魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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123話

 

 

僧院から出て、解放された空気を感じながら来た道を戻り、トンネル内の車を止めた場所まで戻ってきた。

 

「これからどうしますか? まだ時間に余裕もありますし、皆さんのお手伝いもしますよ?」

 

「うーん、それはありがとうけど。 どうしようかな……」

 

「まあ、いいんじゃないかしら」

 

ピリリリリ♪

 

また唐突にメイフォンに通信が入った。

 

「おっと……通信か」

 

「あはは、変なタイミングで掛かってくるもんだね」

 

確かにそうだな。 たまに空気読まないで来る時もあるが……とにかくそれは置いといて通信に出た。

 

「はい、こちら異界対策課の神崎です」

 

『あ、レンヤさん、サーシャです。 えっと、今どちらにいらっしゃいますか?』

 

「ああ、マインツ山道の途中にあるトンネルだ。 実はギンガと一緒に遺跡の調査をしていた所だ」

 

『はい、それはメールで聞いていました。 調査の方は無事に終わりましたか?』

 

「ああ、一応はな。 それでどうした? 何か問題が起きたのか?」

 

『いえ、実はレンヤさん達に問い合わせの連絡がありまして』

 

依頼の要請ならともかく、問い合わせは珍しいな。

 

「問い合わせ……市民からか?」

 

『はい、マインツの町長からです。 何でもレンヤさん達に相談したいことがあるそうです』

 

「へえ……珍しいこともあるんだな。 どういう内容か聞いているか?」

 

『えっと、何でも鉱山町の人で、クラナガンに行ったまま何日も帰っていない人がいるらしいです。 その相談ということみたいです』

 

「なるほど……ちょっと気になるな」

 

失踪、あるいは何らかの事件に巻き込まれている可能性があるな。

 

「分かった。 ちょうどマインツにすぐそばにいるし、このまま訪ねてみる」

 

『了解しました。 それでは先方にはそのように連絡をしておきます』

 

話は決まり、通信を切った。

 

「誰からでしたか?」

 

「ああ、サーシャからだ。 対策課の仕事についての連絡だった」

 

「それで、どんな話だったの?」

 

俺はサーシャからの連絡内容をかいつまんで説明した。

 

「なるほど……マインツのビクセン町長の依頼ね」

 

「街を出たまま何日も帰って来ない人か……」

 

「すぐ近くだし、こちらから出向いて話を聞いた方が早いね」

 

「ああ、そのつもりだ。 それじゃあ早速マインツに向かうか。 ギンガ、手伝ってくれるか?」

 

「はい! もちろんです!」

 

そうと決まれば車に乗り込み、マインツに向けて走り出した。 近くということもあり、あっという間にマインツに到着し、停留所に車を停めた。

 

「んー、いつ来ても空気の美味しさの良し悪しが分かりにくい場所だね〜」

 

「ア、アリシアちゃん……」

 

「早速、町長に詳しい話を聞きに行こう」

 

「はい」

 

「町長宅は真っ直ぐ進んで突き当たりにある家だったわね」

 

日も暮れかけている事だし、早速町長宅に向かった。 町長宅前まで来て、ノックしてから町長宅に入った。

 

「ーー失礼します。 異界対策課の者ですが」

 

「おお、待っていたよ」

 

家の中にはビクセンさんとアンナさんがいた。

 

「わざわざ来てくれてすまない。 本当ならこちらから出向こうと思ったんたが……」

 

「いえ、近くで他の仕事があったついでですから。 それで……早速お話を伺ってもいいですか?」

 

「ああ、座ってくれたまえ」

 

「すぐにお茶を淹れますね」

 

テーブルに座り、ビクセンさんから詳しい話を聞いた。

 

「ーーなるほど。 では、そのクイラさんという鉱員が2週間前にクラナガン行ったっきり帰って来ないと……?」

 

「ああ、そうなんだ……とにかく大のギャンブル好きでね。 それまでにも週末のたびにクラナガンの歓楽街にあるカジノに遊びに行っていたようだが……」

 

「それが何の連絡もなく、2週間も帰って来てなくて……何かあったんじゃないかと、皆で心配しているんですよ」

 

「確かに……それは心配ですね」

 

「何かの事件に巻き込まれたのか、それとも帰れない事情があるのか……」

 

「うーん、帰り道で野獣に襲われたとかじゃなければいいんですけど」

 

「あ、もしかしてその鉱員がギャンブルで大勝ちした可能性はあるんじゃないかな? それで今頃はどっかでフィーバーしてたりとか」

 

アリシアがまるで自分におきたら楽しそうな雰囲気で言った。 さすがにビクセンさんも含めて苦笑いした。

 

「……あんまり軽率な事を言うな」

 

「でも、可能性としてはあり得るかもしれないよ」

 

「う、うーん……残念ながらその可能性は無いと思うんだがねぇ……」

 

アリシアの予想を否定するように、ビクセンさんが苦笑いをした。

 

「と、言うと?」

 

「ギャンブル好きだけど、根は真面目な人なのかしら?」

 

「ハハ、お世辞にも真面目とは言いがたいが……ギャンブルについてはとにかく下手の横好きでね。 おまけにツキもカンも無いから、毎回有り金のほとんどをスって帰ってくるくらいなんだ」

 

「な、なるほど……」

 

負け続けているのにカジノに通う精神はほんの少しだけ……いや、やっぱりないな。

 

「確かに宝クジなら大穴もあるけど、ギャンブルだと実力もないと大儲け難しいかもね」

 

「じゃ、じゃあ、もしかして借金をして、それが原因で失踪とか……」

 

「そうね……可能性としてはあり得るわ」

 

「……実は私達の方もそのあたりを疑っていてね。 もしそうだった場合、どう連絡を取ればいいのか……」

 

なんだか一気に犯罪関連の線は消えたような気もするが……町長はもちろんの事、鉱員の人達も心配しているそうだし。 少し考えた後、答えを出した。

 

「ーー分かりました。 この件はお任せください。 とりあえず、カジノを始め、クイラさんの寄りそうな場所を聞き込みをしてみます」

 

「ありがたい……どうか宜しくお願いする。 何か分かったら私の家に通信で連絡してもらえるかね?」

 

「はい、それでは番号を控えさせてもらえば……」

 

こうして話はまとまり、番号を教えてもらい、町長家から出た。 外はすでに日が沈んでいて、もう夕方だった。

 

「もうこんな時間か……そろそろ首都に戻った方がよさそうだな」

 

「今日中に聞き込みくらいはしておきたいところだし。 ギンガもそろそろ送った方がいいわね」

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。 バスも来るころですし、皆さんも町長さんに頼まれた依頼もあるでしょうし……」

 

「陸士108部隊の隊舎は帰り道の途中だよ、遠慮せず乗って行きなって」

 

「ここまで来たのなら、最後まで乗って行ってね」

 

「……はい。 では、お言葉に甘えて」

 

ここで遠慮しても意味はないし、さっさと車に乗り込み。 30分くらいで陸士108隊舎前に到着した。

 

「今日は本当に、ありがとうございました! このお礼は近いうちに必ず返させていただきます!」

 

「はは、大げさだなぁ」

 

「ま、なかなか興味深い体験だったよ」

 

「あの遺跡ーー僧院についてだけど……一応、聖王教会に相談してみた方がいいかもしれないわね」

 

「……そうだね。 私達より詳しくのは確かだし」

 

「なるほど……分かりました、お父……コホン、隊長と相談して、そのあたりの対応は考えてみます。 皆さんの方は……これから街で聞き込みですか?」

 

「ああ、少なくともカジノには訪ねてみるつもりだ。 もし、そっちでそれらしい情報があったら連絡してくれないか?」

 

「分かりました。 鉱山町のクイラさんですね。 それでは失礼します。 皆さん、お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様、ゲンヤさんによろしくね」

 

ギンガは敬礼してお礼を言い、隊舎の中に入って行った。

 

「さてと……それじゃあ時間もない事だし、このまま歓楽街のカジノに行ってみるか」

 

「了解〜、それじゃあレッツゴー!」

 

車に乗って、クラナガン東側にある歓楽街に向かった。 歓楽街はいたるところがネオンの光で照らされていて、日の光が小さくなって来ているからより光が強く見える。 カジノの前に到着し、怪しまれたのか警備員に止められたが、管理局員として身分を証明してカジノに入った。

 

「ほうほーう、盛り上ってるねー。 それじゃあ、楽しみながら鉱員の情報を集めよー!」

 

「いや、駄目だから」

 

「潜入捜査でもないのに、遊ぶ必要は無いような……」

 

「とにかく従業員の人や客に聞いてみましょう。 クイラさんの消息について何か掴めるかもしれないわ」

 

「はーい」

 

やや不服そうにアリシアが返事をし、ゲームセンターとは違う騒音を聞きながら……まずはここのオーナーに話を聞くことにした。 オーナーを探すと、バーカウンターにそれらしき老人がいた。

 

「おや、ここは未成年が来るような場所ではないですよ」

 

「いえ、俺達は管理局員で、ある事件の捜査をしている最中です。 それで、少しお話を聞きたいのですが……」

 

行方不明になっているクイラさんについて訊ねてみた。

 

「行方不明? ハハ、そんな馬鹿な。 今日だってウチに遊びに来て、荒稼ぎして行かれましたが……」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「しかも荒稼ぎって……」

 

「あの、人違いじゃないよね? 私達が捜しているのはマインツの鉱員をやっているツキもカンもない人だよ?」

 

ビクセンさんの話と食い違いもあり、アリシアは念のため確認してみた。

 

「ああ、勿論その方のことさ。 2週間前になるか……久々に顔を見せたかと思ったら別人のように強くなっててな。 おかげでウチのディーラーは負け続き。 50万くらいは持っていかれてるよ」

 

「ご、50万⁉︎」

 

「それはかなりの大金ですね……」

 

「えっと、なんかイカサマをやっているとかそんなんじゃないよね?」

 

「私達もプロだ。 イカサマがあれば気付くさ。 とにかく異常にカンが冴えてる上にあり得ないほどのツキの良さでな。 一体、彼に何があったのかこちらも知りたいくらいなんだ」

 

「町長から聞いた話と随分違っているみたいだけど……」

 

もちろんビクセンさんが嘘を言っているわけではないはずだ。 だけどもオーナーが嘘を言っているわけでもない、2週間前というのも合致はする。 となると本当にクイラさん本人が……

 

「あの、オーナー。 クイラさんは鉱山町にはずっと帰っていないそうですが……どこに滞在しているかご存知ですか?」

 

「ああ、それなら……すぐ近くにあるホテルに毎日泊まっておられますよ。 それも確か、最上階にあるスイートルームだった筈です」

 

この近くのホテルはどれも高級だ。 これはかなり豪遊していそうだな。

 

「あの高級ホテルのスイートルームですか……」

 

「うわー、太っ腹ー」

 

「でも、意外とすぐに消息が判明したね」

 

「ええ……早速、訪ねてみましょう」

 

オーナーにお礼を言い、カジノを出ると外はすっかり日も沈んでしまって夜になっていた。

 

「もう日も暮れたか……とにかくクイラさんと1度話をしてみないとな」

 

「ええ、向こうにあるホテルに行ってみましょう。 スイートルームは確か一部屋だけだった筈、すぐにわかるわ」

 

「カジノで大勝ちして優雅にホテル暮らしね……羨ましい」

 

「アリシアちゃん。 そういう問題じゃないと思うよ……」

 

とにかくこのカジノから1番近くにあるホテルに向かい、カウンターで話を聞いてみると……オーナーが言っていた通り。 2週間前からここに滞在しているようだ。 よくルームサービスをしているらしく、覚えられていたようだ。 そして最上階にあるスイートルームまで上り、1つだけあった部屋の扉をノックしてから入った。 部屋に入いると、正面にあった高級そうなソファーにズッシリと座っている酔っ払った男がいた。 その男の左右にはホステスらしき女性が2人いる。

 

「あら、あなた達は?」

 

「ここは子どもがくるところじゃないわよ」

 

「え、ええと、少々事情がありまして……」

 

すずかは少し慌てているのか、返答が曖昧になる。

 

「ああん、なんだオメーらは……?」

 

「ーー失礼します。 時空管理局、異界対策課の者です。 マインツのクイラさんですよね?」

 

「ヒック、そうだが……オメーら、どこかで見たことがあるような……?」

 

「あ、この人。 フェノールのグリード騒ぎの時に襲われそうになっていた鉱員の1人じゃない……?」

 

あ、そういえばいたな。 あれから結構経っていたから忘れていた。

 

「ああ、レンヤとすずかが1年の時に行った特別実習の時ね」

 

「ハ、そんな事もありやがったな。 思い出したぜ……確かに管理局のガキどもだったな。 このオレ様に何の用だよ、ヒック?」

 

あの時しか面識はないが、ここまで偉そうな人ではなかったと思う。 性格が変わっている……? 勝ち続けているのに関係があるのか?

 

「実はマインツの町長に頼まれて、あなたの行方を捜していたんです」

 

「町長がオレのことを……? ヒック……いったい何の用だってんだ?」

 

「あなた、ここに来たまま2週間も連絡を取っていないんでしょ? 失踪したんじゃないかって心配されていたよ?」

 

「それで私達が捜索を引き受けたのよ」

 

「ヒック、なるほどなぁ。 よかったじゃねーか。 ちゃんと見つかってよう。 クク、と言っても、もうオレはマインツなんざ帰るつもりはねぇんだが……」

 

まるで他人事のような感じでクイラさんは話す。 しかも帰らないとは……理由はわかりやすいけど。

 

「それは、一体どうして?」

 

「ガハハ、決まってんだろ⁉︎ オレは手に入れたんだ! 天才的なギャンブルの腕をな! 腕やカンだけじゃねえ! 女神の幸運もオレ様のもんだ! 誰があんな田舎町に戻って、セコイ穴掘りなんぞやるかっての!」

 

「あなた……!」

 

「これは……」

 

「その、いいんですか? 皆心配しているのですから、せめて町長にくらい連絡を……」

 

「るせえ! オレに指図すんじゃねえ!」

 

まるで聞く耳を持たず、クイラさんは大声で怒鳴った。 本当に人が変わっかのような変貌っぷりだな。 結局これ以上は無駄だと思い、部屋を出た。

 

「……駄目だね、あれは。 完璧に舞い上がっているよ」

 

「ああ……」

 

「残念だけど、町長にはありのままの状況を伝えるしかなさそうね。 私達が説得するのも筋違いでしょうし……」

 

「そうだね……本人の意思もあるし」

 

とはいえ、やはりどうにも腑に落ちない事がある。

 

「……レンヤ? 何か気になることでもあるの?」

 

「いや……ちょっとな。 元々ツキもカンもない、下手の横好きでしかなかった週末ギャンブラー……どうしていきなり勝ち続けるこたが出来るようになったのかと思ってさ」

 

「それは……」

 

「うーん、そうだねー。 ていうか、是非ともコツを教えてもらいたいくらいだよ」

 

「あれ? アリシアちゃんも賭け事はそこそこ強くなかったっけ?」

 

アリシアは暇があればトランプで賭け事をしていた。 とくに同類のクーとは気も合い、よくモコ教官に叱られていたりする。

 

「調子がいい時はね。 だけど、2週間連続で勝ち続けて、50万稼ぐなんてのは無理だよ。 ま、クーさんみたいな凄腕ならあり得ると思うけど」

 

「否定できないのが悔しいわね……」

 

と、そこで先ほどの部屋の扉が開き。 中にいたホステスの2人が出て来た。 ちょうどよかったのでクイラさんについて事情を聞いてみた。 どうやらあの態度は酒が入っている訳ではなく。 最初の頃は比較的穏やかだったが、だんだんと横暴になっていったそうだ。 それとギャンブルの腕もクイラさんの言う通り本当に天才的なもので、超能力者を使っているのではないかと思うくらいだそうだ。 それで話は終わり、お礼を言い、ホステスは階下に降りて行った。

 

「……とりあえず、町長に連絡を入れた方がいいんじゃないかしら?」

 

「ああ、そうだな……」

 

この事を素直に話すと思うと、あんまり気乗りしないが。 俺は教えてもらっていたビクセンさん宅の番号をコールした。 それから少し待ってから通話に出た。

 

『もしもし、こちらビクセンだが……』

 

「夜分にすみません。 異界対策課の神崎 蓮也です」

 

『おお、君か。 ひょっとして何か情報でもあったのかね?』

 

「いえ、それが……」

 

ビクセンさんに、一通りの事情を説明した。

 

『なんと……そんな事になっていたのか。 まさかあのクイラがギャンブルで大勝ちをして高級ホテルに泊まっているとは……』

 

いつものクイラさんを知っている分、驚きはすごかったようだ。

 

「さすがに連れ戻す説得までは出来ませんでしたが……一応、報告だけでもと思いまして」

 

『いやいや、それだけでも十分だ。 そういう事であれば、明日にでも私が街に出て彼と直接話してみるつもりだ。 ありがとう、本当に助かったよ』

 

「いえ、気にしないでください。 また何かありましたら遠慮なく連絡してきてください。 出来る限りのお手伝いをさせてもらいますから」

 

『ありがとう……その時はよろしく頼むよ』

 

話はまとまり、通信を切った。

 

「……町長はなんて?」

 

「さすがに驚いたみたいだ。 明日、クラナガンに来て直接話してみるそうだ」

 

「身内で話すのが一番いいかもしれないね」

 

「ふう、今日だけでも色々あって疲れたよ……」

 

「まあ、すずかはあんな事になったしね」

 

「ア、アリシアちゃん! それは言わないで!///」

 

記憶はあったのか、両手をワタワタと振って否定した。

 

「ふふ、そろそろ対策課に行きましょう。 ヴィヴィオも待っている事だし」

 

「コホン、そうだね。 ヴィヴィオの笑顔を見れば疲れも吹き飛びそうな気もするよ」

 

「はは、大げさだなあ。 ま、気持ちは分かるけど」

 

「あはは、皆親バカだねえ。 それじゃあ、ヴィヴィオの笑顔を見に早く帰ろー!」

 

対策課の戻るのは報告書をまとめる事であってヴィヴィオに会いに行く事ではないのだが……あんまり強く否定できない。

 

「ふう、ただいま」

 

「あ、かえってきた!」

 

入り口のすぐそばにあるソファーで本を読んでいたヴィヴィオは俺達が帰ってきたのに気付くと、俺に向かって元気よくお帰りと言いながら体当たりしてきた。

 

「はは、ヴィヴィオはいつでも元気だな」

 

「うんっ! ヴィヴィオげんきだよー!」

 

「お帰りなさい、皆さん今日は遅かったですね」

 

ファリンが箒を壁に掛け、俺達の荷物を持ってくれた。

 

「ま、そこそこ忙しかったわね」

 

「いつも通り、と言えばそうなんだけど」

 

この程度で疲れていては、身はとうの昔に朽ちているからな。 と、そこでヴィヴィオは俺とすずかの交互に見た。

 

「ヴィヴィオ?」

 

「パパとすずかママ、疲れたお顔しているけどだいじょーぶ?」

 

子どもだからなのか、それともヴィヴィオだからなのか、どちらにせよ疲労はごまかせなかったか。

 

「……うん、大丈夫だよ。 ヴィヴィオの顔を見たら元気になっちゃったよ」

 

「んー……」

 

すずかは気丈に振る舞おうとするが……何を思ったのか、ヴィヴィオは俺とすずかとまとめて抱きついてきた。

 

「お、おい……」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ……⁉︎」

 

「ヴィヴィオはげんきだから、パパとすずかママにおすそ分けする! ん〜、すりすり」

 

「あ……」

 

ヴィヴィオなりの慰め方なんだろう。 効果はかなり高い気もする。

 

「はは、そうか」

 

「確かによく効きそうだね」

 

「ふふっ、何よりの特効薬かもしれないわね」

 

「ありがとう、ヴィヴィオ……元気が湧いてきたよ」

 

「心配かけたな、ヴィヴィオ」

 

「うん!」

 

子どもに心配されるなんて……まだまだ親として未熟だな。

 

「そういえば……ソーマ達はまだ帰ってないのか?」

 

「ソーマ達ならあっちの部屋でおしごとしているよー」

 

「なら私達も早く終わらせましょう。 早く帰らないとなのは達がヴィヴィオを独占したって言ってうるさいわ」

 

「りょうかーい。 レンヤはレジアス中将に報告?」

 

「ああ、ちょっと行ってくるから。 先にまとめておいてくれ」

 

「うん、わかったよ。 レジアス中将によらしく言っておいてね」

 

「ああ……」

 

対策課を出て、エレベーターで上に登った。 しかし、ヴィヴィオに心配……気付かれるほど疲れが出ていたのか? とはいえ……

 

「くっ……!」

 

右腕を押さえ、壁に寄りかかる。 やはりすずかを庇った時にアークデーモンの爪を掠めたのがいけなかったらしい、少量でも毒が入ったってしまった。 解毒薬を飲み、少しだけ苦痛が和らぐ。 ヴィヴィオに見透かされてしまったな……

 

「上手く……行かないもんだな……」

 

《マジェスティー、大丈夫ですか?》

 

「何とかな。 さてと……」

 

目的の階に到着し、扉が開くと……

 

「なーにが大丈夫なの。 汗だくじゃん」

 

目の前にアリシアが腕を組んで立っていた。

 

「ア、アリシア……⁉︎」

 

「レンヤが爪で怪我した時点で、私達が気付かないと思った?」

 

「……アリサとすずかも気付いていたか」

 

「すずかは自分のせいだって罪悪感があるけどね。 ほら傷口見せて」

 

腕の治療を受け、そのままレジアス中将に報告し。 なのは達も……特にヴィヴィオを待っていることで、なるべく急いでルキュウに帰った。 車を運転したのはアリサだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ中央区、港湾地区の一角にあるヘインダール教導傭兵団の拠点ーー

 

「ーーフェノールの裏ルートが復活している?」

 

その一室に団長であるカリブラと、副団長のユラギがいた。 ユラギからに報告に、カリブラは疑問の声を出す。

 

「はい。 ここ1週間で、私達が抑えた3つのルートが立て直されました。 こちらも妨害しよとしたところ、思っていた以上にに抵抗が激しく……」

 

「ふうん……妙だな。 この状況で、失ったルートをわざわざ取り戻すだての余力が奴らにあるとは思えないさあ。 あっちにいる第一が重い腰を上げて動いたのかさ?」

 

「いえ……それが。 第一のゼアドールの姿はどこにもなく、配下の構成員だけだったそうです。 それとグリードは連れていなく、数名程度の少人数だったようです」

 

その報告に、カリブラはさらに顔をしかめた。

 

「ますます奇妙さあ。 奴らの雑兵なんて、俺っち達の構成員の方がダントツで上さ。 例の重機関銃でも出てきたのかさ?」

 

「確かにその武装も確認されています。 ですが……それ以外に、戦闘能力そのものが大幅に向上しているとの報告があります」

 

「なるほどねぇ……」

 

カリブラはここ最近のフェノールの動向を思い出した。

 

「今、カクラフは議長閣下のお怒りを静めようと躍起になっているそうさあ。 どこぞの組織を新しく雇った形跡もないし、大規模な戦闘訓練も報告されていない……くく、なかなか面白くなってきたさあ」

 

「……私達の知らない手札を持っていたのでしょうか?」

 

「ああ、間違いないだろう。 しかも俺っちの見立てでは……かなりの切り札ではなさそうさあ。 それこそフォーレスの旦那のような、状況をひっくり返すほどのジョーカーかもしれないさあ」

 

「彼らは、一体どんな手を……」

 

カリブラの予想に、ユラギは困惑する。 その時……突如銃声音が鳴り響いてきた。

 

「これは……!」

 

「噂をすればなんとやら、さあ」

 

「ーーた、大変です! フェノールと思われる黒ずくめの一団による襲撃です! その数、およそ10! 第一の姿は見えません!」

 

構成員がノックもせず慌てて部屋に入り、銃声の原因を報告した。

 

「落ち着きなさい! その程度の少人数、ヘインダールなら返り討ちできます! 管理局は放っておきなさい! 正当防衛で何とかなります!」

 

「そ、それが……襲撃者の戦闘力は尋常ではなく、重機関銃型のデバイスを片手で軽々と振り回して……」

 

「ーー1階が突破されました! こちらに迫ってくるのは時間の問題かと思われます!」

 

次に慌てて入って来た構成員が、先ほどの報告を裏付けた。

 

「くっ……こんな時に、フォーレスさんはどこをほっつき歩いているのですか!」

 

「……くく、やれやれ。 久々に暴れるとしますか」

 

「! 団長、まさかーー」

 

カリブラはユラギに送る返答は、懐から取り出されたデバイスを復元して答えた。

 

「ーー出るぞ、ユラギ。 この程度で旦那に頼ってちゃあヘインダールの……延いては団長としての俺っちの名折れさ……ヘインダール教導傭兵団の力、骨身に知らしめてやるさ」

 

体から発せられる勁は、鋭い唸りを生み。 カリブラは歩いて部屋から出た。

 


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