魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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StrikerS編
142話


 

 

新暦75年4月22日、ミッドチルダ北部に位置する臨海第8空港近隣、廃棄都市ーー

 

そんな人気もないゴーストタウンのような場所にある廃ビルの1つ、そこの屋上に2人の少女がいた。

 

1人はハチマキを締め、足にはローラーブーツを履いていた。 右手には回転機構のある篭手のような物を装着している。 そんな重そうな篭手を物ともせずに、ハチマキ少女……スバル・ナカジマは精神統一から開眼すると、何度も突きや蹴りを繰り出し、念入りにシャドーを行っていた。

 

もう1人はオレンジ色の髪を短いツインテールにしている少女……ティアナ・ランスターは、黙々と中折れ式の拳銃型のストレージデバイス……アンカーガンの調整をしていた。

 

「スバル。 あんまり暴れていると、試験中にそのオンボロローラーが逝っちゃうわよ」

 

「うえ……!? ティア、嫌な事言わないでー! ちゃんと油も差してきた!」

 

スバルはちょっとだけむくれて、ティアナに目を向けた。 スバルはシャドーをするのを止め、ティアナに話しかけた。

 

「ところでさ、今日はもう2人、昇格試験を受けるって言ってたよね?」

 

「そうね。 確か、そんな事を言っていたわね」

 

スナップを効かせて、ティアナはアンカーガンを元に戻した。 あまり興味がないのか、返事が素っ気ない。 スバルは、逆に興味津々といった感じでティアナに絡みつく。

 

「ね、ね、どんな人なのかな?」

 

「あー、鬱陶しい! どんな人でもいいわよ! アタシ達のやる事に変わりはないんだから!」

 

ねーねー、と抱きついてくるスバルの顔を、ティアナはグイッと押し返す。

 

「でもー……試験中だけとは言え、一応チームメイトだよ? 気にならないの?」

 

「別に……足さえ引っ張らなきゃどんなヤツでもいいわよ。 しっかし遅いわね……後5分で試験開始よ。 よっぽど肝が据わっているのか、よほどのバカね。 それにアンタ、これから試験だってのに随分余裕があるじゃない?」

 

左手首に展開したディスプレイの時刻を見ながら、スバルに言っても同じだろうがティアナは呆れたように言う。

 

「だって、私とティアなら合格間違いないもん! 頼りにしてるよ~、ティア!」

 

えへへ、と笑ってまたスバルがティアナに抱きついた。

 

「こら、やめなさいって!」

 

じゃれついてくるスバルを引き離そうとした時、突然甲高い音が鳴り響いた。 2人は音の発生源を見ると……

 

『え?』

 

そこには純白の剣が突き刺さっていた。

 

「え、えーー!?」

 

「この剣は……!」

 

次の瞬間、その剣の隣に2人の男女が転移して来た。 どちらも額に汗をかき、息が上がっていた。

 

「はあはあ……」

 

「ギ、ギリギリセーフ……?」

 

剣を掴み、支えにして立ち上がったのは藍色の瞳をした少しクセのある茶髪の少年……ソーマ・アルセイフは時計と辺りを交互に見る。

 

「あ、あうあう……走馬灯が見えたよ……」

 

腰が抜けてペタンと座っているのは小柄で白いセミロングの髪とワインレッドの瞳をした気弱そうな少女……サーシャ・エクリプスは緊張が解け、真っ白になったかのように俯く。

 

「ソ、ソーマ!?」

 

「あ、ティア! それにスバルも……2人も陸戦Bランク昇格試験を受けに来てたんだ?」

 

「一緒に受ける2人ってソーマ達だったんだ! 異界対策課の2人がいるなら……これはもう受かったも同然だね!」

 

スバルがポジティブに思考を向けるが、ティアナは無言でソーマの元に向かい……一瞬で背後に回って首を絞めた。

 

「ぐえ!?」

 

「アンタあれ程時間には気を付けろって言っていたのに、定刻ギリギリってどう言うことよ!? それに試験前だってのに2人してすでに疲労してるじゃない! サーシャに至っては虫の息!」

 

「……こ……これには深いわけが……」

 

ソーマは腕をタップしながら弁明しようとするが、脈に決まっていて息すら出来ていない状態で話すことも出来なかった。

「ティア! 首入ってる! 入ってるから!」

 

「あうあう……!」

 

スバルはティアナを止めようとし、サーシャはどうしようか手をワタワタさせて混乱している。 2人に止められるようにティアナはソーマを解放する。

 

「ゴホッ、ゴホッ……し、死ぬかと思った……」

 

「それで、何でそうなっているのよ?」

 

謝る事もなく、ティアナは質問する。

 

「えとえと……今朝、ホロスに突発的にグリードが現れたんです。 本当なら私達が対処する必要がなかったのですが……ソーマ君がウォーミングアップに丁度いいって、レンヤさんに無理を言って……」

 

「しかもそのグリードが強くてねえ……手こずって、それで遅刻ギリギリで来たわけ」

 

「結局アンタのせいじゃない!!」

 

「痛い痛い痛いーー!」

 

「あ、あはは……2人共相変わらずだね……」

 

ティアナに頭をグリグリされて痛がるソーマを見て、さすがのスバルも苦笑する。 その時、試験開始の定刻になり、アラームが鳴ると同時に4人の前に空間ディスプレイが浮かび上がる。

 

スバルとティアナは素早く動くが、ソーマとサーシャはヨロヨロと動き、横一列に並んでピシッと直立不動になる。

 

『おはようございます! さて、魔導師試験の受験者さん……4名、そろってますか?』

 

『はい!』

 

『は、はい……!』

 

ディスプレイに映し出されたのはリインフォース・ツヴァイ空曹長。 今回試験監督を担当になっている。

 

『確認しますね? 時空管理局陸士386部隊に所属のスバル・ナカジマ二等陸士と……』

 

「はい!」

 

『ティアナ・ランスター二等陸士』

 

「はい!」

 

『同じく時空管理局異界対策課に所属のソーマ・アルセイフ一等陸士と……』

 

「はい!」

 

『サーシャ・エクリプス一等陸士ですね?』

 

「は、はい!」

 

『所有している魔導師ランクは陸戦Cランク。 本日受験するのは、陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で間違いないですね?』

 

『はい!』

 

「間違いありません!」

 

3人が元気よく返答し、ティアナが後付けで確認する。

 

『はい! 本日の試験官を勤めますのはわたくし、リインフォース・ツヴァイ空曹長です。 よろしくですよー!』

 

自己紹介するリインフォース・ツヴァイ空曹長に貫禄なく、まるで1日試験官のように可愛らしく敬礼する。

 

『よろしくお願いします!』

 

4人は特にツッコム事もなく、敬礼を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ試験が始まる頃かな? 私とはやては、ヘリに乗って試験会場である廃棄都市上空に来ていた。

 

「お? 早速始まってるなぁ」

 

ヘリのサイドハッチを開けて、ショートカットの女性……私の親友でもある八神 はやてが身を乗り出すように下を見ている。

 

「リインもちゃんと試験官してる」

 

リインの姿を見て嬉しそうに笑うはやて。 娘とも言えるリインの初の試験官だから凄く心配していたけど、上手く行っているようで安心したみたいだ。 でも……

 

「はやて、ドア全開だと危ないよ。 モニターでも見られるんだから」

 

「はぁい」

 

私が注意すると、はやては素直に返事をしてハッチを閉めた。 そして、私の隣に座る。 私はモニターに受験者の4人を映し出す。

 

「こっちの2人が、はやての見つけだした子達だね?」

 

「うん。 2人ともなかなか伸びしろがありそうな、ええ素材や」

 

「ソーマとサーシャは形としてこの試験を受けているけど……」

 

前者2人と後者2人の実力の差は一目瞭然……でも、スバルとティアナにはまだまだ伸び代がある。 鍛えてあげれば化けるかもしれない逸材だ。

 

「今日の試験の様子を見て、行けそうなら正式に引き抜き?」

 

そう、はやてに尋ねる。 私たちは、これから設立する新設部隊のフォワードになりそうな人をスカウトする為にここにいる。 どこかトボケているように見えて、はやての目は確かだ。はやてはD∵G事件以降、この2人に目をつけていたらしい。 もっとも、それを聞いたのはつい最近の事だけど。 この親友は、隠れて悪巧みをして私達を驚かすのが好きなようだ。

 

「うん……直接の判断は、なのはちゃんにお任せしてるけどな」

 

「そっか……」

 

「部隊に入ったら、なのはちゃんの直接の部下で……教え子になる訳やからな」

 

はやてはそう言って、スバルとティアナをアップにする。 うん、二人ともいい表情だ。 けど……ソーマとサーシャはすでに満身創痍ギリギリだ。

 

「……それでどうしてあの2人はもうボロボロなのかな?」

 

「うーん、レンヤ君に聞くところ。 ついさっきまでグリードと戦っていたそうや」

 

「あ、あはは……何と言うか……すごい子達だね」

 

さすがの私も少し愛想笑い。 2人らしいと言えばらしいが……やはり苦笑してしまう。

 

『ーーまあそう言ってやるな。 この試験はあの2人の総集でもある……ここは心を鬼にして見守らないとな』

 

通信が入り、ディスプレイにレンヤの顔が映る。 レンヤもこことは別の場所で試験の様子を見ている。

 

「レンヤ……でもこれって、見守る以前にすでに千尋の谷に落としているよね?」

 

「それはちゃうな、むしろ自分から谷に落ちたんや」

 

『獅子の子は千尋の谷に挑んだ……ありかな?』

 

「ないよ!」

 

そして、試験場から離れた場所にある施設……そこでなのはが試験全体のチェックをしていた。

 

《範囲内に生命反応、危険物の反応はありません………コースチェック、終了です》

 

「うん。 ありがとう、レイジングハート。 観察用のサーチャーと、障害用のオートスフィアも設置完了……私達は全体を見てようか?」

 

《イエス、マイマスター》

 

「ーー首尾は上々かしら?」

 

「あ、アリサちゃん」

 

なのはの背後から同じ白い教導官の制服を着たアリサが歩いてきた。

 

「アリサちゃん、試験前なのに2人をコキ使うのはどうかと思うよ?」

 

「その事は説明したでしょう? あの子達が望んだ事で、理由も聞いている。 自らを追い込んで試練を乗り越えようとする……いい事じゃない」

 

「それでも限度があるよ。 2人が相手をしたグリードってA級でしょう?」

 

「それに気付いて追いかけた時にはもう討伐された後、移動も自分達でするの一点張り……やれやれ、変な所で遠慮するというか、何というか」

 

アリサはやや呆れながらも、心の中で2人の応援をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験開始時刻になり、試験官のリインがテスト内容の説明を始める。

 

『4人はここからスタートして、各所に設置されたポイントターゲットを破壊。 ああ! もちろん破壊しちゃダメなダミーターゲットもありますからね? 妨害攻撃に気をつけて、全てのターゲットを破壊……! 制限時間内にゴールを目指してくださいです! 何か質問は?』

 

「あ……えーと……」

 

「はい」

 

『はい。 サーシャさん』

 

「制限時間の停止は最後の1人がゴールした場合に止まるんですよね?」

 

先ほどのオドオドした様子はなく、サーシャはしっかりとした気持ちで手を上げて質問した。

 

『その通り! たとえ制限時間内に3人がゴールしたとしても、最後の1人が制限時間をオーバーした場合……4人まとめて失格です! その辺りも考慮し、試験に望んでください! 他に質問は?』

 

「……いえ」

 

「ありません!」

 

ソーマとティアナが答え、

 

『では、スタートまであと少し……と言いたいですが、ソーマ陸士とサーシャ陸士の事情は聞いています。 なので10分の猶予を与えます。 体力の回復に使うもよし、ポジショニングを確認するためのミーティングをしてもよし。 すでに試験は開始されているという緊張感を持ってください! それではゴール地点で会いましょう、ですよ!』

 

可愛らしく人差し指を立てて、リインはモニターを閉じる。

 

「さて、ミーティングを始めるわよ。 2人もそれでいいわね?」

 

「うん、座りながらでも出来るし」

 

「は、はい、構いません」

 

4人はポジショニングを確認、それを元にティアナが作戦を立て……10分が経過し、カウントダウンが始まった。 それを確認すると4人は表情を引き締めた。 カウントがゆっくり減って行き……

 

「レディ……」

 

最後の1つになるとティアナがスタートの合図を言い……

 

『GO!』

 

カウントがゼロになり、4人は走り出した。 その様子を、隊長、副隊長陣が離れた場所で見ていた。

 

スタートの合図と同時に数十メートルを駆け抜け、廃ビルの端で止まった。

 

「先導するよ!」

 

「行きます!」

 

ソーマは向かい側の廃ビルに剣を投げ、壁に刺さるのと同時に転移し……屋上からターゲットを狙い。 サーシャは背に輪刀を浮かせ、飛翔して1階からビル内に突入した。 次にティアナは、アンカーガンからワイヤーを打ち出した。 ワイヤーがビルの外壁に当たり、魔法陣が現れるそのまま壁に固定される。

 

「スバル!」

 

「うん!」

 

スバルは頷くとティアナの腰に手を回した。 ティアナがワイヤーを巻き戻し、スバルを抱えて空中へ飛び出す。

 

「中のターゲットを潰してくる!」

 

「手早くね」

 

「オッケー!!」

 

2人の後を追うように二手に分かれる。

 

ビル内に突入したスバルは障害用のオートスフィアの攻撃をローラブーツによる機動力で避け、鍛えられたシューティングアーツによる技でスフィアを破壊して行く。

 

「ロードカートリッジ!」

 

音声信号でカートリッジがロードされ、回転機構が急速に駆動し……

 

「リボルバー……シューーット!!」

 

正拳の打ち出しと共に魔力弾が発射。 ジャイロ回転しながら離れた場所にあったスフィアを破壊し、喜ぶ事もなくリボルバーナックルを振り払うと次のターゲットに向かって走った。 階下のターゲットを破壊しようとしたら……

 

「はああっ!」

 

サーシャが輪刀をブーメランのように投げ、ターゲットを連鎖して破壊していた。

 

(1階のターゲットを破壊してしてもうここのターゲットを!?)

 

「スバルちゃん! 次のポイントに向かうよ!」

 

「う、うん!」

 

少し呆けるが、スバルはサーシャの後に着いて行く。

 

屋上ではティアナがアンカーガンを構え、ターゲットに狙っていた。

 

「落ち着いて、冷静に……」

 

自分に言い聞かせるように呟くと、眼下のビルにいるターゲットに狙いを定めた。 足下に魔法陣が発生し、アンカーガンに魔力弾が装填される。 それを確認して、ティアナは引鉄を引いた。 魔力弾がターゲットを次々と破壊していく。更に奥からターゲットが湧き出てきて、ティアナはそれに向かって魔力弾を放つ。

 

「あっ!」

 

紛れ込んでいたダミーターゲットに気付き、即座に銃口を隣に逸らし……ターゲットを撃ち抜いた。

 

(残りは……!)

 

「ーーティア、行くよ!」

 

残りのターゲットを破壊しようと銃口を上げた時……背後からソーマが現れ、ティアナの手を引いて走り出した。

 

「ソーマ!? アンタどこから……」

 

そこで問い詰める前に、狙おうとしてしたターゲットを見ると……ダミーターゲット以外全て破壊されていた。 その後転移でティアナの元に来たのだろうが……

 

(あの量のターゲットを……早過ぎる……!)

 

そこには先ほどティアナが破壊したターゲットの倍以上は転がっていた。

 

「飛ぶよ!」

 

「……ええ!」

 

ティアナはすぐさま思考を切り替え、ソーマの後に続いた。 ソーマは剣を地上に投げて突き刺すと……転移して地上に降り立ち、その後4人はすぐに合流した。

 

「いいタイム!」

 

「当然!」

 

「この調子で行こう!」

 

「うん!」

 

互いに称賛し合い、4人は次のポイントに向かって走った。 前方に現れたターゲットを確認すると……

 

「行っくぞおぉ!!」

 

「スバルうるさい!」

 

「ティア、落ち着いて」

 

「あ、あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。 なかなか良いね」

 

「そやなぁ。急造チームにしては息が合っとる」

 

『……だが、全体としては穴だらけだ』

 

レンヤの考えに同意する。 スバルとティアナは2人の実力に驚き、判断が遅れ。 逆にソーマとサーシャは飛び抜き過ぎて2人の反応を上回る行動をしてしまう。 結果、上手く行っているようで噛み合ってないチームが出来上がる。

 

「このまま最後まで行くかな?」

 

「それはどうやろなぁ……?」

 

私の質問にニヤリと笑うはやて。 あ、これは悪巧みをしている時の顔だ。

 

「最終関門の大型オートスフィア。 受験者の半分以上は脱落する難物や。 コレをうまく捌けるかな?」

 

モニターに2メートルはあろうかと言うオートスフィアを映し出すはやて。 確かに、これを落とすのは一苦労しそうだ。

 

「今のティアナとスバルのスキルだと、普通なら防御も回避も難しい中距離自動攻撃型の狙撃スフィア」

 

『それに加え、ソーマとサーシャのスキルに合わせて基礎スペックをかなり上げられている……2人が歩幅を合わせないと難しいだろうな』

 

「どうやって切り抜けるか、知恵と勇気の見せ所……」

 

『お手並み拝見だな』

 

はやての言うとおり、足りない部分をどうやって補うのか、これがこの試験のもっとも重要視されている部分。 それを見るために、私もはやてもここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外力系衝剄……九乃!」

 

ソーマは攻撃を避けながら指の間に針のように細い剄弾を形成。 腕を振り抜いて針を飛ばし、スフィア落としていく。

 

鉄の平和(フェッロ・パーチェ)!」

 

サーシャは輪刀を前に突き出し、円内に魔力障壁を張ってスフィアの攻撃を引き受けた。

 

「そのまま引きつけて!」

 

サーシャの背後で隙を伺い、アンカーガンを構えたティアナが魔力弾を撃ち、スフィアを落としていく。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

負けじと、スバルもリボルバーナックルでオートスフィアを粉砕する。 そのエリアの全てのターゲットが破壊され、攻撃が止んだ。

 

「……よし、全部クリア」

 

ティアナをカバーするように3人は辺りを警戒し……ティアナが周囲の安全を確認してアンカーガンを下ろす。

 

「この先は?」

 

「このまま上。 上がったら最初に集中砲火がくるわ。 サーシャ、先に上がって壁役を頼める?」

 

「は、はい! 防御、反射には自信がありまふ!」

 

ティアナとスバルはカートリッジを交換し、準備を整えながらティアナは作戦を伝える。 そしてサーシャはここで緊張してきたのか、最後の方を噛んだ。 相変わらず肝心な時にプレッシャーに弱い。

 

「次にオプティックハイドを……そういえばソーマ、アンタ似たような魔法を使えたわね?」

 

「ん? ああ、千人衝(せんにんしょう)だね。 それで撹乱すればいいんだね?」

 

「アンタのそれは実体もあるから、そのままやってもいいけど……後方を狙いなさい。 囮を出すから、前方はこっちで引き受けるわ」

 

「了解」

 

「よし、スバル。 クロスシフトでスフィアを瞬殺……やるわよ?」

 

「了解!」

 

作戦が決まり、ティアナが頭上の高速道路に開いた穴を見据える。

 

「カウント5よ。 じゃあ始めるわよ……」

 

ティアナは圧縮した魔力弾で穴から離れた場所を撃ち抜き、上に出ると破裂し……スフィアがそっちに向かい……

 

「はあっ!」

 

遅れてソーマが千人衝を使いながら穴から飛び出し、数十人のソーマが左側に向かって行き、ターゲットを次々破壊していく。 スフィアが反対側から出たソーマを注目するが、次に出てきたサーシャに目標をロック……サーシャにオートスフィアの集中砲火が襲いかかる。

 

「あうあうあう!?」

 

障壁を破られないように注意しながら、反射でスフィアを落としていき注意を集める。 サーシャを攻撃しているオートスフィアの背後……全体の右側からローラーブーツの音が近づいてきた。

 

「5、4!」

 

二本の土煙と火花をが走りながら一体のオートスフィアが突然凹み、大破した。

 

「3!」

 

宙から浮かび上がるように、スバルが姿を現す。 数体のスフィアがスバルの姿を捉える。

 

「2!」

 

リボルバーナックルが高速回転を始める。 その音に反応したスフィアが、サーシャからスバルへ照準を変え、攻撃を始めた。 スバルは射撃を避けながら飛び上がり……

 

「1!」

 

残り1秒でティアナも現れる。 すでに三発の魔力弾が形成されてティアナの周囲に浮かんでおり、発射体制が出来ていた。

 

「0!」

 

「あう!」

 

攻撃に巻き込れないようにサーシャは穴に飛び込み……

 

「クロスファイア……」

 

「リボルバー……」

 

『シュウゥーーーット!』

 

ティアナのクロスファイアーシュートとスバルのリボルバーシュートがオートスフィアを一瞬で殲滅した。

 

「あうあう……お、終わりましたか?」

 

ヒョッコリと、穴から顔をのぞかせるサーシャ。 辺りを見ると、非攻撃型のターゲットはソーマが一掃していた。

 

「イエイ! ナイスだよ、ティア! 一発で決まったね!」

 

成功したのが嬉しいのか、スバルはピョンピョンと跳ねながらはしゃぐ。

 

「まあ、サーシャとソーマが攻撃を引きつけてくれてたからね」

 

思った通りの作戦で上手くいったからか、ティアナも安堵の表情を見せる。

 

「あ、そっちも終わった?」

 

「うん。 まあ、ね……」

 

スバルはソーマの方を見ると……ソーマの背後には無数のターゲットの残骸があった。 残っていたとすればダミーターゲットくらいだ。

 

「流石です、ソーマ君!」

 

「…………………」

 

「あ、あはは……あ、そういえばティアって普段はマルチショットの命中率あんま高くないのに、ティアはやっぱ本番に強いなー!」

 

「うっさいわよ!さっさと片付けて次に……」

 

ティアナっがムッとした顔になって不機嫌そうにスバルを見た時、ティアナの目が見開く。

 

「あっ!」

 

その意味を瞬時に理解したサーシャはスバルに向き直る。

 

「?」

 

キョトンとした顔をしているスバルの背後に、撃ち漏らしていた一機のスフィアが狙いを定めていた。

 

「スバル防御!」

 

「させない!」

 

サーシャはすぐさま輪刀を構える、障壁を展開しながらスバルとスフィアの間に投げ。 ティアナがスバルの元に駆け出した。 スフィアが射撃。 射撃は輪刀で防いだがティアナがスバルを押して射線上から出した。

 

「うわぁ!?」

 

「退散です……!」

 

「クッ!」

 

ティアナは2人から離れ、反撃を試みる。 銃口をスフィアに向け、魔力弾を発射しようとした時……

 

「ああっ!?」

 

地面の窪みに足を取られ、転倒してしまった。

 

『ティア!』

 

「ティアナちゃん!」

 

「くっ……」

 

ティアナは地面を転がってオートスフィアの攻撃を避け、魔力弾を2発撃った。 1発目は外し、2発目が当たる瞬間……横から針が飛来して来てオートスフィアを破壊する。 その時、外してしまった流れた弾丸が監視用サーチャーを破壊してしまった。

 

(やっちゃった……)

 

ソーマだけがサーチャーの破壊に気付き、色んな意味でやってしまったという顔をする。

 

「ティア!」

 

「騒がない! なんでもないから……」

 

「嘘だ! グキッていったよ! 捻挫したんでしょ?」

 

「ごめんティア、僕がもっと早く終わらせれば……」

 

「だから何でもない……痛っ!」

 

心配するスバルをよそに立ち上がろうとしたが、左足首に激痛が走りうずくまる込むティアナ。

 

「見せてください!」

 

ティアナを近くの隆起したコンクリートに腰を下ろさせ、左足を出す。 サーシャはティアナの足を取ると、僅かに捻ってみた。

 

「……っ!」

 

「痛みますか?」

 

「……少しね。 でも大丈夫よ」

 

ティアナは強がってみせるが、その顔色をみれば歩く事さえ困難な事が分かる。

 

「とにかく、応急処置を……」

 

回復魔法と鎮痛魔法を使い、捻挫の応急処置を施した。

 

「これでよし。 でも気を付けてください、すぐに悪化するかもしれません」

 

「……アリガト……」

 

お礼を言うティアナだったが、その口調は沈んでいた。

 

「ティア、ごめん……油断してた」

 

「僕も不注意だった……僕の責任だ。 急造のチーム、連携が上手くいかないのは当然なのに……」

 

「……別に、アンタ達の所為じゃないでしょ。 それにアンタ達に謝られると、返ってムカつくわ」

 

消え入りそうな声で謝るスバルひ見て分かるくらいに落ち込んでいる。 ティアナが憮然とした表情で答える。誰が悪いと言う訳ではない。 あえて言うとしたら、自分の運が悪いとティアナはそう思った。

 

(確かにスバルは油断していたけど、安全確認を怠ったのはアタシだし、バックスとしてはやってはいけないミスだった。 ここでアタシがお荷物になっちゃダメだ。 アスカもいるし、スバルも目標がある。 なら……仕方ないか)

 

「ティアナちゃん?」

 

「……走るのは無理そうね……最終関門は抜けられない」

 

「ティア?」

 

ティアナの言葉に、スバルが不安そうな顔をする。 ソーマとサーシャも同様にそう思っている。

 

「アタシが離れた位置からサポートするわ。 そうしたら、アンタ達だけならゴールできる」

 

「ティア!!」

 

「うっさい! 次の受験の時はアタシ1人で受けるって言ってんのよ!」

 

ティアナはスバルを叱りつけるように叫んだ。

 

「次って、半年後だよ!?」

 

「迷惑な足手まといがいなくなれば、アタシはその方が気楽なのよ。 わかったらさっさと……クッ!」

 

立ち上がろうとしたけど足がまた痛み出して、ティアナはよろけてしまう。 近くの瓦礫に掴まって、何とか立っている状態だ。

 

「ほら、早く!」

 

ティアナはスバルに先に進むように促す。 サーシャが何かを言おうとした時、先にスバルが口を開いた。

 

「ティア………私、前に言ったよね。 弱くて、情けなくて、誰かに助けてもらいっぱなしな自分が嫌だったから、管理局の陸士部隊に入った」

 

「……………………」

 

「魔導師目指して、魔法とシューティングアーツを習って、人助けの仕事に就いた」

 

「知ってるわよ。 聞きたくもないのに、何度も聞かされたんだから」

 

完全に2人の世界に入っているが、ソーマとサーシャは黙って話を聞き。 ティアナはスバルに背を向けた。 聞く耳持たないというアピールのようだったが、スバルは構わずに話を続ける。

 

「ティアとはずっとコンビだったから……ティアがどんな夢を見てるか、魔導師ランクのアップと昇進にどれくらい一生懸命かよく知ってる」

 

気持ちが分かる表れか、スバルは震えている。

 

「だから! こんな所で! 私の目の前で! ティアの夢をちょっとでも躓かせるのなんて嫌だ!ティアを置いていくなんで絶対に嫌だ!」

 

「じゃあどうすんのよ!走れないバックスを抱えて、残りちょっとの時間でどうやってゴールすんのよ!」

 

ティアナは振り返ると同時に強く言った。そうすれば、怯むかと思ったから。 だが、スバルは意外にもしっかりした言葉で答えてきた。

 

「裏技……! 反則、取られちゃうかもしれないし……ちゃんとできるかも分からないけど……うまく行けば私もティアもゴールできる!」

 

「……本当?」

 

(あの……この試験、4人でゴールしないと意味がなかったんじゃ……)

 

(……そんな事を言える空気に見える?)

 

(…………あう)

 

半信半疑でティアナはスバルに聞き返した。 そして、すでにソーマとサーシャは空気になっている。

 

「あ……! あ、えと……その、ちょっと難しいかもなんだけど……ティアにもちょっと無理してもらう事になるし、よく考えるとやっぱり無茶っぽくはあるし……そのなんて言うか……えと、ティアがもしよろしければっていうか、その……」

 

さっきまでの自信がどこに行ったのか、スバルは口籠ってしまい。 それを見ているティアナの機嫌は一気に悪くなる。

 

「あー! イライラする!」

 

そして思わずキレたアティアナは、足の痛みを忘れてスバルの胸ぐらを掴んで引き寄せた。

 

「グジグジ言っても、どうせアンタは自分のワガママを通すんでしょ! どうせアタシはアンタのワガママに付き合わされるんでしょ! だったったらハッキリ言いなさいよ!」

 

ちょっと驚いた表情のスバルだったが、すぐに真剣な目になる。

 

「2人でやればきっとできる。信じて、ティア」

 

その言葉に、不思議と安心するティアナ。スバルから手を離して時間を確認する。

 

「……残り時間……4分ちょっと。プランは?」

 

「うん!」

 

嬉しそうに頷くと、スバルは作戦を話した。 が、そのプランを聞いて、ティアナを含め、ソーマとサーシャもギョッとする。

 

「ちょ……それ、本当に反則ギリギリじゃない! 試験官の受け取り方次第じゃ減点よ?」

 

「でも、やるしかない!でしょ?」

 

イタズラっぽくスバルが笑う。

 

(ああ、この子ったら変な所で大胆なんだから……)

 

だがティアナは思わず苦笑してしまった。 そこで、ついにサーシャがおずおずと手を上げた。

 

「あ、あのあの……お話の所申し訳ありませんが……この試験、4人がゴールしないと意味が……」

 

『あ……』

 

そこでようやく気付いたのか、間抜けな声を出した2人。 次いでティアナは先ほどな発言が恥ずかしくなったのか、顔をみるみる赤くし。 スバルは頭をかきながらアハハ、と苦笑いをする。

 

「コホン……えっと、ティア?」

 

「っ!! とにかく! 時間がないわ。 手短に説明するわよ」

 

自身の羞恥心を頭を振ることで消し、ティアナは頭の中で組み上がった作戦を伝えた。

 

「作戦は以上、行くわよ!」

 

『おおっ!』

 

スバルとサーシャはすぐさま目標地点に向かい、ソーマはティアナを抱えてゴールに続く道の上まで連れて行く。

 

「ここでいいわ」

 

「了解」

 

瓦礫の陰にティアナを降ろし。 ティアナは早速足元にオレンジの魔法陣を展開してフェイクシルエットを発動……ティアナの幻影がゴールを目指して走る。

 

すると、左側にあったビルから無数の魔力弾が発射。 ホーミング付きで幻影のティアナを襲った。

 

『確認したよ。 ソーマ君、お願い』

 

「了解!」

 

続いてソーマが飛び出し、大型オートスフィアの的になる。 すると、次に飛んできたのはいくつもの小型のオートスフィアだった。

 

「あれは……」

 

考える暇もなく、小型のオートスフィアから機関銃並みの速度で魔力弾が発射される。

 

「っ! 内力系活剄……旋剄!」

 

ソーマは足に剄を流し、脚力を大幅に強化して高速移動。 スフィアに斬りかかるが……異常なほどの硬度を持つバリアが剣の進行を止めた。

 

「甘い!」

 

外力系衝剄・轟剣

 

剄を練り上げ刀身を覆うように収束させ、いとも簡単にバリアごとスフィアを真っ二つに斬り裂いた。

 

そして、スバルは足元に青いベルカの魔法陣を展開し……

 

「よし! ウイング……ローーーッド!!」

 

地面を殴り、目標オートスフィアがいるビルまで道を作った。 そして小脇にサーシャを抱える。

 

「あの……先に行っちゃダメですか?」

 

「ダメ!」

 

本当にダメな理由は絶対にないと思うが、サーシャは諦めて項垂れる。

 

「させない!」

 

「そこ!」

 

ウイングロードがビルに直撃した衝撃でスフィアが反応するが……ティアナがスフィアの周りにフェイクシルエットによる幻影がスフィアの注意を逸らす。

 

『行って!』

 

スバルはリボルバーナックルのカートリッジをロードし……

 

「行っくぞおお!!」

 

ローラブーツが火花を散らし、一瞬で最高速度に達し……ウィングロードを走り抜ける。

 

「きゃあああああ!?」

 

サーシャは悲鳴を上げながらも輪刀を正面に構え、魔力弾を発射してビルの壁にヒビを入れ……

 

「でやああああ!!」

 

スバルがブチ抜いた。 すぐにサーシャを離すと、そのままオートスフィアに向かって殴りかかった。

 

「おおおおおっ!!」

 

拳はスフィアのバリアによって防がれるが……何度もカートリッジをロードし、破壊しようとする。

 

「スバルちゃん、無茶だよ!」

 

スバルだけでは突破は無理だと判断し。サーシャは輪刀を振り回してその場で何度も回転して……

 

巨人の投擲(ティターノ・ランチャーレ)!」

 

輪刀を投擲した。 高速で回転している輪刀はバリアに直撃すると削りながらどんどん進んで行く。 するとサーシャの方が威力が高く、バリアの密度を輪刀方面に上げたため……スバルの方のバリアは薄くなった。

 

「うっ……りゃあああああ!」

 

あろうことかスバルは拳を出しているにも関わらず指を立て始める。 するとリボルバーナックルがバリアを貫通し始め……その状態で拳を握り、腕を引いてバリアを無理矢理引き剥がした。

 

「やった!」

 

「スバルちゃん! 避けて!」

 

バリアを破っただけではスフィアは破壊できない。 スフィアからの射撃でスバルは吹き飛ばされるが……腕を交差させて防ぎ。 後ろに飛び退いて後退する。間髪入れず、横から剣が飛来し、スフィアの頭上を通ると……

 

「はああっ!」

 

ソーマが転移して、剣を掴んで振り下ろす。 頭のセンサーを破壊した。

 

「一撃必倒!」

 

スバルは魔力弾を展開、リボルバーを回転させ魔力を急速に上げる。 その構えはまるで、魔力弾が砲弾。 スバルが撃鉄のような構図だ。

 

「スバルちゃん! これ、使って!」

 

サーシャが輪刀を投げると、魔力弾の前に輪刀が置かれ。 それが砲身のような役割をする。

 

「ありがとう! 行っくぞおお! ディバイーーン………バスターーーー!!」

 

拳を振り抜き放たれた砲撃は、輪刀を通り抜けて威力が増幅され。 スフィアに直撃すると、スフィアは耐える事なく吹き飛ばされ……射線上にあった壁をブチ抜き。 屋上に及んでビルを大破させた。

 

「ええっ!? 何、この威力……!?」

 

「えへへ、輪刀を陣として規定。 相手の攻撃を遮断して逆に陣を通り抜けた人や魔法の魔力を大幅に増幅できるんだぁ」

 

「説明はいいから、早く行くよ!」

 

「あ、うん!」

 

「あ、あわわ……」

 

『残り……後1分ちょい……急いで!』

 

サーシャは慌てて説明を止め、ソーマ達はティアナの元に向かった。 4人は最後の手段を実行し、ゴールに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の直線の先にあるゴール地点で、リインは4人を待っていた。

 

「あっ! 来たですねぇ!」

 

遠くから土煙が2つが近付いて来た。 1つはティアナを背負ったスバル。 もう1つは天剣をボードにして乗ってスバルと併走しているソーマとサーシャだ。

 

「見えた!」

 

「ゴールまで後ちょっと!」

 

「後何秒!?」

 

「20秒……まだ間に合う!」

 

ティアナはスバルの問い掛けに答えた後すぐ、アンカーガンを構えて残りのターゲットを撃ち抜いた。

 

「はいっ! ターゲット、オールクリア……です?」

 

その時、日に影が掛かり。 上を向くと……ボロボロの大型オートスフィアが行く手を塞いで来た。 4人を撃退しようと砲門を覗かせ、魔力をチャージしている。

 

「ちょっ!? 倒したんじゃなかったの!?」

 

「い、いや〜、そこまで確認している余裕なかったから……」

 

確かに吹っ飛ばしただけで、完全に機能停止に追い込んだ訳ではないが……

 

「スバル、突っ込んで! 道は僕達で切り開く!」

 

「了解!」

 

「え? ちょっ、スバル!?」

 

ソーマの言葉を迷う事なく了承し、速度を上げるスバル。 ティアナは全く了承していないが……

 

「サーシャ、お願いできる?」

 

「うん……今度は……全力で!」

 

輪刀をスフィアに向かって飛ばし、円内に魔力が張られる。

 

「我! 天の力を借りて……陣を示す! 輝きの時代(エター・ブリーオ)

 

詠唱後、輪刀の魔力は高まり。 スフィアから発射された砲撃を弾いた。 サーシャとソーマは飛び上がり、ソーマは通常の大きさになった剣を掴む。

 

「天剣よ……!」

 

ソーマは陣の中に飛び込み……心身共に力が漲るのを感じ、刀身に走る剄の量が増幅する。

 

「はあああああ!!」

 

一閃。 抵抗も無く振られた剣はスフィアを横に真っ二つにし……完全に破壊した。 すぐに剣をボードに変化させ、輪刀を掴んだサーシャと共に飛び乗りゴールを目指す。

 

「よし、最後の難関突破!」

 

「後はゴールするだけよ! スバル!」

 

「了解! 魔力、全開ィィィ!!」

 

スバルは残り魔力を全てローラブーツに注ぎ込み、一気に加速した。

 

「ス、スバルちゃん、速い!」

 

「くっ!」

 

遅れないようにソーマも加速するが……

 

(あれ、どうやって止まろう……)

 

そう思った時、振り解かれないようにしがみ付いていたティアナが叫んだ。

 

「ちょっ、スバル! 止まる時の事考えてるんでしょうね!?」

 

「えぇ!?」

 

驚愕するスバル。 完全に忘れていたようだ……

 

「うわぁ……」

 

「嘘っ!?」

 

「ソ、ソーマ君……?」

 

「……………………」

 

「何か言ってえぇ……」

 

こちらも同じ状態ではないよね、と言う意味でソーマの名前を呼んだが……どうやら同じのようだ。

 

「あ、何かちょいヤバです」

 

4人のスピードを見て、リインはそう呟く。

 

『わあああぁぁぁ!!!』

 

絶叫を上げながら制限時間ギリギリでゴールラインを通過する4人。 もう目の前はバリケードで行き止まり……そして絶叫を上げながら突っ込んで行き……

 

「アクティブガード。 ホールディングネットも必要かな」

 

《アクティブガード、ホールディングネット》

 

次の瞬間、4人は桜色の閃光に飲まれた。

 

「……あれ、生きてる?」

 

ギッュっと瞑っていた目を開き、ソーマら辺りを見渡す。 だが、その景色は逆さまだ。 ソーマはアクティブガードに逆さまに引っかかっている。

 

「あう〜……」

 

サーシャはホールディングネットに顔面から突っ込んで気を失っていた。 スバルは片方のローラブーツが脱げて変な体勢に、ティアナはアクティブに掴まっていた。

 

「もう〜〜! 4人とも、危険行為で減点です!」

 

その時、ゴールから飛んで来たリインが頰を膨らませ、怒りながら4人を叱った。

 

「ちっさ……」

 

「アギトさんサイズだ……」

 

リインの全体を始めて見たティアナとソーマは、上官だという事も忘れて思った事を言った。

 

「頑張るのはいい事ですが、怪我をしては元の子もないのですよ! こんな事じゃ魔導師としてはダメダメです! 全くもう……!」

 

リインはプンプンと怒って説教をしてくるが、その容姿のせいでまるで叱られている感じはしなかった。

 

「あはは、まあまあ」

 

更にリインがお説教をしようとした時、それを止める声がした。 すると空から白いバリアジャケットを纏ったなのはが降りて来た。 隣には赤いバリアジャケットを纏っているアリサもいた。

 

「ちょっとビックリしたけど、無事でよかった」

 

「とりあえず試験は終了よ」

 

アリサはちらりと上を向く。 視線の先にいたのは上空を飛んでいるヘリのハッチから手を伸ばして魔法を発動前で待機しているフェイトと夜天の書を片手に持っているはやてがいた。 アリサはそれに向かって軽く手を振り、2人はホッとした。 なのは魔法を発動させ、4人の身体をフワリと浮かび上がらせ、優しく地面に下される。

 

スバルとソーマはそのまま立ち上がったが……気絶しているサーシャは横に、捻挫しているティアナは地べたに座り込んだ。

 

「リインもお疲れ様。 ちゃんと試験管できてたよ」

 

「わあい! ありがとうございます! なのはさん!」

 

さっきまで怒っていたリインは、なのはに褒められると一瞬で笑顔になる。

 

「全く、調子に乗りやすいんだから……」

 

「まあまあ」

 

アリサは不満があるのか呆れるが、なのははそれを制すとバリアジャケットを解除して4人に向き直った。

 

「まあ、細かい事は後回しにして……ランスター二等陸士」

 

「あ、はい!」

 

「怪我は足だね。 治療するからブーツ脱いで」

 

「あ! 治療なら私がやるですよー」

 

「あ……えと……すみません」

 

ティアナは少し困惑しながら治療をお願いした。

 

「それよりも……ソーマ、サーシャ! 正座!」

 

「は、はい!」

 

「熱っ……ついいーー!?」

 

アリサは気絶しているサーシャを軽く炙って起こし、ソーマと並べて正座させた。

 

「アンタ達があの体たらくとはどう言う事よ! 意気揚々にグリードを先に倒しておきたいって言ったのはどこの誰かしら……!?」

 

「す、すみません……」

 

「あのあの……それは私じゃなくてソーマ君が……」

 

「口答えしない!」

 

「はいぃーーー!?」

 

今のアリサは、まさしく(イレギュラー)であった……

 

「な、なのはさん! お久しぶりです!」

 

スバルはなのはの前に来ると、ビシッと姿勢を正して挨拶した。

 

「うん、久しぶり。 教団事件以来かな、あれからまた腕が上がったみたいだね?」

 

「はい! でも……今回は、その……ご期待に添えなくて……」

 

「気にしないで、スバルは今出せる全力で試験に挑んだ……それでいいの」

 

「……はい!」

 

納得はしないものの、スバルは元気よく返事をした。 その時、アリサがなのはに近寄った。

 

「さて、そろそろ行くわよ」

 

アリサの背後には意気消沈気味の2人がいた。

 

「あ、あはは……こってり絞られたみたいだね。 試験の採点をするから、4人は事前に指定のあった場所で待機」

 

『はい!』

 

『は、はい……!」

 

なのはの言葉に、ソーマ達4人は敬礼をして答えた。

 

 

 


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