魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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139話

 

 

7月26日ーー

 

「終っーー……わったああ!!」

 

アリシアが腕をうんと伸ばして叫んだ後、電池が切れたように机に突っ伏した。 あのD∵G教団が引き起こした騒乱から早2ヶ月……自由行動日の午前丸々使ってようやく全ての補習を終了した。

 

「ふう……流石に堪えるな……」

 

「だらしないわね。 もっとシャキッとしなさい、みっともない」

 

「……無茶言わないでよ……頭が破裂しそうなんだから……」

 

「ふふ、この調子だとサーシャちゃんも同じかもね?」

 

すずかが微笑みながらそう言うと……どこからか『あうあうあうあうー!!』と言う叫びが聞こえた。

 

「…………………」

 

「よく頑張りましたね。 後は中間試験でどうなるか……見守っていますよ」

 

「はい、ありがとうございます。 モコ教官」

 

「ふふ、私も学生時代はとても苦労していましたが……あなた達も大概ですね」

 

「あ、あはは……」

 

「モコ教官は学生時代はどんな学生だったのですか?」

 

唐突に、気になったのかアリサが質問した。

 

「そうですね……昔の私はひ弱でしてね。 歩く事も億劫だったんですよ?」

 

「へえ、意外ですね。 今じゃとても想像はできません」

 

「ええ……本当に……」

 

「あ、私気になります! モコ教官の学生時代の話し!」

 

「……あまり、いい話ではないのですが……」

 

少し恥ずかしそうにしながらも、モコ教官は語ってくれた。

 

「私の母校はレルムではなく、首都内の南西部にある普通高でしてね……学校に来るのも満身創痍な状態で……」

 

【うう、やっと着いた……やっぱり1人じゃクラナガンから出るのはキツイか……】

 

「クラナガンかよ! 思いっきり近場じゃん!」

 

【クラナガンを舐めるなよ】

 

「知らねえよ! ていうか誰に言ってんの……!」

 

つい敬語を忘れてツッコンでしまう。 こんな堅物なモコ教官でも昔は無茶苦茶だったんだな……

 

「コホン、私の事はもういいでしょう。 あなた誰もこの後予定があるのでしょう?」

 

「は、はい」

 

はぐらかされた気もするが、人を待たせているのは事実だ。

 

「さて、それじゃあ行きましょう。 あなた達もこの後、あの子達の指導をするのでしょう?」

 

「ああ、事件の前でも時間が取れなくて……ここ最近も疎かにしがちだったな」

 

「確か武練館で待っているはずだよね? もう来ていると思うから速く行こう」

 

「ええ〜〜、もうちょっとだけ休もうよー」

 

「あんたはもっと指導者としての責任を持ちなさい」

 

ぶつくさ言いながらもそうやって教えてくれる所がアリサらしいな。 ラーグ曰く、ツンデレらしいが……よく分からん。 兎にも角にも教室を出て武練館に向かうと……正面玄関の前に4人の少女と1人の少年が立っていた。 が、そのうちの2人が額をぶつけ合って超至近距離で睨み合っていた。

 

「……はあ、またやってる……」

 

「まあまあ、喧嘩する程仲が良いとも言うよ」

 

「おーい、エルスー!」

 

アリシアの呼びかけで4人がこっちを向くと、パアッと表情を輝かせて駆け足で俺達と前まで来た。

 

「レンヤさん! 今日はお忙しい中、ご足労おかけします!」

 

「いや、距離的にご足労かけたのはこっちなんだが……」

 

「師匠! 今日はスパーリングか!?」

 

「まだ基礎も出来てないのに、やるわけないわよ」

 

「アリシア先生! 今日こそ固有結界を教えてください!」

 

「……何度も言っているけど、本来あんなのは出来ない方が幸せなんだよ」

 

「すずか様! ご指導、よろしくお願いします!」

 

「すずか様、今日はお嬢様をよろしくお願い致します」

 

「あ、あはは……すずか様は辞めて……」

 

様々な経緯で俺達が指導する事になった子達。 俺が指導しているのは礼儀正しい黒い長髪のミカヤ・シェベル。 アリサが指導しているのは勝気な性格をしている赤髪のハリー・トライベッカ。 アリシアが指導しているのは短い黒髪でおでこが眩しいエルス・タスミン。 すずかが指導しているのは少しウェーブのかかった金髪のヴィクトーリア・ダールグリュン。 そして彼女の執事のエドガー・ラグレント、最近地球の和食にハマっているそうだが……何を間違えたのかおでんから和食に入っているそうだ。

 

「聖王様もお久しぶりです。 事件の解明、D∵G教団を制圧した手腕、大変お見事です」

 

「あー、俺1人じゃ絶対に無理だったんだがな。 それと聖王はやめろ、レンヤでいい」

 

「かしこまりました、レンヤ様」

 

「…………………」

 

様も辞めろ、と言うのはあんまり意味がない気がする。 ヴィクトーリアは旧ベルカの王家・雷帝ダールグリュンの血をーーほんの少しだけーー引いているらしく。 聖王である俺に言わずもがな、様付けで呼んでくる。 その時、アリサが手を叩いて視線を集めた。

 

「さあ、時間が惜しいわ。 武練場の使用許可はもらってあるから、各自準備が出来次第武練場に集合すること」

 

『はいっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てやぁ!」

 

「っと……」

 

抜刀により放たれた刀身を受け止め、弾き返す。 ミカヤは刀を納刀せずにそのまま斬り結んでくる。 先ほど武練場に移動したらそれぞれのスペースですぐに練習が開始されたのだ。

 

「そうだ、納刀するタイミングを見誤るなよ」

 

「はい!」

 

刹那の間も開けない剣戟を繰り出し、納刀をさせないようにする。 現在は抜刀してない状態での近接戦闘の指導をしている途中だ。 チラリと意識を他のグループに向けて見ると……

 

「な、なあ師匠……これいつまで続ければいいんだ?」

 

「そうね……両手で50段は行ってもらわないと」

 

「そ、そんなあ〜……」

 

ハリーは胡座をかき、両手の平には小さめの炎が出ている。 その上に紙があり、さらにその上に炎……紙と炎が交互に積み重なって塔を作っている。

 

「ほらエルス、もっと早くバインドを展開して。 敵は一瞬でも待ってくれないよ」

 

「は、はい!」

 

「はい、ハズレ」

 

エルスの周りに無数のゴムボールが飛び交い、エルスはボールを捕らえようとバインドを放つが……的も小さく、外れてしまう。

 

「っ……あう……!」

 

「ヴィクトーリアは防御は固いけど、どうしても足元がお留守にしがちだね。 懐に入られたら終わりだよ?」

 

「も、申し訳ありません!」

 

ハルバードをネイルフォームのスノーホワイトを装備しているすずかに弾かれ、爪を首に添えながら注意している。

 

「はっ!」

 

「おっと……!」

 

流石にミカヤの事を放っておき過ぎた。 胴に向かっていた刀を柄頭でギリギリ防ぐ。

 

「余所見をしないでください!」

 

「スマンスマン。 ほら、もっと掛かって来い」

 

「やあああ!」

 

それから数時間、訓練をした結果……

 

『はあはあ……』

 

ものの見事に全員バテバテになっていた。

 

「ま、こんなものね」

 

「大丈夫ですか、皆様?」

 

エドガーが4人にタオルと飲み物を配る。 それを俺達は離れた場所で見ていた。

 

「……あの事件から早2ヶ月……もうすっかり平和って感じだね」

 

「うん。 怪異による事件もそれっきり全く起きなくなっているし……」

 

「そして内通者の洗い出しで管理局は今の所綺麗になっているけど、根本的な解決にはなっていない……むしろ、酷くなっているわ」

 

「巨大過ぎるゆえの小回りの効かなさ、か……だからやるんだろ? 機動六課を」

 

事件解決直後に言ったクロノの宣言通り、機動六課の発足が出来つつある。 発足予定は来年の4月……レルム魔導学院を卒業するのとほぼ同時だ。

 

「部隊舎の場所はどこだっけ?」

 

「確か中央区画、湾岸地区にあるミッドチルダ南駐屯地内A73区画だったはずよ。 前にはやてと視察に行ったんだけど……周辺がどことなく雰囲気が海鳴に似ていたわ」

 

「へえー、1度見に行きたいね!」

 

……あれ? その場所、どこかで聞いた事あるような……まあいいか。

 

「とはいえ、来年から発足なのにやる事はまだまだたんまりあるからな〜……もしかしたら夏期休暇もおちおち取れないかも」

 

「そうね。 クロノにこき使われるユーノの気持ちがようやく分かった気がするわ」

 

「あ、あはは……あ、そうだレンヤ君。 分隊名は決めたの?」

 

「分隊名?」

 

「ほら、六課で担当するそれぞれのポジショニングを担当する分隊の。 なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんも同じように分隊を持つみたい。 それで、レンヤ君と……私も分隊を持つ事になったでしょう?」

 

「あ、ああ……そうだったな」

 

この前報告してもらったけど、ゴタゴタし過ぎてはやての報告聞き流してた。

 

「レンヤが分隊の隊長で私が副隊長、そしてすずかが分隊の隊長でアリシアが副隊長。 なんだが不思議ね、今更副隊長なんて」

 

「そうだねー、隊長だけ決めて後はなーんにも決めずに今までやって来たからねー」

 

「コホン、話を戻すけど分隊名は結局の所どうするの? ちなみになのはちゃんの分隊名はスターズ、フェイトちゃんはライトニング、はやてちゃんはロングアーチだよ」

 

「そうだなあ……」

 

いきなりそう言われても……なのはとフェイトは2人らしい分隊名だな。 なら俺らしいと言ったら……

 

「……フェザーズ……フェザーズかな」

 

「フェザーズ……うん、いいと思うよ!」

 

「そう言うすずかのはもう決めたのかしら?」

 

「私の分隊名はクレードルだよ」

 

「なるほど……いいんじゃないか?」

 

こうして今ある平和を噛み締める事が出来る。 だが問題は残っている、D∵G教団から脱走したナギ率いる集団の行方。 そしてホアキンが言った未来を見たという世迷言……しかしあの時、その一文にはやてが反応していた。 強ち間違いではないのかもしれない。 そして……

 

「アザール元議長と元統幕議長秘書エリンの亡命、か……」

 

そう、この2人は逮捕される直前に別の次元世界に亡命していたのだ。 亡命した次元世界は特定しているが、外交問題で手は出さないのだ。

 

「もうD∵G教団も無くなって、議員としての地位も権力も無くなっているのに……」

 

「……ともかく、それ以上の詮索は私達の管轄外よ。 今は……」

 

チラリと、休んでいる4人に目配りし。 ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ーーあの子達を鍛えるわよ」

 

その言葉が聞こえたか分からないが……4人はビクリと身体を震わせ、辺りを見渡した。

 

「あ、あはは……」

 

「アリサって教導になるとなのは並みにスパルタだね……」

 

「やれやれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、日が沈むまで訓練が行われ……4人は立てなくなるまでしごかれた。 主にアリサのせいで。 そんなクタクタの4人を車でクラナガンまで送り、1人ずつ家に送った後異界対策課に寄った。

 

「あ、レンヤ」

 

対策課に入ると、デスクワークをしていたツァリがこちらに気付いた。 今日は正規メンバーは休みで、嘱託魔導師の3人だけしかいない。

 

「もう補習と教導は終わったの?」

 

「ああ、その教導していた生徒を送ったついでにここに寄ったんだ」

 

「ならちょうど良かったよ。 レンヤじゃないと出来ない物がいくつかあってね。 まとめて置いたから目を通して置いて」

 

ツァリが指差した方向にあったのは……山のように積まれた書類だった。 そのちょっと離れた机の上にはその倍の書類がある……

 

『……………………』

 

そして書類に埋もれて見えなかったが、リヴァンとユエが無言で黙々と書類と格闘していた。

 

「……一息入れよう」

 

「……うん」

 

紅茶を淹れ、3人が一息入れている間、自分がやるべき書類と格闘を開始した。 その途中、リヴァンが質問してきた。

 

「レンヤ、まだ管理局は混乱しているのか?」

 

「そうだなあ……ほとんどの部隊の司令が解雇、逮捕されたおかげでまだまだ混乱中。 信頼できる人物の階級を上げてその役に付けるにも時間が掛かっている状態だ」

 

「へえ……レンヤ達はD∵G事件で階級は上がったの?」

 

「二階級特進を断って一階級上がって今は二等陸佐だ。 はやても俺と同じ二等陸佐で、なのは、フェイト、アリサ、すずか、アリシアは名目はバラバラだが一等尉ぐらいだ。 後対策課のメンバーは軒並み上がっているな」

 

「皆さん、かなり優秀ですからね……それで、レンヤは何故二階級特進を断ったのですか?」

 

「これ以上上がってたまるか。 この書類の山がもっと増える羽目になる。 受け入れていたら天国に向かって二階級特進している所だ」

 

「み、身も蓋もないね……」

 

ツァリは少し呆れながら苦笑いをする。 その時対策課の扉が開けられ……シェルティスが中に入って来た。

 

「あれ、シェルティス?」

 

「何か対策課に用でも?」

 

「うん、ツァリ達が働き詰めって聞いたから差し入れを持って来たよ」

 

「お、なんだ? お前にしては気が効くじゃねえか」

 

「君の分はないよ」

 

「なんだと!?」

 

またいがみ合いが始まったな。 まあ、かれこれ2年ちょっとの付き合いだから、今では喧嘩する程仲が良いって感じになっているけどな。

 

「ふむ、期せずしてVII組の男子が集まりましたね」

 

「そういえばこうして僕達だけで集まるのって久しぶりだよね?」

 

「いつもレンヤの周りには絶対に女子達がいたからね。 男だけで集まるのってそう無かったと思うよ」

 

「……それ、俺のせいなのか?」

 

そう質問すると、全員そろって頷いた。 解せない……

 

「とまあ、こんな時だからこそ男だけでしか話せない事も偶には話したいよなあ」

 

「? それってどういう事だ?」

 

「そりゃもちろん……好みのタイプ女子の話しさ!」

 

「ーーとっとと終わらせて帰るぞ」

 

付き合ってはいられず。 リヴァンの豪語を聞き流して、手元の書類に目を落とした。

 

「まあまあレンヤ。 実際レンヤの周りには魅力的な女子が多いでしょ? 結構前から気になっていたんだよねー」

 

「……なのはとは家族同然だし、フェイト達はただの幼馴染だ。 それ以上もそれ以下もない」

 

「うーん、もうちょっとないのかな? なのは達に恋愛感情があるのかないのか」

 

シェルティスにそう言われ、ピタリと作業の手を止めてしまう。 なのは達が好きって言われればもちろん好きだが……Likeの方でLoveではない。 だがそう考えると、どうしても何かが引っかかるような気がしてならない……

 

「もうそれぐらいにして下さい。 あまり褒められた行為ではありませんよ?」

 

「……了ー解。 さて、仕事を再開しますか」

 

「ごめんねレンヤ。 変な事聞いちゃって」

 

「……………いや。 気にしないでくれ。 それに気になっても仕方ないさ」

 

「あ、僕も何か手伝うよ」

 

「ああ、ならお願いするよ。 そこのーー」

 

そして静かな戦闘は夜まで続き……何とか夕食までには終わらせて寮に帰れた。

 

「ただいまー」

 

「あ、パパ! おかえり!」

 

玄関先のソファーで絵本を読んでいたヴィヴィオが俺達に気付き、こっちに向かって駆け出し元気よく飛び込んで来た。

 

「おっと……相変わらず良いタックルだ」

 

「えへへ」

 

「おかえりなさい、皆。 今はやてちゃんが夕食を作っている所だから、夕食前に手を洗って来てね」

 

「分かりました」

 

「ふう、やっとメシだ……」

 

一度部屋に戻って荷物を置こうとすると、ヴィヴィオがそのまま引っ付いてついて来た。

 

「ヴィヴィオ、日曜学校は楽しいか?」

 

「うん! ユノちゃんの他にもおともだちがい〜っぱい! できたんだよ!」

 

「そうか……」

 

友達もでき、楽しそうに過ごせているのなら安心だ。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「しんぷさんとシスターさんが姫様ってよんでくるのが……」

 

「ああ……」

 

真偽はどうあれヴィヴィオはおれの娘、聖王の娘として広まってしまい。 結果、ヴィヴィオがベルカの人達から姫と呼ばれている。 だが強く否定するとまた面倒になってしまい、結局そのままになっている……

 

「ごめんなヴィヴィオ。 嫌だとは思うけど、そこはなんとか我慢してくれないか? これはヴィヴィオの為でもあるんだ」

 

「うーん……? ……分かった! だからパパ、こんどパパのお菓子を食べさせて!」

 

「……はは、了解。 とびきり美味しいのを作ってやる(純度の高いミードと大き目のサンエッグを使おう)」

 

娘の可愛さに負けて異界の食材を使おうと決めた時、扉がノックされ……フェイトが入って来た。

 

「レンヤ、そろそろご飯が出来るよ」

 

「ああ、すぐ行く」

 

「あ、ヴィヴィオも一緒だったんだ。 急にどこ行ったか心配したんたから」

 

「ごめんなさーい、フェイトママー」

 

「もう、本当に反省しているの?」

 

フェイトに注意されているのに、ヴィヴィオは笑顔で返事をし。 フェイトを困らせる。 そんな2人を押して食堂に向かい、先にいたなのは達と夕食を食べた。

 

「やっぱはやての料理は美味いなあ!」

 

「うん、また腕を上げたんじゃないの?」

 

「えへへ、そうかあ? 自分だとよく分からへんけど嬉しいなぁ」

 

はやての料理に舌鼓を打ち。 食後のお茶を飲んでいる時、アリシアが話を切り出した。

 

「そういえば聞いた? なんでも異界対策課の入隊希望とレルム魔導学院の入学希望者が激増しているって?」

 

「ああそれね。 VII組設立以降からその傾向はあったけど……D∵G事件を皮切りにうなぎ登り状態よ」

 

「うわー……倍率がとんでもない事になりそうだね……」

 

狭き門がさらに狭くなるのか……こりゃ大変だな。

 

「あー、その事なんだがな……」

 

テオ教官が食器を置き、咳払いをした。

 

「どうやら来年度のVII組の入学は取り止めになったそうだ」

 

「え!?」

 

「な、なんやて!?」

 

「えぇーーー!?」

 

「ど、どういう事ですか!!」

 

「VII組が……無くなるのですか!?」

 

テオ教官は慌てて皆を手で抑えた。

 

「おいおい、落ち着け。 アリシアが言った通り入学者が激増しているが……当然学院(ウチ)はその全てを受け入れられない。 そして今回の事件を気にレルム魔導学院は本格的に戦術的な、そして武術も視野に入れたカリキュラムを組むことなり。 結果……分校を新設することが決まった」

 

「分校……ですか?」

 

「ああ。 場所はこことは真逆、クラナガン西郊にあるミートス。 そこにレルム魔導学院・ミートス第II分校を設立することが決定した」

 

「な、なるほど……」

 

学院も学院で対応が忙しくなっているのか。 しかし分校と本校のVII組が消えるという事は……

 

「つまり、VII組は分校に移動する事になるんですね?」

 

「ああ、建設は来月から始まり、完成は2年後くらいだ。 その間に現1、2年のVII組は卒業している頃だから、ちょうどよく入れ替わる事が出来る」

 

「これも、時代の流れですかね……」

 

「まあ、学院はこんな感じだが……レンヤ、お前の方はどうなんだ?」

 

そこでテオ教官が俺に話を向ける。 俺の方というと……異界対策課の方だろう。

 

「……そうですね。 無闇に新人を入れては本末転……機動六課の事もありますし、一時活動停止するしかないです」

 

「信頼できる人物が入れば、その限りではないんだけど……」

 

「ーーそれなら、私でよければ引き受けますよ?」

 

一時活動停止しか方法がないと悩んでいた時、ユエが手を上げてそう言った。

 

「私は学院卒業後は異界対策課に所属しようと思っていました。 私だけでは心許ないとは思いますが、どうか検討してはくれませんか?」

 

「心許ないわけないよ! むしろ心強いくらい!」

 

「なら僕も手伝うよ。 僕は卒業後は情報局に所属しながら無限書庫の検索も兼任することになっているんだけど……もう一個くらい兼任しても問題はないよね?」

 

「俺もやるぞ。 対策課の仕事は中々面白いからな」

 

「僕も本局と兼任しながら、対策課を手伝うよ。 異界対策課が活動停止するなんてあり得ないからね」

 

「皆……」

 

4人が協力してくれる事に感謝するが、それでもまだ問題は残っている。

 

「……ツァリ達が協力してくれるのはありがたい、とはいえ……正式に2人、手伝いで2人だと厳し過ぎる。 ソフィーさんの要望でベルカの騎士を派遣させてもらう事もできるが、それでも数人。 新たに新人を入れる必要もあるが……」

 

「試験はもちろんやるとしてもいきなりグリード関連に当たらせることは出来ないわ。 何らかの対策が必要になるわね……」

 

「ん〜……ランク制なんてどうかな? その人の実力に合った依頼を受けさせるの」

 

「あ、それいいね! それなら新人でも安心できるよ!」

 

なのはの提案に、アリシアは納得する。 確かにそれなら自分の適正に合った依頼を受けさせる事が出来る。

 

「むう、パパ達! 今はごはんのじかんだよ!」

 

「あ……ごめんねヴィヴィオ。 ちょっと盛り上がっちゃった」

 

「確かに今する話じゃなかったな。 すまんヴィヴィオ」

 

「せやな、冷めてまう前に早う食べよ」

 

話を切り上げ、夕食を再開した。 やるべき事はいっぱいあるが、仲間達と手を取り合って行けばきっと乗り越えられる。 なせば大抵何とかなるだろうが……今はこの時を楽しんで行こう。

 

 

 


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