魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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131話

 

 

DBMの侵入工作を防ぐため、俺達異界対策課はゲートに向かって走っていた。 すずかが管制室に指示をするとゲートが下がり……円筒状の装置を設置している2人の警備隊員がいた。

 

「させるかっ!」

 

「とりゃ!」

 

アリシアと同時に警備隊員に蹴りを入れて、装置から引き離した。 操られている警備隊員はすぐさま機関銃型のデバイスを起動し、襲いかかってきた。

 

「内力系活剄……旋剄!」

 

ソーマが脚力を大幅に強化し高速移動を可能にし。 一瞬で警備隊員の前に立ち、デバイスを斬り上げた。

 

「ガリュー!」

 

(バッ!)

 

「フレイムアイズ!」

 

《アームズエイド》

 

ガリューが鳩尾に膝蹴りを入れ、アリサは腕力を強化して顔面を容赦なく殴り、坂を降れせた。

 

「アリサ、容赦無いね……」

 

「こうした方が正気に戻りやすいのよ」

 

「……ルーテシアの方がまだ優しいかったな」

 

「そうですね、いつもよりは」

 

「ソーマさん、それって私はいつも優しくないんですか……?」

 

ルーテシアはソーマに抗議する……それは放っておいて、残りの気絶した警備隊員は拘束して横に転がした。

 

「おおっ……!」

 

「やるじゃないか!」

 

後から付いてきた整備員と警備員が一連を見て褒める。

 

「よし……!」

 

「油断しないで! すぐに次がくるよ!」

 

「爆弾はまだ起動前、中に運び込んで解体してください!」

 

「ああ!」

 

「運び込むぞ!」

 

「ひっ、ひええ……!」

 

爆弾をここの整備員と警備員に運び込ませたの同時に、それを待たずして次の警備隊員が現れた。

 

「来たか……!」

 

「喰い止めましょう!」

 

次々と坂を登り、襲い掛かってくる警備隊員達。 連携し、各個撃破で確実に数を減らして行くが……こうも人海戦術で来られたら退却もままならない。

 

「くっ、中に入ろうにもこう矢継ぎ早に来られたら……!」

 

「ゲートを閉める時間を何とか稼ぐわよ!」

 

「は、はい!」

 

俺達は敵の猛攻に対処していくが、次第に疲労が目に見えてくる。

 

「この……!」

 

《バレットインパクト》

 

アリシアが2丁拳銃から着弾地点から衝撃波を発生させる魔力弾を敵集団めがけて無作為に撃ち……アリサが剣に焔を纏わせ、刃を伸ばして横薙ぎに構えた。

 

《アタックエフェクト、エクステンドエッジ》

 

「はあっ!」

 

横に一閃し、軌跡が地面に残ると……そこから焔が吹き出して広範囲に広がり、敵を一掃する。

 

「これで最後か……?」

 

「! いえ、第二波接近! まだまだ来ます!」

 

「くっ、ずいぶんと行儀よく正面から来るわね!」

 

と、アリサがそう言った次の瞬間、突然頭上に異界の気配を感じる、上空の空間が揺らぐと……次々と警備隊員が揺ぎから出て来た。

 

「なっ……⁉︎」

 

「転移反応は無かったはずなのに⁉︎」

 

「また魔乖咒か!」

 

倒しても倒しても地上から、虚空から警備隊員が次々と現れる。 さらには小型の飛空挺までが現れ、ビルを覆っている魔力結界を攻撃し始めた。

 

「まずい……!」

 

「この勢いで攻め込まれたらゲートも結界も保ちませんよ……!」

 

「っ……ここで喰い止めないと!」

 

「まだまだ来るよ、気を抜くな!」

 

「まずは空の敵を……!」

 

《スナイプフォーム、スパイラルライン》

 

スノーホワイトを長銃形態に変え、少なからずいる空戦魔導師や飛空挺のアフターバーナーを狙って緩やかに撃墜させる。 だが、飛空挺を無理に墜落させると死人が出かねない……すずかもいつも以上に慎重になってトリガーをひく。

 

「一体どれだけいるのよ!」

 

「! 北西15kmの地点から熱源反応多数接近してきます! これは……ミサイルが来ます!」

 

「ミサイル⁉︎ 質量兵器じゃないか!」

 

「フェノールの武器倉庫にあった入荷リストに載ってあったよ。 おそらくそれを使ったんだと思う」

 

「っ……アリシア、リンクを繋いでくれ! 迎撃する!」

 

「ちょっ、無理だよ⁉︎ 戦術リンクは陸戦用なんだよ! 高速で移動する空戦には向かないんだから! 距離が離れ過ぎればラグも出るし、ナノコンマ1秒の遅れも致命的なんだよ⁉︎」

 

「なら、もっと深く接続は出来ないのか⁉︎」

 

「出来ない事もないけど……それ以上は本当に適性が必要になるの! それこそ脳の波形がほぼ同一じゃないと……せめて私かフェイトがいけるくらいだよ」

 

「くっ……」

 

《落ち着いてください、マジェスティー》

 

レゾナンスアークにそう言われ、熱くなっていた頭を振って1度冷静になった。 焦り過ぎたようだ……

 

「ふう……ありがとうレゾナンスアーク、落ち着いた。 すまないなアリシア」

 

「ううん、焦る気持ちは分かるよ」

 

「ミサイル到着まで後30秒を切りました、急いでください!」

 

「悔いる暇もないか……レゾナンスアーク!」

 

《イエス、マジェスティー。 シールドビット、アクティベート》

 

飛行魔法でミサイルの来る方角に飛び、シールドビットを展開する。

 

「迎撃する……!」

 

《モーメントステップ》

 

「はあああっ‼︎」

 

菱形のシールドビットと併用してミサイルを防ぎ、一瞬で移動して刀で斬り落とす。 その間にも警備隊員が正面から襲って来ている、そっちを対処しようにもまだまだミサイルは来る。

 

(くっ……何とか耐えてくれ……!)

 

内心焦りながらもミサイルを迎撃し、全てのミサイルを防いだのを確認したらすぐに正面ゲートに向かった。 降り立った時、次の現れた部隊に見覚えのある部隊員がいた。

 

「! あの2人は……⁉︎」

 

「ミラにタント⁉︎ どうしてここに⁉︎」

 

「お知り合いですか?」

 

「ああ、以前管理世界のスプールスでの仕事で会ってな。 だが、どうしてここに……?」

 

2人は自然保護局所属のはず。 基本無人世界に滞在している彼らがどうして、偶然ここに居合わせたのに巻き込まれたのか……⁉︎ だがそんな気持ちとは裏腹に、2人は無情にも襲って来た。 アリサ達はやられる訳にもいかず、苦しい表情をしながら制圧した。

 

「はあはあ……」

 

「そんな、あの人達まで……」

 

「くっ、趣味の悪いことを……アギト!」

 

『了解!』

 

「『フェアライズ!』」

 

アリサは激情とともに剣を真上に投げ、剣先が下にして落下しアリサの腹部に刺さると魔法陣が展開し……魔力を膨れ上げながら輝きがアリサを包み込み、光が晴れると装甲に身を包んだアリサが現れる。

 

『フェアライズシーケンス、コンプリート』

 

「覚悟しなさい!」

 

『マジカルエフェクト、バーンラルグ』

 

地面に手をつきベルカ式の魔法陣を展開すると、敵の足元にも同様に魔法陣が展開され、そこから爆発するように火柱が上がった。

 

「よし!」

 

「これで大多数は……っ⁉︎」

 

炎が止むと……その中心に和服を現代風にしたような服を着ていて、隣にはまた異質な感じがする本を浮かせている紅紫色の短髪の中性的な人物がいた。 その人物の周りには無傷の警備隊員が彼、彼女? を敬うように綺麗に整列している。

 

「あなたは……⁉︎」

 

「何者だ、また魔乖術師か⁉︎」

 

「……ボクかい? ボクはサクラリス・ラム・ゾルグ。 君の言う通り、魔乖術師だよ」

 

……おそらく彼女……サクラリスは感情の篭っていない目で俺達を見る。 その目はサクラリスの周りには控えている警備隊員とはまた異質な要素を感じる。

 

「今度はあなたが相手になるのかな……?」

 

「いや、ボクはホアキンに部隊を連れて来るように言われただけだからーー」

 

次の瞬間、上空に空間の揺らぎがさらに起こり……先ほどとは比べ物にならないくらいの飛空挺が現れた。

 

「そんな……⁉︎」

 

「多過ぎる……それに、この力は一体……⁉︎」

 

「ボクの魔乖咒は“異”……ものごとの境界を操る魔乖咒だよ」

 

「ものごとの境界?」

 

ルーテシアは意味が分からないように首を捻る。 それを見たのか、サクラリスは先ほどの火柱でできた地面のヒビ。 その破片を手に取りこちらに放り投げた。 何をしたいのかは分からないが、当たる必要もないので手で弾こうとした時……破片が手をすり抜け、さらに胸もすり抜けて背後の地面に音を鳴らして落ちた。

 

「なっ……⁉︎」

 

「そこにあるのに触れない物……境界の曖昧。 この程度の魔乖咒なら簡単に出来るよ?」

 

「……本当に、魔法とは比なる力のようですね……」

 

「こんな力、どう対処すれば……」

 

ソーマとサーシャは初めて魔乖咒を目の当たりにし、困惑してしまう。

 

「まあ、ボクもシャラン同様に戦う気はないしホアキンの思惑も興味はない。 ボクはこれで失礼するよ、せいぜい死なないでね」

 

「待って!」

 

踵を返したサクラリスにすずかがとっさに追いかけるが、それを警備隊員が塞いだ。 と、サクラリスは突然足を止め、振り向かないでそのまま話し出した。

 

「あ、そうだ。 この後もホアキンと戦うなら“歪”に気を付けてね。 歪の魔乖術師は精神的に不安定な人間が多いから……人格破綻者というか情緒不安定で好戦的な人だから」

 

「え、なんだって……⁉︎」

 

「頑張れ、異界対策課。 それじゃあね」

 

関心がない素ぶりでそれだけを言うと歩き出し、目の前に現れた空間の揺らぎの中に消えていった。 後に残ったのは空を埋め尽くす飛行艇と、敵意もなく機関銃型のデバイスを向ける警備隊員だった。

 

「冗談でしょう……」

 

「この数はさすがにキツイわよ……」

 

改めて、一体どれだけの人数が取り込まれたのか考えてしまうが……目の前の敵の数はせいぜい全体の2割はあって欲しいと願いたい。

 

「やるしかない……!」

 

「せめて、応援が来るまで耐えるぞ!」

 

「はい!」

 

一寸の希望にすがるように、最後の足掻きのように俺達は大軍に挑み掛かった。 だが、やはり数の差には無理があり。 疲労も重なって徐々に押されて行く……

 

「ぐっ……」

 

「うう……数が多過ぎるよ……」

 

「フフ……なかなか頑張ったようだね」

 

その時、突然クツクツと笑いながら警備隊員達の間をかき分けて現れたのは……見知らぬ警備隊員だった。

 

「……?」

 

「あなたは……一体……?」

 

「ああ、分からないのも無理はない。 僕は彼の身体を借りてこうして語りかけているだけさ」

 

「! この口調……あんたは!」

 

「ホアキン先生……⁉︎」

 

「フフ、正解だ。 僕からの招待状には目を通してくれたようだね。 エリン君も一応、役に立ってくれたというわけだ」

 

「この野郎……!」

 

アリシアは怒りを露わにし、それに応えるようにすずかが口を開いた。

 

「一体、何のつもりですか……こんな事をしでかして……ミッドチルダ全土を混乱に陥れて……!」

 

「あなたは……D∵G教団は一体何をするつもりなんだ……!」

 

「ハハ、それを知りたいのであれば僕らの仲間になってもらうしかないな。 異界と何度も接触している君達ならネクターにもすぐ適応して、魔乖咒も使えるようになるよ?」

 

「ふ、ふざけないでください……!」

 

「あんな事をしでかしておいて……よくもそんな易々と……!」

 

ソーマ達にもあのファイルを見ていたので、やつらの所業はやはり許せないようだ。

 

「フフ、別に各ロッジの儀式は僕がやった事ではないけれどね。 無論ネクターのプロトタイプの実験データは回収させてもらったよ。 そのデータを元に、この地で僕はネクターを完成させた……そう、全ては運命だったのさ!」

 

「あ、あんたは……」

 

「何を口走って……」

 

「意味不明……」

 

「クク……“至らぬ”身である君達に理解してもらうつもりはない。 我々の要求はただ1つ。 あの方をーーヴィヴィオ様を返してもらうだけだ」

 

ホアキンは突然にヴィヴィオを返還を要求した。 いやそれ以前に、彼は何故ヴィヴィオを敬うように敬称を付けている……?

 

「あ、あの方ですって……⁉︎」

 

「それに、ヴィヴィオ様って……」

 

「あんた……あの子をどうするつもりだ⁉︎」

 

「勘違いしないでもらおう。 ヴィヴィオ様は元々、我らが御子。 その身を君達が預かったのはただの偶然に過ぎない。 あの方にはただ、あるべき場所に還っていただくというだけさ」

 

「ーーふざけるな……‼︎」

 

そんな要求は認めることなんて出来る訳もない。

 

「あんたらの狂信に……あの子を巻き込ませるものか!」

 

「さっきから聞いていれば………妄想めいたことばかり……!」

 

「あんたみたいな変態野郎に、ヴィヴィオを渡せるわけないよ……!」

 

「即刻、痛い目を見てお帰り願うよ……!」

 

「おととい来やがれ……です!」

 

「とっととヴィヴィオの前から消えてもらうよ、教育にも悪いし!」

 

皆も取り付く間も無く完全に反対する。

 

「やれやれ……交渉は決裂か。 ならば君達の屍を越えてヴィヴィオ様をお迎えさせてもらおう」

 

ホアキンが手を上げると、控えていた警備隊員達が機関銃型のデバイスの銃口を向けて来た。

 

「くっ……」

 

「負けるわけには……いかない……!」

 

「まだ、まだ……!」

 

「クク、祈りは済ませたかな……? ああ、心配しないでも……君達の屍はシャラン君に再利用させてもらうから。 それでは、死にたまえーー」

 

「だめえぇーーーー‼︎」

 

ホアキンの手が下される瞬間、背後から悲鳴のようはヴィヴィオの声が響いて来て……ヴィヴィオが俺達の間を通り抜け、前に出ると両手を広げた。

 

「ヴィ、ヴィヴィオ……⁉︎」

 

「ど、どうしてここに……」

 

「おお、ヴィヴィオ様……」

 

「パパたちにイタイことしないで! イタイことしたらヴィヴィオ、絶対にゆるさない!」

 

「ヴィヴィオ……! いいから下がって!」

 

「ヴィヴィオちゃん、お願いだから……!」

 

「ヴィヴィオ様。 お迎えに上がりました。 そのような愚物どもなど放って我らの元にお戻りください。 今は何も分からないでしょうが。 貴方は我らのーー」

 

「いいから、ヤクソクして! パパたちにこれ以上、ひどいことしないって……!」

 

「っ……!」

 

ホアキンがヴィヴィオを連れて行こうと説得をしようとした時、ヴィヴィオは最後まで言わせず大きな声を出した。 そしてその声に……どういう訳かホアキンと、周りにいた警備隊員が萎縮するように反応した。

 

「え……」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ……?」

 

「ど、どうして……」

 

何が変化したのかは分からないが、いつものヴィヴィオと何か雰囲気が違う……おそらくそれをホアキンは感じ取っており、ホアキンが操っている警備隊員の口元がつり上がる。

 

「フフ……ハハハハハハ……それでこそ、それでこそ我らの御子だ……!」

 

狂ったように笑うホアキン。 しばらくして収まると、ホアキンはヴィヴィオの顔を見て頷いた。

 

「かしこまりました。 ヴィヴィオ様さえお戻りになれば、彼らには決して危害は加えません」

 

「……ホントウに? イタイことしたりしない?」

 

「ええ、もちろんですとも。 さあ……どうぞこちらへ」

 

「駄目だ……!」

 

ヴィヴィオの隣まで歩き、手で行く道を塞いだ。

 

「パパ……」

 

「ヴィヴィオ……暗いのが怖いんだろう⁉︎ 俺達から離れるのが寂しくて嫌なんだろう……⁉︎ だったら、こんなヤツの言うことなんて聞いたら駄目だ!」

 

「……で、でも……ヴィヴィオ……何もわからないし……パパたちのメーワクになるなら……い、いっしょにいないほうが……!」

 

「迷惑なんかじゃない……!」

 

それ以上、ヴィヴィオに言わせないために大声で否定した。

 

「俺は……俺達の方こそ、ヴィヴィオの側にいて欲しいんだ!」

 

「……………え……………」

 

俺の言葉に、呆けるヴィヴィオ。 それに応えるようにアリサ達も前に出た。

 

「多分、私達は……あなたがいてくれたおかげで本当の意味で成長できたと思う……あなたを見守る……その事に、それぞれが求める意味を見出すことによって……!」

 

「そうだよ……ヴィヴィオちゃんと一緒だっから、皆が笑顔でいられたの。 皆とヴィヴィオを守るためなら……忌み嫌われてもいい……!」

 

「だかはヴィヴィオ……そんな事を気にしなくてもいいんだよ。 ヴィヴィオは元気に笑っている方が10倍可愛いんだから、その笑顔を見るだけで私達は勇気を貰えるの……!」

 

「……僕も、戦いたいから戦うんじゃない。 大切な人を守るため……それを教えてくれたのはヴィヴィオ、君だ。 絶対に守るんだ……!」

 

「ヴィヴィオちゃんと一緒にいられた時間、それに嘘偽りはありはしません。 戦いは嫌いですけど……そんな時間を壊されるようなら、私は(つるぎ)を取ります……!」

 

「私だって、大事な妹分を守れないようじゃ、お姉ちゃん失格だしね……!」

 

皆、俺と同じ気持ちで、ヴィヴィオを大切に想っている。

 

「……アリサママ……すずかママ……アリシアママ……ソーマ君……サーシャちゃん……ルールー……」

 

(コクン)

 

「ガリューも……」

 

「俺達は異界対策課だ。 自分の事を知りたいのなら俺達が一緒に探してやる……少なくともこんなヤツの言いなりになる必要はないんだ。 だからヴィヴィオ……行かないでくれ」

 

「……パパ………」

 

切な思いでありのままの言葉を伝えた。 ヴィヴィオはしばらくして、あの独特な雰囲気を消して元に戻り、コクリと頷いた。

 

「…………うん。 ヴィヴィオ、みんなと一緒にいる」

 

「そうか……」

 

「ヴィヴィオ……」

 

「……クク……ハハハハハハハッ!」

 

その時、今まで静かに事の経緯を見ていたホアキンが笑い出した。

 

「よくもそんな妄言で我らの御子を誑かしたものだ………様子を見て預けておいたのがそもそもの間違いだったわけか……」

 

そして、笑いが冷めると一瞬で冷たい表情と目になり……

 

「異界対策課……! 貴様ら全員、嬲り殺しにしてくれる!」

 

鬼のような形相で睨み、周りの警備隊員がさらに近付いた。

 

「くっ……!」

 

「ヴィヴィオ! ゲートの中に入っていて!」

 

「ここは私達が……!」

 

「ーーその必要ねぇ」

 

その時、ホアキンの背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「⁉︎」

 

「あ……」

 

「……あなたは……!」

 

坂の下にいたのは……大剣を構えたテオ教官と、双剣を構えたシェルティスだった。

 

「走れ……ライトニングライン……!」

 

「剣晶五十二・旋廻飛光(せんかいひこう)!」

 

テオ教官は道中の警備隊員を稲妻形に高速で移動ながら倒し、シェルティスは空中に飛び上がると空中で全方位に結晶の斬撃を放って飛行艇を大破しないように撃ち落とした。 最後にテオ教官が俺達の前に立つと大剣を横薙ぎに振り、ホアキンに操られている警備隊員以外を吹き飛ばした。

 

「テオ教官……!」

 

「シェルティスさん!」

 

「オ、青嵐(オラージュ)……⁉︎」

 

「ちょっとちょっと! すごいタイミングできたね!」

 

「狙ってたみたいです……!」

 

「ふうー……こっちもギリギリなんだけど」

 

《まあ確かにタイミング良すぎでしたからね》

 

「ふ……狙えるほど器用でもねえしな。 それと、来たのは俺だけじゃないぞ」

 

「え……」

 

残っていた警備隊員を制圧しながらゼストさんとクイントさんが追いかけてきた。

 

「ふう……あの人早過ぎ……!」

 

「やれやれ、若い者にはまだ負けられないというのにな」

 

「ゼストさん……!」

 

「ママ!」

 

2人はそのままこちらに来るとホアキンに操られている警備隊員を拘束した。

 

「き、貴様ら……」

 

「あははっ……カッコつけすぎだよ!」

 

「お2人共……よくご無事で……!」

 

「幸い、良いタイミングでテオと合流できたのでな……」

 

「思わぬ加勢もあったから、こうして辿り着けたわけよ」

 

「思わぬ加勢……?」

 

「あれは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DBM前の坂に一台の警備隊の装甲車が止まり、警備隊員がまたビルに進行しようとした時……

 

「やれやれ……完全に操られているみてぇだな」

 

「行くぜえええーー!」

 

先に構えていたワシズカの蹴りと、ファクトの木刀が先頭にいた警備隊員に直撃して進行を止めた。

 

「ハッ……大したことないな! 新生HOUNDの力を見たかーー」

 

ファクトが意気揚々と語るが、言い終える前に警備隊員は何事もなかったかのように無表情で立ち上がった。

 

「な、なあっ⁉︎」

 

「チッ、さきに言っただろ⁉︎ ヤクを使ってタフになってると」

 

「す、すんません……コホン、野郎ども! 始めんぞ!」

 

『おおっ‼︎』

 

「さて、良い加減目を覚ましてもらおうか!」

 

『応っ‼︎』

 

2人の合図で隠れていたレイヴンクロウとHOUNDのメンバーが警備隊員を取り囲んだ。

 

「さあて……始めるとするか!」

 

「ティーダさんにカッコ悪いとこ見せんなよ! 全員縛り上げろ!」

 

『おおっ‼︎』

 

それを合図に、指定暴力集団と過去の罪を清算した不良チームがこの街を守るために戦い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらは……!」

 

「凄い……対等に戦えている」

 

「しかも結構、押してますよ……!」

 

「あはは……警備隊相手にやるじゃない!」

 

「ふう、ワシズカさん、今回は妙に大人しくしていたと思ったけど……」

 

「まあまあ、助かったんだから」

 

「くっ、不良ごときがどうして……」

 

ホアキンも彼らに止められるのが屈辱なのか、警備隊員の身体を使って歯軋りをする。 と、その時、空の方から薄い紫色の花びらが飛んできた。

 

『皆!』

 

「ツァリ!」

 

『よかった。警備隊に追われていたらしいけど、どうやら無事みたいだね』

 

「ツァリの方こそ、無事でよかった」

 

「他の皆も怪我とかはしてない?」

 

『うん、寮が襲撃された時、なのはがとっさに防御してくれたおかげで、皆ピンピンしているよ。 それと……こっちも反撃に転じたよ。 今破壊された通信ターミナルの復旧が終わったところ……限定的ではあるけど通信は回復したよ』

 

「そうか……!」

 

『現在、陸士108部隊と僕達がそっちに応援に向かっているよ! 他の警備隊でネクターを服用していない人の捜索もこちらでしておくよ。 皆、どうか気をつけてね!』

 

「ええ……!」

 

「くっ、馬鹿な……」

 

「ーーそういう事だ」

 

今の話を聞いていたホアキンが顔を歪ませ、その顔にテオ教官が一歩前に出て大剣を突きつけた。

 

「D∵G教団幹部司祭、ホアキン・ムルシエラゴ。 これ以上、このミッドチルダを好き勝手にはさせないぞ?」

 

「…………クク……いいだろう。 こちらの戦力はマフィアと航空部隊と合わせて1万近く……しかも無尽蔵の体力を持ち、眠る必要すらない……歯向かう者は皆殺しにした上で我らが御子を取り戻してくれる……ハハハ……! 楽しみにしているがいい……‼︎」

 

捨て台詞のように叫び、最後にオーラを放出しながら狂ったように笑い声を上がると操っていた警備隊員力なく倒れ伏した。

 

「……完全に気絶しました……」

 

「彼の操作が解かれたみたいだね。 この場合だと、かなり遠くからだと思うよ」

 

「もしかして……そこから警備隊全員を操って⁉︎」

 

「くっ……ホアキン本人を叩かない限り、どうしようもないって事ですか⁉︎」

 

「ーー居場所は判明している」

 

大剣をしまい、テオ教官がそう言い。 シェルティスも頷いた。

 

「え……」

 

「なのはとはやてが教団の拠点(ロッジ)を発見したんだ。 場所は北東にあるグランツェーレ平原ーーそこから行方不明者達が入った痕跡を見つけたそうだよ。 ちょうど今、潜入経路を調べているみたい」

 

「グランツェーレ平原……あんな場所に!」

 

グランツェーレ平原はかなり広い範囲……中心に行けば前後左右、地平線の彼方までラベンダーがぎっしり咲いているミッドチルダの観光名所だ。 その中央には……古くからある砦が残されている。

 

「確かに何かありそうな遺跡があったけど……」

 

「だったらそっちを叩けば……!」

 

ルーテシアが意気揚々に言うが、メガーヌさんが首を振って否定した。

 

「……そう単純な話じゃないのよ、ルーテシアちゃん。 どうやら街道や砦に続く空路にも相当な戦力が展開しているようなのよ。 主にマフィアと航空部隊だけど」

 

「いずれにせよ……こちらも戦力が限られている以上、闇雲に突っ込むわけにもいかん。せめてもう少しこちらにも戦力があれば何とかなるかもしれんが……それはほぼ、全ての管理局員と共に消えてしまっている。 今から残りをかき集めるにしてもな……」

 

「くっ……」

 

「ここに襲ってきたのも全体のほんの一握り……戦力差は絶望的ですね」

 

「ーーだからこそ、それに対応する策も作るだけだ」

 

今度はこちらの背後から声が聞こえて聞こえてくると……黒い制服を着たクロノがいた。 となりにはヴィロッサとユノもおり、少し後ろにはアトラスさんとメルファとファリンとビエンフーがいた。

 

「クロノ……⁉︎」

 

「それにヴィロッサも……!」

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「一体どこから……?」

 

「君達が敵を惹きつけている間に抵飛行でDBMの反対側から着艦したのさ。 なんとか合流できて何よりだ」

 

「フェイトママー!」

 

「ヴィヴィオ! 大丈夫だった⁉︎ 怪我はない⁉︎」

 

「うん! パパ達が守ってくれたの!」

 

飛び込んできたヴィヴィオを受け止め、フェイトは慌てて怪我がないか身体のあちこちを触ってか確認する。

 

「アトラスさん……!」

 

「あ、ユノにメルファさん!」

 

「皆さん、お疲れ様です。 しかしヴィヴィオちゃん、無茶をしないでください」

 

「そ、そうだよ……! いきなり走っていくから……! ……あんまりシンパイさせないでよ……」

 

「ご、こめんなさい……」

 

「……ふふ」

 

クロノは2人のやり取りを微笑ましく思い、ユノの頭を撫でた。

 

「お疲れ様です、すずかちゃん」

 

「怪我はないでフか?」

 

「うん、大丈夫だよ。

 

と、そこでゼストさんがクロノの前に出て敬礼をした。

 

「ーーそれでクロノ提督。 この状況を何とかできるのでしょうか?」

 

「ああ、だがその説明は後だ。 応援が到着した次第、すぐにクラウディアで出発する。 詳細はそこで話そう」

 

そうだ、まだ決着はついていない。 今度こそ、終わられせないと……と、そこでヴィヴィオが少し潤んだ目で俺のことを見上げてきた。

 

「パパ達……行っちゃうの……?」

 

「ああ……でも大丈夫だ。 絶対に皆でヴィヴィオのところに戻るから」

 

「ええ……必ず。 戻ってきたらまた料理を手伝ってちょうだいね?」

 

「あ……」

 

「確かにヴィヴィオちゃんが手伝ってくれたらすごく美味しくなるからね」

 

「だったらいっそうのこと、派手にパーティでもやろうよ。 知り合いを皆、寮に集めてさ」

 

「はは……それもいいな」

 

俺は1度、ヴィヴィオの頭を撫でた。

 

「……ヴィヴィオ。 本当は心細かったんだな。 自分が何者か分からなくて……ゴメンな、気付いてやれなくて」

 

「パパ……」

 

ヴィヴィオにこんな思いをさせたのは俺にも責任がある。 出生に違いがあるとはいえ、ヴィヴィオは俺の娘……それを自信を持って言えなかったから……そう思っていた時、ヴィヴィオは腰にギュッとその小さな両手で抱きついてきた。

 

「……うん、ヴィヴィオ、何にも知らなくて……胸がモヤモヤしてきちゃって……でも、パパ達がいてくれたからゼンゼン寂しくなかったよ……だから……だからね……! ゼッタイに帰って来てね!」

 

「ああ……約束だ!」

 

俺はヴィヴィオと約束を交わした後、この場の護衛と指揮をゼストさん達に任せてにクラウディアに乗り込んだ。 俺達が乗り込むと同時にクラウディアはすぐに夜の空に向かって飛翔した。

 

 


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