魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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140話

 

 

あれから瞬く間に俺達の日常は月日が経ち、慌ただしい業務もようやく落ち着いて来た。 そして、学院生活も順調、機動六課の設立も順調に進んで行っている時のとある日、俺達の元にある情報がもたらされた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦75年、2月上旬。 第3管理世界・ヴァイゼン。 首都西郊、森林地帯ーー

 

生い茂った手付かず草木が周りにある中、この管理世界にいる管理局員の先導の元、道無き道を通り……

 

「ーー到着しました」

 

「…………!」

 

目的地に到着した。 進行方向の先にあったのは洞窟だが、門が構えてあり。 人の手が加えられている事がわかる。 あそこはD∵G教団、旧ヴァイゼン・ロッジ……

 

「……こんな辺鄙な場所にあったのか」

 

「ここが、ヴァイゼン・ロッジ……」

 

「6年前に教団が放棄した場所だね……」

 

「なんて悪趣味な門構だ……」

 

ロッジまで歩きながら、それぞれが第一印象を呟く。 目の前まで来ると、案内人の管理局員が振り返った。

 

「自分の案内はここまでです。 16:00まで連絡がなく、定刻を超えた場合……こちらの部隊が制圧に参ります」

 

「了解した」

 

「案内ご苦労。 後は任せてくれ」

 

「はい。 皆さんの事ですから心配は無用だと存じますが……どうかお気をつけ下さい」

 

管理局員は敬礼をすると、来た道を引き返して行った。

 

「ーーどうします? このまま踏み込みますか?」

 

「ああ、もはや猶予もない……ティーダ。 奴らの罠や仕掛けなどはどう思う?」

 

「恐らくあるだろう。 だが奴らも6年前のここを全て把握している訳ではない……奴らが罠で時間を取られている可能性も考慮してもいいだろう」

 

「ですが、徘徊しているグリードの方はーー」

 

気配を感じ、すぐさまレゾナンスアークを起動。 バリアジャケットを纏い、刀を抜く。 次の瞬間……ロッジ内からグリードが出て来た。 グリードを確認した3人も同様にデバイスを機動して武器を構える。

 

「これは……!?」

 

「グ、グリード……!」

 

「ロッジの地下にいた個体だよ……!」

 

「ーー来る!」

 

二体の単眼で球体状の歪んだ身体を持つグリード……ビジョウが襲いかかってきた。

 

「はあああっ!」

 

だがあの事件と同種のグリード。 半年以上経過して、俺達は訓練を積んでさらに力を付けた。 二体程度では相手にならず……刀を振り下ろし、最後の一体を倒したのを確認する。

 

「くっ……まさか今のグリードは!?」

 

「レンヤ、もしかして……」

 

「ああ、太陽の砦の地下で徘徊していたのと同じ種類だ。 どうやら“あの人達”がここに逃げ込んだのは確実みたいだ」

 

「ふう……往生際の悪いことだ」

 

だが、エリンがその往生際をしている何かがここにあるのかもしれない。 そうなるとやはり……

 

「ーー時間がない。 とにかく入るぞ。 今なら間に合うはずだ」

 

「はい……!」

 

「分かりました!」

 

目的を確認し、俺達はロッジに入って行った。

 

俺達がこの地に訪れたのは第4管理世界・カルナログからの連絡がきっかけだった。 D∵G事件の定か、カルナログへ亡命していたアザール元議長及び元統幕議長秘書エリンがカルナログ政府からの追放処分をうけたのである。 そして何故か、2人は新たな潜伏先としてヴァイゼンを選び……急遽、新市長によってヴァイゼン政府との協議が極秘裏に行われ、2人の逮捕が執行される事となった。 しかし、極めて複雑な問題を持つため、逮捕は正規の指揮系統から外れている異界対策課に任される形となり……さらに管理局の陸、海、空が協力する異例の形で捜査体制が整えられたのだった。 そしてヴァイゼンでの捜査から数日ーー俺達はアザール、エリン両名が教団の旧ロッジ跡に向かった事を突き止めた。

 

「ここは……」

 

洞窟の中に入ると、中はどうやら鍾乳洞のようで。 それに加えて辺りには宗教的な装飾が多々あった。

 

「鍾乳洞だね……でも、人の手が入っているよ」

 

「元々は数百年前に使われていた石窟寺院跡だったようだ。 それをD∵G教団が改修し、儀式を行うロッジとして利用した。 6年前まではな」

 

「教団が謎の組織に襲撃された時ですね。 今となっては奴らの儀式の痕跡もほとんど無くなっているでしょう」

 

「何だか今でも信じられないよ……そんな事があったなんて」

 

「……どこまでも最悪な連中だったようだな」

 

そう、どこまでも妄想に取り憑かれた哀れな連中……だがそれでも、奴らの所業が許される事はない。

 

「ーーティーダさん。 2人が向かっているとしたら、恐らくロッジの最奥にある祭壇なのでは?」

 

「ああ、その可能性が高いだろう。 太陽の砦にあったような不思議な祭壇が……アザールはともかく、エリンがそこを目指していても不思議ではないだろう」

 

「……ええ」

 

「ひょっとして、ネクターも関係しているのでしょうか?」

 

「その可能性も否定できん。 どうやらエリンはホアキンからネクターをかなり受け取っていたようだ。 それも翠色のではなく、紅色のを」

 

紅色のネクター……エリンやホアキン、マフィア達を魔人に変えた薬か。

 

「……場合によっては同行しているアザールの身が危険かもしれない。 取り返しがつかなくなる前に何としても2人を拘束しよう」

 

「うん!」

 

作戦決行するため、準備を整え……

 

「よしーーそれでは始めましょう」

 

捜査開始の合図を言うべく、3人の前に立った。

 

「地上本部捜査部所属、ゼスト・グライカンツ三等陸佐」

 

「うむ」

 

「本局執務官所属、フェイト・テスタロッサ執務官」

 

「はいっ!」

 

「空域本部航空武装隊所属、ティーダ・ランスター三等空尉」

 

「ああ」

 

3人の所属と名と階級を言い、捜索参加を確認する。

 

「これより次元管理局、異界対策課による強制捜索、及び逮捕任務を執行します。 逮捕対象は、アザール元議長、及びエリン元統幕議長秘書の2名。 期限は本日16:00ーー各自全力を尽くしてください!」

 

「分かった……!」

 

「はいっ!」

 

「了解した!」

 

そして、俺達は両名の逮捕するため先に進んだ。 先に進みながらメイフォンで時刻を見て、まだ来ないかと嘆息するが……気にし過ぎてはいられず進み。 途中、岩の扉を開けてそのまま通路を抜けると……

 

「こ、これって……」

 

そこにあったのは、何らかの実験装置だった。 手入れもされてなく放置されていた為、所々錆びて壊れてしまっているが……

 

「もしかしてこれが……」

 

「奴らの実験の名残りか。 ネクターを投与された子ども達が非道な方法で何人も犠牲になった、な」

 

「くっ……外道どもが」

 

「D∵G教団……やっぱり、許せない……!」

 

「……………………」

 

フェイトが固く拳を握り締め、俺は装置を見つめる。 もしかしたら、ここでクレフが……だが、今はそこまで気にしていられず。 雑念を頭から振り払う。

 

「……エリン達が何をしようとしているのか分かりませんが……2度と、この場所を利用される訳にはいきませんね」

 

「ああ、勿論だ」

 

「必ず阻止しよう……!」

 

「よし、先を急ぐぞ!」

 

改めてD∵G教団の所業を確認しつつ、歩みを進め。 途中、それなりに手強い恐竜型のグリードの群れと遭遇したが……俺やフェイトはもちろんの事、ベルカの騎士であるゼストさんと武装隊のエースであるティーダさんも全く引けを取らず、グリードをあっという間に制圧した。

 

「ふう、こんなものか」

 

「俺達も、まだまだ捨てたもんじゃ無いですね」

 

大型の恐竜型のグリードを相手にしたにも関わらず、2人は息を荒げる事もなく全然余裕そうに見える。 グリードとの戦い方はともかく、戦闘においては2人の方が上を行っているな。

 

(……2人共流石だね)

 

(ああ、俺達と全く引けを取ってない)

 

「ん? どうかしたか?」

 

「いまの戦闘で怪我でもしたか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「問題ありません」

 

「そうか……お前達の事だから心配は要らないと思うが無理はするなよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

気を取り直して、先を見据える。 そろそろ追いついてもおかしくはない頃だが……

 

「さて、そろそろ中間地点だろう。 とっとと追いつくぞ」

 

「了解です」

 

グリードを退けながら先に進み、開けた場所に出ると……そこにはエリンに押され、怯えながら歩かされているアザールがいた。

 

「エ、エリン君……いい加減に解放してくれ……! も、もう私は付き合いきれん!」

 

「やれやれ、困りますねぇ議長。 貴方にはミッドチルダの政界にちゃんと返り咲いて頂かないと……この私が次期市長となるためにもね」

 

今もまだ幻想を抱いているエリンにアザールが引き摺り回されているような感じだな。

 

「い、いい加減にするがいい! ミッドチルダの政界に返り咲く!? 今更そんな事が可能だと思っているのか!? ましてや貴様ごときがあのアトラス・オルムから市長の座を奪えるはずがなかろう!?」

 

「クク、簡単なことですよ。 人の身では叶わなくとも、真なる“神”に近付けば容易い……あらゆる因果を見通す真理があればどんな現実も思いのままになる……そう、かの偉大なるホアキン・ムルシエラゴ師のようにね!」

 

「く、狂っている……」

 

「させるか……!」

 

俺達は急いでエリンの元に向かった。

 

「お、お前達は!?」

 

「フフ、追いついてきたか。 お久しぶりと言っておこうか。 レンヤ君、フェイトさん、それにゼストさん。 ヴァイゼン首都での捜査はご苦労だったわね」

 

「エリン、あんた……」

 

「我々が追っているのに気付いていたというのか?」

 

「フフ、全ては偉大なるネクターの力によるもの。 君達が我々の行方を追ってヴァイゼンを訪れたこと……そして我々の動向を突き止めて政府の許可を得てからここまで追って来たこと……全てお見通しなのよ!」

 

「くっ……」

 

「どうしてそこまで……」

 

「どうやら意味の分からない知覚で俺達の動向を察知していたようだな」

 

「つ、つまりお前達は管理局の人間というわけか」

 

明らかにその発言は俺達、管理局の事に興味がなかったような発言だが、アザールは嫌そうな顔を横に振る。

 

「……ええい、背に腹はかえられん! 頼む、素直に投降するからこの狂人を取り押さえてくれ!」

 

「おやおや、狂人とは失礼ですね」

 

「言われるまでも無い……」

 

一歩前に出て、懐から徽章を取り出してエリンに見せるように前に突き出す。

 

「ーーアザール元議長、及びエリン・プルリエル! 次元法改正項目に基づき、拘置所脱走、及び多数の余罪であなた達の身柄を拘束する。 大人しく投降してもらうぞ!」

 

「フフ、そう焦るものじゃ無い。 今日、私はホアキン師の跡を継いでDへの扉を開く事になる……余興はそれからでも遅くなかろう!?」

 

「なに……?」

 

ティーダさんが怪訝に思う中、エリンは剣を構えると……足元に魔乖咒の魔法陣が展開され。 左右に一体ずつ、翼を有した人形型のエルダーグリード……

 

「ひ、ひいいっ!?」

 

「こ、これって……!」

 

「グリードの一種か!?」

 

「ホアキンが従えていたエルダーグリードの強化種か……!」

 

「フフ、あれよりも遥かに強力な個体だけどね」

 

剣を納め、エリンは腰を折って礼をした。

 

「ーーそれでは皆さん。 我々は先に行かせてもらもらいますよ。 ホアキン師が遺した守護者の力、とくと味わうといいわ!」

 

エリンは踵を返し、嫌がって叫び喚くアザールを引き摺って奥へと向かった。

 

「ああっ!?」

 

「クッ、逃すか……!」

 

追おうとするが、二体の……レグナ・ヴリエルが魔力を溜め、行く手を塞ぐ。

 

「どうやら尋常な相手では無さそうだな……全力で撃破するぞ!」

 

「はいっ!」

 

時間をかける訳にはいかないが、勝負を急ぐと隙ができ……取り返しのつかない事になりかねない。 虚空で辺りの空間全体に意識を向け、レグナ・ヴリエルの攻撃を避け……無手で懐に入る。

 

落柊(らくひいらぎ)!」

 

顔面の左を裏拳で殴り。 瞬転、下半身を右から回し蹴りし体勢を崩し……胸ぐらを掴んで背負い投げを繰り出し、レグナ・ヴリエルを地面にめり込ませ。

 

「バルディッシュ!」

 

《ザンバーフォーム》

 

フェイトはバルディッシュを大剣に変形させ、もう一体のレグナ・ヴリエルに斬りかかった。 レグナ・ヴリエルは避け、弾きながら後退して行き……その先にティーダさんが控えていた。

 

「おらあっ!」

 

ティーダさんが中型の銃剣を構えると……フェイトはその場から離れ。 銃剣を片手で振り回し、斬り裂きながら魔力弾を撃ち込んでいく。 と、そこでもう片方のレグナ・ヴリエルが埋もれたまま、上から大玉くらいの氷球を落として来た。

 

「やば……」

 

《モーメントステップ》

 

「くっ……!」

 

《ソニックムーブ》

 

高速でその場から離れると、着弾地点から巨大な氷柱が飛び出していた。

 

「むんっ!」

 

埋もれているレグナ・ヴリエルに、ゼストさんが胸に槍を突き立て……レグナ・ヴリエルは消滅していった。 ティーダさんが攻撃を続けているレグナ・ヴリエルは瞬間的に回復し、銃剣を弾いた。

 

「なっ……!」

 

弾かれたのに驚愕するティーダさん。 だがすぐに顔を引き締め、レグナ・ヴリエルの反撃を後退して避ける。

 

「プラズマバレット!」

 

間髪入れず、フェイトが雷の魔力弾を全方位から放ち……

 

棘楡(とげにれ)!」

 

針のように放たれた蹴りが胴体に突き刺さり、倒れながら地面に埋まり……レグナ・ヴリエルは消滅した。

 

「くっ……時間を取られたか!」

 

「よし、追いかけるぞ!」

 

ゼストさんとティーダさんは急いでエリンが向かった通路に向かって走った。

 

「あ!? ちょっと待ってください!」

 

「レンヤ、早く抜いて……!」

 

先ほど放った蹴りのせいで足が地面に嵌まり、フェイトに引っ張ってもらって抜こうとする。

 

「何をやっている! 急いでーー」

 

「! ゼスト、上だ!」

 

ゼストさんが遅いと注意した時……頭上から何が落ちてくるのを感じ。 ティーダさんの警告で、ゼストさんは上を見る事もなく後退すると……上から突然大粒の土砂が降って来た。 ゼストさんは逃れる事が出来たが……通路は完全に塞がれてしまった。

 

「み、道が……!?」

 

『こちらレンヤ! ゼストさん、応答お願いします!』

 

『……こちらゼスト。 問題ない、ティーダ共に無事だ』

 

地面から足を引っこ抜き、すぐさま念話で安否を確認し……無事だと分かるとホッとする。 が、どうやら先ほどの戦闘の衝撃で脆くなった地盤が崩落したようだ。

 

『土砂は退かせそうか?』

 

『出来なくはありませんけど……そうした場合、二次災害の危険があります』

 

『……そうか。 こうなっては仕方ない。 お前達は何とか迂回路を探せ。 私達は先行している』

 

『了解しました。 どうかご無事で……!』

 

念話を切り、辺りを見渡し……別の通路を見つける。 あそこからならもしかしたら最奥に続いているはずだ……

 

「よし、あそこから行ける。 早く2人と合流しよう」

 

「うん!」

 

分断されてしまったが目的は変わらず、俺とフェイトは先に進む。 その途中、歩いている最中に足元から気配がし……フェイトもそれに気付き飛び退くと。 その場所から植物型のグリードが触手を伸ばして飛び出て来た。

 

「はっ!」

 

「やあっ!」

 

一瞬でグリードの前に接近し、同時に刀と鎌を振り下ろし……刃が交差するようにグリードを斬り裂いた。

 

「こんなものか……」

 

「ゼストとティーダは大丈夫かな……?」

 

「あの2人なら問題ない。 俺達より年長者だし、実力も分かっている。 余程の事がない限りは大丈夫だろう」

 

ゼストさんの槍の腕は達人並みだし、ティーダさんの銃剣も以前より磨きがかかっていた。 そんな2人がやられるなんて……考えるだけで杞憂かもしれない。

 

「それにしてもさすがフェイトだな。 あの一瞬で俺と合わせてくれるなんて」

 

「そ、そうかな? レンヤだから次に何をするか分かっただけで……」

 

「アリシアと同じくらいこっちも合わせやすかった。 やっぱり姉妹だからかな?」

 

「あはは、さすがにそこまでは……」

 

フェイトは手振りで否定するが、強ち間違いではないかもしれない。 こうして並んで戦うと、フェイトとアリシアはやっぱり姉妹だと実感できる。

 

「姉さんか……今頃、六課の稼働準備中なんだろうね?」

 

「ああ、そのはずだ。 アリシアが居てくれたらーーいや、アリサにすずかもそうか。 それになのはとはやて……あの5人がここに居てくれたら恐いものなしなんだけどな」

 

「ふふっ、確かに。 考えてみると異界対策課って本当にバランスが良いよね? 役割がきちんと分かっているから、どんな状況でも対応できそうだよ」

 

「実際、ずいぶん助けられたな。 戦闘以外でも、色んな方面で得意分野が違っていたし……」

 

互いが互いを支え合い、力を重ねて今までやって来た。 誰1人として欠ける事の出来ない大切な仲間達……

 

(皆……今頃頑張っているかな?)

 

そう心の中で思いながら先に進むと、進行方向に岩の扉があった。

 

「これは……」

 

「また扉か……」

 

少し嘆息しながらも扉の前に行き、軽く押してみるが岩の扉は固く閉ざされている。 崩落の危険もある為力強くで開ける訳にもいかない。

 

「駄目か……おそらく、入口近くの扉と同じように解除する装置があるはずだ」

 

「うん、探してみよう」

 

軽くサーチャーで辺りを捜索すると、それらしき装置を見つけた。 すぐに向かおうとした時、フェイトが何やら考え込んでいた。

 

「それにしても……ゼスト達のほうはどうなっているのかな?」

 

「あの2人なら滅多な事じゃ遅れを取ることはなさそうだけど……敵はネクターを使っている上に、あんな危険なグリードも呼び出せる。 楽観は出来ないかもしれないな」

 

「そうだよね………ふう、こんな時にメイフォンで連絡が取れたらよかったんだけど」

 

「通信機能が使えるのはミッドチルダと中継地点がある次元世界だけ、ここにはまだその設備は整えられていないからな。 念話もこの場所じゃ近距離でしか使えないし。 改めて考えると通信という物は凄く便利だったんだよな。 皆からのサポートも滞りなく受けられたし」

 

「そうだね……皆、ちゃんとやっているかちょっと心配だね」

 

「はは、ヴァイゼンへ出発するまえ、ヴィヴィオとプラットホームまで見送りに来た時か。 仕事を放り出して来たからな……」

 

心配してくれるのは嬉しいけど、何も全員で見送る事はなかっただろうに……

 

「あはは……ヴィヴィオと一緒に次元艦に乗り込もうとしてきたね」

 

「今回、ヴィヴィオは珍しく駄々をこねてたからな」

 

離れたくない気持ちは分かるが、何とかなのは達の説得で抑える事は出来た。 泣きそうなヴィヴィオの顔を思い出すと心を締め付けられる……

 

(けど、無事で帰って来るって約束したからな)

 

ヴィヴィオと交わした大切で、絶対に破ってはいけない約束……俺はそれを守るため、そして守り抜いた上で任務を達成させる。

 

「大切な人達がミッドチルダで俺達の事を待っている……何としても任務を達成して、無事な顔を見せてやらないとな」

 

「……うん!」

 

改めて約束を確認した後、サーチャーで見つけた装置がある場所に向かった。 そこにはレバーがあり、レバーを入れるとこことは別の場所が動いた音がした。 おそらく先ほどの場所にあった岩の扉開いたのだろう。 戻ろうとした時、行く手をグリードを塞いでいた。

 

「はっ!」

 

「やっ!」

 

先ほどと同じように瞬殺しようと刀を居合いで抜き、フェイトも鎌を振り下ろすが……思った以上に敵グリードの甲殻は固く、弾かれてしまった。

 

「固い……!」

 

「フェイト、離れろ!」

 

《ドライブウェッジ》

 

「はあああっ!」

 

短刀を殴るように放ち、刃がグリードの固い甲殻に突き刺さった。

 

「カートリッジ……」

 

《イグニッション》

 

短刀に内蔵されているカートリッジが炸裂し、グリードの内側から衝撃を与え……グリードの甲殻がみるみるひび割れていく。

 

「フェイト!」

 

《サンダーアーム》

 

「やああああっ!」

 

左手に雷を纏わせ、グリードを殴ると……グリードは吹き飛び、甲殻がバラバラに飛び散り、消滅していった。

 

「よし……!」

 

「ふふっ、お疲れ様」

 

辺りにグリードがいないか確認した後、デバイスをしまい。 フェイトから労いの言葉をもらう。

 

「それにしても……エリンは本当に何が狙いなんだろう? どうやら元議長の方は無理矢理付き合わされているみたいだけど」

 

「……分からない。 ただ、ホアキンと同じ力を手に入れようとしているのは確かみたいだ」

 

「ホアキンと同じ力……マフィアや警備隊を操っていた力かな?」

 

「ああ、それも危険だったけど、さらにタチの悪い力がある。 人の心や背景を“視る”力だ」

 

自分の心を無断で侵入されているようで……とても心地の良いものでない。

 

「あ……! それって凄くマズイよね……?」

 

「ああ、ある意味どんな風にも悪用できる能力だろう。 それどころか……」

 

「……未来を視る力……」

 

フェイトの呟きに、無言で頷いて同意する。 あの力の真相は分らない……はやての推測ではハッタリ、虚言の可能性は低いと考えているが……

 

「いずれにせよ、エリンにホアキンと同じ末路を歩かせる訳にはいかない。 絶対に……生かして捕まえないと」

 

「レンヤ……ホアキンが死んだのは別にレンヤのせいじゃ……」

 

「それでも……死なせずに捕まえることは出来たんじゃないかと思ってさ。 今更なのは重々分かっているけど……」

 

「………………………」

 

「はは、落ち込んでいるとアリシアとアギトにまたどやされるな」

 

次に入れらる喝は全力の魔力弾かもしれないな……

 

「ーー先を急ごう。 ティーダさん達と合流しないと」

 

「うん……!」

 

先を急ぎ、閉ざされていた岩の扉があった場所に戻り。 開かれていた扉を通り抜け……このロッジの最奥、祭壇の間に辿り着いた。

 

(あ……!)

 

(いた……!)

 

その祭壇の前に、エリンとアザールがいた。

 

「クク……ホアキン師から聞いた通りだ。 この場所なら私の目的も万事滞りなく達せられるだろう」

 

「クッ……いい加減にしないか! ホアキンといい貴様といい、気が触れたようなことを……! き、貴様らの妄想に私を巻き込むんじゃない!」

 

「ハハ、あなたこそ人の事をとやかく言える立場ですか? 楽園でしたか……あんな場所を利用していた割にはずいぶんと偉そうな物言いですね?」

 

……結局、アザールも旨い汁だけを吸っていた……ただの独占者だったわけだ。

 

「あ、あれは教団に手先に騙されて連れて行かれただけで……あんな悪趣味な場所と知っていれば、断じて首を突っ込んだりしたものか! おまけに妙な薬まで盛られて……わ、私の方こそ完全な被害者だ!」

 

「やれやれ、そのような釈明が世間に通用すると思いですか? ミッドチルダタイムズが独占取材したらさぞ盛り上がってくれるでしょうね」

 

「ぐっ……」

 

「そこまでだ……!」

 

俺達はデバイスを構え、エリンの元に向かう。 祭壇は太陽の砦と似てはいるが、細部の形状が所々異なっている。

 

「おお、お前達は……!」

 

「おやおや、あなた達ですか。 面倒な連中を撒いたと思ったらさらに面倒な奴らが紛れ込んで来たものね」

 

「その巨大な祭壇……ここがロッジの最奥か。 ティーダさん達はどうした!?」

 

「ああ、武装隊のエースと槍神どのね。 さすがに厄介だったから足止めさせてもらったわ。 今頃、グリード10体を相手に翻弄されている頃でしょうね」

 

「なっ……」

 

「あのグリードを10体も……」

 

ゼストさんとティーダさんなら、負ける事はないと思うが……応援は望めないだろう。

 

「おかげで師から受け継いだコマを使い切ってしまったけどね。 けど、あなた達ならともかく、あの連中も確実に始末できるわ。 私はゆっくりと、この聖なる場所で目的を果たさせてもらうとしよう」

 

「させるか……!」

 

「武器を捨てて投降しなさい!」

 

フェイトはバルディッシュを突きつけて投降を促すが……エリンは身体から魔乖咒を放ち、眼の色を血のような赤い色に変色させた。

 

「やれやれ……状況が判っていないようね。 それにしても、他のメンバーの姿がなぜ見えないかと思っていたけど……なるほど、八神 はやての企てに協力しているようね」

 

はやての夢を企てと言われ、怒りがふつふつと湧いてくるが……今はそんな場合ではなく。 頭を振り払い、エリンを見据える。

 

「っ……!」

 

「私達の記憶を……!」

 

懸念はしていたが、どうしても防ぎようがなかった。

 

「さらに新市長と統幕議長による新たな体制・法案作りへの協力……なるほど、そうする事でこれまで以上に対策課が動きやすい政治的な足場をつくるつもりね。 新市長の提案らしいが、なかなか興味深い試みじゃないの」

 

「…………………………」

 

「しかし、これだけの人材を管理局ごときに埋もれさせておくのは愚かとしか言いようがないわね。 よし、私が市長になった暁には異界対策課は解体させてもらおう。そして私の専属秘書には……あなたがいいわ」

 

「なっ……!?」

 

エリンは俺に指を差し、フェイトは突然の事に驚愕する。

 

「あなたの才能はどの分野でも力を発揮できる、ここで捨て置くのはもったいない……ええ、それがいい。 それがいいわ!」

 

「ふざけないで……! あなたのふざけた妄想にレンヤを付き合わせるものか!」

 

(フェイト、凄い剣幕……)

 

「フン……そもそも、あなたのような小娘が釣り合うわけないわ。 彼は血筋も由緒正しく、器量も良い……ここで悪い芽の1つは摘ませてもらうわよ」

 

エリンは剣を抜き、魔乖咒を膨れ上がらせると……一瞬で怪異化した。

 

「ひいいいっ……!?」

 

「これって……!」

 

「紅いネクターによる怪異化!」

 

『フフ、この聖なる場所ではいつもの覚醒も殊更心地よい……大いなる望みを叶える前のささやかな供物……せいぜい足掻いて、もがいて、のた打ち回ってもらう!』

 

「そうはいくか……!」

 

《オールギア、ドライブ》

 

「あなたなんかに……レンヤは渡さない!」

 

最初から全てのギアを駆動させて魔力を上げるが……隣にいたフェイトが今まで見たことのない怒りを露わにする。 エリンと同時に飛び掛かり、剣とザンバーフォームのバルディッシュが衝突、火花を散らす。

 

『あら、嫉妬かしら?』

 

「うるさい!」

 

怒りの形相で大剣を振るうフェイト。 それを今の所理性があるエリンが余裕で受け流し、避ける。 エリンがカウンターを入れるが、フェイトの持ち前のスピードで避ける……だが、あまりにもフェイトらしくない。

 

「フェイト、冷静になれ! エリンは挑発してお前のペースを乱そうとしている!」

 

『未だに思いを伝えられないなんて……なんて健気な子なのかしら!』

 

「っ!!」

 

《サー!》

 

またエリンに煽られ、バルディッシュの制止も聞かず段々とスピードは上がって行くが、動きが単調になって来ている。 このままではマズイ……魔力を練り上げ、勁に変換し。 大きく息を吸い込み……

 

「フェイト!!!」

 

『ッ……アアアアッ!? う、煩い!!』

 

(ビクッ!?)

 

内力系活剄・戦声(いくさごえ)

 

一度仕切り直すため、空気を震動させる剄のこもった大声を放つ威嚇術を放った。 聴覚といった五感が良くなり過ぎた影響か、エリンは耳を抑えて苦しみ。 名を呼ばれたフェイトは一瞬身体を竦ませる。 2人の攻撃の手が止んでいる隙に、間を割って入り……エリンに蹴りを入れて吹き飛ばした。 そしてフェイトの方を向き、フェイトの肩に手を置いた。

 

「フェイト。 なんで怒っているのかはわからないけど……俺はエリンの物になったりしないし、連れて行かれたりもしない」

 

「レンヤ……」

 

「なんだ? 信用できないのか? それはちょっとショックだな〜、何年も一緒に過ごしてきたのに……」

 

「えええっ!? し、信じる! 信じるよぉ……!」

 

「はは、それでこそフェイトだ」

 

ポンポンと、ヴィヴィオを慰める時のように軽く叩きながら頭を撫でる。

 

「も、もうレンヤ……///」

 

『ーー私を無視してんじゃないわよ!』

 

「っと……」

 

背後から振り下ろされた剣を、振り返り際に刀で受け止める。

 

「別に無視はしてない。 ちゃんと気配で把握していた」

 

『その余裕、気に食わないね!』

 

剣に滅の魔乖咒を纏わせ、左から振られて来た。

 

天松(あまつ)!」

 

ギリギリのところで転がるように避け。 地面に空いている左手を着き、逆さの体勢でエリンの顔面に踵を落とした。

 

『グウ……貴様アアァッ!!』

 

「おっと……」

 

激情し、無差別に手から紫電を放って来た。 以前、見た事のある技だったので、注意しながらフェイトの元まで後退する。

 

「うむ、さすがに女性の顔に蹴りを入れちゃマズかったかな?」

 

「男性でもダメだと思うよ……」

 

エリンは剣を逆手に持って頭上に掲げた。 あの構えは……闇神楽。 剣を地面に刺して魔法陣を展開、中にいる者の生命力を奪い取る技だ。

 

『させるか!』

 

フェイトも同じ答えに辿り着き、ほぼ同時に飛び出した。

 

《ライオットザンバー》

 

《トライダガー》

 

フェイトはバルディッシュを変形させて柄が魔力ワイヤーで繋がっている双剣に。 俺は三本の短刀を展開、左手の指の間に挟んで三本同時に握る。

 

《ロードカートリッジ、スパークブレイド》

 

「はあああっ!」

 

カートリッジを炸裂させ、雷を纏った双剣で何度も斬り裂く。

 

《ブレイククロウ》

 

「せいっ!」

 

フェイトが離れと同時に三本の短刀に魔力を走らせ、獣の爪のように振り下ろし……エリンの胸に甲殻を砕くように三本の傷跡を付けた。 だが……

 

『…………ククク……ハーッハッハッハッハッ!』

 

強力な魔法をぶつけたというのに、エリンは発せられは魔乖咒の量は減らず笑い声を上げている。

 

「これは……!」

 

「ぜんぜん効いていない……!?」

 

「ひ、ひいいいっ……!」

 

怪異となったエリンが恐ろしくなったのか、アザールは情けない声を上げながら逃げようとするが……

 

『おやおや……勝手な退場は困りますねぇ。 あなたが好き勝手していたミッドチルダ議会ではないのだから』

 

エリンは左手をアザールに向け、魔乖咒の弾丸を放ち……アザールの足元に着弾、爆発してアザールを吹き飛ばした。

 

「ああっ……!?」

 

「エリン、貴様……!」

 

『フフ、まだ利用価値があるから軽く気絶させただけよ。 それより、他人のことを気にしている余裕はあるのかな?』

 

その言葉を皮切りに、エリンはさらに膨大な魔乖咒を放出する。

 

「くっ……!」

 

「こ、これは……」

 

『クク、教団のロッジは全て地脈の真上に作られている……その真上で覚醒することでディーへと至る扉が開くことが可能になる……フハハ、師から聞いた通り!』

 

魔乖咒を放ちながら剣を逆手に持って掲げ、地面に突き刺すと……歪な音を立てながら身体を膨張させ、 一瞬で魔人と化した。 ホアキンの魔人化とほぼ同じだが、頭部の角が一本角ではなく二本角の差異がある。

 

「そ、そんな……」

 

「くっ……あの時のホアキンと同じか!」

 

『クク……コレゾ師ノ至ッタ境地……コレデ総テノ真実ハ我ノモノニ……………?…………』

 

エリンは何かがおかしいのか。突然自分の両手を見る。

 

『…………ナゼダ………………ナゼ何モ視エナイ……?』

 

「……?」

 

「何だか様子が変だよ……」

 

『……ナゼダ……! ナゼDガ視エナイ……!?真ナル神ノ息吹ガドウシテ感ジラレナイノダ!? コレデハ話ガ違ウデハナイカ!!』

 

その発言、魔人となって理性が働らなくなっいる証拠。 そして、ホアキンを師として尊敬していた訳ではなく、利用していたと言うことと他ならない。

 

「クッ……しっかりしろ! ホアキンが真実を語っていたとは限らないだろう!?」

 

『ダ、ダマレ! ダマレダマレダマレエエッ!』

 

俺の言葉が受け入れられないのか、癇癪を起こしたかのように否定する。

 

『マアイイ……マズハ手始メニ貴様ラヲ贄トシテクレル……ソノ上デみっどちるだヘ帰還シ、御子ヲ奪ッテクレルワ!』

 

「貴様……!」

 

「! レンヤ、危ない!」

 

ヴィヴィオの事を出されて頭にきてしまうが、フェイトの警告で我に返り。 その場から飛び退くと……突然頭上から巨大な剣が落ちてきて祭壇に突き刺さる。 魔人エリンはその剣を苦もなく片手で引き抜いた。

 

『ククク、ソレデハサラバダ……矮小ナル己ノ身ヲ嘆イテ塵ト化スガイイーー!』

 

「しまっーー!」

 

剣が落ちた衝撃で飛ばされてしまい、対応が遅れ。 巨大な剣が振り下ろされようとした時……

 

「はああああッ!」

 

『ナ……!』

 

背後から裂帛の気合いと共にゼストさんが走ってきた。 ゼストさんは横から飛び上がり、巨大な剣を横に弾いた。

 

「喰らえ!」

 

『グオオオオッ……!?』

 

そして、ティーダさんによる威力の高い魔力弾がエリンの体勢を崩した。

 

「あ……!」

 

「ゼストさん、ティーダさん!」

 

少しバリアジャケットが汚れているが、目立った傷もなく。 2人は魔人となったエリンと向かい合った。

 

「やれやれ……何とか間に合ったか」

 

「レンヤ、フェイト。 よく持ちこたえてくれた」

 

「お2人の方こそ、よくご無事で……!」

 

「さすがに10体は手こずらされたがな。 話は後だ! まずはコイツを無力化するぞ!」

 

「生半可な相手ではない! 全力で当たるぞ!」

 

「はい!」

 

「了解です!」

 

振り下ろされた剣を左右に避け……ティーダさんの銃剣の刀身がオレンジの魔力光を纏い、魔力によって刀身が延長した。

 

「おらあああっ!」

 

銃剣をバットを扱うように豪快に振るい、脇腹を斬り裂いた。

 

「はあっ!」

 

ゼストさんが反対側で三段突きを放ち、続けて槍を手の中で回転させ……その勢いで縦に斬り裂く。

 

『ヌウウ……アアアッ!』

 

その攻撃にエリンは耐えきれず、ガムシャラに剣を振り回して来た。 しかも剣に滅の魔乖咒を纏っているというオマケ付きで。

 

「掠りでもしたら即アウトです! 絶対にデバイスでは受け止めずに避けて!」

 

「チッ……!」

 

「面倒な……」

 

ティーダさんとゼストさんは悪態つきながらも上手く避け……

 

《ブリッツアクション》

 

「っ!」

 

フェイトは緩急を付けながら剣の合間を縫って接近し、剣を握る腕を斬りつけた。

 

「レンヤ!」

 

「ああ!」

 

剣の乱舞が止み、フェイトの合図ですぐさま三本の短刀を投擲し……

 

「九頭龍・川崩れ!」

 

長刀に込めていた集束魔法を斬撃に乗せて飛ばし、三本の短刀に纏わせるのと同時にカートリッジを炸裂させ……巨大な九頭の竜がエリンを襲った。

 

『オオオオオオッ……!』

 

九頭龍・川崩れが直撃すると、その衝撃でエリンは剣を手放し。 身体が紅く血のように変色し苦しみ出した。

 

「むっ……!」

 

「!」

 

短刀を回収し、エリンを観察する。 このパターン……あの時のホアキンと同じ状態だ。 この後俺達は拘束され、ピンチに陥った……

 

「ーー来る! 気を付けてください!」

 

「あ……!」

 

「チッ……!」

 

俺の警告にフェイトが意味を読み取り、2人も警戒を強める。 そしてエリンが両腕を地面に突き立て、同時に俺達はその場から飛び退く。 次の瞬間、先ほどいた場所から紅い蔓のような物が捻れながら飛び出していた。

 

「せいっ!」

 

「やあっ!」

 

「は……!」

 

「はああっ!」

 

間髪入れず、蔓に一斉攻撃し、蔓を破壊した。

 

『オオオオオンン……!』

 

するとそれを皮切りにエリンが悶え苦しみ出し、身体から魔乖咒が漏れ出して身体の崩壊が始まった。

 

「これは……!」

 

「と、溶けている……!?」

 

「ホアキンの死亡時の報告にあったやつか……!」

 

『アアアアアアアア………イヤダ……イヤダアアアアアアッ!! 死ニタクナイ……死ニタクナイヨオオオッ……!』

 

此の期に及んで命乞いをするエリン。 自業自得、と言ったらそれで済むが……

 

「………っ…………」

 

「……哀れな」

 

「くっ……!」

 

これ以上、誤ちを繰り返す訳にはいかない! 俺は崩壊しつつあるエリンの前まで出る。

 

「レンヤ!?」

 

「おい、何するつもりだ……!?」

 

「エリン! 気をしっかり持て! 自分を見失うな! あんたは、あんただろう!」

 

『……グググ……ギギギッ……?』

 

俺の言葉に反応した……まだ猶予は残されている!

 

「ホアキンと違ってあんたは紅いネクターを大量に飲んだ訳じゃない! だったら助かる! 絶対に諦めるな!」

 

『ググ……ガガガ……』

 

「レンヤ、お前……」

 

「……レンヤ……」

 

ティーダさんとフェイトは俺の行動の意味が分かったのか、呟くように名を呼ぶ。

 

『ウウウ……アア………ド……ドウシテ………ココマデシタ私ニ…………ドウシテ貴様ハ……』

 

「……それとこれとは話が別だ。 あんたは確かに罪を犯した。 でも、だからと言ってこんな場所で死んでいいほど罪深かったとは思えない。 それに、あんたが死んだらユミィやミゼット議長だってきっと哀しむ。 だから……絶対に自分を取り戻してくれ!」

 

『……ゆみぃ……みぜっと先生……ゴメンナサイ……ドウシテ私ハ…………クッ……! アアアアアアアアアアアアッ!』

 

一瞬、自我を取り戻したと思いきや。 崩壊が進んだのか、苦悶の叫びを上げ……魔乖咒の流出が加速する。

 

「クッ、駄目か……!?」

 

「な、何とかならないの!?」

 

「くっ、こんなのさすがに専門外だぞ!? 何でアリシアを連れて来なかったんだ!」

 

「このままでは……むっ!」

 

「天に坐す我らが主よ。 魔に引かれし哀れな迷い子を御身の光で呼び戻さんことを……」

 

後ろから詠唱が聞こえ、エリンに身体に方陣が展開、崩壊が抑えられる。

 

「これは……聖句……?」

 

「来たか……!」

 

背後から現れたのは、白装束を身に纏った中性的な少年……聖霊教会の武装騎士団・刻印騎士団(クロノス=オルデン)の一人、小日向 純だった。

 

「お前は……」

 

「済まない、時間がないからすぐに処置をさせてもらうよ。 レンヤ、少し退いてくれ」

 

「全く……ギリギリだぞ」

 

軽く文句を言いながら道を開け、ジュンはエリンの前に出る。

 

『ググググ………アアアアアアッ……!』

 

「ふむ、崩壊一歩手前だね。 ……けど、何とか踏み止まってくれたか。 これならーー」

 

ジュンは目の前に六芒星を描くと、詠唱を始める。

 

「我が身に主と聖霊によって刻まれし聖刻よ」

 

追唱と共に、腕部の右上にある刻印が浮かび上がる。

 

「光となって昏き瘴気を払い、迷い子の道を示せーー!」

 

刻印がさらなる輝きを放ち、エリンに展開している方陣が共鳴するように輝きだす。

 

「こ、これって……」

 

「あの光は一体……」

 

フェイトとティーダさんが不思議に思う中、輝きが一気に広がり出し……光が晴れると、ジュンの足元に気絶したエリンが倒れていた。

 

「あ……」

 

「も、戻った……!」

 

「ふう……何とかなったか」

 

冷や汗を拭きながら、ジュンは膝をついてエリンの安否を確認する。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、気絶しているだけだ。 数日は目が覚めないと思うけど、命に別状はないよ」

 

「そうか、良かった……」

 

「はぁ……一安心だね」

 

最大の危機を脱し、張りっぱなしだった緊張感が解けてようやく力が抜ける。

 

「それはともかく、あんたは一体何者なんだ!? 妙な格好をしているが……一体なぜこの場所に!?」

 

「あれ、レンヤ。 僕のことを話していないの?」

 

「間に合うかどうか分からないと言われたからな。 立場が立場だろうし、念の為伏せさせてもらった」

 

「なるほど、正直助かるよ。 レンヤって意外に気が効くんだね?」

 

「意外は余計だ。 だがまあ、来てくれて本当に助かった」

 

「お前ら……何勝手に話を進めている……!」

 

さすがに説明もなしに勝手してたせいか、さすがのティーダさんもすこしキレたが、ゼストさんは予測がついたようだ。

 

「ふむ、どうやらレンヤが独断で保険を掛けていたようだな」

 

「あなたは確か……聖霊教会の武装騎士団・刻印騎士団の人だったよね?」

 

「それは確か、聖王教会に異界の事実を伝えた宗教組織だったはず……」

 

「それに刻印騎士団……聖霊教会の方針異界の封印を実際に行う精鋭部隊であり、騎士一人一人が人間離れした戦闘能力と回復力を誇ると聞いているが……」

 

「……そこまでお見通しだったとは」

 

改めてそう言われると恥ずかしいのか、ジュンは苦笑いをする。

 

「初めましてーー聖霊教会、刻印騎士団に所属する小日向 純です。 レンヤからの連絡を受けて参上させてもらいました。 どうか見知りおきをーー」

 

 


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