魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

146 / 198
146話

 

 

六課としての初めての出動……フォワード陣は急いでヘリポートまで走り。 ヘリポートに着くと既に小型飛行艦のエンジンが動いており、いつでも発進できる状態だった。

 

「来ましたね、いつでも飛ばせますぜ!」

 

「お願いしますよ、ヴァイス陸曹!」

 

「ーーパパ!」

 

ソーマ達に続いてヘリに乗り込もうとした時、後ろからヴィヴィオが駆け寄って来て。 そのまま抱き付いてきた。

 

「ヴィヴィオ!」

 

「パパ、行っちゃうの?」

 

「……ああ、これからちょっとお仕事でな。 大丈夫、ちゃんと無事に帰ってくるから。 ヴィヴィオはファリンさん達と待っていてくれないか?」

 

「………うん」

 

おそらく警報で心配をかけてしまったのだろう。 いつものように頭をポンポンと撫でてヴィヴィオを落ち着かせる。

 

「………前々から思ってたけど、あの子……誰?」

 

「教団事件の時、一緒にいたのは見たことあるけど……」

 

「忙しかったから、自己紹介もしてないし……」

 

「隊舎でよく隊長達と一緒にいるのを見かけますよね?」

 

スバル達はハッチから不思議そうに俺達を見る。 それに気付いたソーマはヴィヴィオに事を説明した。

 

「あれ、ティア達は知らなかったんだ? あの子はヴィヴィオ、レンヤさんの娘さんだよ」

 

「ええっ!?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! えっと、神崎隊長は今は確か19で、あの子はどう見積もっても……5、6歳……ってことは……!」

 

「ないない。 ティアナが思っているような事は全然ないから」

 

「ヴィヴィオちゃんは養子として、レンヤさんの娘さんなんです。 と言っても正真正銘、ヴィヴィオちゃんはレンヤさんの娘さんなんですけどね」

 

「え……それって……」

 

その時、手を叩く音がし。 アリサが手を叩いてスバル達の会話をやめさせた。

 

「はいはい。 無駄話はそれくらいにしなさい。 ま、緊張が解けたようでよかったわ」

 

「ヴィヴィオ、ごめんね! ママ達、出来るだけすぐに帰るから!」

 

「じゃあ、ヴィヴィオ。 行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい……」

 

ヴィヴィオをファリンさんに預け、半ば飛び込む形でヘリに乗り込むと……すぐに飛行艦はヘリポートから離陸し、作戦区域まで飛翔した。 飛行艦の中ではなのはとアリサとリインが現地での対処と役割を確認し合っていた。どんなに万全な状態で任務に望んでも何が起こるかはわからない。 隊長という職務は常に如何なるイレギュラーに見舞われても迅速に対応しなくては、任務達成どころか部下の命を危険にさらしてしまうのだ。

 

フォワードの……特にスバル達の4人はやっぱり緊張しており、あのティアナでも座ってうつむいている。

 

(まぁ、緊張して当然か)

 

これから赴く場所は戦場……訓練のようにミスを簡単にできはしない。それはバリアジャケットを装備したとしても危険に変わりはない。 一歩間違えれば“死”が待っていると考えれば緊張するのは当然の事、逆に緊張しない方がおかしい。

 

ソーマ達3人は適度な緊張感を持って冷静でいる。 何度も怪異と戦っている証だが、そのせいで実力共に差は激しい……

 

フォワード達を一瞥し、俺はコックピットへと足を運ぶ。

 

「よぉレンヤ。 新人達はどんな感じだ?」

 

「分かってて聞いてるだろ?」

 

「はっはっ! 違いねぇ。 新人達にとっちゃ今回の出動は大分ハードだからなぁ。 とても忘れられない思い出になるのは間違いねぇな」

 

「いい経験になるといいんですけどね……まあとにかくヴァイスさん、作戦行動区域までどれくらいで着くか教えて下さい」

 

「そうだな……早けりゃざっと、10分ちょいだな」

 

思ったより早いな。 それは喜ぶべきか、悔やむべきか、怪しい所だが。

 

「新人達を頼むぞ、レンヤ隊長さんよ?」

 

「露払いはしておくさ……それと、ヘリと比べて乗り心地はどうです?」

 

「……大役過ぎて畏れ多いぜ……」

 

その言葉に笑顔で返してコックピットを後にし。 ソーマ達がいる搬入口の上にある汎用室に入った。 そこではすずかとアリシアが状況と機材をチェックしていた。

 

「あ! レンヤー!」

 

「すずか、アリシア。 そっちは問題ないか?」

 

「うん。 動力機関、機体共に問題なし……でも、私達の出番がない方が、本当は安心なんだけどね」

 

「そうだねえ。 まあ、私としてはこの反重力カタパルトから発射されたい気もするけど」

 

「はは、確かにあれはアトラクションみたいな感じだからな」

 

その時、ちょうど全体通信でオペレーターの1人、アルト・クラエッタが作戦行動区域に、ガジェットⅡ型の反応を探知したという報告が上がった。 それを聞き俺は搬入口に戻ると、なのはがヴァイスさんに通信していた。

 

「ヴァイス君、私も出るよ! 空に出てレンヤ隊長と迎撃、フェイト隊長と合流して空を抑える!」

 

「了解です、なのはさん!」

 

《メインハッチ、オープン》

 

なのはの指示を受け、ヴァイスさんがピット艦のハッチを開放。 この高度だけあって内部には強めの風が入り込み、なのはの髪をなびく。

 

「アリサちゃん、新人達の事をお願いね」

 

「ええ、あなた達は空を抑える事だけに集中しなさい」

 

「よろしく頼んだぞ、アリサ」

 

それだけを言い、俺となのははハッチに足を向ける。

 

「じゃ、ちょっと出てくるけど皆も頑張って、ズバッとやっつけちゃおう!」

 

『はい!』

 

「はい……」

 

ソーマ達がが元気よく返事をする中、キャロだけは遅れて返事をする。 見ただけで元気もないのがわかる。

 

「大丈夫だよキャロ、そんなに緊張しなくても」

 

なのははキャロの元に向かうと、両頬に手を当てた。

 

「キャロ、離れてても皆とは通信で繋がってるからキャロは1人じゃないからね。 ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから、ね?」

 

「……はい!」

 

キャロの返答に笑顔で応じるなのは。 俺はキャロの所まで来て、肩に手を置いた。

 

「キャロ、怖いか?」

 

「え……」

 

「正直に言ってくれ。 別に怖くても誰も責めやしない」

 

隣のソーマ達に目配りして、皆笑顔で答えてくれた。 それを見たキャロは俯くと、ポツリと呟いた。

 

「……怖い、です。 戦う事も、自分の力も………なのはさんはああ言ってくれましたが……やっぱり、私自身が……怖いです……」

 

「……そうか」

 

こうして、フォワード陣を見て改めて思った……全員、誰もが心に闇を抱えていることを。 そしてその気持ちは痛い程よくわかり、キャロの頭に手をソッと乗せて優しく撫でた。

 

「………それでいいんだよ」

 

「え……」

 

その言葉に、それまで俯いていたキャロは顔を上げる。

 

「その気持ちを偽ってダメだ。 認めて、それを乗り越えてようとして足掻くのが普通なんだ。 その気持ちを嘘偽ってしまえば……いつか、限界が来てしまう」

 

「……………………」

 

「自分の力の怖さ、その本質を……その恐ろしさを知っているなら、キャロは大丈夫だ」

 

キャロから離れて一歩下がり、全員を見渡す。

 

「俺がここに立っていられるのは仲間の力のおかげだ。 誰1人欠けたらここには立っていない……お前達は1人じゃない、お互いがお互いを守りながら、壁を乗り越えて行けばいい」

 

この意味がわからないかもしれないが、7人の心には残っただろう。 今はそれだけでいい……そして、俺はキャロにある物を手渡すと、なのはと顔を合わせて頷き……ピット艦から飛び降りた。

 

「レゾナンスアーク……」

 

「レイジングハート……」

 

『セーット、アーップ!』

 

《スタンバイ、レディー、セットアップ》

 

デバイスを起動、バリアジャケットを纏い……変形した相棒を掴む。なのははアクセルフィンを発動して制動し、俺はエアステップで空中を踏んで立ち上がる。

 

「フェザーズ01、神崎 蓮也。 作戦行動を開始する!」

 

「スターズ01、高町 なのは。 行きます!」

 

準備が完了し、コールサインを言った後……俺達は目標に向かって飛翔した。 そして、暫く空を飛んでいると前方に目標が見え始めた。

 

『フェザーズ01、ライトニング01、スターズ01共にエンゲージ』

 

『こっちの空域は3人で抑える。 新人達の方のフォローをお願い』

 

『了解!』

 

「こうしておんなじ空を飛ぶのは久しぶりだね、レン君、フェイトちゃん」

 

「ああ、そうだな」

 

『偶にはゆっくり飛びたいけどね』

 

フェイトが上から合流した時、敵飛行型ガジェットが接近してきた。 俺達は方向を変えてガジェットに接近する。

 

「ふっ……」

 

空気を蹴って移動、ガジェットの横を通りながら斬り裂き……それを刹那の間で行う。 なのはも離れて入れば魔力弾と砲撃、近付けば棍で対応。 フェイトも持ち前のスピードで戦場を駆け回り、ガジェットを斬って行く。

 

『思ったより数が多いね』

 

『カートリッジが保つといいんだけど……』

 

「そうなったら、すずかに頼むさ」

 

『ーーうん、こっちはいつでも準備万端だよ』

 

『補給は任せてね!』

 

すずかとアリシアの通信でそう言い、視界を埋め尽くすほどいるガジェットーーざっと千はいるーーを一瞥し、目の前のガジェットを斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任務は2つ。ガジェットは1機残らず殲滅させ、そしてレリックを安全に確保すること」

 

艦内では、リインのガジェットがリニアレールを占拠している現状が表示されているエアディスプレイを指差しながら、フォワード達に的確な指示を与えていた。

 

「スターズ分隊とライトニング分隊、そこのソーマとルーテシアを加えた3人ずつのトリオでガジェットを破壊しながら、車両前後から中央に向かうです」

 

「そして私とサーシャが先行して、フォワード達が降下中狙い撃ちされないよう降下ポイント近くにいるガジェットを破壊しに行くわ」

 

「は、はい! 頑張ります……!」

 

続いて、リニアレールの全体図が表示され。 レリックが入っているケースとその場所が映し出された。

 

「レリックはここ、7両目の重要貨物室。 先に到達したどちらかのチームが確保してください」

 

『はい!』

 

「で……」

 

一区切りおいて、リインはクルリと一回転すると騎士甲冑姿になった。

 

「私も現場に降りて、管制を担当するです!」

 

「さて、それじゃあ始めるわよ」

 

アリサは歩きながら紅い菱形のクリスタル……フレイムアイズを取り出し、それを見たサーシャも慌てて袖をめくってデバイス……ラクリモサを出す。

 

「フレイムアイズ……」

 

「ラクリモサ……」

 

『セーット、アーップ!』

 

ヘリの中でデバイスを起動し、2人はバリアジャケットを纏う。 完了するとアリサは剣を掴んでハッチに向かい、サーシャも続いて行くが……

 

「あれ? サーシャのそのバリアジャケットって……」

 

「え……ああ、これね」

 

スバルに指摘されてサーシャは自分のバリアジャケットを見下ろす。 所々細部は違うが、上に着ている紺色のロングコート……すずかのバリアジャケットと似ていた。

 

「月村隊長のと似ているような……」

 

「ああ、その事は後で話すですぅ。 ほら急いで急いで」

 

サーシャはリインに押され、ハッチの前に出て下を見下ろす。 高い所は地上本部の高い位置にある異界対策課からよく見ていたが、そこから飛び降りるとなると少し緊張する。

 

(だ、大丈夫。 教団事件の時は飛び降りていた……このくらい、大丈夫!)

 

「……あちらの空域を隊長達がおさえているわ、サーシャ! 準備はいい?」

 

自分に言い聞かせて自信を持つが、アリサに呼ばれて慌てて意識を戻す。

 

「は、はい……いつでも行けます……!」

 

「よし。 フェザーズ02、アリサ・バニングス。 出るわ!」

 

「クレードル03、サーシャ・エクリプス。 行きます!」

 

2人は駆け出し、ハッチから飛び降りる。 重量に引かれるまま、もの凄い速度でリニアレールに向け降下する。

 

「量が多いわね……」

 

「っ……来ます!」

 

降下中に、降下ポイント周辺にいるガジェットが自分達の武装の射程内に2人がが入ると一斉に攻撃を開始し、魔力弾が次々と襲いかかった。

 

「っ!」

 

サーシャは輪刀を前に出して障壁を張り、角度を計算して魔力弾を撃ち返しガジェットを攻撃する。

 

「はああっ!」

 

アリサは重力魔法で弾幕の合間を縫って一気に降下し、剣を振り下ろしてガジェットに突き刺さし……リニアレールに降り立った。

 

「……!」

 

着地した前方にいた、複数のガジェットの攻撃によりアリサの居た場所は爆煙に包まれる。

 

「アリサさん!」

 

サーシャはその光景を見て悲鳴に近い声で呼ぶ。 次の瞬間、爆煙から炎を纏った鎖が飛び出し。 前方にいた全てのガジェットを焼き切った。

 

「フレイムウィップ。 こんなものね」

 

「さすがです、アリサさん。 無用な心配でしたね」

 

鎖を戻し、剣に変え一振り。 一連の流れが洗練されており、微かに燃える焔が優雅さを引き立てていた。

 

「……こちらフェザーズ02、安全地帯確保したわ。 残りのフォワード隊、降下用意を開始しなさい」

 

初期段階を完了したアリサは、ピット艦で待機しているフォワード達に通信を入れた。

 

「さあて、新人ども。 隊長さん達が空を抑えているおかげで……安全無事に降下ポイントに到着だ。 準備はいいか!」

 

『はい!』

 

ソーマ、スバル、ティアナはハッチの前に立ち、元気よく返事をする。

 

「スターズ03、スバル・ナカジマ……」

 

「スターズ04、ティアナ・ランスター……」

 

「フェザーズ03、ソーマ・アルセイフ……」

 

『行きます!』

 

3人は同時に飛び出し、リニアレールに向かって降下する。

 

「行くよ、マッハキャリバー」

 

「お願いね、クロスミラージュ」

 

「さてと……」

 

スバルとティアナは自分のデバイスに声を掛けて見つめ、そして掲げた。

 

『セット・アップ!』

 

その掛け声と共に、2人は青色とオレンジ色の光に包まれバリアジャケットを身に纏い目標地点に着陸した。 それを確認すると、ヴァイスはライトニング隊の2人に声を掛ける。

 

「次、ライトニング! チビ共、気ぃ付けてな」

 

『はい!』

 

エリオとキャロとルーテシアは高い空から目標地点を見つめていた。 しかし、キャロの表情が硬いことに気が付いたエリオはキャロに声を掛ける。

 

「一緒に降りようか?」

 

「…っ!?」

 

キャロはビクッと体を震わせるとエリオを見つめる。 そんなキャロに対して優しく微笑み手を差し出すエリオ。すると、表情が柔らかくなりキャロは大きく頷いた。

 

「うん!」

 

「ひゅー、エリオってば男前〜」

 

そして2人は手を繋ぎ、それを見てルーテシアはからかうようにエリオを小突く。

 

「か、からかわないでよ……」

 

「冗談、冗談♪ ほらキャロ、私も怖〜いから一緒に行こ♪」

 

「ルーテシアちゃん……うん!」

 

3人で手を繋ぎ、そして改めて目標地点を見据える。

 

「ライトニング03、エリオ・モンディアル!」

 

「ライトニング04、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」

 

「フェザーズ04、ルーテシア・アルピーノとガリュー!」

 

『行きます!』

 

3人は空に向かって駆け出すと、地上に向かって落ちて行く。そして、顔を見合わせ声を上げた。

 

「ストラーダ!」

 

「ケリュケイオン!」

 

「アスクレピオス!」

 

『セット・アップ!』

 

その瞬間、3人は黄色とピンク色と紫色に包まれ光が収まると、バリアジャケットを身に纏ってスターズ隊の後方に着地した。

 

「来たわね」

 

「はい」

 

ヘリから降りてくる6つの光をリニアレール上から確認したアリサとサーシャ。

 

光の内3つはリニアレール上に立つアリサの前に降り立ち、その中からエリオ、キャロ、ルーテシアが現れた。 そこでサーシャがある事に気付く。

 

「あれ? 2人共、その服って……」

 

『え……うわぁ!? このバリアジャケットのデザインって、なのはさんのバリアジャケットと似てない!?』

 

「僕とキャロのはフェイトさんバリアジャケットと似てる……」

 

「ふーん……私はいつも通りね」

 

通信越しにスバルの驚いている声が聞こえる。 4人は自分達が身に纏っているバリアジャケットを見て興味深気に見回している。 スバルとエリオの表現どおりフォワード達のバリアジャケットのデザインは両隊長のバリアジャケットと酷似している箇所が所々見られる。

 

スターズはなのはのバリアジャケットをベース、ライトニングはフェイトのバリアジャケットをベースにしているのは一目瞭然だ。

なのはに憧れているスバルからすれば彼女と同じデザインのバリアジャケット着れるのは感激の一言だろう。

 

「あ、だからサーシャのバリアジャケットはすずか隊長の似てたんだ」

 

「あはは、良かったね」

 

「え、ええ……ってアンタその格好……」

 

ティアナは恐る恐るソーマを指差す。 ソーマも同様にバリアジャケットを纏っており。 髪を一纏めに結い上げ、黒のズボンにTシャツ、上には肩が出ている白いジャケットに両腕に張り付くように来ている黒いアームガードと、その上に被せるように二の腕までの長さの白いアームガードが付けられている。

 

「あれ、シャーリーさんが言ってたよね? デバイスはこのままだったけどバリアジャケットは付けるって」

 

「そ、そういえば……それにソーマのバリアジャケットもレンヤ隊長のと似ているね」

 

「外見だけじゃないですよ」

 

「リイン曹長」

 

いつの間にかヘリから降りて来たリインが、驚いているフォワード達にバリアジャケットの説明をする。

 

「デザインだけでなく、性能も各分隊の隊長さんのを参考にしてるですよ。 ちょっと、癖はありますが高性能です!」

 

『わあぁ……』

 

『! スバル、感激は後!』

 

「早速お出迎えね……」

 

アリサは空から現れた第2波を一瞥する。

 

「私はリニアレール上空のガジェットを抑えるわ。 サーシャはこのままスターズと合流、レリックを押さえなさい」

 

「はい!」

 

《グラビティフライ》

 

それだけを伝え、アリサは飛んで行った。 その後すぐに、異変を察知した。

 

「来るよ!」

 

「っ!」

 

次の瞬間、リニアレール内にいたガジェットが天井に射撃、天井を破壊しようとする。 それに反応して、マッハキャリバーとクロスミラージュが出力を上げる。

 

《ヴァリアブルシュート》

 

「シューーット!」

 

AMFを突破するための多重弾殻射撃、それを一瞬で作り上げ射撃。 AMFを貫いてガジェットを破壊する。 続いてスバルが車内に入り……

 

「うおおおっ!!」

 

目に入ったガジェットに拳を振り下ろし、そのまま掴んで他のガジェットにぶつけて破壊した。 その隙にティアナは車内に入り、リニアレールのコントロールを奪い返そうとする。

 

「外力系衝剄……竜旋剄!」

 

活剄により強化した腕力で体をコマのように回しながら、周囲に衝剄を放ち。 竜巻を起こして接近していた飛行型ガジェットを吹き飛ばした。 ソーマはそのまま先に行こうとすると……足元から強力な魔力の高鳴りを感じ……

 

「うわああっ!?」

 

「うわぁ!? とっと……」

 

《ウィングロード》

 

スバルが車内からガジェットを破壊するために放った一撃が天井を突き破り、そのせいで吹き飛ばされてしまった。 体勢を崩したスバルはマッハキャリバーの援護でリニアレールに着地していた。

 

「いったた……スバル、大技を出すならもっと考えてよね」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「……そろそろティアナが車両の停止の行動を終えている頃だろけど……それでも止まらないという事はガジェットを破壊しただけではダメだったのかな? とにかく急ごう」

 

「うん!」

 

先行し、3両目に差し掛かると前から大量のガジェットが現れた。

 

「ソーマ君! 前方から敵多数接近!」

 

「各個撃破! 気を抜かずに行こう!」

 

「応っ!」

 

ガジェットは射撃する事もなく突進してきたため、容易く破壊するが……それは捨て身の囮だったようで。 数機のガジェットに横を抜かれて囲まれてしまった。

 

「しまった……!」

 

「囲まれた!」

 

その状態から複数のガジェットからAMFが発生し、ガジェットのアームが襲いかかってきた。 スバルはとっさに拳を構え、肩をすくめて首をガードする構えを取り。 サーシャは輪刀を手の中で回転させ……

 

「はあああっ!」

 

ソーマはダイトに剄を流し、内力系活剄で強化した身体能力でガジェットを斬り裂いた。

 

「嘘っ!? こんな強力なAMFの中でなんでソーマは魔力が使えているの!?」

 

「ーー剄は、簡単に言えば魔力を超圧縮した物です。 魔力結合は尋常じゃない程強固で……ソーマ君の前ではAMFは無いに等しいんだよ」

 

「そ、そういえば……訓練の時もそんな感じだったような……」

 

「むしろ、スバルらなんで今まで気付かなかったの?」

 

「いや〜、自分の事だけで精一杯で」

 

「……2人共、緊張感ないね」

 

「そうか、な!」

 

背後に現れたガジェットを、スバルは振り向き間際に肘を入れる。

 

「お母さん直伝!」

 

そう言いながらシューティングアーツの基本的な蹴りをガジェットに叩き込み。 吹き飛ばされて他のガジェットも巻き込みながらリニアレールから落下した。

 

「基本的なキックを必殺レベルにしたキック」

 

「名前ないんだ……」

 

「……前から思ってたけど……スバルちゃんって本当にシューティングアーツの使い手なの?」

 

「うん、そーだよ。 お母さんが言うにはかなりアレンジしたみたいだけど」

 

「まあ、拳と蹴りはシューティングアーツでは当たり前だけど。 スバルのは肘や膝も使っているからね」

 

と、そこでティアナが戻って来て、緊張感のない3人を見て嘆息した。

 

「……アンタ達、何やってんのよ」

 

「あ、ティア。 お帰りー」

 

「お帰りー、じゃないわよ。 なに3人して呑気にダベってるのよ。 今は作戦中よ、真面目にやりなさい」

 

「す、すみません……」

 

「それじゃあ、気を取り直して……レリックを回収しに行こう」

 

ソーマ達4人は7両目に向かい、立ちはだかるガジェットに挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェザーズ1、スターズ1、ライトニング1。制空権獲得!」

 

「ガジェットⅡ型散開、開始!」

 

「ガジェットは1体も逃がすな。 こちらから位置情報をリアルタイムで送信して隊長2人をサポートしてやれ」

 

シャーリーとルキノの声にアギトが指示を飛ばす。 すると後ろからドアが開く音が聞こえ、その音に反応してグリフィスが振り向く。

 

「皆、お待たせ!」

 

「八神部隊長!」

 

「お帰りなさい!」

 

「意外と速かったな」

 

グリフィスとシャーリーとアギトが声をかけると、はやては笑顔で答える。 そしてグリフィスは報告を始める。

 

「ここまでは比較的、順調に進んでいます」

 

「そっか。 このまま何もなく……」

 

グリフィスの報告を聞き、はやては安心したように言葉を発しようとするがシャーリーがそれを遮った。

 

「ライトニングF、8両目突入。 っと」

 

シャーリーはサーチャーから届いた8両目のスキャンデータを分析すると……

 

「これは……エンカウント! 新型です!」

 

「って、言ってる傍からか……」

 

アギトは少し額を抑え、改めてディスプレイに映る戦場を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ライトニングは突如として現れた新型のガジェットに苦戦を強いられていた。

 

「ぐっ、固……!」

 

フリードの放ったブラストフレアは弾かれ、ルーテシアの魔力弾もAMFで防がれ、エリオの渾身の一撃もガジェットの装甲の固さで届いてなかった。 するとガジェットから強力なAMFが発生した。 その影響は後方で支援の準備をしていたキャロにまでおよんだ。

 

「えっ……」

 

「AMF……!?」

 

「こんな遠くまで……さすが実戦ね……」

 

ルーテシアは久しく感じてなかった緊張感に冷や汗を流す。 エリオは魔法による強化と援護がなくなり、ガジェットに押され始める。

 

「ぐっ……」

 

「あ、あの……!」

 

「大丈夫……任せて!」

 

「どこが大丈夫なのよ! キャロ、レンヤさんから渡された物があるでしょう。 使い方は前に教えたわよね? 早く装着しなさい!」

 

「う、うん!」

 

ルーテシアは説明しながら紫色のガントレットを装着し、キャロも慌てて黄色いガントレットを装着した。

 

「っ……!?」

 

エリオはガジェットにロックされていることに気付き、飛び上がって放たれる魔力レーザーを回避……しかし着地の瞬間、死角から出て来た二体目ガジェットのアームに吹き飛ばされ、壁に激突する。 それを見たキャロは思わす声を上げた。

 

「エリオ君!」

 

「大丈夫……だから!」

 

「でもっ……」

 

「でも何もない! 助けるわよ!」

 

《トーデスドルヒ》

 

天井から飛び出し、魔力付与を行った黒いダガーを召喚し、射出する。ダガーはガジェットのアームの合間を縫ってカメラに向かうが……もう一体のガジェットのアームによって防がれ、そのまま魔力弾を発射されて被弾してしまう。

 

「うっ……」

 

痛がる暇もなくガジェットはルーテシアに襲いかかり、ルーテシアは手に魔力をコーティングしてアームを防ぐ。

 

「くっ……こんな事ならもっと近接戦慣れしとけばよかった……」

 

《Gauntlet Activate》

 

そうボヤきながら、ルーテシアは装着していたガントレットにいつの間にかカードを差し込み起動していた。

 

「ルーテシアちゃん!」

 

「ーーキャロ、ピンチの時こそ落ち着きなさい。 焦ったって何んにも意味はないわよ」

 

アームに弾かれながら後退し、ルーテシアはニヤリと笑う。 キャロは気になってガジェットを見ると……先ほどの場所に1枚のカードが落ちており、前触れもなく地面に浸透していった。

 

「あれって……」

 

「ゲートカード、セット完了っと。 ガリュー、準備はいい?」

 

(コクン)

 

「爆丸、シュート!」

 

ルーテシアはガリューを掴み、エリオを抑えているガジェットの真下に投げ……

 

「ポップアウト! ダークオン・ガリュー!」

 

紫色の光を放ちながら巨体化したガリューがガジェットを押し退けた。 キャロが驚愕する中、ルーテシアはすぐさま別のカードを入れる。

 

「な、なんて大きさ……」

 

《Ability Card、Set》

 

「こうなったらAMFなんて関係ないのよ! アビリティー発動! ダーク・サーベル!」

 

アビリティーが発動し、ガリューの右手に魔力が集まり……剣を構成してガジェットを斬りつけ、外に吹き飛ばした。

 

「キャロ、私とガリューが敵を引きつけておくからエリオをお願い!」

 

「え……う、うん!」

 

ルーテシアは車両前方に向かい、キャロはエリオの元に向かった。

 

「エリオ君……大丈夫?」

 

「うっ……」

 

「キュクル………」

 

エリオを呼びかけても呻き声しか聞こえず、キャロはすぐに治療を施そうとした時……別のガジェットが2人の前に降りてきた。

 

「あっ……!?」

 

「キュクル!」

 

突然の事に思考が停止し、主人を守ろうとフリードが威嚇するが……ガジェットはアームを振り上げる。

 

「っ!」

 

キャロはとっさにエリオに覆い被さり、エリオを守ろうとする。 そして、アームが振り下ろされ……

 

パシュッ!

 

何かが射出される音が聞こえ、ガジェットのレンズに当たった。

 

「え……?」

 

キャロは何が起きたか分からなく、続けて二回同じ音がしてガジェットの残りのレンズに当たり……

 

「ーーしれ! ーードーー!」

 

蒼い電撃が迸り、電撃は誘導されるかのようにガジェットに直撃。 ガジェットは中からショートし、爆発した。

 

「い、一体何が……」

 

キャロは顔を上げて辺りを見渡すと……奥の暗がりに誰かいたのに気付く。

 

「だ、誰!? 姿を見せてください!」

 

精一杯の勇気で声をかける。 返答を待つが……代わりに聞こえたのは先ほどの何が射出される音だった。 今度は壁にあるパネルに当たり、また蒼い電撃が発生し。 奥の隔壁が上がった。

 

「待って!」

 

慌てて追いかけるが……追いつく前に隔壁が閉ざされてしまった。

 

「今のは……人? でも、どうして……」

 

「キュル……」

 

「ーーキャロ! そっちは大丈夫!?」

 

「え!? あ、うん……なんとか」

 

ガジェットを倒し終えたルーテシアがガリューの肩に乗って戻ってきた。 キャロは先ほど起きた事で困惑し、頭が混乱してとにかく返事をした。

 

「う、いててて……」

 

「だ、大丈夫? エリオ君?」

 

「……うん、なんとか……」

 

「これ、キャロがやったの? やるじゃない」

 

「え、えーっと……これは、そのー……」

 

「キュクル……」

 

(?)

 

ハッキリ言わないキャロに、ガリューが首を傾ける。 と、その時、突如エリオ達がいる車両の天井や壁が凹み始めた。

 

「なっ……!?」

 

「これは……」

 

「ガリュー! 後退よ!」

 

すぐさまガリューはエリオとキャロを抱え、車両内から脱出した。 外に出て、敵の姿を確認すると……

 

「で、デカイ……」

 

「なんて大きさ……」

 

「これはちょっと……」

 

車両を攻撃していたのは新型ガジェットよりさらに巨大なガジェットドローンだった。

 

「デカ!? どこからあんな物が出て来たのよ!」

 

『どうやら光学迷彩で車両内に潜んでいたみたい。 こっちも今確認した』

 

『エリオ、キャロ、ルーテシア。 こっちは今手が離せない。 今すぐ後退して、俺達の救援を待て』

 

「了解」

 

「あ、あんなのどうやって……」

 

「くっ……」

 

エリオは痛む身体に鞭打って動かし、ストラーダを杖にして立ち上がる。

 

「エリオ君!? ダメだよ動いちゃ、まだ怪我も治っていないのに!」

 

「僕が……やるんだ……!」

 

だが、エリオは膝をついてしまう。 AMFもいまだ健在、出来ることは少なかった。

 

「エリオ………っ! ガリュー!」

 

心配する中、ルーテシアは迫って来たアームに気付き、ガリューに指示を出す。 ガリューはまだ発動していた剣で防ぐが……横をすり抜けられ、キャロに向かって行く。

 

「あっ……」

 

「キャロ! ぐあああっ!」

 

エリオはキャロを庇ってアームに直撃、地面に叩きつけられてしまう。 そして何もできない自分にキャロが戸惑っているとエリオはガジェットの攻撃に気絶してしまい、アームに捕まってしまった。

 

「エリオ!」

 

「エリオ君!」

 

「キュル!」

 

キャロ達は必死に呼びかけるが……ガジェットは気絶しているエリオを車両の外へ放り投げた。 それを見たキャロは目に涙を浮かべる。

 

「エリオ君………エリオくーーーん!!」

 

「ちょっ、キャロ!?」

 

エリオが落ちて行くのを目にして叫ぶ。 その時……キャロの脳裏に過去に自分を救ってくれた恩人達の顔が浮かび上がり……覚悟を決めると車両から飛び降り。 ルーテシアは慌てて追いかけようとするが、自分に飛べるすべがないと自覚し踏みとどまる。

 

それを見ていた司令部のスタッフたちは驚き慌て始める。 はやてはそれを見て気になることはあるが、気持ちを切り替えて対応した。

 

「いや、あれでええんよ」

 

「え!? あ、そうか!」

 

はやては頷いて、キャロ達の様子を見る。 するとシャーリーは思い出したかのように笑顔を浮かべ、それを通信で聞いていたなのはが付け加える。

 

『そう……あれだけ離れればAMFの効力が弱まる。 使えるよ、キャロのフルパフォーマンスの魔法が!』

 

そして、そのキャロ達は刻一刻と地面に近付いていた。 キャロはその中で、気絶しているエリオ見て思いを強くし、小さな手を必死に伸ばす。

 

(守りたい……優しい人。 私に笑いかけてくれる人達を。自分の力で……)

 

「守りたい!」

 

そして、キャロはエリオの手を掴むと抱き寄せてると、ケリュケイオンが出力を上昇させ。 2人は魔力球に包まれ、落下速度を落としていく。 そこにフリードが現れ、キャロの真正面で止まるとキャロは真剣な表情でフリードに話しかける。

 

「フリード、今まで不自由な思いさせててゴメン。 私、ちゃんと制御するから………行くよ! 竜魂召喚!」

 

キャロの声に呼応し巨体なピンクほ魔力光が周囲に溢れる。 そして、エリオは目を覚ますとキャロの様子に驚きながらもその光景をじっと見ていた。

 

「蒼穹を走る白き閃光……我が翼となり天を駆けよ! 来よ、我が竜フリードリヒ! 竜魂召喚!!」

 

キャロが呪文を唱え終わると大きな雄叫びと共に巨大な竜が現れた。 その背にキャロはエリオと共に乗ると、ガリューと戦っている新型ガジェットと向かい合う。 フリードが先ほどよりも巨大な火球を生成し始め、さらにキャロが魔力を注ぎ始めた。

 

「ルーテシアちゃん!」

 

「了解! アビリティー発動!」

 

《Ability Card、Set》

 

「ディープ・シャドー!」

 

「フリード。 ブラストレイ……ファイヤ!」

 

取っ組み合っているガリューが自身の影に沈んでガジェットから離れ。 間髪入れず放たれた大きな火炎がガジェットを包み込み、その荒々しい炎はガジェットを燃やし尽くそうとする。 しかし、炎の中から現れたガジェットには傷一つついていなかった。

 

「やっぱり、固い……」

 

「あの装甲形状は、砲撃じゃ抜きづらいよ。 僕とストラーダがやる……!」

 

『いいえ、それだけじゃあれは突破出来ないわ。 キャロ、ガントレットを使いなさい。 フリードを進化させるよの』

 

「進……化?」

 

念話でルーテシアがそう言うが、キャロはあまり理解できなかった。 ルーテシアはフッと笑うと、ガジェットの方を向く。

 

「キャロの初陣よ、大人しくしてもらうわ! アビリティー発動! ブラックチェーン!」

 

ルーテシアの魔力でアビリティーが発動。 ガリューが床に手をつき、影がガジェットまで伸びて影の鎖がガジェットに巻き付いて拘束した。それを見たキャロは、慌ててガントレットを起動した。

 

《Gauntlet Activate》

 

「ええっと……確かこうやって……」

 

慣れない手付きでガントレットにカードを入れて起動する。 するとパネルから黄色い光が溢れ……フリードがその光を浴びると全身が同色に光だし、凝縮して一つの小さい球になった。 だが、エリオとキャロはフリードに乗って空を飛んでいたため、そうすると……

 

「あ………うわああああ!?」

 

「きゃあああああっ!?」

 

2人は重力に従って、再度落下し始めた。

 

「ゲートカード、オープン! ゼログラビティ!」

 

すぐさまルーテシアがリニアレールに設置していた指定した対象を浮かせる効果があるゲートカードを発動し、2人の落下を止めた。

 

「キャロ! フリードを!」

 

「っ! 来て、フリード!」

 

「キュクルー!」

 

キャロの呼びかけに応え、白い球がキャロの目の前に現れ……球が開き、竜の形を取ると一鳴きした。

 

「フリードが、いつものガリューみたいに小いさく……」

 

「これが……」

 

手のひらに乗っているフリードをマジマジと見つめ……次にガジェットを一瞥する。

 

「行くよ……フリード!」

 

「キュクル!」

 

「爆丸、シュート!」

 

フォームも何もなく、ただフリードを投げた。 球は空中で展開して輝くと……

 

「ポップアウト! ルミナ・フリードリヒ!」

 

グアアアアアッ!

 

黄色い光の中から現れたのは、先ほどの真のフリードリヒの姿より一回り大きく、神々しく光輝く竜だった。 甲殻は陽の光を反射して輝く程の光沢を持ち。 牙、爪はより鋭く……翼は鏡のような輝きを持っていた。 そして2人はフリードの背に乗った。

 

「す、すごい力……」

 

「これがフリードの、進化した姿……?」

 

「グルル………」

 

2人が不思議に思う中、フリードは後ろに顔を向けて、強い意志を持った瞳で頷いた。

 

「キャロ、早く! もう保たないわよ!」

 

「う、うん! えっと、えーっと、こうかな?」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティー発動! ブラストレイ!」

 

アビリティーが発動し、フリードは口を開いて火球を生成し……高速で火炎の砲撃を発射した。 火炎はガジェットのバリアに衝突し、貫通したが……ガジェットは寸での所でアームを犠牲にして砲撃を防いだ。

 

「す、すごい威力……さっきとは比べ物にならない」

 

「でも、後一撃が足りないわ……」

 

「……キャロ、僕が行くよ。 援護をお願い」

 

「……うん、お願い」

 

それを聞いたエリオが買って出て。 キャロは頷き、新しい呪文を唱え始めた。

 

「我が乞うは青銀の剣、若き槍騎士の刃に祝福の光を」

 

《エンチャント・フィールドインベント》

 

「猛きその身に力を与える祈りの光を」

 

《ブーストアップ・ストライクパワー》

 

「行くよ、エリオ君!」

 

「了解!キャロ!」

 

エリオはキャロに返事を返すと、ガジェットに向かって飛び降りる。 その瞬間、キャロはケリュケイオンから2つの光を放つと、エリオに向かってその光を与える。

 

「ツインブースト・スラッシュ&ストライク!!」

 

《受諾》

 

「はあぁぁっ!」

 

《スタールメッサー》

 

エリオはキャロからの強化魔法を受け取るとストラーダを振り、エリオに向かって伸びてきていたアームを切り落した。

 

《エクスプロージョン》

 

そしてエリオは車両の屋根に着地するとカートリッジロードを行い、ストラーダから薬莢を2つ吐き出させる。

 

「一閃必中! でえぇぇっりゃぁぁああっ!!」

 

渾身の裂帛と共に駆け出し、ストラーダでガジェットを突き抜くと、担ぎ上げるように槍を持ち上げ、一刀両断にした。

 

「ガリュー!」

 

「え……うわっ!?」

 

「これだね!」

 

ルーテシアの指示でガリューすぐさまエリオを抱えて離脱し……キャロは直感で2枚のカードをガントレットに入れた。

 

《Ability Card、Set》

 

「ダブルアビリティー発動! シェードリング! プラス……サンライトレイ!」

 

ガジェットの周りに光の輪を展開し、フリードは太陽の力を両翼に溜め……光の輪に向かっていくつもの光線を放った。 光線は光の輪に直撃、威力を増幅させ全方向からガジェットに光線を浴びせ……完全に溶解する前にガジェットが爆散し、それを見たキャロはエリオに向かって笑みを向ける。

 

「やった!」

 

その光景を管制室でモニタリングしていたオペレーター達は、喜びと同時に状況を確認する。

 

「車両内部、及び上空のガジェット反応すべて消滅!」

 

「スターズF、無事にレリックを確保!」

 

『車両のコントロールも取り戻したですよ。 今止めま~す!』

 

「ああ、ほんならちょうどええ。スターズの3人とリインはヘリで回収してもらって……そのまま中央のラボまでレリックの護送をお願いしようかな?」

 

『はいです!』

 

「ライトニングとフェザーズはどうします?」

 

「現場で待機。 現地の局員に事後処理の引き継ぎ、よろしくな」

 

そしてリニアレールは停止し、スバル達によってレリックは運び出された。

 

事件は無事解決したが、キャロは気になる事があり。 局員が来る前にエリオとルーテシアと一緒に新型ガジェットに襲われた車両に来ていた。

 

「……やっぱり誰もいない……」

 

「このリニアレールは無人運転のはずよ。 誰かいたなら既に報告に上がっているし、サーチャーにも引っかかるわ」

 

「そうだね……あ、これは……」

 

エリオは制御パネルに打たれていたペンの大きさくらいの針のような物を見つけた。

 

「これは……」

 

エリオは先ほどキャロから聞いた蒼い電撃を思い出す。 もし、この針が避雷針の役割を果たし、電撃によってハッチが開閉したなら……

 

(……無理だ。 僕でも、もしかしたらフェイトさんでも電気の魔力変換資質でそんな繊細な事は出来ない)

 

「ストラーダ、ここのハッチを開けられる?」

 

《目立った破損はありません、出来ます》

 

ストラーダをパネルに接続し、しばらくハッチが開き。 3人は次の車両に入った。 中は暗く、キャロが側にあった電源を入れると……コンテナや機材が積まれていた。 どうやらここはレリックがあった貨物室とは別の貨物室のようだ。

 

「何かないか手分けして探しましょう」

 

「うん」

 

「キュクルー!」

 

(コクン)

 

ガリューといまだに球状態のフリードもコロコロ転がりながら捜索を手伝ってくれ。 しばらく探しているとルーテシアが何かを見つけた。

 

「これは……」

 

機材の上に置かれていた2つの開けっぱなしのケース。 中には何もないが、片方のケースには緩衝材が敷かれており。 緩衝材のくぼみは下のがくの字の形を、上のは少し曲がった縦の長方形いくつもの並んでいた。 それはつまり……

 

(拳銃と、弾を装填するマガジン……)

 

もう一つのケースそのものだけしかなく、恐らくは衣類の類だろう。 そして、背後にあった破壊されたコンテナを一瞥し……捜索していた他のメンバーを呼んだ。

 

「ルーテシアちゃん、これって……」

 

「ええ、誰かが閉じ込められていた……それで間違いないでしょう」

 

「問題はどうやって脱出したのか、そしてどうして僕達を助けてくれたのか……その人物は今どこにいるのか、分からない事だらけだよ。 ん?」

 

エリオはコンテナの中を覗くと……そこには小型の冷蔵庫があった。 中には何もなく、扉が開けぱなしで冷気が漏れている。

 

「……隊長の判断を仰ぐわよ。 私達でどうこう出来るレベルじゃないわ」

 

「う、うん」

 

「りょ、了解……」

 

3人はどこか納得てないが、限界を感じ。 隊長陣にこの事を報告し、リニアレールから降りるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は同じくーー

 

とある薄暗い謎の研究所のような場所では白衣を着た男が、大型のモニターでレリックを回収している前線メンバーを見ている。

 

『レリックが管理局に確保されたようです』

 

「ほぉ、なかなかやるね。 流石と褒めるべきかな?」

 

モニターに映る紫色の長髪の女性が映っている。 口調からしてこの男に仕えているのだろう。

 

『追撃なさいますか?』

 

「……やめておこう、レリックは惜しい……が、彼らのデータは十分取れただけでも十分さ」

 

手元に今回の戦闘記録を眺め、白衣の男の口元が不気味につり上がる。

 

「それにしても……この案件はやはり素晴らしい。 私の研究にとって、興味深い素材が揃っている上に……」

 

男は大型の空間ディスプレイへ視線を向ける。 ディスプレイには隊長陣とティアナを抜いたフォワード隊の姿が幾つも映しだされている。 そして、次に映し出されたフェイトとエリオの映像に、男はまるで研究者がサンプル品を眺めるように見ている。

 

「生きた“プロジェクトF”の完成体を見る事ができた……だがやはり一番気になるのは……」

 

怪しく歪む男の口と大きくなる瞳孔。 そして次にレンヤの映像と……六課の隊舎の外で遊んでいるヴィヴィオの大きく映し出された。

 

「ーー神崎 蓮也……そしてヴィヴィオ……今世で聖王の血を濃く有している2名か」

 

モニターを凝視する男の背後に、いつの間にか白髪で黒いスーツ姿の二十代の男が立っていた。 小脇には大きめな本を持っている。

 

『貴方は……』

 

「おや? 珍しいお客様だ。 どうだい? たまには私とティータイムでも……」

 

「ふふ、それは魅力的だが。 それはまた別の機会にしようかーースカリエッティ」

 

白衣の男……スカリエッティと呼ぶの男。 スカリエッティと呼ばれた男は残念そうにため息を吐く。

 

「それは残念。 まぁいいか……では別の話をしようか。 ナギ君」

 

「ああ、ではここに来た要件を。 例のアレの改修は順調……というか、あの2人を逃しても良かったのか? 貴重な成功体だろ?」

 

正面の空間ディスプレイに映し出されたのはリニアレールの貨物室にある破壊されたコンテナと……フォワードから隠れて走行中のリニアレールから飛び降りた2人の少年少女だった。

 

「構わないさ。 あの2人は野に放たれてこそ輝く……それを最後まで見れる保証はないけどね」

 

「そうか……後、あの子の調整も済んだ。 やっておいてあれだが、本当にアレでよかったのか?」

 

「ああ……道具には、意思は必要ない……」

 

そう言い切ると、スカリエッティは徐々に笑いだし……その場に響くように笑い声を上げた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。