猛スピードから目の前で急ブレーキをかけ、後輪が浮き上がりながら停止した。 エナの表情はコロっと元に戻り、ティアナは倒れるようにシュペヒトクィーンから降りた。

 

「六課隊舎前にピットイン……ファーストレコード更新……ソニックブームは……まだ出ない……どう……シュペヒトクィーンのシャウト……聴こえた?」

 

「な、なによ……あの異常なスピードにハンドリング……もうバイクじゃないわ……兵器よ兵器…………っていうか……八神部隊長……追い越したし……」

 

「ノー……シュペヒトクィーンはバイクでも、兵器でもない……シュペヒトクィーンは……ソウルを持ったパートナー……」

 

エナにとってシュペヒトクィーンはデバイスのような、相棒みたいなものなのか……

 

「だったら……今度会ったら……また乗せてあげる……メニー タイムス。 ユーが……シュペヒトクィーンのソウルを……感じられるまで……」

 

「お、お断りよ……」

 

「残念……悲鳴は……私にとって……最高のプレゼンなのに……」

 

本当に残念そうな顔をし、エナはスバル達の方を向いた。

 

「どう……乗ってく……?」

 

そう聞くと、全員首を物凄い勢いで横に振って否定した。

 

「もうそれくらいにしときなさい。 まだ配達は残っているんでしょう?」

 

「オウ……3分もタイムロスしてる……それじゃあ、シーユー グッラーク」

 

エナはエンジンをかけ、また表情を豹変させるとアクセルを全開に回し。 ヒヤッハーと叫びながらクラナガンに向かい、数秒で見えなくなった。

 

「……………………」

 

「異界対策課の人材不足ってここまで深刻だったの?」

 

「エナがぶっ飛んでいるだけだ」

 

「ティアー、大丈夫?」

 

「こ、これが大丈夫に見えるなら眼科に行きなさい……」

 

「それだけ言えれば大丈夫だね。 ほら、立てる?」

 

ソーマがティアナに手を貸し、ティアナはフラフラになりながらも立ち上がる。

 

「うーん、今度エナちゃんに耐G訓練の協力をしてもらおうかなあ?」

 

「つまり、あれに全員乗せるのか」

 

『ええっ!!??』

 

なのはが冗談交じりにそう提案すると、ソーマ達全員が驚いた顔をした。

 

「やめなさい。 それなら飛行艦に乗せた方が効率が良いわ」

 

「あ、確かに」

 

「まあまあ、それは後にして。 フォワード達はこの後も訓練があるんだし、私達も早くお昼にしよ」

 

すずかはアリサとなのはを押して隊舎に入り、ヴィータもやれやれと首を振りながら後を追い、ソーマ達もホッとして続いて行った。 俺とフェイトは顔を見合わせ、少し笑い。 後に続いくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤさん達隊長陣と別れた後、僕達フォワード陣はシャーリーと一緒に昼食を食べていた。

 

「なるほど、スバルさんのお父さんとお母さんとお姉さんも、陸士部隊の方なんですね」

 

昼食の山盛りにされたパスタを食べがら雑談し、キャロが先ほど八神部隊長に聞いた事をスバルに質問していた。

 

「うん。 八神部隊長も一時期……ハム……父さんの部隊で研修してたんだって」

 

「それと異界対策課設立当初の責任者もゲンヤさんだったらしいよ。 今はレンヤさんだけど、クイントさんとギンガも含めてお世話になったそうで」

 

「へえ……」

 

「まあクイントの場合、お世話になったと言えば語弊がありそうだけど」

 

ルーテシアの言葉に同意する。 確かにクイントさんの場合は、引っかき回されたの間違いだと思うけど……

 

「しかし、うちの部隊って関係者繋がり多いですよね。 隊長達も幼馴染同士なんでしたっけ?」

 

「そうだよ。 なのはさんとアリサさんと月村主任と八神部隊長は同じ世界出身で……レンヤさんとフェイトさんとアリシアさんも子どもの頃はその世界で暮らしてたとか」

 

シャーリーさんは1度パンを一口食べた後、続けてそう説明した。

 

「ええっと、確か管理外世界の97番?」

 

「97番って……うちのお父さんのご先祖様がいた世界なんだよねー」

 

「そうなんですか?」

 

「うん」

 

エリオの疑問に答えながら、スバルは空になった皿にパスタのお代わりをよそった。

 

「そういえば、名前の響きとか何となく似てますよね? なのはさん達と」

 

「そっちの世界には私もお父さんも行った事ないし……よく分かんないだけどね」

 

「ふ〜ん……」

 

食べるのに集中して、珍しくエリオがそんな返事をした。 というか、山のように盛られたパスタを減らしているのは主にこのスバルとエリオ……エリオは育ち盛りと理解できるが、スバルは昔と変わらず燃費が悪いのか、それとも……

 

「あれ? そういえばレンヤさんはなのはさん達と一緒の世界出身じゃなかったっけ?」

 

「神崎隊長はミッドチルダ出身よ。 アンタあの人が聖王だって事忘れたの?」

 

「あ、ああそうだった……」

 

「でも、それならどうしてレンヤさんの名前の響きはなのはさん達と似ているんですか?」

 

キャロは最もな疑問を聞いてきた。

 

「うーん、まあ……調べればすぐにわかるかな……なんでもレンヤさんは赤ちゃんの時に先代の聖王様に97番世界に捨てられたみたいなの。 おそらく名前もその影響だと思うよ」

 

「あ……」

 

「聞いちゃ悪かったな……?」

 

「あの人はそんな事を気にするような人じゃないわよ。 あ、でも少し気になるわね……蓮也って名前、その世界でつけられたんでしょう? だったら本当の名前ってあるのかしら?」

 

「やめなさい。 本人がいない所でそんな話をしないで」

 

レンヤさんの疑問に興味が出たルーテシアをティアが一言で制した。

 

「なになに? パパのお話?」

 

「わっ!? ヴィヴィオ!?」

 

「ミュウミュウ!」

 

突然後ろからヴィヴィオがニュッと顔を出してきた。 その腕の中にはノルミン……サポートが抱えられていて。 腕から出るとテーブル下にいたフリードとガリューと会話を始めた。

 

「ミュウ〜」

 

「キュクル!」

 

(コクン)

 

……ダメだ、何言っているの全然わからない。

 

「あらヴィヴィオ、レンヤさん達とご飯を食べてたんじゃないの?」

 

「うん、そーだったけど、パパ達はいそがしいからすずかママが皆の所に行っておいでって」

 

「なるほど……」

 

シャーリーさんは納得し、隣の席にヴィヴィオを座らせた。

 

「そうだ。 前にヴィヴィオはレンヤさんの養子だけど、ヴィヴィオはレンヤさんの本当の娘ってアレ、結局どう言うこと?」

 

「ああ、アレね。 うーん、さすがにこれは言っちゃマズイよなぁ……」

 

「??」

 

ヴィヴィオがいる手前、流石に話すわけには……当の本人は小首を傾げているけど。

 

『ヴィヴィオはプロジェクトFの被害者よ』

 

「ちょっ……!?」

 

「ぶふっ!?」

 

「きゃあ! エリオ君!?」

 

ヴィヴィオにだけ聞こえないようにルーテシアが念話で言ってしまい……全員が驚いた顔をするが、特にエリオが驚いたようで。 口に含んでいたパスタを吹き出した。

 

『ル、ルーテシアちゃん……!? いきなりそんな……』

 

『いずれ知る事になるのを今言っただけよ。 ヴィヴィオには隠しているけど、私達には話してくれたじゃない』

 

『それは……そうだけど……』

 

レンヤさんとヴィヴィオの関係を説明した。

 

『ーーと言うわけ。 どんな経緯であれ、ヴィヴィオは間違いなくレンヤさんの娘なんだ。 レンヤさんもいずれ真実を伝えるべきか悩みながらもヴィヴィオを可愛がっているんだ』

 

『そうだったの……』

 

シャーリーも

 

「皆、さっきからだまってどーしたの?」

 

「え!? い、いや……なんでもないよ!」

 

「ちょっ、ちょっと大事な話をしてたんだよ。 ね?」

 

「う、うん。 そうそう!」

 

「んー? もしかして、ヴィヴィオとパパの事?」

 

「えっ……!? あ……ど、どうかなぁー……」

 

……鋭いな。 だが、念話の内容を話すわけにもいかず……皆は飲み物を口にして誤魔化そうとする。

 

「ーーヴィヴィオ知ってるよ。 ヴィヴィオは普通の子どもじゃないって」

 

『ぶうううっ!?』

 

ヴィヴィオの口から出た思いがけない事実に、僕達はそろって飲み物を吹き出した。

 

「ゴホゴホ……ヴィ、ヴィヴィオちゃん……? い、一体それはどこで聞いたのかな?」

 

「結構前にソエルとラーグから」

 

「あんの白黒まんじゅうどもめ……!」

 

口元を拭きながら、ルーテシアは怒りに満ちた声を出す。

 

「ヴィヴィオちゃん、その……気にはならないの?」

 

「んー、ちょっとビックリしたけど……あんまりかんけーないかな」

 

「え……」

 

「教えてくれなくたって、ヴィヴィオはパパの事だーいすきだもん! それだけじゃダメなの?」

 

「……ううん、そんな事ないよ」

 

「ああ、ヴィヴィオ可愛いわ〜!」

 

「ううう……ルールー、くすぐったいよ〜」

 

ルーテシアは思わずヴィヴィオを抱きしめて頬擦りをする。

 

『すごいな……まだ5歳なのに、あんなしっかりしている』

 

『ええ、そうね……』

 

「あ……もうこんな時間! 早く食べないと午後からの訓練に間に合わない!」

 

「あう、そうでした!」

 

「早く……モグモグ……食べないと!」

 

「スバル、食べながら喋らない!」

 

とにかく急いでパスタを食べ終え、少しお腹が重くなるのを感じながら走って訓練場に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の訓練が始まり……俺はそれに参加せず、まだまだ残っていた執務に追われていた。 だが……

 

「ああああっ!! 多過ぎる! 六課の書類に加えてなんで対策課の書類があるんだよ!?」

 

「レンヤ君は一時的に対策課は出ているけど、最高責任者はレンヤ君だから」

 

「手伝いたいのは山々だけど、すずかも私もまだまだ忙しいからねえ」

 

「……それ、自分から増やしてないか……?」

 

(フイッ……)

 

そう質問すると、2人は揃って目を逸らした。 すずかは機器の改造研究、アリシアは魔法とデバイスのプログラムの開発……終わっても思いついてきりがないな……

 

「そ、そういえば! さっきエナちゃんからもらった荷物、まだ開けてなかったよね!」

 

「なにが入っているのか確認しないと!」

 

「全く……」

 

あからさまに話を逸らしたな……だが、気にならない訳でもなく。 荷物を開けてみると……中には黒いファイルがあった。 その上にはメモ書きが。

 

「えっと……“空域部隊の構成を洗い出しをしている時に見つけたものだよ。 役に立つと思うから見てねー。 ソエル”」

 

「……どう言う意味?」

 

「どうやらそのファイルがソエルちゃんが伝えたいものらしいけど……」

 

黒いファイルを手に取り、中を開いてみると……

 

「怪異殲滅部隊、イレイザーズの情報!?」

 

「イレイザーズ!?」

 

「それって……3年の会議以降結成された部隊。 今の今までなんの音沙汰もなかったのに……!」

 

急いで中身を流し見て確認し……構成員の項目で手を止めた。

 

「そうか……そう言う事だったのか!」

 

そのページに載っていたのは……あの魔乖術師達7人で構成された部隊だった。

 

「まさかイレイザーズ自体が奴らの手中だったなんて……」

 

「もっと入念に調べておけば、事前に教団事件が未然に防げたかもしれないのに……」

 

「……あのクイントさんですら尻尾も掴めなかった連中だ。 どうやっても奴らの策が上を行っていたと思う。 ふう、今は過去の失敗を悔いている暇はない。 フェイトとはやてが帰ってきたら会議を開こう、2人はいつ頃帰ってくるんだ?」

 

「はやてはゲンヤとの協力もそろそろ得られたと思うし、フェイトも今は地上本局に出ているはずだっけ……とりあえず連絡してみるよ」

 

「頼む」

 

その後、2人は夜に帰ってくると言うことで……時間が空いたので身体のほぐしがてら夜の訓練に参加し。 なのは、アリサ、ヴィータと混じってフォワード達を指導して……今日の訓練を終えた。

 

「……よし、今日の訓練はここまでよ」

 

『はい……ありがとうございました……!』

 

「はい。お疲れさま」

 

「お疲れ」

 

「ちゃんと寝ろよ?」

 

『はい。 お疲れ様でした』

 

なのはの訓練終了の声に、スバル達は声をそろえて返事をする。 俺達も最後に一言伝え、スバル達は挨拶をして寮に向かって歩き始めた。

 

「ふぅ……みんなお疲れ様」

 

「ああ、お疲れ」

 

「今日も何とか形になったわね」

 

訓練場に隊長達だけが残るとお互いに今日の訓練について話を始める。それを見たヴィータはため息をつくと呆れ顔になった。

 

「しかし、レンヤはともかく、なのはとアリサはホント朝から晩までずっと連中に付っきりだよな……疲れるだろ?」

 

「確かに……あんまり訓練は見ていないけど、ソーマ達はまだまだ荒削りの原石程度の実力だ。 あれを磨き上げるのは中々に重労働だと思うぞ」

 

「だからこそ、アンタやヴィータ、私達が手伝いをして早く1人前になれる様に訓練を行ってるんでしょ?」

 

ヴィータの言葉に同意しながら少し心配し、アリサは特に気にしてなさそうにする。それに対して、なのはは作業をしながら頷いた。

 

「そうだね。 皆それぞれに役割があるんだから。 それに私は機動六課の戦技教官だもん。当然だよ」

 

なのはは笑顔を浮かべると、さも当然のように言う。 と、そこでヴィータが何かを思い出したかのような素振りをする。

 

「後あれだ……なんつうか……もっと厳しくしねえでいいのか? アタシらが入った時の新人教育なんて挨拶から歩き方まで、もう何でもかんでも厳しく言われてたじゃん?」

 

「……戦技教導隊のコーチングは、基本どこに行ってもこんな感じよ」

 

「細かいことで怒鳴って叱りつけてる暇があったら……模擬戦で徹底的にきっちり打ちのめしてあげた方が、教えられる側は学ぶことが多いって、教導隊ではよく言われてるしね」

 

「口より先に手が出やすいのよ。 少なからず問題視しているけどね」

 

「……おっかねぇな……おい」

 

「はは、テオ教官といい勝負だな」

 

ヴィータが少し教導隊に畏怖し、俺は少し苦笑する。 そしてなのはは空間シュミレーターを消すとこっちに振り向いた。

 

「私達がするのは真っ新な新人を教えて育てる教育じゃなくて、強くなりたいっていう意思と熱意を持った魔導士達を導く戦技教導だから」

 

「……まぁ、何にせよ大変だよな教官ってのも」

 

「でも、ちゃーんとヴィータちゃんもできてるよ、教官。 立派立派」

 

「な、撫でるな!」

 

「あはははは! うーん、でも身長が高いから撫でにくいね〜」

 

「何だよそれ!?」

 

なのははヴィータの頭を撫ではじめ、ヴィータは文句を言いながらその手から逃れようとする。 それを見て、俺とアリサは笑っていた。

 

「さて、それじゃ俺達も戻るか。 なのは、今日の訓練データは後で整理してデータルームに送っておくよ」

 

「あ、うん。お願い」

 

「後なのは、一度これまでの成長データを比べてみましょう。 あの子達の正確な成長具合を知りたいわ」

 

「うん、わかった。 一応個人ごとに分類してるからわかりやすいとは思うけど何かあったら聞いてね?」

 

俺達は隊舎に向かって歩きながら、ソーマ達の訓練データをまとめる作業をどうするか話をした。 と、その時視線を感じ……振り返ってみるとヴィータが何か決意した思いを胸に秘めてなのはを見つめていた。そして、なのははヴィータの視線に気付いたのか、後ろを振り向く。

 

「ん?」

 

「っ……!」

 

「何?」

 

「な、何でもねぇよ! 行くぞ、なのは」

 

「うん、ヴィータちゃん」

 

ヴィータは照れ隠しに前を歩き出し、なのはが笑顔で付いて行く。 その光景を、俺とアリサは微笑ましく見守っていた。

 

「ふふ、なんて言うか……分かりやすいわね」

 

「ああ、ヴィータらいしと言えばらしいけど……」

 

無意識に手が胸に伸び、そこにある傷跡を服越しに抑える。 おそらくヴィータが感じている感情は……。 首を横に振り、思った事を振り払うとなのは達の後に続き。 一度、汗を流そうと浴場に向かうと……

 

「きゃはははは! わっぷ……」

 

「おっと、ヴィヴィオ。 なにしてるんだ?」

 

女子の浴場からヴィヴィオを走って出てきて、そのままぶつかって来たのを優しく受け止める。

 

「あ、パパ!」

 

「何してんだよ……って、髪がまだ濡れてんじゃねえか」

 

「あ、ホントだ。 もうヴィヴィオ、ちゃんと髪を拭かないと風邪を引いちゃうよ?」

 

「えへへ……」

 

「こら、レンヤで拭かないの」

 

甘えなのか、それとも髪を拭こうとしたかはわからないが……頭を擦り付けて来たヴィヴィオをアリサが抱えて引き離す。

 

「ヴィヴィオちゃん! 髪をちゃんと拭かないーー」

 

「あ、すずか。 ヴィヴィオ、を?」

 

「と…………」

 

ヴィヴィオを追いかけて浴場からすずかが出て来たが……その姿はバスタオル一枚しかなかった。 水に濡れた身体が妙に艶めかしく、お互い時が止まったように見つめ合い……

 

「きゃあああああ!!」

 

「ご、ごめん!」

 

すずかが悲鳴を上げながら蹲り、慌てて反対方向を向いて視線を外すが……その代わりに怒りの形相のアリサと、黒いオーラを放っているなのはと向いて合う事になった。

 

「レンヤーー!!」

 

「いや、これは不可抗力で……!」

 

「レン君……ちょっと、お話しよう?」

 

「それだけはイヤだ!」

 

「ふえ?」

 

状況が飲み込めないヴィヴィオを他所に、何かないかと視線を巡らせ……

 

「ヴィ、ヴィータ!」

 

「…………………」

 

せめてもの救いをヴィータに求めたが、ヴィータは助け舟も出さず無情にも合掌しかしなかった。

 

「レン君、ちょっとコッチにおいで……」

 

「あ、ちょっと! 引っ張らないで……あ、ああああああっ!?」

 

その後、俺は罰として……女子の管理局地上制服を着せられてーー制服は1番体格が近いシグナムのをーーなぜか女装させられた。 会議の為帰って来たはやてとフェイトには驚きの顔で見られ……はやてはアリシアと結託して俺の姿をありとあらゆる方向から激写した。

 

今日、俺は男女のこの関係の理不尽さと消えない傷を……身心ともに受けたのだった。

 

 

 




Vividに向けての先取り情報。

ストライクアーツは空手。
ベルカ流護身術は柔道。
ルーフェン武術は中国拳法。
そしてシューティングアーツはムエタイ、という感じにしていきます。

ルーフェン以外無理がある気がする……

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