魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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125話

 

 

急いでカジノハウスに向かい、中に入ると……目の前にビクセンさんがいた。 ビクセンさんは入って来た俺達に気付き、少しだけ安堵した。

 

「おお、来てくれたか! ありがたい! いつ喧嘩が始まるものかと……!」

 

「それで、クイラさんと相手はどこに?」

 

「ああ……あちらの奥にある特別室で一対一の勝負をしているんだ……早くしないとクイラが相手に暴力を振るうかもしれない……」

 

「なんですって?」

 

「クイラさんが相手の逆恨みを買ったのでは……」

 

少し困惑するが、ここで議論する暇もない。 急いで一階奥の特別室に入った。 すると、中ではクイラさんがオーナーを壁に投げ、今にも相手に暴力を振るおうとしている雰囲気だった。

 

「クイラ……⁉︎」

 

「いけない……!」

 

急いでクイラさんに駆け寄り、ビクセンさんと共にクイラさんを押さえた。

 

「おおおおっ! 離せ、離しやがれえええっ!」

 

「お、落ち着いてくださいっ!」

 

っ! 何だこの力は……! 鉱員だとしても異常だぞ……!

 

「クイラ! どうか落ち着きなさい!」

 

「あら、あなた達。 久しぶりね、元気にしてたかしら?」

 

対戦相手だったのは……ナタラーシャ・エメロードだった。 自分が襲われそうなのに、立ち上がりもせずまだソファーに座っている。

 

「ふう……呑気に挨拶されても……」

 

「ナタラーシャさん……こんな所でなにを」

 

「へえ、面白い方ね。 あなた達の知り合いなの?」

 

「いえ、知り合いというほと知っているわけじゃ……」

 

その時、ふとアリシアはテーブルの上を見た。

 

「って、ストレートフラッシュにファイブカード! なんてレベルの高い勝負しているの⁉︎」

 

「ふふ、なかなか危なかったわよ? 負けたらこの体まで払う所だったわ」

 

「か、体って……///」

 

「は、破廉恥な……!」

 

ナタラーシャさんは胸元をチラリと見せながら心境を語り、すずかとアリサは顔を赤くした。 そしてその間にもクイラさんは負けを認めず、最後まで暴れていた。

 

その後、クイラさんはあらん限りの力で暴れ喚いてから、不意にぐったりと気絶してしまった。 俺達はホテルの部屋まで気絶した彼を運ぶことにした。

 

「一体、どうしてこんなことに……だらしないが気のいい、誰からも好かれる男だったのに……」

 

「ビクセンさん……」

 

ビクセンさんはクイラさんの変貌ぶりを目の当たりにし、驚きを隠せなかった。

 

「でもまあ、とんでもない暴れようだったね。 まさか私とレンヤの2人がかりやっと取り押さえられたんだから」

 

「ああ……正直、物凄い力だった」

 

「鉱員だから筋肉質なのは間違いないと思うけど、でも……」

 

以前とはまるで別人のような変貌ぶり、異常のほどの力、天才的なツキやカン、これを症例として当てはめると……

 

「ねえ、率直に言うけど。 もしかして彼、危ない薬に手を出しるんじゃない?」

 

と、その時クイントさんがそのような事を言った。 さすがにビクセンさんもその発言には驚いていた。

 

「な……⁉︎」

 

「やはり、そうなりますか……」

 

「考えたくなかったけど……」

 

「あら、4人とも私と同意見かしら?」

 

「…………………」

 

「……あまり推測で無闇に言いたくはないですけど……可能性は否定できません」

 

「ば、馬鹿な……薬物なんてあり得るものか! ただの鉱員だぞ⁉︎ そんな物に手を出すはずがーー」

 

「でも、こちらに来てからもう半月近く経っているんでしょう? 相当儲けていたはずだし、そこに付け込まれた可能性は無いとは言い切れないのでは?」

 

ブローカーは言葉巧みに人を騙し、薬物を売りさばく。 クイラさんの以前の性格を考えれば、付け入られる隙はあったのかもしれない。

 

「い、いい加減にしたまえ! 君は管理局の捜査官だったね……あまり憶測で無闇に語らないでくれ!」

 

「いえ、過去の症例にも似たようなものがありまして……」

 

クイントさんが言っているのはHOUNDやオーバーロードの事だろう。 特に後者は魔力増強などの効果がある。 反面、精神に異常をきたす。 クイラさんは非魔導師でリンカーコアは無いため魔力増強等の症状は認められないが、やはり薬物の可能性は否定できない。

 

「ーービクセン町長。 念のため、クイラさんの持ち物を拝見させてもらってもよろしいですか?」

 

「! レンヤ君、君まで⁉︎」

 

「決め付けているわけではありませんが、色々とつじつまが合う事も多いんです。 あの暴れ方に尋常じゃない力、そして豹変してしまった性格……過去の薬物事件に似たような症状なんです。 それに、比べ物にならないくらいギャンブルの腕が上がったのも……」

 

「……薬の影響で知覚が過剰に鋭敏になったのかもしれないね。 それで相手の手の内を読んだり、カンが働いたのかもしれない。 私も、似たような事出来るし」

 

「……アリシアちゃん、もしかして……」

 

すずかがジト目でアリシアを見ると、アリシアはソッポを向いて口笛を吹いた。 アリシアの奴、賭け事する時はイカサマしてたな……まあ相手はクーあたりだろうから、まいいか。

 

「コホン、町長さん。 クイラさんの名誉を守ることは分かります。 でも、本当に何らかの薬物だった場合……このまま放置したらどのような危険があるのか分かりません」

 

「そ、それは……」

 

「中毒症状に後遺症……まあ、色々と考えられそうね」

 

「ええ、薬物による被害で1番怖いのはそこです」

 

彼がどんな薬物を投与したかは定かではないが、症状から見るにそう安いものではないだろう。

 

「…………判った……配慮が足りなかったようだ。 レンヤ君、お願いする」

 

「……はい。 アリサ、バックの方を」

 

「ええ」

 

アリサはここにあったクイラさんのバックを物色し始め、俺は横になっているクイラさんを起こさないよう注意しながらボディーチェックを行った。 すると……

 

(………これは………)

 

懐から出て来たのは、緑色のタブレットが無造作に入っているポリ袋だった。 それとアリサの方は出なかったようだ。

 

「おお……」

 

ビクセンさんはこれを見て、思わず上を見上げて顔に手を当てた。

 

「まさか本当にあったなんて……」

 

「HOUNDやオーバーロードと違って緑色だね、いったい何の薬なんだろう?」

 

「………まだこの薬が原因と決まったわけじゃない。 ビクセンさん、クイラさんに持病で薬の服用などは?」

 

「……知る限り無かったはずだ。 もちろん断言は出来ないが……」

 

「判りました……この薬はいったん、こちらで預からせて頂いても?」

 

「ああ……わーよろしくお願いする。 だが、どうか……! どうか事を大きくすることは……!」

 

ビクセンさんはクイラさんのためを思い深く礼を、強く懇願した。

 

「はい、クイラさんの名誉には配慮させていただきます。 クイラさんの自身については、ビクセンさんにお任せしても……?」

 

「ああ……任せてくれたまえ。 もし目を覚ましたら改めて話を聞いてみるつもりだ」

 

「では、よろしくお願いします」

 

俺達は部屋を後にし、いったん廊下に出た。

 

「ふう、それにしても薬物とはねぇ。 こりゃまためん……厄介な物を持ち込んでくれたわ」

 

「今、めんどくさいって言おうとしたよね?」

 

「ま、まあとにかく、問題はそのタブレットね」

 

クイントさんは手の中にあるポリ袋を指差し、話を露骨に逸らした。

 

「……はあ、ここでは何も分かりません。 俺達で決めるのも少し大事ですし。 いったん戻ってゼストさん辺りに相談しよう」

 

「ええ、それがいいと思うわ。 ヘインダールの件についても報告した方がいいでしょうし」

 

「抗争に加えて薬絡みの事件の可能性かぁ……はあ、またとんでもなく忙しくなりそうだね」

 

いつもの事だが、アリシアは思わずため息をついた。

 

「っと、もうこんな時間、私はこれで失礼するわ。 中々有意義な時間だったわよ、それじゃあねー」

 

クイントさんは手をヒラヒラと振りながら階段を下りて行った。 本当に、嵐のような人だ……

 

「ふう……私達も行こうか」

 

「そうだね、ゼストさんに会えるかは分からないけど……まずは対策課に戻ろう」

 

「ええ、一通り報告できたら、どするかを検討してみましょう」

 

「うん」

 

それにどこか引っかかる事はあるが……とにかく対策課に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あ、お帰りなさーい」

 

対策課に入ると、ソエル達が出て来た。

 

「あれ? ラーグは?」

 

「ラーグ君はちょっと野暮用と言ってついさっき出て行きました」

 

「随分と遅かったけど何かあったの?」

 

「ああ……実はそれについて別に気になる事件がに出くわしてな」

 

「ヘインダール襲撃事件とまとめて報告するわ」

 

報告書を作成しながらソエル達に詳細を説明した。 と、文字としてまとめてみて、改めて読み返してみると……

 

「そんな事があったのですか……」

 

「うう、またマフィア……いやぁ……でも勉強もいやぁ……」

 

「サ、サーシャさん……」

 

(ポンポン)

 

勝手に落ち込んでいるサーシャの肩に球状態のガリューが乗りながら軽く叩き、やれやれと首を横に振った。

 

「それにしても、随分と取り留めのない事件ばかり起きているね」

 

「そうだね、一度にこれだけの事件が起きるなんて予想外だよ」

 

「……………………」

 

「? レンヤ、どうかしたの?」

 

取り留めのない……共通点がない事件ということ。 だが、逆にこの3つ事件に共通点があるとすれば……

 

「……そうか、繋がった!」

 

「何か分かったんですか?」

 

「ああ、共通していそうな例を上げられる事件は2つ。 ヘインダール襲撃事件とクイラさんの事件だ。 ヘインダールを襲撃したマフィア達が見せた身体能力……そしてクイラさんの手に入れたギャンブルの腕……どちらも人の潜在能力を引き出す物だとして。 もし、それを繋ぐものがこの緑色のタブレットだとするなら……」

 

「……マフィア達が違法薬物に手を出し始めた……そして一般市民に流し始めているだけではなく戦闘力の強化にも使っている……そういうことだね」

 

「ああ……まだ憶測の域を出ないけどな」

 

「でも、それなら色々と説明できるわ。 あのゼアドールがフェノール内での統率力が下がったのは……」

 

「下っ端が薬を使ったせいで態度がデカくなって、そんな連中が増え続けている……それがフェノールの方の事件に繋がるってわけだね」

 

「ーー帰ったぞ〜」

 

と、ちょうどその時ラーグが帰って来た。 ゼストさんを連れて……

 

「ゼストさん⁉︎ どうしてここに⁉︎」

 

「少しばかり事情があってな。 ここでは話難い、奥の会議実に行くぞ」

 

「は、はい!」

 

「あ、私も聞きたーい!」

 

「……冷蔵庫に作っておいたお菓子があるから、好きに食べていてくれ」

 

お菓子でルーテシアを釣り、会議室に入ったのは俺、アリサ、すずか、アリシアに加えゼストさんとラーグ。 席に座り、早速話を始めた。 先ずはゼストさんから話し始めた。

 

「ゼストさんがここに来たのはラーグに呼ばれたからで?」

 

「ああ、個人的にも用はあったが、ラーグに呼ばれてな」

 

「なんであなたが先回りできたのよ……」

 

「ふっふーん、ひーみつー♪」

 

「まあ、それはともかく。 単刀直入に言って、私がここにいるのは捜査に圧力がかかったからだ」

 

ゼストさんのいきなりの発言に、俺達は驚いた。

 

「捜査部に圧力……⁉︎」

 

「いや、そこまで露骨なものではないが……ヘインダールの襲撃事件を受けて奴らの抗争の対処に力を入れろと指示が入った……少し前から進めていた謎の薬物の捜査を打ち切ってな」

 

露骨にではないにせよ、ずいぶんと分かりやすい圧力だな。

 

「そうですか……」

 

「そちらの方でも薬物に関する捜査を……?」

 

「ああ、数日前からだがな。 私としてはお前達が知っていた事の方に驚いたが」

 

「で、そっちの方はどこでその薬物を掴んだんだよ?」

 

「昔から使っている情報屋からだ。 一応信用できる情報屋だが……今の所はスカばかりでな……ただ、どうも気になって噂の元になっていた市民リストを揃えている最中だったが……」

 

そこで上層部から待ったがかかったわけか……だがこれで、ゼストさんの情報とこちらが今まで集めた情報、そしてこの緑色のタブレットの関係が噛み合った。

 

「? なんだ、思いのほか驚いていないな」

 

「い、いえ、驚いていないわけじゃありませんけど……」

 

「くく、どうやらビンゴだったようだぜ。 レンヤ、見せてやれよ」

 

「ああ……これを」

 

俺はゼストさんに手に入れた緑色のタブレットを渡した。 さすがのゼストさんでもこれは驚いたのか、思わず声が出てしまっていた。

 

「うむ……もしやこれは……?」

 

「今日、とある筋から入手した証拠物件です。 その人の名誉を守るという条件で預からせてもらっていますが……」

 

そこで今度はこちらから、これまでの経緯を一通り説明した。

 

「やはり、存在していたか……しかもフェノールが流した可能性があるだと……⁉︎」

 

「その薬物捜査を打ち切れという指示……どこから降りてきたかは見当はつくか?」

 

「……上層部の誰かだと思う。 私はもちろんの事、他の部下も納得出来ないまま、我々に命令を下した」

 

「ふん、最悪だな……」

 

ラーグは腕を組みながら怒るように鼻を鳴らした。 それはつまり肯定を表していた。

 

「まさか、管理局の上層部がマフィアの要請を受けているのかしら?」

 

「……………………」

 

「そうですか……」

 

「ちょっとちょっと、そりゃないよ……」

 

「……知ってはいたけど、ここまで酷いなんて」

 

「ーーゼスト。 俺が呼ばなくてもここに来ていたとは思うが……上層部(やつら)に不審を抱いたのは確かだろ? それでどうする気だ?」

 

ラーグの質問に……しばらく沈黙した後、ゼストさんは口を開いた。

 

「…………正直、薬物捜査に関してはこちらでは動きようがない。 下手に動けば、今度は上層部も露骨に横槍を入れてくるだろう。 だが、それではあまりにも法を預かる身としては不甲斐なさ過ぎる……!」

 

「ゼストさん……」

 

「だったら薬物捜査の件は私達に任せてください。 いいわよね、皆?」

 

「うん、もちろん」

 

「ここまで来たら見過ごせないしね」

 

「よし……これより異界対策課は非公式に捜査部と協力体制に入いる」

 

「ゼスト達に変わって動きまくれよ」

 

「ああ……ゼストさん、もしマフィアの情報を手に入れたらできるだけこちらに回してもらえますか?」

 

「ああ、もちろんだ。 だが、今後の捜査方針は決まっているのか?」

 

「そうですね……何はともあれ、薬の現物が手元にありますし。 どういった成分かを突き止める必要があるでしょう」

 

「情報と見た感じ、現存するタイプとは全く別のタイプの薬物だね。 調べるにしても目を付けられない場所で鑑定しないと」

 

「……そうれなら聖王医療院がいいんじゃないかな? ほら、ちょうどホアキン先生が薬物を専門にしてたって」

 

「そうね、性格やサボりぐせはともかく……相当優秀とは聞きているわ」

 

「念のため、こっちで異界方面から調べてみるよ」

 

そう言い、アリシアはポリ袋から緑色のタブレットを2つ取り出し。 別の容器に入れた。

 

「ゼスト、そっちは捜査部でまとめた捜査報告書を今日中にこっちに回してくれ。 それを元に、こいつらに今後の捜査方針を決めさせたい」

 

「分かった、すぐに届けよう。 それでは私はこれで失礼する、後のことは頼んだぞ」

 

「はい、任されました」

 

ゼストさんはそう言い残し、対策課を後にした。

 

「それで、レンヤ達はこの後すぐにでも聖王医療院に行くのか?」

 

「そうだな……急な事でもないし、依頼もあるだろうから先にそっちをやってからでも遅くはないだろう」

 

「私もそれでいいよ」

 

「ふふ、まずはお昼ご飯にしようね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を食べた後、聖王医療院に移動しながら依頼をこなした。 その途中にクイラさんと似たような症状の人を何人か見つけたりもしたが……その場ではどうする事も出来ず。 その人物の居場所を記録するだけに留めた。 今は受付で医療院にいる事を確認し。 先生がいるであろう研究室に向かっている。

 

「ホアキン先生、いてよかったね」

 

「どうかなー? あの人の事だから釣りに出かける準備でもしてるんじゃない?」

 

「ありえそうね……」

 

「はは……」

 

否定出来ないのがなんとも……それから研究室前に到着した。

 

「ーー失礼します」

 

ノックしてホアキン先生の研究室に入いると……釣りに行く準備をしていた。 予想通りすぎて何も言えない……

 

「あ! ちょっ……」

 

ホアキン先生は急いで釣り道具を片付けた。

 

「えっと……お邪魔してすみません」

 

「また趣味に没頭しているのかしら?」

 

「いや大丈夫だよ。 この後川釣りをしようと思ったけど……うん、来客なら仕方ないね。 うん、仕方ない」

 

2回仕方ないって言ったよ。 しかも嫌なタイミングで来やがって、という感じの目で見ているんですけど。

 

『普通に恨まれているよね?』

 

『ど、どうだろう……?』

 

「さて、軽いイヤミはこれくらいにして。 今日は一体どうしたんだい?」

 

やっぱり恨んでいたか……話の腰を折るわけにもいかないので本題に入った。

 

「はい……まずはこちらの薬を見てもらえますか?」

 

「ほう……?」

 

例の緑色のタブレットをホアキン先生に見せた。 すると先生は目の色を変えて注意深くタブレットを観察した。 性格に難ありとはいえ、やはり優秀なんだろう。

 

「……これは……なんだこの色は……着色料にしては様子が……」

 

「この錠剤はとある人物が所有していた物なんですが……俺達は、違法性のある薬物ではないかと睨んでいます」

 

「……なるほど。 詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」

 

先生の顔付きはさっきまでののほほんとした感じはなく、別人のように真剣な表情になった。 俺達は隣のソファーに座り、これまでの経緯を含めて緑色のタブレットについての説明を話した。

 

「なるほど……そんな事になっているのか」

 

事情を理解し、深く考え込む

 

「それで、ホアキン先生。 この緑色のタブレットについて何かご存知ですか? どこかで開発された新薬とか……」

 

「……残念ながら、見たことのないタイプの薬だ。 僕は専門柄、各次元世界にある製薬会社と付き合いがあってね。 開発された新薬のサンプルは大抵回してもらっているんだが……こんな色の錠剤は見たことがない」

 

「そうですか……」

 

確かに、普通に青い錠剤ならあるかもしれないが……こんなに透き通った緑色の錠剤はあまり拝見することはないだろう。

 

「しかも聞く限りにおいて効能についても尋常ではない。 筋力、集中力、反射神経、そして判断力と直感力……それら全てを高めるというのは……」

 

「一応、マフィア達が服用したと言う根拠はないわよ」

 

「実際、確認できているのはクイラさんただ1人だけだからねぇ」

 

「……使用時の効能もまだ不確かですし」

 

「ふむ、いずれにせよ、得体の知れない薬物であるのは確かのようだな」

 

しかし、こんな物を作る組織なんて……あれ? なにかまた引っかかっる気がするような。 そんなふうに考え込んでいたら……ホアキン先生が自分の膝を叩いた。

 

「分かった。 3錠ほど預からせてもらうよ。 早速、成分調査してみよう」

 

「ありがとうございます。 ちなみに、成分を突き止めるのにどれくらい時間がかかりますか?」

 

「現物もあるし、症状などの手がかりもある。 今日中には、主成分くらいは突き止められるとは思うが……逆にそれで突き止められなければ。 結構、長引くかもしれないな」

 

「私の方もそれくらいかな。 異界方面だけだからそこまで手間ではないけど」

 

「そうか……」

 

「まあ、明日の午後くらいに通信で連絡させてもらうよ。 それで構わないかな?」

 

「はい、それで構いません。 どうかよろしくお願いします」

 

成分調査を了承してくれた。 と、その時不意にアリサが手を上げて質問した。

 

「1つ聞きたいのだけど。 副作用や中毒症状の可能性はあるのかしら?」

 

「ふむ、それも調べてみないと何とも言えないんだが……念のため、その鉱員の関係者には何かあったらこちらに相談するよう伝えておいてもらえるかな? 他の服用者が見つかったら同じ手配にしておいてもらいたい」

 

「ええ、了解したわ」

 

「ふう……どれだけ出回ってる事やら。 街でもそれっぽいのチラホラあったし」

 

「さすがにフェノールに連絡するのは無理そうだけど……本当に構成員が服用していたら副作用が心配だね」

 

「うーん、確かに……」

 

「聞く限り、副作用といえるのは逆上などの精神の不安定化と言った所だね。 依存症や身体の影響などは調べてみないと何とも言えないな」

 

当然と言えば当然か……それだけ知れば十分。 俺達はお礼を言い、研究室を出て、1度対策課に戻ることにした。

 

「あ、おかえりなさーい」

 

対策課にはルーテシア達がいた。 どうやら依頼を完了して報告書を書いていたようだ。

 

「そちらの方はもう終わったのですか?」

 

「まあ、一応わね」

 

「それじゃあ私は下のラボにいるから、何かあったら呼んでね」

 

「あ、アリシアちゃん、私も手伝うよ」

 

「サンキュー、急いでも徹夜確実だからねー。 報告書の方は頼んだよー」

 

「ああ、よろしく頼むな」

 

部屋からアリシアとすずかが出て行き、残りはいつも通りの業務に戻った。 それから報告書を書き終わった頃……

 

「ヤッホー、お邪魔するでー」

 

はやてがノックもせずに対策課に入って来た。

 

「ヤッホー、はやてさーん」

 

(ペコリ)

 

「はやてさんお久しぶりです」

 

「あらはやて、あなたがここに来るなんて珍しいわね」

 

「ちょおーっとレンヤ君に野暮用があってなぁ……ココブックスのおじいちゃんからの情報や」

 

「! そうか……それでなんて?」

 

「十中八九黒やで、あのゼアドールちゅう男……統政庁と縁は切ってあらへんかった。 ゼアドールからは掴めへんやったけど、どうやら統政庁の方の構成員から掴んだみたいんよ」

 

……あのおじいちゃんホント何者だよ。 どっからどう見ても昭和風のおじいちゃんなのに。

 

「それと、レンヤ君達、今緑色の薬とその組織について調べとるんやったな?」

 

「それもおじいちゃんからか……もしかして何か分かったのか?」

 

「そや、とゆーても組織の名前と薬の名前だけやけどなぁ」

 

「それだけでも十分よ。 まずこの薬の名前から教えなさい」

 

「まーそー焦らんといて。 まずその薬の名前はネクター言うようやで」

 

「ネクター……そのままの意味なら果物をすり潰して作られる飲み物の事だが……」

 

「私としては生命の霊薬(ネクター)の方だと思うけど……」

 

「あの……ちなみにそのネクターを作った組織は一体……」

 

おずおずとサーシャが手を上げて質問した。

 

「……レンヤ君達なら、いや私達ならよーく知っとる名前やで。 ーーD∵G教団や」

 

「なっ⁉︎」

 

「まさか……!」

 

「D∵G教団……確か怪異を信仰している狂信集団でしたよね? でも、イラにある霊山以降の活動は確認出来ていませんが……」

 

ソーマが思い出すように答えた。 確かにあれ以降奴らの活動は確認出来てないが、密かに息を潜めて活動している事はどこはかとなく感じてはいた。 D∵G教団の目的は分かるが、それに至る為の手段が未だに謎のままでもある。

 

「たとえそれが事実だとして、奴らはこのネクターで何をする気だ?」

 

「そこまでは分からへん……」

 

「あの、そのD∵G教団の∵って何ですか?」

 

「∵は“何故ならば”を意味する数学的な記号だよ。 それではやて、他の略称も分かっているの?」

 

「そこも分かってへんけど、怪異を信仰するんならGはもしかしたらグリードかもしれへんなあ」

 

「憶測だがいい線はいってるんじゃねえか?」

 

だとしてもDが何の略称かはわからないままだ。 奴らの所業を考えれば……Demon、悪魔かもしれないが……

 

「……とにかく、明日はネクターの服用の疑いがある市民を改めて確認しに行こう」

 

「やれやれ、また忙しくなりそうだなあー」

 

「働くのはレンヤ達だけどねえー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

午前中は昨日の時点で割り出せた薬物の使用した疑いのある市民の聞き込みをすることになっている。

 

「はいこれ、捜査部から送られた資料だよ。 参考にしてね」

 

「ありがとうね、ソエルちゃん」

 

「でも、よかったんですか? 今日くらい依頼を受けなくても大丈夫ですよ?」

 

「いいのよ、忙しくなる前に片付ければなんとかなるわ」

 

依頼を受けつつ他の仕事をこなすのが異界対策課のやり方だしな。

 

「後は……午後あたりにホアキン先生が成分調査の結果を連絡してくれるはずだが……」

 

「そういえば、アリシアさんの方はどうでしたか?」

 

「下のラボにあるグリードの素材や異界の食材などの成分は、あの薬から出なかったよ。 まあ、まだ私が見つけていない異界の材料が使われているかもしれないけど。 ーーふあ〜……」

 

詳細の説明を言い終わった後、アリシアは眠そうに大きなあくびをした。

 

「大丈夫ですか、アリシアさん?」

 

「大丈夫、大丈夫……ちょっと明け方まで野暮用があっただけだから」

 

「そんな時間まで寝ないで何やっていたのよ?」

 

「それが私にも見せてもらえなくてね。 ちょっとだけ見えたけど、どうやらデバイスに組み込むシステムを組んでいたみたい」

 

「すずかー、そう言うのは言わない約束だよー」

 

「痛ひゃい痛ひゃい!」

 

知られたくないのか、アリシアはすずかの頰を左右に引っ張った。 しかしシステムか……すずかも何かを作る時、フェアリンクシステムも含めて大抵とんでもないものを作るが。 アリシアも大概予想外の物を作るからなあ……

 

ピリリリリリリ♪

 

と、その時不意に自分のメイフォンに着信がきた。 どうやらビクセン町長のようだ。

 

「はい、異界対策課、神崎 蓮也です」

 

『……レンヤ君? ビクセンだが……』

 

「どうかしましたか? もしかしてクイラさんになにか?」

 

『そ、それが……その……クイラのやつがまた居なくなってしまったんだ』

 

「……詳しい話を聞かせてもらえますか?」

 

また厄介ごとが舞い込んできたが、とにかく今はビクセン町長の話を聞いた。

 

『あの後、夜遅くにクイラが目を覚ましたんだが……意識が朦朧としているようで、そのまま寝かせてしまったんだ。 念の為私も部屋に泊まって明日の朝、君達にも話を聞いてもらうつもりだったが……朝、目を覚ましたら……』

 

「……なるほど。 ホテルやカジノに問い合わせは?」

 

『い、一応してみたが誰も見た者はいないみたいで……レンヤ君……どうしたらいいと思う?』

 

考えられるとしたら……クイラさん自身が出て行ったか、もしくはこの薬をクイラさんに売りつけたブローカーが連れ出したか……まだまだ予想はできるが、まだ推測の域を出ないな。

 

「……町長はそのままホテルで待機していてください。 ひょっとしたらクイラさんが戻ってくるかもしれません。 こちらは聞き込みに出るので彼の事も気に留めておきます。 何かあったらまた連絡してください」

 

『わ、分かった……よろしく頼む!』

 

了承します確認し、通信を切った。 皆は俺の会話で大体の事象は理解しているようだ。

 

「……例の彼が居なくなってしまったの?」

 

「ああ……今朝ホテルから抜け出してしまったらしい。 自分から消えてしまったのか、それとも……」

 

「……やっぱり他の人達も確認する必要がありそうだね」

 

「うん、嫌な予感がするよ」

 

経験上、こういう予感は的中するから嫌になる。

 

「……どうやら思っていた以上に事態の進行が早いかもしれないな」

 

「こっちの事は心配しないで、早く確かめに行って」

 

「留守は任せてください!」

 

(コクン)

 

「頑張ってください、皆さん」

 

「依頼の大半はこっちで引き受けます。 だめならユエさん達にも応援を呼びますから大丈夫ですよ」

 

「ああ、よろしくお願いするぞ」

 

渡された資料を確認し、まず1番近い服用者の居場所に向かった。

 

 

 


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