魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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138話

 

 

『アアアアアアッ‼︎』

 

紅いネクターを飲み、魔人と化したホアキンが無造作に、しかし確実に狂気を持った巨腕が振り下ろされる。

 

「っ!」

 

「なんてバカ力!」

 

地面に落とされて腕が地鳴りと衝撃を放つ。 やはり筋力や重さ、甲殻の硬度も比べ物にならないくらい上がっている。 まともに喰らえば重症は免れないだろう。

 

《タクティカルビット》

 

「行っけえ!」

 

「光剣……クラウソラス!」

 

アリシアはタクティカルビット、緑色のビットレーザーに変換させ、全方向から魔力レーザーを照射し。 はやては直射型の砲撃魔法を放ち、左肩に直撃すると球状に衝撃波が展開、ホアキンの体勢を崩した。

 

「よっしゃっ!」

 

「早くしないと、元に戻せなくなるよ! 急いで制圧するよ!」

 

「わかってる!」

 

『アアアッ!』

 

アリシアの注意を受けていると。 ホアキンが咆哮を上げながら右手が炎を纏い、掌底を繰り出した。

 

「フレイムアイズ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

カートリッジをロードし、同様に焔を纏った剣が掌底とぶつかる。 焔を散らしながら威力を相殺した。 そのまま間髪入れず、ホアキンは左手を振り上げ、今度は冷気を纏った掌底を放った。

 

「スノーホワイト!」

 

《オールギア、ドライブ》

 

ギアを3つ全て駆動させ、冷気を纏った槍が掌底とぶつかる。 冷気が急速に広がりながら同様に威力を相殺……そして両手が伸びているホアキンの正面からなのはが飛び出した。

 

「レイジングハート!」

 

《ロッドモード、ディバインインパクト》

 

「てやああぁっ!」

 

棍に変形させたレイジングハートの打突部位の先端に球状に魔力が纏われる。 ホアキンの真下に潜り込み……飛び上がるのと同時顎に向かって棍をかち上げ、直撃と同時に魔力が炸裂した。

 

「まだまだ!」

 

『グウッ……アアアアッ!』

 

「!」

 

「なのは!」

 

《プロテクションEX》

 

「っ! ありがとう、レイジングハート」

 

《どういたしまして》

 

追撃し、反対側の打突部位に纏った魔力をぶつけようとした時、ホアキンの頭部の角が雷を放ち、なのはに向かって落とされたが……レイジングハートが攻撃を防いでくれた。

 

《サードギア、ドライブ》

 

「はっ! 散椿(ちりつばき)!」

 

落雷で砂塵が舞う中、左からホアキンに接近しながら3つ目の歯車を駆動させ。 胴体に一種で何度も切り刻んだ。

 

『ハッハハ……コノ程度カ……!』

 

だが剣戟を受け切ると、急速にホアキンの魔乖咒が高まって来た。

 

『ハハハハハ!』

 

笑い声を上げながら角の頂点から電撃が放電、周囲に無差別に落ちる。

 

「皆、屈んで!」

 

《ライトニングロッド》

 

「ぐうっ……!」

 

「フェイト!」

 

バルディッシュか掲げ、避雷針のように電撃がフェイトに集まる。 そしてホアキンは右手を掲げ、魔乖咒を手から放出され……右手が翼のような異形の剣と化した。

 

『砕ケ散レェ!!』

 

そのままこっちに向かって振り下ろされる。 まともに喰らったらマズイ!

 

「皆、右側に避けろ!」

 

「う、うん!」

 

「レン君!」

 

陽欅(ひのけやき)!」

 

振り下ろされた剣と刀が接触し……衝撃と力を受け流し、奴の剣を左側に晒す。 晒された剣は祭壇が割れ、瓦礫が飛び上がる。

 

「ぐっ……」

 

やはりあれだけの質量を受け流し切る事は難しく。 それなりに衝撃を貰ってしまう。 吹き飛ばされ、体勢を崩してしまう。 その隙を狙われ、ホアキンが右腕を掲げる。

 

「レンヤ!」

 

《リフレクトビット》

 

すかさずアリシアが3つの青いビットを使用して展開した魔力障壁が間に割って入り。 放たれた掌底を受け止めた。

 

『グウウ……! ……フフ……イイダロウ……コノママ滅ボシテヤル……!』

 

「ふざけんじゃないわよ!」

 

《プロミネンスエッジ》

 

「はあああああっ!」

 

《クリスタルスラッシュ》

 

アリサとすずかが同時に飛び上がり、巨大な焔の斬撃と氷の水晶がホアキンに直撃した。 その攻撃に耐えられず、痛みに叫ぶとホアキンの身体全身が光だし……爆発。 脱皮するように銀の甲殻を吹き飛ばし、銀の甲殻の中から金の甲殻が現れた。

 

「ええっ……⁉︎」

 

『何か剥けやがった!』

 

「この……!」

 

《トライデントスマッシャー》

 

フェイトが左手に展開した3つの魔法陣から砲撃を放った。 砲撃は同じ箇所に直撃したが……煙が晴れた時、奴は無傷だった。

 

「そんな……!」

 

「さっきとは比べ物にならないくらいスペックが上がっとるなあ……」

 

『マジやばくね』

 

一瞬でも気を抜けば負けるのはこちらだ。 その時、ホアキンから膨大な量の魔乖咒が溢れ出してきた。

 

『我ガ力、トクト味ワウガイイ!』

 

両手を地面に振り下ろし、その勢いで下半身を地面から抜き……そのまま飛び上がった。 ここでようやくホアキンの全長を目にするが、やはりかなりデカイ。

 

『灰塵ニ帰スガイイ!』

 

右手に炎を、左手に冷気を纏い、さらに2つの魔乖咒が増幅されて行く。 この状態ですでにかなりの密度の魔乖咒、もし撃たれでもしたら……

 

「何て密度の魔乖咒だ⁉︎」

 

『あんなの防ぎようがないぞ!』

 

「砲撃で相殺するよ! 皆、手伝って!」

 

「う、うん!」

 

「やるしかないないようやな!」

 

全員、カートリッジをロードしたり。 ギアを最大駆動させて魔力を高めていく。 そして……

 

『光トナレェ!!!』

 

ホアキンが両手を合わせて突き出し、相反する魔乖咒が混ざり合い……お互いを打ち消し合わず、巨大な魔乖咒の砲撃が放たれた。

 

「スターライト……」

 

「プラネットベルト……」

 

「アイスエージ……」

 

なのは、アリシア、すずかが己の最大威力の魔法を放つべく、魔力を高め。 そして砲門がホアキンに向き……

 

『ブレイカー!!!』

 

数多の星の集いから放たれる桜色の砲撃。 幾多もの砲門から放たれる黄緑色の砲撃が束となり、1つとなった砲撃。 全てを凍てつかせる冷気を持った紫色の砲撃。 それらが魔乖咒の砲撃とぶつかり合い……威力が拮抗する。

 

「ううっ……」

 

「さ、3人がかりで互角だなんて……」

 

「でも……負けられない!」

 

「アギト、急ぐわよ!」

 

『おう!』

 

《チェーンフォルム》

 

「はあっ!」

 

アリサは鎖を砲撃に巻き付けるように投擲し、アギトのコントロールで螺旋を描きながらホアキンに近付き……ホアキンを拘束した。

 

『ヌウウッ⁉︎』

 

「フェイト!」

 

《ソニックソー》

 

「分かってる!」

 

《ジェットザンバー》

 

砲撃が拮抗している間にフェイトと共に左右から接近し、刀に魔力を走らせ……交差するように斬り裂いた。

 

『シマッ……グアアアアアアアアアアッ!!!』

 

ダメージを受けた為、砲撃が散漫してしまい……拮抗を崩れ、3人の砲撃が直撃した。

 

「銀の隕石……アガートラム!」

 

『ガッ⁉︎』

 

背後から接近していたはやてがシュベルトクロイツの剣十字に密度の高い魔力を纏わせ……ホアキンの後頭部を殴りつけて地上に落とした。 偶然か否か、先ほどまでホアキンがいた場所に落とし……また下半身が埋まった。

 

『オオオオオオオオ……!!!』

 

その衝撃でホアキンの身体が隅から隅まで血の色に変色し。 右手が吹き飛び、右手が鋭利な刃物のようになってしまった。

 

「こ、これは……!」

 

「か、完全に暴走しちゃったみたい……」

 

「こうなったらもう……先生の身体は……」

 

「自業自得……そう言えば簡単だけど……」

 

『それを通り越して哀れだな』

 

「……もう、理性も無くなっているんよ……」

 

『ギイイイイイ……!!!』

 

獣の如き叫び声と人間の叫び声が混ざり合い、ホアキンは苦しみながら両腕を地面に捻り入れた。 次の瞬間、俺達の足元からホアキンのと同色の両腕が変形した紅い蔓のような物が飛び出し、身体にまとわり付かれ拘束されてしまった。

 

「なっ……⁉︎」

 

「うわっ……!」

 

『お前ら!』

 

「し、しもうた……!」

 

『……オオオオオオオオ……!!!』

 

ホアキンか完全に我を忘れており、ただ視界に入っているものを殺そうとするだけの狂人となっている。

 

「……っ……!」

 

「くっ……このままじゃ……!」

 

「こ、こんな所で……諦められない! 後ちょっと、後ちょっとであの子に届くのに……!」

 

「そうだ……! 絶対に……何としてもあの子の元に還る……!」

 

なのはと……皆と一緒に必ずヴィヴィオの元に……ヴィヴィオと一緒に第3学生寮に帰るんだ!

 

「……父さん、母さん……どうか、力を貸してくれ……!」

 

「……その発言に理解しかねますが。 あなたの両親ではありませんが、貸しにしておきます」

 

突然、頭上から少女の声が聞こえ……どこからともなく緑の巨鳥が舞い降りて来た。 その巨鳥の背には……クレフ・クロニクルがいた。

 

「あ……!」

 

「あの鳥は……!」

 

「ゼフィロス・ジーククローネ……」

 

「クレフーー!」

 

「……哀れ、ですね。 しか自業自得です……終わらせましょう。 私の過去に……」

 

《Ready、Sonic Gear》

 

クレフは魔人となったホアキンを哀れみの目で見ながらクローネの背から飛び降り、左腕に付いているガントレットを操作した。 ガントレットの画面から緑色の光が放射され、緑色の小さなパーツが出現し、パーツが組み合わさり円柱型のパーツが作られる。

 

「バトルギア、セットアップ……!」

 

クレフがバトルギアを掴みクローネに向かって投げ……バトルギアが巨大化し、クローネの背にばつ印型の装置の先端に特徴的な4つの円形部分があるソニックギアが取り付けられた。

 

「……バトルギアアビリティー、レベル2……!

クローネ……吹き飛ばして……!」

 

《Ability Card、Set》

 

「バトルギアアビリティー発動、ソニックギア・ニルヴァーナ……!」

 

バトルギアとクローネとの接点部分を中心として、ソニックギアで特徴的な4つの円形部分を大きな円を描くように回転させる。 それによって円形部分それぞれが発生させた突風が合体し、強烈な風圧を伴った巨大竜巻がホアキンを襲った。 腕が地面から離れ、拘束が解かれ解放される。

 

「腕が……!」

 

「よし、これで……!」

 

「……これが最後のチャンスです。 もうその方は保たないでしょう……どうか止めを」

 

「そんな……」

 

「くっ……!」

 

軽く言ってくれる……だが、それ以外にホアキンを救う方法がない。 苦痛にさえ悩みながも俺達立ち上がり……

 

「おおおおおおおおっ……!」

 

ホアキンに向かって駆け出した。 せめて一思いに……全力で、終わらせる!

 

「やるぞ……アリシア、はやて!」

 

「うん!」

 

「ほんま、かんにんなあ……せやけど、きちんと終わらせなぁあかん……!」

 

はやてが古代ベルカ式の魔法陣を足元に展開して魔力を溜め出し、両手で短刀を構え、アリシアは二刀小太刀と4つソードビットを構え、ほぼ同時に飛び出す。

 

「せやっ!」

 

はやてが杖をホアキンに向けて振り下ろす。 すると魔力球が展開してホアキンを拘束し……一気にアリシアと共に懐に飛び込み……

 

八咫翠華羅刹閃(やたのすいからせつせん)!!』

 

8方向から放たれた斬撃が拘束しているホアキンに炸裂した。

 

『グアアアアアアアアッ!!!』

 

ホアキンが断末魔を上げながら、身体から紅い魔乖咒が溢れでて、ホアキンの身体が崩壊して行く。 そして、ホアキンは理性を持った目で、俺達を見た。

 

『……ハ……ハハ………やるじゃないか……忌々しいが……最後に正気を取り戻してくれた事だけは………礼を……言っておこう……』

 

「ホアキン……あなたは……」

 

「………………………」

 

なのはは少し、同情した目で彼を見つめる。 他の皆も、どこかそんな心境で彼を見つめる。

 

『クク……憐れみの目で僕を見ないでくれたまえ………見届ける事は叶わないが……我らの大望は成ったのだから……あの方は………ヴィヴィオ様はきっとーー!』

 

そこで身体の限界が到達。 紅い光と電撃を放なちながら……ホアキンは消滅した……

 

「……あ………」

 

「はあ……最後まで世迷言を……」

 

「でも……哀れね……」

 

「………うん………」

 

『どうしようもない奴だったが……』

 

静寂に戻った空間で、俺は下を向きながら考え込んでしまう。 他に、方法がなかったか、と。

 

「……そう気にせんといてや。 あの狂気の薬を大量に飲んだ時点で、もう彼は助けられへんかったんや」

 

「うん……そうだね……出来れば私も、助けたかったけど……」

 

「ああ……最後まで……彼の妄想を晴らすことが出来なかった……出来ればきちんと裁きを受けて自分の罪を受け止めて欲しかった。 そうでないと……彼自身も、彼が犠牲にした人達も哀し過ぎる……」

 

「レンヤ……」

 

「……レン君……」

 

その時、フェアライズを解除したアギトとアリシアが近付いて来て……

 

「オラ! 何しけたツラしてんだ!」

 

「そんなアホ面、らしくないよ!」

 

2人に背中を強く叩かれた。

 

「アリシア……?」

 

「あたし達は全能じゃねえ! 全てが上手くいくわけがねえんだ! それでも精一杯やって、ここまで来れたんだろうが!? ベストとは言わないけど……上出来だよ! ここにいる私達達だけじゃない、クロノ達皆の力でここまで来れたんだから!」

 

「……アリシア……」

 

「……避けられない犠牲は……時にはあると思うけど。 その死を決して忘れず背負って……そして、救われた命もあると考えてもいいと思うよ」

 

「……すずか……」

 

「彼は自滅してしまったけど……まだまだ後始末は残っている。 ミッドチルダ全域の混乱、そらから操られていた人の安否も……落ち込んでいる暇は無いわよ」

 

「……アリサ……」

 

アリサ達に慰め……というより励まされる。

 

「……ありがとう。 そうだな……ヘコんでいる場合じゃないか。 それに……ヴィヴィオやクロノとの約束もちゃんと守らないとな……!」

 

「ええ……!」

 

「全員で無事にあの子の元に戻る約束……それとクロノ君に一人前と認めてもらう約束だね」

 

「アハハ……何とかどっちも守れそうだね」

 

少し離れた場所で見ていたなのは達は、微笑ましそうに見つめていた。

 

「……何だか、異界対策課に入っていればよかったって思っちゃうな」

 

「そうやなあ……ちょっと、羨ましいかもなあ」

 

「ふふ……でも、よかった……」

 

「……どうやら幕引きのようですね」

 

横からクレフの声が聞こえ……そこでクレフがいたことを忘れていたことに気付いた。

 

「本当は私の手で決着を付けたかったのですが……これもまた、巡り合わせだと納得しましょう。 過程は違えど、結果は同じですし」

 

「クレフ……!」

 

「……これで心残りは無くなりました。 私はこれにてお先に帰投させてもらいます」

 

「待って!」

 

クレフはクローネの背に飛び乗り、飛び立とうとした時……フェイトが呼び止めた。

 

「あなたは……あなたは本当にジェイル・スカリエッティの……!」

 

「ーーその質問には答え兼ねます。 そちらの聖王も知っていると思いますが……今回の私の行動に組織は関係していません。 私個人の独断です」

 

「で、でも助けてくれた……!」

 

「それはお互いの利害が一致しただけ……次に合間見えた時は、私はあなた方に弓を引きます」

 

「……そうか。 でも、これだけは聞いてくれ。 助けてくれてありがとう」

 

「……………………」

 

クレフはキョトンとした顔で俺達を見下ろし、すぐに無表情の顔に戻った。

 

「次に会う時は……どうか、私が人であるように……」

 

「え……」

 

「……クローネ」

 

「ピィィッ!」

 

クレフは何かを呟いた後、クローネに指示を出し。 クローネは翼を羽ばたかせて飛び上がり、天井に空いていた穴に入って行った。

 

「……行っちゃったね」

 

「あの子も、D∵G教団の被害者だったんだよね? 助けられなかったのかな……」

 

「それは分からないわ。 でも、あの子はあの子の居場所があるんでしょう。 それを壊すつもりは今の所は無いわ」

 

「……そうだな」

 

「さて、辛気臭いのはこれくらいにしとこ。 早くここからーー」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

突如、地下全体が揺れ始め、天井からパラパラといくつもの小石が落ちてくる。

 

「な、何々⁉︎ いきなり何なの⁉︎」

 

「こんな時に地震……? タイミングが良過ぎる気がするけど……」

 

いきなりの地震に不審に思う中。 祭壇の後ろ側の壁が崩壊し、隠れていた向こう側の空間が出てきた。 そこにあったのは……巨大な戦艦、今見えているだけでも全体のほんの一部なのがわかる。

 

「なっ……⁉︎」

 

「戦艦⁉︎ どうしてこんな所に……」

 

「っ! 見て、甲板に誰かいる!」

 

目を凝らし、甲板の上を見ると……甲板の縁に数人の集団がいた。 全員、驚いたり混乱している様子もなく。 縁に座っていたり、平常心で立っていたりしている。 いや、それ以前に……彼らの数名には見覚えがある。

 

「あれは……シャラン・エクセにサクラリス・ラム・ゾルグ!」

 

「それにジブリール・ランクルも!」

 

「エルドラド・フォッティモ……まさか……」

 

「全員、魔乖術師……」

 

1人、あの小さい子には見覚えがないが……アリサ達が知っているようで、他の4人を含めて8人全員が魔乖術師で間違いないだろう。 見知らぬ4人のうち1人は素顔を出しているが、残りの3人はフードを着て顔を隠している。 そして、彼らの乗る戦艦をよく見ると……

 

「あの戦艦……おそらく、聖王のゆりかごだ」

 

「えっ……⁉︎」

 

「な、何で動いているの⁉︎」

 

「別に内部機関を起動させて動かしてはいないよ。 ちょっとボクの異の魔乖咒の力で別の場所に移動させるために人力で動かしているだけ」

 

懇切丁寧にサクラリスが教えてくれた。 が、口で言うのは簡単だが……相当な魔力量……奴らで言う魔乖咒の量が無ければ不可能だ。

 

「ていうか、何で今頃出てきたの⁉︎ この際ゆりかごとがここにあるのかは置いておいて……あなた達のリーダーが消えたってのによくもそんな平気な顔をしているね!」

 

「……あなた達も参戦していれば、負けていたかもしれない……にも関わらず、どうして⁉︎」

 

「……オレ達はホアキンを利用していたに過ぎない。 グリードとか、神なんかに興味はない」

 

一歩前に出て、説明したのは白髪をした20代くらいの男性だった。 小脇に一冊の本を持っている。 よく見ると他の7人も同様に本を所有しているようだ。

 

「あなたは……」

 

「オレはナギ、ナギ・アスパイア。 改めて言おう、オレ達はホアキンを利用していたに過ぎない。 復讐も報復もない、ただ、この場は見逃してくれると助かる」

 

男性……ナギは右手に滅の魔乖咒を纏わせながら頼み込んだ。 明らかにお願いじゃなくて脅しに見えるが……ホアキンとの死闘でコッチはかなり疲労している。 あちらも戦う意思がないのなら……見逃すしかない。

 

「そうか、あんたがゼアドールを正気に戻してくれたんだな?」

 

「……へえ、これだけで分かるなんて、なかなか感が働くな。 そうだ、滅の魔乖咒で奴の体内のネクターを分解させた。 奴には恨みはなかったからな」

 

「……あんた達の目的は何なの。 どうしようもない奴だったけど、ホアキンからその力を貰ったのでしょう! 恩義の1つもないわけ⁉︎」

 

人として当たり前の事が許さないのか、アリサが彼らを糾弾する。

 

「……魔乖咒、異界の力を引き出して世界を歪める力……この力を引き出すにはさあ、別にネクターは必須じゃねえんだよなあ、これが」

 

「何だって⁉︎」

 

「ネクターはきっかけに過ぎず、異界の……ザナドゥの一端を感じ取り、それを己の精神で担うことで魔乖咒が発動する。 ホアキンは最後まで盲信に取り憑かれ、それに気付かなかったがな」

 

「それに元々D∵G教団に階級はあれど平等を旨としている。 集まった集団もホアキンのような狂信者だったら、利用するだけの者もいた」

 

「つまり、組織としての信頼や結束力に欠けまくっていたのよ。 あなた達がホアキンをどうこうしようが私達は無関係なわけ」

 

「くっ……」

 

「なんて奴らだ……」

 

歪である魔乖術師はともかく、それ以外の魔乖術師も人としてどこか歪んでいる。 ホアキンには劣っているかとしれないが、それでもかなりの狂人集団だ。

 

「ねえ、レン君……そう言えばホアキンさんが言っていたよね。 ヴィヴィオを誕生させたグリードは力を使い果たして、8つの本に分かれたって……」

 

「……まさか!」

 

「いいや、この本とそのグリードとは無関係だ。 全く関係がないとは言い切れないが、(くだん)のグリードはこの魔導書ではない」

 

「それでも、普通の本ではないんだね……」

 

奴らの持つ8つの魔導書から異様な雰囲気を放っている。 グリードの事を抜きにしても気は抜けない。

 

「今の私達の目的はこのゆりかごを持って行くこと。 あなた達と事を構える気はないわ」

 

「くっ……」

 

シャランがそう告げると同時に……ゆりかごが沈み出した。 船底の周辺が歪んでそこに沈んで行っている。

 

「アレだけの巨大な質量を転移させるの……⁉︎」

 

「デタラメな……!」

 

「それじゃあな、異界対策課。 それと金色の死神に翡翠の剣舞姫(メルティス)……次に合った時は覚悟しておけよ!」

 

「え……」

 

ジブリールは恐らくフェイトとアリシアの事を指しているのか、二つ名らしき名前を言い……彼らと共にゆりかごは消えて行った。

 

「……何、今の名前……」

 

「こりゃ、全員に付いてるかもなあ〜。 あーあ、変なの付けられる前に烈火の剣精でよかったよかった」

 

「あんたはそこまで気にする必要はないと思うわよ」

 

「死神……私、死神なんだ……」

 

「ま、まあ……フェイトちゃん結構バルディッシュをハーケンフォームにしてるからなあ。 仕方ないんとちゃう?」

 

「な、ならこの際、自分から名乗っちゃおうよ! 雷渦の閃姫(イースグリーフ)とか羅轟の月姫(バルディッシュ)とか!」

 

「……後者被っている上に余計酷くなってるよね?」

 

確か閃光の戦斧、だっけか? しかしすずかの奴、よくそんな言葉が思いつくな。 よく童話や小説を読んでいるからかな?

 

「そういや、アリサとすずかにもあんのかな? あだ名ってか、異名が?」

 

「……知りたくないわ」

 

「ええっと、アリサちゃんは紅蓮の執行者(エグゼキューター)で……すずかちゃんが氷結の戦乙女(ヴァルキュリア)……なんや、イメージまんまやなあ」

 

はやてがメイフォンで調べながら、やはり変な単語を言った。 っていうか、調べればすぐに見つかるのかよ……

 

「いやーー!! そんな嫌な名前聞きたくなーーい!!」

 

「お、落ち着いてアリサちゃん……! いいと思うよ、紅蓮の執行者! すごくカッコいいよ!」

 

「そ、そうそう! 鎖を使って戦うあたりが!」

 

「ああもう……なんか急にグダグタになって来てるし!」

 

一気に緊張感のない空気になった事にため息を1つついた後、ここでのやる事はないのでここから出る事にした。

 

「ほら早く帰るぞ。 一刻も早くヴィヴィオの顔が見たくなってきた」

 

「あ、うん……そうだね!」

 

「ふう、そうね。 それにルーテシア達にも……」

 

「あはは、それじゃあボチボチ戻ろっか……!」

 

「うん……」

 

少し、魔乖術師達の事が気になる中……その事を頭の隅に追いやり、俺は皆の方を向き……

 

「ーー異界対策課、撤収準備。 囚われた人達を護衛しつつ、マフィア達の身柄を確保しながら地上に戻ろう……!」

 

そして地上への帰路につき、道中のグリードが消えて比較的楽に事が進み……地上に着く頃には日が昇っていた。 そしてどうやらゼアドールは自分のケジメを付けたようで……1人残らず、カクラフ会長も含めて拘束されていたが、ゼアドール本人の姿はどこにも見当たらなかった。 恐らく統政庁に帰ったのだろう。 保護者やマフィア達の人数を確認した後、彼らをなのは達が引き受けてくれ、一足先に砦から出ると……朝陽の陽射しが地下で冷えた身体に降り注ぎ、心身共に温まる……もうすっかり夜明けだ。

 

「あ……」

 

「……朝陽が……」

 

「……綺麗だね……」

 

「うん……それに暖かいね……」

 

「それに眩しいな……」

 

「パパーーーーっ!」

 

その時、砦の入り口方面からとても聞き覚えのある、今一番会いたい人物の声が聞こえて来た。

 

「この声……⁉︎」

 

「まさか……!」

 

確認しようと急いで階段を降りると……正面にあった階段からヴィヴィオが慌てながら昇ってきて、その勢いのまま抱きつかれた。

 

「ヴィヴィオ……!」

 

「……〜〜〜っ〜〜〜〜!!!」

 

「はあはあ、待ってえ……ヴィヴィオちゃーん……」

 

ヴィヴィオは泣きそうな顔を押し付け、精一杯力強く抱き締めてきた。 その後に、ヴィヴィオを連れて来たであろう、ラーグとソエル、ファリンさんとビエンフー、テオ教官やゼストさんにメガーヌさん、それにクラウディアに搭乗していたクロノやソーマ達。 ヴァイスさん、彼に抱えられているシェルティス。 それにゲンヤさんとギンガとクイントさん……スバルとティアナとティーダさんも一緒にいた。 それと後からマフィアを拘束し終えたなのは達も砦から出て来た。

 

「よ、よかったぁ……! パパも、アリサママも……すずかママもアリシアママも無事で……!」

 

「よお、お疲れのようだな」

 

「やっほー♪ 元気?」

 

「どうしてヴィヴィオが……」

 

「あはは……しかもすごい大所帯だね」

 

「今し方、市街に展開していた警備隊員達が全員気絶した。 それで取り急ぎ、彼女を連れてこちらに出向いたというわけだ」

 

「ふふ、連れて行ってとダダをこねちゃってね」

 

「そう言いながらわざわざ連れて来ているじゃない。 あなたらしいわ」

 

「ちょ、ちょっとクイント……!」

 

「はは……」

 

2人の会話に苦笑いしながら。 一端、ヴィヴィオを身体から引き離し、クロノ達の方を向いた。

 

「クロノ、そっちも無事だったんだな」

 

「おかげ様でな。 お前達が突入した後、ティーダ率いる航空武装隊が応援に来たおかげで何とか持ち堪えられた」

 

「クラウディアもクルー達も全員無事だよ。 ミッション、大成功だね♪」

 

「ええ、何とか……ですけど」

 

「それに、スバルとティアナも無事だったんだね」

 

「はい! 私とティアも、騒動の始まりの時にティーダさんに助けられたんです!」

 

「後少し遅れていたら、身内にやられていました……」

 

「危機一髪だったわけか」

 

そうか……ギンガから連絡が来た時、かなり心配したが。 怪我が無くて良かった。

 

「はやてちゃん!」

 

「おっと……リィン、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リンス。 無事でよかったんよ」

 

「主も、ご無事でなによりです」

 

「皆そろって怪我をしているわね。 帰ったら健康診断も受けてもらうわよ」

 

「ええ〜、ぜんぜん平気だし。 そんなんいらねえよ」

 

「ダメだ、全員きちんと受けるべきだ。 魔乖咒が人体にどのような影響があるのか分からないのだから」

 

シャマルが俺達の身体にある傷を軽く診察し回り、リンスがヴィータに説教気味に注意する。

 

「すずかちゃん、怪我は大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫だよ。 ありがとうファリン、ヴィヴィオを見ていてくれてれ」

 

「はい!」

 

「当然でフー!」

 

少し疲労が見えるが、ファリンさんとビエンフーは身体で奮い立たせて元気を表現する。

 

「シェルティス君、怪我は大丈夫?」

 

「シャマルさんに治療してもらったから、大事にはならないよ」

 

《身体の丈夫さだけはピカイチですからねえ》

 

「ま、耐えるのが男ってもんだ。 これぐらいで根を上げるようなモヤシじゃねえって事だな」

 

「あ、あはは……」

 

苦笑いをして会話を流しつつ、次にゲンヤさん達の方を向く。

 

「ゲンヤさん、ギンガも……」

 

「皆さん、お疲れ様です!」

 

「こっちの部隊もようやく身動きが取れるようになってな。 それで様子を見に来たんだが……とりあえず、危機は去ったんだな?」

 

「はい……」

 

「グリードも全て姿を消してしまいましたし……」

 

「おかげで全員、連れて帰って来れたぜ」

 

「ま、マフィア達は拘束して、地下に置いたままだけど……」

 

「……むしろこれからの方が大変かもしれないわね」

 

後始末は山ほど……いや、比喩抜きで無限書庫くらいはありそうだ。 こんな所でユーノの気持ちが判るようになるなんてな……そして多分、クロノへの恨みも湧くかもしれない……

 

「そうだな……市民への説明と、諸外世界への対応……操られていた隊員のケアも必要になるな……」

 

「マフィアも一通り、拘束する必要がありそうですね」

 

「そして今回の事件に関する、一連の証拠集め……一ヶ月は大忙しだろうな」

 

「なんなら……俺も手伝ってやろうか?」

 

「……そうだな、こき使ってやるよ」

 

テオ教官は素直に手伝うとは言わず、ティーダさんもそれを理解しているようだ。

 

「……ふふっ……」

 

「確かに死ぬほど忙しくなりそうだけど……」

 

「でも……何だかすべてが良い方向に行きそうだね?」

 

「ええ……私達なら、きっと」

 

「……ああ………」

 

「うんっ!」

 

「だよね!」

 

(コクン)

 

「あうあう、でも一ヶ月も大忙しだと……学院に行けない……勉強ができない……単位が取れない……」

 

「なぜ韻を踏む……?」

 

「モコに頼んで補習を受けさせてやるよ。 もちろん、お前ら全員な」

 

「ですよねー……」

 

「ふふ……」

 

学生としても管理局としても、やる事は山積みだな。 クロノは一歩前に出て、俺達を見渡した。

 

「ーーレンヤ、アリサ、すずか、アリシア。 それになのは、フェイト、はやて。 詳しい報告はゆっくりと聞かせてもらうとして……とりあえずーー決着は付けてきたか?」

 

「あ……」

 

クロノの質問に、俺達は顔を見合わせ……

 

『はい……!』

 

大きく頷きながら返事をした。

 

「上出来だ。 これでどうやら……お前達を一人前として認めてやる事が出来そうだ。 そして、来年から始める部隊ーー古代遺物管理部、機動六課……安心して発足できる」

 

「あ……」

 

「そうだったね……」

 

「すっかり忘れとったよ……」

 

「しょうがないよ、今日は本当に大変だったから……」

 

度重なる戦いが一時的に目標を忘れていた。 と、そこでクイントさんが何か思い付いたように手を叩いた。

 

「さて! ここは記念に一枚、功績と一緒に写真に収めて起きましょうか!」

 

「え……⁉︎」

 

「クイントさん⁉︎」

 

「お、お母さん……」

 

「クイント、やっぱり役職を間違えていないか?」

 

「それに、そこまで祝うようなことでもないですよ? 敵はまだ残っていますし……」

 

「気にしない気にしない♪ ほらほら、全員入った入った」

 

「やれやれ……」

 

「ふふ、いいじゃないの」

 

クロノがやや呆れながらも、エイミィさんに腕を組まれる。 まだまだ新婚の雰囲気を醸し出して気がするな。

 

「写真、とってもらうの〜?」

 

「ああ……ニッコリ笑うんだぞ?」

 

「うんっ!」

 

「えっと、私達は……」

 

「さすがに遠慮した方がいいですよね……」

 

事件解決に貢献していないと思っているソーマ達は、遠慮がちにしている。

 

「おらおら。 遠慮すんなっつーの。 ルールーも入ってけよ?」

 

「なら遠慮なく。 ガリュー、一緒に入ろう!」

 

(コクン)

 

「やったー♪」

 

「目ぇ開いていいか?」

 

「地味に怖いからやめて」

 

「全く……」

 

「フフ、たまにはこういうのも悪くないですね?」

 

そうと決まればさっそく写真を撮るために、それぞれが立ち位置に移動する。

 

「ほな、皆も入るで!」

 

「わ、私はこのような事は初めてで……」

 

「気にすんなって! 命抜かれる訳じゃねえんだから」

 

「……ヴィータ、それはどこから聞いた知識だ?」

 

「一昔前の迷信ですぅ」

 

「……はやてちゃん、リィンに何を吹き込んでいるのかしら?」

 

「主……」

 

八神家の教育を少し垣間見ながら、次々と階段に並んで行く。

 

「ほら、お父さんも!」

 

「おい押すなよ……!」

 

「ティアもソーマの横あたりに!」

 

「ちょ、ちょっと、何でソーマの隣……⁉︎ でもこれ、どんな、絵面になるのかしら」

 

全員で階段に並び、クイントさんがメイフォンを魔法で浮かせ、自分も入りながら写真を撮る準備をとった。

 

「さあ、行くよーー……はい、チーズ!」

 

パシャリ、とメイフォンから撮影音が鳴り……1枚の写真が撮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーミッドチルダに恐るべき混乱を引き起こしたD∵G教団の存在。 それに利用されたマフィアと薬物によって操られていた警備隊。 そしてアザール議長を始めとする数々の有力者達の不始末……事件の概要は、情報局によって報じられ、前代未聞の大スキャンダルへと発展した。

 

ここに至ってクローベル統幕議長は管理局局長、警備隊最高司令両名を解任……各課の責任者やゲンヤ部隊長に事件の徹底究明を命じた。 ゼスト捜査官を始め、今まで上層部に押さえつけられていた捜査官達によって全ての議員が教団とのコネクションが洗い出され……何名もの逮捕者が出るに至って、ミッドチルダ政界に対する市民の不信感は頂点へと達した。

 

そんな中、DBMのアトラス総裁が次期市長選挙の出馬を電撃表明し……今まで兼任していたクローベル統幕議長の理念を継いで、健全な政治体制の確立を公約に掲げた。 そしてクローベル統幕議長もまた、逮捕された議員達の補欠選挙への出馬を表明し……早くも次の議長候補として各方面から期待されているという。

 

そして事件から1ヶ月後ーー

 

そのクローベル……ミゼット統幕議長によって、俺達は庁舎に呼ばれた。 事件解決の貢献人として、管理局全体から異界対策課に表彰式が執り行われた。 知人や各部隊の隊長が同席する中、俺はミゼットさんから表彰状を受け取った。

 

そしてーー白熱した市長選が終わり、俺達が通常の学院生活と業務に戻った日……異界対策課の玄関に真新しいカバンを持ったヴィヴィオの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、本当に大丈夫か? やっぱり初日くらいは俺も付いていった方が……」

 

ヴィヴィオが今日から聖王教会系列の教会の日曜学校に行く日。 異界対策課のメンバー全員がヴィヴィオの新たな一歩を心配していた。 本来日曜学校はおろか小学校にもまだ行かない年齢だが……ヴィヴィオが行きたいと初めて駄々を言ったため……渋々、だが嬉し混じりで許可した。なのは達は別件があったため。かなり羨ましいそうにしていたが……

 

「だいじょーぶ。 ちゃんと道は覚えたよ! それにユノともいっしょに行くんだし。 パパ、心配しょー!」

 

「で、でもなぁ……」

 

「全く……本当に親バカなんだから。 あんただってこのくらいの歳で旅してたじゃない」

 

「いや、それはラーグとソエルも一緒にいたからで……それにそんな非常識がヴィヴィオが出来るはずがないじゃないか!」

 

「……非常識なのは認めるんだ……」

 

(コクン)

 

ルーテシアと、球状態でルーテシアの肩に乗っていたガリューが少しだけ驚いた。

 

「ふふ、そういうアリサちゃんこそずっとそわそわしているよね?」

 

「う……こ、これはその、保護者の(さが)というか……」

 

「……やれやれ。 せっかくのヴィヴィオの晴れの日だ。 もう狙われる事も無いんだし、せめてきちんと見送ろうぜ」

 

「そうそう!」

 

(コクン)

 

「あうあう……大丈夫だよヴィヴィオちゃん。 怖い事はないよ〜、リラックス、リラックス……!」

 

「ふえ?」

 

「……サーシャ、君が一番怖いよ……」

 

不安が行き過ぎで逆に表情が暗くなり過ぎているサーシャに、ソーマは少し引いた。

 

「いやまあ……分かってはいるんだけどな」

 

「……何だか子どもを持つ親の気持ちが判る気がするわ」

 

「クク……」

 

「何だかねぇ……」

 

離れていた場所で見ていたラーグとソエルは、呆れながらも微笑ましいそうにこの光景を眺めていた。

 

「ーーお前らこそ、新市長から相談に呼ばれてんだろう?」

 

「そろそろ出かけたらどう?」

 

「あ、そうだな………その事なんだが、ラーグ、何か聞いてないのか?」

 

「一体どんな相談なの?」

 

「それは新市長から直接聞いた方がいいだろう」

 

「ーーともかく今日はレンヤ達皆にとって新しい一日になるはずだよ♪ 頑張ってね!」

 

「……了解」

 

「やれやれ。 また忙しくなりそうだね」

 

「まあ、忙しいのはいつもの事ですね……」

 

「だね」

 

(コクン)

 

忙しのはいつものこと……だが、このいつもを守る事が何よりも大切。 やる事や解決していない問題はまだまだあるが……俺は今日を掴めたんだ。 今はそれだけでいい。

 

「それじゃあ、ヴィヴィオ。 通りまで一緒に行くわよ」

 

「うんっ!」

 

それぞれの今日やる事のために玄関を開け、一度ラーグ達に向かって振り返り……

 

『ーー行ってきます!』

 

そして、新たに今日を始めた。

 

 

 




零編(仮)完結!

なんやかんやでようやくここまで漕ぎ着けました。 とはいえはまだまだ先は長い、StrikerSまでもう少しです。

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