魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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136話

 

 

行方不明者を助け出した後、探索を続け……しばらくして別の牢屋があるフロアに出た。

 

「ここも牢屋か……」

 

「ここには誰もいないのみたいだけど……」

 

「………いやーー」

 

「だ、誰かいるのか……⁉︎」

 

アリシアが気配を感じたのと同時に、男の声が聞こえて来た。 隣の牢屋を見ると……そこにはカクラフ会長と数名のフェノールの構成員が囚われていた。

 

「カクラフ会長……!」

 

「え……あのフェノールの⁉︎」

 

なのはが突然の事で驚きながらも、扉の側まで近寄った。

 

「お、お前達、どこかで見たような……」

 

カクラフ会長が訝しそうに俺達の顔をジロジロと見る中、背後にいた構成員が俺達の正体に気が付いた。

 

「お、お前らは……⁉︎」

 

「異界対策課のガキ共……!」

 

「なに……⁉︎ 黒の競売会(シュバルツオークション)を台無しにした連中だと⁉︎」

 

「別に台無しにするつもりはなかったですけど……」

 

まあ、台無しになった方が世のためだったのかもしれないが……

 

「いずれにせよ、自業自得よ」

 

「そうですよ、いつかは暴かれるはずだったのが早まっただけです」

 

「ええい、黙るがいい! お、お前達のせいでワシは議長の機嫌を損ねて危うい橋を渡ることに……す、全ては貴様らのせいだ!」

 

「物凄い責任転嫁っぷり……」

 

温厚ななのはでも呆れるぐらい、カクラフ会長は暴言を言い放った。

 

「ホアキン准教授と共謀していた訳ではあらへんと言い張るつもりなんか?」

 

「も、もちろんだとも! ネクター……ま、まさかあんな恐ろしい薬だったとは……」

 

「さ、最初は潜在能力を高める薬という話だった……ヘインダールの襲撃も成功して皆、競い合って服用したが……」

 

「昨日の夜、服用した連中の様子が全員おかしくなってしまって……そ、それでこんな事に……」

 

「……それどころか……化物みたいになったヤツも……」

 

「……なるほどね」

 

弁解するように構成員が事の次第を話した。

 

「大方、睨んでいた通りだね」

 

「………………………」

 

「こ、これで分かっただろう! ワシも被害者の1人なのだ! とっととここを開けて、安全な場所に連れてーー」

 

「ーーふざけるな!」

 

身の潔白を主張してきたカクラフを怒り混じりで一喝する。

 

「な……!」

 

「元凶は確かにホアキンだろう! だが、あんた達に責任が無いとは言わせるか! 市民に薬を流したのは他ならぬあんた達だろうが⁉︎」

 

「そ、それは……」

 

「……その狙いも判っている。 ネクターに危険が無いか市民を使ってテストしたんだろう。 あわよくば販売ルートを確立して、抗争後には広めようとした……違うか⁉︎」

 

「ぐっ……」

 

「…………………」

 

図星を突かれ、カクラフと構成員は苦い顔をする。

 

「……今回ばかりは貴方達をかばう議員は現れないわ。 アザール議長に至ってはホアキン准教授との関係について幾つもの疑惑が持たれている」

 

「もう後ろ盾は無くなったと覚悟するんだな」

 

「ぐぐぐぐぐぐ……」

 

さらに顔を強張らせるカクラフ。 アリシアは少し溜息をついた後、牢屋を見渡した。

 

「ま、それはともかく……ゼアドールのおじさんはどうしたの? てっきり一緒に捕まっていると思ったけど……」

 

「……若頭は最後までホアキンに対抗していた……だが、化物になった仲間達に力尽くで押さえ込まれて……」

 

「その後は見かけていない……」

 

「……そうですか」

 

「ちょっと、心配やなぁ……」

 

「うーん、確かに……」

 

実質、統政庁を抜けていない訳だし。 そう簡単にやられないとは思うが……その時、なのはが、少し真剣な表情で聞いてきた。

 

「ーーねえ、レン君。 この牢屋の扉、どうする?」

 

「なっ……」

 

「このままにしておいたらちょっと危険な気もするし……かといって扉を開けたら逃げちゃうかもしれないし」

 

「……ああ」

 

「正直、難しい判断やな。 私はレンヤ君の判断に任せるんよ。 ここはレンヤ君が決めるのが筋やと思うし」

 

「………………………」

 

俺はしばらく考え……側にあったレバーまで歩み寄り、レバーを下ろし、扉を開けた。 その行動に、カクラフ会長達は笑みを浮かべた。

 

「レンヤ君……」

 

「……まあ、レンヤが決めたのなら……」

 

「ふふ……仕方ないわね」

 

「………あくまで緊急措置だ。 それに、丸腰しで脱出できるほど、この遺跡のグリードは生易しくない。 大人しく管理局の救出を待った方が賢明ですよ」

 

「フ、フン……ワシに指図するな! これで貴様も用済みだ! とっとと行ってしまえ!」

 

「何だとこのハゲ! せっかく助けてやったってのに!」

 

「……行くわよ」

 

「ああ……先を急ごう!」

 

怒りを露わにするアギトを抑え、俺達は探索を再開する。 少し先の通路にを進み、通路を抜けると……かなり開けた場所に出た。 辺りを見回していると……突然女性の笑い声が聞こえてきた。

 

「フフ……やっと来ましたね」

 

「この声は……!」

 

「エリンさん……!」

 

この広場の中央に、剣を持ったエリンさんが待ち構えていた。

 

「あ……! この人は確か……!」

 

「レンヤ君達が逮捕した、ミゼットさん秘書……」

 

「おや、エースオブエースに夜天の主もご一緒とは。 知り合いとはいえ……空白(イグニド)といい、あなた達もなかなか顔が広いですね」

 

確かに仕事の関係上、顔は良し悪しに関わらずかなり広い。 だが、そんなことに付き合ってるつもりはない。

 

「ーー戯言はそのくらいにしてもらいます。 マフィアや警備隊と違って、あなたは意志を封じられて操られているわけではない……自分の意志で協力しているなら罪はさらに重くなりますよ?」

 

「フフ、その罪というのは人間が勝手に決めたものだろう? 今日から、このミッドチルダは新たなる聖地となる……どうしてそんな下らないルールを気にかける必要があるのかしら……?」

 

「エリンさん……」

 

「話が通じねえな……」

 

「……駄目だね、これは」

 

「……貴女がどんな経緯でホアキンに取り込まれたのか……いずれ、事件の後にでもきちんと聞かせてもらいます」

 

そこで一旦区切り、刀を構え……エリンに剣先を向けた。

 

「だが今は……そこを退いてもらう……!」

 

それに続くように、なのは達も武器を構えた。

 

「アハハ、いいでしょう! 偉大なる同志から授かった真なる生命(ネクター)に至る力……! その目で確かめるといいわ……!」

 

笑い声を上げながらエリンから灰色のオーラが大量に発せられる。

 

「こ、これって……!」

 

「滅の魔乖咒……なんて量なの⁉︎」

 

「まさか……!」

 

『オオオオオオッ‼︎』

 

はやてがその行動に気づいた時、オーラが一気に膨れ上がり……一瞬でエリンは異形の怪物に変貌を遂げた。

 

怪異化(デモナイズ)した……!」

 

「しかもこれは、あのマフィア達よりも……!」

 

どこからともなく2体の飛竜型のグリードが現れ、怪異化したエリンの左右に控えた。

 

『……フフ……イイ心地ダワ……魔ノチカラヲ取リ込ミ、人ヲ超エタ存在ニ進化スル……コレゾ真なる生命(ねくたー)ヘノ道!』

 

発声がかなり異常をきたしており、まるで本物の意志を持つ化物に堕ちている。 そんな姿を、すずかは悲嘆してしまう。

 

「エリンさん……! どうしてそこまで……! どこまで堕ちれば気が済むのですか……!」

 

「……本当に、哀れな人……」

 

「どんな姿になろうとも同じだ……エリン・プルリエル。 公務執行妨害の現行犯により、これより身柄を拘束させてもらう!」

 

『シャアアアアアッ‼︎』

 

エリンはもう人とは思えない咆哮を上げ……尋常ではない跳躍で一瞬で距離を詰め、剣を振り下ろした。

 

「抜刀!」

 

《ブレイドオン》

 

2つの意味で抜刀を同時に行い、振り下ろされた剣を弾く。 そして短刀を逆手で抜き、そのまま懐に入る。

 

楠間(くすのま)!」

 

軽く浮くように跳躍、そのまま短刀と長刀を別軌道で構えて回転し、エリンの身体中を斬り刻んだ。

 

『グアアアッ!』

 

「レンヤ!」

 

「!」

 

フェイトの呼びかけでエリンの体を回転の勢いで蹴って距離を取り。 1秒遅れてる先ほどの場所に飛竜が爪を突き立てていた。

 

「アクセルシューター、ファイア!」

 

同時に幾多もの魔力弾を展開、発射された魔力弾は複雑な軌道を描きながらエリンと2体の飛竜に向かって行き、頭を重点的に狙って怯ませる。

 

「今や! ブラッディダガー!」

 

はやての周りに血色の短剣が幾多も浮遊し、高速で発射され……着弾時に爆裂する。

 

『グウッ……ナメルナアアッ‼︎』

 

エリンは剣を盾にしてブラッディダガーを防ぎながら突進してきた。 だが、俺とフェイトはエリンの視界が剣で塞がれているのを利用し。 突進するエリンの横を通り過ぎて飛竜に接近した。

 

《ザンバーフォーム》

 

「はあああっ!」

 

フェイトはバルディッシュを大剣に変形させ。 横一文字で飛竜を2つに斬り裂き、飛竜は一瞬で消滅した。

 

杉重(すぎえ)!」

 

短刀で突きを放ち、浅く刺さると手を離し……柄頭を蹴り、飛竜の硬い皮膚をした胴体に捻入れ、飛竜は断末魔を上げる事もなく消滅した。

 

『グアアッ‼︎』

 

その行動に、エリンは怒りを咆哮で現し。 剣を構えると刀身に滅の魔乖咒が纏われる。 エリンは骨を軋ませながら腕に力を込め……滅茶苦茶に振り回した。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「危なっ⁉︎」

 

剣が一振りされる度に地面や壁が抉れるように消滅していく。

 

「すずか、止めるわよ!」

 

「うん!」

 

《アイスウォール》

 

すずかが正面に氷壁を何層にも作って滅の斬撃を防ぎ。 その合間を縫ってアリサがエリンに接近する。

 

「アギト!」

 

『アタックエフェクト、フレイムアサルト』

 

かなり近づいた時……氷壁の消滅とともに魔力を後方に放出、身体に焔を纏いながら一気にエリンの眼前まで接近し……

 

「はあああああっ‼︎」

 

魔力を放出する勢いで突撃しながら連続で斬りつける。 最後に飛び上がって上段から斬り降ろし、さらに反動を利用して斬り上げと同時にエリンを上空に飛ばした。

 

『ウウウ……アアッ!』

 

「うっく……」

 

痛みによる呻きを叫びに変え、空中で姿勢を変えてすずかに襲いかかった。 無造作に振られる剣を槍で巧みに捌くが、徐々にエリンの力押しに押されていく。

 

「あうっ……⁉︎」

 

『シャアアアッ!』

 

「な……ぐあっ!」

 

槍を払われ拳が追撃し、肩を強打されてすずかが吹き飛んでしまった。 次いで一瞬で距離を詰められ、エリンの左手に握られるように捕まってしまう。

 

『終ワリダ……!』

 

「ぐっ!」

 

脱出しようともがくが、尋常ではない握力でむしろ潰れないようにするのに手一杯だ。 奴の手から魔乖咒が解放されようとした瞬間……

 

「レン君を離して!」

 

《ロッドモード》

 

「はあっ……!」

 

なのはは棍を振り回しエリンの膝裏を攻撃し膝をつかせ、続けて低くなった後頭部を攻撃してエリンを怯ませる。 その隙にフェイトが左手腕に大剣を振り下ろた。 そのおかげで握力が緩み、すぐに脱出した。

 

「大丈夫、レンヤ?」

 

「ごめん、助かった」

 

『コノ……ガギ共ガ!』

 

「きゃっ⁉︎」

 

なのはを吹き飛しながらその場で掌底を出すと、そこから滅の魔乖咒が発射された。 俺達は回避行動を取りながら後退すると……異形の顔になったエリンが口元に笑みを浮かべた。

 

『フッフッフッフ、滅スルガイイ……』

 

エリンは剣を地面に刺し込むと魔乖咒を流し込み、奴を囲むように魔法陣が展開された。

 

『ソノ魂魄ゴトコノ世カラ消エ去レ!』

 

魔法陣を広がり続け、全員が魔法陣の中に入ってしまう。 このままではマズイ……

 

「やらせへんで!」

 

はやてがシュベルトクロイツを地面に突き立て、魔力をエリンに向け地に走らせ、エリンの周りの地面に四角形を描き……

 

「運命は箱の中に……シクザールクーブス!」

 

四角形から魔力障壁が迫り上がりエリンを立方体で囲った。

 

『ウガガァアア!』

 

「うぎぎぎ……!」

 

立方体を縮小させてエリンを潰そうとするが、相手も抵抗し。 はやてはシュベルトクロイツを両手で強く握りしめて魔力的にも身体的にも踏ん張る。

 

「すずか、決めるぞ!」

 

「うん!」

 

《スナイプフォーム》

 

長刀を納刀して駆け出す。 すずかはスノーホワイトを長銃形態に変え、エリンの胴体を狙って狙撃。 障壁の穴を開け……レゾナンスアークに短刀を展開させ、左手に合計三つの短刀を持ち、開けられた穴に向かって二刀を投擲する。

 

「はあっ!」

 

《……グウッ……!》

 

二刀の短刀が一点に集中して突き刺さり、次いで手元の一刀を同じ箇所に投擲。 地面を蹴り一刀と同じ速さで接近し……

 

杉重(すぎえ)三楔(みくさび)!」

 

『グ、ガアアアアッ……‼︎』

 

身を翻して一刀の柄頭に回し蹴りを打ち込み、刃先を腹部に捻り入れた。 刃先は魔力でコーティングしているため貫通しなかったが……エリンは杭を打たれたようにくの字になって吹き飛び、苦悶の叫びをもらすと……人の姿に元に戻る、そのまま地に倒れた。

 

「はあはあ……」

 

「す、すごく強かったね……一瞬でも隙を見せたら危なかったよ」

 

「ほんまにせやな……しかしネクター……どこまで常識外れなんや……?」

 

「……………………」

 

すずかはエリンの状態を見た。 あの怪異化が身体に異常をきたしてないか調べた。

 

「……大丈夫か?」

 

「うん……何とか。 かなり消耗したみたいだから、しばらくは動けないと思うよ」

 

「そうか……」

 

命に別状はないと分かり、少しホッとする。 こんなどうしようもない人でも、死なれては後味が悪い。

 

「だけど、連れては行けないし……ここに置いて行くしかないね」

 

「だね……さっさと先に進もう」

 

「そうだな……すずか、行こう」

 

「……うん」

 

すずかはエリンに向かって心の中で何かを語り、俺達は先に進むためエリンを拘束した後先に進んだ。

 

しばらくして、太陽の砦の地の底……第四層に突入した。 進む事に瘴気が濃くなり、それにつられてグリードの強さも上がって行く。 気を抜かず慎重に進み、奥にあった本拠地らしき場所があり、そこに架っている橋を渡り、奥の建物に向かおうとした時……進行方向から凄まじい闘気を感じた。 その闘気には覚えがあり、そのまま橋を渡ると……そこにはゼアドール・スクラムが臨戦態勢で待ち構えていた。 俺達はすぐさま武器を構えた。

 

「ゼアドール・スクラム……!」

 

「おじさん……ここに居たんだ」

 

「…………………」

 

アリシアの問い掛けに、ゼアドールはメイスを構えたまま無言だった。

 

「やっぱり……」

 

「どうやら他のマフィア同様に操られてしまったようだね……」

 

「……うわぁ、すごく大きい人。 それに、かなり手強そう……」

 

「元……やのうて現役統政庁の特務部隊、天の車の第一にしてフェノール商会の若頭……噂に違わぬやっちゃ」

 

ゼアドールが尋常ではない気迫と闘気を発し、はやては冷や汗をかきながら呟く。

 

「……………………」

 

「凄い気迫、手を抜ける相手じゃないよ」

 

「うん、苦戦は免れないね……」

 

なのはとフェイトが緊張を見せる中、ゼアドールは無言でメイスを正面に構え……足腰に力を込める。

 

『な、なんだ?』

 

「まさか⁉︎」

 

驚愕する間も無くゼアドールはその巨体で突進して来た。

 

「くっ……!」

 

《プラズマランサー》

 

フェイトが魔力弾を撃ち、止めようとするが……ゼアドールが豪語している防御魔法の前では足止めにもならなかった。

 

「きゃあ⁉︎」

 

「ま、まるで要塞が爆走しているようや!」

 

続けてゼアドールはメイスを振り上げた。

 

「⁉︎ あれ振り下ろされたら橋が壊れるよ!」

 

「させるかぁ!」

 

《フェアリンク》

 

アギトがすぐさまフレイムアイズのコアに入り、刀身から焔が放出する。

 

「はあああああっ!」

 

アリサはそのまま剣を振り上げ、同時に振り下ろされたメイスと衝突……力を相殺し、凄まじい衝撃が辺りに飛び交う。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

アリサとゼアドールは武器から火花を散らし、鍔迫り合いしながら睨み合う。 その隙に横から接近し、脇腹に向かって刀を振るったが……

 

「っ……⁉︎ やっぱり硬った……!」

 

ゼアドールが豪語している厚く硬い防御により容易く弾かれてしまう。 その直後、2人は鍔迫り合いをやめて離れ……追撃し、低い姿勢で下から潜り込む。

 

「……双樹(そうじゅ)!」

 

ほぼ同時に顎に向かって高速で2度蹴り上げる。 だがゼアドールは一撃目を紙一重に避け……二撃目は頭を振り下ろし、頭突きを繰り出して防がれた。

 

「痛っ……! やっぱりあんた正気だろ!」

 

痺れる足を振りながらゼアドールを指差す。 ゼアドールはしばらく俯いて沈黙していたが……顔を上げ、無表情の口元がニヤリとなっていた。

 

「ーーふははははは! さすがに誤魔化せぬか。 また腕を上げたようだな?」

 

「ええー……」

 

「………………」

 

「なんやそれ……」

 

「……はあ、道理でネクターの気配がしなかったかわけだよ……」

 

なのはとフェイトとはやてはポカンとした風に呆然とし。 アリシアは脱力して、やれやれと首を横に振るう。

 

「操られているのを装って、私達を襲う必要があったのかしら?」

 

「ふむ、実は言うと……つい数分前まではネクターを無理やり投与され、本当に操られていたのだ」

 

「え……」

 

「だが、気が付けばいつの間にか正気に戻っていた。 怪しまれる訳にもいかず、そのままここの番をしていたわけだ」

 

……誰がゼアドールと洗脳を解いたのか? だが、傷がないのを見ると、制圧して正気を取り戻せた様子でもないし。 何か別の方法でネクターを無力化した? 一体誰が……

 

「あの、体に異常はありますか? ネクターの身体能力強化はリミッターを外すような行為です……何か副作用がありましたか?」

 

「最初に投与された市民にはそれほど異常は見られなかったやけど……あんさんらの数人は怪異化する程や」

 

「……体が少し鈍くなっている。 このまま長引けば命に関わるだろう……」

 

「そんな……」

 

ゼアドールは体をほぐしながら答え。 それを聞いたフェイトは落ち込んでしまう。

 

「それでその……ゼアドールさんはこの後どうするのですか?」

 

「俺達はこのまま先にいるホアキンを捕まえに行くが……」

 

「私達も同行……と言いたいが、裏切っていたとはいえフェノールに義がないわけでもない。 私がフェノールである最後のケジメ……それをつけよう」

 

「ーーならアタシもついて行くぜ」

 

背後の建造物、その上に灰色の髪をし、右頬に切傷があるかなりラフな格好の女性が立っていた。

 

「キイか」

 

「えーっと? 数年のお勤めご苦労さん。 迎えに来たんだけど……まだ野暮用があるみたいだな」

 

「ああ、これは私がやらなければならない義務だ」

 

「やれやれ……これだから筋肉馬鹿は……」

 

キイと呼ばれる女性は首を横に振りながらボソリと呟き、俺達と同じ場所に降り立った。

 

「さっさと終わらせるぞ」

 

「付き合わなくてもいいのだぞ?」

 

「バーカ、手伝うそれくらいの器量はあるっての」

 

頭の後ろで腕を組みながらゼアドールの横を通り、俺達の横も通り抜けたところで何か思い出したように振り返った。

 

「っと、おめえらとは初めましてだな。 第七、キイだ。 まあ、よろしく?」

 

「何で疑問形なんや……」

 

「いや〜、統政庁(ウチら)管理局(アンタら)って折り合い悪いじゃんか。 今後ともよろしくーって上手く行くのか、ちょっと分かんないからさあ」

 

「そ、それは……」

 

統政庁はミッドチルダの行政を、管理局はロストロギアの管理……2つの組織に対立する要素はないが……両組織の規模は大きい。 それだけで上層部は統政庁を敵視してしまう。 はっきり言えばコッチが悪い。

 

「まあ、そんなのはいいか。 ゼアドール、さっさと行って終わらせんぞー」

 

「……ふう、久しぶりだというのに変わらんな」

 

さっさと行ってしまうキイを追いかけるように、ゼアドールが俺達を通ろうとすると……すぐ横で一度止まり、こちらの方を向く。

 

「異界対策課。 私の代わりにホアキンに一撃を入れてはくれないか?」

 

「……そんなの、言われなくてもやるよ」

 

「結構」

 

それだけを言い残すと、ゼアドールは俺達が来た道を歩き出し。 先に行ったキイを追いかけたのだった。

 

「……凄い人だね、ゼアドールさんって……」

 

「あそこまで真っ直ぐな人、そうはいないよ」

 

「ちゅうか、一体何のためにフェノールに潜入してたんやろな?」

 

『さあな、大方上司かなんかからの要求とかじゃねえの?』

 

「……とにかく、後はホアキンただ1人ね」

 

建造物を見つめ、虚空で奥を探ってみる。 暗闇の先からは何も感じない……だが、それだけでも異様な感じがしてしまう。

 

「ーーどうやらこの先に真の黒幕がいるみたいだな。 今までの魔乖術師達からしても恐ろしく危険な相手だろう。 皆……準備はいいか?」

 

「ええ……!」

 

「もちろん!」

 

「いつでも行けるよ!」

 

『やってやるぜ!』

 

「こっちも任せて!」

 

「準備はいつでも!」

 

「さっさと捕まえて、ヴィヴィオを安心させたる!」

 

「よし……これより教団幹部司祭、ホアキン・ムルシエラゴの身柄拘束、及び逮捕に踏み込む……各自、全力を尽くしてくれ!」

 

『おおっ‼︎』

 

俺達は、最後の決戦を迎えるため……入り口に向かってはしひだした

 

 


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