魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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144話

 

 

4月29日ーー

 

模擬戦闘試験から1週間弱が経過し、いよいよ機動六課始動の日を迎えた。 そして、俺達異界対策課の4名は地上の茶色い制服を着て部隊長オフィスに向かっていた。

 

「へえ、3人とも結構似合ってるな」

 

「えへへ、そうかな?」

 

「まあ、悪くはないわね」

 

「私はこの上に白衣を着るけどね」

 

アリサ達の地上の制服姿は結構新鮮だった。 と、はやてのいるオフィス前に来ると。 ちょうどなのはとフェイトもいた。 2人はオフィスに入る所で、軽く手を上げて挨拶して、なのはがドアベルを押した。

 

『はい。どうぞ』

 

『失礼します』

 

はやての許可を得てオフィスに入った。

 

「おお! 6人ともお着替え完了やなぁ」

 

「皆さん、よくお似合いですぅ!」

 

「俺は元々この制服だぞ」

 

この中で前から地上の制服を着ていたのは俺とはやてくらいだろ。

 

「まあまあ、褒められて悪い気はしないでしょう」

 

「ふふ、またすぐに同じ制服を着られるんなんてなぁ。 ちょっと嬉しいんよ」

 

「紅から茶に変わっただけだしね。 私としては紅の方がいいんだけどなあ」

 

「確かに、紅の方が思い入れがあるからね。 いっそ、対策課の制服を作って紅にしちゃおうかな?」

 

「やめなさい」

 

すずかが割と本気でそう言ったが、アリサがすぐさま止めた。

 

「まあ、私となのはは教導隊制服の時間の方が多くなると思うけどね」

 

「そうだね。 事務仕事とか、公式の場ではこっち、て事で」

 

「対策課より規則が固くなったのが難点だけど……」

 

「アンタだけでも帰っていいわよ?」

 

「冗談だって……」

 

「ふふ。 さて、それじゃあ……」

 

フェイトの切り出しで、俺達は頷き。 両足の踵を合わせて敬礼した。

 

「本日ただいまより、神崎 蓮也二等陸佐……」

 

「月村 すずか一等陸尉……」

 

「アリサ・バニングス一等空尉……」

 

「高町 なのは一等空尉……」

 

「フェイト・テスタロッサ執務官……」

 

「アリシア・テスタロッサ執務官……」

 

親しき仲にも礼儀あり、と言う感じだが。 それでもまだ緩い感じがする。

 

「計6名、機動六課に出向となります」

 

「どうかよろしくお願いします」

 

「はい……! よろしくお願いします……!」

 

形式に則って挨拶をしたが、やはりおかしくなってしまい、皆笑ってしまった。8人で笑い合っていると、再度ドアベルが鳴った。

 

「どうぞ!」

 

「ーー失礼します。 あ、これは皆さん、ご無沙汰しています」

 

中に入って来たのは眼鏡を掛けた青年で、かしこまって敬礼をする。 彼の事はすぐに分かったが、なのはとフェイトは彼をよく見つめる。

 

「え~と……」

 

「もしかしてグリフィス君!?」

 

「はい。 グリフィス・ロウランです」

 

名前を呼ばれるとグリフィスと呼ばれた青年は格好を崩し、なのはたちは笑顔で声をかける。

 

「うわぁ……! 久しぶりだね!」

 

「うん。 前に逢った時はこんなに小さかったのに」

 

「一体いつの話? もう数年前よ」

 

なのはは再開を喜び、フェイトは懐かしさからか手を腰の位置まで下げて、小さい頃のグリフィスの背丈を表し、アリサは呆れながらツッコンだ。 そしてしばらく、そのまま会話を続けるが、時間が少し経ち過ぎたので話を止めた。

 

「おっと、もうこんな時間。 積もる話はまた今度にして。 グリフィスは何か報告があってきたんじゃないのか?」

 

「あ! 失礼しました。 報告してもよろしいでしょうか?」

 

「うん、どうぞ」

 

「はい。 只今、フォワード陣7名含む、機動六課 課部隊員とスタッフ、全員揃いました。 今はロビーに集合、待機させています」

 

グリフィスの報告を聞くと、はやては笑みを浮かべる。

 

「そうかぁ、結構早かったなあ。 ほんなら、レンヤ君、なのはちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、アリサちゃん。 まずは部隊の皆にご挨拶しにいこか」

 

『うん!』

 

「了解」

 

「行きましょうか」

 

そう言って、オフィスを出てロビーへと向かう。 そこには各役割ごとに別れて並ぶ機動六課のメンバーがいた。俺達は前に並ぶと、一緒に簡易的な壇上に立ち、はやてが一歩前へ出ると部隊長挨拶を始める。

 

「私は、この機動六課の課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長を務めます。 八神 はやてです」

 

すると、六課のメンバーから拍手が起こる。それが静まるのを待って再度話し出す。 この機動六課が行っていくべきことそしてありかたを。そして、部隊長にしては些か短い挨拶が終盤に差し掛かり、最後にはやてはこう締め括った。

 

「この機動六課全員が一丸となって事件に立ち向かえると信じています。 と、あんまり長い話は嫌われるんで以上、これまで。 機動六課課長及び部隊長の八神 はやてでした……!」

 

はやてらしい挨拶が終わると、再度全員から拍手が送られた。 それに対しはやては手を上げて応えると、なのはの方を向いた。

 

「それでは、最後に隊長の紹介をします。まずはスターズ隊から」

 

「はい。 私はこの機動六課フォワード部隊のスターズ隊隊長の高町 なのは一等空尉です。 主に新戦力、フォワード陣の戦技教官を務めますので、よろしくお願いします」

 

「あたしは、スターズ隊副隊長の八神 ヴィータ三等空尉だ。以上」

 

ヴィータのあまりの自己紹介の短さに全員が苦笑する。そして、苦笑いのはやてが前に出ると、ライトニング隊に自己紹介を促す。

 

「……あはは。 それでは続きまして、ライトニング隊」

 

「はい。 私はライトニング隊隊長のフェイト・テスタロッサ執務官です。 私は執務官としてのこの機動六課を支えていきます。フォワード隊の事はあまり見れないかもしれませんが……なのは隊長から、アリサ隊長から色々と教わって実力をつけて行って下さい。 それでは、これからよろしくお願いします」

 

「私はライトニング隊副隊長、八神 シグナム二等空尉だ。 至らないところもあるだろうが、よろしく頼む」

 

ライトニング隊の紹介が終わると拍手が起こり、それが静まるとはやては俺の方を向いた。

 

「ほな、次はフェザーズ隊」

 

「はい。 俺はフェザー隊隊長の神崎 蓮也二等陸佐だ。 基本的に様々な部隊の援護、援助したりする。 まあ、出張版異界対策課と思っていい。訓練でもお手伝いでも、気軽に頼んでくれ」

 

すると六課のメンバーがクスクスと笑った。 まあ、それはそうか。 普通なら考えられない挨拶をしているからな。

 

「コホン……」

 

と、そこでアリサが咳払いした。 また静かになり、話し始めた。

 

「フェザーズ隊副隊長のアリサ・バニングス一等空尉よ。 高町一等空尉同様、フォワード陣の戦技教官を務めるわ」

 

紹介が終わり、拍手が贈られる。 続いてはやては次の部隊の自己紹介をした。

 

「ほな、最後はクレードル隊や」

 

「はい。 クレードル隊隊長の月村 すずか一等陸尉です。 後方支援が主だけど、場合には遊撃を買って出ます。 もちろん、それが無い方がいいのですが……気楽にやって行きましょう」

 

すずからしいとはいえ、変な締め方だな。

 

「次は私ねー。 私はクレードル隊副隊長のアリシア・テスタロッサ執務官。 特にかしこまらなくてもいいから、気軽にしてね♪」

 

アリシアの挨拶が終わり……その後ロングアーチの紹介が終わると再度拍手が送られ、部隊長挨拶はお開きとなった。 解散となると俺は1箇所に集まるフォワード陣が目に入り、近付いて声を掛けた。

 

「ソーマ、サーシャ、ティアナ、スバル、ルーテシア」

 

「あ、レンヤさん!」

 

「バカ! ここはもう対策課じゃないのよ……!」

 

「レンヤでいいよ。 対策課の癖はそう治らないだろうし」

 

「そ、そうしてもらえると助かります」

 

「ただし、公式の場ではちゃんと形式に則るように。 まだ管理局はD∵G事件でゴタゴタしているとはいえ、そこだけは守ろうな?」

 

『はい!』

 

そこだけ、を強調して注意し。 俺はエリオの方を向いた。 エリオとは以前フェイトの紹介で会っており、最初は遠ざけられていたが……次第に仲良くなったのだ。

 

「それとエリオ、久しぶりだな。 あれから腕は上がったか?」

 

「はい! すずかさんの出した練習メニューをちゃんとこなして来ました!」

 

「なら大丈夫だろうと思うが、なのはの教導は厳しいから覚悟しておけよ」

 

「は、はい!」

 

「それから君がキャロ・ル・ルシエだな。 これからよろしくな」

 

「はい! 精一杯やらせていただきます!」

 

「ルーテシア、キャロのフォローをしてやれよ。 もしかしたらこの子もアレを使うかもしれない」

 

「了ー解。 その時は任せておいて」

 

「??」

 

話が分からず、キャロは小首を傾げる。 と、その時、なのはが近付いて来た。

 

「レン君、そろそろいいかな?」

 

「おっと、初日から訓練に入るんだったな。 時間を取らせて悪かった」

 

「ううん、気にしないで。 レンヤ君もこの後本局に行くんでしょ?」

 

「ああ、アリサとネクター服用者のリハビリの最終確認にな。 なかなかネクターには……D∵G教団には手を焼かされる。 それじゃあ、後は頼んだぞ」

 

「うん、任せて」

 

軽く手を振ってソーマ達と別れ、アリサの元に向かい。 ヘリが待っている屋上に向かった。 屋上に到着すると、パイロットのヴァイスさんにリインが何やら叱っていた。

 

「あ、レンヤ、アリサ」

 

「ちょうど来たなあ」

 

「あの2人は何をやっているのかしら?」

 

「ま、大方ヴァイスさんがふざけてそれをリインが叱っている、って所だろ」

 

「おお……! まさしくその通りや!」

 

……本当はそうでなければと冗談で言ったんだけど……と、その時ヘリと同じ屋上にあった小型飛行艦、出動時のスクランブル用のピット艦だ。 こんなのを最新式のヘリと一緒に持てるなんて……すずか、本当に半端ないな。

 

「それにしても、ヴァイスさんはどうしてヘリのパイロットに? ヴァイスさんは確かに事件の時に墜落、した小型飛空船のパイロットをしてましたけど……」

 

「墜落したのを強調するな! けどまあ、狙撃一本じゃどうしても無理があってな……それで各種乗用機のライセンスを取っていた矢先、はやて隊長に誘われてな」

 

「なるほどね……墜落、も失敗ではなく。 経験として見たのね」

 

「だから墜落言うな!」

 

「はいはい、それは後にして早ういくで。 行き先は首都クラナガン、中央管理局までなぁ」

 

逃げるようにヘリに乗り、ヴァイスさんはぶつくさ言いながらもストームレイダーをリンクさせたヘリを発進させた。

 

「なあなあレンヤ君、レンヤ君も会議に出てくれんか? 会議場所は地上本部やし、レンヤ君がいると話が捗るんやー」

 

「こっちにも予定があるのは知っているだろ。 今地上にいる人達は信用できる……それを信じないのなら、俺を信じていないのと同じだぞ?」

 

「うう……せやかてレンヤ君……」

 

「フェイトもいるんだし、事前に流れは決めているんでしょう? 仮にも隊長なんだからシャキッとしなさい」

 

「はーい……」

 

そして、俺達を乗せたヘリは駆動音を上げながら飛び上がり、クラナガンに向かって飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃ーー

 

レンヤと別れたソーマ達は制服から訓練用の動きやすい服に着替え。 訓練場に向かって走っていた。

 

「ここね」

 

「何もない……?」

 

「あ……! あれは……」

 

走りながらそれらしき訓練場が無いのを不審に思うスバル。 そしてサーシャは海上にある幾多もの六角形の台を見て、何かに気付いた。

 

それからなのはの前に並び、一旦デバイスを預けられ。 アシスタントの女性がデバイスに端末を接続し、調整してから返却した。

 

「今返したデバイスには、データ記録用のチップが入っているから。 ちょっとだけ、大切に扱ってね? それから、メカニックのシャーリーから一言」

 

「えー、メカニックデザイナー兼、機動六課通信主任のシャリオ・フィオーニ一等陸士です。 皆はシャーリーって呼ぶので、よかったらそう呼んでね?」

 

『はい!』

 

全員元気よく返事をするが、ソーマはおずおずと手を上げた。

 

「あのー……僕の天剣は……?」

 

ソーマだけが、デバイスが返してもらってなく。 シャリオの手の中にあった。

 

「あれ? 事前に言ってなかったっけ? ソーマの天剣は当面は使用不可だよ」

 

「ええっ!?」

 

「大丈夫。 ソーマにはこっちで用意したデバイスを使ってもらうから」

 

「そういう問題じゃないんですけど……」

 

落ち込みながら、ソーマはなのはから青い棒の形をしたデバイスを受け取る。

 

「ルーフェンの技術を元にして作った錬金鋼(ダイト)です。 天剣より遥かに劣りますが、これも訓練のうちです!」

 

「ふう、仕方ないか……レストレーション」

 

復元鍵語を言い、復元させると。 ソーマの手の中に青い剣が展開された。

 

「天剣と同じ魔法刻印を刻んでありますから、問題なく転移は出来るはずですよ?」

 

青石錬金鋼(サファイアダイト)……ぶっつけ本番でこれはキツイですね……」

 

「あの! なんでソーマはその天剣? というのを使っちゃっダメなんですか?」

 

スバルが最もな疑問を言い、なのはは少し考えた後……口を開いた。

 

「それの説明には少し歴史を遡る必要があるかな? 数十年前……時空管理局がルーフェンの持つ12の天剣をロストロギアと認定して、押収しようとした事があったの」

 

「ええええっ!?」

 

「スバルうるさい……!」

 

「驚くのは無理ないですよ。 その時の管理局の体制はそれはもう……!」

 

シャリオはそれを思い出したのか、憤慨してソッポを向く。

 

「それで、管理局員がルーフェンに行ったんだけど……全員がボロボロで帰って来たの」

 

「それは、もしかして……」

 

「そう、その時の天剣授受者によって撃退された。 完膚なきまでに」

 

そのなのはの発言に、ソーマ以外は軽く身震いを起こした。

 

「そもそも、なぜ天剣がロストロギア認定される事になったのには天剣の異常性があるからです。

ルーフェンの天剣授受者に与えられる特殊な白金錬金鋼(プラチナダイト)、それが天剣です。 普通のダイトは重量・密度・高度・粘度・形状・伝導率の何処かで妥協しなければなりませんが、天剣にはそれがありません。 全ての要素において、使用者の望み通りに、望む形に設定が可能……また膨大な剄力を持つ天剣授受者がどれだけの剄を込めても決して自壊する事が無いのです」

 

「実際、天剣は複数あるけど、そのどれを取っても性質は全く同じ。 天剣の中身を入れ替えても気付くことはないくらいにね」

 

「それでロストロギア認定を? でも、いささか決定が早急過ぎませんか?」

 

「ロストロギアは未知の技術や魔法の総称の事を示すわ。 あながち否定は出来ないけど……聞く限りでは、危険と判断するにはやっぱりかなり早急ね」

 

サーシャとルーテシアが、話を聞いてそう決定付ける。

 

「……ねえティア……そもそも天剣授受者って……何?」

 

「アンタって子は……! まあ、仕方ないか。 私もソーマに聞かなきゃ知らなかったわけだし……天剣授受者はルーフェンの最強の武芸者12人に与えられる称号よ。 天剣授受者となった武芸者には、天剣とその称号を示すミドルネームや様々な特権が与えられるって聞いてるけど……」

 

「私が知っている天剣授受者は3名。 ユエ・タンドラ、天剣クォルラフィンの所有者。 リヴァン・サーヴォレイド、天剣サーヴォレイドの所有者。 そしてーー」

 

「……ソーマ・アルセイフ、天剣ヴォルフシュテインの所有者。 ソーマ・ヴォルフシュテイン・アルセイフ……」

 

『????』

 

難し過ぎて、先ほどから話について行けてないエリオとキャロの頭の上にはハテナマークしか出てきてない。

 

「コホン、話を戻すけど。 その後、管理局はルーフェンと条約を結び。 ルーフェンが責任を持って管理することで話がついた。 そして今、私達の部隊の1人がその天剣を所持していると……」

 

「あっ!」

 

「……遺失物管理部が遺失物を使っている……そういう事ですか」

 

「そう、まさしくそういう事だね。 もちろん認定は解除されているけど、一度認定すると根が強いからね。 あらぬ波風を立たせないためにも、どうかここは納得してくれるかな?」

 

「…………はい、分かりました。 ですが後でちゃんと返してくださいよ」

 

「もちろん!」

 

「………後、解析しても無駄だと思いますよ? すずかさんですら解明するのを諦めましたから」

 

「ギクッ!? そ、そんなことないですよ〜〜……」

 

あからさまに口笛を吹いてごまかすシャリオ。 解析する気満々だったようだ……

 

「それとこれも、ソーマ君の剄量は膨大ですから……普通の錬金鋼だとすぐに飽和してボン! です。 ですから、はいこれ」

 

手渡されたのはダイトを入れる剣帯(けんたい)、そこにソーマがもっているダイトと同種のダイトがいくつも懸架されていた。

 

「全てにデータ記録用のチップが入っているから、全部壊したらダメだよ?」

 

「は、はい!」

 

なのはに凄んで言われ、ソーマはその圧に萎縮していまう。

 

「さて……話は長くなったけど、早速訓練に入ろうか?」

 

「は、はい?」

 

「でも、ここでですか?」

 

「ふふ、シャーリー」

 

「はーい!」

 

シャーリーは返事と同時に空間ディスプレイを展開。 データを入力し、起動すると……六角形の台の上に、廃棄都市をモチーフにした訓練場が現れた。

 

「機動六課自慢の訓練スペース……なのはさん完全監修の陸戦用空間シュミレーターだよ!」

 

「しかも、このシュミレーターはディアドラグループの最新式で、本来なら六課に配備される事はなかったんだけど……なんと、今回は特別に配備してもらったの! いや〜、異界対策課様々だねぇ〜♪」

 

本当に嬉しそうに笑うなのは。 少し現金な気もするが……ソーマ達は初めて見る空間シミュレータに驚きながらも中に入り、準備を開始した。 そのソーマ達になのはから声がかかる。

 

『よしっと……皆、聞こえるかな?』

 

『はい!』

 

『うん、いい返事。 それじゃ、訓練を始めるね。 シャーリー』

 

なのはは合図を送ると、シャーリーは頷きコンソールを叩く。

 

「はい、なのはさん。レベル設定はこれくらいですかね……っと」

 

操作が終わると、スバル達の目の前に魔法陣が12個現れる。 それと同時になのはの声が再度響き渡る。

 

『私達、機動六課の仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理……その目的を行う上で相手をしなくてはいけない相手が……これ。 私達がガジェットドローンと呼んでいる魔導機械』

 

『っ!』

 

『おお〜……!』

 

その魔法陣から現れた楕円状の機械を見てスバル達は息を飲み、ソーマ達は珍しそうな目で見る。 なのはは説明を続け、一通りの説明が終わるとソーマ達は覚悟を決め真剣表情で敵を見る。 そして、それをなのはが確認すると訓練開始の合図を出す。

 

『それじゃあ、準備はいいかな? 第1回模擬戦闘……作戦目的は逃走する12体のガジェットドローンの破壊、もしくは捕獲。 制限時間は15分以内』

 

『はいっ!』

 

「了解です!」

 

「やるよ〜!」

 

「うーん、使いにくい……」

 

スバル達は緊張感を持って真剣な表情で返事をするが……ルーテシアはマイペースに返事をし、ソーマは受け取った錬金鋼が手に馴染まず、話を聞いてなかった。

 

『それじゃ……ミッション・スタート!』

 

なのはの声と共にスバル達は駆けだす。この瞬間から、彼女たちの厳しい訓練が始まった。

 

 

 

その様子を、隊舎から見ていたヴィータ、シグナム、アリシアの3人は背を向けると隊舎の方に帰っていく。その途中、シグナムは2人に向かって問いかける。

 

「お前達は参加しなくていいのか?」

 

「アイツらは……特にあの4人はまだ足元もおぼつかないひよっこだし、残りの3人はじゃじゃ馬だ。 アタシが教導に出るのは当分先になるだろうな」

 

「私もパスだね。 あの子達に最適な魔法の開発と、山のようにある書類の整理をしなきゃならないし」

 

「そうか……」

 

シグナム自身も同じなので、特に追求しなかった。

 

「それに自分の訓練もしたいしさ。 同じ部隊なんだ。空ではアタシがなのはを守ってやらなきゃなんねぇ……少しでも力をつけねぇと。 もうアタシは、繰り返さねえ……なのはの事も、レンヤの事も……この忌むべき力に、頼ったとしても……」

 

ヴィータは自分の手の平を見て、硬く握り締めた。 その言葉を聞いて、シグナムは同じ身長になったヴィータを真剣な顔で……アリシアは笑顔で見つめて一言……

 

『頼んだぞ(よ)』

 

「ああ」

 

そうヴィータに言った。 その視線にヴィータは一瞥し、簡潔に……だが即答でそう答えた。 それを聞いた2人は笑みを浮かべる。

 

「……そういえば、シャマルは?」

 

「自分の城だ」

 

「じゃあ、ザフィーラは?」

 

「ファリン達と一緒にヴィヴィオのお守りをしてくれているよ」

 

「………………………」

 

それを聞いたヴィータは、なんとも言えない顔をする。

 

 

 

そして、医療室ではシャマルがご満悦の笑みでデスクを手でさすっていた。

 

「うんうん、いい設備。 これなら、検査も処置も……かなりしっかり出来るわね」

 

「本局医療施設の払い下げ品ですが……実用にはまだまだ十分ですよー!」

 

「皆の治療や検査、よろしくお願いしますね! シャマル先生!」

 

「はーい♪」

 

笑顔で返事をするシャマルだが、その時医療室にいたリンスが書類の山を置いた。

 

「ではシャマル、消耗品の一覧表だ。 ちゃんと目を通して置くように。 後、医療機器の実用出来た場合の点検や補償の確認もある。 全て目を通した上でサインしてくれて」

 

「ええ〜〜!? それならリンスがやってくれてもいいじゃな〜い……」

 

「ここの責任者はシャマルだ。 皆の命を守る者として、責任を持て。 後ほどすずかが訪れる。 医療器機は彼女が修理するので、それによる修理代の見積もりも出しておいてくれ」

 

「ふ、ふええ〜〜ん!?」

 

「そ、それでは失礼しま〜す」

 

「どうか、ご無事で……」

 

隊員がそそくさ部屋を出る中、シャマルの悲鳴は虚しく医療室に響き渡った。

 

 

 

場所は戻り、訓練場ーー

 

そこには苦戦しながら6機のガジェットドローンを追いかけるスバルの姿があった。スバルは全速力で追いかけ、その勢いで飛び上がった右手のリボルバーナックルを構えると……

 

「はぁぁぁ………はぁ!」

 

気合と共に魔法弾を放つ。しかし、ガジェットドローンはそれを悠々と回避しそのままの速度で遠ざかってしまう。

 

「何これ!? 速っ!?」

 

その動きを見て思わずスバルの口から驚きの声が漏れる。 しかし、スバルから逃げ切った先に居たのはエリオが槍型のアームドデバイス……ストラーダを構えてガジェットドローンに向かって走り出す。 その瞬間、敵の接近を感知したガジェットドローンは小さな魔力弾を連射し、弾幕を張った。

 

「っ!」

 

エリオは自慢の機動力を最大限に発揮し弾幕を掻い潜ると壁を利用して高く跳躍し、ストラーダを振るう。2つの魔法刃を生成して放ち、魔力刃らガジェットドローンに向かった。

 

「だっ! ……はあっ!」

 

しかし、ガジェットドローンはまたも攻撃を散開して回避すると高速で走り去る。

 

「ダメだ……ふわふわ避けられて当たらない」

 

エリオもまた、息を上げながら悔しげに声を漏らす。

 

「内力系活剄……旋剄!」

 

もう片方の6機を織っていたソーマは、脚力を大幅に強化し高速移動。 ガジェットドローンと並走する。

 

「てやっ!」

 

さらに加速。 回り込んで一体を斬り裂き、続いてもう一体を斬ろうとした時……錬金鋼から煙が上がっていた。

 

「え!? たったこれだけでオーバーヒート!?」

 

開始早々限界が来た錬金鋼に、ソーマは驚愕し速度を落としてしまう。 そんなソーマを他所に、ガジェットドローンは逃走。 ビルからビルへ移動していたサーシャが先回りして行く手を塞いだ。

 

「巻き込め……()の円環!」

 

輪刀を前に突き出し、高速に左回転させて気流を操り、ガジェットドローンを吸い寄せる。

 

竜巻の矢(トルネード・アロー)!」

 

回転によって輪刀の中心に集束した空気が矢となって放たれ。 ガジェットドローン一体を貫いた。

 

「よし! お次はーー」

 

『バカ! 避けなさい!』

 

「え……きゃあ!?」

 

サーシャの背後からスバルとエリオから逃げて来たガジェットドローンが現れ、魔力弾を連射して来た。 ティアナの注意でとっさに避けたが、輪刀の回転が止まり……動きを封じていたガジェットドローンが解放された。

 

それをビルの上から見ていたティアナが前衛の4人に念話を飛ばす。

 

『スバルとエリオ、分散し過ぎ! そしてソーマとサーシャはさらに分散し過ぎ!! ちょっとは後ろの事も考えて!』

 

『は、はい!』

 

『ご、こめん……!』

 

『す、すみません……!』

 

『ティアー! もう錬金鋼が一つダメになったんだけど……』

 

『知らないわよ!』

 

スバル達は慌てて謝り、ティアナはソーマの質問を無視して、逃げて来た目標を確認しアンカーガンを取り出すとオレンジ色の魔力弾を生成する。 そして後ろに待機していたキャロに指示を出した。

 

「ちびっ子、威力強化お願い」

 

「はい!ケリュケイオン……!」

 

《ブーストアップ、バレットパワー》

 

キャロは返事を返し、両手にはめたグローブを構えるとピンク色の魔法陣を展開させた。

そして、ティアナに向かって左手を振ると射撃の威力強化魔法をかける。 その瞬間、ティアナが形成していたオレンジ色の魔力弾が輝きを増し一回り大きくなる。 それを確認すると引き金に指を掛け……

 

「シュートッ!」

 

4つの魔法弾が後方4機のガジェットドローンに向かって放たれる。 しかし、4機に当たる直前、何かにぶつかって魔法弾が消滅してしまった。それを見たティアナは驚きで目を見開く。

 

「バリア!?」

 

「いえ、あれはフィールド系ね」

 

「魔力が消された!?」

 

ルーテシアがその正体に気付くと、続いてスバルも驚きの声を上げる。 それを聞いていたなのはは微笑むと、頷いて解説をする。

 

『そう……ガジェットドローンにはちょっと厄介な性質があるの。 攻撃魔力をかき消すアンチ・マギリング・フィールド。 通称、AMF。 普通の射撃は通じないし……』

 

「あぁ、くっそ! このぉ!!」

 

その解説の間も逃げ続けるガジェットドローンに対し、苛立ちが抑えきれずにスバルがウィングロードで追いかける。 が、それを見たティアナが咄嗟にスバルを呼び止める。

 

「スバル、バカ危ない!!」

 

『それに、AMFを全開で出力されると……』

 

それに合わせてなのはの解説が再開すると、スバルがビルの屋上に差し掛かろうというところでガジェットドローンの一体がAMFの効果範囲を最大まで拡大させた。 その瞬間、屋上まで伸びていたウィングロードは屋上まで届かず、途中でスバルは投げ出される。

 

「あれ? あ、きゃぁぁ!?」

 

そして、投げ出されたスバルはビルの中へと勢いよく突っ込んでいくのであった。

 

『飛翔や足場作り、移動系魔法の発動も困難になる。 スバル、大丈夫?』

 

「いっつ~……なんとか」

 

『まぁ、訓練場では皆のデバイスにちょっと細工をして擬似的に再現してるだけなんだけどね。 でも、現物からデータをとってるし、かなり本物に近いよ』

 

『これを突破する方法はいくつかあるんだけどね。どうすればいいか素早く考えて、素早く動いて』

 

なのはからの念話を聞き終わると、ティアナがキャロに問いかける。

 

「ちびっ子……あんた、名前なんて言ったっけ」

 

「キャロであります」

 

「キャロ、手持ちの魔法とそのチビ竜の技で何とかできそうなのある?」

 

ティアナの問いかけに対してキャロはしっかりとした目で見つめ返す。

 

「試してみたいのが、いくつか」

 

「私もある」

 

その回答に満足したのか、ティアナは笑みを浮かべる。

 

「ルーテシア、あんたとその球で陽動してくれる?」

 

「球言わないで、ガリューは私の大切な友達なんだから。 でもまあ、この程度なら使わなくてもいいかな?」

 

ルーテシアはガジェットドローンを一瞥すると、左腕に装着してあるガントレットを操作し。 ガリューがルーテシアの肩から降りた。

 

《System Down》

 

するとガリューが光り出し……本来の姿のガリューに戻った。

 

「なっ……」

 

「ええっ!?」

 

「行っくよー……ガリュー!」

 

(コクン)

 

ガリューはルーテシアを抱えて飛び出して行った。 ティアナは一瞬ポカンとするが、すぐに戻ってスバルを念話で呼んだ。

 

『スバル!』

 

『オ~ケ~!』

 

コンビを組んで長い二人はその一言で会話が成立しスバルはエリオに指示を出す。

 

「エリオ。 ルーテシアと合流して、あいつら逃がさないように先行して足止めできる?」

 

「あ、えっと……」

 

いきなりの指示に戸惑うエリオ。 しかし、戸惑っている暇はないとばかりにスバルはエリオに向かって一言で説明する。

 

「ティアが何か考えてるから、時間稼ぎ……!」

 

「……やってみます!」

 

『こっちもフォローするから、落ち着いて行こう』

 

スバルの勢いに押されて、エリオはやる気の表情で引き受け、ソーマがフォローを買って出る。

 

そしてここからソーマ達の反撃が始まった。まず、ルーテシアが4機のガジェットドローンを誘い出し、エリオがビルの連絡橋の上で待機する。

 

「行くよ……ストラーダ! カートリッジロード!」

 

《エクスプロージョン》

 

「でやああ!」

 

ガジェットドローンが来るタイミングに合わせてカートリッジをロード。 魔力を上げ足元に黄色いベルカの魔法陣を展開。 青電を放ちながら、ストラーダを振り回して連絡橋を破壊する。 破壊された連絡橋の瓦礫がガジェットドローンに直接当たり、撃破を成功させる。 すると、土煙の中から無事だった2機が飛び上がり、スバルはそれを見て高く飛び上がる。

 

「潰れてろっ!」

 

気合の一言と共に1機をリボルバーナックルで撃ち落とす。 しかし、破壊までには至らなかったため悔しげな表情をして後ろに飛び着地。

 

「やっぱり魔力が消されちゃうと、イマイチ威力が出ない……」

 

すると、後ろに回り込んでいた機体を……今度は足で引っ掛けるように捕まえて地面に押し倒し、ゼロ距離でリボルバーナックルを打ち込んだ。

 

「うりゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

すると、今度はリボルバーナックルがガジェットドローンに穴を開けて撃破した。

 

「うわー……スマートじゃない……」

 

(コクン)

 

それを見ていたルーテシアは軽く引き、ガリューは頷いて同意する。

 

そして別の場所では、ビルの屋上からはキャロとティアナが。 残り6機のガジェットドローンをソーマとサーシャが追い込んでいた。

 

「連続で行きます。 フリード、ブラストフレア……ファイア!」

 

キャロはフリードに魔力を与えると……フリードよ口から炎が形成され、ガジェットドローンへと放った。 ガジェットドローンの前に着弾すると、ガジェットドローンは炎に包まれ動きが抑制される。 それを確認したキャロは足元に桃色のミッドの魔法陣を展開させた。

 

「我が求めるは……戒めるもの、捕えるもの……言の葉に答えよ。 鋼鉄の縛鎖……錬鉄召喚! アルケミック・チェーン!」

 

ガジェットドローンの真下に魔法陣が展開はらると鋼鉄の鎖が無数に現れ、それぞれが目標に向かって伸びていき2機を捕縛するが……一機を逃してしまった。

 

「ああっ!?」

 

「ーーインゼクト!」

 

逃げた一機の周りに無数の羽根虫達……インゼクトが囲んだ。

 

「相手は人間でもグリードでもなくて機械……なら、大技なんか必要ない!」

 

インゼクトがガジェットドローンの隙間に入り込み、中の配線をショートさせた。 ドローンは機能を停止し、重力に従って地面に落下した。

 

「お疲れ様」

 

「あ、ありがとうございます。 ルーテシアさん」

 

「ルーテシアでいいよ。 ほら立って、まだ終わってないよ」

 

ルーテシアはキャロに手を差し出し、キャロは遠慮しながらもおずおずと手を取り……

 

「うん! ルーテシアちゃん!」

 

笑顔で頷いた。

 

そして、ティアナは2機のガジェットドローンを追ってビルを飛び移りながら射撃ポイントに到着した。

 

「こちとら射撃型。 無効化されて……はいそうですかって下がってたんじゃ、生き残れないのよ!」

 

そう叫ぶとカートリッジをロード……オレンジのミッドの魔法陣を展開させて、再度魔法弾を生成する。同時にスバルとソーマへ指示を飛ばした。

 

『スバル、ソーマ。 上からしとめるから、そのまま追ってて!』

 

『うん!』

 

『了解!』

 

すると、ティアナは生成した魔法弾に対して魔力を再度注ぎ込む。ティアナが行っているのは多重弾殻を作るための魔力操作。

 

(固まれ……固まれ……固まれ……固まれ!! )

 

集中を切らさず、急いで魔力を集中させて生成した魔力弾を殻で包み込もうとする。 思いと違って中々固まらない殻に焦るが……

 

「うあぁぁーー!!」

 

ティアナの叫びに呼応し、殻に包まれた魔力弾が出来上がる。 次の瞬間……

 

「ヴァリアブル・シュートッ!!」

 

多重殻魔力弾が発射され、それはAMFを突き破り見事2機のガジェットドローンを打ち抜いて見せた。 それを間近かで見ていたスバルは自分の事のように喜び、ティアナに呼びかける。

 

「ティア、ナイス! ナイスだよティア! やったね~、さすがー!」

 

それに対し、ティアナは消耗が激しかったのか、息を荒げながらその場に座り込んだ。

 

「スバル、うるさい! これくらい……当然よ!……はぁ、はぁ」

 

そう返すと、息を切らせながらそのまま仰向けに倒れこむ。 と、そこでティアナの隣にルーテシアが現れ……

 

「ちょっとちょっと、後2機……残ってるわよ?」

 

頰を突きながらガジェットドローンが残っている事を伝えた。

 

「あ、しまった!」

 

「ああ、いいわよ。 こっちでやっておくから

『サーシャ、準備はオーケー?』」

 

『うん。 現在、目標2機を追って40キロで南下中。 進行方向にソーマ君とガリューを確認……行けるよ』

 

離れた場所で、サーシャは滑空しながら2機を追っていた。 T字路に差し掛かった所で2機は分断し……一体は何も空間でいきなり攻撃を受け……次の瞬間環境迷彩で姿を消していた、拳を突き出しているガリューが現れた。

 

「ガリュー!」

 

追って来たサーシャの声でガリューはガジェットから離れ……

 

「天地投げ!」

 

ガジェットの隙間に手を入れ、振り回して壁や地面に何度も叩きつけ、ガジェットを破壊した。

 

そして、もう一体の進行方向にソーマが立っていた。

 

「レストレーション……」

 

新しいダイトを手に持ち静かに復元鍵語を言い、剣を構える。 ガジェットドローンはソーマに向かって魔力弾を連射し、バク転で避け。 次の攻撃も屈んで避け……

 

「……っ……」

 

無呼吸で剣を振り、ガジェットに横線が走る。 両者そのまま通り過ぎると、ガジェットが機能を停止し……線が走った部分から二つに割かれ、火花を散らして爆発した。

 

「………ダメにしちゃったな……」

 

錬金鋼を顔の前に持って行き、刀身が捻り曲がった剣を見て……ため息をつく。

 

まだまだ問題はあるが……こうして、ソーマ達の初めての訓練が終了した。

 

シャリオは今回の訓練の結果をまとめていた。

 

「デバイスのデータはどう?」

 

「はい! いいのが取れました!7機共良い子に育てられます!」

 

「それにしてもソーマ君……早速やっちゃったね」

 

「うう、丹精込めて作ったダイトなのに……一つはオーバーヒート、一つは大破……でも! 彼の剄に耐えうるダイトを作る事が出来れば……むしろ燃えて来ましたよお!!」

 

「あ、あはは……程々にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警備隊の最終リハビリが終わり、帰る頃にはすっかり夜になっていた。 ちょうど隊舎に帰って来たはやてと一緒に食堂に向かっていた。 食堂に到着すると、シグナム達、ヴォルケンリッターが席を囲んで夕食を食べていた。

 

「あ、はやて、レンヤ!」

 

「ヴィータ! 皆でお食事かぁ?」

 

「はい。 色々打ち合わせがてら」

 

それを聞くと、はやては膝を下ろして獣状態のザフィーラの頭を撫でた。 俺も撫でる……とまではいかず、両膝に手を置いてザフィーラの顔まで視線を下げた。

 

「ザフィーラ、今日はヴィヴィオの面倒を見てくれてありがとな」

 

「気にするな」

 

一言だけだが、付き合えて嬉しそうな気持ちも感じた。

 

「はやて達はもうご飯は食べたか?」

 

「お昼抜きやったから……もうお腹ぺこぺこや」

 

「それは大変です。 急いで注文しましょう」

 

「レンヤ君も食べてないわよね? 一緒にどう?」

 

「なら、お願いします」

 

「分かった。 少し待っていろ」

 

「おおきになあ……!」

 

シグナムとシャマルとリンスは夕食を注文しに行き、俺は上着を脱いで背もたれにかけ席に着くと、はやては肩から下げていたバックを椅子に置いた。

 

「あれ? リインは?」

 

「そういえば、確かはやてと一緒にいたはずだよな?」

 

「ああ、ここにおるんよ」

 

はやてが置かれたバックを開けると……リインがスヤスヤと寝ていた。

 

「……相変わらずよく寝るな、コイツは」

 

「まあ、一生懸命働いてくれてるらなぁ」

 

「はは、リインなりに頑張ってくれているんだな。 俺達も負けてられないな?」

 

「ふふ、そやなぁ」

 

ヴィータは少し微笑むと、静かにバックを閉めた。 それから持って来てもらった夕食をいただき、雑談を交わしながら食事を取った。 ていうか、ザフィーラが下で犬のように普通に食べているのに誰もツッコまない。 ザフィーラよ、お前は……それでいいのか?

 

「中央の方はどうでしたか?」

 

しばらくしたら、シグナムが食器を置いて、はやてにそう聞いて来た。

 

「まあ、新設部隊とはいえ、後ろ盾は相当しっかりしとるからなぁ。 そんなに問題はないよ」

 

「後見人だけでも、リンディ提督にレティ提督にクロノ君……じゃない、クロノ・ハラオウン提督」

 

「それに最大の後ろ盾、聖王教会と教会騎士団長のソフィーと騎士カリム……これだけそろって入れば文句は言えないでしょう」

 

「レンヤの時も、そんな感じだったのか?」

 

「うーん……違うかなぁ? はやての場合は後見人なってもらうに対して、俺の場合はあっちから後見人になってもらっただからな。 ま、その分ゴタついたけど」

 

何度も対策課を本局や空域に移籍させろとうるさかったからな。 その度にレジアス中将のお世話になったし。

 

「そや、ヴィータ、現場の方はどないや?」

 

「ん? なのはとフォワード隊は挨拶後すぐから夜までずっとハードトレーニング。 んぐ……新人達は今頃グロッキーだな」

 

「こらヴィータ、行儀が悪いぞ」

 

途中、食べ物を口に入れてから話すヴィータをリンスが注意する

 

「まあ、全員やる気と負けん気はあるみたいだし。 何とかついて行くと思うよ」

 

「そう……」

 

「後でなのはに話を聞くとするか」

 

スバル達4人はバテていそうだが、ソーマ達は余力を残してそうだな。 ま、そうなるとなのはのしごきが激しくなるだけだが……

 

「バックヤード陣は問題ないですよ。 私以外は和気藹々です……」

 

「シャマルはもっと責任を持ってくれ」

 

「グリフィスも相変わらず、よくやってくれてます……問題ありませんね」

 

「そうかぁ……」

 

はやては何か思い詰めた顔をすると、唐突に語り出した。

 

「……私達が局入りしてかれこれ10年……遣る瀬無い、もどかしい思いを繰り返してやっと辿り着いた……私達の夢の部隊や……!」

 

そこで、一旦はやてはフォークでプチトマトを刺し、話を続ける。

 

「レリック事件をしっかり解決して。 カリムの依頼もきっちりこなして……皆で一緒に頑張ろうな……!」

 

「おう、任せとけ!」

 

「ふふっ、もちろんです……!」

 

「我ら守護騎士、あなたと共に」

 

「あなた意志は私達の中に……共に歩んで行きましょう」

 

……ザフィーラもなんか言えよ……

 

「あ、もちろんレンヤ君も一緒にな♪」

 

「おいおい、強引だな……」

 

空いている腕を組まれ、はやてはニッコリと笑う。

 

「なんや嫌なんか?」

 

「嫌な訳ないだろう。 何があっても、俺ははやての事を守り続けるよ」

 

「っ!」

 

本心でそう言うと……はやての顔はみるみる赤くなって行く。

 

「どうかしたか?」

 

「う、ううん! なんでもあらへん……///」

 

ソッポを向くも、腕を離してくれないはやて。 少し気になるが、仕方ないか……その時、リインの入っているバックが揺れ……目をこすりながらリインが出て来た。

 

「う〜ん……いい匂いがするですぅ〜……」

 

「匂いで起きたか。 意地汚い奴め」

 

「えへへ……」

 

リインも起きた事だし、そろそろ……先に夕食を済ませ、組んでいた腕を解いて席を立った。

 

「さて、俺はこれで失礼させてもらうよ。 後は家族水入らず……俺の事は気にしないでくれ」

 

「そんなん全然気にせんよ。 むしろレンヤ君も私の家族にならないかぁ?」

 

「はいはい、冗談言ってないで。 この後一度ヴィヴィオに顔出した後、また仕事なんだ」

 

「………ほんますまんなぁ、初日から苦労かけて……」

 

「いいってことよ。 本当に家族になりたいんなら遠慮しないでなんでも頼ってくれ。 なんせ俺は、超が付くほどのお人好しだからな」

 

「普通、自分で言う? でも、ほんまおおきに、レンヤ君」

 

お礼を手を振って返事をし。 食器を下げた後、宿泊舎に向かった。 確か今日はなのはの部屋にいるはずだ。 なのはの部屋の前まで来て、ドアベルを鳴らした。

 

「なのは、レンヤだ。 今入っていいか?」

 

『レ、レン君!? ちょ、ちょっと待って!』

 

ドアの先からなのはの慌てた声と、少しドタバタした音が聞こえ……

 

『よし……どうぞー』

 

許可をもらい、部屋に入った。 部屋は俺の部屋と同じ構造のかなり広めな部屋で、なのははパジャマで肩に上着を着てベットの上に座っていた。

 

「ああ、ごめん。 着替え中だったか?」

 

「ううん、気にしないで。 それより、ヴィヴィオの様子を見に来たんでしょ?」

 

ベットの中を見ると……そこには5歳くらいの少女、ヴィヴィオがスヤスヤとうさぎのぬいぐるみを抱えて眠っていた。

 

(……よく眠っているな……)

 

横まで来てしゃがみ込み、寝顔を見ながら頭を撫でる。

 

「……ん……パ……パ……」

 

寝言で俺の事を呼ぶヴィヴィオ。 返事は頭を撫でて返し、立ち上がる。

 

「それじゃあ、なのは。 ヴィヴィオの事をよろしくな」

 

「うん。 レン君も無理しないでね……」

 

「大丈夫だって。 間に合わなかったら明日、なのはに手伝わせるから」

 

「ふふ、レン君酷ーい。 でも、ありがとう」

 

酷いのかお礼を言っているのかは分からないが、苦笑するなのはに手を振って部屋を後にした。 執務室に向かう中、外から汚れているソーマ達を見かけた。

 

(……やっぱりあの3人との差があるな。 合わせているとは思うけど……ま、そこはスバル達の成長力に期待するしかないか)

 

疲労と服の汚れ具合を見て、スバル達に期待を寄せておく。 そして顔を上げて夜空を見上げる。

 

(やっと始まった……いや、これから始まるのか。 老師が言う……戦乱が)

 

 


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