翌日、5月25日ーー
「驚いたな……この目玉焼き、本当にヴィヴィオが焼いたのか?」
朝食の席で、目の前に置かれた皿にある丁度いい焼き加減の目玉焼きを見ながら思わず聞いてみた。
「はい、あまりにも手際がよかったから思わず見惚れてしまいました」
「ファリンは手伝おうよ……」
「でも、本当によくできていると思うよ」
「ええ、いい半熟具合です」
「ベーコンもカリカリで言うことナシだな」
「えへへ……」
皆も高評価で、ヴィヴィオも照れながら賞賛を受け取る。
「昨日のシチューを手伝ってくれた時も、大した腕前やったし……もしかしてヴィヴィオ、才能あるんとちゃうか?」
「うーん、そうかなー? なんかかってに手が動いただけなんだけどー」
「へー、やっぱり才能なのかもしれないね」
フェイトは親バカでヴィヴィオを褒める。 それにしても贔屓しなくてもやっぱりすごいとは思う。 だが、人造生命体であるから言語の発達が早いと理解しているが……元が彼女なら料理は出来ないはずだ。 彼女は料理をやった……と言うより出来なかった筈だし。
(あ、俺の方か……)
「ねーねー、すずかママー。 今日はもうだいじょーぶなのー?」
「あ……うん、もう大丈夫だよ。 昨日も早めに休んだし、心配してありがとうね、ヴィヴィオちゃん」
「うん! パパもだいじょーぶ?」
「あ、ああ、もう平気だ。 それよりも早く食べよう」
やや皆に怪しい目で見られるが、何とか誤魔化した。
ピリリリリリリ♪
さっそく食べようとした時、俺のメイフォンに通信が入って来た。
「っと、済まない」
「朝から珍しいね」
「サーシャあたりかしら?」
「ああ、どうやらそのようだ」
アリサの予想通り、相手はサーシャからだった。 確かサーシャはルキュウに帰らず、対策課に残っていた筈だが。
「はい、こちらレンヤだがーー」
『あ、朝からすみません! 緊急でお伝えしたい事がありまして……!』
サーシャ自身も驚いているのか、かなり慌てているようだ。
「落ち着け、一体何があった?」
『は、はい! 昨日の深夜ーーいえ日付は今日になりますが。 ヘインダールの事務所が何者かに襲撃されたそうです!』
「何だって……⁉︎」
『どうやらヘインダールは防戦一方だったそうで。 かなりの被害も損失したそうです⁉︎ 詳しい情報は出ていませんが、襲ったのは間違いなくフェノールだと思われます!』
「そうか……ありがとう、サーシャ。 情報提供感謝するよ」
『お、お役に立ててなによりです!』
「だが、それとこれとは話は別だ。 早く学院に来い。 点数足りてないからサーシャは落第ギリギリだろ」
『そ、そんなぁ〜……』
「そっちは俺達が何とかする。 サーシャはとりあえず進級できるように頑張れ」
『はーい……』
通話を切り、皆の方を向いた。
「サーシャはなんて?」
「ああ、どうやらとんでもない事が起きたらしい」
皆に、サーシャから聞いた情報を伝えた。
「ほ、本当なの……⁉︎」
「ちょっとちょっと、マジですか⁉︎」
「真夜中とはいえ、市街地でそんな事が……」
「あいつらが、防戦一方だと……?」
「これは、穏やかではないですね」
「ほえ〜?」
ヴィヴィオはもちろん何のことか分かるわけもなく、とりあえず頭を撫でた。
「ふむ……それが本当なら捜査課がとっくに動いていそうやな……」
「気になるなら行って来い。 ただしメシを食ってからな」
「はい、そうします」
「あーあ、今日も学院を休むのかー」
「まあ、サーシャと違って勉強と両立できているから問題ないわよ」
「リヴァンはどうする?」
「……いや、俺は行かない。 あいつらがそう簡単にやられるとは思わないしな」
「そうか……」
たとえ別れても、リヴァンはヘインダールの事を信頼しているようだ。 それから朝食を早めに済ませ、すぐに港湾地区に向かった。
車を道路の脇に停め、ヘインダールの事務所前に来ると……建物はボロボロで、そこはすでに襲撃の後だった。 数人の構成員が後片付けもしていた。
「これは……」
「襲撃の後、みたいだね……」
「例の重機関銃が使われた跡みたいだね……爆発物を使わなかっただけマシみたいだけど……」
と、そこで見張りをしていた管理局員……ティーダさんがこちらに気付いた。
「なんだ、お前達か」
「ティーダさん……状況はどうなっていますか? つい先ほど話を聞いて、慌ててやって来たんですが」
「さあな。 ただまあ、真夜中にドンパチやらかしながったようだな。 今、ゼストさん達が事情聴取している」
やはり、この件はすでに他の課も動いているようだな。 って、当然か。
「さすがゼストさんね、仕事が早いわ」
「俺達もヘインダールから話を聞いておきたいんだけど……中に入っても大丈夫ですか?」
「いいぞ、一般人は通すなとしか言われてないからな。 ゼストさんには適当に誤魔化してくれよ」
「助かります」
ティーダさんに通してもらい、事務所に入ると……中は外以上に酷い有様だった壁や床のいたるところが銃弾の跡だらけだ。 とにかく前に訪れた応接室に向かい、ノックして中に入った。
「失礼します」
中に入いると、カリブラとユラギがゼストさんとメガーネと話していた途中だった。 室内を軽く見渡すと、外と比べて傷1つ無かった。
「お前達……⁉︎」
「あらあら……」
「お、レンヤ達じゃねえか」
「失礼する、カリブラ。 忙しいとは思うが、少し話を聞いてもいいか?」
「おう、もちろん構わないさあ。 それじゃあゼストの旦那。 事情聴取、お疲れさん」
「………失礼する」
ゼストさんは少し考えた後、踵を返した。 俺達は道を開け、横を通りかかった時……
(後のことは任せよう。 よい情報を引き出せるといいな)
(あ……はい)
(頑張ってね)
小声で助言をもらい、2人は部屋を後にした。
「久しぶりさあ、レンヤ、それにお前達も。 記念祭の最終日はなかなか派手にやったそうじゃねえか?」
「まあな……さて、俺達異界対策課は通常の捜査体制から外れている。 それを踏まえて、率直な意見を言わせてもらおう」
「ほう……?」
「レ、レンヤ……?」
「いまさら腹を探り合う必要もないだろう、単刀直入に質問した方がお互い楽だろ?」
全くの良好な関係というわけではないが、敵対する理由もないからな。
「………くく、ああ、そうだな。 それで何が聞きたいさあ?」
「聞きたいことは2つだ。 昨晩の襲撃者はフェノールで間違いないな? 別の組織が襲って来た可能性は?」
「ま、当然の質問さあ。 ユラギ、答えてやれ」
「はい」
ユラギが一歩前に出て、メガネを直してから答えた。
「……襲撃者達は覆面で正体を隠してきましたが、間違いなくフェノールの配下でしょう。 武装も同じでしたし、何より戦闘のクセが似ていました。 そういうものは簡単に偽装できるものではありません」
「なるほど……」
「でも、そうなるとますます分からないね。 あなた達はもちろんのこと、ヘインダールの構成員は相当な腕前にはずだよ。 それが遅れを取るなんて……あのゼアドールが出てきたの?」
「いや、かの第一は出てこなかったさあ。 おそらく、フェノールでも平均的な戦闘能力の奴らだけださあ」
「だったらどうして……」
戦闘能力なんて、武器1つ持っただけでは簡単には埋まらないはずだ。 それがどうして……
「ーー戦闘技術は並み程度でしたが、力とスピードが段違いでした。 重機関銃型のデバイスを片手で軽々と振り回して力任せに突入してきたのです。 結果、こちらの守りを崩され、2階まで制圧されてしまいました」
「それは……」
「それに加えてタフさも大したもんだったさあ。 おかげで少しばかり本気が出ちまった」
「リヴァンと同等とは聞いていたけど……あなたも相当な手練れのようね?」
「リヴァンはお前達と……VII組と関わってから段違いに強くなってるさあ。 それにフォーレスの旦那から天剣をもらったとなると、もう俺っちじゃあ歯が立たないさあ」
「そうは見えないけど……」
まあ、それは置いておいて。 襲撃者はフェノールで間違いなさそうだな。 襲撃した理由は定かではないが、構成員の変貌を聞く限り穏やかではない事がわかる。
「それじゃあ、次の質問だ。 今回の事件を受けて、この後どう対処するつもりだ?」
「くく……何を聞かれるかと思えば。 俺っち達がどういう存在であるかを考えれば、聞くまでもないだろ?」
「……………………」
「報復……というわけね」
「人聞きが悪いさあ。 とはいえ……こっちもなるべく穏便に済ませたいし。 まあ、そういうこった」
カリブラはチラリと視線をこちらに向けた。
「結局、奴らが何をするつもりか分かんねい限り、こちらとしても手の出しようがないさあ」
「そうか……」
「さてと……これで2つだが、質問は以上かさあ?」
「ああ、質問に答えてくれて感謝する。 概要については、捜査課に報告してもいいか?」
「自由にすればいいさあ。 さて、出来れば早く奴らの動向が分かるといいな? そうすれば、ウチらが本格的に動き始める前に……ま、せいぜい頑張るといいさあ」
最後に妙に脅しめいた事を言い、俺達は礼を言って部屋を出て、そのまま事務所を出た。 外に出ると、見張りがティーダさんではなく別の管理局員に変わっていた。 彼に少し挨拶を交えた話をし、停めていた車の前まで来た。
「……参ったね」
「ええ、色々と教えてくれたのはありがたいけど……まさかあそこまで露骨に本格的な抗争を仄めかすなんて……」
「このままだと確実にドンパチが始まっちゃうよ。 下手すれば今回みたいな市街地で」
「……カリブラが言った通り、まだ猶予は残されていると考えてもいいだろう。 いずれにせよ、フェノールの今回の襲撃には不審な点が多すぎる。 ヘインダールが本格的に動き始める前に、色々と調べた方が良さそうだな」
「ええ、そうね」
「となると、今日も各方面で聞き込みを?」
「いや……やっぱりここは直接、フェノールを当たってみないか?」
俺の提案に、3人は当然驚いた。
「本気で言っているの……⁉︎」
「確かに以前にも訪ねたことはあったけど……」
「競売会の事もあったし、さすがに無理があるんじゃないかな?」
「……ああ。 いくら手打ちの話があっても、ヴィヴィオの件についてだけだしな。 ただ、どうしても気になることがあってさ……」
「気になること……?」
「あのゼアドールの動向さ。 何度かやり合って思ったんだが、彼は決して愚かでも無謀でもない。 そして部下もちゃんと押さえて統率している印象だった」
そんな人が、部下に無策の猪突猛進なんて無謀な事をさせるはずがない。
「確かに、元はといえ統政庁の一員だったし。 普通だったら意味もない襲撃をさせるとは思えないけど……」
「昨晩の襲撃をゼアドールが指示したものなのか、それとも部下の独断による暴走なのか……確かに知りたい情報ではあるわね」
「だろ? フェノール商会の周囲を聞き込んでみるくらいでもいいだろ。 今から行ってみるか?」
「はあ……仕方ないわね」
「でも、周囲に聞き込むくらいなら危険は少ないと思うよ」
「しょうがない、行ってみようか!」
ミッドチルダ西部にある開発区に向かい。 路地の手前で降りて徒歩でフェノール商会の一歩手前まで来た。 路地からフェノール商会の正面をこっそり見ると……そこには、見張りにしてはかなりの人数の構成員がいた。
「やっぱり、普段より見張りは多いみたいね」
「しかも、想像以上に殺気立っている感じだね……」
「……構成員の人達にも賛成してない人はいるみたいだね。 不安や焦りを感じるよ」
「間違いなくヘインダールの報復を警戒してるんだろう……しかし参ったな。 これじゃあゼアドールの動向を知ることはとてもーー」
その時、背後から気配を……隠されている気配を感じた。
「ーー私がなんと?」
その後すぐにに聞き覚えのある声が背後からかけられ、振り返ると……大通り方面からゼアドールが歩いて来た。
「ゼアドール・スクラム……!」
「大きい体のくせに気配を消して……」
「お前達か。 あんな事があったというのに、よくもまあここに来れたものだ」
ゼアドールは正面に立ち、威圧を出しているが……なんだ? どこかおかしい……
「……言い訳はしません。 あなた達との手打ちについてはヴィヴィオに関する事だけですから」
「分かっているならいい。 その件を盾に、乗り込んでいたら叩き潰している所だ」
「……………………」
お互い、蒸し返す気は無いという事でいいだろう。
「まったく、物騒なおじさんだね」
「……お前達がコソコソと嗅ぎ回っている理由は判っている。 だが、その件について私から話すことは一切ない。 早く去るのだな」
「…………………」
こちらの返答も待たず、ゼアドールは事務所に向かおうと路地に入った。
だが、俺はゼアドールを呼び止めた。
「ーー1つだけ、教えてください。 もし、あなたが武装した敵本拠地を攻略するとしたら……真っ正面から力任せに行きますか?」
フェノールがとったあり得ない行動、それはゼアドールの指示ではないにしても聞かずにはいられなかった。 ゼアドールは足を止め、少し考えた後……
「ふっ、まともな軍隊ならそんな作戦は決して立てないだろう。 私なら個人ならそうするが……部隊としてなら可能な限り有利な状況に持ち込み、最低限の損傷で最大の戦果を狙う。 それがセオリーというものだ」
「……確かにそうね。 それと比べると今回のはあまりにも杜撰だったわ」
「そうか……答えてくれて、ありがとうございます」
「ふん、おかしな奴だ。 ただ、ここから先は不用意には立ち入らないことだ。 命が惜しく無かったらな」
最後にゼアドールらしい、物騒な忠告を言い。 ゼアドールは事務所に向かって行った。
「何だか、少し様子が変だったな。 張り詰めているようで、どこか力が抜けているような……」
「……そうね。 言っている事は物騒だったけど、殺気は感じなかった」
「少し疲れているような、そんな感じもしたね。 一体、何があったんだろう?」
「調子狂うなぁ〜……」
「ふふん。 その理由、知りたい?」
と、また背後から声をかけられ。 現れたのは……クイントさんだった。
「ク、クイントさん……⁉︎」
「ゼストさんと一緒にいないと思ったら……ホンット神出鬼没だね」
「フッ、それが捜査官魂ってモンよ」
あなただけだよ、それは……この人管理局辞めたら、次の仕事は記者だな、絶対。
「それじゃあ、ここじゃなんだし、情報が欲しいならそこのバーで待っているから」
こっちも返答も待たずにそのまま近くにあったバーに入って行った。
「……どうするの?」
「まあ、聞くだけ聞いてみよう。 喋り過ぎないように、注意する必要はありそうだけど」
「だね……」
「親子って案外似てないもんだね、性格は……」
実体験があるのか、アリシアはしみじみと頷く。 兎にも角にもここで立ち止まっても仕方ない、腹をくくってバーに入った。
「おっ、来たわね。 さっそくだけど、ヘインダールの事務所で会話した内容を教えてくれれるかしら?」
「いきなりですね……」
「大方、ゼストさん辺りから聞いたんですか?」
「ええ、メガーヌからちょっとだけ。 こっちも手に入れた情報を教えるから、情報交換と行きましょうか」
「はあ、分かりました。 答えられる範囲で教えます」
テーブル席に座り、まずはこちらからクイントさんに今まで得た情報を注意しながら教えた。
「……なるほどね。 うーん、思っていた以上にヤバイ状況になってるわねぇ」
「はい……そうなんですよ。 今の所はどちらも一般市民を巻き込まない配慮はしているみたいですが……」
「いやあ、それにしたって今回の事件は唐突すぎるわよ。 いくら真夜中とはいえ、
「ええ、そうですね……下手すればミッドチルダの金融・貿易センターとしての信頼も揺るがしかない出来事だと思うわ」
「そこなのよね、ポイントは。 こりゃ、あたしが掴んだ情報もあながち嘘じゃないかもしれないいわ」
「クイントさんが掴んだ情報……」
「……話してもらえますか?」
「オーケー。 今度はこっちのターンね」
クイントさんは一度咳払いをし、得た情報を話し始めた。
「実はね……マフィア内部事情なんだけど。 最近、若頭のゼアドール氏の統制が行き届かなくなっている噂があるみたいなのよ」
「それは、本当ですか……⁉︎」
「ちょっと信じられないね……あの化け物じみたおじさんに逆らえるとは到底思えないけど」
「まあ、そうなんだけどね。 ただここ最近起きたフェノールが関わっている事件はゼアドール氏の指示じゃないらしいの。 手柄を立てようとした下っ端が独断でした結果らしいんだけど……そうした若手ならではの暴走が目立ってきているのよ」
「ふうん……?」
「ちょ、ちょっと待って! それじゃあ昨夜の襲撃も若手の勝手な暴走だと……⁉︎」
「まあ、さすがに事が大き過ぎるし、それは無いとは思うんだけどね……ただ、そういう事情を踏まえると、ゼアドール氏のさっきの態度はなんとなく理解できるんじゃない?」
確かあの時、覇気すらも薄くなっていたし。 あながち間違ってはいなさそうだ。
「確かに……取り巻きもいなかったし」
「フェノール内を統制するのに苦労しているというこ事か……」
「でも、例のカクラフ会長はいったい何をしているんですか?」
「聞いた話によれば、競売会での失態を取り戻そうと必死になっているそうよ。 機嫌を損ねたアザール議長へのご機嫌取りはもちろんだけど……新たに首都内の有力者を取り込もうとしているらしいわ」
懲りない人だな、カクラフ会長は……
「新たな有力者……どのあたりなんのかしら?」
「極端に言えばアザール議長と対立している議員ね。 それと航空武装隊司令あたりとも何度か会合しているって噂よ」
「航空武装隊の司令を取り込んだのは、武器の密輸を強化するためか……?」
「ま、そんな所じゃない。 いやー、ティーダが早めに武装隊を抜けてよかったよ」
「しかも航空武装隊の総司令はソイレント中将、彼はアザール議長の腰巾着って話もあるよ。 そちらに働きかけることで、間接的に議長のご機嫌取りもしようとしているかもしれないね」
「ええ、あたしもそう睨んでいるわ。 いや〜、やっぱり君達と話していると考えがまとまるわねぇ! うんうん! 情報交換した甲斐があったわ!」
「はは……正直こちらも助かりました。 でも、こうして整理してみるとやっぱり違和感を感じますね……」
「違和感?」
「……どういうこと?」
これまでフェノールが起こして来た事件に幾度となく関わってきたからか、何となくわかる。
「一つ一つの行動については、納得いく理由があるようですが……どれも場当たり的だし、組織として全く連携が取れていない気がします。 おれがフェノールに感じていたのは悪い意味で、大都市ならではの“スマートさ”だったんですが。 それが殆んど感じられないんです」
「なるほど……」
「ふむ……いわれてみれば」
「ミッドチルダという金の成る木から甘い汁を吸うためのシステム……それを確立した組織にしては、確かに場当たり的かもしれないね」
「何か、そのあたりを狂わせるような、私達の知らない“要素”がある……そういう事?」
「ああ……あくまで直感なんだけどね。 ヘインダールを襲った襲撃者の戦闘能力も不自然に高かったみたいだし……ゼアドールの奇妙な態度にしてもそれが原因だと思ってさ」
「うーん、さすがレンヤ君。 鋭い読みをしてくれるじゃない。 ね、対策課クビになったら捜査部に来ない?」
「いえ、こんなんでもすでに捜査官ですし……ていうか、縁起でもないことを言わないでくださいよ」
ピリリリリリリ♪
と、そこで俺のメイフォンに通信が入ってきた。
「ーーすみません。 ちょっと失礼します」
一言謝り、通信に出た。
「はい、異界対策課の神崎 蓮也です」
『すまない、私だ! マインツのビクセンだ!』
通信相手はビクセンさんだった。 かなり慌てているようだが……
「ああ、町長さんでしたか。 どうかしましたか? 随分慌てているようですが……」
『そ、それが……今ミッドチルダのカジノハウスに来ているんだが……ど、どうもクイラの様子がおかしくなってそれで連絡を……』
「様子がおかしい……? 一体、どうおかしいんですか?」
『さっきからクイラが他の客とポーカーをしているんだが……妙に暴力的というか物騒な雰囲気になってきて……すまない、とにかく様子を見にきてもらえないだろうか⁉︎』
「りょ、了解しました。 カジノハウスですね? 近くにいるのですぐに行きます」
『ああ、よろしく頼むよ!』
通信を切り、皆の方を向いた。 どうやら先ほどの応対で尋常ではない事態という事は理解しているようだ。
「マインツの町長から?」
「カジノがどうとか言っていたみたいだけど?」
「ああ、例のクイラさんが客同士の勝負で暴力的な事に巻き込まれそうな感じらしい」
「なんですって……?」
「相手の逆恨みでも買ったのかな?」
「昨日と同じ調子ならあり得そう……」
「ふむ、それは急いで様子を見に行かないとね。 それじゃあ、カジノにレッツゴー!」
クイントさんは張り切って上に拳を上げるが……
「あれ、どうしたの?」
「いえ、その……」
「……言っても無駄だろうから気にせず行こう」
首突っ込む気満々なクイントさんはとりあえず放置しても勝手に着いてかる……とにかく、急いで昨日訪れたカジノハウスに向かった。