魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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134話

 

同日、23:30ーー

 

レンヤとシェルティスがファーストフェイズ実行のため小型の飛空挺で出動した頃、別働隊である残りのメンバーは来たる作戦のため各々武装の準備をしたり体を休めていたりしている。

 

『…………………』

 

現在、作業を終えたアリシア、フェイト、すずかの3人が死屍累々とソファーで寝ている。 その手にはシャ丸印の炭酸飲料が……

 

「……これが、ファ◯タGですか……」

 

「で、でもでも、確かにちゃんと魔力は回復してますよ……!」

 

「あれで回復していると言われてもねぇ……」

 

(コクン)

 

後輩達は上司の姿と炭酸飲料を交互に見て戦慄する。

 

「効果は覿面だが、いかんせ味が最悪だからなあ」

 

「むしろ効果が無ければタダの兵器だ」

 

「2人とも酷い⁉︎」

 

「事実だろ」

 

ザフィーラの言う通り事実だが、かなり受け入れ難いのかシャマルはヨヨヨと崩れ落ちる。

 

「それにしても、レンヤさん達大丈夫でしょうか?」

 

「おめえが気にしても仕方ねえだろ、バッテンチビ」

 

「むう、そんなことないですうーー!」

 

「こら、2人とも」

 

「全く、喧嘩しないの」

 

『ーー作戦開始10分前だよ。 皆、配置について』

 

アギトの煽りをリインは間に受け、リンスとアリサは呆れながらも仲裁しようとした時、艦内に放送が流れた。

 

「ほら行くわよ。 レンヤとシェルティスも頑張っている、私達も負けていられないわ」

 

「りょ、了解……」

 

「気合い……入れ直さないとね」

 

アリサ達はセカンドフェイズ実行のためクラウディアの外に出た。 正面遠方には航空武装隊の次元戦艦が軒を連ねていた。

 

「……改めて見ると圧倒されるね……」

 

「あれを相手に、たった一隻で立ち向かうのですか……」

 

「作戦通りなら、勝ち目はある」

 

その時、お国見える母艦がゆっくりと墜落していき。 他の戦艦の様子が変わった。

 

『敵母艦、機関の停止を確認。 これよりセカンドフェイズに入るよ』

 

「レンヤ、やったんだね……!」

 

「でも、これかが本番です」

 

作戦の第2段階移行を確認した後、全員デバイスを起動させ。 バリアジャケットを纏う。

 

『これより進路を切り開く。 シグナム、よろしく頼むぞ』

 

「任せろ」

 

《ボーゲンフォルム》

 

カートリッジを使用しレヴァンティンを鞘と合体させ弓に変化させ、弦を引くと矢が形成される。

 

「翔けよ、隼!」

 

《シュツルムファルケン》

 

戦艦の合間をギリギリで狙い、射抜かれた矢は隼の形をした炎となって放たれた。

 

「行っけえーー!」

 

「…………! 待って!」

 

放たれた隼の射線上の空間が歪み出し、そこに隼が呑み込まれて消えた。

 

「消えちゃったです⁉︎」

 

「これは……⁉︎」

 

「異界の気配! 皆、気を付けて!」

 

各自、武器を構えて周囲を警戒する。 するとクラウディア頭上の空間が歪み……呑み込まれたはずの隼が出てきた。

 

「なっ⁉︎」

 

「軌道を変えられた!」

 

「うおおおおっ‼︎」

 

すぐさまザフィーラが飛び出し、障壁を展開して隼を受け止めた。 ザフィーラは苦悶を漏らしながら耐え、時間が経つと隼が次第に消えていった。

 

「ぐっ……さすがは烈火の将だ。 見事な一撃だった……」

 

「そんな賞賛はいらん! 防がれたのならまだしも……私の攻撃がお前達に向けられるとは……!」

 

シグナムは屈辱の限りと思わんばかりに拳を握り締め、怒りに震える。

 

「どこにいやがる! 隠れてないで出てこい!」

 

「……やれやれ、言われなくても出てやるよ」

 

クラウディア甲板の上、アリサ達の眼前の空間が歪み……1人の小柄な少女が出てきた。 血のような赤い髪、さらに左右側頭部の一部が白いメッシュらしきものがあり。 肉食獣の如き鋭い目付きに、時折口元に見える犬歯はまるで獣を彷彿させるようだ。 服装はいたって普通のようだが、首にはなぜか猛獣が付けるような刺々しい首輪があった。

 

「全く、せっかちな野郎どもだぜ。 ホアキンの野郎に頼まれたとはいえ、オレが出向くまでの敵じゃねえだろ」

 

「え、えーっと……」

 

サーシャはあまりの口の悪さに困惑するが、少女が言い放った言葉は全員を舐めている風に捉えられるため……

 

「随分と下に見られたもんだなぁ……!」

 

「ガキだからって舐めた口聞いたんじゃねぇよ……!」

 

乗せられやすい赤い2人はこうも簡単に煽られてしまう。

 

(……なんかあの子、昔のヴィータちゃんに似てない?)

 

(ああ、あそこまでの暴言は言わないが……)

 

(細部は違うが、容姿も似ているな)

 

少女とヴィータを見比べた後、シグナム達は後ろでこそこそと集まって何やら話し合っている。

 

(キャラが被っているですぅ)

 

(リ、リイン……どこでそのような言葉を覚えた?)

 

(はやてちゃんですぅ!)

 

(あ、主……)

 

「何やってるのよ、あなた達……」

 

「まあ、分からなくもないけど」

 

「あ、あはは……」

 

警戒しながらも横目でシグナム達を見て呆れるアリサ。 すずかもその行動の意味を理解し、フェイトは苦笑いしか出来なかった。

 

「それであなた、私達の邪魔をする……って事でいいのかしら?」

 

「まあそうだなぁ。 オレとしてはどうでもいいが……ホアキンに雀の涙程度の恩もあるし、テメェらにはここで悲鳴を上げてもらおうか……!」

 

少女は手を正面にかざし、手のひらの上の空間が歪み。 1冊の本が現れる。

 

(ゆが)みし世界樹(せかいじゅ)紙片(しへん)……オレはジブリール・ランクル! 魔乖術師、“歪”の担い手! さあ、行くぜ!」

 

「くっ……!」

 

少女、ジブリールの手に持つ本が独りでに開き始め。 左右の空間が歪み出し、そこから巨大な岩を飛ばしてきた。

 

「あっはっは! 潰れちまいな!」

 

「この子がサクラリスが言っていた歪の魔乖術師⁉︎」

 

「確かにどこかおかしな子ね……」

 

岩をクラウディアに打つける訳にもいかず、アリサとすずかが岩斬り裂き、残った破片をソーマとサーシャが外に出弾いた。 シグナム達も参戦しようとした時、いち早くその行動をジブリールが感じ取った。

 

「おっと、残りはこいつらと遊んでな」

 

ジブリール達の周りの空間が歪み……魔物の如き異形のグリードが現れた。

 

「なっ⁉︎

 

「このグリードは……⁉︎」

 

「現存するグリードにホアキンの野郎が手を加えた強化体だ。 オレ達に比べれば弱ぇが……時間稼ぎにはなんだろう」

 

「くっ……」

 

《シュランゲフォルム》

 

「邪魔だ!」

 

レヴァンティンを鞭状の連結刃に変え、周囲を薙ぎ払うように振り抜いた。 刃はグリードに斬りかかり、ダメージを与えて体勢を崩させる。

 

「急襲、猛牙、噛み付きなさい!」

 

《アベンジャーバイト》

 

その隙にシャマルがペンデュラムフォルムのグラールヴァントを揺らしながらジブリール方面にいたグリードを風の牙で噛み千切る。

 

「喰らえっ!」

 

《ゲフェーアリヒシュテルン》

 

シャマルが開けた場所に、ヴィータがジブリール方面に赤い魔力弾を前方に複数展開し、アイゼングラーフを担いだ。

 

「おっと」

 

「でやっ!」

 

鉄槌によって弾かれた魔力弾は……ジブリールではなく横にいたグリードに直撃した。

 

「ヴィータちゃん、あの子を狙ったんじゃなかったの?」

 

「あれ? 確かに狙ったんだけど……」

 

「くっははは! そりゃオレがそう仕向けたからな」

 

「何だと、どういう事だ!」

 

「オレの歪の魔乖咒は万物を捻じ曲げる力を持っている。 そして、それは人の心さえも歪めて捻じ曲げる事だって可能だ! 今回はテメェの敵意を曲げてグリードに向けてやったんだよ」

 

「人の心を⁉︎」

 

今まで出会った事のないタイプの敵に、全員の警戒心が跳ね上がる。 その変化を、ジブリールは眉を曲げて感じ取った。

 

「ほうほう、心が面白い方向に向いている、な!」

 

魔乖咒を手に纏わせ、人差し指を立てて色んな方向に指を振った。

 

「来るぞ、全員気を抜くな!」

 

「誰に言っているのよ。 この程度の()()()()、取るに足らないわ!」

 

「早く倒して、レンヤ君を助けないと!」

 

『おいお前達、何をーー』

 

「面白いとこなんだ。 邪魔すンじゃねぇよ」

 

全員の視線がジブリールから逸れ、クロノが呼び止めようとしたが……ジブリールに妨害され、アリサ達はグリードのと戦闘を開始した。 まるで彼女の敵意が無くなったかのように。 そして、それを仕向けたジブリールはアリサ達が必死にグリードと戦うのをニヤニヤと眺める。

 

「姉さん!」

 

「ほい来た!」

 

フェイトがグリードの足を魔力弾で撃ち抜き、体勢が崩れた所をアリシアが二刀小太刀で斬り裂いた。 グリードが消滅したのを確認し、フェイトが少し安堵した時……ふと視界にジブリールが入った。

 

(あの子は……確かジブリール。 なんでこんな所にいるーー)

 

「!」

 

《ハーケンフォーム》

 

「お?」

 

名前は知っている。 だがそれ以外なにも知らない女の子が、こんな場所で落ち着いている……そう思った時、彼女が何者か思い出し。 バルディッシュを変形させて鎌を掴み、駆け出した。 その行動にジブリールも反応し、振り下ろされた鎌を受け止めた。

 

「今すぐ皆の誘導をやめなさい!」

 

「誰がやめるかよ!」

 

フェイトがハーケンフォームのバルディッシュを横薙ぎに振り、まずはあの怪しげな本を狙おうとした。 だがジブリールは両手に手甲を装着し、そのまま受け止めた。

 

「なっ⁉︎」

 

「そらよ!」

 

「あぐっ……!」

 

一瞬の隙にフェイトが引き寄せられ、腹部に蹴りを入れられた。 フェイトが攻撃されたのにアリサ達が気付き、ジブリールがフェイトに手を出した……と思うと、苦痛の表情になって我にかえった。

 

「やられた! まさか今度は敵意を曲げられるなんて!」

 

「う〜……! 魔乖咒って何でもありー⁉︎」

 

「お、落ち着いてルーテシアちゃん」

 

(ポンポン)

 

「大丈夫、フェイトちゃん?」

 

「う、うん、平気だよ……思ったより重くなかったら」

 

「まあ、あの身長だからね。 蹴りはあんまり深くないでしょう」

 

「だが、油断は出来ない。 あの娘、魔乖咒の扱いもさることながら……どうやら徒手格闘にも秀でているようだ」

 

「ああ、フェイトをああも簡単にあしらうとは……」

 

ザフィーラは敵ながらジブリールを賞賛する。

 

「それにとっくに開始予定時刻を過ぎています。 このままだと作戦にも支障が……」

 

「……エイミィさん。 レンヤさん達から連絡は?」

 

『……………………』

 

「エイミィさん?」

 

応答がない事に不審に思うが……すぐに慌てた声が聞こえてきた。

 

『ご、ごめん! ちょっとこっちも立て込んでいて……!』

 

「それで、レンヤ達の状況は?」

 

『………数分前、レンヤ君達を乗せた飛空艇の……反応が途絶えた』

 

「……………え………………」

 

苦しげに言ったエイミィの言葉に、フェイトは思わず真っ白になる。

 

『どうやら母艦を脱出した後に襲撃を受けたみたいなんだよ。 今現在も反応を探索しているけど、妨害があるのか居場所がまだ掴めなくて……』

 

「そんな……」

 

この世の終わりのような絶望に陥るフェイト。 信じたくはないが、最悪の事態ばかり頭の中を過ぎる。

 

「大丈夫よフェイト。 レンヤは悪運は強いから、そう簡単にくたばらないわ」

 

「そうだよ。 フェイトは今までレンヤの何を見てきたの?」

 

アリサ達は何の不安も心配も感じてない。 フェイトは次第に落ち着きを取り戻した。

 

「……そうだよね。 ありがとう、皆」

 

「そうそう、落ち込んでいるなんてフェイトちゃんらしくないよ」

 

「んじゃ、まずはあの生意気なガキをぶっ潰さないとな!」

 

「あ、そういえばあの子はーー」

 

「………………(プルプル)」

 

ルーテシアがジブリールの方を確認しようと彼女のいる方向を見ると……茶番だと思っているのか、笑いを堪えるのに必死だった。

 

「清々しい程、性根歪んで捻じ曲がってんなー……」

 

「……サクラリスの言う通りだったわね」

 

「あんなに()()()のに……」

 

「! 小さい、だあ……⁉︎ テメェ……言っちゃいけねえことを言ったみてぇだなぁ……!」

 

「あ……」

 

リインの何気ない一言が、笑いを堪えていたジブリールを一瞬で怒らせた。 どうやら身長が低いというコンプレックスを刺激してしまったらしい。

 

「許さねえ……テメェら全員極刑だッ! 惨たらしくかっ捌いてやる!」

 

怒りに共鳴して手甲が変形していき、手甲に大きな鉤爪が装着された。

 

「そらっ!」

 

「きゃっ!」

 

突進。 そして力任せに振られた鉤爪はサーシャに向けられ、輪刀では防ぎ切れずに吹き飛ばされる。

 

「はあっ!」

 

「おっと」

 

横から振られたソーマの剣を避け、続けて鉤爪と剣が何度も打つかり火花を散らした。 力は五分、だが経験はソーマの方に分があり、巧みに2つの鉤爪を捌いてジブリールに剣を届かせる。

 

「はっ!」

 

「っ……痛ってぇじゃねーか。 こんな野郎に痛めつけられるなんて……! オレこそが痛めつける側なんだッ! それを思い知らせてやる! ミクロの果てまで刻み尽くしてやるッ‼︎」

 

血走った目で睨みつけるジブリール、まるで正気を失っているかのようだ。

 

「うらああああっ‼︎」

 

獣のような咆哮をあげ、歪の魔乖咒が放たれる。 すると地面が……クラウディアが揺れ始め、船体が軋み出した。

 

「まさか、クラウディア本体を破壊するつもり⁉︎」

 

「本当なら心を曲げて仲間割れにしてやりてぇが、オレはまだそこまで細かいことはできねぇ。 だがよぉ、思いっきり歪めてぶち壊すくらいは簡単なんだよ!」

 

「そんな⁉︎」

 

「今すぐやめなさい!」

 

「やなこった〜!」

 

(ブチ……!)

 

お巫山戯でここまでの愚行を重ねたジブリールに、アリシアはとうとう何かが切れた。

 

「……はあ。 そう、残念……」

 

「え、ちょっと姉さん。 まさか……」

 

前髪で顔を隠して黒く笑うアリシアに、フェイトは何をするつもりか理解する。

 

「ーー武力行使♡」

 

とてもいい笑顔でとんでもない事を宣言し、2丁拳銃を構えて、周囲にタクティカルビットを浮遊させる。

 

「そんじゃまあ、予定が詰まっているからサクッと終わらせるよ」

 

「あ、姉さん!」

 

タクティカルビットを攻撃形態のソードビットに変形させて突撃するアリシア。 フェイトはそれを止める……かと思いきやバルディッシュ構えて便乗した。

 

「へっ!」

 

受けて立とうとジブリールも鉤爪を構え、防御姿勢を取るが……2人の武装がジブリールの鉤爪に触れた瞬間、空間が歪み。 2人はそこに呑み込まれてクラウディア付近の別々の場所に落とされた。

 

『意気揚々と啖呵切っておいてアッサリ飛ばされているよ⁉︎』

 

『いや〜、キレているかと思いきや結構冷静だったね、あの子』

 

『こんな時でも姉さんはブレないね!』

 

距離が離れているため念話で会話し、飛行魔法で落下を止め、クラウディアに向かって飛翔した。

 

《サー。 このままではクラウディアは後60秒で崩壊、墜落します》

 

バルディッシュの予測を聞き、すぐさまクラウディアに向かって最高速で飛翔する。 だが思いの外遠くに飛ばされており、戻ったとしても残りの時間でジブリールを倒し切ることは……と、そこで2人は決心した。 この状況を切り抜けるための手段を使う事を。

 

『姉さん!』

 

『フェイトやるよ!』

 

『うん!』

 

《エアロシールド、アクティベート》

 

2人の背中に非固定型のシールドを展開し、クラウディアに向かって前に進みながらお互い近寄り距離を詰める。

 

《セブンスコード、受信範囲到達》

 

《ファーストプロポージング、レディ?》

 

「コネクティブアリシア!」

 

「ーーアクセプション!」

 

準備が整い……バルディッシュとフォーチュンドロップの誘導で、フェイトは迷わずシステム起動を宣言し、アリシアが了承することでシステムが起動した。 2人の頭にヘッドギアが展開、表面に描かれた丸い模様が虹色に光り出す。

 

《アプローチリング装着、展開》

 

《エスフィストガイド、ナビゲーション開始》

 

《アプローチリング受諾。 リンケージ開始》

 

《フォースベール、オープン》

 

《エンファティアレベル上昇。 コンソルクション開始》

 

《エスフィスト、アウト》

 

2機の誘導でシステムが構築されていき……次の瞬間、フェイトは突然不思議な空間に入った。 そこは日も照らす青空の中で雲の上。 魔法も使わず重量に従って落下するのみ。 そのまま雲の中に入った瞬間、水の中に飛び込んだ感覚になり……すぐ側をアリシアが通過した。 そこで現実に戻った。

 

システムが正常に起動。 2人の装備しているエアロシールドが背中に移動し、鱗状のエネルギーが結合して形成されたエアロスケイルの翼がそれぞれの魔力光で輝きながら展開される。

 

《カップリング、コンプリート》

 

「これが……」

 

フェイトは自分の身に起きた感覚に戸惑う。 感覚が何倍にもなっているような感覚……身体が軽く、誰よりも速く、どこまでも遠くに行けそうな気もしてくる。

 

『200秒! 200秒で片をつけるよ!』

 

『う、うん!』

 

スピードを上げると……今までとは比べ物にならない程の速度で飛翔し、ものの数秒でクラウディアに帰還。 視界にジブリールの姿を捉えると……

 

「なっ⁉︎」

 

フェイトの姿がかき消え、一瞬でジブリールの眼前に出てきた。 転移の如き知覚出来ない程の高速……いや、これはすでに神速の域に達っしている。 こんな速度を出せるのは今の状態のフェイトとアリシアだからこそできる荒技。

 

「せやっ!」

 

「ぐっ……!」

 

「姉さん!」

 

「了解!」

 

無防備に空いた胴体に掌底を打ち込み、ジブリールを艦の外に追い出し。 吹き飛ばされた先にいたアリシアが……

 

「天まで吹っ飛べ!」

 

《マルチブラスター》

 

「うわああああっ⁉︎」

 

6機のタクティカルビット全てが射撃形態ビットレーザーに変形し。 両手の2丁拳銃と加えて8門の砲門から砲撃された集束魔法は全てジブリールを捉え、ジブリールは宣言通り空高く、遠くに吹き飛ばされていった。

 

「よし! 障害は消えた!」

 

「あの子……SとMの両方を持ってそうだったわね」

 

「誰も聞いてないよ!」

 

「そんな事より、すぐに砲撃を! 作戦を再開させるよ!」

 

「シグナム、また撃てる?」

 

「……いや、1発撃った上に先の戦闘でそれほど魔力は残っていない。 撃てたとしてもまともな威力はないだろう」

 

「分かったわ。 なら私がーー」

 

「いや、その役目はあたしがやる」

 

ヴィータはグラーフアイゼンを担ぎながら、クラウディア前方に向かって歩く。

 

「お前らはこの後も戦い続けるんだ。 体力と魔力は温存しておけ」

 

「でも、ヴィータに砲撃系の魔法あったっけ?」

 

「結構前にそういう武装をすずかに頼んでグラーフアイゼンに積んでもらってたんだ。 まだ未完成の装備だが、整備と調整は済ませてある」

 

「……突入隊を抜いて他に砲撃を使える人はいないからな」

 

「あ、あのあの、私も……砲撃、使えますけど?」

 

「ならシグナムのシュツルムファルケンレベルの威力は出るのか?」

 

「……………ごめんなさい」

 

「引き下がるの早⁉︎」

 

(コクン)

 

落ち込むサーシャは放って起き、アリサはブリッジと連絡を取る。

 

「エイミィ! エンジンは温ったまっている?」

 

『さっきから臨界一歩手前で準備万端! いつでも飛ばせるよ!』

 

「よし、ならさっさと始めるわよ!」

 

「ヴィータ、任せたぞ!」

 

「おう! さあ、次世代の……新しい力を見せてやる!」

 

ヴィータは背後に赤いベルカ式の魔法陣を展開し、そこから巨大な白いレールガンが出てきた。そして腰からエネルギーパック状のカートリッジを取り出す。

 

「カートリッジ、セット……!」

 

それをレールガンに装填、魔力が循環し砲門が展開、バレルが飛び出しさらに砲門が開いた。 急速にエネルギーがチャージされていき……

 

《ブラスターコントローラー》

 

「喰らえぇっ‼︎」

 

ドオオオオオオッ‼︎

 

トリガーが引かれ、チャージされていた魔力が発射された。 赤い砲撃が戦艦の合間を縫って通り抜け。 どこにも直撃せず、空に霧散していった。 砲撃を避けようとして戦艦が動いたおかげで、クラウディアが通り抜ける道が開けた。

 

「フェイト、行くよ!」

 

「了解、姉さん!」

 

クラウディアがアフターバーナーを噴かせ……太陽の砦に進路を向け、クラウディアは発進した。 そしてその前方にフェイトとアリシアが先導する。

 

『フェイト執務官ならびにアリシア二尉、所定ポイントに到着』

 

『2人とも、30秒だよ。 それが限界……気を付けてね』

 

すずかの心配混じりの声援を受けとり、フェイトとアリシアは顔を合わせ頷いた。

 

『機関、臨界到達!』

 

『クラウディア! フェイトとアリシアを追って直進! 最大船速‼︎』

 

クロノの指示でクラウディアは急加速、開けられた艦隊の合間を縫って進んで行く。

 

「うっ……」

 

「す、凄いG……」

 

「それにフェイトさんにアリシアさんもすごいスピード……」

 

「デバイスの技術限界を遥かに超えた性能……今の2人はお互いのポテンシャル共有している。 リンケージにより脳だけじゃなくて、全ての感覚を遅延劣化ゼロで共有……互いの能力を級数的に高め合っている」

 

「つまり、テスタロッサ姉妹の実力を掛け合わせたのが2人いるというわけか」

 

「……あの状態の2人を相手にしたくはないわね」

 

クラウディアにへばり付きながら、高速で飛行している2人を見てアリサ達はそう呟く。

 

《コードユニゾライズ、発動》

 

「行くよ!」

 

「うん!」

 

フォーチュンドロップの指示でフェイトとアリシアはお互い同時に横を回転し、背中のシールドを移動させサーフボートのように乗り……エアロスケイルを展開しているシールドを衝突させた。 そうする事で互いのエアロスケイルが干渉し、正面に2人の魔力光が混ざった黄色より濃い黄緑色の魔力光による壁が張られる。 そして、前方にいた多数の戦艦から魔力砲撃がクラウディアに向けられ放たれ……その全ての射線上に入り、砲撃を弾いた。 弾いては移動し、弾いては移動……それが息つく間も無く神速の速度で繰り返される。

 

「外してクラウディアに当てないでね!」

 

「そんなヘマしないっての!」

 

「姉さんだから心配なの!」

 

「それどういう意味⁉︎」

 

妙に喧嘩気味に会話するが、その間も神速の速さで砲撃を防ぐ2人。 そして残り10秒を切ったころ、徐々にスケイルの輝きが失われていく。

 

《3、2、1……タイム、アウト》

 

30秒を切り、エアロスケイルは完全に輝きを失った。 だが、その30秒の間にクラウディアは太陽の砦上空に到着した。

 

『降下開始!』

 

「行くわよ!」

 

「皆、どうか無事で!」

 

「行ってくるぜ!」

 

「皆さん! どうかお気をつけて!」

 

「主をよろしくお願いします!」

 

クロノの合図でアリサ、すずか、アギトは甲板を駆け出し。 声援をもらいながらクラウディアを飛び降りた。

 

「すずか!」

 

「フェイトちゃん!」

 

「掴まって!」

 

フェイトとアリシアはまだリンケージは切れて無かったので。 フェイトはすずかを、アリシアはアギトがしがみ付いているアリサを抱え。 一気地上に向かって急降下した。 フェイトはチラリと戦艦から攻撃を受けて遠ざかって行くクラウディアを見た。

 

(皆……)

 

「ーー大丈夫だよフェイト。 クロノが乗っている次元艦なんだよ? そう簡単に落ちたりしないよ」

 

「姉さん……」

 

「まだリンケージしているんだから、フェイトの考えは見え見えだよ♪」

 

そうしている間に太陽の砦前に降り立ち、辺りを見渡した。

 

「……レンヤ達は奥かしら?」

 

「連絡は取れないけど……おそらく」

 

「……デカップリング」

 

アリシアがシステム解除を呟き、エアロスケイルの翼がシールドに収納され、リンケージが切れる。 すると疲労が出たのかフェイトとアリシアはよろけて膝をついた。

 

「う……」

 

「さ、さすがにぶっつけ本番はキツいね……」

 

「大丈夫、2人共?」

 

「休むなら奥の方が良いわ。 肩を貸すから速くーー」

 

「おーい、皆ー!」

 

草原の方から彼の声が聞こえ、暗闇の中から走って来たのは……シェルティスとヴァイスの襟を掴んで疾走しているレンヤだった。

 

「レンヤ君!」

 

「無事だったか!」

 

「まあな。 シェルティスは無事じゃないが」

 

「…………………」

 

《いえ、あなたがとどめを刺しましたよ?》

 

「う……酔った……」

 

レンヤに引き摺られた2人は力無く地面に倒れる。 慌ててすずかが治療に当たる。

 

「そっちも敵の妨害にあったのか?」

 

「ええ、歪の魔乖術師にね。 サクラリスの言っていた通り狂っていたわ」

 

「レンヤ達にも敵が来たの? いきなり反応が消えたって聞いたから本当に心配したんだから」

 

「あー、かなりの強敵が出て来てな。 そいつに落とされたんだ。 痛み分けでなんとか勝てたくらいだ」

 

「そうみたいだね」

 

応急処置を終えたすずかが近寄り、レンヤの頰に手を当てて傷に治癒魔法をかける。

 

「っ……」

 

「あ、もうレンヤ君。 動かないで……!」

 

その時、レンヤは頰にあたる手からふわりと香るラベンダーのような匂いにドギマギして顔を背ける。 だがそうするとすずかを傷から遠ざける事になってしまい、余計密着する事になった。

 

「こっちも何とか隙を突いて迎撃できたくらいだ。 あんな奴2度と相手にしたくねぇ」

 

「歪か……余程の曲者だったみたいだね」

 

「ったく、敵はバケモノ揃いかよ……」

 

「……とにかく、本番はこれからだ。 まずは先行しているなのはとはやてと合流するぞ!」

 

「うんっ!」

 

「了解だよ」

 

疲労から回復したフェイトとアリシアが立ち上がり、太陽の砦に向かった。

 

 


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